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『青い眼(まなこ)』 作者: 名前がありません号
※設定崩壊に注意
※小傘かわいい
小傘は今日も人を驚かせようと、人前に出てきて「うらめしやー」とはするが、
その容姿と気の抜けた声のせいか、笑いものにはなっても驚かれる事は殆どなかった。
人の驚きを原動力としている彼女にとっては、その驚きが不足気味になっている。
「はぁ、今日も誰も驚いてくれなかったなぁ。あぁ、お腹がすくわ」
そも小傘は他の妖怪と異なり、道具から妖怪へとなったものである。
本能として、食欲や性欲の類を持ち合わせていない。
その代わりに、人間を“驚かせる”事によって、糧を得るのである。
とはいえ、あまり力任せなことをすると、退治されてしまうので、
このあたりはある程度の加減がいるのだが。
そもそも、小傘本人は人間に捨てられた事を見返しはしたいが、
傷つけてまで、というのは考えていない。暴力反対である。
彼女の“両の赤い眼”は、人里の人間達を見ている。
いつもながらに彼ら彼女らは、私を「かわいい」とは言ってくれても、
「びっくりした」とは、一言も言ってくれないのだ。
かわいいと言われるのは、こう悪い気分ではないのが、
小傘にとっては複雑なところのようだった。
なによ、傘だった頃は平気で捨てたくせに。
過去の自分と今の自分との評価の差に、小傘はただただ困惑するばかりであった。
小傘は基本的に、野良で流浪の妖怪である。
こういえば聞こえはいいが、早い話が住処がないのだ。
適当に風を凌ぐ場所に一時的に休憩する程度だ。
雨は傘なだけに問題はないのだが、風だけは彼女もたまらない。
今日も何処かの人の居ない、寂れた寺で一休みしていた。
すると、こちらに向かって何やら近づいてくる。
身の丈は、こちらより高い。
黒い布で身体を覆っている姿は、何処からどう見ても怪しい。
こういうのって、ああ、私は怪しいものではございませんよ、とか言いそうだなぁ。
なんとなく、小傘がそう思っていると、その黒い布を纏った者が小傘の方を見て、
「ああ、私は怪しいものではございません。少し一休みしていっても構いませんか?」
「(本当に言ったー!?)あぁ、ええっと、別にいいんじゃない? 私も勝手に休んでるし」
「そうですか、では遠慮なく」
黒い布を纏った者の声は、かなり特徴的な声だった。
男の声と女の声を混ぜたような声。
言っている事は聞き取れるが、小傘の警戒度はぐんぐんと上がっていた。
「ふと、お嬢さん。何か、悩みがありそうですね?」
「ふぇ!?」
突然声を掛けられて、びっくりしていた。
小傘の心中は、どうしようどうしようと、あたふたしていた。
男とも女ともつかない者は、小傘を指差して、こう言った。
「私なら、あなたの悩みを解決できると思うのですが、貴方の悩みを聞かせていただけませんかな?」
小傘は怪しさ抜群のその者を信用はできなかったものの、
どうせ言おうが言うまいが、大した進展もないだろうからと、
小傘は黒布の者に、自分の悩みを打ち明けた。
「なるほど、人を驚かせたいけど、誰も驚いてくれない……と」
「うん、まぁ。振りだけされても満足できないしね。なんとなく分かるから、そういうのは」
「ふむ」
妖怪というのは得てして、“恐怖”などの感情を食料にする。
直接“捕食”するにしても、最終的に相手が恐怖する瞬間を食らうのだ。
そのためか妖怪という生き物は、感情の動きに対してかなり敏感である。
相手が恐れているのかどうかを、彼らは本能的に、直感的に理解できるのだ。
つまり振りも虚勢も、妖怪の前では意味を成さない、というわけだ。
さらにこれが発展して、相手の思考まで読み取るのが覚りである。
そして妖怪になった小傘にも、その本能が備わっていた。
「つまり、貴方は人を驚かせる事で腹を膨らませると。しかし手荒な事はしたくない、と」
「うん、まぁ。傘の妖怪が、傘を乱暴に扱うのはどうかと思うのよ、うん」
「まぁ、確かに元も子もない話ではありますな、いやはや、悩ましいことで」
黒布の者は、なるほどと言った様子で黒い布に手を突っ込み、
何かを取り出し始める。よく見ると、薄い青色の膜のようなもの。
「何それ?」
「これは眼につけるレンズでしてね。ちょっと特別な仕掛けがしてあるのです」
「特別な仕掛け?」
「ええ。これを付けた眼で、驚かせたい相手を見つめてみてくださいな。きっと驚いてくれますよ……」
「ふぅん」
正直、半信半疑である。
いや本当は全て疑わしいのだが、一応話を聞いてくれたのだから、
多少は信じてもいいかなという、小傘なりの人情であった。傘だが。
「ただまぁ付けるのは簡単ですが、一度付けると剥がせませんので、その点は注意していただきたい」
「う〜ん、どうしようかなぁ……」
なんか他の道具を使うのは負けた気がする、と個人的に思う小傘であったが、
