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『逃走者 一』 作者: 名前がありません号
「はぁっ、はぁっ、はぁ……っ」
女は逃げていた。
必死になって逃げていた。
空は飛べない。結界らしきものが上空を覆っていて、まともに高度が取れない。
森林に逃げ込んだのは失敗だった。
人目にはつかないが、いざ逃げるとなると、木々が邪魔でまともに速度が出せない。
ただでさえ消耗している身では、この移動だけでも堪えるというのに。
何故。
どうしてこんな事に。
女―――射命丸文は逃げながら、これまでのことを振り返っていた。
射命丸文はとても暇であった。
というのも、ろくなネタにありつけないからだ。
割と連続して異変自体は起こったのだが、大して拡大したわけでもなく、
ネタとしては、いまいちパンチの足りない内容である。
無論、山での仕事はあるものの、文自身の仕事量などたかが知れている。
だからこそ新聞を執筆し、ネタ集めに奔走できる時間があるわけだが。
「あやや。ネタ日照りもここまで来るとちょっとピンチですねぇ」
正直、三面記事のネタは山ほどあれど、一面を飾るほどの記事は中々見つからない。
流石に三面記事だらけで新聞なぞ作っても、それこそ屑篭送りだ。
捨てられるために新聞を書いてるわけじゃあない。
読まれない記事に価値はないのである。
「私個人で異変を起こす、というのも無理ですしねぇ。何かイベントでも主催した方がいいのかしら?」
これまでもいくつかのイベント主催というか、広告などを折り込んで新聞を配達した事があった。
プリズムリバー姉妹によるコンサートは、自分が携わったイベントの中では比較的規模が大きいものだった。
効果はあったがイベントが終わってしまえば、その購読数もガクンと下がる。
前のリグル・ナイトバグの蟲イベントは最悪だった。
初発こそ怖いもの見たさで好調だったが、その後は0。所詮、一発屋であった。
このため理想としては、持続的かつ飽きの来ないもので、そして常に多人数をひきつけ続けるものが望ましい。
「とはいえ、そんな都合のいいイベントなんか思いつきませんけどねぇ……あー、どうしたもんでしょう」
ふらふらとあちこちを飛び回るが、やはり大したネタは見つからない。
ふと立ち寄った人里で、誰かの話し声が聞こえてくる。
耳を済ませていると、見慣れない服装の男が子供達に何か教えている。
「………というわけなんだ。どうだい、面白そうだろう?」
「へぇー、うん、やってみるよおじさん」
「ああ、それじゃあね」
子供達があちこちに移動したのを、確認してから男に文が近づいていく。
「あの、失礼ですが、人里の方ですか?」
「ん? ああ、そうですよ。えぇと、貴方は確か……」
「あ、射命丸文と申します」
「ああ、そうそう。思い出した。新聞記者でしたっけか」
「おや、知っていましたか」
「そりゃあ、人里で話を聞きに回っている妖怪なんて珍しいですから」
「言われてみれば、確かに」
基本的に天狗の新聞は妖怪の山のことだけで完結する。
山の外に関しては、大部分が妄想とでっちあげから出来ている。
多少の虚偽を書く程度には問題はないが、全部嘘とあっては論外だ。
そのため、山の外の記事を書くときは大抵、自らの足でネタを探すのだ。
それゆえに、山の他の新聞記者達からは変人と呼ばれている。
文からしてみれば、他の新聞記者の方がよっぽど変人に見えるのだが。
「それで、子供達に何を教えていたのですか?」
「ああ、鬼ごっこですよ」
「鬼ごっこ? えー、確か一人が鬼になって、逃げた人を捕まえる遊び、でしたっけ?」
「ええ、まぁ少し違うのですが……」
「と、いいますと?」
文の様子を見た男は少し笑みを浮かべて、こう言った。
「逃げる者は一人。他全員は鬼となって一人を追い詰めます。時間までに逃げられれば勝ち。鬼に捕まったら負けです」
「また変わったルールですね、でもそれじゃいつか捕まりません?」
