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『経過『呉青秀の九相図絵巻物』』 作者: sako
「ごちそうさまっ」
「あっ、こら、こいし!」
ご飯粒がまたまだ沢山残ったままのお茶碗をちゃぶ台の上に置くと妹は私の制止も聞かずにすぐに席を立ってしまいました。
「はぁ、またですか」
お味噌汁を飲んでため息。せっかく、お燐が作ってくれた茄子のお味噌汁も慌ただしい妹の姿を見た後ではあまり美味しく感じられません。
「ま、楽しそうだからいいじゃないですか♪」
お気楽そうに応えて、ご飯のお代りをよそうお燐。小さなお茶碗に山盛りになるまでいれています。
「そうですけど…」
「何でしたっけ、カメラ? まぁ、なんにせよ、なんかに打ち込むってことはいいことですよさとりさま♪」
食事中も肌身離さず。妹が流し込むようにご飯を食べてさっさと食堂から出て行ったのは、最近、写真にはまっているからでした。
妹のこいしがカメラにはまるきっかけとなったのは先月の末頃、幻想郷の新聞記者さんが取材でここ旧地獄に訪れたからでした。
パシャパシャと宙をものすごい速度で飛びながら弾幕を切り取る不思議なカメラを使う鴉天狗。妹がその姿に憧れを抱いたのも無理はありません。或いは、現像して見せてもらった弾幕と被写体、写真としての美しさに見初めたからなのかも。すごい、すごいね、お姉ちゃん、と私を伴ってその様子を見ていた妹はおおいにはしゃぎました。
喜んでもらえたことに鴉天狗の記者さんもまんざらではない様子で、「それなら貴女も写真を撮ってみる?」と。腕のいい、道具屋を紹介してもらい、ポラロイドカメラという暗室や薬液がなくても写真を現像できるカメラを買い与えたのがそのすぐ後。それから妹は毎日のように何枚も何枚も写真を撮っているようでした。
「でも、あんまり見せてくれませんねこいしさま」
「そうね。恥ずかしいのかしら」
妹は沢山写真を撮っているようでカメラと一緒に買ったフィルムもすぐに在庫を切らしてしまいました。もっと必要だというので道具屋のカッパが持っている限りのフィルムを買い占めておきましたが、それも見る度に減っているのが分かります。
けれど、その撮った写真を妹はあまり他人には見せてくれません。
最初こそは、出来具合はどうかと私やお燐に見せてくれたのですが、自分の腕のなさを悟ったのか、さとり妖怪だけに。
ごほん、閑話休題。
今では写真も隠れて撮っているみたいです。出来上がったらアルバムにして見せてあげるよ、と妹は言っているのですが。
「まぁ、そのうち飽きるでしょう」
お燐が入れてくれた番茶を飲んでそう結論。子供の頃はなんだって面白がってのめり込むものです。
「そうですかね。ゆくゆくは幻想郷一のカメラマン…カメラレディ? になるかもしれませんよ♪」
そうなったら私、写真撮ってもらおう〜と未来に夢馳せるお燐。心に浮かんでいる映像を読み取ってみれば、アダルティな雑誌の表紙に水着姿のお燐が挑戦的なポーズで写っているのが視えました。紹介文には「幻想郷一番の猫耳萌えキャラ!」と、ゴシック体の太字のフォントで書かれています。あまり、読者層はよろしくなさそうな雑誌です。
「さとりさまも撮ってもらいましょうよ♪」
ちゃぶ台から身を乗り出して、そんな勝手な提案をしてくるお燐。中閉じのミニポスターに下着姿で抱き合ったままカメラに目線を向ける私とお燐の姿が視えます。
「いいですよ、私は。写真うつりが良くないのぐらい分かっていますから」
「えー」
心底、残念がるお燐。どうやらお空と私との三人で写真集を出したいようです。
と、
「そう言えばお空は? このところ、姿が見えないのだけれど」
「え、ああ、そういえばそうですね」
お燐の友人で私の身の回りの世話をしてくれている地獄鴉をここ数日…いえ、記憶を遡ってみれば三週間ほど見ていない気がします。
お空に管理させている旧灼熱地獄の仕事は希に数日がかりで休みなく行わなくてはならないこともあるのでこうした家族が一同に会する食事などに現れないこともままあったのですが、一ヶ月近く顔を出さないというのはあまりなかったことだと思います。
「上に遊びに行ってるのかも知れません。ほら、上の神社の巫女に気があるみたいですし、お空」
「ああ、あの暴力巫女ですか」
