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『お墓参りには君が好きだったお菓子とお酒を持って行こうと思う。君に似合うと思っていた、花も持って―――』 作者: sako
雨降る夜。星の光さえも射さない闇の中を射命丸はランタン片手に傘を差しながら走っていた。
ばしゃりばしゃりと水たまりを跳ねさせながら滑るような速度で雨の中を駆け抜けていく。
向かう先は博霊神社。山頂に至る石段を一つ飛ばしに、苦もなく駆け上がっていく。
鳥居をくぐり、薄暗い本殿を迂回して裏手へ、離れの邸宅の前までやってくると、軒下で唐傘を閉じ、身だしなみを整えてから「こんばんは」と静かに言った。
程なくして、引き戸ががらがらと音を立てて開かれる。
「あら、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
扉を開けたのは紫だった。黒染めのゆったりとした衣装を着ている。明るみに来て分かったことだが射命丸も同じく黒一色の服を着ている。赤い烏帽子や高足の一本下駄でさえも今日は黒だ。シャツだけは白だが、闇夜を背景に紫の目からは胸元と顔だけが浮かんでいるように見える。
「まぁ、霊夢さんにはお世話になりましたから」
つぶやいて、頭を下げる射命丸。
紫は玄関の靴箱の上に置いてあった白磁の小さな壺を手に取ると、その中身を射命丸が下げた頭の上へと振りかけた。白いそれは清めの塩。ありがとうございます、と言って射命丸はやっと家の中へ入った。
玄関には靴が幾つも乱雑に置かれていた。
小さいものから大きなものまで。下駄やブーツなど様々な種類のものが置いてあるが色は大抵黒だった。鎮魂と厳粛の色。
紫に案内され射命丸がやってきた広間には他にも博霊神社に縁のある人妖たちの姿があった。
「こんばんは」
「ああ、文屋、こんばんは」
「コンバンワ」
座ったり部屋の隅で立ち話をしたりしている人たちの間を挨拶しながら通り抜け、適当に空いていた位置に腰を下ろす射命丸。
室内には大勢の人妖たちがいたが、その表情は総じて暗く、気が沈んでいるよう。室内には適当に会話を交わす声が満ちていたがあまり大きなものではなく、ぼそぼそとまるで寝た子を起こさないようにしているかのようだった。
と、その沈静を散らす大きな声が上がった。
「畜生! なんで…なんでだよッ!!」
射命丸が視線を向けると霧雨魔理沙が部屋に入ってきたところだった。傍らにはアリスの姿もある。しかし、魔理沙はまるでアリスのことなど眼中にないようで、大粒の涙を流しながらわめき散らしている。その様子を見て怪訝な顔をする者もいたが、自己主張が多いこの幻想郷においては珍しく、誰も魔理沙に茶々を入れたりするものは現れなかった。
「ほら、魔理沙、落ち着いて…これで涙拭くといいから」
真っ白のレースのハンカチを魔理沙に手渡そうとするアリス。けれど、魔理沙はそれを振り払って、畜生と悪態をついた。
「なんで…なんで死んだんだよ…霊夢」
その言葉に室内が凍りついた。
「ふん、だから、はやく我が血族に加われって言ったのよ」
魔理沙に返すように口を開いたのはレミリアだった。部屋の隅、腕を組んだ不遜な態度で壁に背中を預けている。傍らには従者の咲夜が控えていた。
「華は散るから美しい、とお嬢さまは以前、おっしゃっていたように記憶していますが」
咲夜の売り言葉に買い言葉のような台詞。けれど、そこには覇気がない。先に言を発したレミリアもそうだ。咲夜の言葉にレミリアは何も言い返さず、ふん、と不満げに鼻を鳴らしただけだった。
「霊夢さんが死んだってことは…幻想郷のバランサーがいなくなったっていうことで…それってつまり、守矢神社が率先して妖怪退治していいってことですよね。うん、そうですよね。やった…これで信仰が…」
