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『魔界の母と悪魔の妹 1』 作者: 木質
【 紅魔館 図書館 】
二ヵ月後。紅魔館で大勢を招待する大規模なパーティが予定されている
これは一年に一度行なわれる行事のようなもので。招待客に豪華な食事を振る舞い、煌びやかな調度品を見せびらかし、派手な催し物を企画して、紅魔館の偉大さを知らしめるのが目的だった
今回もレミリアは、催し物で参加者の度肝を抜き紅魔館の力を外部にアピールするのを画策するのだが、今年はまだ何をするか決まっていない
企画のネタがとうとう尽きてしまったのだ、頼れる従者も首をひねり出す始末で完全にお手上げだった
このままではまずいと危機感を覚えたレミリアは、友人のパチュリーに協力を依頼した
パチュリーは最初乗り気ではなかったが、レミリアが提示した条件を聞き催し物の企画を承諾した
その条件とは『成功後の報酬』と『完成のためなら全面的にバックアップをする』というもの
全面的バックアップという言葉が彼女の心をくすぐった
「どう、巧く行きそう?」
レミリアは不安げな表情で、分厚い本をめくり目当ての文章を探す友人に問いかけた
机の上には大きめのフラスコが置かれている。フラスコの中には小さな灯火が宿り、それが踊るように循環していた
「今のペースなら間に合いそうね」
「よかった」
その回答に胸を撫で下ろす
「パチェがやろうとしているものは一体何なの? 今日までずっと『内緒・秘密』とはぐらかしてばかり。もう開催まで二ヶ月を切ったんだし、教えてくれてもいいでしょう。私だって色々と協力したのよ?」
その協力の中には物資の調達・金銭の援助だけではなく、魔力の提供といった身体に苦痛を伴うものもあり、レミリアは全てに惜しみなく力を貸した
「ずっと昔から研究してる魔法があるの、それは莫大な魔力と時間を必要として、貴重なアイテムを多々消費する」
「随分と贅沢な魔法ね」
「本当はあと50年くらいかけてじっくりと進めていこうと考えていたけれど、レミィが支援してくれるから丁度良いと思って」
「それほどの労力をパチェが厭わないなんて、相当なモノなのね」
「残り一週間になったら教えてあげる。リハーサルをするとき、一番最初に見せてあげるわ」
「そこまで勿体ぶってつまらなかったら、あとが酷いわよ?」
「ご期待に添えられるよう頑張るわ」
パチュリーは余裕の表情で返した。それを見てレミリアは期待に顔を綻ばせた
【 魔界 】
かつて霊夢・魔理沙・魅魔・幽香の4人によって壊滅的な打撃を受けた魔界だが、今はその傷跡も癒え、見事に復興を果たしていた
「平和だわ」
この日、空は快晴で、風は優しく、深緑の香りがした
魔界の神は城のバルコニーから自分の創造した世界を見下ろす
眼下にはレンガ造りの城下町が広がっており、大通りを多種多様な姿の住人が賑やかに往来している
現在。どこまでも暗闇に包まれ、仲間や同族同士で殺しあう奪い合う殺伐とした魔界はもう存在していない
正しい指導のもと、魔界は秩序を持った世界に変貌を遂げていた
側近のメイドである夢子は神綺の横に立ち、この日のスケジュールを読み上げる
「午前は議会があります。議題は『来年度からの福祉制度』です」
「午後は?」
「特にございません。ご自由になさってください」
夢子から一日の予定が書かれた紙を受け取る。言われた通り午後の欄が空白になっていた
「なにかあるでしょう? 貧しい村々への支援とか、土地開発で揉めてる地域があるとか、金融政策の見直しとか」
「それは3ヶ月前にもう解決したじゃありませんか。現在もすべて滞りなく進んでいます」
優秀な部下を多数抱え、なおかつ彼女が魔界住人から信頼を一身に受けていることもあり、魔界の治安は恐ろしいほどに安定していた
「ブクブクブク」
手持ち無沙汰な感じがして、手にしたジュースのストローを吹いた
「やめてください。お行儀が悪いですよ」
「む〜〜」
夢子は神綺のそういうどこか子供っぽい所が好きだったが、魔界の神としての立場を考えると自重して欲しいというのが本音だった
「退屈ねぇ」
従者に注意され、手すりに気だるそうに持たれる
「いいことじゃないですか」
「確かにいいことよ。でも何かもの足りなくて・・・・あ」
思い出したという顔で神綺は体を起こした
「そろそろ幻想郷に進出するには良い頃合いなんじゃないかしら?」
「向こう側にですか、そのようなこと可能なので?」
現在。魔界と幻想郷の間には『新と旧の境界』という謎の結界が張られており、直接の行き来が不可能となっている
「そうね。まずはそれを取り払わないと」
午前の議会が終わった神綺は昼食を摂ったあと『出かけてくる』と席を立ち、同行を志願した部下たちをやんわりと断り、一人で外出した
