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『見える地獄と見えない天国』 作者: 原価計算
棄てられた地が在った。
忘れ去られ、見られることの無くなった、暗い暗い地獄が在った。
「幻想郷はすべてを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
* * *
私たち姉妹は、地上で生まれ、幼少時代を過ごした。
『覚り』――私たちに生まれ付いて刻まれた、ごみ屑の烙印だ。これのせいで、嫌われ、蔑まれ、妬まれ、怨まれて、地獄のような生活を送っていた。
行く先々で家畜以下の扱いを受けて、村から村を転々とする日々。
そして、後に私たちの運命を変えることになる人里に辿り着いた。
私たちはこの地に着いて、まず里の守護者である上白沢慧音と出会った。彼女は寺子屋の教師で、公明正大なインテリゲンツィアだった。
彼女には大変良くしてもらった。私たち姉妹の部屋を用意してくれ、食事も振る舞ってくれた。私たちも恩義に応えなければと思い、仕事を探すことにした。
今思えば、これが私たちの人生の歯車を大いに狂わせる要因を作ることになったのだろう。
ある時、こいしが広場の掲示板から拾ってきた仕事の募集に、大変条件の良いものがあった。だから、掲示されている店へ、向かったのである。やっと慧音さんに恩返しができる、なんて無邪気なことを考えながら。
地獄は知っていると思っていた。
店内に入った瞬間に複数の男に押さえつけられ、気絶させられた。
起きた後、私たちは「覚り妖怪」ではなくなった。真っ暗な部屋の中、私たちは「便器」であり「屠殺される家畜」であった。鎖に繋がれ、監禁され、毎日毎日男たちの性欲を処理する公衆便所になった。口には出せないようなことも数え切れないほどされた。
寝ている最中に男たちがやって来て、いきなり膣に挿入されるなんてことはしょっちゅうだった。勿論濡れている訳も無く、痛いばかりで、膣は擦り切れて出血した。そこに射出される白濁が沁みて、痛みで横になることもままならないことが多々あった。
ある時は妹と交わらせられた。男たちから嘲笑され、冷笑されながら、黙々と絶頂を求めた。眼は霞んで見えなかった。第3の眼も。妹は泣いていた。さめざめと。全く濡れていない妹の秘所をぴちゃぴちゃ音を立てて舐めた。妹は耐え切れずに吐いた。
死んだほうがましだと思えるような拷問もされた。
回復能力の高い妖怪だから、眼球を刳り貫かれても、舌をひっこ抜かれても、手足の骨を引きずり出されても、翌日には完全に元通りになった。
来る日も来る日も男たちの穢れきった欲望をぶつけられた。身の底まで腐り果てるような妄念が常に流れ込んできた。
与えられた食事は必ず戻した。肌はぼろぼろ。きれいだった紫と緑白の髪は、艶が消えて埃と精液塗れだった。
そんな日々の中で、妹は第3の眼を閉じた。最終的に彼女は、ストレスと劣悪な環境から体調を崩し、生死の境を彷徨っていた。
しかして、その後、私たちに救いの手が差し伸べられる。
上白沢慧音が何週間も行方不明だった私たちの居場所を突き止め、すぐに竹林の奥にある永遠亭に住む凄腕の医師、八意永琳に治療を依頼してくれた。
結果的に妹の命は助かった。私と妹は一週間ばかりの療養で健康を取り戻した。
だが、妹の瞳は依然として閉じたままであった。
* * *
その後、慧音の知り合いである是非局の閻魔と面会する機会があった。
幻想郷担当の閻魔で、四季映姫・ヤマザナドゥと名乗った彼女から、思わぬ話が舞い込んできた。
地底に存在する廃棄された地獄の管理をしてくれないかとのことだった。あなた方は辛い体験を十分してきた、地上で生きていくより、地底で静かに暮らしてはどうか、という提案だった。なんと地獄管理の見返りに、地霊殿という豪奢な館を譲ってくれるという、破格の条件であった。
こいしも承諾してくれたので、慧音、閻魔に礼を言い、地底に移り住む運びとなった。
ここならば私たちの心の傷を癒すのに絶好の場所だと思った。
こういう経緯で私たちは今現在、地霊殿に住んでいる。沢山のペットに囲まれ、とても幸せな毎日を送っている。
こいしもきっと、喜んでくれているだろう。
* * *
暗い暗い地の底の、暗い暗い廃獄で、私はずっと地を這いずり回っている。
何も見えない。真っ暗だ。
何も聞こえない。静かだ。
助けて。助けて。お姉ちゃん。怖いよ。何にも見えないんだ。もうずっと前から。
気付いて。私の叫びに気付いてよ。
地獄なんて死後に用意されるまでもなく、実はそこらに転がっているのかも知れません。
原価計算
作品情報
作品集:
15
投稿日時:
2010/04/28 15:43:24
更新日時:
2010/04/29 00:45:00
分類
さとり
こいし
慧音
閻魔
さとりさんらはこういう境遇が似合いますね。慧音先生はやっぱり良い人でよかった。
地獄がどんな場所なのか生きている間知らずに済むのはとても幸せなことなのかも知れません
さとり様、早く気付いてくれ