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『リトルマリーエメラルドガーデン』 作者: sako

リトルマリーエメラルドガーデン

作品集: 16 投稿日時: 2010/05/17 16:04:06 更新日時: 2010/05/30 09:26:57
 









「ごめんよお、幽香〜 あやまるからゆるしてよ」
 
 涙目で必死に頭を下げるチルノ。いつも無鉄砲で誰彼構わず勝負を挑みにかかる彼女にしては珍しくしおらしい姿をさらしていた。
 その前には腕を組み、厳格な面持ちでチルノを見下ろしている幽香の姿が。傍らにあるテーブルの上には植木鉢とそこに植えられていた花…だったものが置かれている。植木鉢は大小六つほどの破片に分かれ、内に収めていた土をさらけ出している。空気にさらされた土は乾き、乳灰色の砂となって崩れていた。そうして、赤い花を咲かせていた植物は…茎が中程で折れ無残な姿を晒していた。

「駄目よ」

 固い声色で幽香は答える。

「壊れてしまったものはもう、どうあっても元には戻らないわ。だから、貴女は―――弁償しなくっちゃいけないの。分かるでしょ。壊してしまって治せないのなら―――替わりのものを用意する。そういう単純な話よ」

 ううっ、とチルノはその小さな身体を震わせた。














―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










 その日の正午、暖かな日和を迎えた幻想郷でも一番、温かい場所。向日葵の丘。そこでチルノたち妖精のグループは遊んでいた。

「いくぞー!」

 えいっ、と自身の能力で作った氷の塊を友人の妖精たちにむかって投げるチルノ。彼女にしてみればそれは“どっちぼぉーる”というスポーツらしいのだが、今一、ルールを把握しておらず、しかも、投げている球が氷の塊であれば誰もそれを受け止めようとはしない。陣地も何も設定していないフィールドの上をてんで出鱈目に妖精たちは走り回り、地面に落ちて転がり始めた氷の球を拾い上げるとまた適当な方向へ投げるという遊びが繰り広げられていた。

 そんなルールどころか勝敗の行方さえ分からないようなお遊びであったが、プレイしている妖精たちにとってはそれで十分、心の底から楽しめるゲームなのか皆、きゃっきゃっと一様に笑顔を浮かべて氷の球を投げ合っていた。





 チルノが思いっきり、力任せに氷の球を遠投しなければ。





「必殺! 九百九十九倍ビッグバンかめ○め波ぁ!!」

 チルノのかけ声と共にぴゅーん、と円弧を描いて飛んでいく氷の球。はしゃぎ回っていた妖精たちは立ち止まってその軌跡を眺める。誰もいないところへ飛んでいくその氷を。

「あー、チルノちゃん、またヘンなとこに投げた」

 指摘したのは妖精の中では強者組の大妖精の大ちゃんだ。大妖精の言葉にチルノは腰に腕を当ててふんぞり返り、「おっと、ぱわーが強すぎたようね。あやうく、ちきゅうをこっぱみじんにするところだったわ」と笑っている。小さな妖精立たちがちきゅー? ちきゅーってどこですか? ろすとえるされむ? と心の汚れた人間には理解しがたい会話を繰り広げている。

「もー、チルノちゃんてば。ほら、取りに行くよ」
「えーっ、めんどうだよ。また、作れるからいいじゃない」
「そのつくる水はどこから出てくるの。チルノちゃん、凍らせるだけで水は出せないでしょ」
「うん、水は…でないかなぁ」

 チルノの手を引いて向日葵畑をかき分けていく大妖精。どこまで行ったんだろうと、注意深く地面を探しながら歩く。後ろから付いていくチルノはもう、ボールのことなど忘れたようで立ち並ぶ向日葵に心を奪われているようだった。でっけぇ、だいだらぼっちみたい、とはしゃいでいる。




 と、唐突に向日葵畑が開けた。強い日差しに日差しに思わず手を翳し目を瞑る大妖精とチルノ。

「あれ…ここって…」
 次第になれてきた目が捉えたものは、どこまでも続いていそうな煉瓦の壁と白い飾り窓、そして尖塔に立つ風見鶏。

「風見さんのお屋敷じゃ…」

 大妖精の脳裏にあの大妖怪の姿が浮かび上がる。チェックのスカートとベストを着ていつも日傘を差し、ニコニコと赤黒い向日葵みたいな笑みを浮かべている女性、風見 幽香。確か彼女のお屋敷はこの辺りで他に建物は見あたらなかった。

