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『恋色ラプソディ』 作者: 290
「お姉ちゃんって、良い匂いがするよね」
「ええ。だってお姉ちゃんはお花なんだから」
「えっ?花?何の?」
「そうねぇ……」
***
ぎしり。
小さくベッドが軋む。
私はお姉ちゃんの甘いにおいのする胸に額をこすりつけ、ふぅ、と小さくため息をついた。
ぴったり張り付くようにしてお姉ちゃんのことを抱きしめる。
じっとりと湿った感触が体中に帰ってきて、なんだか愛しくなって更に腕に力を入れた。
「ねーぇーっ?」
上目遣いで問うが、お姉ちゃんは不機嫌そうな顔のまま目を閉じ、何も言わない。
「んもう。そんな風してばっかいるとちゅーしちゃうんだからねー」
そういいつつ首から頬へとゆっくり舌を這わせる。
かすかに塩気のある甘さが舌へ伝わり、私はほう、と息をついた。
ぷりぷりとした柔らかい唇に自分の唇を合わせる。
お姉ちゃんはそれでも口を開けようとはしてくれない。
「んぅー」
私は小さく鼻を鳴らすと、お姉ちゃんの唇をこじ開けるように舌を押入れ、お姉ちゃんの口内へと侵入した。
かすかに生臭い臭気が鼻をつくが、そんなの気にしない。
だって私はお姉ちゃんの事を愛しているのだから。
ぺちゃぺちゃと音を立てて口蓋を舐め、舌の届く範囲の歯を、その裏までそっと嘗め回し。
そうして舌を絡める。お姉ちゃんは恥ずかしがっているのか舌を自分から出しては来ないので、私から伸ばしてあげる。
ちゅっちゅっと音を立てて舌を吸い、お姉ちゃんの柔らかい下唇をくちゃくちゃと甘噛みしたあと唇を離した。
唇と唇の間に透明な糸が残る。
それすらもったいなくて、私は舌を伸ばしてその橋を舐めとると、お姉ちゃんに向かってニッコリと笑んで見せた。
「どうだった?」
それでも、お姉ちゃんは不機嫌そうに目を閉じたまま何も言わない。
私はお腹がすいたのでご飯にすることにした。
部屋を出ようとドアに歩み寄る。
と、途中で黒い何かを踏みつけた。なんだろ、これ。
感触が心地よかったから三回くらい踏み潰しておいた。ぐちゅぐちゃぐちゃ。
黄色い汁と赤い何かがぱっと飛び散ってお姉ちゃんの部屋の絨毯を汚す。
「あ、汚しちゃった」
わざと呟き、お姉ちゃんのほうをちらりと見たが、お姉ちゃんは何も言わずにベッドの背に背中を持たせかけ、ゆったりと座っているだけだった。
「……もう」
私はそんなお姉ちゃんに背を向け、部屋のドアを開けた。
早くご飯作んなきゃ。すっごいお腹すいちゃった。
***
「ご飯、出来たよ?」
私が食器の載ったお盆を手に部屋に戻ると、お姉ちゃんはベッドにだらんと腰駆けたまま動こうとしなかった。
「全く、お姉ちゃんったらー。私困っちゃう」
私はお姉ちゃんをそっと抱き起こすと椅子に腰掛けさせ、お盆からおかゆの入った器を手に取る。
「鳥のお肉と卵で味付けしてみたの。食べて?」
そういいながらスプーンでひとさじ掬い、お姉ちゃんの口元まで持っていく。
お姉ちゃんはやっぱり口を開けようとはしないので、唇と歯をスプーンでこじ開けるようにして口内に流し込んだ。
「ねぇ、おいしい?」
お姉ちゃんは返事をしない。美味しくなかったのかな……?