魔界と人間界を繋ぐ門が存在していた。しかし今は古ぼけた扉が一枚その場に屹立しているだけである
結界が張られて以降。この場は存在の意味を失い、周囲は荒廃が進んでいた
訪れる者が皆無のこの場所に一人の少女の姿があった
神綺はその少女に声を掛けた
「サラちゃん。門番の仕事お疲れ様」
「し、神綺様! なぜこのような僻地に!?」
サラと呼ばれた彼女こそが、魔界の扉の番人である
「ごめんなさいね。こんな何の変化も無い場所のお仕事をずっとお願いして」
扉が機能を失ったあとも、彼女はこの場所で門番の任についている
「そんな。これが私の使命ですから。それにルイズもちょくちょく遊びに来てくれますし」
サラが遠くに目を向けると、瓦礫の柱の上に白い帽子を被った少女が居た
「ご機嫌麗しゅう、神綺様」
朗らかな笑顔で帽子のつばを掴みながらお辞儀をした
「ルイズちゃんも御機嫌よう」
神綺はその場でレジャーシートとパラソルを作り出し、ここに来る途中に町で購入しお土産を二人に渡した
「あの結界が張られてからというもの。いろいろと不便になったわね」
「そうですね。ふらふらと遊びに行けなくなってしまいましたし」
ルイズは幻想郷へ観光に行くのが趣味だった。それが出来なくなって、仕方なく他の趣味を探したが今日までこれといったものは見つかっていない
「あと、外との交流が絶たれたせいで、弱体した種族もいます」
サラは表情を曇らせながら、話を続ける
「メデューサ族をご存知ですか? 外と関われなくなったせいで力が衰えて。かつて『目を見た相手を石に変える程度の能力』が今じゃ『目を見た相手に尿管結石を患わせる程度の能力』ですよ」
「それはそれで凶悪な気も・・・」
しばらく他愛も無い話を続け。神綺はここに来た目的を切り出す
「扉を開けてほしいのだけどいいかしら?」
「ええ構いません」
門が開かれサラは足を踏み入れる。その後に神綺が続く。ルイズは外で待つことにした
中は一切の光が届かない場所だった。自分が目を開けているのか閉じているのかさえ区別がつかないほどの暗闇
長い時間居れば、目以外の五感も狂ってしまうであろう空間
神綺とサラは平然とそんな場所を歩く
やがて行き止まりにぶつかった。見えない『壁』がそこにあった
「これが『新と旧の境界』ね?」
「そうです」
忌々しそうにサラは見えない壁を睨みつける
「案内ありがとうサラちゃん。危ないから扉の外に出てルイズちゃんと待ってて」
神綺は自身の背後に六枚の翼を展開させる
「これからちょっとフルパワー出すから」
神綺が帰って来たのはその日の夕刻だった
入り口で出迎えにあがった夢子は、神綺の姿を見て驚いた
「どうしたんですかその恰好!?」
主はボロボロだった。服はところどころ破れ、怪我こそ無いものの体中ススだらけだった
「どこの輩にやられたのですか!? 教えてください。今からソイツを肉塊にして、城の前のオブジェにしますから!」
短剣を取り出して殺意を滾らせる
「違うのよ、結界を破壊してみようと試みたの」
「ああ、そうだったんですか・・・・・・」
殺気を消し武器を仕舞い、姿勢を正し、いつもの落ち着きある姿に戻る
「ところで今日、断続的な地震があったんですけど、もしかしてそれと関係してますか?」
「・・・・・・」
神綺は気まずそうに顔を背けた
「まあいいでしょう。それで破壊できたのですか?」
「固い・・・もの凄く固い。必殺の魔界神ラッシュをお見舞いしてやったのにヒビ一つ入らない。なにアレ? ガンダニウム合金?」
「違うと思います。てか何ですか魔界神ラッシュって?」
「あれ、知らない?」
ボクシングの前傾姿勢の構えを取り、体を『∞』の軌道を描くように振って拳を放つ動作をし、技の説明をする
「デンプシーロールですよね」
「違います魔界神ラッシュです。ちゃんと魔界で商標登録されてます」
「そもそも動かない相手にデンプシーってどうなんですか?」
その後、入浴して着替え、神綺の部屋で幻想郷に行く方法を夢子と考えた
「結界の破壊に私やユキとマイも協力しましょうか?」
「無駄よ。あれは物理的な方法で壊せるものじゃないわね」
神綺は本気を出して壊しにいったから分かった。だから断言できた
「はーー。どこでもドアって売ってないかしら?」
「それはちょっと」
「もしかしたら、あの子ならいい知恵を持っているかもしれないわね」
「あの子?」
二人は城の書庫までやってくる
無限に続くのではと思えるような無数の本棚の列から、一冊の古ぼけた本を神綺は手に取る
「この本は?」
「こっちと幻想郷を繋ぐ本よ。声と映像のみだけど」
夢子の問いに答えてから、本に魔力を込めると本は鈍色に発光しだした
【 紅魔館 図書館 】
「こあっこあ、こあ〜〜〜♪ ふふふ〜〜ん♪」
小悪魔が鼻歌を口ずさみながら本の整理整頓を行なっていた
「ふふ〜〜・・・・おや?」
