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『幻想侵略記4』 作者: IMAMI
十王会議。
秦広王。
初江王。
宋帝王。
五官王。
閻魔王。
変成王。
秦山王。
平等王。
都市王。
五道転輪王。
あの世の裁判官十人がこれからのあの世の方針について会議する場である。
「変成王殿。そちらの方の予算を多少切り詰めさせて頂くが、宜しいかね?」
「仕方ないですね………
まぁ、やっていけないことはないですね」
「私からも都市王殿へ宜しいでしょうか。
最近あなた判決を有罪にすることが多いようですね。平等王から貴方へ来たとたん、魂の数が減っている………」
閻魔王、映姫は会議を殆ど聞いていなかった。幻想郷のこと、小町の事が気にかかる。
「閻魔王殿」
「えっ!?
は、はい!?」
議長を務める秦広王に声をかけられて慌てて返事を返した。
「どうされたのかな。ぼけっとして」
「まるであなたの部下のあの人みたいですよ」
秦山王にそう言われて映姫の胸が痛む。………言おう。
「そのことで皆様にお話があります」
映姫がそう言うと全員の注目が映姫に集まった。
「小町の…死神・小野塚小町のことでお話があります。
ついさっき、私は小野塚小町を…………解雇しました」
一瞬だけ迷ったあと映姫はこういい放つ。
「そうですか。では、死神を配属させます。都合のため選ばせることは出来ませんが優秀な人材を派遣しますので」
そして映姫は決意し、言葉を紡ぎだした。
「私も閻魔を辞任します」
……………………………
会議室は静寂に包まれる。
「何を仰っているのだ閻魔王殿。ご自分の立場を理解しているのですか?」
静寂を破って都市王が口を開いた。
「もちろんです」
「理解している態度とは思えませんよ」
宋帝王も映姫を批難する。
「あなたはその冠と服の重さをわかっているのか!」
「ふざけないでください!」
他の十王も映姫に辛言を浴びせる。
「重さですか?十分理解していますよ」
と、そこで映姫は自らの厳かな冠を外し、目の前に置いた。そして───
「なっ!?」
「閻魔王殿!何をなさる!?」
映姫は制服を緑茶の香りがする脱ぎ始めた。無造作に、着替えをするかのように。
そして映姫は自分を表すかのような白い下着に包まれた肢体を同僚達の前に晒した。
「今まで、お世話になりました。次の閻魔は謨督が適任です」
映姫が十王補佐の名を告げて会議室を去ろうとしたとき、秦広王が映姫を引き留めた。
「待ちなさい!」
だが映姫は十王達を一瞥したあと、会議室を出ていった。下着姿のまま廊下を歩いて自分の仕事部屋へと戻った。
(恥ずかしかった………!)
異性の前では下着姿すら晒したことがなかった。再び映姫の目に涙が浮かぶ。
結局自分も小町と同じだった。
映姫は普段着のブラウスを着こんで、はき慣れた短いスカートをはいた。
仕事場を出て、幻想郷の彼岸へと向かう。そろそろここも彼岸が咲き乱れ、燃えるような赤色に染まるのだ。
「見るまで幻想郷は死なせないわ」
映姫は彼岸を見回す。すると、茂みから上半身だけを出しているいつものスタイルで寝転がっている小町を発見した。
「小町」
映姫は小町の近くに降り立った。
「小町。私も幻想郷を守りますよ。って起きなさい!」
悔悟の棒で小町の赤いツインテール頭をひっぱたく。
「まったく………
小町。ありがとう気づかせてくれて。どうかしていたわ私。
私はここが好きよ。こんなに綺麗な所がたくさんあって、まっすぐな人たちが居ました。だから、ね小町。ごめんなさい。一緒にいきましょう」
小町は未だに目を冷まさない。
「小町?まだ起きてないんですかまったく───」
映姫はたまにするように小町の脇に手を挟んで持ち上げた。
しかし今回は今までと違って小町の身体が簡単に持ち上がった。
「え………?」
それもその筈だ。今まで映姫が話しかけていた小町には下半身が無かったのだから。
上半身の終わり、千切れた胴体から内臓が飛び出て、血と液状の汚物が滴り落ちる。
「ひ………こま…ち───!!」
動揺のあまり小町の上半身を取り落としてしまう。そのとき、後ろから声をかけられた。慌てて振り向く。
「あなたは四季映姫ですな?」
「………!?
