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『東方散華記録』 作者: HANU(仮)
*題名から判るとは思いますが、HAMU氏の「東方惨劇録」の二次創作です。
*今回はパロディではなくリスペクトですが、多大なるネタバレやオリジナル要素、勝手な見解を含みます。
ですので、これを読む前にHAMU氏の作品を先に読むことをお勧めいたします。
*それでも良い方はどうぞ。
某月某日、
この日、紅魔館でパーティーが行われていた。
紅魔館で行われるパーティーにしては珍しく、参加者は少ない。
かといって瀟洒なメイドやその主はもてなしに手を抜くようなことはせず、パーティはいつもと変わらぬ盛り上がりを見せていた。
「参加者が少ないとはいえ、中々の盛り上がりのようね」
レミリアはテラスの上から中庭を見下ろし、満足げにワイングラスを揺らした。
真っ赤な液体がワイングラスの中を濡らし、瀟洒な従者は主の笑みを受けて小さく頭を下げる。
「そのようですね、お嬢様」
参加者が少ないとはいえ、ブン屋の烏や守屋の巫女、白玉楼の主従などは、豪勢な料理に舌鼓を打
ち、中々に楽しんでいるようだった。
「……咲夜」
レミリアは辺りを見回し、あることに気付く。
いつもはあちこち飛び回ってばかりで全く仕事はしないが、中々の癒しになっている妖精メイドが今日に限っては一匹も見当たらないのだ。
「メイド達はどこに行ったの?」
「厨房で料理を作っています。白玉楼の姫君がおかわりをご所望のようで」
「そう……」
まったく、あの亡霊は。
そう毒づきたくなる所だが、折角のパーティだ、我慢しよう、とレミリアは言葉を飲み込んだ。
ワイングラスをガラスのテーブルの上に置き、立ち上がる。
いつもの薄桃色のワンピースとは違う、パーティ用の黒く豪奢なドレスの裾がふわりと広がった。
「咲夜、紅茶」
そう手を差し出すが、いつもならすぐに用意されるはずの紅茶は出てこない。
いつもと違った従者の様子にレミリアは少し眉を顰めて咲夜のことを見つめた。
「あ」
咲夜は口元を手で押さえ、しまった、という顔をする。
「どうしたのよ?」
「……申し訳ございません、お嬢様。ティーセットをお嬢様の部屋に置き忘れて来てしまいました」
「あら、そう。しょうがないわね」
すぐにとって来なさい。レミリアがそう言おうとしたところに、
「……私が持ってくるわ」
しんとした冷たい声が響いた。
「パチュリー様?」
咲夜が振り返るとそこには喘息もちの魔女がふわりと微笑みを浮かべて立っていた。
「あそこの騒ぎにも疲れたしね。少し散歩がてら行ってくるから気にしなくて良いのよ、咲夜」
パチュリーはそういうと、ひらひらと手を振ってレミリアの部屋のほうへと歩いていってしまう。
「あ、ありがとうございますパチュリー様!」
咲夜は慌ててその小さな背中に礼を述べると、空になったワイングラスを掲げた主にワインのおかわりをつごうとし、はたと気付く。
「あら、ワインが空ですわ。只今持ってきますので、しばしお待ちを」
咲夜がぱちんと指を鳴らすと、新たなワイン瓶が一瞬でその手の中に現れる。
そうして、瀟洒に微笑んだ。
「お待たせいたしました」
それからしばらく経って。
「……ねぇ、咲夜、今何時?」
「只今の時刻は午後六時三十分でございますわ、お嬢様」
「パチェったら、何してるのかしら……」
パチュリーがレミリアの部屋に行ってからもう半刻は経つ。
あの友人の性格だ。寄り道などせずにまっすぐに戻ってくるはずなのに。
得体の知れない胸騒ぎがして、レミリアは親指の爪をガリリと噛んだ。
主の見せた動揺に瞬時に反応した咲夜は、
「私が見てきますわ、お嬢様。少々お待ちを」
頭を下げてすっと下がり、急いでレミリアの部屋へと向かった。
***
咲夜は主の部屋へとつながる階段を駆け上がっていた。
