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『マリサイレントヒル』 作者: 290
真夜中、魔法の森。
傾きかかった看板に、「霧雨魔法店」の文字。
その家の屋根に、巨大な影がひとつ。
***
「んぁ……」
私は目をこすりながらベッドから身を起こした。
サイドテーブルに置かれた時計を見ようとしたが、寝る前にそこにおいた黒白帽子に遮られて見えない。
代わりにとカーテンの隙間から窓の外を見るが、魔法の森は未だ濃い霧と暗闇に閉ざされていた。
もう一度寝ようと柔らかな枕に頭をうずめかけた私は、はっと気がついて顔を上げた。
窓の外が、痛いほどの静寂に閉ざされているのだ。
虫の声、草木のざわめき一つしない、完全な闇と、霧に閉ざされた空間。
何か、胸騒ぎがする。
枕元においた時計を見れば、短針も長身も、ぐるぐるぐるぐると回転をやめず、回りつづけていた。
ぞく、と体中の皮膚が粟立つ。
私はのそりと身を起こすと、サイドテーブルの八卦炉を手にとって用心深く辺りを見回した。
家の周りに張った対妖怪用の結界は破られた形跡が無いので、家には何も進入していないだろう。
ベッドから降り、白い寝巻き用のワンピースの上から黒いカーディガンを羽織る。
夏とはいえ、魔法の森の夜はひどく冷える。
霧まで出ているのだから外の気温はかなり低いのだろう、との考えからだった。
侵入者が無いなら大丈夫だ。
霧が出ている所為で音の通りが悪く、虫の声も草木のざわめきも聞こえてこないのだろう。
私は苦笑した。自分には亡霊の友人だっているのだ。何をいまさら幽霊を怖がる必要があるんだろう?
……中途半端に目が冷めてしまった。
ミルクでも温めて紅茶を立てて、一服してから寝るか、と私がリビングへ向かおうとした矢先、
―――――コン、コン。
軽い、ノックの音が聞こえた。
私は部屋を振り返る。
ベッドの横、レースのカーテンがかかった窓から白い、能面のような女の顔がちらちらと覗いていた。
ひっ、と息を呑んだ。
ぎょろり、と赤い目玉が部屋中を嘗め回すように見つめている。
……だが、あの角度からだったら今私の立っている場所は見えないはずだ。
私は八卦炉をぎゅっと握り締め、息を殺しながら、そろそろと玄関へ歩き出した。
―――――ゴン、ゴン。
鈍い、ノックの音が響く。
今度は振り返ることが出来なかった。
がたがたと体が震えだす。
ピシリ。
魔法で強化してあるはずのガラス窓に蜘蛛の巣状のヒビが走るのを結界が感知する。
びーっ、びーっと部屋中に激しく警報が鳴り響く。
限界だった。
「――――!!」
私はなりふり構わず家のドアへと飛びつく。開かない。
当たり前だ、鍵が閉まってるんだから!!
震える指で開錠、外へ出ようとドアノブを捻った瞬間、
『んふ』
女の、笑い声が聞こえた。
その声が聞こえた方向、頭上に目をやると。
にたり、と笑みを浮かべた女の顔と目が合った。
一瞬でその顔は溶け崩れ、仮面のようにひび割れた皮膚からはぼろぼろと蛆が零れ落ちる。
マネキンのような女。その胴体からは蜘蛛のような八本の足が生えていた。
その足が――――青白く、優美な女の手の形をした足が、こちらへ伸ばされて。
「あ、っ、わ、ぁああああ!!」
八卦炉が魔力に反応してばちり、と音を立てた。
一瞬で白い光が迸り、強烈な熱と光がその女の顔を焼きつくす。
髪の毛がこげるときのような酷く嫌な匂いが部屋中に充満する。
体をささえておく力を失ったのか、マネキン蜘蛛はどしゃり、と音を立てて天井から落ちてきた。
『ん、ふ、ふ……』
球体関節をぎしぎし言わせながら、赤い爪を床に立て、黒く焼け焦げた体を起こそうとしているマネキン蜘蛛。
胴体の少し上に付いた女の顔は、ひどく幸せそうな笑みを浮かべていた。
「あああああああああああ!!いやだぁああああ!!」
叫びを上げ、私はその場にいることを放棄する。
玄関に立てかけてあった箒を引っつかんで、闇と霧に閉ざされた森へと駆け出した。
***
「ッ、なん、なんだよぉおうっ……」
ざくり、霧によってしっとりと湿った下草を踏みしめる足を止め、大きな木の幹に体を持たせかけ、ため息をつく。
