Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『しあわせ適当系SS 『さわやか』』 作者: 大車輪
「暗いわね・・・」
陽の当たらない洞窟の中をレミリアは歩く。
空気はひんやりと冷たいが、湿度がかなり高くて少し汗をかいていた。
カビの臭いも嫌になる。
おまけに地面には余すところ無く苔が生えており、足元は滑りやすくて非常に危険だ。
すぐ隣にいる咲夜だって、ここが居心地がいいとは思っていないだろう。
ばしゃり
レミリアは水溜りを踏ん付けた。
水は瞬く間に靴と靴下を侵食して、つま先から踵までびしょ濡れになる。
片足だけ少し重くなる。
靴の中のぬめりとした感触がとても不快だ。
「少し休もうか。咲夜、靴下の代えはある?」
乾いた、苔の生えていない岩を見つけて、レミリアはそれに座り込んだ。
濡れた靴下を脱ぎ捨て、水気を飛ばすように岩に叩きつける。
それから首元のボタンを外し、手で扇いで服の中に風を送る。
そして手持ちのバックから水筒を取り出し、中身を一気に飲み干した。
「んぐ、んぐ、んぐ・・・」
冷たい水が乾いた喉を通り過ぎていく。
少し汗ばんだ白い首が微かに脈動していた。
ふと後ろを向けば、谷。
暗くてよく分からないが、遥か下を川が流れているらしい。
「ねえ、咲夜? 貴女も飲みなさいな。喉、渇いたでしょ?」
もう一本、水筒を取り出して咲夜に差し出した。
「グルルルルルルルゥゥゥゥ・・・!!!」
「えっ! な、何!?」
突然、咲夜が唸り声をあげた。
四肢で地面を強く踏みしめ、食い縛った牙を剥きだしにしながら。
「どうしたのよ? 一体、どうしたの?」
「グルル・・・グルルゥゥゥ・・・」
レミリアは咲夜を落ち着かせようとはしたが、いつまで経っても彼女の様子は変わらない。
「ちょっと、何か怖いものでもあるの?」
「ガウッ!!! ガウッ!!! ガオォォ!!!」
いつもの咲夜の鳴き声じゃない。
いや、そもそも咲夜は滅多に鳴いたりしない。
ここまで興奮した彼女を見るのは初めてだ。
一体、何が?
何に対して吠えているのか?
初めはレミリアもそれが分からなかった。
しかし辺りを見渡しても何も無い。
何も無いなら、もうこれしかない。
咲夜は、レミリアに吠えているのだ。
「ね、ねえ、咲夜? どうして怒ってるの?」
「グルル・・・ガウッ! ガウゥッ!」
「や・・・やめてよ。怖いから、吠えないで?」
「ガウッ! ガウッ! ガァウゥッ!!」
「私が悪かったなら謝るから・・・咲夜、仲直りしよ?」
優しくその右手を差し出した。
いつもだったら、咲夜はその手をペロペロと舌で舐めてくれる。
でも、その時は違った。
「ガゥゥゥゥゥ!!!」
「いっ、痛ぁぁぁぁ!!」
咲夜はその手に、自らの主の手に思いっきり噛み付いた。
「痛い! 痛い! 痛いよっ! 離してっ!」
白い、か弱い手に牙を深々と突き刺さして、咲夜は口を思い切り引き抜いた。
ブチッ! ブチッ! ブチブチブチブチッッッ!
「ああっ! うわぁぁぁぁぁ!!」
レミリアの手から、小指と薬指、中指の第二関節から先が消えた。
人差し指は骨だけが残った。
ぴゅ、ぴゅ、ぴゅーと、一定のリズムで鮮血が噴出す。
「嘘、どうして? 咲夜ぁ・・・」
咲夜がレミリアの元に来てから、彼女達はずっと一緒だった。
食事の時も寝る時も。
レミリアが咲夜のことを邪魔に思うことなんて一度も無かったし、咲夜にとってもそれは同じだろう。
だからこそ、咲夜にされたことは信じられない。
手なんかより胸が痛んだ。
むしゃり・・・むしゃり・・・
そんなレミリアの気持ちなど露知らず、咲夜は齧り取った「ごちそう」を味わっている。
「酷いよぉ・・・酷いじゃない・・・」
「・・・!? グルル!」
それを聞いた咲夜はしゃぶっていた指をペッと吐き出し、レミリアに襲い掛かった。
「グルルルルルル・・・」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
咲夜は頭からぶつかって、レミリアは背後の谷へ吹き飛ばされる。
「うわぁ! いやっ! がっあぁぁぁ!!!」
見た目以上に谷は深い。
頭を、背中を、全身を岩に打ちつけながら谷を転げ落ちていった。
「いやぁ! ぐわぁ! ぎぃっあぁぁぁ!!! ・・・ごはぁっ!」
最後に谷底の岩盤に激しく叩きつけられ軽くバウンドした後、ようやく彼女の身体は止まった。
「いた・・・い・・・から・・・だ・・・うごかな・・・」
暗いのか、それとも目が見えないのか、何も見えない。
川が浅くて流されなかったのは幸運だが、水がとても冷たい。
「なぜ・・・どう・・・して・・・? こんな・・・ことに・・・」
体中が痛い。動かない。
腕も脚も首も腰も、あらゆる箇所の骨が折れているのだから当然だ。
「やだ・・・しにたく・・・ないよぉ・・・」
「だれかぁ・・・たすけて・・・」
「あ・・・ぅぅぅ・・・」
「ぁ・・・」
コツッ
その時、レミリアの指元が何かに当たった。
朦朧とする意識の中、それを握って形を確かめる。
掌にすっぽり収まるサイズの、小瓶のようだ。
「も、もしかして?」
急いで瓶の蓋を捻って開け、中身を飲み干す。
間違いない。この味はビオタミンファイトCだ。
すると頭蓋骨陥没が、頭部裂傷が、頚椎骨折が、内臓破裂が、瞬く間に完治していく。
死の淵から蘇ったレミリアは、目をかっと見開いて勢いよく立ち上がり、こう叫んだ。
「ファイトォォォォォォァァ! いっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」
『体に天然のエナジー作用! 天然成分配合、ビオタミンファイトC!』
「・・・またレミリアの新しいCMか」
「全く、最近忙しいそうね」
霊夢が煎餅を一枚齧った。
「すっかり人気子役になったよな、あいつも」
「本当、出演料の何割か貰いたいくらいだわ」
魔理沙は大きく欠伸をして、こたつの上の蜜柑に手を伸ばした。
「まぁ、どうせあと数年もしたら女優業にも飽きるでしょ」
「それもそうだな」
大きく頷いて、魔理沙は蜜柑の皮を剥き始める。
「私としては、長く続けて貰った方がのんびり出来ていいんだけどねぇ」
「でも、たまには顔を見せてくれないと寂しいんじゃないのか?」
「まさか、このまま永久に来て欲しくないくらいだわ」
「そういうこと言ってると、そのうち周りから誰もいなくなるぜ?」
霊夢は少し顔をしかめて、煎餅を魔理沙に投げつけた。
「そんなに怒るなよ」
蜜柑を3,4房ほど一気に頬張る。
「こんばんわ。霊夢、いるかしら?」
「おや? 噂をすれば・・・」
二人が玄関に向かうと、レミリアを負ぶった咲夜がいた。
「魔理沙、貴女も来ていたのね?」
「ああ、こんな遅くまで仕事か?」
「そうよ。撮影が長引いちゃって、お嬢様も疲れて眠っちゃったわ」
つい先程、あんな悪態をついたのも忘れて、咲夜達を茶の間に案内する。
「ちょっと待っててね。今、お茶淹れるから」
「ああ、そんなにお構いしなくてもいいのよ」
「別に遠慮しなくてもいいわよ。疲れたでしょう?」
「・・・不味いわね。本当に不味い。まるで泥水のようだわ」
「ごめんなさい。本物のお茶は高くて買えないのよ」
「だからと言って、こんなものを客に出していいと思っているの!?」