中庭の喧騒とは裏腹に、紅魔館の中はしんと静まり返っており、辺りには咲夜の履いたハイヒールの音だけが不気味に響く。
やけに胸騒ぎがして、咲夜はメイド服の胸元をぐっと握り締めた。
真っ赤な扉のレミリアの部屋の前に着くと、咲夜は一度深呼吸をして、
「パチュリー様?いらっしゃいますか?」
扉の向こうにいるであろうパチュリーに声をかける。
だが、パチュリーからの返事は無く、その代わりに悲鳴の入り混じった誰かの声が聞こえてきた。
「あっ、さ、咲夜さんっ、たた。た!」
紅魔館の門番、美鈴のひどく狼狽した声。
その声に咲夜の胸騒ぎが加速する。
パチュリーに失礼になろうが、主の部屋の扉を壊したことをしかられようが、なりふり構っていられなかった。
「開けるわよ!!」
咲夜は体中のばねを使って扉を勢いよく蹴破る。
部屋の中央付近には、涙目でしゃがみこんだ美鈴と、床に倒れ付したパチュリーの姿があった。
「パチュリー様は大丈夫なの?」
「そ、それが、それが……!!」
ぼろぼろと大きな瞳から涙を流しながら首を左右に振る美鈴。
「ぜ、喘息の発作だと思ったんです、そしたら、パチュリー様、ぁ」
紫色の服が、真紅に染まっていた。
腕は肩から引き裂かれ、その断面からは白い骨と黄色い脂肪、そしてミミズのように垂れた血管が見える。
あぁ、あんなやせっぽちのパチュリー様にも脂肪はあったのか、そりゃそうだ、少女の姿をしていたのだから。
そんな場違いなことを考えたところで、咲夜はハッと我にかえると、
「め、美鈴、あなた……!!」
「ち、違うんです、違うんですよう!私じゃないんです!!来たときにはパチュリー様が、もう」
「……信じられないわ」
咲夜はいつの間にか真紅に染まった瞳を細め、指をぱちんと鳴らした。
「っ!!」
その一瞬で美鈴は紅魔館の地下にある牢に閉じ込められていた。
ご丁寧なことに足と手には枷がはめられ、妖怪の美鈴といえどもその枷は簡単に破壊できそうには無い。
「咲夜さん!違うんです、違うんですよ!!本当に!」
枷に付いた鎖をガチャガチャと鳴らしながら咲夜に詰め寄る美鈴だが、咲夜は冷たく一瞥し、
「それはお嬢様が決めることよ。私はお嬢様を呼んでくるわ。さよなら、美鈴」
ぎぃい、と重い音をたてて牢の扉は、閉ざされた。
「咲夜さぁん……」
暴れることを諦め、うなだれる美鈴。
その美鈴の耳に、
「だぁれ?」
幼い、誰かの声が聞こえた。
***
咲夜は一瞬でレミリアの所まで戻ると、主の耳元に顔を近づけ、淡々とした口調で報告をする。
その落ち着き払った態度にレミリアは訝しげに目を細める。
「咲夜、どうしてあんたはそんなに落ち着いてられるの?」
「……いえ。驚きを通り越して無感動になってしまっただけですわ」
「そう。で、美鈴は地下牢にいるのね?」
「えぇ」
「お客様方は……」
「私達がいなくてもいつもと大して変わりはしないでしょう。大丈夫、いきましょう」
主に促され、咲夜は立ち上がるの主のために部屋の扉を開けた。
***
地下につながる扉を開けたとき、レミリアの目に入ったのは薄暗い回廊ではなく、真紅に燃え盛る炎ともうもうと立ち込める煙だった。
「げほっ、げほっ!!何よこれ!!」
悪態をつき、その場から思わず飛び退るレミリア。
その後ろに控えていた咲夜は目を丸くして、バランスを崩しかけたレミリアの肩を抱きとめた。
「こっ、これは……」
「見たら判るでしょう!?火よ、火!!火事よ!ぱ、パチェは……あぁ、くそっ!!」
レミリアはがしがしと自らの髪をかきむしり、悪態をつく。
咲夜はひどく不安げな顔で悪態をつく主を見つめていたが、
「……―ねぇ様ぁ―――あああああああ―――げほっ、げほんごほんごほごほごほ!げぼん、げぼごほんごほん!!」
炎の奥から、咳の音が入り混じった悲鳴が聞こえ、レミリアの肩が小刻みに震え始めた。