心を読んで戦ったというのに、その読んだ内容を理解するより先に行動されて対処できず、ボロボロにされたトラウマが甦ってきます。もう一人の黒い魔の方はサポーターの入れ知恵がなければ簡単に勝てる相手だったのですが。
「ふふふ、きっと今頃、うまいこと言いくるめて一緒に温泉でも…きゃっー」
温泉以上の、十八歳未満お断りの光景を脳裏に描いていたので丸めた新聞紙でその煩悩を払ってあげます。
「ううっ、イタイです、さとりさま」
「心にも痛いことを言ってあげましょうか…貴女は、そういう出会いとか相手とかいないの?」
「お、お皿、かたづけちゃいますねさとりさま」
そそくさと逃げ出すお燐。我が家のペットに婚期はまだまだ先のようです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あれ、何か落ちてる?」
部屋に戻ろうとした私は廊下に一枚の紙切れが落ちているのを見つけました。スペルカードかと思ったそれは、術式や思いの丈っぽいポエムが書かれた符ではなく一枚の他愛もない写真でした。
普通の写真より厚めのそれはポラロイドカメラの写真。
こいしが使っているものと同じタイプの…
いえ、問題はそこではありません。写真を手に取った私がそこで呆然と押し固まってしまっているのは偏にカメラに映し出された被写体が私の身内のあまりまともとは言い難い姿だったからです。
「お空…?」
四角く一瞬を切り取られたお空の姿。それは素人の手によるもののせいかあまり綺麗に取れていませんでした。瞳が赤く見える赤目現象を起こし、ピントも余りあっておらず、細部がよく見えません。けれど、私のペットの内の一人で先ほど食事の終わり際に話題に上がっていたその子は鎖で手首を壁に繋がれた、何処かの囚人のような姿で写っていました。
どうして…と恐ろしくなって写真から私は目を背けました。そうして、その写真を拾った場所なのが何処なのか、その写真を撮ったのが誰なのかを思い知ることになったのです。
「こいし…なの」
そこは妹の部屋の前でした。
「どういうことなの…?」
最近、こいしが食事の時以外は殆ど、私やお燐の前に姿を見せないのはお空を撮るためだったのでしょうか。それにしては写っているシチュエーションが意味不明すぎます。家族の写真なら適当に遊んでいるところや仕事をしているところ、みんなで集まってタイマー機能で集合写真をとればいいだけなのに。
「…………………こいし、いるの?」
すぐ前にある扉をノックするのに数十秒ほど決心するための時間が必要でした。それでもノックはまるで深夜に訪れたように控えめがち。自分の声が震えているのが分かります。
「………いないのかしら」
けれど、そんな私を他所にこいしは不在のようでした。
ややあってから私は躊躇いながらもドアノブに手をふれ、扉を開けました。
可愛らしい人形や音楽家のポスターが飾られている、かと思えば部屋の隅に人体模型が鎮座しているような変わった妹の私室に私は足を踏み入れました。真っ赤な布地に黒い水玉模様のカーテンが目にいたいです。
妹の部屋は余り広くなく六畳ほど。殆どのものが手に届く範囲にあります。学習机にベッド。本棚に並べられた本。先日、鴉天狗の記者さんに撮ってもらった家族写真が机の上に置かれています。その横に一冊、『家族の観察 ―おくう―』と銘打たれたアルバム帳が無造作に置かれているのが目に付きました。
「………………」
心の何処かでそれに触るなと言う警告が発せられます。けれど、私はそのアルバムを手に取ってしまいました。
一頁目。
タイトルには『一日目』とあります。
拾った写真と同じく鎖で壁に繋がれたお空の姿が映し出されています。
けれど、同じ日に撮ったものではなさそうでアルバムのお空は笑顔でピースサインさえして見せています。拾った方の写真は少し虚げな瞳をファインダーへ向けて投げかけているだけで、表情は固く顔色は悪いような感じ。写真を裏返してみれば7日目という文字が見えました。アルバムをめくってみれば確かに『七日目』、とタイトルされた個所には写真が収められていませんでした。隣の『六日目』の写真には私が見たこともないような怒りの形相のお空が映し出されています。
「………………」
意を決して私はサードアイの瞳を大きく開きました。
さとり妖怪の能力を拡大解釈すれば目の前で向き合っていなくても相手の心を読み取ることができます。この場合は写真の収められている被写体の心情でさえも。多大な精神力が必要ではありますが可能なのです。
