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『労災は怖い』 作者: ギョーザ
ここはにとり製鋼。
妖怪の山の中腹に位置し、現地で採掘される良質な鉄鉱石、石炭などたくさんの資源により製造される鋼鉄の質良さでは幻想郷一、幻想郷内の鋼鉄のシェアでは8割の優良企業である。
「今日は見学に来てくれてありがとう、魔理沙!」
「いやいや、どのように鉄を練成しているのか気になっちゃって」
「ここでは魔法での練成ではなく科学での製造によって鉄を作っているんだ。高炉のほうはあとで行くとして、まずは違う部門の電気炉のほうに行こうよ」
「電気炉?何じゃそりゃ?」
「電気炉っていうのは・・・電気の抵抗熱を使って、鉄くずを溶かす炉のことさ」
「よくわからんが、すごいな!早く行こうぜ!」
「まずはヘルメットをかぶってね」
ヘルメットを受け取った魔理沙はにとりと共に電気炉のある部屋に入った。様々な機械が並んで、轟音を立てている。
と入る。
「炉があるのにこの部屋、不思議と暑くないな。何でだ?」
「これはね、ある魔法使いから炉の周りにぴったりと遮熱の魔法がかけてもらったからなんだ」
「へぇ、なるほどな。」
「こっちにきて。炉の中を覗き込めるよ。あ、覗き込むだけね。魔法は熱を遮っているだけで物の出入りは遮っていないから危ないよ」
二人は階段を登り、炉の上にある鉄くずの投入口から中を覗き込む。オレンジ色で煮えたぎる溶鉄が目に飛び込んでくる。が、遮熱の魔法でまったく熱が届いてこない。
「やっぱりいつ見てもきれいだなぁ・・・溶けた鉄って・・・」
「にとりにそんな趣味があったとは・・・あ、周りを見てきてもいいか?」
「君は盟友中の盟友だから特別に許可するよ。でも機械に手は触れないでね」
「わかってるって、それぐらい!」
フンと鼻を鳴らして興奮気味に階段を降りていく魔理沙。その時階段一番上、魔理沙は足元に転がっていたスパナを蹴った。スパナはくるりと回転しながらにとりの足のすぐ後ろにすべり込む。にとりはそのことにまったく気づかない。
「ねぇ!魔理沙!あっ」
そのときであった。魔理沙を呼ぼうと振り向いたにとり振り向きざまにスパナを踏みつける。スパナに滑り、後ろ向きにすっ転んだにとり。しかし尻餅をつく所は無かった。
熱のみを遮る魔法の壁はにとりの身体をやすやすと通しにとりは炉の中へ。
バチバチバチッ!
すさまじい轟音が現場を包む。
「な、なんだぁ?炉の辺りからしたが・・・」
急いで現場に向う魔理沙。先ほどまでにとりと覗き込んでいた投入口からすさまじい火花が爆ぜているのが見えたが、すぐに収まる。
作業員の河童たちが騒然とする中、一人の作業員が身をワナワナと震わせながらへたり込んでいた。
「おい!何があったんだ?にとりは!?にとりはどうしたッ!」
「そ、それが・・・炉・・・・・・」
「炉が何だって?はっきり答えないか!」
幻想郷の河童という種族は元々気が小さく、大きなことがおこると異常に歯切れが悪くなるのだ。
「そ、そそ、それが炉・・・炉の中に・・・」
「何だって!?」
いそいで作業員は電気炉を停止、魔理沙は中を覗き込む。しかし中には未だに煮えたぎる鉄があるだけ。
「はは・・・居ないじゃないか・・・みんなそんなこと言ってびっくりさせるつもりなんだろ?」
にとりが炉の中に転落したことが信じられないのか、魔理沙はサプライズだと思った。静かに作業員が話し出す。
「居ないのは当然ですよ。こんな大きな炉の中に転落したんだから・・・それにこんな高温の状況で生きていられるわけないですよ・・・」
そう言って作業員は手に持った長い鉄の棒を遮熱の魔法壁の向こう側に突き入れる。魔法壁から向こう側の鉄の棒は炉内の空気に触れただけで焼肉が焼ける以上の熱を持つ。それを炉から出し、魔理沙の眼前に突きつけた。鼻先に猛烈な熱を感じ、魔理沙は身を引く。
「そ、そんな・・・あぁ・・・」
崩れ落ちるようにへたり込む魔理沙。数分前に見たにとりの笑顔はもう、この世には無い。
後の検証の結果、にとりは足元のスパナに足を滑らせ、炉内に落下。鉄より比重の軽い肉体は煮えたぎる溶鉄に一度浸かった後すぐに浮上。そこで肉体が水蒸気爆発を起こし破裂した。魔理沙が投入口に見た火花はそのときに飛び散った鉄、そしてにとりの肉体であった。
労災って怖いですね。今日仕事中に思いついて、家に帰ってからすぐに書き上げました。
製鉄所の事故の話をネットで以前見かけたことがありまして、それも参考にしつつ書きました。
この事故の原因は作業現場の整理整頓がなっていなかったことと、見学者を勝手に歩かせたことです。
労災怖いよ労災
ギョーザ
- 作品情報
- 作品集:
- 17
- 投稿日時:
- 2010/06/15 13:49:21
- 更新日時:
- 2010/06/15 22:49:21
- 分類
- 労災
- 魔理沙
- にとり
プレス機とかマジ悲惨
手すりか何か付けるべきだったな・・・
妖怪は死ににくいだけで不死身じゃないぞ