何かに呼ばれた気がしてあたりを見回す。少し遠くに自分を呼んでいるものがあると感じ取り、歩き出した
レミリアとパチュリーがパーティーの催し物の話をしている横を通り過ぎる
そこからさらに200mほど歩き、一冊の鈍色に光る本が目に付いた
「懐かしいですね。昔、私が魔界から来たときに持ってきた本じゃないですか。こんなところにあったんですね」
この本の用途が何だったか思い出そうとする
「ああ、こことむこうの通信機」
魔界出身の小悪魔は懐かしさを感じる
パチュリーが紅魔館にやってくるよりも遥か昔。魔界で生活していた小悪魔は契約によって館の図書館に召喚された
契約が切れてからも魔界には帰らず、今日までここに居ついているのだが、図書館で仕事をちゃんとこなしているため、レミリアは特別に留まることを許可していた
メイドより上。美鈴より下。それが彼女の地位だった
「でも・・・・・・誰だろう? 魔界から私に交信をしてくる人なんていましたっけ?」
いぶかしみながら本を開き、ページを覗き込んだ
「はいはい。小悪魔ですが」
開いた本から向う側の景色が映し出される
「小悪魔ちゃんお久しぶり。図書館のお仕事頑張ってる?」
「えっ、あっ! し、神綺様ですか!?」
思いもよらない人物からの通信で仰天した
「何故、低級悪魔の私めにお声を?」
魔界にいた頃、何度が謁見しただけで、そこまで交流があったわけではない。まったくの予想外だった
「近いうちソッチに進出しようと思って。小悪魔ちゃんの一族って、魔界から人間界に渡る術に長けてるでしょう? 知恵を貸してもらおうと思って」
「まさか幻想郷を乗っ取るおつもりで?」
「違うのよ。こっちが安定したからそろそろ幻想郷に遊びに行きたいな〜〜と思って」
「安定? えっと、魔界の情勢って今どんな感じなんですか?」
その問いには、神綺の代わりに夢子が答える
「超が付くくらい平和よ、長閑というべきかしら」
「どれくらいですか?」
「レッドアリーマーが一族総出で田植えするくらい」
「なんという超魔界村」
魔界育ちの小悪魔は軽い頭痛に苛まれた
「とりあえず私たちなりにソッチに行く方法を探してみるから。小悪魔ちゃんも何か良いアイデアがあったら連絡して頂戴」
「ええ、まぁ・・・・・わかりました」
「じゃあお願いね」
そこで本の輝きが失せ、映像が消えた
通信が切れ。静寂に包まれたその場で、小悪魔は憑き物が落ちたかのように顔から表情が消えうせた
静かに思考を働かせる
(平和? 長閑? 魔界も随分とつまんない場所になりましたね)
風変わりしてしまった故郷の姿を知り、憂いと落胆を同時に感じた
(まあそんなことは置いてといて)
それすらも瑣末なことと思えるモノを耳にしてしまった
(神綺様がこちらに来る)
飲み込む唾で喉を鳴らす。脳の奥が暑くなり、心地良さを感じる物質が分泌され、快感で身を震わせた
(まさかこんな美味しい話が向うから転がり込んでくるなんて)
両手で顔を覆った。今の顔は誰にも見せたくなかった。自分自身にすら。きっと恐ろしいほど邪悪な笑みを浮かべているに違いとわかった
(魔界神が幻想郷にやってきて、騒動が起こらないはずが無いじゃないですか)
行動の選択肢を間違えば、魔界と幻想郷の全面戦争にだって十分に成り得る
(戦争・・・・・・いがみ合い、殺し合い、奪い合い。なんて素晴らしい)
争い事こそ、悪魔にとっての絶好の餌場。生物の持つ負の感情こそが、悪魔にとって極上の栄養源
契約が切れても魔界に帰らなかったのは、紅魔館にいた方が血生臭い現場に多く居合わせることが出来るからだった
(おまけに神綺様の恩が売れるという特別ボーナスまで付いてる)
指の隙間から見えた小悪魔の目は、恐ろしいほど血走っていた
(いやしかし、あの方は争うことを好まない)
良く言えば平和主義者。悪く言えばひより者。魔界神でありながら神綺は争いを好まない。幻想郷に対し友好的に接するに決まっている
(まぁ。どちらにしろ私が得することには変わりませんけどね)
強者と弱者の中間に潜み利益を貪る者。それが悪魔
神綺をこちらに来させる術と、そのために必要なものの調達方法。神綺が来てからの身の振り方
彼女の中で絵図面が一瞬で出来上がった
悪巧みに限り、小悪魔の脳は恐ろしい回転速度を誇っていた
「ケ、ヒヒヒヒ」
笑い声は口を閉じているせいで、奇怪な音になって漏れ出した
翌日。起床したパチュリーは催し物作成の続きを始めようと、図書館の実験所に足を運ぶ
「どういうこと?」
それを目にした瞬間。嫌な汗が全身から噴出すのがわかった
「中の魔力が・・・消失してる?」
今まで蓄えた魔力の入ったフラスコが割れて、中身が空になっていた
急ぎパチュリーは小悪魔にレミリアを呼ぶように命じた
「消えた? それってパチェが今までコツコツ貯めた分や私が提供したもの全部?」
パチュリーは悲痛な面持ちで頷いた