集中した私のサードアイに聞こえてきた声は怒りの声でした。
『離せこいつを外せ私を自由にしろ』
理不尽に対する怒りと相手に対する憤り、それと僅かばかりの恐怖が聞こえます。
私はこれを筋道立てて理解するために頁を戻し最初から仔細に心の声を聞くことにしました。
一頁目/一日目
『こいしちゃんに言われてカメラのモデルをすることにした。裸でポーズでもとるの、と聞くとポーズはいいからこれを腕に嵌めて、といわれ金属のわっか…手枷とか言うのを渡された。こいしちゃんの言うとおりに制御棒を外して右の手にそれをつける。こいしちゃんは枷の先を壁につけられたわっかに通した。変わったモデルだな、と思いながらもこいしちゃんがカメラを向けてきたのでピース。出てきた写真は壁に繋がれてる私が綺麗に写っていた』
二頁目/二日目
『昨日、撮影の後、手枷を外してと言う私の言葉を聞かずにこいしちゃんは帰ってしまった。それから一日。お腹が空いたなぁ、と思っていたところにこいしちゃんがまたカメラ片手にやってきた。ひどいよこいしちゃん、忘れて帰っちゃうなんて、なんて私の言葉を無視してこいしちゃんは写真を撮るとすぐに帰ってしまった』
三頁目/三日目
『また、こいしちゃんがカメラを持ってやってきた。我慢の限界。壁に繋がれているこんな体勢じゃよく眠れもしない。右手はずっとあげられた状態で指の先っぽに血が届いてないみたいに痺れてきている。今日こそ外してよ、という言葉は無視され、こいしちゃんは写真を撮って一昨日や昨日みたいにすぐに帰ってしまった』
四頁目/四日目
『もう、お腹も鳴らない。ずっとあげっぱなしの腕が痛い。だんだん、意識がもうろうとしてきた。私、こいしちゃんに何か悪いことをしたんだろうか。撮影の時に謝って聞いてみたけれど返事も何もなかった。それだけ怒っているっていうことなんだろうか』
五頁目/五日目
『こいしちゃんがやってきたので、心の底からあやまった。きっと私は知らない内にこいしちゃんをとても怒らせていたに違いない。そうじゃないとこんな非道いことをしてくるなんてとても考えられなかったからだ。けれど、やっぱりこいしちゃんは無言。帰っていく後ろ姿を見てこいしちゃんは別に私に対して怒っている訳じゃないと言うことがわかった』
六頁目/六日目
『こいしちゃんが…いや、こいしがやってくるなり怒鳴り散らした。もう、さとりさまの妹だとか、私よりえらいとかそんなことは関係ない。怒りにまかせて引っ張れば壁の金具が外れると思って力の限り引っ張ったが金具はビクともしなかった。こいしちゃんはやっぱり無言で私の姿を撮るとさっさと帰ってしまった』
七頁目/七日目
『もう駄目だ。こいしちゃんは手枷を外すつもりはないみたい。お願いしても怒っても無理だったからわかった。自分で何とかしないと。こいしちゃんが帰った後、その方法を思いついたけれど、それはとっても選びたくない方法だった』
そこまで読んで私は自分が震えているのに気がついた。
まるで、雪が降りしきる中に薄着で放り出されたように身体が震えている。奥歯もかみ合っていない。
いったい、このアルバムはなんなの、と放り投げてしまいたくなってきた。けれど、私は次の頁をめくってしまっていた。
八頁目/八日目
『痛みで気を失いそうになりながらも作業を続ける。手枷は金属製で、制御棒があれば別だろうけれどとても私だけの力じゃ壊せないことはわかっている。だったら、壊せる方を壊せばいいと思いついたのが昨日。それから決心をつけるまでどれぐらい時間がかかったのだろう。昼も夜も分からないここじゃあ、判断できない。左手で拾ったブロックを右手に何度も叩きつける。右手が柔らかく、蛸みたいに骨がなくなれば通りそうだったので骨を砕く方法を取ることにした。ガッンガッン、と歯を食いしばってブロックを右手に振り下ろす。こいしちゃんがやってきた』
九頁目/九日目
『骨が砕けて蛸みたいになってしまった私の右手。でも、手枷からは抜けられない。昨日、私が自分の手を犠牲に手枷を外そうとしている所へやってきたこいしちゃんが新しく枷を取り付けてしまったからだ。手枷ごと、私の手首を貫く太い針。それぞれの先っぽを折り曲げて簡単に外れないようにしている。痛くて痛くて今日は眠ることもできなかった』
震えて、目を見開いて、頁をめくる。