あなたは………」
「覚えていらしたか。嬉しい限りですな」
そこには銅杖を構えた袴姿の初老の男がそこにいた。
「ええ───
あの───」
映姫はこの男に助けを求めようとした。なぜここにいるのかわからないが、この男なら間違いなく幻想郷の味方になるだろう。
「ああ。私に助けを求めてもムダですぞ。私の目的は四季映姫。あなたを亡き者にすることですからの」
「そんなっ!?」
どうして、どうして彼がそんなこと───
「四季映姫。貴女の能力は脅威すぎる。恐らく私以外の侵略者なら太刀打ち出来んだろうからな」
「!?
あなた、侵略者に荷担しているのですか!どうして!?どうしてそんな!」
「私の理想が今の幻想郷の理想とは違うからだ」
男の面は破れない。もしかしたら偽物なのかもしれないと思えたが、そこにいる男は間違いなく映姫の知る男だった。
「………最後に聞かせてください。小町を殺したのはあなたですか?」
男は答えた。
「その死神か?ああ。私が殺した」
映姫は絶句する。
「え………?」
一粒、涙が零れ落ちた。
『は、初めまして!死神、小野塚小町です!』
初めて出会ったときの小町。
『ひゃっ!?
ね、寝てませんよ!』
昼寝を注意したときの小町。
『映姫様。呑みにいきましょう!』
話し相手すらいなかった自分に気さくに話しかけた小町。
『大好きです。映姫様』
閻魔の自分を好きだと言ってくれた小町。
いろいろな小町が自分の中で蘇って弾けた。
「わかりました」
涙を一回拭う映姫。
「これで貴方を遠慮なく地獄へ遅れます!」
懐から浄玻璃の鏡を取り出して振りかざした。
審判「浄頗梨審判─博麗靈司─」
今までの罪を映し出し、裁く十王の鏡が男、博麗靈司を捉える。
はずだった。
「私を裁くことは出来んよ」
鏡は何も映さず、その力を発揮することはなかった。
「くっ…やはりあなたには私の能力の管轄外。ですか………」
「今度は私からいかせてもらいましょうか」
靈司がそう言った瞬間、無数の陰陽玉が空から落ちてきた。
「くっ!」
映姫は自分の回りに弾幕裁判を展開し、陰陽玉を自分の弾幕にして靈司を攻撃する。
「おお。これはたまらんな」
靈司は陰陽玉での攻撃を止め、亜空穴を使って映姫の背後に回った。そして神力を込めた針を映姫に飛ばした。
「!!」
映姫は飛び退いて針をかわしたが、ホーミングアミュレットによる弾幕に身体を打ち据えられた。
だが威力は弱く、映姫に対しては多少痺れる程度だった。
(接近戦のほうが良さそうね…)
「やあっ!」
映姫は立ち上がって靈司に駆け寄り、悔悟の棒を靈司に向かってふり下ろした。
「おっと」
銅杖を使って悔悟の棒を受け止める靈司。そのままつばぜり合いになる。
(どうやらまだ人間みたいね。博麗靈司………でも人間ならなんであなたがここに………!)
押し返す腕力で映姫は靈司が人間であるということを確信する。さすがに彼は霊力を使って戦うのは抜群に上手いが所詮は神社の巫女と同じ人間だ。
「たぁっ!」
映姫は空いている方の手で銅杖を叩き落とし、神力を瞬間的に練り出せるだけ練り出して右足に込めた。そしてそれをがら空きになった靈司の胴体へ叩き込む。
ゴシャッ───
水気を多く含んだ野菜を叩き潰したような音と共に靈司の身体がひしゃげて、上半身と下半身の2つに別れてしまった。
映姫は返り血も拭わず、靈司の上半身へと駆け寄った。もうすでに靈司の眼は何も映し出していない………
「こんな簡単に死ぬなんて………!!」
許せない。もっともっと、苦しんで死ねばよかったのに。
映姫は靈司の顔面を踏み潰そうと足を上げた瞬間、がくん。と膝を地面についた。そして映姫は自分の身体についた紅化粧の違和感を感じとった。
(!!
