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『波、地平線、独り』 作者: ゴルジ体
波の音が聞こえる。
大きな人影が六つ、砂浜に揺れていた。
私はそれがなんだがとても怖かった。
隣には大岩があって、ぶよぶよの肉がくっついていた。
それは綺麗なピンク色で、どくどくと脈を打っている。
それは私の背丈くらいの大きさで、中に何か詰まっているのだろう。
私は歩き出した。
砂浜の所々に大きな穴が開いていて、さらさらと砂が落ちていくのが見えた。
中を覗いてみたいと思ったけれど、近付くと砂の流れに巻き込まれて落ちてしまう。
遥か遠くの地平線には、大きな塔が聳えていた。
あそこになら誰かいるだろうと、思えた。
ずり、ずり、と横でカデムシが這っているのに気付いた。
そこで、ああ、さっきの肉塊はカデムシの卵だったんだ、と納得した。
カデムシはその巨体をくねらせて、横を通り抜けていく。
私はナイフで巨体のちょうど真ん中あたりに生えているヴァハマ管を切り落としてやると、カデムシは奇声を上げて動かなくなった。
ヴァハマ管の穴にナイフを突っ込み、穿ってやるとベラムシの幼生が何匹か出てきた。
私は一匹を試験管に入れて蓋を閉め、ポケットに入れて歩き出した。
向こうに、大きな建物を見つけた。ビルの廃墟のようだった。
大きな人たちは、あそこを住処としているのだろう。
私は入ろうかと思ったが、周りに何匹か膿ヒルの成体が蠢いているのを見つけ、止めた。
あいつらはナイフで切ってもなかなか死なない上、ウイルスの感染媒体だ。
私はとりあえず帰ることにした。
帰り道、胞虫を見つけた。
珍しいこともあるものだ、と思って捕まえたが、驚くべきことにその胞虫は魔理沙だった。
未吸収の彼女の帽子の残骸がくっ付いていた。
頭を切り開いて覗いたが、もう既に脳は吸収されてしまっている。
いずれこの胞虫も"人もどき"になるのだろうと思い、放してやった。
"人もどき"ほど悲しい生き物はこの世界にいないだろう。
彼らは何を思って生きているのだろうか。
しかしよく考えれば、魔理沙が此処にいたということは知り合いでまだ感染していない者がいるやも知れない。
でも、探すには暗くなってきたし、疲れた。
明日にしよう。
家に着く、といっても、廃屋を勝手に使わせてもらっているだけだが。
辺りはすっかり暗くなった。
私は火を熾して、さきほど捕まえたベラムシの幼生の入った試験管を取り出し、見つめた。
多分、こいつはウイルスを持っていない。
カデムシは多くのベラムシの幼生を寄生させているが、カデムシ自体はウイルスに免疫があるらしいことが分かっている。
ならば食えるかどうか、と考えたが止めた。
試験管を腐った机の上に置いて、摘んできた葉と、壁にへばり付いていた青ガエルを焼いて食べた。
それから銀のナイフを取り出し、火に近付けて汚れを確認する。
綺麗に磨き上げ、仕舞い込むと、することもないので葉をかき集めて作った布団で寝た。
・・・。
・・。
翌朝、緑鳥の鳴き声で目覚めた。
外に出ると、大きな人たちが近くを通りかかるのが見え、少し警戒して見ていたが、彼らは私を見ても何を言うことも無く通り過ぎていった。
しばしの間、砂浜に寝転がって透き通る海を眺めていた。
すると、遥か彼方の地平線が大きく盛り上がり、巨大な魚のような生物が顔を出した。
はじめて見る種だ。あまりに大きすぎて、しばし呆気にとられていた。
この島くらいあるのではないか、と思ったが、此処がどれほどの大きさの島なのかも定かでない。大陸、と言っていい広さなのかも知れない。
空は雲ひとつなく、爽やかに輝いていた。
しばらく心地よい風に吹かれていたが、退屈になってきたので探索を開始することにした。
どこにいこうか。
広がる森の奥に行くのもいい。
大きい人たちがいるビルに侵入してみようか。
あ、そうだった、魔理沙だったものがいたところを見にいってみよう。
もしかしたらまだ生き残りがいるかも知れない。
私はざりざり音を立てて、白く輝く砂浜を歩き出した。
歩いていると、一匹の"人もどき"を見つけた。
それは波打ち際でゆらゆらと体を揺さぶっていた。
それを見ていると、なんだかとても、哀しくなった。
私は逃げるように歩を進めた。
昨日魔理沙だったものを見つけた場所まで来た。いくつかの大岩があり、表面には苔が生えていた。
私は岩の間を抜けて、森の方へ歩き出した。海の反対側に広大な森が茂っているのだ。
黄鳥が何羽か、空を旋回しているのが見えた。
樹木たちの手前まで来て、そこらの岩に腰を下ろした。