歯に衣着せぬ咲夜の物言いに、霊夢はすっかり萎縮してしまった。
「ああ。私も前から思っていたけど、確かに霊夢の入れるお茶は不味いな」
「そんな、魔理沙まで?」
「雑巾の絞り汁でも入れてるんじゃないかしら?」
「そ、そんな事無いわよ!」
「だったら、どうしてお茶がこんなに不味くなるんだ?」
「知らないわよ、そんなこと・・・」
「だけどまあ、寒くて身体が冷えていたから助かったわ」
「ほ、本当?」
「ええ。この生臭い味も慣れればマッタリしていて美味しいわ」
「私も、霊夢が淹れてくれたお茶が一番美味しいって、ずっと前から思っていたぜ」
「そ、そんな・・・嘘でしょ?」
「ううん、本当よ」
「本当に、嘘じゃない?」
「嘘じゃないわ」
「冗談でしょ?」
「冗談なんかじゃないわ」
「お世辞でしょ?」
「お世辞じゃない」
「夢だったけど?」
「夢じゃない」
あまりに友人達に褒められるから、霊夢の顔は耳まで真っ赤になった。
「あやや、こんな所にいたんですか?」
その時、庭からこんな声がした。
嫌な奴が来た。咲夜の顔がそう言っている。
「不覚ですよ。最近はすっかりここに来なくなっていましたからねぇ」
家主の了解も無しに、そいつは土足で上がりこむ。
言葉使いこそは丁寧だが態度は山の様にデカい。
そして勝手にコタツに潜り、蜜柑を一つ掻っ攫った。
「言っておくけど、お嬢様へのインタビューだったらお断りよ」
「あれ、どうしてですか?」
「見ての通り、眠っているからよ」
咲夜の胸の中で、レミリアは小さな寝息をたてている。
「でしたら、起こしてもらえますか?」
「嫌よ」
「では、レミリアさんが起きるまで待つとしますか」
「駄目よ。あんたはさっさと帰りなさい」
霊夢が片手を振って、追い払うような仕草を見せる。
「チッ、今時ここは妖怪差別の激しい神社だ」
文はわざと聞こえるような声で呟いた。
「まあ、でも何も仕事をしないで帰る訳にはいきませんよね」
「何よ?」
「霊夢さん。最近、幻想郷で異変の類はありませんか?」
「・・・何も無いわね」
慌てて顔を背ける霊夢。
しかし文には確信がある。全くの当てずっぽうでこんな事を聞いている訳ではないのだ。
「またまたぁ〜。本当は何か、知っているんじゃないですか?」
「本当に何も知らないわよ」
「えぇ〜? 本当ですかねぇ?」
「馬鹿馬鹿しい。知らないって言ってるでしょう」
「ほぉ〜、そうですか。では、そういうことにしてあげましょう」
これで巫女への尋問は終了とすることにした。
こいつは顔には出るものの、口は堅い。
どうせ具体的な事なんて何一つ喋ってくれないだろう。
それより、今の態度。自分の中の確信がより強固なものになった。
文にとってはそれだけで十分だった。
「では、次に魔理沙さん?」
「な、何だ?」
文が場所を移動し、魔理沙の目の前に座る。
「別に私から聞くようなことは無いぜ?」
「いえ、そういう訳ではないのです。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「ええ、実は・・・」
パカァ!
次の瞬間、文の額が真っ二つに割れ、中から噴出した灼熱の脳漿が魔理沙の顔面に直撃した。
ブシャァァァァァァァァ!!!
「あ〜〜〜やややややや!!!」
「ああっ! 熱いっ! 熱いっっっ!!!」
「あ〜〜〜やややややややや!!!!」
「熱っ! やめ! やめろって!」
「あ〜〜〜やややややややや!!! あ〜〜〜ややややややややややや!!!」
魔理沙は必死に逃げまとうが、そのたびに文は顔の角度を変え執拗に顔面を狙い続ける。
ブシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
「た、助けてくれぇ! 咲夜ぁ! 霊夢ぅ!」
「ちょ、ちょっと! 止めなさいよ!」
「あ〜〜〜〜〜〜やややややややややややや!!!!!!」
魔理沙は転げまわるし、霊夢と咲夜は文を押さえ込む。
それでも文の額から迸るピンク色の放物線は魔理沙を捕らえて離さない。
室内にえらく色の偏った虹が出来た。
「あ・・・やややや・・・やや・・・」
数分後、脳漿を全て吐き出した文の、命と狂気の高笑いが終わった。
その頭は梅干の様に萎み、身体は力なく地に伏した。
まるでカレー吹き終わったカレーパンマンだ。
「魔理沙、大丈夫!?」
「うぅぅ・・・熱いよぉ」
顔中をピンク色の粘液に覆われ、魔理沙が泣いていた。
ボリュームのある輝くブロンドはもう、見る影も無い。
「とにかく、治療しなきゃ。霊夢、薬はある?」
「ちょっと待ってて! 今すぐ持ってくる」
「うあぁぁぁ、熱い、熱いよ・・・ん? あれ?」
すると魔理沙が、何かに気付いた。
ぺろり
「これ、滅茶苦茶甘いぜ!」
「え!? 嘘!?」
「本当だぜ。チェリーソースみたいな味がするぜ!」
泣くのも止めて顔や髪に付いた粘液を必死で舐め出した。
「甘い! 甘いぜ! すっごく甘いぜ!」
「ま、魔理沙! 私にも、私にも舐めさせて!」
「嫌だぜ。全部私のもんだ」
「そんなこと言わないで、ちょっとくらいだけ・・・ね?」
「駄目だね。絶対やらないぜ」
ねだる咲夜に、拒む魔理沙。
二人のやり取りを見ていた霊夢にある不安が湧き上がる。
(甘い? しかもチェリーソースの味。これってもしかして・・・)
ぺろ・・・ぺろ・・・ぺろ・・・
「甘い。甘いぜ。甘・・・ん?」
ざらりとした舌触りがした。
ぺっと吐き出すと、口の中に髪の毛が入っていた。
「何だこりゃ?」
もしかして文の髪の毛が混入していたのか?
ちょっとくせ毛だけど。
魔理沙がそう納得しかけた、その時。
ぼとり
何かが床に落ちたようだ。
下を見ればゴルフボール大の球体。
目玉が一つ、そこにあった。
魔理沙をじっと見つめていた。
「おい、これは一体?」
「魔理沙! 貴女、顔が溶けてるわよ!!」
半狂乱になって咲夜が叫んだ。
「う、嘘だろ?」
嘘ではない。
魔理沙の顔がドロドロに崩れている。
髪の毛も液状になって溶け出していた。
「やっぱり! あの天狗、糖脳病に感染していたんだわ」
霊夢の勘は的中していた。文は保菌者だったのだ。
「そんな、それじゃ魔理沙は?」
「悪いけど・・・助からない」
そんな事を言っている間にも、魔理沙の崩壊は進んでいく。
もう一つの目が落ちた。耳が落ちた。
鼻が溶けて無くなった。
頬が無くなって、顎がぶらんと垂れ下がる。
「あ・・・あ・・・たす・・・け・・・」
やがて魔理沙の頭部まで大きく歪んでいった。
「危ない!」
すかさず咲夜が溶け出した頭を支える。
そこには固い頭蓋骨があった筈だ。
なのに、ゼラチンの様なブヨブヨの感触がした。
もしもその手を離したら、魔理沙の脳はボトリと転げ落ちてしまうだろう。
「やめ・・・ろよ、さくやぁ・・・どうせわたしは、たすから・・・」
「馬鹿言わないでよ! 見捨てられる訳が無いじゃない」
「ら、らって・・・このままじゃ、さくやも・・・」
「いいから! 今は助かることだけを考えなさい!」
誰がどう見たって助からない魔理沙。
そんな魔理沙を必死で助けようとする咲夜。
その姿に霊夢は少し疑問を持った。
今更、頭を支えて何になるだろう?
既に桃色の大脳が顔を見せ始めている。
そのうち脳まで溶け始めて、指の隙間から零れ落ちてしまうのに。
どうしてそれが分からない?