レミリア達がいる場所とは反対側の部屋の隅。泣く魔理沙を無視してそんな言葉を誰にも聞こえないような小さな声で呟いているのは早苗だった。三角座りに、足の間に顔を埋めて、誰にも視線を合わさないようにか細く震えている。けれど、それは悪事を練っている外道の顔と言うよりは脅えて気が動転している遭難者のソレだった。並みに流された仲間の姿を思い浮かべ次は私かも知れないと震える臆病者の顔だった。
他に揃っている面子の顔色も大抵はこの三様のどれかに当てはまっていた。嘆いているか、強ぶっているか、混乱しているか、そのどれか。
そうして、そうした三様を射命丸はどれにも属さない、言うなれば達観、の表情を浮かべて眺めていた。
ややあって、障子が開き、射命丸と同じ面持ちの紫が現れる。
「皆さんこんばんは」
一同を見回してから深々と頭を下げる紫。
「今晩は今代の博霊の巫女、霊夢の通夜にきていただき、真にありがとうございます。こんなに多くの人々に集まっていただき故人も大変喜んでいることでしょう。あちらにご焼香の用意をしておりますので、読経の後、ご焼香をお願いいたします」
事務的な言葉。けれど、その言葉に多くの人は胸打たれていた。そうして、改めて実感したのだ。
博霊霊夢が、死んだことを。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読経の後、藍と橙が用意した料理が通夜に集まった皆に振る舞われた。
参列した者は料理に舌鼓を打ち、美味しい酒を呑んで、故人の思い出話に華を咲かせていたが、大抵はいつもの宴会のようには盛り上がらなかった。なにわともあれ、下らない理由で開かれた宴会でも大いに盛り上がる幻想郷の連中ではあったが空気を読むところと故人を敬う心は控えていたようである。
その数も時間を追う事に減っていき、酔いつぶれた魔理沙をアリスがおぶって帰ったところで完全にお開きとなった。
その時にはもう雨はやんでおり、ぬかるんだ地面をしっかりと踏みしめながら帰るアリスに頭を下げ、喪主の紫は深々と頭を下げた。
「ふぅ…取り敢ずは一段落ね」
そうしてため息。明日の正午からは本番の御葬式が控えている。その合間の小休止と言ったところだった。
紫は藍たちに後片付けを頼むと、もう少しだけ休憩しようと裏庭へ回った。
雨に濡れて光る砂利を踏みしめ歩く。軒先からぽたりぽたりと雫が落ちる静かな夜だった。まるで幻想郷さえも霊夢の死を偲んでいるような、そんな空想的なことを考える。
と、全員帰ったと思った境内に、誰か残っているのを紫は見つけた。
近づき、声をかける。
「まだ、帰っていなかったの、萃香」
縁側に腰掛け、足をぶらぶらさせていたのは紫の旧知の鬼、伊吹萃香だった。曇天を見上げ、彼女には珍しく素面に近い状態で物憂げな表情をしている。
「あ、うん、ちょっとね…」
歯切れの悪い言葉。何かしら思いがあるのだろうか。けれど紫は、そう、と返しただけだった。
「隣座りなよ。ちょとお話しない?」
「仕事がまだ残っているんだけれど」
「その割にはサボっているようだけれど」
「BOSSはどっしりとラストステージで待ち構えているものよ。道中は雑魚に任せてね」
「じゃあ、敵機が縦穴坑道を降りてくるまででいいから」
はぁ、とため息。萃香は紫を帰すつもりも、自分が帰るつもりもないらしい。仕方なく紫は萃香の隣へ腰を下ろした。
「………………」
けれど、そこから会話が広がる様子は見えない。萃香は黙って庭の景色を眺めているだけだ。紫も「話があるんじゃなかったの」などと野暮なことは言わず、黙って付き合っている。
それから暫く無言の時間が流れた。
あの雨の後では普段は演奏会を開いているコオロギたちも今日は家で喪に服しているのだろう。縁側から見える森は静かで、動くものはなにもない。時折、枝葉を伝わり、雨の雫が落ち、地面にできた水たまりに雫を散らす。それぐらい。少しだけそよぐ風の音が聞こえている。