十頁目/十日目
『意識がもうろうとする。自分で骨を砕いて、針を突き刺された右手にはまったく感覚がない。よく見ると指先が腐り始めているみたいで非道い匂いがした。トイレにも行かせてもらっていないので足下に溜まったうんちとおしっこの匂いで気が狂いそう。パンツの中も拭いていないせいでとてもかゆい。余りにかゆいんで左手で掻きつづけたら血が出てきた。ああ、そう方法もあったんだ。こいしちゃんは今日も撮影して帰っていった』
十一頁目/十一日目
『少しだけお腹がふくれた。もう、腐り始めた右手はいらないなぁ、と思って自分のご飯にした。これなら手枷も外せるし一石二鳥。手を引きちぎって、手首の骨の間を通る針が見えたところで、ずっとご飯を食べる私を眺めていたこいしちゃんが新しい枷をつけてくれた。今度は首のほう。ああ、首はちょっと食べられないなぁ』
十二頁目/十二日目
『あー、こいしちゃんが写真撮ってくれてる。嬉しい。できたら見せてください、って言ったらうん、わかった、と言ってくれた。完成が楽しみ』
十三頁目/十三日目
『カメラ、こいしちゃん』
十四頁目/十四日目
『―――――――――。』
十五頁目/十五日目
十六頁目/十六日目
十七頁目/十七日目
十八頁目/十八日目
十九頁目/十九日目
もう、写真に残されたお空の心も読めない。
写っている彼女はどうみても死体だったから。
二十頁目/二十日目
血の気の失せた肌。流れ出た血が赤黒く固まっている。お空の身体の周りにはベルゼバブの子分どもが飛び回っている。
二十三頁目/二十三日目
所々黒ずみ始めた肌。右手の傷口に蠢く蟲が見える。投げ出された足には大きな鉄鼠が群がっている。どこからやってきたのだろうか、項垂れたお空の頭に一羽の地獄鴉がとまっていた。嘴にはビー玉大の球体がくわえられている。球体は血に塗れて何か紐のようなものを伸びさせている。お空の眼球だった。
二十五頁目/二十五日目
首の肉が腐ったお陰でやっとお空は枷から開放されていた。
自らの腐液の上に身体を横たえ半身を泥に変えつつ、千切れた首が転がってカメラへ視線を、もはや虚な眼窩と化した視線を向けていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁあぁ!!」
絶叫を遠くに聞く。それが自分の悲鳴だとはとても理解できなかった。アルバムを放り出して今見た写真を忘れようと頭を振るう。けれど、目に焼き付いた映像は、サードアイで聞き取った声は心から決して離れず、私の精神を陵辱していく。
「ッあ、あ、ああああ、ああああああああああ」
自分の頭を吹っ飛ばしたくなる衝動。自殺願望。死さえ救いであるような狂気。酷い頭痛とめまいに襲われる。
いえ、
「もう、お姉ちゃんってば勝手に私の部屋に入るんだもん。びっくりして殴っちゃったじゃない」
身体に力が入らなくなり私は倒れる。糸が切れた操り人形みたい。頭を床にぶつけてやっと、私はいつの間にか後ろに忍び寄っていたこいしの姿を確認した。手には血と私に髪の毛がついたブロンズ像が握られている。
「まぁ、でも、これでお姉ちゃんのアルバムも作れるからいっか」
そう言ってこいしは本棚からアルバムを取り出しました。
タイトルは『家族の観察 ―さとりおねえちゃん―』
「お姉ちゃんは心が壊れていく様子を撮りたいな。うん、取り敢ず縛って三日ぐらい真っ暗な部屋に置いておいてみようっと」
そう嬉々として笑いながらこいしは私の足を掴んで引っ張り始めました。私はあまりにも頭が痛くてまったく動けず、結局、眠るように気を失ってしまいました。
「うん、写真って楽しいね」
END
ダブルスポイラーやってたら思いつき、タンカレー呑みながら書きました。
くっ…衣玖さんのが一つもクリアできない。
>>10/04/28追記
コメントありがとうございまする。
pnpさま
書いてる途中でそう言えばそんな話があったことを思い出しました。
アイデア元はこしんの新スペカの元ネタから。
キチガイ博士手記。アァーッ、お兄さま
sako
作品情報
作品集:
15
投稿日時:
2010/04/24 14:57:16
更新日時:
2010/04/28 20:49:28
分類
さとり
こいし
カメラ
グロ
こいしによく似合います。
こいしには狂気がよく似合いますね。
鬼気迫る
試しに壊すくらいな気持ちなんだろう