血じゃないわこれ───御神水!と、いうことは───!)
御神水は映姫の身体を毒のように蝕み、体力を奪った。
そして靈司の亡骸が大量の退魔札に変わり、それらが一斉に映姫を襲った。
「ぐわぁぁぁぁぁあっ!」
弾幕裁判での防御も間に合わず、映姫は全身に退魔札を受けた。受けた所が火傷したように爛れ、気が狂いそうになる痛みを映姫の身体に与える。
「が…はっ………」
「平和ボケしたか四季映姫。私程の者に遠距離で勝てないから安易に接近するとは…」
中空の亜空穴から靈司が現れ、映姫の頭の近くに着地した。
「ぐっ…まだ、まだです!」
「ぐわっ!」
映姫は持っていた霊撃札に魔力を込めて霊撃を放った。吹き飛ばされる靈司。その隙をついて映姫は体勢を立て直した。
「ちっ、便利な物が出来たな」
とはいえ、札のダメージはかなり大きい。目が霞み、足元がふらつく。
(小町…ごめんなさい。私では彼には勝てません)
小町は跳躍し、彼岸から飛び立った。スピードには自信がないわけではない。少なくとも博麗の人間よりは早いつもりだ。
飛びながら後ろを見ると、靈司が追ってきているのがわかった。だが降りきれるスピードだ。
映姫が再び前を向いてスピードを上げようとしたとき、映姫の顔が凍りついた。
靈司から色鮮やかな光球が発射され、映姫を追っていた。靈司を振り切れてもあの技、夢想封印は降りきる事ができない。あれを降りきれた者は今の幻想郷では一人しかいないと聞く。
やがて映姫は夢想封印に追い付かれ、残忍な神力にその身体を蹂躙され、力無く地面に落下した。
身体を強く打ち付ける。下半身の感覚が全くない。背骨が折れたらしい。
(小町………仇、取れませんでした。ごめんなさい………)
意識が闇に覆われて混濁していく。靈司が近付いてくるのが気配でわかる。もう助からない。
映姫はそのまま闇へと消えていった───
「おら、よっと!」
妖怪の山の麓近くでも、虐殺が行われていた。
厄神、鍵山雛がたった今肥満体の男の振るった白狼刀によって首を跳ねられた。
雛の首が回転しながら宙を舞い、命令系統を奪われた身体が力なく倒れ伏した。
「こいつはすげぇや。首を跳ねやすくていい」
肥満体の男は刀身に付いた血液を払って腰に差した。
(ひなっ………!!)
その様子を一人見ていた河童の少女、河城にとりは刀に目をやった。
(あれ、椛の刀………
まさか椛も!)
椛の刀を持っているということは、椛はもうあの男に殺されたのかもしれない。
にとりの目の前にが真っ赤になるが、白狼天狗や烏天狗が束になってかかっても地面に膝をつきすらしなかった。しかも唯一の勝機となり得たオプティカルカモフラージュもさっき囚人だった天狗に襲われて壊してしまった。
「ふう…やっぱあれか?玉鋼で作ったのか?こんな幅広の曲刀をか?」
肥満体の男は白狼刀の刀身を眺めながらこちらに背を向けて岩の上に座った。チャンスだ───
にとりは持っていた火縄銃の口火を切り、火蓋を落として銃口の狙いを肥満体の男の頭に定めた。距離は50メートル程。有効射程圏内。あとは当てるだけだ。にとりはこの距離程度離れた的ならばかなりの確率で命中させることが出来る。が、この精神状態で人を殺める凶弾を正確に放つことは出来るだろうか。
幸いにもこちらは風下だ。にとりは初弾ということもあって音を立てずに火縄を構えることが出来た。
(やるしかないじゃないかよ………!)