「ええ、これだけなら普通に捕まりますね。ですが、鬼に捕まったら即負けというわけではありません。抵抗できなくなるまで、です」
「え?」
「逃げる一人は鬼から逃げる為なら、何をしても良い、ということです。どんなことをしてでも、逃げ切れれば逃げた者の勝ちです」
「なるほど、それでバランスを取るのですか」
「ですがその代わり、逃げる側が鬼に捕まった場合は、鬼の命令を聞かなければなりません」
「ほう?」
「どんな命令にも絶対に服従です。どうです? 面白いでしょう?」
楽しそうに語る男に文は少し引き気味であった。
が、男の語るゲームの内容はとても興味を惹かれるものだった。
確かにこれは面白そうだ。
スリルと実益が兼ねあわされている。
詳細なルールは後で作るとして、うまく利用すれば大当たりするイベントになるかもしれない。
「確かに面白そうですね……。あの、お願いがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「このゲームについて、もう少し教えていただけませんか?」
この大きなチャンスを逃すまいと、文は男にさらに情報を求める。
すると男は邪笑を浮かべながら、こう言った。
「ええ、ですが………ただ、というわけには」
「え? ……なるほど、そういうことですか」
文は、男が自分を見る視線に気が付いた。
スカートから見える太もも、括れた腰、肉付きのよい胸。
男は文をギラついた眼で見ている。
男の対価を理解した文はしばし考えて、
「ここで立ち話をするのも難でしょうし、貴方の家に上がらせて頂けますか?」
期待通りの言葉に男は、歓喜の表情を浮かべた。
「くぁっ、はぁ、あ、あぁ!」
「はは、噂には聞いてましたけど、本当にエロいですね、文さんは!」
男の家で文は後ろから貫かれていた。
黒く使い込まれた肉棒が、文の秘裂を押し広げて、奥の子宮口へと叩き付けられる。
「へぁ、はぁ、あ、う、噂って、ど、どんな、あああ!」
「新聞の為なら、平気で身体を売っちゃう、淫乱記者だってね!」
「そ、そんなことはぁ、あ、ああ、ひぁぁぁ!」
文は口で否定してみせるが、本心としては割とどうでもいい噂だ。
別に記事を生きがいにしているわけではない。
正直、つまらないネタであれば身体を売る必要はない。
否、面白いネタでもあまりに勿体ぶる輩には身体を売らない。
文が身体を売る基準は面白いネタと、自分を見て欲情するたくましい男だった。
「こんなエロい身体で俺たちを誘って! いつも犯されたいって思ってるんだろ!」
「はいぃ! そうです、文は犯されるのが好きなのぉ!」
文は男が喜びそうな言葉を選んで、男好みの甘ったるい声でそう言う。
男が興奮して肉棒をより一層膨張させると、文は膣内を押し広げられる感覚に酔いしれる。
「あはぁ、お、おっきいですv すごい、いいですぅv」
「へへ、文! ちんぽ大好きか、ええ!?」
「はいぃ! おちんぽ最高ですぅ! もっと、もっと突いてぇぇ!!」
我ながらよくも、こう口が回るものだ、と文は自分で関心している。
男は単純だった。適当に卑猥な言葉を並べれば、それに答えるように、
膣内の肉棒を膨張させていく。
山では、性行為に関してはやや閉鎖的である。
血統に拘る部分があり、他の種族との交わりには厳しく、
また同じ種族でも、特に格の高い者同士での行為となる。
そうした行為は単純な生殖行為であるために、一定の快楽はあるものの、物足りなさも同居している。
山の閉鎖的な部分と厳格さが生んだのが、文のような欲求不満者達である。
多くは自分で慰めるのが一般的であるが、
稀に外に出て、天狗以外の者と交わるのだ。
文もその一人であった。
ネタ集めと称して、その対価に相手に身体を売る。
ネタも手に入り、性的欲求も満たされる。
文にとっては、一石二鳥であった。
「それじゃ、中で出すからな、いくぞっ!」
「はぁ、あぁああ、く、ください、中に、たくさん……!!」
男が文の中で果てていく。
大量に吐き出された子種が、文の膣内を満たしていく。