「咲夜、ねぇ、フランは?」
「フランお嬢様は……おそらく、地下に」
燃え盛る炎にチラリと視線を向ける咲夜と、小さな拳をぎゅうっと握り締めるレミリア。
「地下に、いるのね?」
「……はい」
レミリアはすうっと息を吸い込むと、咲夜に向かって艶やかに微笑んだ。
「いい?咲夜。来てる客は全員返しちゃ駄目。その中に黒幕がいるわ。犯人を捕まえてぎたぎたのめためたにしないと私の気がすまないの。だから、よろしくね、咲夜」
そういい残すと、レミリアは黒いドレスの裾を翻して炎の中へと飛び込んでいく。
レミリアの笑みに魅了されていた咲夜は反応が遅れ、主を止めることが出来なかった。
その後姿は一瞬で炎の渦に飲まれ、見えなくなってしまう。
「お嬢様ぁ!お嬢様ぁあああ!!」
咲夜は床にへたり込んで涙を流しながら主を呼ぶ悲鳴を上げる。
その顔に、いつもの瀟洒な従者の面影など無かった。
***
紅魔館の玄関ホールの階段上。
そこでは、今日のパーティの出席者である霊夢、魔理沙、早苗、文、幽々子、妖夢が訝しげな顔をして、まるで玄関を塞ぐかのように階段の下にいる咲夜を見下ろしていた。
「……まぁ、あんた達をここから帰すわけに行かなくなったから、よろしくね」
咲夜はしっかりと腕を組んで、パーティの列席者の前に立っていた。
頬には涙の後と、すっかり泣き腫らして赤くなった目がありありとわかるが、それを隠そうともせずにきっぱりした口調で言い切る。
「はぁ!?それどういうことだよ!?」
金髪の勝気そうな少女が不満の声を漏らす。
隣にいた黒髪の少女がため息をつき、横目で金髪の少女―――魔理沙を睨んだ。
「魔理沙、あんたまた何か盗んだの?重要なものとか」
「私はそんな事しないぜ」
「……物を盗む、盗まないくらいならこんな事しないわ」
「ぁ、あのぉ……」
気弱そうな声が群衆の中から上がり、その場にいた全員がその声が上がったほうを向く。
「私、神社のこともあるし、帰らなきゃいけないんです」
東風谷早苗。守屋神社の巫女である彼女は、今にも泣き出しそうな顔でそう言った。
咲夜の目が険しくなる。その目をまっすぐ見ることが出来ず、早苗はひっと声を上げて縮こまった。
「とにかく、駄目なの。玄関は、ああして置きましたから。鍵は私しか持って無いわ」
そういってポケットから出した小さな金色の鍵を振ってみせる。
玄関の扉は異常ともいえるほどに固く固く鎖が巻きつけられた上に南京錠で封印されていて、鬼でもなければ力任せにこじ開けることも出来ないだろう。
「あ、ちなみに窓は開かないから。諦めることね。この中に犯人がいるなら早く自首して頂戴」
「だーかーら、何の犯人だよ」
魔理沙がいらだったように呟く。
「それは、いえないけど……犯人がボロを出すまで」
「あぁ、そうかい。じゃあ私達はその犯人とやらが出てくるまでどうしてたらいいんだあ?」
喧嘩腰の魔理沙を呆れたように一瞥、文がにっこりと笑みを浮かべ、
「……魔理沙さん、その言い方は無いでしょう?とりあえず、一人一つくらいの客室を用意してもらって、今日は私達を休ませてもらいましょう。小さなパーティとはいえいい加減疲れてしまいました」
背中の羽をぴーんと伸ばして伸びをし、ぱちっと咲夜にウィンクをする。
「そうね」
咲夜は頷き、客室へと続く扉を開けようと階段を登る。と、
「ねぇ、よーむぅ。いいにおいがするわぁ」
「……確かに何か焦げ臭いですね。料理でも焦がしたのでしょう……か―――」
言いかけた妖夢が口を押さえて声にならない悲鳴を上げた。
幽々子もあら、と扇で口元を押さえ、目を丸くする。
開いた地下への扉から、どさり、と何か影のようなものが倒れこむようにして玄関ホールに現れたからだ。
「おっ、お嬢様っ!」
咲夜が悲鳴を上げ、その「におい」の元凶に駆け寄った。
地下へと続く扉。
