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『これだからもしもしは』 作者: ゴルジ体
これはすこし未来のお話・・・
時は20XX年――iPhoneなど次世代端末の台頭により、携帯電話は衰退の一途を辿っていた。
現世の人々から忘れられた哀しき旧時代の文明の利器は、最果ての地、幻想郷に流れ着くのであった。
香霖堂店主、森近霖之助は最近、無縁塚で多くの携帯電話を拾うようになった。
彼にはこの四角い物体が《携帯電話》という名称で《離れた相手とコミュニケーションをする道具》だということは分かるのだが、使い方はさっぱりだった。
彼は早速、元JKの東風谷早苗に使い方を教わりに行った。
「ほう、なるほどこれは便利な道具だ」
彼はいたく気に入って、沢山拾い集めて売り出すことにした。
『香霖堂におもしろい道具が売られている』という噂は瞬く間に幻想郷中に広まり、たった一週間ほどで携帯電話は爆発的に普及した。
人間、妖怪、妖精問わず多くの者が流行に乗って買い漁っていくのを見た人里の雑貨屋たちは自分たちもと携帯電話を拾い集めて、店先に売り出すようになった。
幻想郷の住民たちは、この道具をおもしろがり、毎日沢山のメールが交わされるようになった。
そして徐々に携帯電話というコミュニケーションツールにのめり込み、依存していった彼らは、家に篭るようになった。
――わざわざ会いに行かなくても、携帯で十分――そんな風潮が蔓延した。
妖怪の賢者と博麗の巫女は、現状を危惧した。
「いずれ人々の関係は希薄になり、何もかもが個人の中だけで完結する、つまらない世界になってしまう」
そう思った彼女らは、<携帯狩令>を発布して携帯電話の駆逐にかかった。
妖怪の山の哨戒天狗部隊を編成して警官とし、各地の携帯主義者の弾圧を開始した。
「携帯は害悪」
「もしもしは異変」
彼女らは携帯規制を徹底し、携帯を隠れて使用している者の密告を奨励した。
密告された者は即刻処刑――たとえ使っていなかったとしても・・・
そんな体制下で、携帯擁護派が各地で暴動を起こしだした(携帯一揆とも呼ばれる)。
その度に博麗の巫女や天狗が鎮圧に向かい、不届き者を捕らえて民衆の前で断頭処刑を行った。
「もしもしは異変!」
巫女が呼びかけると、呼応して民衆も手を振り上げて叫ぶ。
「「「もしもしは異変!!!」」」
もしもし=絶対悪という思想が一般化され、携帯主義者たちにとって暗黒の時代だった。
携帯を最初に広めた森近霖之助は捕らえられ、人里、衆人環視の中で首を刎ねられようとしていた。
断頭台の上、断頭用の大斧を持った天狗が二匹、蹲る霖之助の左右に控えていた。
「言い残すことはあるかしら?霖之助さん?」
賢者が問いかける。
「僕は間違ったことなんかしていないッ!君たちこそ、いつの間にか訳の分からぬ思想に取り憑かれて、頭をやられてしまったんじゃないか?」
チッ、と賢者は舌打ちして、天狗に告げた。
「殺せ」
天狗は頷き、大斧を振り上げる――
わあああ、と歓声が上がる。
「それ、殺せ!」
「もしもしは害悪!」
「もしもしは異変!」
広場に響く民衆の叫び声。
そのとき――
「お待ちください!」
一人の老人が叫んだ。
かつ、かつ、と杖を突きながら、背の低い老人が断頭台の前にやってきた。
「・・・!霧雨の親父さん・・・っ!」
霖之助は目を見開いた。
「駄目です親父さん!僕の味方なんてしたら貴方も――」
霖之助は言おうとしたが、老人は片手を挙げてそれを制した。
そうして、咳払いをひとつして話し始める。
「妖怪の賢者さん、博麗の巫女さん・・・私は霧雨魔理沙の父です。この青年を処す前に、私の話を聞いていただきたい・・・。この青年が携帯電話を広めたのは確かなことです。私も、妻も買いました。私はこの通りもう若くない、いつ迎えが来てもおかしくない身だ・・・私のせいで家を飛び出していった娘に合いにも行けない。娘は忙しく、魔法の研究に身を費やしているのです。私はでも、どうにか娘と話がしたかったのです、たったひとりの可愛い娘なのですよ・・・それが、すこし前に携帯電話というものが流行だしたと聞いて、もしかしたらこれで娘と連絡が取れるのではないかと思ったのです。娘はこの前、本当に久しぶりに合いに来てくれました。そして、私に聞くんです、『携帯は買ったの?』と。ああ、買ったよ、と言うと、恥ずかしそうに笑って私にアドレスと電話番号を教えてくれたのです。その晩、メールが来たのです。娘から・・・私は涙で画面が見えませんでした・・・なんだこんな話、とお思いでしょうが、ひとつだけ言いたいのです――」
老人はそこで言葉を切って、鼻をかんだ。
「――携帯は確かに、人と人とを繋ぐ面と向かっての"対話"の機会を減らしてしまうものかもしれません・・・ですが、それだけが人の繋がりでは無いのではないでしょうか。メールが一通来る、内容は今日一日のなんでもないことの報告・・・でも私には、それを読む瞬間が一番幸せなのです・・・それだけの関係でも、たったそれだけの繋がりかもしれません、でも、それが"幸せ"ではいけないのですか?食卓を囲んで談笑する・・・それだけが絶対的な"幸せ"なのでしょうか?――繋がりは、幸せは、十人十色です」
老人は断頭台の上、押さえつけられた青年に目を向ける。
「この青年は、私に私の"幸せ"を提供してくれた恩人です・・・どうか、携帯電話を、確かに多少の規制は必要かもしれませんが、できるだけ自由に使わせてください。まだ殺すと言うのなら、その方の代わりに私を殺してください、だから、老いぼれの願い、どうか、もう一度考え直して下さい・・・」
老人は語り終えると、断頭台に上がり、霖之助の縄を解いてやった。天狗は何も言うことなく、ただじっと老人と青年を見つめていた。
賢者は立ち上がって天狗に呼びかけた。
「貴方たち、もういいわ・・・帰りなさい」
二匹の天狗は頷き、大斧を肩に担いで飛び去っていった。
「まったく・・・これだからもしもしは・・・」
賢者は民家の壁に貼られた『もしもし、ダメ、ゼッタイ』と書かれたポスターを破り捨て、ひとり呟いた。
某掲示板でよく聞くフレーズから何か妄想してみた
ゴルジ体
作品情報
作品集:
18
投稿日時:
2010/07/06 05:55:05
更新日時:
2010/07/06 14:55:05
時々何のために携帯してるのかなって思うの・・・
―― NTT東日本
BGM: 遠く遠く / 槇原敬之
スターリンや毛沢東の国家共産主義化やヒトラーの
退廃芸術追放運動もこんな感じだったんだろうな・・・・・・
そして>13うまいこと言ったつもりかw