かなりの量を射精したようで、結合部からはごぽごぽと白濁した精液が零れていた。
文は避妊薬を服用している。
流石に人間の子供を産む気などさらさらない。
あくまで性的欲求を満たすためだけの行為なのだから。
「それじゃあ、情報、くださいますね?」
「あ、ああ、もちろん……」
しかし欲求さえ満たされてしまえば、文にとって男の価値は男が持つ情報だけになる。
男は、性交時とはまるで別人のような文に戸惑いながら、そのゲームの詳細なルールを教えていった。
文は山の自宅に帰ると、男から聞いたルールの詳細をメモした手帳を読み返していた。
ゲームのルールとして、
・逃走者は基本一名。複数も可能だが、その場合、追跡者の数も増加する。
・逃走者は、一定範囲内から外へと出てはいけない。出た場合、その時点で敗北となる。
・逃走者は追跡者を行動不能にする以外は何をしても構わない。そして行動範囲内であれば何処に隠れてもよい。
・追跡者は逃走者に逃走不能な怪我を負わせてはいけない。逃走者が怪我をした場合は別。
・逃走者は追跡者に降伏することも出来る。(複数の逃走者をゲームに参加させる場合のみ)
この場合、追跡者は降伏した逃走者に一切手を出してはいけない。なお、残り一名になった時点で降伏はできない。
(ただし降伏した逃走者がゲームに参加中の逃走者を助けた場合、例外的に追跡者は捕まえる事が出来る)
・逃走者は一定時間逃げ切ることが出来れば、望みを主催者に提示できる。主催者は望みを確実に叶える事。
・追跡者は捕まえた逃走者にあらゆる命令をする事が出来る。捕まった逃走者はこれを拒む事が出来ない。
以上が男から聞いたゲームの詳細である。
文は笑みを浮かべていた。
これなら、これなら確実に人は集まる。
それだけではない。
逃走者を妖怪にすれば、さらに人は集まるだろう。
このゲームの展開を想像して、文は笑いが止まらなかった。
「これなら、これなら確実にいける……! ふふ、ふふふ」
これが“逃走者”というゲームの始まりであった。
文は博麗神社を訪ねた。
手帳に纏めた内容のイベントを開きたい、ついては協力を請う、というものだ。
が、霊夢はこれを拒否した。
「いやよ、面倒臭い。そういうのはごめんよ、私」
「あぁ、それならせめてこのイベントに関してのお墨付きをいただけますか? 話は通した、ということで」
「あーもう、お墨付きでも何でもくれてやるから、勝手にやってなさい。それじゃあね」
霊夢は文に、手でしっしっと追い払う。
随分と嫌われたものである。
まぁ、とある兎が掘り当てた鉱山に出資して失敗したのが原因らしい。
ちなみにその兎は、私の新聞にでかでかと広告を載せてくれと頼まれたので、私はただ載せただけである。若干誇張はしたが。
あの後、「慣れない事はするもんじゃない」と宴会で漏らしていたのを思い出した。
お墨付きは貰ったが、結界その他の用意は別に頼む必要がある。
魔法使いの協力者はあまりいいのが居ない。
霧雨魔理沙は以前見せてもらったスペルカードから信用しがたく、
アリス・マーガトロイドも専門分野からやや外れる為、これも除外。
パチュリー・ノーレッジは悪くはないが、紅魔館の関係者。
あまり貸しを作りすぎると、あのわがままお嬢様に何を言われるか、分かったものではない。
スペルカードの応用で作れそうではあるが、
スペルカード程度の規模では逃げるには少し狭すぎる。
となると、残るは二つ。守矢神社と命蓮寺だが、後者はまだまだ未知数な部分があるため、
ここは守矢神社に頼む事にしよう。
あそこの神なら、この手のゲームなら快く引き受けてくれそうである。
射命丸文は、その翼を広げて、守矢神社へと向かっていった。
守矢神社に何の障害も無く到着すると、私は早速、東風谷早苗と二柱の神を探す。
ほどなくして、早苗と二柱の神の一人の洩矢諏訪子と出会い、ゲームの説明とゲームの協力を交渉した。
二人の回答はもう一人の神、八坂神奈子と共に検討するとのことだったが、
