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『ある余所者(がいらいじん)と巫女』 作者: 名前がありません号
霊夢はその男の眼をみていた。
男は霊夢の眼を見ていた。
しばらく見つめあった後、表情一つ変えずに男は力尽きた。
霊夢はその男の死に様をただずっと見つめていた。
男と霊夢の出会いは、一ヶ月前に遡る。
それは霊夢にとってはある意味、いつもどおりの余所者(がいらいじん)だった。
ただ他の余所者に比べ、男は少し異様だった。
幻想郷に迷い込んできた割には、妙に落ち着いている。
大抵、こちらの服装や人が空を飛ぶ光景を見れば、
驚きぐらいするが、男にはそんな様子は見受けられない。
虚勢を張っているようでもない。
どうやら興味がないらしい。
霊夢自身にも、幻想郷自身にも、そして自分が迷い込んできた事にも。
しばらく男が辺りを見回してから、霊夢の方を振り向いてこう言ってきた。
「人の多いところに行きたいのですが」
霊夢はいつもどおりに、人里へとその男を案内してやることにした。
何故だろうか、とても心配になったのだ。その男が。
しかしそれは、恋愛感情の類とはどうも違う。
どちらかといえば、“自分と同じ匂い”を霊夢は感じていたのかもしれない。
もっともそれが何であるか、霊夢は再び男と出会うまで気づく事はなかった。
男を人里に送り届けてからしばらく経った。
余所者が入り込んでくる事態には変わりないが、
以前に比べれば、沈静化しつつあるようにも見える。
一時期は酷いものだった。その時に比べればかわいいものだ。
しばらく男の様子を知るために、
たびたび理由をつけて、人里に降りてきた。
男は里の人間に打ち解けているように見えた。
霊夢は自分の心配が杞憂に済んだ事を知ると、
霊夢はなんだか馬鹿らしくなって、
それからは人里にはいつものペースでしか行かなくなった。
それからしばらくして、霊夢は男のことなど完全に忘れていた。
所詮余所者、いちいち覚えてなどいられるはずもない。当然の事だった。
しかし霊夢自身失念している事がある。
霊夢の勘は恐ろしいほどに良く当たる。
たとえ、それが僅かな心配事だったとしても、
その的中率は霊夢自身すら恐れるほど、精確だった。
霊夢がいつものように人里にお茶を買いに来た時のことだ。
人里の雰囲気が妙だ。常に誰かを警戒している。そんな様子だった。
ふと遠くを見れば、射命丸文が人里の人間に何か話を聞いている様子だった。
霊夢が声を掛けようとしたときには、文は「ありがとうございます!」といって飛び立ってしまった。
追いかけるのも面倒な霊夢は、人里の人々にも深くは聞かず、お茶と菓子を買って神社に戻った。
ほどなくして、新聞という形で霊夢は人里で殺人事件が起こった事を知った。
何か、嫌な予感がした。
霊夢は守矢神社へと向かっていた。
人里で殺人事件が起こったとなれば、恐らくなんらかの動きがあるかもしれないと思ったからだ。
そこでは、二柱の神と早苗が話しこんでいた。
しばらくすると、早苗が大声を上げると、そのまま空へと飛び立っていた。
霊夢には気付いていないようだった。
すると諏訪子が霊夢に気付いて、霊夢に声を掛けた。
霊夢は二柱の神の元に行くと、二柱の神は困り果てた様子であった。
「どうしたの? 早苗、怒っている様子だったけど」
「ああ、あれ。やっぱ見られてたんだね。悪いね、みっともない所見せて」
「早苗が、人里の殺人事件の犯人を捕まえると言って、聞かないんだよ」
やはり話は人里の殺人事件の事だったようだ。
「私達は止めておけって言ったんだけど、早苗は聞く耳持たずでね。困ったもんだ」
「早苗なら問題ないようにも見えるけど。妖怪退治も板についてきたじゃない」
性格的な問題などはあるものの、早苗自身の妖怪退治の腕は霊夢も認める所ではある。
二柱の神の力を借りているとはいえ、そのポテンシャルは流石に現人神といったところだろう。