「全部。あのフラスコに濃縮して保存しておいたの・・・・・・なんでここに来て」
「えっと、それでパーティーはどうなるの?」
レミリアの顔からも血の気が引いていく
「間に合わないわ。確実に」
「漏れて外に流れ出ただけなんでしょう? なら今からかき集めれば・・・」
「無理よ。フラスコから出た瞬間に、空中に広がり霧散してしまっているわ。もともとそれを防ぐためのフラスコだったの」
最も聞きたくない言葉だった
「ちょっと!? それくらい大事なら、なんでもっと厳重に保管しておかないのよ!?」
思わず友人の胸倉を掴んでいた
「したわよ厳重に! 当たり前でしょう!!」
怒りたいのはパチュリーも同じだった、喉を痛めることも厭わず怒鳴った
フラスコには割れない防御陣は当然、周囲に結界、触ると発動する罠も仕掛けておいた。簡単に割れるはずなどない
「どうするのよ! もう招待状は配ってしまったのよ!! パーティー当日に『間に合いませんでした』と皆の前で私に言わせるつもり!?」
そんなことをしたら、紅魔館を良く思わない連中に、何を言われるかわかったものではない
「そんなこと言われたって!」
「あの〜〜」
二人が喧嘩を始めようとするその時、本の整理をしていた小悪魔がやって来ておずおずと声を掛けた
「昨日の夜。パチュリー様が眠って、私が棚の掃除をしていた時なんですが・・・・・・」
レミリアは妹の手を引っ張りながら、図書館に戻ってきた
「ねぇ何? どうしたの?」
「いいからきなさい!」
パーティを台無しにされた怒りと焦りで昂ぶっていた精神を必死に抑える
事情を知らされぬまま連れてこられたフランドールは、ただ不思議そうに小首をかしげるだけだった
「昨日の夜にここに来たわね?」
「ううん・・・・・・昨日はずっと部屋にいたよ」
正直に答えた
「嘘を吐くな! 昨日お前がここに居るのを見たという者がいるんだ」
「知らないよ? なにそれ?」
心当たりなどなかった。昨日はずっと部屋にいたのだから
フランドールを図書館で見たと証言したのは小悪魔だった。それにより彼女は下手人としてこの場に連れてこられていた
紅魔館の中でフラスコを壊せるのは二人しかいない
一人はパチュリーの実験を手伝っていた小悪魔。彼女なら防御陣や罠の解除の仕方を知っている
もう一人がフランドール。彼女の能力なら問答無用でフラスコを破壊できる
破壊自体なら咲夜と美鈴でも出来るが、フラスコが割れたと思われる時間。美鈴は門に、咲夜はレミリアと行動を共にしていた
それらを踏まえ考えると、やはり犯人はフランドールに行き着く
地下を抜け出し遊びに来て、興味本位でフラスコに近づき壊してしまったというのが今回の顛末だと二人は思っていた
小悪魔の可能性もあるが、動機が薄いのと普段の真面目な態度から考えられない、などの理由で外されていた
「疑わしきは罰“する”。それが紅魔館よ」
「妹様、あなたから魔力を提供して貰うわ」
どの道フランドールが犯人であってもなくても、現時点で彼女を利用しなければ、パーティーに間に合わない
「やぁよ。私は関係無いもの」
「残念ね。多少なり協力の意思があるなら丁重に扱ってあげたのに」
「無理矢理、力を貸してもらうわ」
今の二人はなに振り構っていられなかった
フランドールが限りなく黒だという今の状況は良い免罪符になった
「な、なにを?」
レミリアとパチュリーから、普段とは違う雰囲気を嗅ぎ取った
「もう行くからね」
姉とその友人。この二人を相手にして分が悪いと考えた。早々に立ち去ろうとする
「逃がさない」
踵を返した直後、パチュリーによる日符と水符で動きを一瞬だけ止められた
その隙にレミリアに腕を掴まれ床に倒され、小悪魔によって首筋に注射器を打ち込まれた。容器の中身がすべて流し込まれる
事前に三人でフランドールを取り押さえることを打ち合わせていた。だから手際が良かった
「うっ。くぁ・・・く・・・」
薬を打たれ、床がグニャグニャに歪むような錯覚を受ける
「・・・に、これ?」
「麻酔よ。怖いものじゃないわ」
「ア・・・」
手足が痺れて指先も動かなくなる。瞳孔が何度も開閉し、目を白黒とさせるだけで。体を動かすことが出来ない
「もう効いてる。即効性が高くて助かるわ」
パチュリーは薬の効き目に関心していた
「具体的にはどうやって絞り出す? できるだけ効率よくしないと。二ヶ月なんてあっという間よ」
「いいものがあるわ」
レミリアはパチュリーに図書館の奥まで案内された。とある扉の前で止まる
「この子たちにやらせようと思って」
「“この子たち”?」
パチュリーは扉に手をかけてレミリアを手招きする
「一瞬だけ扉を開けるから見てみるといいわ。あまり長い時間開けておくと逃げ出す子がいるかもしれないから」
レミリアにだけ見えるように分厚い扉を数センチだけ開いた
「ッ!!」