あの表情から察するに、やる気はあるようだ。
やはり、山の巫女と神は話が分かる。麓の巫女とは大違いだ。
数日が経ち、私は守矢神社に向かう。ゲームに協力してもらえるかどうか。
その結果は、私がもっとも望む答え。YESだった。
これで、ゲーム開始の目途が経った。
後は参加者を集める為の手段と場所を用意できれば、本格的にゲームを始める事が出来る。
今のうちにゲームのタイトルを決めておこう。
うーん………あまり捻らずに、シンプルに【逃走者】にしよう。
変に凝った名前は覚えられない恐れがある。わかりやすさは大事だ。
その後、私は場所を貸してもらう為の交渉に、
各勢力のトップ達と交渉して、なんとか場所を貸してもらうことが出来た。
一番最初の逃走者は妖精だ。
まずは参加者や視聴者に、ゲームについて知ってもらう必要がある。
いきなり名のある妖怪などを入れるのはリスクが高い。
それならば、まずは手頃な妖精辺りから初めて、徐々に逃走者の格を上げていけばいい。
同時に逃走者が勝つか、捕縛者達が勝つかを賭博すれば、
さらに一定の収益が出るだろう。
全ての準備は整った。
さぁ、はじめましょう。
【逃走者】を。
第一ゲーム
逃走者:大妖精
追跡者:人里の男×5
場所:人里の郊外の森
逃走者の制限:弾幕使用禁止
制限時間:五分
『さぁ! ついに始まりました、第一回【逃走者】!』
『自らの欲望を叶えるべく集まった逃走者! そしてそれを阻止せんとする追跡者!』
『追跡者から無事逃げ切り、逃走者は願いをかなえることが出来るのか!?』
『あるいは、追跡者に捕らえられ、追跡者の欲望の餌食となってしまうのか!?』
いつになくハイテンションな射命丸文の実況が木霊する。
人里の郊外の森を舞台に行なわれる初回となる、逃走者。
ここでの成否が、今後のこのゲームの行く末を握る事になる。
ここでどれだけの観客をひきつけられるか。
ここでどれだけの逃走者や、追跡者を集められるか。
そして、いかに勝敗をコントロールするか。
八百長という意味ではない。
勝つか、負けるか。一方的な敗北も、一方的な勝利も、観客は望まない。
ギリギリの勝敗、逆転劇が適度にあるからこそ、楽しめる。
常にスリルを感じるからこそ、人はそれに惹かれるのだ。
それゆえに、逃走者にも追跡者にも緊張を強いるマッチメイクが必要となる。
どちらか一方に有利であってはならない。
それが重要なのだ。
そして、その手腕は全て射命丸文に掛かっている。
(この初戦こそが、このゲームの進退を決定する……!)
心の中でそれを復唱する文は、緊張で手を震わせていた。
このゲームは、妖怪の山へのアピールも多分に含んでいる。
上に立つものに求められるのは単純な能力だけではなく、
部下をいかに管理・運営できるかも求められる。
単純な権力馬鹿だけなら、ここまで妖怪の山は大きくならなかったのだから。
当然、失敗すれば私は妖怪の山の笑い物だろう。
だが成功すれば、私はさらに上の領域へと踏み込める。
文の頭に端から失敗するかも、などと言う考えはない。
否、失敗すれば後は無いのだ。
だから成功しか求めない。
文は強くマイクを握り締めて、ゲームに参加する者達が待つその言葉を放った。
『それでは、逃走者! 遊戯開始(ゲームスタート)!!』
文は高らかに逃走者の開始を告げた。
―“逃走者”大妖精の視点―
ついに始まった。始まってしまった。
大妖精はその小さな身体を震わせながら、ゆっくりと森の中へと入っていく。
森の中には自分と、追跡者となる5人の人間がいる。
最初はほんの軽い気持ちだった。
あの天狗に誑かされた。
しかし、何でも願いを叶えるというその言葉に惹かれるまま、
迂闊にも天狗の差し出した契約書にサインをしたのは私自身だ。
私にはその言葉以外、何も見えていなかった。
その契約書に、負けた場合のリスクの記載があった事に気付いたのは、
ゲーム開始直前のことだった。
でも引き下がる事は出来ない。
ここで引き下がれば、あの天狗に何をされるかわからない。