裸足のまま家を飛び出してきたから足の裏はずたずたで、血が出て来ている。
だが、今のところは興奮している所為か殆ど傷みは感じない。
魔法の森の上空は瘴気で満ちているために飛ぶことはできない。
どんなに足が痛んでも、走って逃げるしかないのだ。
手の甲で額の汗ととめどなくあふれてくる涙をぬぐい、荒い息を整える。
「あ、アリスの家に……」
思い浮かぶのは、近所に住む人形遣いの魔女。
一人でいるより二人でいたほうが安心だし、なによりあのマネキン蜘蛛がいつ追ってくるかもわからない。
そう思い足を踏み出した瞬間、ぐにゃりとしたゴム風船を踏んだような感覚がし、
「あづっ……!!」
足の裏に鋭い痛みが走った。
実験中に酸のビンを誤って割ってしまい、薬液に触れたときの焼け付くような痛みによく似ている。
私は反射的にその場から飛び退り、木の根元にしりもちをついた。
焼け付くような痛み。その原因を確かめようと私は八卦炉をかざす。
足の裏の皮が剥がれ、熟れすぎた桃のような赤色の肉がぬらりと光っていた。
先ほど立っていた場所にはぼんやりとした八卦炉の光に照らされて、頭を潰された巨大な肉色の蛭が断末魔の苦しみに悶えていた。
「ひぃっ……!!」
言い知れぬ嫌悪感に咽喉がひくッ、と痙攣した。
その肉色の蛭は一匹だけではない。何匹も、何かを探すように辺りを這い回っている。
そのなかの一匹が不意に頭をくいっと高く上げた。
私の持つ八卦炉から発される光を感知したのか、頭を左右に振りながらこちらに近づいてくる。
「っ、あ、あぁああ!!来るなぁあああ!!!」
私は叫びを上げながら箒を振り下ろす。
べちゃり。
あっけなく蛭は潰れ、赤色の液体を辺りに飛び散らせながら動きを止める。
箒の柄にも液体は付着し、それはじゅうっ、と音を立ててマホガニイの柄を溶かした。
ぞっ、とする。
この蛭はヤバい。
八卦炉の光に反応して襲ってくるみたいだ、でも、八卦炉の光が無いと濃い霧が出ている今日は視界がほぼゼロだ。
私は一瞬迷ったが、八卦炉への魔力供給をやめ、一度光を消す。
魔法の森は、あっという間に霧と闇に閉ざされた。
私は極力足音を立てないようにと、そっとその場を離れる。
アリスの家まではあと少しだ。自然と早足になる。
先ほどわけのわからない蛭にやられた足の裏の痛みも忘れ、必死に走る。
アリスの家にたどり着きさえすれば何とかなる。
アリスが助けてくれる。なんとかなる。だからもう少し頑張ろう。
そう思うことで必死に自分を鼓舞し、ともすれば倒れてしまいそうな体を箒でささえながら。
私はアリスの家へと急いだ。
***
「あ、ア、アリス!!開けてくれ、大変なんだ!!大変なんだよ!!」
私はアリスの家のドアにぶつかるようにしてノックをする。
と、ぶつかった勢いのまま、キィ、と音を立ててドアが開いた。
用心深いアリスのことだ、こんな時間に鍵を空けたまま眠ることなんてありえない。
「アリスー……?」
ドアの向こう側、薄ぼんやりとした明かりに照らされた室内は私を誘いこむかのようで。
ばくばくばく、と心臓が鼓動を早める。
部屋の中からむわっ、と鉄錆に似た強い臭気が香った。
嫌な予感がする。
「ア、アリ、ス……?」
「ま、り……さ!」
アリスが、アリスが。
白いゾンビのような何かに、首をつかまれ宙に吊り上げられていた。
アリスの額からどろどろと黒っぽい液体が流れているのが、薄暗い明かりでもはっきりと判る。
「……逃げな、さっ……!」
首を絞められながら、苦しげに目を見開きながら、アリスは私に逃げるようにと叫ぶ。
アリスを締め上げる男の顔はわからない。だが、その手はぎりぎりとアリスの頸を締め上げる。
「やめろぉおおおおおお!!」
私は箒をしっかりと掴んで、男に飛び掛かった。
がつん、と金属でも打ったかのような固い感触。じぃん、と手が痺れる。
男はアリスからぱっと手を離し、すばやい動きで私に飛び掛かってきた。
目も鼻も無い顔にぽっかりとあいた穴から、生臭い息が顔にかかる。
引き剥がそうとするが、相手の力が強くて歯が立たない。
「くたっ……ばれ!!」
私は八卦炉を男の顔に向けて、魔力を込めた。
バチッ、と火花が散る。八卦炉からは光の奔流が――――
流れ出てこない。
何で?