それほど広くない部屋の中
巨大な粘菌。人の子供ほどの大きさの節足動物。触手のようなもの。人面の獣。手足の生えた魚。極彩色の軟体生物。蠢く甲虫。6足の爬虫類
異形の限りを尽くす生物の群れが、その部屋の中で犇(ひしめ)いていた
そこで扉は閉じられる
「な、なによアイツ等はっ?」
たった数秒しか見ていないはずなのに、恐怖で全身の毛穴が開き、寒気を誘う怖気に苛まれていた
「だいぶ前に儀式で呼び出したの。ああ、殺傷力は皆無だから心配しなくていいわ。魔力を効率良く吸い取ることに特化した生物だから」
フランドールの羽の根元を掴み、扉の前に運んできた
「それじゃあ早速・・・」
「待って」
投げ込もうとしたレミリアにパチュリーが静止をかけた
「この状態で放り込んだら、麻酔が覚めた妹様にみんな殺されてしまうわ」
そうなっては元も子もない
「だからまずは妹様を無力化させないと、可哀相だけど手足を潰して使用不能にさせる」
「何も壊さなくても。動けないように拘束すればいいんじゃない?」
「この館に妹様を完全に制御できるものがあるの?」
「ごめん。無いわ」
即答だった。能力を差し引いても、吸血鬼の膂力は妖怪の中でも飛びぬけている
「そういうこと。小悪魔はいる?」
「は、はい!」
本棚の影から三人の動向を窺っていた小悪魔は、突然の呼びかけに上ずった声で返事をした
「以外と近くにいたのね」
「たまたまここで本の整理をしていました」
「そう、悪いけど倉庫に行って万力を持ってきて。なるべく大きなものを」
「私一人でですか? あれってけっこう重いですよ、鉄の塊ですし」
「カートがあるでしょう? それを使いなさい」
「段差が多くてあまりカートじゃ。力のあるお嬢様が・・・・・・すみません、行って来ます」
拒否の言葉の途中で魔女にキツい目で睨まれて、泣く泣く倉庫まで走り出した
息を切らせて小悪魔は万力を運んできた
「ご苦労様。もう仕事に戻っていいわ」
「はひ。そう、ひたひまふ」
呂律が回らずぜーぜーと呼吸しながら、ふらふらと本棚の向うへ消えて行った
「レミィ、しっかり押えておいてよ」
「もうやっている」
開いた万力の隙間にフランドールの手が挟み込まれいた。手はお祈りをする時の形だった
パチュリーが万力のハンドルを掴み、レミリアがフランドールの両足を押さえる
「魔女狩りで捕まった女の子がこんな拷問受けてたよね」
「嫌なこと言わないでよ」
友人の言葉に軽い頭痛を覚えながらハンドルを半分だけ回す
「んしょ」
圧迫され。指の色が一斉に変わった
「・・・・・・」
しかし当のフランドールは無反応だった
「気絶してて助かったわ。麻酔も効いてるようだし」
「流石に私も、起きてるこの子の手を潰したくはないわ」
さらに半分、ハンドルが回された。ペキパキポキと小気味の良い音がリズミカルにして、潰されて行き場を失った骨が手の皮から外に飛び出す
(イギャアアアアアアああぁぁあああアアアアァァァァアアアアアあああアアああアアアアアアアァァアァアアアァァァァアアアアアアアアああァァああ!!!!)
フランドールの意識は鮮明に残っていた。麻酔は彼女の体を自由を奪っただけで、痛みを消すまでに到らなかった
感覚はそのままで、体は動かない。それが今の状態だった
口が動かせないかわりに心の中で何度も獣のような咆哮をあげた
「これだけのことをしても起きないなんて凄い薬ね」
外科手術と同じで、彼女がすべて意識を失っている間に行なっていると信じて疑わない二人は、罪悪感をあまり感じなかった
「でもあんまり見てて気持ちのいいものじゃないわ。とにかく早く回してよパチェ」
「そう急かさないで。これ結構固いんだから」
(があぁあ!!)
「これが全部終わったら、ご褒美に好きなもの買ってあげないとね。例えフラスコを壊した犯人だとしても」
優しく妹の耳に問いかけた。必死に痛みを訴えているということも知らずに
さらにハンドルは回り続ける
「もう無理ね、これ以上は回らない」
8ミリ、それがフランドールの残った両手の厚みだった
(て、私の手ぇぇぇ・・・)
脳の神経が焼き切れるような痛みで発狂しそうになるが、そんなことなどお構いなしに姉と魔女は破壊作業を続ける
「足と腕も砕いておかないと」
「だったら初めから四肢を切断したほうが良かったんじゃ・・・」
「切断したらその分の吸い取れる魔力が減っちゃうわ」
「それもそうね」
納得してから、フランドールの膝の皿を踏み砕く
(あぐっ)
まったく容赦など無かった
そして足と手が使用不能になった妹を担ぎ部屋に放り投げた
異形の生物が彼女の体にすぐ群がった
(やめて!触らないで!)
触手が体を持ち上げ、大人の顔ほどある巨大な甲虫は口の管を彼女の腹に突き刺し、粘菌は彼女の口と鼻から体内への侵入を試みようとしている
(気持ち悪い! 気持ち悪い!! 気持ち悪い!!!)