その入り口で、二つの炭化した塊がお互いを庇うように横たわっていた。
真っ黒なその塊は、霊夢たちが見つめる前ですらどんどん灰となって崩れていくように見える。
目を逸らさずによくよく見れば、背中から突き出た黒焦げの枝のようなそれが、レミリアたち姉妹の翼だったものだということはわかるだろうが、それ以上の判断材料は無い。
人形のようにかわいらしかった顔は今は完全に焼け爛れ、見る影も無く、それどころか生きているのかさえ疑わしかった。
「うぇ、お、ぇ……」
早苗はその凄まじい光景に耐え切れなかったのか、胃の中身をぼたぼたと床に零している。
その背中を文が必死にさすり、言葉をかけているようだったが、早苗に聞こえているのかどうか。
さっきまで威勢良く咲夜に怒鳴り散らしていた魔理沙も顔をすっかり青くし、霊夢の腕にすがり付いている。
「あなたたち!早く行きなさいよ!早く!!!」
咲夜が半狂乱になって悲鳴を上げる中、霊夢たちは慌てて客室へと続く扉に駆け込んだ。
***
「まったく、何だって言うんだよ……!」
魔理沙は用意された客室で一人毒づく。
咲夜はお嬢様たちの治療があるから、と言って生きているのか疑わしいほどに焼け爛れたレミリアとフランを抱えてどこかへ消えてしまった。
あんなものを見た後で誰も客室から出てこようとせず、真紅のカーペットが敷かれた廊下はしんと静まり返っていた。
不気味な沈黙が支配する部屋の中、魔理沙はぶるっと身震いをした。
『……ささ』
と、ふいに何かが聞こえた。
「なっ、なんだよ、誰かいるのか!?」
魔理沙はベットからぱっと立ち上がり、部屋中を見渡す。
だが、人影どころか気配すらない。
『私ですよ』
それなのに、その声は聞こえる。
魔理沙は自分の帽子をしっかりと胸に抱え、体を出来る限り縮こまらせる。
どっどっどっ、と鼓動が急に早くなるのが自分で判った。
「どっ、どこから喋ってるんだよ!?」
『ここです、ここ、隣の部屋ですよ。私です、早苗です』
「は?」
『壁に耳を当ててみてください』
早苗に言われたとおり、部屋の隅の壁に耳を押し当てると、さきほどよりしっかりとした早苗の声が聞き取れた。
「ぁ、こっちか。私の隣の部屋には早苗がいるんだな」
相手が早苗だとわかったとたん、さっきまでの焦りようが嘘のように魔理沙は自信たっぷりに語りかける。
『はい。一人だと不安でして……』
「そりゃそうだよなぁ、私もだぜ」
壁越しとはいえ、誰かと言葉を交わすことで若干の安心を得られる。
魔理沙は隣の部屋が早苗だったことに若干の安心を感じた。
文だったり幽々子だったりしたら、先ほどの狼狽振りを指摘され、酷く恥ずかしい思いをしたに違いないのだから。
「なぁ、早苗」
『はい、……ぁ?何か聞こえません?』
「は?何がだよ」
『廊下から……叫び声みたいな』
「……ぁ!!お―――が!」
「―――かっ!パッ……!!」
「こぁ!こぁあああ!!」
廊下が異様に騒がしい。
霊夢たちの声ではない。何かを話し合うような音じゃない。
そう知覚したとたん、魔理沙の全身の肌がぞわり、と粟だった。
「どっ、どういうことだよ!?」
『わ、わかりません……あ、収まったみたいです』
早苗の言うとおり、すぐに騒ぎは収まった。
だが、魔理沙の心臓はいまだばくばくいいっぱなしで、額には冷や汗まで浮かんでいる。
部屋の中にある違和感、それを発見してしまったからだった。
「な、ぁ、早苗」
魔理沙は部屋を見回しながら呟いた。
「部屋、狭くなって来てないか?」
ベッドがどんどん部屋の隅にいる自分の方に近づいて来ている。
いや、部屋全体が狭くなって来ているというべきか。
最初は余裕があった家具の隙間も、見る見るうちになくなって来ている。
すぐに部屋を出ないと、クローゼットやベッドに押しつぶされて、圧死する。
『えっ?あぁ、確かにっ……ってこれやばいじゃないですか!!』