このところ、誰も驚かす事に成功していない。
お腹の虫が無くことはないものの、空腹感のようなものは小傘も感じている。
このまま、誰も驚かせなかったらどうなるのかは、正直想像したくもない。
背に腹は変えられないかも。そう思った小傘は、
「うん、それつけてみる。でも、私代わりに出せるものとかないよ?」
「いえ、お代は結構。……むしろ、好都合ですからね」
「えぇ、それは悪いよ」
「いえいえ、これは私からの好意でございます。では付けますので、付けたい方の目を開いてください」
「ん、こう?」
そうして、小傘は右の眼を開く。
すると得体の知れない者は、何か言葉を呟いている。
聞いたことのない言葉を呟いている。
「ああ、もういいですよ。これで付きました」
黒布の者はそういうと、小傘に鏡を渡す。
小傘の右の眼は薄い青色になっていた。
「わぁ綺麗。これで大丈夫なのよね?」
「ええ。使い方はさきほども言いましたように、驚かせたい相手の眼を見つめるのです」
「うん、わかった」
「ただ、同じ人間に多用しないようにお気をつけ下さい。何が起こるか分かりませんからね……」
「? わかったわ」
「おや、雨がやんだようです。ではこの辺で」
そういうと黒布の者は何処かへと行ってしまった。
新しい青い眼を気に入った小傘は、うきうきした気分で人里に向かった。
「うらめしや〜」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
青い瞳の効果は覿面だった。
気の抜けた声を聞いて、こちらを向いた男を見つめると、
叫び声をあげて、驚いた。
初めてお腹が満たされる感覚を覚える。
不思議な幸福感である。
「うーん、これだけ驚いてくれると何か楽しいなぁ。幸せだわ。この調子で、たくさん驚かせちゃおうかな」
小傘は鼻歌を歌いながら、人里などの人間達を次々と驚かせていった。
完全に味を占めた彼女は、黒布の者の言葉を忘れていった。
いかんせん彼女はいちいち驚かせた人間の顔など覚えられるはずも無い。
そして何度か同じ人間に対して、右の眼を使って驚かせていった。
それからしばらくして、一人の人間が死んだ。原因は不明だった。
「こっちを見るなぁぁぁ!?」という言葉を最期に息を引き取ったそうだ。
小傘はそれをこっそり覗いて、急に黒布の者の言葉を思い出した。
―――ただ、同じ人間に多用しないようにお気をつけ下さい。何が起こるか分かりませんからね……
まさか、小傘も死ぬなどとは思ってもみなかった。
小傘は優しい傘妖怪。
驚かせるだけの眼でまさか人死にが出た事は、彼女にとってはショックだった。
(ただ見返してやりたいだけだったのに、殺してどうするのよ、私!)
黒布の者を憎んでみても、そも忠告を忘れていた自身に落ち度があり、
さらに言えば、黒布の者にはあの日を最後にあっていない。
(でもまだ私の眼で死んだとは、限らない、よね?)
小傘は心の弱い傘妖怪。
現実逃避ぐらいしたくなる。
彼女は右の眼で、人間を驚かせる事はやめられなかった。
もっともそれも、二人目、三人目の死人が出た時には、彼女は心を後悔で満たしてしまったが。
(はぁ、こんな筈じゃなかったのに)
ただ自分を捨てた人間を見返してやりたいだけだったのに。
まさか人を殺してしまうなんて。
人を驚かせる事による幸福感よりも、
人を殺してしまった事が、小傘の中で重くのしかかる。
捕食という行為を知らない彼女にとっては、
人間を殺してまで糧にするという本能は備わっていなかった。
自分が食べないものに対しては、慈悲をかけてやるものだ。
逆に自分が食べるものには、どこまでも無慈悲になれるものだ。
小傘は前者だった。
(よし、もうこの眼は使わないようにしよう。やっぱり道具に頼るのがいけなかったんだ)
小傘はその眼を使わない事にした。
やっぱり自力で驚かせるから意味があるんだ。
小傘は頑張る傘妖怪。
それ以来、彼女はその青い右の眼を使わなくなった。
そのせいか、彼女の青い右の眼は閉じる事が多くなった。
あ、あれ? グロは? リョナは?
何も無いじゃないか!
なんてーかあれだね、小傘ちゃん書きたくて書いただけになってすまんね。
名前がありません号
作品情報
作品集:
16
投稿日時:
2010/06/01 18:29:13
更新日時:
2010/06/02 03:29:13
分類
小傘
あの娘の右目
日によっては右眼だけに包帯を巻くようになり、それを『封印』と呼ぶようになった。
そして脅かす相手の思わぬ反撃で窮地に陥ると「く…っ、やめて!私にこの『眼』を使わせないで
…っ!」「危ない…逃げてぇ!!」と苦しむような素振りで蒼い眼を『解放』し、追い払うようになった(たまに相手は死ぬ)
……赤い目は?
二人?
もっといるだろw
犯罪率は幻想郷位ありそうだ。
・・・ぶるbるうrっる
怨嗟
こういう辻褄のあった過去話は好きです