「怖がることはないと思うけど―――はやく、立ち去った方がいいかな」

 風見幽香について大妖精が知っていることその@ 力の強い妖怪、そのA 昔、巫女と喧嘩した。そのB 以上。けれど、妖精としてはそれなりに位が高くても幻想郷というフィールドの中では最下層に位置している自分がもし、何かの理由で幽香を怒らせてしまったらどうなってしまうのか。予想が付かない分、予測できる。あまり、関わり合いになっていい妖怪ではないということぐらい。
 大妖精は脅えた様子をみせ友人のチルノの姿を探した。ボールのことはいいからはやく行こうと、言おうとして。

「あ、大ちゃん、ボールあったよ〜」

 唐突なチルノの声にびくり、と飛び上がる大妖精。見ればチルノはいつの間にか風見邸の庭にまで入り込んで土に汚れた氷のボールを手にしていた。見つけたようだった。けれど、その姿を見てもう一度、大妖精は驚く―――いや、驚愕を通り越して精神凝固するような様を見せた。

「ちちちち、チルノちゃん…足下…」
「はしもと?」

 ボールを手にしたまま視線を下げるチルノ。そこにはチルノの足によって踏み荒らされた小さなガーデンと割れた植木鉢の姿があった。

「うわっ、壊れてる!」

 びょん、と飛び跳ねて退けるチルノ。どうやら、チルノが投げたボールは向日葵畑を越え、こんな所まで飛んできたようだ。運悪く、幽香の庭、それも植木鉢の上に。

「ど、どうしよう、大ちゃん…」

 脅えた様子で助けを求めるように大妖精に視線を向けるチルノ。どうやらチルノもここがどれほど危険な場所かやっと把握したようだ。けれど、助けを求められた大妖精にも妙案があるわけではなく、ど、どうしようか、と脅えて相づちを打っただけだ。

「と、とりあえずしょうこいんめつするしか…」
「もう遅いわよ。ジャッジメント現着」

 しどろもどろ狼狽えながらも割れた植木鉢の破片を拾い集めようとしゃがみ込んだチルノに頭上から声がかけられる。ぎぎぎ、と錆び付いたねじ回しみたいな緩慢さで振り返ったチルノは後ろにいつの間にか館の主、風見幽香が立っていたことに気がついた。

「………アタイじゃないよ」
「ベタすぎて突っ込みきれないわ」

 一瞥と冷ややかな言葉。タンブルウィード的な風が吹きすさぶ。そうして…

「ごめんよおー!!」

 チルノは謝りながらも一目散に逃げ出した。虚を突かれ思わずチルノを捕まえ損ねる幽香。待ちなさい、とその後ろを追いかけていく。

「チルノちゃん…幽香さん…」

 後にはてもちぶたさの大妖精だけが残された。












 そうして冒頭。
 幽香に捉えられたチルノは屋敷の中、ガラスのドームでおおわれた温室へと連れて行かれた。

「ごめんなさい。もうしませんから」
「子供と政治家と泥棒の『もうしません』ほど信じられないものはないわね」

 何度も頭を下げるチルノ。けれど、幽香はそんなチルノを一向に許そうとはしない。

「可愛そうに、この子、せっかく花を咲かせてこれから蜜蜂の逢引きで受粉して、種子をもうけようとしていたところなのに…貴女、自分が結婚間近で殺されてしまったら、その相手を呪い殺したくなるほど恨めしく思うでしょ」
「ご、ごめんなさい、アタイ、まだケッコンとかそういうのはよく、わからないから、その…」

 ため息。

「まぁ、そうね。でも、殺されるのはイヤでしょ」
「う、うん。その…お花にも謝るよ。ごめんなさい、お花さん。折って…しまって。鉢植えさんもこわしてしまってごめんなさい」