「確かに、妖怪相手なら問題なく戦えるだろうね」
「? どういう事?」
「まぁここだから言える話だけどさ。恐らく犯人は人間だよ。妖怪じゃない」
「あぁ……」
霊夢は二柱の神の懸念を理解した。
そう、早苗はまだ生身の人間と戦った事が無い。
確かに幻想郷の妖怪や神の多くは少女の姿を取っているが、
それでも早苗はそれを妖怪として認識できているから力を振るう事に躊躇は無い。
しかし、相手がただの人間だったら話は変わる。
いかに現人神といえど、早苗は人間だ。
殺人犯と遭遇して、果たして妖怪退治の時と同じように振舞えるかは別問題だ。
さらにいえば、相手はスペルカードルールの通じない人殺しだ。
最悪の場合、犯人を殺してしまう恐れがある以上、
早苗にその覚悟があるとは到底思えなかった。
「よほどに餓えてない限り、妖怪がわざわざリスクを犯してまで、人里で人殺しなんかしない」
「それに、あの天狗の新聞によれば、犯人は急所を一撃しているそうだ。殺しに関しては手馴れだろうね」
「………」
さらにその相手が、人殺しに慣れているならば、
いかに早苗といえど、殺されない保証は無い。
どれほど早苗の能力が高くても、
相手を眼前に見据えた時に、早苗は平静を保てないだろう。
そうなれば、早苗をみすみす犬死させてしまうようなものだ。
「霊夢。こんな事を頼むのは何だが、お前から早苗にこの件から手を引くように言って欲しい」
「早苗も結構頑なな所があるからね。私達が言うより、霊夢が言った方が早苗も聞いてくれるかもしれない」
「一応、覚えておくわ」
それまでに犯人に遭遇しなければいいけど、と霊夢は付け加えて、守矢神社を後にした。
数日後、早苗が人里の門に片足を引き摺りながらやってきた。
足から出血していて、すぐさま応急手当が行なわれた。
その後、永遠亭に運ばれた。
霊夢は二柱の神に呼ばれ、自分達の代わりに早苗の様子を見てきて欲しいと頼まれた。
早苗は心配だが、神社を離れる事も出来なかった。
霊夢は渋々、二柱の神の要求を受け入れて永遠亭にやってきたのだが。
「……ひぃ……ひぃ……ひぃ」
短い間隔で息をしながら、青ざめた顔で何かに怯えるように震える早苗の姿がそこにはあった。
鈴仙が早苗の背中を摩っている。
鈴仙が霊夢に気付くと、霊夢の方を向く。
霊夢は二柱の神に頼まれた旨を伝えると、鈴仙も了解した。
鈴仙が病室を出る前に、霊夢に言った。
「うちに担ぎ込まれた時もあんな調子だったわ。血を見て、怯えて、震えて。拘束具で縛り付けて、麻酔を打って、ようやく手術できたぐらいだったわ」
「そんなにひどいの?」
「身体の方はそこまで酷くはないけど、心の方がね……。よっぽど怖いものを見たのか、下手に身体を触ると、怯えきっちゃって。私も背中を摩るだけでも大分掛かったわ」
「そう」
「今の早苗はかなり過敏に反応するから、注意して頂戴。容態が急変したら、外の兎に伝えて頂戴」
そういうと、鈴仙は部屋を出て行った。
鈴仙は今の早苗にかなり、親身になって接しているようだった。
彼女の過去にも、同じような事があったのかもしれない。
しかし霊夢は、鈴仙への詮索を止める。
「早苗? 大丈夫?」
「……ひぃ……ひぃ……あ……れ……れい、む、さん」
「無理しないでいいわ。神奈子と諏訪子が心配していたわ」
「……そう、ですか……わたし、ばか、ですよね……妖怪退治で、調子にのって、それで……」
「………」
気休めでも何か優しい言葉をかけてあげるべきなのかもしれないが、
霊夢には今の早苗にかける言葉が見つからない。
いつもの自信に満ち溢れた早苗の姿とはまるで別人のようでもある。
もしかすると、本当の早苗は今見ているような姿なのかもしれない。
霊夢は見てはいけないものを見たような気がして、
早苗の病室から出て行った。
永遠亭を後にしてから、人里に向かった。
あの余所者の男を霊夢は捜していた。
確証があるわけではない。別人かもしれない。
しかし霊夢の勘は、あの余所者の男が何か関係していると感じていた。