抵抗したいのに、それが出来ない
他の生物も、それぞれの方法で彼女の体から魔力を吸い出そうとしている
「確か、殺傷力は皆無だと言ったわね?」
友人が最初にそう言ったのをレミリアは思い出して、ボソリと口にした
「あれでなの?」
「まあ死にはしないでしょう」
パチュリーは扉を閉めると中の音が一切聞こえなくなった
「いつまでこの中に入れてけば良い?」
「明日の朝までかしら」
「今回ので全部集まるの?」
「まさか、全然足りないわ。あと十回・・・・・・いや、それ以上ね」
今回のことを定期的に行うことをパチュリーは予定していた
「とにかく時間が無いわ。他の魔力を集める方法も探しましょう」
「そうね」
二人は図書館の中央に向かって歩き出した。この日、二人の会話の中でフランドールのことが出ることは無かった
小悪魔は一連のやりとりを本棚の隅から顔を覗かせて喜々として眺めていた
【 魔界 】
神は庭に面したテラスで、夢子に淹れてもらった紅茶を手に一息入れていた
「アリスちゃんって今どうしてるのかしら」
幻想郷に行った娘のことを思っていた
「ずっと連絡とれて無いですもんね」
夢子も心配そうな表情を浮かべる
〜〜〜〜 十数年前 〜〜〜〜〜〜
神綺は身内で一番幼い娘を部屋に呼び出した
「どうしたのお母さん」
「アリスちゃん。あなたしばらく人間のいる世界に行きなさい。一人で」
「え?」
突然過ぎて、彼女は母の言葉をそのまま飲むこむことが出来なかった
「なんか異世界の子供が人間界に修行に行くのが、最近の流行らしいわ。サリーちゃんだったり怪物君だったり、キキちゃんだったり・・・」
この時期はそういった物語がトレンドだった
「というわけで、アリスちゃんも行ってくるのよ。とりあえず住む場所と、お世話になる先は手配したから」
まだまだ幼いアリスに自立能力があるわけなどないため、当然の処置だった
「でも、いきなりそんな・・・」
「『可愛い子には旅をさせろ』というし、アリスちゃんには早い段階で外を知って立派な子に成長して欲しいの」
神綺は瞳から流れる透明な液をハンカチで拭う
「私もっとお姉ちゃんたちと一緒に・・・」
「ごめんなさい。でも獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすように、魔界神である私も我が子を突き落とさなければならないの・・・・雪崩式で」
「なんでプロレス?」
数日後。ついに旅立ちの日を迎えた
「それじゃあ行ってきます」
荷物を抱えたアリスは家族の前に立つ
「気をつけて」
「お土産よろしく」
「むこうでは友達できるといいね」
「辛くなったらすぐに帰ってくるのよ」
「綺麗な水しか飲んじゃだめよ」
「手紙待ってるわ」
姉妹からそえぞれの言葉を受け取る
最後に神綺が丁寧に包装された箱を渡してきた
「これ。グリモア。色々と役に立つでしょう」
それはかつて。魔界を荒らした霊夢・魔理沙・魅魔・幽香の四人に仕返しをするために、アリスが勝手に持ち出した禁書だった
「いいの?」
「うん。この前、お醤油こぼしちゃったからあげる」
「・・・・・」
「生活に困ったらブックオフにでも売って生活費の足しにしてちょうだい。3000円くらいにはなると思うわ」
この時、アリスはたしかに大人に一歩近づいた
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「まさかあの2〜3年後に『新と旧の境界』が引かれるなんて・・・」
「最悪でしたね」
方々に手を尽くして、なんとかアリスが無事だということは確認できたが、交信は全く取れなかった
グリモアにも魔界との通信機能があったが、神綺の呼びかけにアリスが答えることは一度も無い
「とりあえず。小悪魔ちゃんの報告を待ちましょうか」
【 紅魔館 】
図書館の最奥の部屋の中
生物たちにたかられている途中で、麻酔が切れて体が動かせるようになったが、肝心の手足はまだ再生の途中だったため使い物にならなかった
結局、手が元の形に戻るころには魔力の大部分を吸われてしまっていた
「妹様、もうお部屋を出てもいいですよ」
小悪魔に足で踏まれて、フランドールは静かに目をあけた
自分の体を蹂躙していた生物たちは十分な魔力を吸い満腹になったため、動きも緩慢で襲ってくる気配は無い
(お腹すいた)
上半身を起こし手を開閉させるとまだ痺れた感じがして、体内に何かを埋め込まれたような異物感もあった
衣服は纏っておらず、自分が着ていた服は、生物が寝床の一部として使っている
立ち上がろうとしても、自力で出来ないため小悪魔が彼女を抱き上げた。持参した毛布で裸の彼女を包み込む
「ねぇ小悪魔・・・」
弱々しい声だった
「はいなんでしょうか?」
「この麻酔薬。全然効いてないよ。このことを二人に教え・・・・・・・ぎゃう!!」
フランドールは髪を掴まれそのまま顔を床に叩き付けられた。鼻が潰れ、前歯が折れる
「・・・ぁ・・・・・・っう・・・くぁ・・・」
鼻血が折れた前歯の隙間から口内に流れ込み、良く知っている味がした
「まだ意識があるんですか? タフですねー」
「ごぶっ!」
もう一度、床を彼女の顔で叩く
「これで良しっと」
白目を剥き手足を痙攣させるのを見て、満足そうに頷いた