「死んじゃったね、霊夢」
ややあって、やっと萃香が口を開いた。小さな声は静寂にかき消されそうだったけれど、確かに聞いた紫はそうね、と同じぐらい小さな音で返した。
「まだ、若かったのに。うん、人間で十代って若い方だっけ」
「私や貴女にとっては刹那よ」
「そうだね」
共に永い刻を生きる妖怪だ。その中で十年やそこらの時間など人にとっての一瞬に等しい。そうして、その人の死も道を歩いている時に落ちている石ころを見かけたぐらいありきたりなものだ。永い刻を生きている二人にとっては。
現に二人ともこれまで幾度となく博霊の巫女の代替わりを経験している。一番近いものは僅か十数年前。先代の巫女が斃れ霊夢が今代に就いた時だ。それはやはり二人にとって昨日のことのように思える出来事であって、結局は日常でしかない。そのはず、だった。
「あーあ、もう一回ぐらい、一緒に呑みたかったなぁ」
けれど、萃香は笑ってそう強がって見せた。気持ちの踏ん切りをつけるように。
「そうね。いつだって、もう一回ぐらいは、って思うものよね」
先代も、先々代も、その前も、そう思っていたことを思い出し、萃香に連れ添うように、紫はあいづちをうった。
「ん、まぁ、仕方ないっか。今日の所は別の奴と呑むよ。天子か勇儀辺りと」
よっ、と縁側から飛び出し、明後日を向きながらそう聞いてもいないことを言う萃香。声は少し曇っていて、目頭に涙が浮かびかけていることは紫にも分かっていた。
「萃香」
「な、なに?」
紫に気づかれないようにしたつもりか。振り返りつつ目頭を擦る萃香。けれど、やはりその動作は見え見えだった。軽く微笑を湛えて紫は萃香に視線を投げかける。
「仕事を頼みたいのだけれど。どうせ、明日の告別式までは暇なんでしょ」
「ん、まあ、暇だけど…何?」
「霊夢の面倒を見ていてほしいのよ」
「へ? 霊夢の?」
意味が分からず聞き返す萃香。
「そう、霊夢の。あの子はあれで霊格がけっこう高かったからね。もしかすると屍肉喰らいの妖怪があの子の身体を狙ってやってくるかも知れない」
命連寺の鵺とか地霊殿の地獄烏とか、と具体例を付け加える紫。
一般的に仙人や巫女のような神通力を身につけた人間の血肉は多くの妖怪にとってごちそうであると言える。それは人で言うところの美味、であるというだけでなく、その血肉を喰らうことによって力を吸収し、自らの霊格をより高くする目的もあるからだ。先代の巫女は遺体も見つからないほど激しい戦いの果てに散ったが、先々代の先代の更に先々代の巫女の亡骸はまだ、幻想郷が出来上がった頃、規律無用だった時代背景と相まって奪い合いの争乱が起こったほどだ。以来、博霊の巫女の亡骸は紫が毎回管理しているが恐れも規律も知らない妖怪がそれを狙い攻め入ってくることもあった。
「藍に守備を任せようかとも思ったのだけれど、あの子はあの子で仕事があるの。橙じゃ心許ないし。貴女なら番人にはもってこいだし、どう、お願いできるかしら」
答が決まっているようなお願いだった。けれど、萃香は仕方ないな、と嘯いて頷いた。
ついでにありがとう、と紫に聞こえないぐらい小さな声でお礼も告げる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
神社の周囲に自分の分身を散らし、霊夢の亡骸の寝ずの番が始まった。
と、言っても萃香は殆ど警戒はしていなかった。今の幻想郷であらかた力の強い妖怪はあのお通夜に参加していたし、していない上に紫が怪しいと言っていた鵺や地獄烏もどちらも主人を持つ使いっ走りだ。勝手な行動は主人の首を絞めることになる、と自重してくれるだろう。
だから、萃香は瓢箪の徳利から酒をちびちびやりつつ番をすることにした。
暫く、そんな風に時間が流れた。その間に、紫や藍たちも一旦、準備のために去り、神社には萃香と、霊夢の亡骸だけが残されることになった。