普段の咲夜だったら、そんな事はすぐに分かるだろうに。
霊夢は、それが悔しくてたまらなかった。
自分は誰かの為に、そんなに馬鹿にはなれない。
どれだけの人に囲まれても、いつも他人から距離を置く自分がいた。
どこまで行っても結局自分は一人ぼっちなのだ。
人々から孤立して、妖怪の下に身を寄せた咲夜でさえ、完全に一人きりではないのに。
自分は絶対、ああはなれないんだ。
「そんなこと、ないぜ。霊夢」
「え?」
「そうよ、霊夢。貴女は一人なんかじゃない」
「だって、私は誰に対しても中立。どうせみんな、私のことなんて・・・」
「違う! 中立なのは『巫女』だろ!? 私にとって、霊夢は『巫女』じゃないんだ!」
「それじゃ、何よ?」
「勿論、友達だぜ!」
「勿論、友達よ!」
「魔理沙、咲夜・・・貴方達は・・・」
ブゥン!
『私も! 私にとっても掛け替えの無い、友達ですよ! 霊夢さん!』
「早苗・・・!?」
突然テレビが付いて、その中から早苗もそう叫んでくれた。
「私がどんなに悪さしても、霊夢は私を疎ましく思わなかったじゃないか!」
「一生人間とは付き合えないと思っていた私を、変えてくれたのは霊夢よ」
『幻想郷に来て右も左も分からない私にとって、霊夢さんの存在は本当に支えになりました』
「みんな・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」
・・・
・・・・・・
「・・・うぅん、さくやぁ?」
「そんなに泣くなよ、霊夢」
「グスッ、泣いてなんて・・・」
『そんな事言っても、目が真っ赤ですよ?』
「ヒック、違う。そんなんじゃ・・・」
「ほら、博麗の巫女がそんなんじゃ格好付かないわよ」
目を覚ましたレミリアが見たものは、人間達の美しい友情だった。
(仲良きことは美しき哉。
なんかちょっと、妬けちゃうわね。
私もあの中に混ざりたいけど、年長者としては見守ってやるべきかしら?)
寝返りを打って、寝たふりを続けた。
「それじゃ霊夢の機嫌も直ったことだしさ」
「ええ、そうよね」
『私も今夜は飲みますよ』
「うん、宴会にしましょう!」
「私、何かツマミになるもの作るわね。キッチン借りていいかしら?」
「勿論よ! 是非そうしてもらいたいわ」
「それじゃ私は、酒持って来るぜ」
『テレビ越しですけど、私はここで参加しますね』
(宴会ね。最近は忙しくてご無沙汰だわ。私も一緒に・・・)
「なあ、ところでレミリアはどうするんだ?」
「お嬢様は疲れているから、起こさないでおいて」
(え!?)
『そうですよ、レミリアさんは明日も仕事なんでしょう?』
(ちょ、ちょっと待って)
「じゃあ邪魔になるから、適当に押入れにでも・・・」
霊夢はレミリアを抱え上げ、乱暴に押入に放り込んだ。
ピシャリッ!
そして襖を締め切ってしまった。
(どうしよう? 今更寝たふりでしたなんて・・・)
「途中で起きたりしたらウザイからね」
ガチャリ!
更に鍵まで閉めてしまった。
(ひ、酷い・・・!)
「さあ、今夜は人間同士で酒盛りよ」
「こういうのも、悪くないよな」
「いつもは妖怪どもが出しゃばって煩いからね」
『しかも微妙に鼻に付く発言する奴いますよね』
「そうそう、それに酒呑むと必ず喧嘩おっぱじめる奴もいるんだよな」
「そういう妖怪に限って、終わった後の片付けはしないのよね」
「アホみたいに飲むから酒の消費も激しいし」
(・・・・・・・・・)
それらは全て、レミリアに当て嵌まる事項であった。
『大体、キモいんですよね。爪とか牙とか翼とか』
「都合のいい時だけ、人間に友好的だしな」
「お金持ってないからお賽銭もくれやしない」
『第一、妖怪って殆どが無職みたいなものですよね』
「働かないのが美徳なんだろうぜ、きっと」
「それは言えるわね。うちもまともに働いてるのは私くらいのものよ」
『全く、神様の神奈子様や諏訪・・・ウボエエエエエェェェェェェェェェ!!!』
ゲロゲロゲロ・・・ビチャビチャビチャ・・・
『オゲエエエエエエェェェェェェェェェ・・・・・・』
エレエレエレエレエレエレ・・・
『ゴボァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・』
ビチャビチャビチャ・・・
突然、画面の中で早苗が嘔吐した。
「ど、どうした、早苗!? もう飲みすぎたって言うのか?」
昼食で食べたのだろうか?
早苗はラーメンやトウモロコシ、卵などを吐き出し続けている。
ゲロゲロゲロ・・・
「お、おい! 早苗! しっかりしろ!」
1リットル、2リットル、3リットル・・・
早苗の嘔吐は止まらない。
「早苗、大丈夫!? 早苗っ!」
ビチャビチャビチャ・・・
10リットル、20リットル、30リットル・・・
見る見る内に早苗は萎んでいく。
「う、嘘でしょ・・・? 早苗・・・」
ブラウン管の向こう側、早苗のミイラがゲロのプールの上に浮かんでいた。
「これは、とんでもない事になったわね」
その隙に、レミリアが押入れから出てきた。
「おいレミリア、これは一体、何が起きているんだ・・・?」
「分からない、私にも全く分からないわ」
「何か心当たりはありますか?」
「いいえ、無いわ。悪いけど私には何も分からない」
「黒幕は誰なのかしら?」
「ごめんなさい、何がなにやらさっぱりだわ」
「これからどうすればいいんだ?」
「そ、そうね。取り敢えず現場に行って・・・」
「ちょ、ちょっと待って! あれ!」
霊夢がテレビを指し示した。
早苗のミイラ、その周りに浮かんだ卵が次々と孵化している。
卵から産まれたのはナマコ。
それも大きな口と鋭い牙を持ったナマコであった。
「あ、あれは何よ!?」
「そんな事、私が知る訳ないでしょ!?」
ナマコ達は早苗の周り、ゲロの海を悠々と泳いでいた。
しかしそれも暫くすると様子が変わった。
何故か霊夢達、画面の向こう側を一斉に睨みつけたのだ。
一匹や二匹ではない。十数匹がほぼ同時にだ。
「・・・まさか、気付かれた?」
「ば、馬鹿ね。奴らがこっちのことなんて・・・」
レミリアがそう言い終わる間際、一匹のナマコが飛び掛ってきた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
そしてブラウン管を飛び越して、レミリアの股間に噛み付いた。
「なっ何だ!? こいつは!」
「お嬢様!?」
「ちょっ! くそっ! 離れろよ!!」
ブチッ! ビターン! グチャッ!