 テーブルの上の萎れた花に向けて頭を下げるチルノ。その様子を幽香は眉を潜め、唇を少し尖らせた妙な面持ちで眺めていたが、ややあって頭を振るった。

「駄目よ。謝ったからってその子が生き返る訳じゃないわ。第一、謝罪なんて、一番軽い刑罰じゃない。重い罪には実刑か罰金刑が科せられるのが、普通よ」
「ううっ、じゃ、じゃあ、どうすればいいの幽香」

 ひぐっ、と嗚咽を漏らしながらもチルノは幽香に向き合って訪ねる。そこでやっと幽香はにこりと笑みを浮かべた。

「だから、言ってるでしょ。弁償、それだけしてくれればいいから」






 赤黒い向日葵のような笑みを。






「べ、弁償。弁償すればいいの。でもアタイ、お花は育てれないし、植木鉢治すのもできないよ。あ、新しいのを買ってくればいいの。あ、でも、アタイ、お金持ってないし」

 チルノはスカートの裾を握りしめて俯いている。そんなチルノに近づいて幽香は肩に手を置いて、そうね、と同意を示した。

「治すことは出来ない、お金も持ってない、そう言うときはね、身体で払うものなのよ、チルノ」
「か、身体で…?」
 
意味が分からずチルノは小首を傾げた。にっこりと幽香がまた笑みを浮かべる。






「そう。まぁ、お花はどうしようもないとして、植木鉢の方はね、チルノ。貴女が―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――植木鉢になってくれればいいのよ」






 その間は実質的にはなかった。けれど、幽香の言葉に耳を傾けていたチルノは死刑宣告を待つ囚人の体感時間でその言葉を聞いていた。

「えっ、なにそれ…?」

 また疑問。いや、今度の言葉は誰が聞いても理解できない言葉だろう。幽香は優しげな笑みを湛えたままチルノの耳に顔を寄せるとその方法を簡単に分かりやすくチルノでも理解できるような言葉を選んで、説明してあげた。返答は―――

「い、イヤだよ。そんなの」
「アラ、弁償するって言葉は嘘だったのかしら」

 黒い鋭利な刃物のような言葉。ううっ、とチルノは唸る。

「わ、分かったよ幽香。それで…それで許してよ…」
「ええ、もちろんよ。少し待ってなさい。準備するから」

 頷くチルノにそう告げると幽香は一旦、屋敷の本館の方へと歩いていった。




 律儀にそこでじっと待っていたチルノの元へ幽香は木製のアームチェアーを抱えて戻ってきた。
 余り使われていないのか、真新しい材質のアームチェアーだ。表面に塗られたニスはまだ光沢を湛えていて鼻を近づければ有機溶剤の匂いがかけそうなものだった。幽香はそれを日当たりのいい一角へ無造作に据え置いた。更にその上に柔らかそうな羽毛を包んだクッションを置く。

「さ、ここにかけなさい、チルノ」

 腕で椅子を幽香は指し示す。チルノは頷くことなく俯いたまま、嫌そうなゆっくりとした足取りで椅子に近づいていった。

「ううっ」
「さ、パンツを脱いで」

 わかったよ、とややあってからチルノは意を決し、それでもやはり嫌だといったような動作でワンピースのスカート部分を持ち上げてドロワーズのゴムに指をかけた。するすると子供らしい可愛らしい意匠のドロワーズがチルノの細く擦り傷が付いたりしている両足を通って落ちる。左右の靴を脱いでチルノは素足になり―――、靴を履いたままだとパンツが脱ぎにくいので、そうして、右足をあげ、左足を振ってドロワーズを脱ぎ捨てた。

「次はイスの上に乗ればいいの」
「そう。お尻を上にね」

 歯を食いしばった表情で、チルノは膝を椅子の上に乗せよじ登ると、子供らしく器用にその上で反転して足を上に頭を下に、でんぐり返しの途中で止めたような、普通とは逆向きになるよう座…いや、椅子に身体を乗せた。