実は、まだこの森に入ったことがない。
何がいるか分からない、こんな開けた砂浜でさえウイルスを持つ種を何匹か見かけたのに、こんな密林の中ではひとたまりもないだろう。
どうしようか。
でも、この海辺で待っていたところで、生きているかも知れない誰かが来てくれる訳もない。
でも、やはり森を抜けるのは怖い。
そうだ、海岸沿いにずっと歩いていくのはどうだろう。
大きい人たちに出くわす可能性は高いが、ウイルスに感染するよりマシだ。
私はそう考え、一度住処に戻って荷物を背負うと、また歩き出した。多分もう此処には戻ってこないだろう、と、そんなことを思いながら。
荷物と言っても、ポーチに収まる程度の物しか持っていなかったから、特段不便ではない。
風が心地いい。
ずっと歩いていくと、先に、昨日見た大きな人たちが住むビルが見えた。
ああ、あの周囲には膿ヒルが生息してるんだっけ。
ふむ・・・、仕方ない。
疲れるから、あまり使いたくはなかったけれど・・・。
かちり、と小気味良い音がして、世界が止まった。
私は走って廃ビルの横を通り抜けた。
横目で見ると、砂からちょうど大きな膿ビルの成体が顔を出しているところだった。
危ない危ない・・・。
ビルを通って百メートルほど進んだところで、かちり。
世界が動き出した。
呼吸が荒い、肩で息をしている。
とても疲れた。
此処に来てから、能力の持続力が落ちているのを感じている。
元よりこの世界が、そういう構造じゃなかった、ということか。
顔を上げる。
右には綺麗な、どこまでも続く海、左には変わらず茂る樹木が見える。
前方には、永遠と続く砂浜。
変わらない風景だ。
でも、ここまで来たことは無かったから、始めて見る、風景だ。
この辺りの砂浜にはカデムシはいないらしい。
いや、動物自体全く見ないな。
そんなことを考えながら、のんびりゆっくり歩いていたら、いつの間にか日が暮れようとしていた。
青かった地平線は、今は真っ赤に染まって、色鳥たちの姿も見ない。
大きな日が、沈もうとしていた。
あれ、そういえば、あの赤い日は太陽なのだろうか。
それとも全く違う星なのかも知れない。
どっちでもいいか。
その赤い惑星の横で、天を突き抜けるほど高く聳え立つ塔が黒くその姿を映していた。
あの大きな塔は、誰が作ったのだろうか。
大きい人たちか、或いは全く別の種族がいるのかも知れない。
もしかしたら"人もどき"かも知れない。
ああ、どっちでもいいね。
私は沈む夕陽を背にして、今夜の寝床を探しにかかった。
適当な岩とかがあれば、木の枝とかでバリケードを作ってちいさな寝床をつくれるんだけどなあ。
そういえば、朝からまだ何も食べてない。
私は腰に掛けたポーチから青ガエルの干し肉を取り出して、そこらに生えていた歯ごたえのよさげな肉厚葉を取って巻いて食べた。
なかなかいける。
ウイルスが付着してたら、どうしよう。
それで感染したなら、それまでだ、諦めよう。
暢気なものだ。
楽観的だ、と思い直して岩を探すことにした。
・・・。
無いな、丁度いい寝床。
どうするか。夜中になると、昼には見ない動物たちが徘徊するようになる。
せめて一晩身を隠せるところを探さないと、まずいことになる。
私は少し焦りだして、静かに草に分け入って取り合えず様子を見ることにした。
なんだか凄く疲れてしまった。
駄目、ここで寝たら、食べられるかも・・・。
・・・。
・・。
「・・・え、ねえってば」
うん・・・、なんだ。
「・・・きなさいよ」
ふぇ、なになに・・・。
「起きなさいってば!」
ぱちり。
目を覚ますと、星が輝く夜空が視界を覆った。
がばっ。
体を起こすと、目の前には霊夢がいた。
巫女服をまだ着ている、と言っても、所々破けてしまっているが。
そんなことより。
「・・・え?霊夢・・・、霊夢なの?」
思わず目を擦ったが、まだいる。
「そうよ、私よ。こんな雑草の上でよく眠りこけてられるわね」
私は思わず彼女に抱きついてしまった。
恥ずかしいことだ。
「よかった!まだ生きてる人がいたのね」
「ええ、・・・まあ積もる話もあるでしょ。とりあえず、私の家に行きましょう」
「家、ね。どうせ廃墟なんでしょう」
霊夢も何処かの廃屋に住み込んでいたのだ。
私たちは淡く輝く星空の下、ゆっくりと歩き出した。
ただの産業廃棄物
三行で廃棄するつもりが、ストーリーがいつの間にか出来ていた
続く
ゴルジ体
- 作品情報
- 作品集:
- 18
- 投稿日時:
- 2010/07/03 15:19:14
- 更新日時:
- 2010/07/04 00:19:14
続編きたい
ふしぎでいいね