急いでナマコを無理やり引き離し、床に叩きつけて、体重をかけて足で踏んづけた。
口から内臓をひり出して、暫くのた打ち回った後、ナマコは死んだ。
「大丈夫ですか? お嬢様」
「当たり前よ、私がこれくらいで・・・」
「おい、レミリア。なんかぶら下がってるぜ」
「え?」
自分の下半身へと目を落とす。
両足の間、膝の少し上辺りで、何か赤黒いものがブラブラと揺れていた。
管のようなもので、どうやら自分の股間からぶら下がっている。
手で触って、その管の付け根を探る。
陰嚢に穴が開いていて、そこから飛び出しているようだ。
それを理解した瞬間、耐え難い激痛がレミリアを襲う。
「いっ! 痛いっ! 痛いぃぃぃぃぃ!」
思わず叫んでしゃがみ込む。
いくら不死身でも痛いものは痛い。
睾丸が外気に直接触れることが、こんなに痛いとは。
「いやぁ・・・痛い、痛いぃぃ」
「お、お嬢様!?」
痛みに耐えかねたレミリアは、玉を再び袋の中に戻そうとする。
しかし、血で滑って上手く入らない。
それどころか手で触るものだから、余計に痛い。
「しっかり、しっかりして下さい!」
「待ってて!針と糸、持って来る!」
「いや、それよりあれ見ろよ! いっぱい来てるぞ」
魔理沙に言われてテレビを見れば、ナマコ達が次々と這い出して来ている。
「に、逃げるわよ・・・」
「ああ、そうだな」
咲夜に抱えられたレミリアも含めて、全員脱兎の如く逃げ出した。
「おい! こんなもの、いつの間に!?」
「知らない。でも、ここを通るしかなさそうね。行くわよ!」
神社を抜け、石段を下ると周りの風景が一変していた。
名前も知らない奇怪な花々、見たことも無いグロテスクな木々が生い茂る、魔界のジャングルとなっている。
当然、元々人里離れた場所に立つ神社。原生林の1つや2つくらいはあった。
しかし目の前の森は明らかに以前のものとは違う。
人一人を丸呑みしてしまいそうな程の大きさの花、幹に恐ろしい顔のような模様のある木。
それらは日本の生態系とはあまりにかけ離れていた。
「十分気をつけなさいよ?」
「あ、ああ。分かってる」
一体どんな目に遭うか分からない。
想像も付かぬ未知の危機へと飛び込んでいった。
・・・・・・・・・
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「遅いわよ、魔理沙」
「はぁ、はぁ、ごめっ、でも少し、はぁ、休ませ・・・」
「駄目。こんな場所、早く抜けなきゃ」
「ご、ごめん。はぁ、はぁ、はぁ」
森に入ってもう3時間は経つが、魔理沙はずっとこんな感じだ。
一人だけ歩みが遅く、ちょっとした段差でも乗り越えるのに一苦労している。
疲れたと、休みたいと言ってるのだって魔理沙だけだ。
元々、彼女は魔法が使えるだけのただの少女。
霊夢や咲夜の様な超人的な体力は持っていない。
こうなることも仕方がないことだとは言える。
しかしそんな魔理沙に足を引っ張られる形で、集団は無駄な体力と時間を消費していく。
彼女はみんなの中で完全に足手纏いとなっていた。
「うわぁぁぁっっ!?」
その魔理沙が派手に転んだ。
何かに襲われたのか? と一瞬ヒヤリとしたが、そうではないらしい。
地面から突き出た根っこに足を取られただけだ。
「い、痛っ・・・?」
「大丈夫? まだ歩けそう?」
「無理だよ。足、捻っちゃたみたいで・・・痛くて・・・」
「なんですって?」
魔理沙の靴と靴下を脱がせて、患部を確認してみる。
足首に青紫色の、コブのような大きな腫れが出来ていた。
「これは、歩けそうもないわね」
「どうするの? あまりゆっくりしている暇はないわよ?」
「ごめん、みんな、ごめん」
ハッキリ言うと、もう魔理沙を連れて行くのは限界だと思った。
だって何時、何が襲ってくるか分からないじゃないか。
また訳の分からない化け物が大挙して押し寄せてきたら・・・
霊夢も咲夜も僕を守ってくれる余裕なんてある筈が無い。
ただでさえ動けないレミリアを庇っているんだ。
これ以上の遅れはそのまま僕達の命の危機を意味する。
だから魔理沙は置いていこう。
僕はそうなることを期待していた。
しかし・・・
「しょうがないわね。少し休みましょう」
・・・・・・・・・!?
霊夢の出した結論は僕の考えとは全く逆だった。
「誰か負ぶってでも先に進んだ方がいいんじゃないかしら?」
「そんな状態で何かあったら、それこそアウトよ。時間をかけてでも魔理沙の回復を待ちましょう」
「ごめん・・・ごめん、みんな・・・」
どうやら2人とも魔理沙を見捨てる気は全く無いらしい。
自分のことだけを考えて、あんなに薄情になっていた自分が恥ずかしくなった。
「交代で見張りしながら、睡眠を取る。それでいいわね?」
「私が結界を張っておくわ・・・効果があるかは分からないけど」
霊夢の言う通り、この場所で野営をすることにした。
レミリアを除く4人の内、一人が寝ずに見張りをする。
ちょっとでもおかしな事が起きたら、急いで他の3人をたたき起こす。
時間が来たら、次の見張りを起こして自分は眠る。
僕らがこんなリスキーな状況で出来る、最大限の保険だった。
「それじゃ、私が最初ね。お休み」
「うん。朝まで何もないといいわね」
一番手は咲夜だった。
膝元にレミリアを抱きかかえ、手にはナイフを握って辺りを警戒している。
一方、僕は眠りに就いた。
「霊夢、時間よ」
「分かった。お疲れ様」
1時間ほどして、霊夢が起こされたらしい。
僕は夢うつつだったが、彼女達の声は聞こえた。
「起きて、魔理沙」
「ああ、うん、時間か」
更に1時間後、今度は魔理沙が起こされた。
ここまで無事でいられるとは。
最後、僕の番が来るまであと1時間か。
しっかり休んで体力を回復させるとしよう。
そうして再び僕は深い眠りの中へ落ちて・・・
ザッ・・・ゴソ・・・ゴソ・・・
なんだろう? すぐ傍で気配がする。
魔理沙なのか?
いや、まだ彼女の番になって数十分しか経っていない。
それに僕の番だとしたら彼女に起こされる筈だ。
なのにそいつは隣にいるだけで、何もしてこない。
微かな気配と、吐息の音だけが伝わってくる。
一体、何者だろう?
もしかして、化け物なのか?
魔理沙は音も立てずに殺されて、次の獲物をこの僕に定めているとか?
でも、野生の熊に出会った時の死んだふりみたいに、動かないことが僕の命をギリギリ繋げているとか!?
・・・怖い。
金縛りに遭ったかのように身体が動かない。
本当なら目を開けて、そいつが何者なのか確かめなきゃいけないのかも知れない。
まさか。そんなこと、出来る訳が無い。
もしも本当に化け物が僕の目の前にいたなら・・・どうすりゃいい?
どうすることも出来ないだろう。
成すすべなく、食べられてしまうだけだろう。
恐怖で僕の瞼はますます固くなっていった。
スッ・・・
(・・・!!!)
そいつの手が、僕の背中に触れた。
そりゃ、その瞬間はビックリしたさ。
思わず全身が跳ね上がった、と思う。
遂に食われてしまうのか? って考えた。
でもすぐに、その手は僕が考えていたような化け物の手なんかじゃないって気が付いたんだ。
スゥー、ススッ、スゥー
『手』が僕の背中を撫で始めた。
ゆっくりと、優しくて、暖かくて、小さくて、柔らかい。
鋭い爪と鱗の生えた、化け物の手じゃなかった。
その『手』に僕の身体は少しずつ柔らかくされていく。
花の蕾が開くように、固く閉じた両目が綻びた。
「魔理沙、やっぱりお前か」
「あ・・・こーりん」
目の前に魔理沙がいた。
その顔は今にも泣きそうで、絶望に満ちている。
「一体どうしたんだ? まだ時間じゃないだろう?」
「うん、そうだけど・・・」
「何だ?」
「あ、その・・・」
「もしかして、怖いのか?」
「えっ・・・!?」
「一人が嫌なら、僕も一緒に起きてるよ」
「・・・・・・」
我ながら格好付けていたと思う。
でも、僕の言葉が魔理沙の背中を後押ししたみたいだ。
「あの、こーりん・・・私! こーりんが好きなんだ!!!」
「な!? 何だって!?」
突然の、魔理沙からの告白。
僕の思考は完全に停止して、魔理沙も何も言わなくなった。
その結果、僕達に沈黙の時間が訪れる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
空気が重い。次に紡ぐ言葉が思いつかない。
僕は何て答えればいい?
彼女を受け入れるべきなのか?
気が付けば、あんなに恐ろしかった化け物共は消えて無くなっていた。
ここにはもう、僕と魔理沙しかいない。
「ば、馬鹿だな・・・! こんな時に何言ってるんだ!?」
必死に考えて、導き出した答えがそれだった。
僕はなんて不甲斐ない男なんだ。
「ほ、ほら。早く寝ろよ。しっかり休まないと」
「・・・・・・・・・」
「見張りは僕がしておくから・・・ね」
狡い。狡い。狡い。狡い。狡い。狡い。狡い。
なんて狡い男なのだろう?