不安になった私は自分でも一口食べてみる。
ふわふわとした卵と、細切れにした、でもしっかりとした食感の肉が混ざり合ってなかなか良い感じだ。
薄いけどしっかりと醤油の味はするし、自分で言うのもなんだけどかなり美味しいと思うのにな。
お皿を一旦お盆の上に戻し、少し首をかしげて、
「食べないなら、片付けちゃうよ?」
そう問いかけても、お姉ちゃんは目を閉じたまま何も言わなかった。
ぎしり、と微かに椅子が軋む。
「……あれ?」
お姉ちゃん、何か変。
私は一歩下がってお姉ちゃんの体を上から下まで眺め回してみる。
白い肌。赤と黄色の管。赤い第三の目―――あ。
「泣いてるの?」
お姉ちゃんの胸の虚ろな第三の瞳からはどろりと黄色く濁った涙が垂れ落ちていた。
「どこか痛い?大丈夫?」
私はその涙をそっと服の袖で拭い取るとお姉ちゃんの顔を見上げた。
でもお姉ちゃんの顔はいつもと同じ、無愛想な顔。
ここ最近はずっとそんな顔ばかりしてる。
「……何か、私悪いことしたかな」
お姉ちゃんは何も言わない。
「ひどい!何か喋ってよ!!」
私は思わずお姉ちゃんの頬を張り飛ばしていた。
ぱしん、と乾いた音が響く。
お姉ちゃんの体がぐらりと揺れて、傾く。椅子からまっさかさまに地面に墜落。
腕から地面に落ちて、ごしゃりと痛そうな音がした。
「あっ」
やってしまった。
慌ててお姉ちゃんを抱き上げるけれど、その右腕はひじの所からすっかり分断されていた。
微かに青色になったひじから先と、じんわりと血がにじむ二の腕。
断面からは真っ白い骨が覗き、かなり痛そうだ。
「あらら」
私はひじから先の腕をそっと拾い上げると、ポケットから糸と針を取り出す。
そうしてお姉ちゃんの第三の目と同じ赤色の糸で右腕を縫いつけた。
お姉ちゃんの腕は細いのにふんわりと柔らかくて、その肉と皮を食い破るようにして金属の針がぶつりぶつりと出たり入ったりするのはなんだか不思議な光景だった。
縫い終わりの場所を玉留めして、お姉ちゃんの薄紫色の髪をそっと梳く。
「ごめんねお姉ちゃん。痛かった?」
お姉ちゃんは何も言わない。
「もー!何か言ってよ!」
頬を膨らませてみるがお姉ちゃんは何も言わない。
なんだか寂しい。
ぎゅっと締め付けられるような感情から逃れようと、私はお姉ちゃんに抱きついた。
ぐじゃり、と体の下で何かがつぶれる音がして、お姉ちゃんの薄青色の服にどす黒いものがにじんだ。
「ありゃ」
まーたやっちゃった。私は眉を顰める。
黒い染みからは腐り落ちる寸前の花の強い臭気にも似たひどく甘いにおいがした。
どうしてこんなに甘い匂いがするんだろう。
あ、そうだった。お姉ちゃんの体の中に汚いものなんて無いんだ。
お姉ちゃんの体の中には薔薇の花が詰まってるんだから。
「お姉ちゃんは薔薇なんだったっけ?」
だからこんなに甘い匂いがするんだよね。そうだそうだ。
「枯れる前に、ドライフラワーにしておかなくっちゃ」
刈り取った薔薇は長く持たない。
キレイに保つには、それ相応の処理をしなきゃいけないことをすっかり忘れていた。
もう、私ったらうっかりさん。
私はこつんと自分の拳で額を叩き、お姉ちゃんを抱き上げて部屋を後にした。
部屋には、ぐずぐずに腐った猫と、頭の潰れた烏の死体と、飛び回る蝿だけが残された。
なんだか最近こいしが可愛い。
6/29 追記 上の「ちょっと来て下さい」消しました。
今後はHANU(仮)名義での作品投稿はいたしません。
ご迷惑おかけして本当に申し訳ないと思っています。
290
- 作品情報
- 作品集:
- 17
- 投稿日時:
- 2010/06/28 11:57:52
- 更新日時:
- 2010/06/29 07:48:03
- 分類
- さとり
- こいし
- HANU(仮)名義について追記
カスミ草だと素敵だね
むわっと花の香りが漂ってくるような作品でした。
そういや死臭とよく似た香りの花があるとか聞いたことありますね……。