「麻酔が効かない? そんなの知ってますよ。この薬をアナタに投与することを勧めたのは私ですから」
床に零れた彼女の血を啜ろうと寄ってくる巨大な蛆を蹴散らす
「何のために、私がこんな気味の悪い部屋に来たと思ってるんですか? あなたが余計なことを喋らないようにするためですよ」
麻酔が効かないことを二人に知られるわけにはいかなかった。そのためにフランドールの回収と世話を自ら買って出ていた
「妹様をお連れしました」
顔を毛布で隠したフランドールを担ぎ、椅子に座るパチュリーの背中に話しかける
「あらそう。じゃあ、そこのソファにでも寝かせといて」
取れたての魔力が入ったフラスコを眺めるパチュリーは、小悪魔を一度も見ることなく言った
ソファはすでにレミリアが使っていた。パチュリーの調べ物に一晩中付き合っていたため疲れて熟睡している
しょうがないのでフランドールは床に横たえることにした
「彼女にはまだまだ働いてもらうから、それで栄養を取らせておいて」
パチュリーは机の上を指さした、そこに点滴道具一式が置かれていた。目は相変わらずフラスコの中身に夢中である
「口からの摂取じゃ効率が悪いの。点滴で直接体に栄養を流し込んで頂戴」
栄養剤のパックが彼女の食事だった
「私は部屋で資料を見てくるから。彼女の世話は任したわよ」
「はいはーい」
小悪魔は何度も周囲を見渡す
パチュリーが去り、レミリアが当分起きないことを確認してする
(夢への介入は、結構神経を使うので、あんまりやりたくないんですけど)
手に微弱な魔力を篭めてフランドールの頭に触れた
「せめて夢の中くらいは、楽しいものにしてあげますよ」
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「起きて、起きてフランちゃん」
誰かが体を優しく揺すられて目を開ける
「・・・・・んん?」
フランドールは勉強机に突っ伏して寝ていた。体を起こして周囲を見る
そこは子供部屋だった。こじんまりとした部屋にベッドと机、本棚、ぬいぐるみが置かれ、ピンク色のカーテンが掛かっている
「いったいどうなって・・・」
体は軽く。痛みやダルさ、空腹感、吐き気は一切感じない。折れた歯も治っている
「どうしたのフランちゃん?」
見知らぬ女性が彼女の顔を心配そうに覗き込んでいた
「誰?」
「お母さんに決まっているでしょう。ふふふ。まだ寝ぼけているのね」
「お母さん?え、ああ。そうだ、お母様だ。お母様」
『目の前の女性が自分の母親』その事実は何の疑問も抱かずに彼女の中に染みこんでいった
「さあフランちゃん。お勉強の続きをしましょうか」
「お勉強?」
「んーーまだ寝ぼけてるのね」
女性は困った顔をしてから、紙を一枚机の上に広げた。複雑な魔法陣が描かれている
「これの勉強よ。いつもやってるでしょう?」
「そうだっけ? あ、うん。そうだった」
なぜか納得してしまった
そして白紙とペンをフランドールに持ち、魔方陣の模写を始める
「お母様。書けたよ」
5分ほどかけて模写したものを見せる
「どれどれ。う〜〜ん。少し間違ってるわね」
立ち上がり、フランドールの背後に立ち、手を掴む
「ここの綴りが・・・」
「っ!」
この時、フランドールは身を強張らせた
「どうしたの?」
その問いに、彼女は萎縮しながら答える
「怒らないの?」
「なぜ?」
「だってお母様は、ミスしたらいつも私をブツから・・・」
何故か制裁や仕置きを受けるような気がした
「あらあら。お母さんがそんなことするわけないでしょう?」
否定し、ペンを持つフランドールの手に自身の手を重ねて、訂正箇所の書き方を指導する
「わかった?」
「うん」
「じゃあ、もう一度やってみましょうか」
微笑み、優しくそう言われてると。目の前の女性に対する恐怖や警戒心が消えた
数回の模写を繰り返す
「うん、正しく描けてる」
女性がフランドールの頭に手を伸ばす
「ッ」
再び彼女の体が強張った
「怖くないから、ね?」
「え、あ。うん」
頭に手が置かれた
「偉い偉い」
優しく撫でられた
「・・・・」
言い知れぬ幸福感が胸のうちから湧き上がった。それがあまりにも心地良くて、思わず目を細める
「それじゃあ。今日描いた魔方陣のことは覚えておいてね」
「はい」
「いい返事よ」
素直な我が子の頭を撫でるために再び手を伸ばそうとする
自発的にフランドールは頭をさげた
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優しい手が触れる直前で夢は終わった
「さて、はじめましょうか」
「 ? 」
夢から覚めたフランドールは、椅子座っていた
拘束されているわけでもないのに体が動かないため、すでに薬を打たれているのだと理解した
「3日も寝続けて、栄養も十分に流し込んだのだから。しっかり働いてもらうわよ。なにせ時間が無い」
目の前にはこの世で最も見たくない扉があった
幸福感に満ちていた心が、一気に絶望へと転落した
レミリアは爪を立ててフランドールの手を軽く抓った
(ぃっ!)
「起きない。どうやらちゃんと麻酔が効いてるみたいね」
パチュリーはそう判断した
(違うよ、痛いってば!)
傍らに置かれた血の跡が残る万力が視界に映った
(やだっ! やだっ!)
