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『小町のお話』 作者: JJJ
いらっしゃい。ここは三途の川の岸辺だ。
そしてあたいは船頭をやってる死神の小野塚小町だよ。
それじゃあ行こうか。お金は……うん、ちゃんとあるね。貰っておくよ。
なにやってんだい? ほら、さっさと船に乗りな。
お前さんはもう死んじまったんだ。
川岸でぽかんと口を開けてても何もならんよ。
とっとと乗った乗った。
ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ
……どうしたんだい? そんな顔をして。
まあ、聞かなくても分かってるけどね。お裁きがこわいんだろ?
やっぱりそうかい。そうだろうね。
そんなに心配することはないさ。
というよりいまさら心配しても遅い遅い。あっはっは。
はっはっは……すまん。そんなに怒らないどくれ。
このあたりの裁きを担当する閻魔様は映姫様と言って、
知ってるだろう? たまに里にも顔を出してお説教してる……そうそう、その緑髪のお方。
その映姫様が担当だからそう悪いようにはならないさ。
とても公平なお方だ。だから気を揉みなさんな。
……うん、うん。……見た目は良いが声が怖いだって!?
あっはっは! あたいの上司に向かってずいぶんと酷い事言ってくれるねえ。
地獄の鬼のような暗くて恐ろしい声って、いくらなんでも酷いじゃないのさ。
…… ……。
ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ
何年前だったかなぁ。
あたいが是非曲直庁に勤め出したころだから、んー……、年号は関係ないか。
とにかく昔のことさ。あたいが新人死神だったころのこと。
憧れの映姫様のもとで働けるってんであたいは舞い上がってたんだ。
映姫様映姫様って、いつもまとわりついてた。
休憩時間にお菓子を差し入れしたり休暇中に家に押しかけたり。
今考えれば鬱陶しい事この上ないけどさ、映姫様は静かに笑って付き合ってくれたんだ。
さすがに仕事中にじゃれついたらひっぱたかれてお説教されたけどね。
あれは本当に痛かった! 反省文書かされたのもあれが初めてで……。
ああ、すまない。話がそれた。
とにかく、昔のあたいは映姫様に気に入られたくて仲良くなりたくて仕方がなかったんだ。
……そんなある日。あたいは何気なく言ってしまったんだよ。
「映姫様のお声は本当に素敵です。しゃがれたハスキーボイスのお説教は
聞いているだけで痺れてしまいます!」
とかなんとかつまらないおべんちゃらをね。
無知っていうのは恐ろしいね。
どんな愚かな事でも平気な顔をしてやってのける。
あたいの愚かな世辞を聞いた映姫さまはあたいをじっと見つめたんだ。
目を真ん丸になるまで広げて、くちびるをわなわなと震わせてた。
搾り出すように「なにを馬鹿なことを」とだけ言って映姫様はどこかに行ってしまった。
あとで先輩の死神にしかられたよ。
映姫様は自分の声が大嫌いなんだそうだ。
ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ
ごめんよ。あたいの話は退屈かい?
お前さんにまったく関係のない話ってわけでもないんだ。
……向こう岸につくのはまだまだ先。
もうちょっとだけあたいの昔話に付き合っておくれ。
閻魔はお地蔵様から選ばれるってのは知ってるよね?
映姫様も元は幻想郷の道端に立つお地蔵様だったのさ。
映姫様はとても優しいお方だ。とても慕われたお地蔵様だったそうだよ。
ふふふ、嘘じゃないよ。
まあ、しかめっ面してお説教してる今からじゃ想像できないか。
お地蔵様のころの映姫様は人間のために日夜がんばってたからね。
閻魔に選ばれたときはとても喜んだそうだ。
幻想郷中の人間のために働けるわけだ。
幻想郷中の人間を救うことができるわけだ。
やりがいのある、いい仕事だと思うよね。
……でもまあそんなに甘くはなかったみたいだよ。
そりゃあそうだよね。閻魔なんだから。
人間が嫌がってもお説教はしないといけないし。
地獄に突き落として苦しむ様も見ないといけないし。
割り切れないような、やりきれないようなことを沢山しないといけない。
閻魔になったばかりの映姫様は毎日泣きそうな顔をして裁判に出ていたそうだ。
地蔵時代の顔見知りを地獄に叩き落したこともあったみたいだよ。
ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ
そして一日の終わりに煮えた銅を飲むのさ。
……あれ、知らない?