 ぺろん、とワンピースのスカート部分がめくれ上がり、青い尻も幼い秘裂も、何もかもが露わになる。

「ううっ、すーすーする」

 精神の幼さ故か、特に恥じらうことなくチルノはその妙な体勢の感想を漏らした。幸い、柔らかいクッションのお陰で首は余り痛くない。

「ちょっと、穴が見えにくいわね。こう、足をひっぱってくれる?」
「こう」

 膝裏に手をかけ、自分の両足を幽香に言われたとおり広げるチルノ。大股を広げる格好。お尻のスリットがつられて広げられ、僅かに赤みがかった菊座が露わになる。幼い妖精が性器も肛門もさらけ出している姿に興奮を覚えたのか、幽香は優しげに微笑んだ。

「ありがとう。じゃあ―――ここに、種を植えるから」

 ここ、と幽香が薬指で触れたのはチルノのお尻の穴、裏の蕾だった。敏感な部分を触られううっ、とチルノはくすぐったげな声を上げる。
 ふふ、と笑うと幽香はチルノの菊座に触れていた指を離し、今度はその手の小指を自分の口元へ持っていった。長く赤い舌を伸ばし、丹念に指先をなぶる。皮膚がふやけるほど唾液を馴染ませ、それをチルノの菊座に押し当てる。

「ああ、っ、くすぐったいよ幽香」
「我慢しなさい。しっかり濡らしておかないと痛いわよ」

 菊座の窄みの周囲を円弧を描くように指でなぞる。肉が幽香の指の動きに引っ張られ、面白いように皺が形を変える。その度にチルノはくすぐったそうな声を漏らした。
 二周、三周と周囲を巡る内に、段々と円弧の半径が小さくなっていく。そうして何度目かの周回でついに幽香の細い指の先がつぷりとチルノの内側へ押し込まれた。

「柔らかい」

 そのままぐりぐりと刮ぐように指を動かす。
 何度かそれを繰り返し、気が済んだところで幽香は指を離した。チルノの菊座はトイレのすぐ後のように少し口を開き、盛り上がりをみせ、僅かにひくついていた。幽香の唾液に濡れ光るそこは小さいながらも性器のような様を見せていた。

「それじゃあ、入れるわよ」

 確認の言葉を告げて幽香はポケットからクラフト紙の袋を取り出した。じゃらじゃらと小さく音の鳴るそれの中身は小指の爪の先ほどの大きさの黒い種子だった。何の種なのかはチルノの少ない知識では理解できなかったが、少なくとも向日葵や柿の種ではないことは分かった。

 盛り上がったチルノの菊座の上に供えるように種を置く幽香。そうして、そのまま種子を押し、肛内へと入れていく。

「ううっ、なんか、ヘンな気分―――」

 通常は排便にしか使われない部分に何かを入れるという行為に触感以上の奇妙な感覚をチルノは覚えていた。しっかりととき解れた孔は容易く幽香の指を飲み込んでいく。ぞぶり、ぞぶり、と。第一関節、第二関節、そうして、おおよそ小指の根本まで入り込んだことを確認すると幽香は肛門から指を引き抜いた。

「はい、種まきは終了。よく泣かなかったわね、チルノ」

 汚れた指をレースのハンケチで拭いながら幽香は労いの言葉をかけてあげる。へっちゃらだい、と強がりを見せるチルノ。

「でも、これでOKなんでしょ。これで―――許して」
「何を言ってるの?」

 逆さまの体勢のままのチルノを一瞥、眉を顰めて幽香は答えたかと思うと腕を伸ばし、なにやら呪文らしきものを捉えた。

 幽香のブラウスの袖口からしゅるりと蛇のような素早さで緑色の蔓が伸びてきた。え、と疑問符を浮かべるより早くそれらはチルノの手と足を固定するように縛りつけ、その他、身体と椅子に交差するように蔦を伸ばす。あっという間にチルノは身動き取れないほど椅子に固定されてしまった。

「えっ、何、幽香。動けないじゃん。ほどいてよ!」
「駄目よ。植木鉢が椅子から落ちたら大変じゃない」

 にべもなく返す幽香。そのまま幽香は縛ったチルノを無視するように温室の隅に備え付けられた井戸の所まで歩いていく。

「それに…言ってるでしょ、チルノ。私は弁償、してほしいって。刑罰を与えて許せるほど私の心は広くないわ。罰金刑しか認めていないのよ」

 冷たい口調で淡々と説明する。その間にも幽香の身体はオートマチックに動いていた。ポンプを動かし、地下800mを流れる地下水をくみ上げる。蛇口から勢いよく冷たく澄んだ水が流れてきた。幽香はそれを桶に溜め、更に蓮の花をあしらった口のある銅製の如雨露へ移し替える。