とはいえ、一度は完全に忘れてしまっていた男だ。
霊夢は自分と同じ匂いを感じ取った以外、男に特徴らしき特徴はなかった。
人里の中に紛れ込んでしまった今となっては、その男を捜す手段など無かった。
となれば、方法は一つだけとなる。
早苗の仇討ちというわけではない。
その男に、もう一度会ってみたくなった。
殺人犯かどうかは別にして。
それは博麗の巫女としてではなく、霊夢個人の興味であった。
慧音に無理を言って、人里の警備を担当する事になった。
今は殆どの人間が寝静まった夜。
霊夢があちこちに張り巡らせた結界には、いまだ反応が無い。
霊夢には犯人が誰であるかは分かっていない。
ただ気配は感じている。
始めてあった時に感じたものとまったく変わりが無かった。
結界の一つが反応した。
それは人里の外へと出て行っていた。
霊夢はその反応を見て、犯人を追いかけた。
人里の郊外にその男はいた。
男は何一つ変わりない様子だった。
決定的に違うならば、手に持っているナイフには血がべっとりと付いていた事だろうか。
しかし男には返り血一つ、ついてはいなかった。
「やっぱり貴方だったのね」
「ああ、あの時の。その時はお世話になりました」
男の返答は、普通の考えから外れるものだった。
しかし霊夢はなんとなく、そんな返答を予想していた。
「ここの人達は優しいですね。とても無防備だ」
「何人殺したのかしら」
「死んでしまったのは、6人だったかもしれないね」
「何で殺したの」
「殺意が芽生えたからかな。理由はないね」
「理由も無く人を殺すの?」
「殺意があれば誰だって殺せるよ。理由は後から取ってつけてもいい」
「そう」
「私は殺す事以外には興味が無いんだ。たとえ何処にいってもそれが変わる事はない」
「そう」
「君は私と同じ匂いがする。殺してきたものの違いはあれど、君と私は良く似ている」
男は淡々とした口調で霊夢の質問に答えていく。
そこには感情の片鱗も感じられない。
ただ、質問されたから答えているだけだった。
「幻想郷にもルールがあるわ。妖怪が人里で人を殺せば、退治される。たとえそれが人に代わっても同じことよ」
「退治か。殺すと、それだけ言えばいいんじゃないのかな。退治も、殺すも、結果は変わらない」
男はゆっくりこちらに歩いてくる。
ナイフを持ったまま歩いてくる。
早苗は、恐らくこの男にアテられてしまったのだろう。
霊夢もここまで純粋な男は見たことが無かった。
しかし霊夢に恐怖は無い。
結局はいつものことを、いつもどおりに行なう。
それだけの話なのだから。
霊夢と男に言葉は無かった。
男はナイフを霊夢の心臓目掛けて振り下ろした。
霊夢は“妖怪を退治する時と同じように”、男を退治した。
退治された男に言葉は無い。
霊夢にもまた言葉は無い。
崩れるように倒れた男は、その後、郊外の土に埋められた。
誰にも目に付かないその場所で、人殺しの男の人生はひっそりと幕を閉じた。
男と霊夢に絶対的な境界線があるとすれば、
それは縛られていたか、否かだったのだろう。
霊夢は博麗の巫女としての立場があった、
男には何も無かった。
ただそれだけのことだった。
霊夢は思う。
私が博麗の巫女でなくなった後も、妖怪退治を続けていたら、
あんな風になってしまうのだろうか、と。
そう思うと、霊夢はがらにもなく、
少し震えていた。
人殺しが近くに居ても、きっと我々は気付くことは出来ない。
殺されるか、殺されそうになるか、捕まえられるまで。
※ ※
最初に書いた作品も一応オリキャラが出ておりました。
そういう意味では、オリキャラを結構出してるのかな、私は。
私個人の意見ですが、東方キャラで一番、本質的な部分がわからないのは霊夢な気がする。
名前がありません号
作品情報
作品集:
16
投稿日時:
2010/05/29 19:19:54
更新日時:
2010/05/30 04:21:17
分類
霊夢
オリキャラ
みんながみんな「人殺しは罪だ」と言えばそりゃ罪になるさ
こういう淡々とした話も好きだ