数多くの罪を裁く閻魔はそれ故に人を裁く罪を犯している。
その罪をあがなう為に地獄一の苦しみとして溶かした銅を飲まなければいけない。
閻魔様の決まりごとだね。
……もっとも今時こんな決まりを守っている閻魔様はほとんどいないけどね。
ほとんどの閻魔は飲んだふりをして終わりさ。
でも映姫様は真面目だからね。ずっとそれを守ってる。
今日も一人、地獄に落としてしまった。
今日も一人、改心させることができなかった。
自分の無力さを攻めながら銅を飲み干すのさ……。
……わかるかい!? 煮えた銅だよ!?
地獄に落ちたのは罪を犯したからで映姫様のせいじゃないのに。
改心して善行に励まないのはそいつが怠け者なだけなのに。
もっと頑張れば救えたはずだって泣いて謝りながら銅を飲んでいるんだよ!
ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ
……ごめんよ。熱くなりすぎた。
映姫様のことになると見境がなくなってしまう。
あたいもまだまだ青いねえ。ははははは。
…… ……。
いくら閻魔の体が丈夫だといっても煮えた銅を飲めばただじゃすまない。
舌や喉は焼け爛れるし、冷えて固まった銅が内臓にたまっていく。
それらは治ることはないんだ。なんたって罪の証だからね。
真面目な映姫様の体はぼろぼろなんだよ。
……あたいが褒めてしまったハスキーボイスだってそうさ。
真っ赤に焼けてしまった映姫様の喉はもう濁った声しか出せないんだ。
映姫様は自分の声を聞くたびに救えなかった魂たちを思い出しているよ。
見ていて悲しくなるくらい自分の厳しいお方なんだ。
映姫様にとって自分のしゃがれ声は己の未熟さの証みたいなもの、なんだろうな。
そんな声を褒めたって喜ぶはずがない。昔のあたいは本当に愚かだった。
ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ ぎぃこ
お、向こう岸が見えてきた。
そろそろあたいとの船旅も終わりだよ。つまらない話につき合わせて悪かったね。
船を下りたら道なりにま〜すぐ進むんだよ。ちょっと歩けば大きな扉があるから。
そこをくぐれば映姫様のお裁きが始まるよ。
ま、当たって砕けてきな。
いやいや、砕けたらまずいか、ははははははは。
…… ……。
映姫様の声は怖いかもしれない。
でもそれはお前さんたち人間が嫌いなんじゃないよ。
映姫様は、人間のことが大好きで大好きでたまらないのさ。
人間のためにすべてを犠牲にしてしまうほど優しいお方なんだよ。
…… ……。
さあ、ついたよ。
ここでお別れだ。行っておいで。
映姫様のお説教、真面目に聞くんだよ!
ちょっとした小ネタです。
どーにも説明口調くさいのが直せませんでした。
台詞調の文はちょっと難しいです。
はすきーぼいすのえいきさまかわいい
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コメント返信です
>>1
ハスキーボイスの魅力について是非一言お願いします。
正座して待ってますので。
>>2
ハスキーな声の裁判は受けてみたいですね。
お説教中にニヤついてしまってもっとお説教されそうですが。
>>3
そう言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます。
>>4
ありがとうございます。
また綺麗と言って頂けるように頑張ってみます。
JJJ
- 作品情報
- 作品集:
- 18
- 投稿日時:
- 2010/07/15 15:13:01
- 更新日時:
- 2010/07/16 23:06:09
- 分類
- 小町
- 映姫
そういえば最近ハスキーボイスが何なのかわかってないのが多いな
俺がなんたるかを教えてやる!
はすきーぼいすだし!
良かったよ