「ひぁっ、つ、冷たいよ幽香」

 水を蓄えた如雨露を手にチルノ/植木鉢の所まで戻ると幽香は椅子の上から如雨露を傾け、水を振りまいた。
ぴちゃぴちゃと井戸からくみ上げたばかりの冷たい水がチルノの身体を打つ。水浸しになるチルノ。髪は水分を含んでべったりとおでこに張り付き、ワンピースは透けて向こう側、未発達の胸と桜色のぽっちを浮きだたせる。

「種まきの次は水まきでしょ。そして次は…」

 如雨露を下ろして、幽香は温室の隅にある納屋の所まで歩いていった。鍬や隙、猫避けの柵などがキチンと並べられた納屋の中から幽香は丈夫そうな麻袋を一つ手に戻ってきた。大きな顆粒状の土の様なものが入っているそれは―――

「肥料よ。さ、口を開けて―――」

 天地がひっくり返った視界をチルノは絶望の面持ちで眺めていた。
 ああ、この怖い怖い妖怪は恐ろしいことに私から種が芽を出し、茎を伸ばし、花を咲かすまで私を植木鉢として扱う心算なのだと。





 絶望の道を通って達観という広場にたどり着いてしまったチルノは黙って口を開けた。苦い、ぱさぱさする灰褐色の塊が入れられる。















―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――













「チルノちゃん、大丈夫かな…」

 それから数日、幽香の屋敷を目指して大妖精は幻想郷の空を飛んでいた。
 手には紙袋が大事そうに抱えてある。
 リボンまで付いてしっかりと包装されたそれは集落の雑貨屋で買ってきた植木鉢だ。





 
 あれから、あの幽香の屋敷の庭に置いてあった植木鉢を割ってから大妖精はチルノの姿を見かけなかった。ねぐらの湖の畔の古木の洞を訪れても帰ってきた気配はなく、近隣に住む妖精や妖怪に訪ねてもここ数日、姿を見ていないという返事が返ってくるばかり。そうして、その数日というのはぴったりと植木鉢を割った日から計算して合う日だった。

 間違いない、チルノちゃんは幽香さんに追いかけられてから一度も家に帰ってきていないんだ。
 状況証拠から真実にたどり着く。きっと、チルノちゃんはあの後、幽香さんに捕まって怒られているんだ、と。

 大妖精はなけなしのお金で見栄えのいい植木鉢を買い幽香の屋敷へと向かった。親友を許してもらうために。
 キチンと丁寧に謝って替わりの植木鉢を用意すれば、恐ろしい妖怪と噂の幽香もきっと許してくれるだろうと信じて。
 それに元を辿ればあんな場所で遊んでいた自分にも非がある。もう、日が過ぎてしまったが仕方ない。
 一抹の不安を抱えたまま大妖精は急いだ。






 コンコン、と大きなオーク樹の扉につけられた獅子を象ったドアノッカーを鳴らす。
 緊張にお腹の辺りが痛くなるのを感じて、返事が来るのを待つ。程なくしてゆったりとした足音が聞こえてきた。

「どなた? って、貴女は」
「あ、あのすいません! 植木鉢を割ってしまって! これ、お詫びに持ってきた替わりの植木鉢です!」

 扉が開けられ声をかけられるなり、まるで初めてヴァレンタインのチョコレートを渡す乙女のような仕草でお詫びの植木鉢を差し出す大妖精。けれど、心中は初恋などと言う甘酸っぱいものではなく、身を苛む恐怖と親友の身の安否だけだった。
 一刻も早く自体を解決したいという焦りから大妖精は礼儀も忘れてそんな行動を取ってしまった。
 しまったぁ、と思ったのはたっぷり十七秒たってから。けれど、余計に怒らせてしまった、と恐る恐る顔を上げた大妖精が見たものは柔和な笑みを湛えた幽香の姿だった。