私ではどうあがいても、あの天狗には勝てないのだ。
ならばここで勝って、私の願いをかなえるまでだ。
(なんとしても……なんとしても、ここで私が勝利して……)
チルノちゃんを私だけのモノにしてみせる。
大妖精はそう強く、心に決めると結界の奥へと進んでいった。
文が最初にマッチメイクした舞台、人里の郊外に位置するこの森は、
木々が遮蔽物となる以外は、これといった罠の類は無い。
周囲には可視化された結界が張り巡らされており、
結界を破壊して脱出しようとすれば、その時点で逃走者は失格となる。
また、河童の機械を各所に設置して、監視している為、
不正行動を取れば、即刻処断できるようにされている。
最初に立候補した人里の男らの中には、文に逃走者の元となったゲームのルールを教えたあの男もいた。
彼らの一部は、文と寝た男だった。
万が一、追跡者側の立候補が居なかった場合を考慮して、
このように手回しをしておいたのである。
この程度は許されて然るべきだろうと、文は考えた。
逃走者、追跡者が結界内に入ると同時にゲームは始まった。
まず最初に動いたのは追跡者達だった。
彼らは散開して、大妖精を探している。
追跡者はゲーム開始直前に逃走者が誰なのかを告知される。
直前になって告示するのは、追跡者側の不正対策もかねている。
事前に告示すれば、そのターゲットについて研究し、
充分対策した状態で挑まれる可能性がある。
それでは面白くないのだ。
なお、逃走者には追跡者が誰なのかを告示されない(人数は告知される)。
それは演出的な意味もある。
逃走者が必死の形相で逃げ回る事を、
観客は心待ちにしているのだ。
このゲームは逃走者が恥も外聞も捨てて、必死に逃げ回る様を見て楽しむ側面もあった。
暗い欲望は誰しも持ちえるものなのだから。
大妖精も移動を開始する。
とりあえず飛行はせず、ゆっくりと移動する。
飛行すれば、それだけ追跡者の眼につきやすくなる。
すぐに見つかって、逃げ回り体力を消耗するよりも、
出来るだけ見つからないように、動かなければならない。
大妖精は未知の敵に怯えながら、
ゆっくりと森を歩き始めた。
その大妖精の怯えた表情もカメラは見逃さない。
その手の趣向の人達にはたまらない映像だろう。
状況が動いたのは、大妖精だった。
開始時間からおよそ半分が経過した時、
彼女は接近してくる追跡者を見つけた。
4人の男。彼らは支給された虫網を持っている。
大妖精はゆっくりとその場から立ち去ろうとしたその時、
後ろに出した足が、森の枝を踏みつけてしまった。
ビクッと身体を震わせる大妖精。
そしてその音に気付いた4人の男が一斉にその方向を向いた。
大妖精は咄嗟にしゃがもうとしたが、羽までは隠しきれなかった。
男達は一斉に、大妖精に向かって虫網を振るう。
大妖精は走って逃げる。
木々が生い茂り、隠れるには最適の場所だったのだが、
飛ぶには、その木の枝が邪魔で飛べるだけの場所がない。
もう少し開けた場所に出ないと。
大妖精は目に涙を溜めながら必死に逃げ回る。
とはいえ、基本飛行する妖精が全速力で走ったとしても、
人間達からいつまでも逃げ続ける事は出来ない。
そしてようやく開けた場所に出た。ここなら飛べる。
そして4人の男達が一斉に虫網を振るったと同時に、大妖精は飛び立った。
残り時間はあとわずか。
大妖精は勝利を確信した。
次の瞬間、“5人目”の虫網によって地面にたたきつけられたとき、それは絶望に変わった。
『王手積み(チェックメイト)ッッッ!!』
文は高らかにゲームの終了を告げた。
観客達は興奮はピークのようである。
最後の最後で、試合が決まった瞬間のボルテージは凄まじいものだった。
その熱気を文も感じていた。
『大妖精、最後の最後で油断しました!! やはり知恵比べでは妖精は人間に叶わないのでしょうかッッッ!!』
そう言い放つ。
いつになく、文はあらん限りの声で叫ぶ。
それは歓喜の声にも聞こえた。
(成功……ッ! 成功……ッ! これならいける……ッッ!!)