壁の向こうの早苗の声が上ずる。
「とりあえず、外に出るぞ、いいか、1、2の3で出よう」
『判りましたっ!』
「いちにの、さん!」
魔理沙は自分を鼓舞するかのようにそう叫ぶと、部屋の扉に体当たりするようにして外へ転がり出た。
「……あはは」
と、転がり出た先で、普通にドアを開けて出てきた早苗と目が合い、思わず苦笑いを浮かべる。
しんと静まり返って、人の気配すらしなかったはずの廊下。
だが、今は魔理沙達のように部屋から転がり出てきたであろう文や霊夢、幽々子や妖夢がそれぞれの表情で立ち尽くしていた。
「どういうことなのかしら……」
霊夢は唇に手を当て、考え込む。
廊下ですら先ほどの部屋と同じように狭くなってはいたが、家具が少ないため押しつぶされることはなさそうだ。
うねうねとまるで大蛇のように波打っている真っ赤な絨毯だけがただ不気味だった。
「なんだ、この匂い……」
むわ、と廊下の奥からやけに生臭い臭気が立ち上ってきて魔理沙は顔をしかめた。
「行って見ましょう」
妖夢が声を上げる。響きは落ち着いていたが、腰の刀に伸ばされた手は小刻みに震えていた。
「大丈夫?よーむ。無理しなくて良いのよ?私が守ってあげるから。ね?」
この状況の中、一人だけ余裕ぶった態度を見せる幽々子だが、その顔はいつも以上に蒼白だ。
早苗は自身の青い巫女服のスカートをぎゅっと握り締めていて、文はそんな早苗に寄り添うように立っている。
霊夢は下唇を噛み締め、廊下の奥に広がる闇を睨みつけた。
「……地霊殿、皆で行けば、怖くない。だぜ」
小さな魔理沙の呟きを合図としたかのように、少女達は歩みを進めた。
***
「ぶ、げほっ。うっ、うぇ、おぇ……」
静まり返った紅魔館の玄関ホールに、嘔吐する早苗の苦しげな声だけが響く。
咲夜と美鈴と小悪魔は、そこに「あった」。
咲夜の腹から下は完全に千切れ飛んでいて、臓物やその中身が玄関ホールのあちこちに飛び散っている。
それが臭気の原因だったのだなぁ、と魔理沙は靄がかった思考でぼんやりと考えた。
美鈴はまるで咲夜を庇うように地面に倒れこんでいるが、その首から上はすっぱりと切断され、ちょうど玄関の前で目をむき、でろりと舌を出して転がっている。
壁際にもたれかかるようにして座っている小悪魔は、首と胴体がかろうじて皮一枚でつながっているという不気味な状況で、生前図書館に来るものに楽しげに笑みを振りまいていたかわいらしい司書の面影はどこにも見られそうに無い。
全員、死んでいる。
それを目にした文の両手がわなわなと震え始める。
顔をくしゃくしゃにしながら、彼女は上ずった叫びを上げた。
「こっ、ここから出ましょう、い、一刻も早く!この館は狂ってるっ!!」
一瞬で咲夜の死体に近づいた文は、血まみれになったメイド服のポケットをあさり始める。
手が臓物と血で汚れることも構わず、ぼろぼろと涙を零しながら。
「何やってるのよ!?」
霊夢が怒鳴りつけるが、文はポケットを漁るのをやめようとはしない。
「……ここに、咲夜さんは鍵を入れたはずなんですっ、絶対ですよっ」
真紅の瞳から涙を流しながら、ない、ないとポケットを漁る文。
と、その目があたりに飛び散った臓物へと向く。
腸に絡みつくようにして引っかかったエプロンスカートのポケットへと手を伸ばし―――
ぱしん。
その頬を、霊夢が張り飛ばした。
「やめなさい」
「……っ」
文は血と涙でさんざん汚れた顔を悔しげに歪め、咲夜の死体から離れる。
「ないのね?鍵は」
「……はい。あればこの館をとっとと出てますよ、っげほっ」
ふてくされたようにそう言う文。と、突然喉を押さえて苦しげに呻き始めた。
「なっ、何よ、どうしたのよ……」
先ほど頬を張ったのが悪かったのか、と慌て始める霊夢をよそに、文はぜひゅうぜひゅうと必死に息を繰り返す。
「なっ、なんでもな、げふっ、ごふっ、げほんごほん、ごぶっ」