僕は自分をどう罵ればいい?
でも僕があまりに狡いから、魔理沙はもう一度覚悟を決めた。
「こーりん・・・」
「えっ・・・?」
魔理沙がゆっくりと厚手のスカートの裾を持ち上げる。
「・・・抱いて」
下半身を僕に見せ付けて、代わりにスカートで顔を隠して、魔理沙が言った。
「お願い。私達・・・これからどうなるか分からないし、死ぬ前に・・・」
僕はハッとした。
魔理沙は怯えているんだ。
化け物にじゃない。僕から見捨てられることに。
彼女が最初、僕に見せた絶望の正体はそれだったんだ。
だから女の武器まで使って、強引に僕にすがりついた。
僕はそんな魔理沙を・・・
可愛いと思った。
そうだ、彼女を責めることなんて出来る訳がない。
僕は魔理沙を見捨てようとしていたじゃないか。
自分が助かる為に。
僕も魔理沙も、弱いのは一緒なんだ。
「おいで、魔理沙」
「う、うん・・・」
僕らは真夜中の森の闇へ消えていった。
「う・・・ん・・・」
咲夜が起きたのはそれから1時間後。
目が覚めると魔理沙や霖之助がいない。
どれくらいの時間かは分からないが、3人は全く見張りも無しに寝ていたことになる。
よく無事でいられたものだ。
2人は何処へ消えたのだろう?
いや、それよりもレミリアだ。
咲夜にとって、何より優先すべきは主である。
神社で受けた傷はもう癒えたのか?
レミリアの寝ていた場所に目をやる。
そこにあったのは、真っ黒な塊だった。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
咲夜の叫び声に霊夢も飛び起きた。
「どうしたの!? 咲夜!!?」
「お、お嬢様がっ! お嬢様がっ!!」
「レミリアが!?」
霊夢はレミリアが危険な状態にあるのは理解できた。
しかし、レミリアの姿なんて何処にも見当たらない。
咲夜の前にあるのは、ただの真っ黒な盛り土。
彼女はその土を両手で振り払い、掘っているだけの様に見える。
だが良く見ると、その土が細かく動いている気がする。
「離れて! お嬢様から離れなさい!」
咲夜が掘った土の中から、赤黒い肉が見える。
霊夢はもう少し近付いてその盛り土を観察してみた。
「これは・・・蟻?」
そう、これは盛り土なんかじゃない。
虫にたかられたレミリアだ。
ずる・・・ずる・・・ずる・・・
レミリアの身体がゆっくりと動き出す。
獲物を咲夜に横取りされると思った蟻達が、自分達の巣に運び込もうとしているのだろう。
ずる・・・ずる・・・ずる・・・
「待って! 連れて行かないで! お願い!!」
急いで霊夢も手伝うが、全く歯が立たない。
凄まじい力で咲夜と霊夢まで引き摺られていく。
ずる・・・ずる・・・ずる・・・
そして数mほど引き摺られたところで力の方向が変わり、レミリアの身体は地中に沈み出した。
どうやらここが巣の入り口らしい。
ずぶ・・・ずぶ・・・ずぶ・・・
「やめろっ! やめろっ! やめろっ!!!」
二人は片脚ずつを持って全力で引っ張る。
「くぅ・・・この・・・おおぉぉぉ!!!」
今までと違ってしっかりと地を踏ん張れるからなのか、レミリアの身体は巣の入り口で止まった。
「いい調子よ! このまま頑張って!」
「言われなくても分かってるわよ!」
蟻との綱引きは暫くは互角だったが、次第に2人の方が優勢になって来た。
一時は腰まで沈んだレミリアだったが、胸が見えてきて、遂に首から下が全部掘り出された。
「あと少し! 一気に引っ張り出すわよ」
「ええ、行くわよ! 1、2の・・・」
二人は最後の力を振り絞り・・・
「「3っっっ!!!」」
一気に持ち上げた。
ブチッッッ!!!
「「へ・・・?」」
レミリアの両足が千切れた。
蟻に侵食されたそこは相当脆くなっていたらしい。
ズブズブズブズブズブズブ・・・
当然、レミリアの脚から上は地中に引きずり込まれて消えてしまった。
「あ・・・」
「あ・・・」
咲夜達の手に残ったレミリアの脚も、朽木の様に崩れてしまった。
「い・・・い・・・嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「お嬢様っ! お嬢様っ! お嬢様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
咲夜はこの世の終わりの様な叫びを挙げて、足元の土を素手で掘り出した。
「いやっ! いやぁっ!! こんなの! いやぁぁぁぁ!」
だが爪が剥がれるまで掘ってもレミリアの欠片も現れなかった。
「嘘・・・でしょ? 嘘よ・・・」
もうそこには蟻もレミリアもいなかった。
ただ、土に塗れて泣き叫ぶ咲夜しかいない。
「ぁ・・・ぁ・・・おじょう・・・さま・・・」
夜が明けた。
幻想郷に眩しい光が降り注ぐ。
また新しい今日がやって来た。
でも二人、特に咲夜にとってこの朝は日の始まりじゃない。
全ての終わりだ。
今の咲夜は、まるで亡霊の様だ。
そんな彼女に霊夢は声をかけてやることも出来ない。
何を言っても聞こえないだろうし、そもそも何を言えばいいのか分からない。
ただ、咲夜の手を引いて森の出口を目指す。
また何かに襲われても、せめて彼女だけは守りたいと思っていた。
「ねぇ、霊夢」
「何?」
「二人は、何処に行ったんだろう?」
「・・・知らない」
霊夢は気が重くなった。
やっと口を聞いたかと思えばそれか。
魔理沙達が心配なのは霊夢も一緒だが、もう今更探しに行く訳にも行かない。
出来ることは、彼女達が無事であることを願うだけだ。
「今は、この森を抜ける事だけを考えましょう」
「森を抜けたら・・・その後は、どうするの?」
「その後って・・・」
「森から出ても、そこにお嬢様はいないから・・・」
「・・・・・・」
霊夢は再び、黙ってしまった。
やはり彼女にかけてやる言葉が見つからない。
でもすぐに、その答えは咲夜自身が見つけた。
「・・・ああ、そうだ。紅魔館に戻ろう」
「紅魔館に?」
「紅魔館にはまだ、妹様がいる。美鈴も、パチュリー様もいる。
お嬢様はいないけど、またみんなに会いたい」
「・・・そうね、紅魔館に行こう」
まだ全ての希望が消えた訳ではない。
二人の足取りは少し軽くなっていた。
夜が明けた。
幻想郷に眩しい光が降り注ぐ。
また新しい今日がやって来た。
でも僕らにとってこの朝は日の始まりじゃない。
夜の終わりだ。
僕らの命が燃えた、情熱的で我武者羅な、灼熱の夜の終わりだ。
少しだけ朝の訪れを恨みながら、二人は心地良い疲労に包まれていた。
「魔理沙、歩けるかい?」
「あ、うん。ありがとう」
ちょっと気まずそうに微笑む魔理沙。
再び、幼い少女に戻っていた。
本当に不思議な子だ。
たった一晩で、幾つもの顔を僕に見せてくれる。
「そ、それじゃまたな、こーりん」
「ああ、それじゃあね」
魔理沙の家の、少し前で僕らは別れた。
名残惜しそうな振る舞いが、愛らしい。
「魔理沙!」
「えっ!?」
「近い内にまた、僕の店に来てくれ!」
「う、うん! 絶対に行くから!」
魔理沙の背中が見えなくなるまで、僕はそこから動かなかった。
「あらあら、若いって羨ましいわねぇ」
そんな僕を、背後から呼ぶ奴がいる。
「紫か。覗きとは趣味が悪いね」
「そうかしら? 貴方よりはずっとマシな趣味していると思うわよ?」
「どういう意味だい?」
紫はクスッと小さく笑って、僕を責めるような口調でこう言う。
「だってねぇ。成人した立派な半妖が、あんな毛も生え揃っていない子供相手にねぇ」
なんだ、そんな事か。
「それが何か問題でも?」
「少なくとも、世間一般には褒められた事じゃ無いわねぇ」
ふん、妖怪の賢者を自称する癖に何も分かっていない。
いいか? 世間一般の男達に比べたら僕なんて遥かに正常だ。
奴らがする『結婚』とか言う儀式。
奴らが『嫁』とか呼んでいる女。
僕にはとても理解できない。
可愛らしいのはほんの数年だけ。
最後には見る影も無く劣化、女から化け物に変わる。
しかも減少していく愛情、肥大していくエゴ。
オマケに汗だく垂らして稼いだ金まで持って行かれると来たものだ。
何が悲しくてそんな奴に一生を捧げなければいけないと言うんだ?