敵は憎い敵だ。躊躇うことはない。人間だが、あんな奴ら盟友じゃない。敵だ。
(死ねっ!)
ゆっくりと木の陰からにとりは引き金を引き、無防備な後頭部に銃弾を放った。
キン!
肥満体の男が白狼刀を横薙ぎに降ったとき、そんな音が響いた。にとりにはそれが何を意味しているのかわからなかった。弾は外れたのだろうか。
「おう、河童か…」
肥満体の男の眼がにとりを捉える。そして足元にあった小さい塊をにとりに放った。
「あ………」
半球型のそれは、火縄銃の弾が真っ二つに割れた物だった。
「さて、これで河童は175人目だな。眠らずに夜通し叩き切り続けたぜ。寝なくても平気な身体になったからな」
肥満体の男の眼が笑い、白狼刀をにとりに向けながら歩み寄る。
「………1つ、聞かせておくれよ。人間」
にとりは必死になって言葉を紡ぎ出した。
「あんたがもっているそれ、白狼天狗から奪ったものかい?」
「ああ。そうだよ。袈裟懸けにザクッてな」
肥満体の男はそう答えた。
「その白狼天狗は盾を持ってたかい。紅葉の葉が刻まれている盾だ」
「………紅葉?ああ。たしかに紅葉が刻まれた丸い盾を持った白狼天狗の小娘だった」
それを聞き、にとりは完全に言葉を失った。身体がガクガクと震え、涙が溢れて止まらなくなる。
「まさか友人同士だったのか?
河童と天狗は仲が良好ではないと聞くが…」
「なんで…なんでこんなことするんだよ!」
にとりは涙で濡れた眼で肥満体の男を睨み付けた。
「私達が人間に何かしたのか!?したとしてもこんなこと………!」
「あー…それ、30回は訊かれたよ。目的は知らない。立場が上の奴の命令でお前らを殺している。ここを侵略している」
肥満体の男の眼からは感情を読み取れない。まだにとりの機械のほうが表情豊かだ。
「命令で、自分の意思なくこんなことをしているのかよ!」
「ああ。そうだとも。
俺たちの世界の人間は命令と金でなんでもやるんだ」
「………じゃあ上の奴の目的を教えてくれよ。
私は………人間と河童と共存させたい」
「無理だ。人間はお前らみたいなわけわかんねぇバカ力だけある蛮人と共存したいとなんざ思わない。じゃあお前も死ね。抵抗したきゃしろ」
肥満体の男は白狼刀を振り上げ、持ち主の友人だった少女を蹂躙しようとした───そのとき
「!?」
突然、木の葉が舞い上がり、肥満体の男にまとわりついた。そのあと、草陰から現れた一人の少女が白狼刀を持っている方の肥満体の腕にしがみついた。
「にとり!逃げて!」
「………穣子様!」
その少女は秋の神の片割れ、秋穣子だった。
「にとり!早く逃げて!早くっ!」
「で、でも…」
「私達はこの山の秋な神様だよ!だったらこの山の妖怪を助けなきゃ!だから………!」
必死になりながらもにとりに微笑む穣子の言葉に今度は違った意味で泣きそうになるが、にとりはその言葉を受けとめ、自分がもてる全ての筋力で地面を蹴り、走った。
やがて後ろから少女の断末魔と妹の名を呼ぶ別の少女の悲鳴。
そしてもう一つの断末魔がにとりの耳から頭に侵入したが、にとりは歩みを止めることなく走り続けた───
人間の里には、どこかの世界と同じようにバケツをひっくり返したような豪雨が降り注いでいた。
「じゃあ阿求。私帰るわね。傘貸してくれない?」
「はい。どうぞ」
阿求は霊夢に番傘を手渡した。
「凄い危険な状況だけど、博麗としてあなた達を守るわ。
早苗のことよろしくね」
霊夢は家族以上の存在を奪われて精神が不安定な早苗のことを阿求に言うと求は笑みで返した。
すっかり暗くなった道を傘をさして歩き、これからのことを考える。
敵の情報は殆ど無いと行ってもいい。人間の里の生存者は早苗しか居らず、敵は妖力を吸い取る能力を持つ人間と、剣の手練れの人間がいるこしかわかっていない。天狗の発行する新聞も配られてない。
一先ず永遠亭と白玉桜とは連携が取れる状況となった。このあと、レミリアが起きているうちに紅魔館にも行かなくては。
そういえば早苗は射命丸文に保護されたと言っていた。早苗を人間の里に送りつけたあと、すぐにどこかへ消えていったらしい。文とコンタクトが取れればならさらに詳しい敵の情報がわかるかも知れない。
紫とも連絡が取れていない。まさか紫も………
霊夢が博麗神社の鳥居を潜ったとき、背後にから一人の妖怪が近づく気配を感じた。
「───?」
早苗は敵は人間だけのようだと言っていた。なら誰だ?