「まぁ、わざわざ、謝りに来てくれたの。えらいわね」

 そう、笑顔を貼付けたまま答える幽香。思ったより、怒っていない、と大妖精は内心でほっと胸をなで下ろした。

「は、はい。その…ごめんなさいでした」
「ふふ、いいのよ。新しいのが手に入ったから。もう少しでお花も咲きそうなの」

 ある種の拍子抜けさを感じながらも大妖精は幽香と話を交わす。思ったより、怖い人じゃないのかも知れない。そういう感想が大妖精の中に生まれてくる。






 けれど―――胸の中に何故か凝りのように一抹の不安が残り続けているのに、大妖精は果たして気がついているのか?






「よかったら見ていく? 新しい植木鉢と発芽したての苗と」
「は、はい」

 特に断る理由も思いつけず、大妖精は頷いた。頷いてしまった。
 幽香に促されるまま、部屋の中へ案内される。日の光差し込む廊下を渡り、本館を通り過ぎ、離れへ。
 その途中、離れの温室の磨りガラスの扉を開けるときに、大妖精は思い出したかのように幽香に訪ねた。

「そう言えば…幽香さん、ここにチルノちゃんが来てませんでした?」
「チルノ? ええ、ここに置いてあるわよ」

 そんな、言い間違えかと思うような言葉を幽香は口にする。
 けれど、大妖精がそれを指摘することはなかった。

「ち、チルノちゃん………!?」
「あ―――だい、ちゃん、だ…」

 がしゃん、と大妖精の手の中から植木鉢の入った包みが落ちる。石畳に当たって、砕ける。
 視界の先、芽を見開いた大妖精の視線の向こうに、ああ、確かにチルノはあった。いた、ではなく、あったという存在を示す言葉。

 椅子に頭を下に逆さまに座るような格好をし、眠たげな呆けたような表情を浮かべ、秘所も菊座もさらけ出したチルノ。その菊座の孔からは一本の新芽が息吹いていた。白く細長い茎の先に双葉が芽生えている。

「あ―――え―――」

 認識できない現実に心がシャットダウンする。言語野へのアクセス権限が一時的にロストし、大妖精は呆然と開け広げた口から嗚咽めいた言葉を漏らすことしかできなかった。

「いい植木鉢でしょ、アレ」

 その大妖精の耳元へ囁かれる外道の言葉。脳髄を擽る甘美ささえ覚える淫魔の声色。するりと自然な動きで腰を落とした幽香は後ろから大妖精の首へ腕を回した。

「なんで、え? チルノちゃんが…あんな…」
「罰よ。私の植木鉢と大切なお花を殺してしまったんだもの。だから、替わりを用意するように、替わりになるように言ったの。刑罰としてね」

 ふふふ、と暗く赤黒い向日葵みたいに微笑む幽香。大妖精は凍りつく。

「そう言えば、貴女も、私の家の近くで遊んでいたそうね。チルノから聞いたわ」
「え―――?」

 事実。今知られることは拙い。けれど、もう逃げられなかった。
 強制的に振り向かされ、大妖精はいきなり、名の前触れもなく幽香に唇を奪われた。唐突な接吻に一瞬で頭が真っ白になる。その隙を突いて幽香が大妖精の下半身へと腕を伸ばした。スカートをたくし上げ、腕をストライプのショーツの中へ差し入れる。幼い秘裂に無理矢理、幽香の指がねじ込まれる。同じく、小さな口内を凌辱するように伸ばされた幽香の赤い舌。その先、指と舌、両方の先にはチルノに植え付けられたあの種と同じものが乗せられていた。上下、二つの場所へ無理矢理、種子が植え付けられる。

「ぷはっ、けほけほ…な、何を…」

 幽香の束縛から逃れ、前向きに倒れる大妖精。咳き込み、涙目になりながら問いかける。

「貴女も―――同罪。植木鉢になってもらうわ」

 かけられた言葉は地獄のそこから響いてくる科人共の嘆きに似て、大妖精の身を震わせた。




















 長椅子に身体を横たえ、頬杖をつき、幽香はアンニュイな面持ちを浮かべていた。
 傍らにある小さなテーブルの上には緑がかった乳灰色の酒が注がれている。それを一口呑み、幽香はにやりと笑みを浮かべた。目の前にある幻想的な光景に。