自分の自由を全て投げ打って、そんな奴に尽くす意味なんてある訳が無い。
僕はそんな過ちは犯さない! 絶対に! 絶対にだ!
「まだ抜けないのかしら?」
「随分長いわね」
霊夢達が森に入ってから、もう2日が経とうとしていた。
歩けど歩けど、一向に抜け出せない。
この森は予想より遥かに大きかった。
「まさか、迷ったとか?」
「それは無いわね。真っ直ぐ紅魔館に向かって歩いている筈よ」
「本当かしら?」
「あら? 私の巫女の勘が外れたことって、あったかしら?」
「・・・それもそうね」
霊夢の言う通り、この方向で間違いはないのだろう。
しかし、もう随分歩いている。
本当だったら、そろそろ着いてもいい頃なのに。
「しょうがないわね。ここらで一旦、休憩に・・・」
「待って! これ、もしかして!?」
足元の草むらの中、咲夜が何かを見付けた。
「それって?」
「うん、間違いない」
それは錆付いて蔦の絡んだ鉄柵。
変わり果てているが咲夜が見慣れた、紅魔館の正門にあったものだ。
「妹様! 美鈴! パチュリー様!!!」
「ちょと、待ちなさい! 咲夜!」
密林に変わった紅魔館の中庭を駆け抜け、咲夜が突き進む。
立ちはだかる蔦をナイフで切り裂き、木々の枝を薙ぎ倒しながら。
この先に、きっと彼女の家族がいる。
早く、早く助ければ。
すると彼女達の目の前に、苔むした赤い壁が現れた。
「紅魔館までこんなことになってるなんて」
「でもまだ、パチュリーやフランが死んだとは限らない」
「ええ。中で助けを待っているのかも」
視界が悪いジャングルの中、館の全貌なんて見えやしない。
壁伝いに進んで侵入出来そうな窓を見付けた。
二人はその窓から慎重に館の内部を覗き込む。
想像していたよりもずっと破損は軽い。
ところどころ絨毯や壁紙が破かれている事を除けば、普段と変わらない紅魔館だ。
「ねえ! 誰かいる!? いたら返事して!」
・・・・・・・・・
呼び掛けても誰からの返事もない。
二人は無言で見つめ合い、互いの覚悟を確認すると勇んで館の奥へ入って行った。
ずぷっ! ぐちゅっ! ぐちゅっ!
「むぐぅ! ふぅぁ! むうぅぅ!」
じゅぶっ! ぐちゃっ! にゅちゃっ!
「ふぅっ! ふっ! むぅ! むぅぅ!」
どぷっ! どぷっ! どぷっどぷっびゅっびゅっびゅぅぅぅ・・・
「むぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・!?」
またフランの膣に灼熱の溶岩の様な精液が注ぎ込まれた。
どびゅぅぅぅぅぅぅ・・・
「うごぉぉぉぉぉぉ!!!? おごぉっ! ごぶぅ! がぼぉ!」
呼応するかの様に、口にねじ込まれたペニスがフランの喉の奥に射精する。
粘性の高い白濁が気管に入り込み、フランは悶絶した。
激しくむせ返ったが、ペニスが栓になって口から吐き出すことが出来ない。
鼻水と一緒に、鼻からゲル状の精液が飛び出した。
しかも、射精はまだまだ続いている。
フランの喉目掛け、新鮮な精液が次々と送り込まれていく。
どぴゅぅぅぅ・・・どぴゅぅ・・・どぴゅ、どぴゅ、どぴゅぅ・・・
「ふぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
フランは必死に引き離そうとしたが、両手で頭をがっしりと抱えられビクリともしない。
ペニスは意地でも喉のプニプニとした感触から離れたくないらしい。
・・・ぴゅ、ぴゅ、ぴゅ
やがて永遠とさえ思われた射精も終わり、ペニスが引き抜かれる。
フランはやっと煮え湯を飲まされる様な地獄から開放された。
「おごぉぉぉぉぉぉぉ! げほっ! げほっ! げほっ!」
肺に、胃に注ぎ込まれた精液を一気に吐き出した。
それにしても、凄まじい量だ。
多少の吐瀉物も混じっているだろうが、軽く1リットルはあるだろうか?
それに、酷い臭いだ。
夏場に放置された生ゴミの様に生臭い。
それを直接飲まされたフランは、どんな心地だったのだろう?
「ごほっ! ごほっ! ごほっ!・・・えっ! ま、待って!」
ぬぷ・・・ぬぷぷぷぷぷぷ・・・
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
むせ返るフランの背後からまた新しいペニスが挿入される。
先端を膣口に押し当てた後、半ば強引に突き入れた。
みち・・・
「あっ!? やめっ! そこは!?」
みちみちみちみちみちみちみち・・・
「いやぁぁぁぁぁぁ! 痛い! 痛い! 痛いぃぃ!」
同時に、男根が菊座を付き立てる。
大分解れてきているとは言え、フランの小さな膣より更に小さな穴。
しかもペニスは刃渡り30センチの大物だ。
強烈な締め付けの中、圧倒的な硬度を武器に掘り入って行く。
「いぎぃぃぃ!? やめ・・・むぐぅ!?」
フランの口が開いた瞬間を狙い、3本目のペニスがそこに突っ込まれた。
またあの生臭さが鼻腔を突く。
ぐちゅ! びゅちゅ! ぐちゅっ!
「ふぐぅ! むぐっ! ぐおぉ!」
じゅぷっ! じゅぷっ! じゅぷっ! じゅぷっ!
何十回目になるか分からぬ行為が、また始まった。
「妹様・・・こんなの、酷すぎます」
美鈴は主の妹が陵辱されていく様を、黙って見ることしか出来なかった。
「気持ちは分かるけど出ちゃ駄目よ。絶対にね」
「ですがパチュリー様、ここで見ているだけなんて・・・」
「貴女が助けに行って何になるのよ? 返り討ちにされるのがオチよ」
「そうですよ。今出て行ったら、私達まで犯されちゃいます」
「はい・・・」
美鈴は何度も結界を出てフランを助けようとしていが、その度にパチュリーや小悪魔に止められた。
何度、己の不甲斐なさに涙したことだろう?