手足を懸命に動かそうとしても、それは叶わない
「小悪魔、万力の準備を」
(この薬、全然効いてないのに・・・)
「さっさと始めて」
レミリアが小悪魔を急かす
「それが妹様の血で錆付いちゃってて。どれだけやっても回らなくて」
二人は前回使った後、手入れをしていなかったことを思い出す
「しょうがないわ。手を切り落としましょう」
(ヒッ!)
「駄目よレミィ。前も言ったけど、手を切り落としたら手に溜まってる魔力が無駄になるでしょう」
「じゃあどうするの」
パチュリーは腕を組んで数秒考え込んでから目を開けた
「手を私の火符で焼きましょう。足も同様に。切るよりは幾分かはマシよ」
(待って! そんなことしなくも・・・)
抗議の声は届かない
二人の口調はまるで羊の毛でも刈り取るかのようで。そこに彼女への尊厳は一切無かった
フランドールが部屋に放り込まれた後、小悪魔は自室に戻り、神綺に連絡を取った。『幻想郷に来る方法が見つかった』という報告だった
「神綺様が本気を出しても壊せないとなると、結界の除去は諦めたほうが賢明かと。別のゲートを作りましょう」
「ゲート?」
「魔方陣を描いて悪魔を召喚する。その技法を応用します。この方法ならば、結界どころか次元すら飛び越えて転移することができますから」
魔界と人間界を繋ぐ魔方陣を作る。それが小悪魔の提案だった
「魔界神が通れる、そんな魔方陣存在するの?」
夢子はそんなもの聞いたことがなかった
「本に載っていなくても、私なら独自で作れます。こう見えても一級魔方陣デザイナーの資格を持ってますから」
通信教育で取得しました、と小声で付け足した
「こちらで出来ることはあるかしら?」
「大丈夫です。詳細はまた後日します」
そこで通信を解いた
「ふぅ」
一息吐いてから、すっかり冷めた紅茶を飲み干す
「色々と聞かれなくて助かりました」
聞かれる前に通信を切ったというのが正確だった
小悪魔は二つ。魔方陣を描く上で言っていないことがあった
「『魔力はどうするの?』って訊かれたら、上手く答える自信ありませんでしたから」
魔界神すら通ることの出来る陣を作り出すのだ、莫大な魔力が必要になるに決まっている
机のすみには魔力が大量に貯蔵されたフラスコがあった。中で小さな灯火がたゆっていた
パチュリーが厳重に守っていた魔力の入ったフラスコは本当は割れておらず、小悪魔が盗んだ後、別の割れたフラスコを置いただけだった
「魔力もこれからドンドン集まりそうですし」
フラスコを駄目にした犯人をフランドールにすることで、パーティーの期限に焦るレミリアとパチュリーが、彼女から魔力を搾り取ろうとするはずだと踏んでいた
「あとは妹様に、魔方陣の描き方を覚えさせれば終わり」
低級の悪魔には自分よりも上位の者を呼ぶことが出来ないという制限が存在していた
もしその制限が無いと、地上は悪魔であっとう間に溢れかえってしまう。それを防ぐための制限だった
今回描くことになる魔法陣はまさにそれで、低級悪魔の彼女は、デザインすることは出来ても書く事は出来ない
「素直に『描いてください』とお願いする手もありますが、今回の件は私一人の手柄にしたいんですよね」
この館で魔法陣に精通しているのは魔法使いのパチュリーと、吸血鬼でありながら魔法少女のフランドールの二人だけだった
選んだのはフランドールの方だった。パチュリーにやらせるのは色々と面倒だと判断した
フランドールを幼少のころから知っている小悪魔には、描かせるためのシナリオが一つ頭の中にあった
麻酔と騙して投与した薬も、夢への干渉もその準備だった
(もし、私の脚本通りに事が進んだら・・・)
自身の身に降りかかるであろう極上の快楽を想像し、小悪魔は両肩を抱きしめて震えだした
神綺をこちらに呼ぶ方法は探せばいくらでもある
しかし。どうせやるのなら、と一番楽しい方法を小悪魔は選んだ
「ああ、楽しみだなあ」
この上ない陰惨な光景を思い浮かべ、彼女は天使の様に微笑んだ
今回くらいのボリュームの話が、全部で5〜6話になる予定です。
初の長編に挑戦。最後までお付き合いいただけると幸いです。
木質
- 作品情報
- 作品集:
- 18
- 投稿日時:
- 2010/07/04 12:09:20
- 更新日時:
- 2010/07/04 21:09:20
- 分類
- 神綺
- 夢子
- フランドール
- レミリア
- パチュリー
- 小悪魔=黒幕
そして、レミリア様は常識人に見えて本当に腐れ外道ですね。
マーマ! 早く来てくれぇぇーッ!
どうなることやら楽しみです。
小悪魔じゃないけど楽しみだな〜
この小悪魔は間違いなく紅魔館一の切れ者
しかし木質さんはフランちゃんを虐めるのがお好きですねw
紫が新旧の境界を造ったとしたら、それは自分が管理する幻想郷よりも魔界の方が人気でて
住人が移住するのを避けるため……だったりして
神綺様には是非フランちゃんを養女にして二人で幸せに暮らして欲しい
いいコいいコしてあげたい。
さすがですb
>>11
おいおいここは産廃だぜ、酷いことされるフランちゃんを見てニヤニヤするのがいいんじゃないか。
フランちゃんが虐められる話もっと増えないかなぁ。