真っ白になった私の思考。
魔力切れ、という単語が頭の中で明滅する。
男は顔面に一つだけぽっかりと開いた口のようなものを大きく広げ、鋭い歯を私に見せ付けるようにして哂った。
噛み付かれる!!
私はきつく目を閉じ、来るべき痛みに備えて体を固くした。
だが、いつまでたっても痛みが襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、私の上にのしかかっていたはずの男の体からは力が抜けていた。
頭からどす黒いタールのようなものを撒き散らしながらアリスの家の床に融ける様に消えていく。
「はぁっ、は、は……」
目を見開き、息を切らせたアリスが木槌を手に立っていた。
「た、助かったぁあ……」
私は本日二回目の安堵の息を漏らし、その場にへたりこむ。
ぼろぼろと涙がこぼれだす。私もずいぶん泣き虫になったもんだな、と心の中でため息をついた。
***
「……魔理沙の家には、蜘蛛女?」
「あぁ」
私はアリスに足の傷の手当てをしてもらいながら今までのことを話していた。
ぐちゃぐちゃに荒らされ、人形の小さな手足や布の切れ端が散らばるアリスの家は、いつもの整然と片付いたそことは大違いだ。
「いでっ」
「我慢しなさいよ。消毒しないと爛れちゃうわよ」
そういいながら消毒用のアルコールを含ませたガーゼを私の足の裏に当てるアリス。
私の足は思っていたより状態が酷いようで、ここまで良く歩いてきたわね、と驚かれた。
「に、しても、嫌な体液をもつ蛭に、さっきのゾンビもどき、マネキン蜘蛛女、ねぇ……」
「魔法の森にあんなやつら、いなかったよな?」
「そうね。今までは。異変かもしれないわ、魔理沙」
「こんな平和的じゃない異変、嫌だぜ……」
手際よく私の足に包帯を巻いていくアリス。
その青い瞳には、決意の色が宿っていた。
「解決するわよ」
「えぇっ!?」
「どの道、こんな森じゃあ危なすぎて生活することも出来ないわ」
「そりゃあ、そうだけど……」
「とりあえず霊夢に相談しに行きましょ。一人じゃヤバいけど、二人なら大丈夫よ」
「そうかぁ?」
「そうよ。あんまりここに留まるのも危ないわ。行きましょ」
包帯を巻き終え、アリスはにっこりと私に向かって微笑む。
異常事態だというのについその笑顔に見ほれてしまい、そんな場合じゃないだろう、と自分を叱咤した。
「ほら、立って」
アリスに手を引かれ、立ち上がる。
少しサイズが大きめなアリスのブーツを借り、私とアリスは家の外へと歩みでた。
だが、アリスの姿に違和感を覚える。
アリスがいつもそばに従えている人形の姿が一体も無い。
異変だというのに。外出するというのに。
「なぁ、上海達は?」
私がそう問うと、アリスは長い睫毛を伏せて泣きそうな顔で、
「……みんな、やられたわ」
そう告げるアリスに、私は返す言葉を失ってしまった。
「みんなの、敵討ちよ。博霊神社に行きましょ、霊夢が動いてるかもしれない」
魔法の森を満たす濃い霧の中、アリスの声は凛として力強く、響いた。
この後魔理沙とアリスが博霊神社に行って変わり果てた姿の霊夢を発見したり
三角頭様に追いかけられたり人里に行って二つ頭のわんわんに追いかけられたり
永遠亭に行ってバブルヘッドイナバに追いかけられたりとかあったけど
飽きた(^q^)サイレントヒル面白いです
290
- 作品情報
- 作品集:
- 18
- 投稿日時:
- 2010/07/14 13:47:49
- 更新日時:
- 2010/07/14 22:47:49
- 分類
- 魔理沙
- アリス
- 出来の悪いパロディ
続編楽しみです
霊夢……あれほど変な生き物の拾い食いはダメだと言ったのに……
となりそうです。
長野だよ