「もう少ししたら、きっとレミィと咲夜が帰ってくる。
そうしたら一気に攻勢に出るからね。それまで耐えなさい」
「そうですよ。幸い、妹様なら何されても死ぬことありませんし。
お嬢様達が帰ってくるまで、ノンビリ待ちましょうよ。美鈴さん」
「・・・分かりました」
昨晩、深夜、紅魔館はこいつらに襲われた。
猿の体に、醜い鬼の様な顔。
恐ろしい怪力に、鋭い爪。
妖精メイド達は瞬く間に殺された。
勿論、フランも美鈴もパチュリーも死に物狂いで戦った。
しかしどれだけ倒しても奴らは次から次へと沸いてくる。
進退窮まった彼女達は、館で最も堅牢な図書館に篭城することにした。
だが、一歩遅かった。
扉を閉める前に猿達が図書館内に侵入。
辛うじてパチュリーが簡易結界を張ったが、フランだけは逃げ遅れ一人結界の外に取り残された。
この結界は小さいものの、外からの衝撃で破れることは絶対にない。
その代わり、中から外へ干渉することも絶対に出来ない。
おまけに誰か一人でも外に出れば、その瞬間に破けてしまうという欠陥がある。
フランが猿に襲われ、処女を失い、徹底的に犯されるのを指を銜えて見るしか無かったという事だ。
びゅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ、びゅ〜〜〜〜〜〜っ、びゅ〜〜〜〜っ
「ふぐぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
フランの膣の中でペニスが爆ぜた。
再三の膣内射精のせいで、子宮が風船の様に膨らんでいる様な気がする。
びゅ〜〜〜、びゅ〜、びゅっ、びゅっ、びゅ
「ふぁぁぁぁぁ!? むぅぅぅぅぅぅ! むぅぅぅ!」
「キッ、キキキッ、キッ」
腰と腰をピッタリと密着させて、鈴口を子宮口に押し付けながら射精する。
更にそのまま円を描くように蜜壷をかき回し、ねちっこくフランを責める。
そして猿は、ニタリと満足気にほくそ笑んだ。
「うわぁ、これで何回目の膣出しですかねぇ?」
「妹様・・・妹様・・・うぅぅ」
「耐えなさい、美鈴。きっとレミィ達は来る」
「ですが・・・」
その時、勢いよく図書館の扉が開いた。
「妹様! 大丈夫ですか!?」
「咲夜さん! それに巫女まで!?」
「咲夜ぁ・・・?」
「・・・!!! 妹様っ!」
咲夜はフランに何が起きているのかを一瞬にして理解した。
猿達を鋭く睨みつけると、ナイフを構え臨戦態勢を取る。
続いて霊夢も懐から札や針を取り出した。
「今すぐ妹様から離れなさい。この、ケダモノが!」
「キキッ、キキキッ?」
邪魔をされた猿達は一旦フランを解放し、咲夜達を取り囲む。
そして牙を剥き、二人を威嚇し始めた。
「咲夜、こいつら手強いわよ。気合入れていきなさい」
「分かってる。貴女も気を付けてね」
「キキッー! キキキキッキィー!」
一斉に猿達が襲い掛かってきた。
「このっ! しつこいわね!」
「一体、どれだけいるのかしら!?」
見た目からは想像も付かない程、統率の取れた攻撃だった。
正面の数匹が囮になり、その隙に背後に忍び寄る。
数列の戦隊を作り、絶え間無く責め続ける。
しかし対する2人も負けてはいない。
咲夜はナイフで、霊夢は札と針で迎え撃つ。
時間停止の間に、何匹もの猿を切り刻む。
結界を張り、猿どもを一網打尽にする。
必要となればスペルカードだって惜しみなく使う。
全く敵を寄せ付けない、二人の活躍。
いつしか、図書館には猿の死体が山を作っていた。
「これは・・・まずいわね」
そんな2人を見ていたパチュリーが呟いた。
「え!? ですが、パチュリー様? 2人が押しているじゃないですか」
「今は、ね。でもよく見なさい、猿達は全然減っていない」
「あ・・・!」
パチュリーの言う通りだった。
先程から何十、何百もの猿達を打ち倒していると言うのに、奴らの総数は戦闘前から全く変わっていない。
「このままじゃジリ貧よ。私達の時と一緒だわ」
「そ、そんな」
「せめてレミィも一緒だったら・・・希望はあったのに」
「咲夜さん・・・」
「それじゃ、私達はもう少しここでジッとしてましょうよ、パチュリー様」
小悪魔がそう言った。
「ああっ! くそっ! 離れなさい!」
遂にパチュリーの予言したことが現実になりつつあった。
疲労で動きが鈍った咲夜が、背後から猿に羽交い絞めにされた。
傍で戦っている霊夢は、自分の戦いに精一杯で助けることが出来ない。
「咲夜っ! しっかりて!」
「くっ! 言われなくても分かって・・・いやぁぁっ!」
猿が咲夜の利き手を捻り上げ、ナイフを取り上げた。
「待ってて! 今助けに・・・うごぉっ・・・!?」
今度は霊夢の腹に、猿の強烈な拳がヒットした。
鳩尾への強烈な打撃に、足から崩れ落ちる様にして倒れこんだ。
「ぐぅ・・・がはっ・・・がはっ・・・」
そして2人は猿達に押さえつけられ、完全に戦う力を失った。
「やっ、止めなさい!」
「いい加減にしないと、怒るわよ!」
もう今更凄んだ所で、意味が無い。
鋭い爪によって2人の衣服が切り裂かれていく。
ビリビリビリビリビリビリビリビリ・・・
「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」
慌てて手で胸や股間して身を竦める。
しかし手や足を猿達に押さえつけられ、強引に股を開かされた。
少女達の秘部が獣の目の前に露になる。
そして自分の正面に鎮座した猿、その股間の男根が雁首をもたげていくのが見えた。
猿の小さな身体には余りに不釣合いな大きさで、少し屈めば顔に付いてしまいそうなくらいだ。
「いやぁぁぁ・・・嘘・・・でしょ?」
「止めて・・・お願い・・・」
咲夜も霊夢も、泣いて懇願したが猿達は聞く耳を持たない。
パンパンに赤黒く腫れた亀頭が、秘裂へ迫っていく。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
我慢出来なくなった美鈴が、遂に結界の外へと飛び出した。
それと同時に結界は音も無く消え去る。
次の瞬間、美鈴達3人も猿に襲われた
「ば、馬鹿っ! 美鈴、何て事を!?」。
「いやぁぁぁぁぁ! パチュリー様ぁぁぁぁ!」
ビリビリビリビリビリビリ・・・
咲夜達と同様に、美鈴達の衣服も切り裂かれていく。
「くそぉっ! 止めろっ! 咲夜さんを離せよ!」
その一方で、咲夜達は今まさに犯されようとしていた。
「嫌ぁ! こんなの、嫌ぁぁぁぁ!」
ペニスの先端が咲夜の膣口に触れた。
それから膣道の奥を目掛けて真っ直ぐに体重をかけていく。
「駄目・・・やめ・・・て・・・」
そして狭い入り口をこじ開け、先端が侵入しようとした瞬間・・・
ブロロロロロロロロロ・・・・・・
「キキッ!?」
これは夢か?
紅魔館の図書館に、一台の真っ赤なトレイラーがやって来た。
それには流石の猿達もその動きを止めた。
そしてコンテナが開き、中から大量のチキンと妙に彫りの深い男が現れた。
「あ゛づまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「キッ、キキッー、キッキキー!」
その合図に、猿達は一斉にその男の周りに集っていく。
我先にとパーティバーレルを受け取り、中のチキンを頬張り始めた。
「強くなれよ」
やがて猿と田中を乗せてトレーラーは何処かへ走り去ってしまった。
「え・・・? 私達、助かったんですか・・・?」
「そうなんじゃないかしら? 多分・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「そ、そうだ! 咲夜さん、無事ですか!?」
我に返った美鈴が咲夜に駆け寄った。
「ありがとう、私は無事よ。こんなナリだけど」
「よ、よかったぁ・・・」
「そうだ! 霊夢、貴女は!?」
「私もなんとか、ギリギリね。危うく巫女を廃業するところだったわ」
「パチュリー様は大丈夫でしたか?」
「ええ。私も無事よ、こあ」
かなり危なかったが、今ので猿達に処女を奪われた者はいなかったらしい。
取り合えずは助かったというところか。
「私、咲夜さんが酷い事されるかと思うと、いてもたってもいられなくて・・・」
「馬鹿ね。大げさよ、美鈴。私があんな奴らにやられる訳がないじゃない」
「ですけど・・・咲夜さんが無事で、良かった。本当に、良かったです」
「美鈴、貴女・・・」
「へぇ、『良かった』んだ?」
白濁塗れになったフランがそう、呟いた。
「あ・・・」
「妹様?」
「私は昨日の晩から、ず〜と、ずぅ〜〜〜と犯されてたんだけど、それでも良かったんだ?」
「あ、いえ、決してそういう訳では・・・」
「うん。分かるよ? だってみんなは汚されずに済んだんだからね?
本当に、良かったよね。あんなケダモノなんかにレイプされたら、終わりだものね」
「も、勿論、妹様の事はとても悲し・・・」
「でも私は全身余すところなく犯されたんだよ?
