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『海坊主』 作者: SANO
―――幻想郷には海がない。
川や湖はあるが海に比べると随分とスケールが劣る。
どんなに博識な幻想郷住民でも、海については文献に記載されてる以上の事は知らないのだ。
幾度となく高名な探検家が海を夢見て幻想郷を探索したが、
結界で隔てられた幻想郷では見る事は叶わない―――
森近 霖之助は海を見てみたかった。
彼もまた、例に漏れず海を見た事がない。
360°見渡す限りの海水。
海の下に潜む数多の生命。
あぁ、海が見てみたい。
毎日海にまつわる文献を読み漁り、外来の住民に海について聞き夢を募らせた。
八雲 紫を見つけたら海を見せて欲しいと頼み(まぁ断られるのだが)落ち込む。
そして、毎晩見る夢の内容は想像上の海の世界。
船に乗って日の光を背にし魚を釣る。
時々釣りから離れて本を読みふける。
そして夢が終わりを告げ、虚脱感に悩ませられながら起きる。
ここ最近ずっとそんな感じである。
知り合いの巫女や魔法使いや妖怪が来たら、四六時中海について語っていた。
一方の彼女らは苦笑しながらも、そんな無邪気そうに語る彼に惹かれてた。
海。圧倒的な存在。
幻想郷など霞んで見える程の広大な面積。
彼は海にロマンを感じた。
恋愛感情といっても過言ではない程海に想いを寄せていた………
彼は年老いた。
寝床から出られなくなった。
御迎えが近いと直感した。
半妖とはいっても寿命はあるのだ。
彼は泣いていた。
海を見れなかった。
胸にぽっかり穴が空いているようだった。
もう海の夢も見れなくなっていた。
それがまた悲しくて、涙が溢れた。
昔いた友人も既に他界している。
彼は今、たった1人で死を待っていた。
ふと、彼の目の前の空間が"裂けた"。
中から見覚えのある妖怪が顔を覗かせていた。
「あなたの最期を看取ってあげるわ」
妖怪は無表情だった。
千年を生きる妖怪は人の死などもう見飽きてるだろうに。
それでもこうして来てくれた事が、嬉しかった。
彼はもう、声を出すのも苦しい程弱っていたが、それでもなんとか言葉を紡いだ。
「紫……頼みがあるんだ」
海を、見る為に。
もう日も沈みかけていた。
彼と妖怪は幻想郷から抜け出した。
彼が夢にまで見た外の世界が眼前に広がっていた。
想像以上だ………
言う筈の言葉が出てこなかった。
彼の最期は近い。
まだ海を見ていない。
妖怪は、彼の望みを叶えんと海に向かう。
彼と妖怪は砂浜に降りた。
目の前には、ただただ海が広がっていた。
綺麗だなぁ
彼が生まれて初めて見る海は、美しかった。
間も無く彼は息を引き取った。
妖怪は彼の体を、海のよく見える丘に埋めた。
"海坊主 ここに眠る"と………
読んで頂きありがとうございます。
霖之助は人を惹き付けるカリスマみたいなのがある気がするんです。
紫は長寿故に人間の死をたくさん見てきたんだと思います。
だが、何かに一生懸命になってる彼は今までの人間とは何か違う。
そんな彼の最期の望みを、紫は叶えたくなったのでしょうね。
あるいは、彼に淡い好意を寄せていたのかもしれません。
そんな作者の作品ですが、楽しんで頂ければと思います。
SANO
- 作品情報
- 作品集:
- 15
- 投稿日時:
- 2010/04/26 10:21:13
- 更新日時:
- 2010/04/26 19:21:13
- 分類
- 森近霖之助
ロマンに生きる男って素敵です
最期に叶ったのがよかったなぁと思いました。