文は心の中で喜びを噛み締める。
初回とはいえ、これだけ盛り上がりならば、
今後にも期待は出来る。
このゲームに対する期待度の大きさは文の予想を超えていた。
『ではこれより別ルームにて、追跡者によるショーが始まります。特別券をご購入の皆様は、右の通路へ移動してください』
これはスポンサーである守矢神社には、(ある一名を除き)極秘に行なわれている。
そして特別券を購入した、観客らが次々と大きな小屋へと案内されていく。
そしてそこにあった巨大モニターには、結界内の情事が移されていた。
「い、いやぁぁぁあ!!!」
大妖精は男らによって、身体を拘束されていた。
必死に暴れようとするが、妖精程度の力では人間の男の手をどける事も叶わない。
「へっ、お前のことは知ってるぞ。よくあの氷の妖精とつるんでる奴だろ?」
「!!」
大妖精はその男を知っていた。
大分前に、自分を捕まえた人間だ。
男はそのことを覚えていないようだが、チルノのことは覚えていたらしい。
「人が妖精退治しようってのに、邪魔しやがってよぉ……」
「チ、チルノちゃんは悪くないです! 貴方が妖精退治しなけれぐぇ!?」
「妖精ごときが、人間様に舐めた口聞いてんじゃねぇぞ、こらぁ!!」
男は大妖精の顔を力いっぱい殴った。
殴打された跡は痛々しいが、追跡者の男らもモニターを見る男らもその様に興奮していた。
「あの生意気な妖精のせいで、俺はろくな目にあってねぇんだ! お前が責任取って謝れよ!」
「そ、そんな、いってること、むちゃくぢゃぁ!?」
今度は腹を殴られた。
強烈な一撃に、唾液を吐き出す。
その唾液が頬について、男はますます怒りを露にする。
「ざけてんじゃねぇぞ、このガキ!!」
「ごげぇ!? ぐぇえ!!」
今度は足で大妖精の腹や手足を踏みつける。
メリメリという音が、聞こえてきそうな映像だが、
誰一人それを、異常だとも、暴力反対だとも言わない。
彼らはそういう暗い欲望を内に秘める人々だ。
普段表に出ないからこそ、こういう所で満たされるのだ。
文は逃走者というゲームの展開する際に、逃走者は女性限定にする事を決めた。
これは幻想郷の名のある妖怪の多くが女性が占めている事もあるが、
逃げる相手が女性であれば、その手の趣向の人間達も収入源に出来る。
特に反感や恨みを買うような女性の妖怪が惨めな姿になったり、
屈服させられていく様を見る楽しみは、文にも理解できるところがある。
事実、今大妖精がボコボコにされていく様に、
文はたまらない興奮を覚えている。
やがて大妖精の手足が、歪な方向に曲げられ、
原型をとどめないほど殴りつくされて、映像は終了した。
男らは皆満足した様子で、小屋から次々と出て行く。
文は自らの秘裂に手をやると、じっとりと濡れていた。
男らの興奮にアテられてしまったようだ。
文はじゅるりと舌なめずりをして、帰る客の一人を捕まえて、
朝まで情事を楽しんだ。
逃走者、第一ゲームは大成功で幕を閉じた。
その日以来、大妖精を見たものは誰も居ない。
そして、大妖精がどうなったのかを知るのは、射命丸文、ただ一人だ。
文が次回の逃走者の構想を練りつつ、
新聞のネタを探していると、いつも新聞のネタになる氷精を見つけた。
ただいつものような元気は無く、どこか寂しそうであった。
文はそんな氷精を見て、少し心を痛めるが、すぐにそれを振り払う。
何を今更、偽善者じみた事を。
これだけのことをするのだ。良心など捨ててしまえ。
全ては上に上がるためだ。
こんなことで挫けてどうする。
文は自身を奮い立たせて、その場を後にする。
逃走者の第二ゲームのマッチメイクの為、
次なる逃走者と追跡者探しを開始した。
私が過去に書いた作品に格付けというお話がございます。
それなりに好評をいただきましたが、
惨めな文の最後が見れなくて残念という意見を多数頂き、
いつか止めを刺してやろうと思いつつも、今日まで手を入れていませんでした。
ですが、次々投稿される作品を見ているうちに、
長編で書いてみたくなり、格付けから逃走者へと名を変え、中身を変え、
射命丸文に完膚なきまでの止めを刺すべく、投稿させていただきました。
それなりに長くなることが予想されますので、
皆様には気長にお待ちいただけるとありがたいです。
なお読みにくい、改行増やせ、減らせなどのお言葉がありましたら、
適時修正していきますので、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。
以上、建前。
以下、本音。
たくさんコメが欲しいという欲望に駆られて、長編を書く。
今は反省している。だが後悔はしない。
なんとしても書ききってやる。
名前がありません号
作品情報
作品集:
17
投稿日時:
2010/06/17 19:36:19
更新日時:
2010/06/18 05:40:59
分類
文
大妖精
リベンジ(作者的に)
色々なシチュエーションの作品が書けそう
様々な組み合わせの人妖の欲望と策謀が渦巻く素敵な作品が
ルールも熟読した
逃げ切った場合は主催者が逃走者の望みを叶える、ってとこでニヤニヤせざるを得ない
最後まで見るよ
ビッチな文ちゃんかわいいよ。
ビッチ丸かわいいよビッチ丸
最高だな!!
随分懐かしいけど今でも覚えてるくらい好きだぜw
リメイク(?)嬉しいなーw
もっとひどいことになった件。いいぞもっとやれ
でも、強い妖怪だったら抵抗はしないのだろうか…