そのうち、息の合間に咳が挟まり、ごぶりと音を立てて血が口から漏れ出し始める。
それを押さえようとしたのか文は両手で口を塞ぐが、それでも指と指の隙間から血があふれ出して。
「ちょっと!文!しっかりしなさいよ!!」
霊夢が駆け寄るが、文の目からは殆ど光が失われており、信じられないほどの量の血を口から零しながら床に倒れこむ。
「れ、霊夢さん!早苗さんが!!」
霊夢が必死に文のことを介抱しようとしていた矢先、妖夢の鋭い声が飛んだ。
先ほどまで激しく嘔吐していた早苗は、潰される寸前の蛙のような声を喉の奥から漏らしながら、ごぼごぼと黒っぽい血を吐いていた。
「どういうことなんだよっ!?」
さっきまで言葉を交し合っていた文と早苗の惨状に悲鳴を上げた魔理沙は、混乱しているのか突然玄関に向かって走り出す。
「畜生っ、私は帰るぞっ、帰せっ、帰せようっ、くそっ、くそっ……!!」
玄関の扉にしっかりと巻かれた鎖を手の皮がむけるほど力任せに引っ張り、握り締めた拳で血がにじむほど扉を叩き、叫び続ける魔理沙。
と、紅魔館には不釣合いな桃色と青色の美しい蝶が一匹、彼女の耳元を掠めて飛んでいった。
魔理沙の体中からすとんと力が抜ける。
「えっ……?」
怪しげな笑みを浮かべた幽々子が、魔理沙の目をまっすぐに射抜いていた。
魔理沙の体から力が抜ける。すとん、と眠るように紅魔館の床に倒れた。
顔から絨毯に突っ込んだが、身じろぎ一つしない。
「ゆゆ、こ……!!」
幽々子すら圧倒されるほどの気迫が、彼女の背後から放たれる。
「ゆっ、幽々子ぉおおおお!!!お前かぁあああ!!」
いつもの冷静沈着さがうそのように激昂した霊夢がそこにいた。
霊夢は一瞬で封魔針を展開し、幽々子に向かって投擲する。
一分の隙も無く幽々子のことを針山にしてしまえるほどの量。
圧倒的な密度、避ける隙間すらない。
幽々子は形の整った眉を少しだけ顰めた。
「負け……かしら」
諦めのこもったような声でそう呟く。口元にはかすかな笑みすら浮かんでいた。
と、幽々子はわき腹に強い衝撃を感じた。
突然視界が反転し、腰と尻に強い衝撃を受けた幽々子が目を開けると、そこは安全な壁際で。
先ほどまで自分が立っていた場所に目を向けると、そこには針の波に飲み込まれながらも、かすかな笑みを浮かべる彼女の従者。
そこまできてやっと幽々子は悟った。妖夢に、突き飛ばされたのだ。
「……なっ」
霊夢は驚きに声を上げた、が、すぐに幽々子に向き直り、今度は札を展開しようとする。
だが、幽々子のほうが早い。
幽々子は霊夢に向かって、ニッコリと微笑み。
紅魔館の廊下が、桃色と空色の蝶に、埋め尽くされた。
***
赤白の巫女は、
結界すら張れず、
抵抗という抵抗もできず、
蝶に命を吸い尽くされてそこで斃れた。
***
「妖夢、よう、む……!!」
針山になりながらも必死に主を守った妖夢は、ぐったりと地に付していた。
空色の着物が汚れてしまうのも構わず、床に膝をついた幽々子はその小さな体を抱きしめ、涙を流す。
「ごめんねっ、ごめんねっ、私が妖夢のこと守るって決めたのに、ごめん、ごめんなさい……!!」
泣きじゃくる幽々子。柱の影から、人影が歩み寄ってくることにすら幽々子は気付かない。
幽々子の頬に、白く長い優美な指を持つ手がそっと添えられた。
ぼろぼろと涙を零しながら、幽々子はその手の主を見上げる。
「……よくやったわね、お疲れ様」
その手は、幽々子の喉を、捻り潰した。
「……という夢を見たのよ」
「へー。っていうか私は死ぬんだな」
「あんただけじゃないわよ。私も死ぬし」
「そうかあ。で、誰が犯人なんだ?」
「ぅん?あぁ、パチュリーと美鈴、小悪魔、フランドールを殺したのは咲夜」
「咲夜ぁ!?あのメイド長が?」