「………」
霊夢は死装束を着せられ、死化粧をし、布団に横たえられている。その部屋の隅に陣取り、開け放たれた障子から外を眺めながら萃香は酒をやっていた。
酔うほどは呑んでない。いや、酔えないといった方が正しいし、酔ってはいけないともいう。肴もなければ、
相手もいない。酒が進まないのは無理もなかった。
「…ああ、そう言えば」
ふと、思い出したように萃香は眠ったように目を瞑る霊夢の顔に視線を投げかけた。そこにはうっすらと汗が浮いている。雨上がりでこうも湿度が高ければ死体でも汗をかく。霊夢の亡骸の番のついでに萃香は藍に霊夢の躯をときどき、拭くように言われていたのだった。
用意されていた水の張られた手桶と綺麗な手ぬぐいをもって霊夢の側に。手ぬぐいを水に浸して綺麗に絞ってから、優しく、とんとんと叩くように霊夢の額やこめかみをぬぐう。霊夢の顔に塗られた白粉を落とさないように気をつけながら。汗を拭く理由はその為と後は故人が気持ち悪くならないようにという残された者のせめてものの配慮だ。
嘘々ほどに赤い紅が引かれた口紅に触れないように気をつけつつ萃香は霊夢の顔を綺麗にしてあげる。
蝋燭の火しかないこの薄暗い部屋の中では本当に霊夢は眠っているように見えた。或いは、今すぐに起きだして「くすぐったいわね」とでも軽口を叩いてくれるのではないかと思える程度には。
けれど、霊夢はやはり死んだままでそっと萃香が霊夢の耳に触れてもそこは冷たいままだった。
もう、起きることはないんだなぁ、と萃香は霊夢のまつげを仔細に眺める。
「そう言えば身体も拭いてあげてくださいって、藍、言ってたな」
布団をめくり、それから萃香は洗って絞った布巾を手にしたまま暫く固まってしまった。はたして、脱がしてよいものだろうかと。
生前、酔っぱらって霊夢の服を脱がしにいったときは大わらわだった。
涙目ではだけた服を押さえながら、賽銭泥棒に投げかけるようなきつい視線で睨み付けてくる霊夢。ぶーぶーと叫ぶ外野たち。その後、酔った紫と魔理沙と三人がかりで、射命丸が切るシャッターの光りを浴びつつ、霊夢の上着を無理矢理脱がしたのは今ではいい思い出だった。その後、砂利の上で正座させられて巫女棒で散々シバかれたのも。
そんな在りし日の思い出に思考がとんで、ぐずり、と萃香は鼻を鳴らした。
「…じゃ、じゃあ、霊夢。ちょっと、身体拭くから、我慢して、ね」
一応、断ってから霊夢の服をはだけさせる。
首から下は白粉を塗っていないため、土気色の地肌が見える。下着はなにも身につけていないようで、霊夢の結局、発達する前だった胸の間にうっすらと汗が浮かんでいる。
「………よし」
頷いてから萃香は霊夢の躯の方も布巾でぬぐい始めた。首筋から胸元へ。固く冷たい肌を丹念に拭く。続いて脇の下を拭いてあげようと腕を持ち上げる。冷たい腕は氷室から出してきた馬肉のように重く、非道く扱いづらかった。けれど、乱暴に扱うわけにもいかず、霊夢の腕を肩を貸すように通し、小柄な萃香は自分の身体を駆使しながら霊夢の躯を綺麗にする。
首を抱いて起こし、腕で身体を支えながら背中も拭いてあげる。
動かない、動けない人間を介抱するというのはかくも難しいことである。僅かながらにでも意志があれば、人は介護者の負担を減らすように重心を動かしたり、力を入れてくれたりするものではあるが、魂が失われた亡骸であってはそれは望めない。自分一人の力で殆ど人形と化した霊夢の躯を綺麗にするため萃香は四苦八苦した。
息が上がっている。息が止まっている人と息をしている鬼。死者と生者と人間と妖怪の対比。それだけだろうか。
少し、潤んだ瞳を浮かべながら黙々と萃香は作業を続ける。
「上は終わりかな…次は…」
霊夢の躯を横たえ、萃香は自分の額に出た汗をぬぐった。視線は霊夢の投げ出された足へ向けられる。
「………」