やがて気配が近くなると、誰が背後に要るのかわかった。
「文………?」
ゆっくり振り向く霊夢。そこには烏天狗の文がいた。
傘もささず、髪も羽もすぶ濡れになり、スカートもブラウスも肌に張り付いている。
「…………」
暗闇で文の表情はよくわからない。霊夢は文に向かって話しかけた。
「文でしょ?どこにいったのよ!?話聞かせて!」
霊夢は文に傘をさしてやると、文は霊夢の傘を払い飛ばした。
「え?文………ッ!?」
そして文は霊夢の胸ぐらを掴み上げた。霊夢は雨に打たれながら宙吊りになる。
「あ……や………!!やめて………!!」
苦しむ霊夢を文は無造作に雨で出来たぬかるみの中に放り投げる。霊夢はたちまち泥だらけになった。
「ゴホッ………!!文!?何を───ごげえっ!」
文は霊夢の頭を一本歯下駄式の靴で激しく蹴りつけた。
「痛い!文!やめて!やめてよ!」
文は霊夢を幽鬼のような表情で蹴り続ける。霊夢が意識を手放しかけたとき───
「やめろっ!」
文は何者かに突きとばされた。霊夢が倒れたまま顔だけ動かしてみると、その何者かは霧雨魔理沙だとわかった。
「文!何をしているんだ!?」
「………そうですか。あなたも敵ですか」
そう話す文の声は底冷えするほど冷たい。
「なんだよ敵って!」
「敵の中に、妖怪の山を侵略した者の中にスキマ妖怪の八雲紫がいました。
なら普通に考えて博麗霊夢は幻想郷の敵でしょう」
「紫が!?どうして!?」
「白々しいんだよてめぇっ!」
驚愕する霊夢に文はさらに蹴りを入れる。
「やめろ!それ以上やるなら───!!」
「それ以上やるなら、なんですか?」
文は魔理沙の手首を掴んだ。
「人間の小娘のあなたが天狗の私に何をするんですか?」
「うぐっ…!」
そしてその細い手首を妖怪の腕力で握りしめる。
「それだけじゃありませんよ。暗くてよく見えないでしょうが、これを」
魔理沙は八卦炉に魔力で灯りを点し、文が渡した二枚の紙切れを覗き込んだ。
───瞬間、魔理沙の顔が驚愕に覆われた。
「魔理沙…なに?それ」
魔理沙は泥だらけの霊夢に紙切れ二枚と八卦炉を私は。
一枚目は写真。全身が無惨に爛れ、身体が捻れ事切れた女性の写真。だがこの被写体には見覚えがある。
「閻魔………?」
いつもの姿ではないが間違いなく四季映姫・ヤマザナドゥその人だった。
もう1つの紙切れは霊夢が良く知っている、戦闘用の博麗の札だった。
「それは四季映姫の亡骸の近くにいくつか落ちていたもので、写真にもいくつか写っています。
その札は博麗の人間でないと扱えません。それに四季映姫の亡骸の傷跡は明らかに札によるものです。
博麗霊夢。あなたをこの異変の犯人と断定します」
「そんな!何かの間違いよ!私はこんなことしていない!信じて!───ぐごっ!?」
文は霊夢の鳩尾を蹴り上げた。魔理沙は今度は止めなかった。
「ま、りさ………」
「………霊夢。お前………」
「誰の目から見ても明らかでしょう?この写真はさっき既に私の一部だけの手書きの新聞と共に人里の長の家に配達致しました」
