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『と或る庭師の肖像』 作者: アルマァ
私の場合。
半分は虚ろで、もう半分は確かなものだった。
他がどうであるかはよくわからない。私は、その彼女らではないのだから。
物心がつく前か、未だ胎内にいた頃か、はたまたそこから生まれ出でた時なのか。
私は、半分が死者で、もう半分が人だったのである。
その出生の秘密を知りたいとは思わなかったし、これから先も思わないであろう。
どうのこうの言ったところで、死者は還らぬモノであるのは世の常だ。
今、確かにこの手にある半分の生を享受し、謳歌するほかあるまい。
しかし、私はある日、初めて己の生に疑問を持った。
その発端は、あるくだらない興味にある。
果たして、半人半霊というものは寿命も半分なのでしょうか?
茶請けにでも、と思いつきの話を主に問う。
話は多少脱線するが、私の主といえばそれはそれは素晴らしいお方である。
西行寺の名といえば、冥界で知らぬものはあるまい。
死した者が輪廻転生の輪に再び入るためにその順番を待つ冥界、幽々子様はその冥界の管理を任されていらっしゃるのだ。
私はその幽々子様が暮らしておられる白玉楼で庭師や幽々子様の剣術指南を務めている。
嗜みの一面もあるのであろうが、多くはこの幻想郷において身を守るためであろう、と私は思う。
先代、あるいは更に前から続くこの務めにも、疑問を感じたことはない。
しかし、幽々子様も器の大きな方であるとはいえ、元は人間。
自分の苦手とすること、例えば剣術の指南には、ほとんどやる気を見せてくださらない。
ただ、それでもいい、とは思う。
現在は人間と妖怪の間で、特殊な決闘のルールが取り決められているからだ。
弾幕。
詳細については、最早この冥界を含む幻想郷においては常識と化して、知らぬものは無いと判断し、割愛させて頂く。
とにかくこのルールはごっこ遊びとは言え、爆発的な人気を呼び、多少とはいえ私も嗜むほどである。
とにかく、私のような剣の道を依る所、信条とする者はともかく、幽々子様には剣術を覚えていただかずとも、この先も平和に暮らしていけるのではないか。
甘い考えかもしれないが、私はそう感じていた。
随分と横道に逸れた。 話を戻そう。
半人半霊の寿命。
私は半分死んでいる。
となれば、寿命も大した年数ではないのかもしれない。
ひょっとしたら死に慣れていて二倍なのかもしれないが。
まあ、死んだところでどうなるものでもない。
閻魔様がどのような裁量を下されるのかは分からないが、私はきっと死んだところでこんどは只の霊となってまた幽々子様にお仕えするだけの話だと思うのだ。
そのような考えもあって、私は気軽に問うた。
幽々子様も考えは一緒であったようで、
そうなのかもしれないわね と、実に暢気な答え方をなさった。
今日もあと半分。
太陽は真上にあった。
西行妖も、四分咲きといったところか。
春の盛りの一日である。
太陽が少しだけ傾いたころ。
暇を持て余していた私は、久しぶりに幽々子様に剣術の指南を行った。
必要無いとは言っても、護身程度には覚えておいて頂きたいし、全くやらない、というのではいくらなんでも先代に申し訳が立たないとも思った。
幽々子様は多少ながら不服を表情に出したが、中庭まで出て下さった。
多少の運動から鍛錬を始めた。
幽々子様には剣術の才能が見受けられる。
いや、幽々子様はおおよその事に関してはある程度の才能を見せるのだ。
どれもこれも、真面目にしっかりとやれば見事な物になる。
幽々子様がやる気を見せてくれれば、の話だが。
断っておくが、私は決して主を愚弄しているつもりはない。
それも幽々子様の一面、良い所であるとも捉えている。
全く私の教えた通りに幽々子様の身体は流れ、やや小振りの木刀がひゅん、と唸る。
私は心の中で嘆息した。
やはり、幽々子様は素晴らしいお方だ。
それからしばらくたったとある日。
夏も近づき、掛け布団を薄いものに取り換えようか、という時期だったと思う。
冥界に侵入者の気配を感じた。
幽々子様には屋敷の中へ入っていただき、すぐに冥界の銘刀を両手に石段へと急いだ。
直前に、ぞくり、と。
まだまだ半人前の身とはいえ、今まで培ってきた剣士の勘が、警鐘を割らんとする勢いで鳴らした。
「コレ」の敵にだけは。
なってはならない。
石段へと急いだ。
「あら、お出ましね。んー、やっぱりあの子も連れてきたほうが良かったのかしら。仲が良いとか悪いとかよく言われてるみたいだし」
何故、と歯噛みした。
何故、ここに用がある。
何故、「客人」ではない。
どうして、八意永琳が、そこに殺気を隠しもせずに私を見据えているのだ。
八意永琳は蓬莱の薬を服用した不老不死である。
そういう存在である以上、幽々子様の能力は一切通用しないのだ。
故に、ここを通せば幽々子様がどうなるかわかったものではない。
そして、どれだけの時を生きてきたのかわからないその体が、
弾幕等という遊びは関係無い。歯向かうならば問答無用で殺す。
そう言っている気がしてならなかった。
かくして、刺客と私は石段に対峙した。
通常、階段等の高低の差がある場においての戦闘は何かと上にいる者が有利、というのが常である。
そして妖夢は永琳より数段高い場所に立っていた。
それでもなお。
妖夢は、自分が相手を止めるためにここにいるというのに。
相手に動きを制限されているような気さえしてきた。
妖夢は半人前である。
皮肉なことだった。 妖夢はそれを、自らの精神の至らなさによる錯覚だと。そう思い込んでしまった。
完全に成熟した剣士であったならば、一瞬で看破したであろう。
このまま闘えば、ここは自らの墓場になることを。
何の用だ、と問うた。
姫様がね、と言って。
その、蓬莱人は。気怠げに、腕を、挙げた。
咄嗟に妖夢は左へと避けた。
ぼご、と石段に大きな穴が穿たれた。
これは、弾幕等では無い。
当たれば命を落とす。
即座に体制を立て直す。
そんな暇は与えないとばかりに、次の見えない殺気が猛獣もかくやと遅い来る。
上へ飛んだ。左足の爪先に、激痛。
見れば、もう足の指が無くなっていた。
やはり、妖夢は半人前であった。
空中というものは身動きがとれぬ、ただ物理法則に従って落下するだけなのだ。
そして、天才は。
その軌道を完璧に読んでいた。
・・・ッぎィあっ・・・・!?