休憩以外の理由で萃香は固まった後、やっと気持ちを取り戻して作業を再開した。といっても、今度は霊夢の足先からだった。足下へ移動し、片脚ずつ、持ち上げながら、特に床に面していたふくろはぎの部分や膝裏を丹念に拭いていく。
と、その手が両足を拭いたところで止まった。
「お、おまたの間とかも拭かなきゃダメなのかな…」
問いかけるが当然、応える人間はここにはいない。霊夢の面倒を見るように頼んだ紫も、身体を拭くように言われた藍も、そうして、霊夢本人も応えることはできない。
やらなきゃいけないんだ、仕事だから、霊夢の為だから、そう、霊夢の為だから。
自分を納得させるように心の中で何度かそう繰り返して、やっと萃香は決心をつけた。
「っー、霊夢ごめん」
言って固く目を瞑って、萃香は霊夢の下半身を覆う布をはだけた。
「………」
うっすらと毛が生えた霊夢の下半身が露わになる。
そこも、土気色。けれど、ある種、生前以上の艶めかしさをもっているようだと、萃香は思った。ごくり、と喉が鳴る。
「っ、は、はやく拭いてあげないと。霊夢も寒いだろうし」
いそいそと誰かに言い訳をついて萃香は霊夢の内ももに布巾を這わせる。丁寧に、丁寧に。はたして、その部分を綺麗にする作業が他の部分の場合よりより丁重だったことに萃香は気がついていただろうか。
徐々に上へ上へと布巾を持って行き、そうして、下腹部を拭いてあげようと萃香は霊夢の足下から身体をのばす。腰骨を磨き、茂みの周りへ、毛先が萃香の手に擽るように触れる。
後はお尻の方、と体勢を変えようとしたところで霊夢の膝に、萃香の股先が触れた。
じっとりと、濡れそぼった感触。それが自分自身のものだと知って、萃香はそのままの体勢で握り拳を作って強く打ち震えた。
「もう、なんで…どうして」
喉から漏れた声は通夜の時の魔理沙が漏らしていた涙声にとてもよく似ていた。
後はそれに自分を恥じ入る気持ちと身体の興奮と、そういった別域にある感情を混ぜ合わせればそうなる。
「霊夢ぅ、なんで、なんで死んじゃったんだよ…ううっ…」
ぽたり、ぽたり、と拭いたばかりの霊夢の躯に萃香の涙がこぼれ落ちる。
ああ、それが引き金だったのか、萃香は涙を流し、目を瞑ったまま、横たわる霊夢の唇に自分のそれを重ね合わせた。
「好き…だったのに…どうして…言う前に死んじゃったんだよ…」
告白と焦がれていた口づけ。けれど、その味は冷たい死の味がした。
「ひぐっ、えぐっ…霊夢ぅ、霊夢ぅ」
嗚咽を漏らし、泣きじゃくり、貪るように反応のない霊夢の躯に口づけする。紅の引かれた唇から、頬、首筋へと移動し、肩口に顔を埋め、身体を震えさせる。
いつの間にか布巾は投げ捨てられて、萃香は霊夢の硬い指を握っていた。握りかえしてなんてこなかった。握りかえしてほしかった。でも、してくれない。
「っ、うぐ、えっぐ…」
空いた手は霊夢の胸へ伸びる。よく冷えた葛餅でも触っているような、そんな気分。柔らかいのに返ってくる反応は固く、そうして冷たい。けれど、触っていれば自分の体温が伝わって、いずれは温かくなるのかも、そんな盲目的な思いすら浮かべて萃香は霊夢の胸に優しく触れる。
「っあー、はぁ、はぁ…ひぐっ、霊夢」
自分の両の太腿の間を霊夢の足にすりつける。ああ、畜生。これは自慰行為なんだ、手淫みたいなものなんだと、自己嫌悪に陥りながらも一心不乱にスカート越しに、快楽を、相手に生を与えられるのでは、と前後運動を続ける。
「ひぐっ、ふふ、あははっは…クソ、畜生」
感情の渦が螺旋を描いて回る。何十色ものの絵の具を壺にぶちまけかき混ぜたみたい。
悲しさと愛おしさと悦びと悔いと、その他、言葉にできない想いが萃香の中で渦巻いている。まるでブラックホール。全てが集まってできたくせに、自信の重さに耐えかねて、潰れて、宇宙に孔を空けたあれのよう。他の心の他の感情までも飲み込んでいく様は本当にそんな感じだ。そうして、やがて、その回転も止まって結局、全て無に帰してしまうのか。今の霊夢のように。失われてしまうのか。