魔理沙の霊夢を信じる気持ちも揺らいでいるようだ。
「魔理沙!違う!私じゃない!私じゃないの!」
泣きながら霊夢は魔理沙にすがる。魔理沙は少し迷い、軈て文に写真を返して黙って背を向けて箒に跨がった。
「魔理沙!」
魔理沙は箒で自分の家の方角へと去っていった。
文は団扇を持つ手を振りかざした。
「これが普通よ。博麗霊夢。
さぁ、殺してあげるわ。手加減ではなく全力でね───!?」
そのとき、文の手首に鎖が絡み付いた。振り払おうとしたときには鎖に引っ張られて文は泥の中に倒れ込んだ。
「何をしているんだ!?天狗!?」
霊夢と文と同じく濡れ鼠で小麦色の髪を濡らして肌に張りつけた少女がいた。
小さな百鬼夜行、伊吹萃香だ。
「萃香さん!この巫女は…」
「そんなもん聞いていた!」
萃香は文に駆け寄り、写真を奪い取った。そして怒鳴り付ける。
「こんな紙切れ二枚で人を疑うんじゃないよ!お前は霊夢がやったのを見たのか!?」
「この写真を見れば状況証拠は明らかです!」
文も負けていない。
「鬼のくせに証拠があってもそんな出来もしないようなこと言うんですか!?身内だから庇うとかばっかみたい。そんなんだから人間に何回も退治されるんですよ!力だけあっても頭が足りないんですよあなたらは!」
「てめぇっ!」
萃香は文に馬乗りになる。
「殺して───」
「殺したいですか?どうぞどうぞ」
鬼に凄まれても文は冷静だ。
「今私を殺せば、あなた"方"が情報を隠蔽したことになりますよ。人間達ならまだしも、さっきいた魔理沙さんはどう思うでしょうね。侵略者に殺されたと思ってくれますかね?」
「………ぐっ」
萃香はそっと拳を下ろした。そうだ。今そんなことしたら本当に霊夢が犯人になってしまう。
萃香は文から退いた。
「分かればいいんですよ」
「うるさいっ!どこへでも消えちまえクズ天狗めっ!」
「おお、こわいこわい」
文は翼をはためかせて飛び立った。一瞬で文は夜の闇にきえていく。
「霊夢!大丈夫か!?」
萃香は霊夢に駆け寄る。あちこちを蹴られたりした上に泥だらけだ。
「すい…か………
ひぐっ…!!うぇぇぇぇん!」
もう堪えることなど出来なかった。 涙腺と感情が決壊し、泥だらけのまま萃香に抱きついた。
「大丈夫。大丈夫だよ霊夢。私が霊夢を信じるからな」
萃香もそれに応じて、そっとやさしく抱きしめた───
今回は書いてて楽しかったです。
そろそろ話が大きく動きます。
乞うご期待!
小野塚小町 博麗靈司によって殺される
四季映姫・ヤマザナドゥ 博麗靈司によって殺される
鍵山雛 肥満体の男に首をはねられ死亡
犬走椛 肥満体の男に挑み、討ち死に
秋穣子 肥満体の男に首をはねられ死亡
秋静葉 肥満体の男に首をはねられ死亡
IMAMI
- 作品情報
- 作品集:
- 18
- 投稿日時:
- 2010/07/21 19:04:12
- 更新日時:
- 2010/07/27 13:11:35
どうなることやら、ニンニン
えーきさまが…えーきさまが…
だが面白い、続きがとても気になります