「そう。なんでも、レミリアに迷惑ばかりかけるフランドール、居眠りしてばかりで役に立たない美鈴、喘息だからと咲夜に掃除ばかり言いつけるパチュリーへの怨恨だそうよ。小悪魔はとばっちり」
「うあぁ、なんつーか、あれだな。小悪魔かわいそうだな」
「そうね。で、咲夜を殺したのは美鈴と小悪魔」
「は?それってどういうことだ?美鈴と小悪魔は咲夜に殺されたんじゃないのかよ」
「咲夜が地下牢に火を放った時、偶然フランドールと美鈴が会話する機会があったんだそうよ。美鈴はフランドールに枷を壊してくれるように頼み、地下牢から逃げ出したの。美鈴はそれを小悪魔に報告して、二人で咲夜を殺しに向かったそうよ」
「で、相打ちか。あぁ、つまり咲夜の傷は美鈴が気を爆発的に放出したからあんなことになったんだな」
「そゆこと。で、早苗と文が死んだのは毒物」
「毒物?そんな描写無かったぞ」
「思い出して。一番最初のパーティのとこ。料理を食べてたのは白玉楼の主従、守屋の巫女、ブン屋の烏」
「あぁ、すでに料理に毒がっ……ってこれ、料理に毒なんて誰が入れたんだ?」
「紫」
「紫ぃ!?」
「そ。スキマで毒を放り込んだのね。遅効性のヤツを」
「あー、食べなくてよかったぜ。って、じゃあなんで妖夢と幽々子は死ななかったんだ?」
「幽々子は亡霊。妖夢は半霊だからそこまで効かなかった。まぁ妖夢には効いたみたいだけど、きっと効く前に死んじゃったのね」
「じゃあなんで最後幽々子は私とお前を殺しにかかってきたんだよ?」
「紫に脅されてたのよ。魔理沙と霊夢を仕留めなければ妖夢を殺す、ってね。それに紫は咲夜の「怨恨と殺意の境界」もいじくって咲夜に殺しをさせたみたいね」
「……ひでぇババァだ」
「幽々子は必死に自分の従者を守ろうとしたのね。悪いことしたわ」
「っつーかどうして紫はそこまでして私達を殺そうとしたんだ?」
「なんだか私より霊力の強い娘が見つかったから、博霊の巫女を後腐れなく代替わりさせるためだそうよ。私に肩入れしてる紅魔館や魔理沙、文や、山の上の神が私がいなくなったときに早苗を後釜にすえようとする動きが起こらないように犯行に及んだらしいわよ。ひどいわねえ」
「全くだ」
「みーなさーん!今週末に開かれる紅魔館のパーティのお知らせですよー!号外ですよー!」
「……なぁ」
「ん?」
「これって、どうなんだろうな。正夢ってヤツか?」
「さーねえ。行ってみようとは思うけど。夢のとおりになったらそれはそれで面白いんじゃない?」
「まじかよ……」
自分なりにHAMU氏の作品の見解とゆゆ様の動機を述べてみましたが、いかがだったでしょか。
自分はHAMU様の作品好きですよ。考える余地とか色々ありますし。
ここまで読まれた方、お疲れ様でした。急ごしらえなのでなかなか酷い文ですが、反省も後悔もしていません。
ただの二次創作ですので、HAMU氏の原作がどうなっていくかはわかりませんが、ここまで来たからには最後まで頑張って欲しいなと思います。
リスペクトになっていましたか?
HANU(仮)
- 作品情報
- 作品集:
- 17
- 投稿日時:
- 2010/06/16 22:57:39
- 更新日時:
- 2010/06/17 07:57:39
元の妖夢も幽々子の事を知っていたとすれば、
ただの疑心暗鬼による暴走だけでなく、筋も通ると言うもの
土台も発想も良かったけど、HAMU氏は調理法を間違えてしまったんだな
作品は面白かったですし良いと思いますよ。
>>1さんの事です
紛らわしくてスマソ
ミステリーだったら動機の詳しい説明とかはして欲しいなぁ
不自然な点はある程度目を瞑るけど
なんというか、普通だ。
こりゃあ惨劇録添削コンペの始まりだな
私より遥かに調理が上手いです。
なんかうらやましいですね・・・。
叩かれてる理由は推理形式と言ってて、推理出来ないからでしょ?
後、コメントで言われてる事を聞かずに短い文で投稿するからだろ?