「イヤだ。そんなのイヤだよ、霊夢…」
目を開いてもう一度、好きだった人の顔を見た。眠っているような表情。感情さえ読み取れない。けれど、萃香はその霊夢の飄々としたところが好きだった。妖怪退治の時だけは凛々しくなる顔が好きだった。お酒を呑んで顔を赤くしている霊夢の顔が好きだった。霊夢が作ってくれる料理が好きだった。一緒に、日向ぼっこをしながら眠ってしまって、その時に鼻に憶えた霊夢の匂いが好きだった。お風呂で頭を洗ってくれた霊夢が好きだった。霊夢が、好きだった。でも、もう、気持ちを伝えることはできない。
「ひぐっ…えぐっ、霊夢…ごめん」
ああ、それでも、それだからこそか、身体は霊夢を求めている。もう、手に入らないものだとわかっているから。もう、できないものだと分かっているから。ああ、けれど、今なら、今ならそれでも。
「最後…最後だから…」
謝って嗚咽を漏らして涙して、そうして、萃香は自分のスカートの裾を持ち上げた。
水に浸したように濡れたドロワーズを脱ぎ捨て、空疎過密を操る力を使う。
集めるのは精、それと霊夢と結ばれたいという想い。
萃香の体中から青い光りが集まり、股間部分に形を成していく。
天を頂くその形は男性器を模していた。
「霊夢…挿入るよ…」
断って、霊夢の秘裂に指をあてがい、広げ、鈴口を押しつける。濡れるはずもないそこは当然、固く閉ざされている。自分自身はいきり立っているのに挿入できないもどかしさに萃香は腰を振るって鈴口を小陰口に擦り付ける。切っ先からにじみ出る先走りの淫水を広げながら、徐々に亀頭を霊夢の胎へ沈めていく。
「ッ、あ…」
大きく突いたところで萃香のものが全て霊夢の胎に飲み込まれた。
「霊夢の内、冷たくて気持ちいいよ…」
微笑んで、達成感と快楽に身体を震わせる。
「…ごめん、霊夢」
何度目かの謝罪/何度目かの口づけ。
今度のそれは優しく触れるようなもの。けれど、だからこそ、言葉のように萃香の想いが一番込められたものだった。
そうして、そのまま、萃香は腰を前後させる。
ずちゅり、ずちゅり、と自分の淫水を潤滑油に。だんだんと動きを滑らかに、そうして早くしていく。刺激に反応してより固くなる萃香の男性器。霊夢の躯の冷たさよりも自分の内にある想いが勝っていた。
「霊夢ぅ…霊夢ぅ…ひぐっ、ううっ」
涙と嗚咽と淫水と。いろいろなものを漏らしながら、霊夢の首筋に顔を埋め、腰を前後させる。いつか、一緒に眠った時に嗅いだ香りが鼻腔に満ちる。もう、これを最後に感じられない匂いを。なんども、口づけをする。ずっと肌を合わせ続ける。今までできなかった分を埋め合わせするように。後生だからと赦しを請うように。
最後だからと霊夢と交わる。
最後だからと愛を伝える。
「霊夢…っ!」
強く、最後に強く腰を打ち付け、萃香は霊夢の胎で果てた。
「霊夢、好きだったよ…」
深く口づけをした。
頬を伝わって涙がこぼれ落ちた。
END
給与処理をしている最中に思いつき、
更に空きっ腹にトマトのアンチョビ和えを肴に梅ジンバックを流し込みつつ書き上げました。
お通夜なんてシオマネキの右手で数えられるほどしか行ったことがないので描写が不正確かも。まぁ、幻想郷流ということで。
あ、死姦がツライ人は霊夢ちゃんは呑み過ぎて意識を失ったという昏睡姦に置き換えるとベストかもしれません。
sako
作品情報
作品集:
15
投稿日時:
2010/04/27 15:17:04
更新日時:
2010/04/28 00:17:04
分類
萃香
霊夢
お通夜
死姦
少しだけでも分けて欲しい
あなたの書くエロスは濃厚で好きだ
顔文字は泣いてるんですからね?マジで、画面の前で号泣。
死姦は好きですが、今回はちょっと・・・。
何で死んじまったんだよ、霊夢ぅ・・・。
こんなに様々な人妖から愛して貰える霊夢は幸せ者ですね。