左脚が、消し飛んだかというほどの痛み。もう使い物にはならな 。
・・・・・ッがッ・・・ぁ・・・・ッ ッ!!
どっちかのウでが、もう、ないtおもう。
それでも良い。
それで良い。
脚がどちらかあれば動ける。
腕の片方さえあれば剣は持てる。
幽々子様を守れるのだ。
むしろ他の部分などいらない。
自分が生きる為の機構などは何の必要もない。
それは、幽々子様をお守りする上で、ただの重しとしかなりえない。
そう。死んだって、何も問題はないのだ。
閻魔の判決など知ったことでは無い。
文字通り、足に噛り付いてだって結論を捻じ曲げてやる。
幽々子様と、添い遂げる。
そうでなければならぬ。
永遠の住人が永遠と感じる時間の更にその先へある終わりまで、御共できねば。
この今までのほんの僅かの時間など、なんだというのか。
この先も。その先も。
冥界の住人が死んで、更に逝き、そこでの終わりの、更に先まで。
御付きせねばならぬのだ。
それが、私の。
使命と、願いであり、望みであるのだから。
退がる事だけは、してはならぬのだ。
それは、この曲者を、幽々子様にそれだけ近づけることに他ならない。
護る者が最もしてはならぬことだ。
かくして、妖夢の精神はそれこそ鋼の硬度を持って、その躯を支える。
膝は今折れんとばかりに頼りなく、
腕は最早抜け落ちる手前ではないかと思わせる。
腹などは既に半分が抉れていた。
それでも、眼だけは死んではいない。
退がるものかと、寄らば斬ると。
その眼光を、失っては居なかった。
それこそは、最早半人前などとはとても呼べぬ、全てを射抜かんとするモノだった。
しかし、その程度で現実を曲げるには至らぬ。
相手が、あまりに悪すぎた。
妖夢が、後ろに居る永琳に気づいたのは、己の躯が、地面に何の抵抗もなく。
文字通り、 どさどさ、と 崩れ落ちてからである。
二振りの銘刀が、華乱、と音を立てた。
即座に振り向かねば。
しかし、方向転換する為の脚は無い。
なら、這いずってでも、アレに追い縋らねばならない。
這いずるための、腕も、そこらにごろりと横たわるのみであった。
「・・・・・・・・・・・・あぁ」
腕が その向こうに 様が ごろり
あしが このままでh ぐったり
護れない。もう。止める術は。
無いそんなわけないこの体はそうあるべき躯ではないのか諦めろ無理だそんなはずがあるかそうでなくては申し訳が立たぬ不可能だどうやって敵を斬るどうやって護れというのだ違う違う違う違う違う違う違う違う無理だ諦めろ不可能だ立てぬ掴めぬ斬れぬ走れぬ護れぬそんなはずがない無理だ不可能だ違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
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「あら、随分と汚い声を挙げるのね。そんなにご主人をお守りできないのが悔しいのかしら?ごめんなさいね。これも姫様が暇だー、なんていうから。仕方ないのよ」
唇を噛み切った。舌を噛み切った。歯の届く範囲は全て噛み千切った。随分と醜い顔になった。それでも悔しさは紛れぬ。
地面を拳が無くなるまで殴りつけたかった。その腕も無いのが、さらに感情を加速させた。
血の海に沈んだ妖夢の咆哮は響く。
誰も居ない石段に。
それがようやく止まったのは、意識の片隅に置いて決して離さなかった主の気配が、完全に途絶えた後であった。
どうも、今回はそんなに間が開かなかったなぁ、アルマァです。
悪ぃが今回はオチは無しです!
思いつかなかったから!次回で!
今回に関しては妖夢をテライケメンにしたかっただけだった
>>1様
ありがとうございます。姫様とかえーりんは暇なだけで幻想郷に喧嘩売っちゃうド外道!大好き!!
アルマァ
http://twitter.com/ilsaber
- 作品情報
- 作品集:
- 15
- 投稿日時:
- 2010/05/16 14:36:59
- 更新日時:
- 2010/05/17 20:41:54
- 分類
- 妖夢
しかし姫も暇潰しで冥界の管理者を殺すとは、幻想郷の管理人が黙ってないぞw
いや、それこそが暇潰しかな?