 幽香が身体を横たえている長椅子の対面にも椅子が備え付けられている。真っ白なペンキを塗った五人がけのベンチ。その中央に妖精の女の子が二人、仲良さそうに肩を寄せ合い座っていた。
 互いに指を絡ませあい、姉妹のような仲睦まじさを見せている。
 その表情は互いに虚ろ。静かに胸を上下させながら、何処か遠く、遙か未来、地球の自転が止まって赤道を中心に常に日の当たり続ける緑に支配された場所を、そうして、月を捉える大木の姿を眺めているよう。
 手足はしげどなく投げ出され、背は深く椅子にかけている。右に座る子、自分の左肩に頭を預けている緑髪の妖精の耳からはト音記号を描くように茎を捻らせた豆苗の様な芽が伸びている。左の子、水色の髪をした妖精の呆けたように薄く開けられた口の端からも同じく、芽吹いたばかりと思わしき真新しい黄緑の葉が覗いている。
 そうして、二人の開かれた両足の間、スカートを迂回するように幾本もの花が、色とりどりの花弁を咲き誇らせていた。






 そんな二人の妖精/二つの植木鉢を眺め幽香はアブサンを一口。股間のモノを怒張させながら花見を愉しんでいるのだった。







「いい植木鉢が手に入ったわね」






END
キューバリブレ呑みながら書きました。

好きな酒と言えばバカルディ。
“ビールなんざピスと一緒さ。男ならラムだろ”って言うぐらい好きです。
“おい、バーテン。店にあるバカルディ全部もってこい”と言えるほど強くありませんが。




コップ二杯で今日は一日、死んでたよ…




10/05/19>>追記
>>5さま、ご指摘ありがとうございます。
違う、私が悪いんじゃない、ATOKの…ATOKのせいなんじゃー!

10/05/24>>追記
>>4さま、我が家のゆうかりんとリグルきゅんはデフォルトでちんこつきで御座います。
詳しくは過去作品をどうぞ。

10/05/29>>追記
>>機玉さま、ゆうかりんの家には後、紅い薔薇を敷き詰めた棺桶に冷たくなった霊夢を横たえたものに、白濁液をブッかけたものがあります。
まぁ、後で世界樹の葉で生き返るんですがね。
sako
作品情報
作品集:
16
投稿日時:
2010/05/17 16:04:06
更新日時:
2010/05/30 09:26:57
分類
幽香
チルノ
大妖精
家庭菜園
ロリもあるよ
1. 名無し ■2010/05/18 01:36:32
春告精「春ですよ〜
 春で… い、嫌ぁぁぁぁぁっ」
氷精「あー咲きてえ一」
それはともかく、いい趣味のゆうかりん。
メディとかは良い植木鉢ですね。
2. 名無し ■2010/05/18 02:56:46
耳!耳!痛いよ絶対痛いよ
3. 名無し ■2010/05/18 16:26:25
これが生け花か
4. 名無し ■2010/05/18 17:01:11
こういうの有りそうで無かったですからねぇ!素晴らしい!
ホント、良い趣味してるぜ・・・ゆうかりん・・・

>股間のモノを怒張させながら

ん?
5. 名無し ■2010/05/19 07:11:45
一カ所、幽香が優香になっていたからなのか
ハートフルなストーリー展開になるのではないかと一瞬思ったが
ここは産廃だった、書き手はsakoさんだった
6. 名無し ■2010/05/20 15:26:42
おいチルノ俺と変われ!!
変われぇぇぇぇ!!
7. 機玉 ■2010/05/28 00:50:10
妖精植木鉢とはいい趣味をしていらっしゃる……
幽香の屋敷には他にも色々な植木鉢があるのでしょうか?
8. 名無し ■2010/05/31 20:45:26
ゆうかりんのアブサンはきっと、ニガヨモギなんて育て放題でしょうし、ツジョンがモリモリに違いないw
9. 名無し ■2010/07/09 20:44:47
>「えっ、なにそれ…?」

こわい
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