信じられない様なことも、いっぱいされたし・・・
それに・・・これ絶対、妊娠してるし・・・」
少し膨れた自分の腹を撫でながら、フランは舌打ちをした。
『ぶちゅり』と下品な音がして、膣から精液が噴き出る。
「凄く痛くて、恥ずかしくて、悔しかったよ。
でも、何度呼んでも誰も助けてくれなかったよね?」
「そ、それは・・・」
「その挙句に、自分らが助かって『良かった』ですって!?
本当、私の事なんてどうでも良かったんだね?」
「あの・・・その・・・」
「そ、そうだ! 妹様!?」
「何よ?」
やっと言い訳と慰めの言葉を見つけた美鈴が、こう切り出した。
「野良犬に手でも噛まれたと思えば、何てことはありません!」
「はっ・・・!?」
続いて、他の者からもフォローの言葉が入る。
「そうですよ! ドンマイですわ、妹様!」
「どうせ、処女膜なんてすぐに復活するんでしょ?」
「それに処女を貰ってくれたと思えば・・・」
「ええ、500歳にもなって処女なのは重荷でしょうしね」
「みんな・・・?」
「そんな事もあったねと、いつか笑える日が来ますよ!」
「きっとこれも、青春のいい1ページになりますって!」
「と言うか、よく考えたらそんなに大したことじゃないわよね」
「そ、そうよ。命は助かったんだし」
「生きていればきっといいこと、ありますって」
「ありがとう。私、頑張るよ・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・って、そんなんで納得する訳無いじゃないっっっ!!!」
フランが思い切り地団太を踏み、床に大きな穴を開けた。
「ねぇ! 私がみんなの前で犯されてる時、どんな気持ちだったか分かってる!?
『どうして助けてくれないんだろう?』って、ずっと思ってたのよ!?
見捨てられたって、感じていたのよ!」
「フラン、止めなさい。
あの時結界を解いたら、貴女だけじゃない、私や美鈴までやられていたのよ?
私達3人だけじゃ、絶対に貴女を助けられなかった。
だからレミィ達が助けに来るのを待っていた。その判断は間違いじゃ無かった筈よ」
「へぇ。言うわね、パチェ。だけどさ、もしも犯されてたのがお姉様だったら・・・どうしてた?」
「それは・・・」
「きっと多少無理をしてでも助けてたんじゃないかしら? さっきの美鈴みたいにね」
「・・・・・・・・・」
確かに、そう言われてしまえばぐぅの音も出ない。
もしも親友が、あんなケダモノどもに犯されていたら・・・
考えただけでゾッとする。
「やれやれ。薄々とは気付いていたけど、私も嫌われてるのね」
何の反論も無いことを確認して、フランは図書館の入り口へと向かった。
「妹様! どちらへ行かれるんですか!?」
「決まってるでしょ? この館を出るのよ」
「で、出るって!?」
急いで咲夜が駆け寄り、その腕を掴む。
「お止め下さい! 今、外は危険です」
「嫌だよ。もう、こんな所には1秒たりともいたくない」
「そんな! 私は妹様を助けるために、ここに戻って来たのです!」
「・・・知らない。じゃあね、咲夜」
そう言ってフランは咲夜の手を振り払ってしまった。
「こんなことって・・・妹様を傷つけるつもりなんて、無かったのに・・・」
「咲夜・・・」
「私はお嬢様も、妹様も助けられなかった」
咲夜は項垂れ、霊夢に泣きすがる。
そんな彼女を尻目にフランは入り口の扉へと歩を進める。
ドアノブに手をかけ、扉を開けた。
「ああ、そうだ。お姉様にはよろしく言っておいてね」
「うぅぅ、お嬢様・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「咲夜さん・・・」
「さよなら、みんな。もう二度と合わないからね」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
すると突然、美鈴が立ち上がり、こう宣言した。
「ほ、紅美鈴! 歌を歌いますっ!」
―いま 私の―
「美鈴、どうしたのよ?」
―願いごとが―
「どうして突然、歌なんか・・・?」
―かなうならば―
「無駄よ。今更、歌なんかじゃ何も変わりやしない」
―翼が 欲しい―
「悪いけど、そんな歌で私を引き止めることは出来ないよ」
―この背中に―
「まっ、待って! 何か、聞こえない!?」
「え!?」
―鳥のように―
「確かに、聞こえる! 美鈴の声だけじゃない」
「え、ええ! この声は・・・」
「間違いないわ!」
―白い翼―
「お嬢様! お嬢様の声よ!」
「レミリアの歌声よ!」
「お姉様・・・」
信じられない。死んだ筈のレミリアの声が、レミリアの歌が聞こえる。
咲夜にも。霊夢にも。心を閉ざしたフランにも。
―つけてください―
「私たちも! 歌うわよ!」
「ええ! レミリアと一緒に!」
「お姉様・・・分かったよ。私も、歌うから・・・だから・・・」
―この大空に 翼をひろげ―
―飛んで 行きたいよ―
―悲しみのない 自由な空へ―
―翼 はためかせ―
―行きたい ―
ブブブブブブブブブ・・・
「さ、行こう。魔理沙」
「あ、ああ」
日が暮れ始めた頃、人も疎らな公園に魔理沙と霖之助の姿があった。
「ほら、どうしたんだい? 来ないのか?」
「こ、こーりん。こんなの、恥ずかしい・・・ぜ」
霖之助は魔理沙を誘ったが、彼女は中々公園のトイレから出ようとしない。
「今更、恥ずかしがってもしょうがないだろ?」
そう言うと霖之助は、リモコンを『強』に切り替えた。
ピッ
ブブブブブブブブブブブブブブブ・・・・・・
「ああああああああ・・・! 待って! 待って、こーりん!」
全身を襲う強烈なバイブの刺激に、魔理沙は思わず身悶えた。
「こーりん、こんなの・・・嫌・・・」
「嫌・・・だって!?」
「あ・・・」
「いいかい、魔理沙? これはね、僕が君をもっと深く愛せるようにって、考えたことなんだ」
「う、うん・・・」
「なのに魔理沙は、僕の愛を受け入れられないっていうのかい?」
「そ、そんなこと・・・ないぜ」
「だったら、早くそれを脱いでこっちに来るんだ」
「ああ、わ、分かったぜ」
霖之助に言われ、魔理沙は身に付けていたコートを脱ぎ去った。
その下は荒縄と首輪、そして局部に取り付けられた数個のローター、後は裸だった。
「ああ、素敵だよ魔理沙。こんな場所で、こんな格好してるなんて」
「やだ・・・恥ずかしい・・・」
霖之助は首輪に付けられたロープを手に、魔理沙をあちこち連れまわす。
途中、魔理沙は何度も身体を隠そうとしたが霖之助はそれを許さなかった。
手を後ろに回し、全てを曝け出しながら公園を歩く。
やがて暫く歩くと、魔理沙がこんな要求をして来た。
『トイレに行きたい』と。
「どうだい? いい眺めだろ?」
「こ、こーりん、私・・・」
「ほら、どうしたんだい、魔理沙? トイレ、行きたかったんだろ?」
魔理沙はジャングルジムのてっぺんに登らされ、ブリッジに近い体勢を取らされた。
そして大きく股を開いて、腰を霖之助に向けて突き出している。
「お願い、許してぇ・・・」
「駄目だよ。魔理沙のトイレが終わるまで、絶対にそこから動いたら駄目だからね」
「そ、そんなぁ」
「だからね、そこでしてくれるね? 僕の為に」
「・・・分かったぜ」
魔理沙が下半身に力を入れる。
「んっ・・・!」
少女の股間から、琥珀色の水流が湧き出した。
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ・・・・・・
高所から描かれた放物線が、魔理沙と地面を結ぶ。
街灯に照らされて、小さな虹が出来た。
「おおっ!」
それを見た霖之助が思わず感嘆の声を挙げる。
「素敵だよ、魔理沙! 最高に綺麗だ!」
「あ、あんまり見るなよ・・・」
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ・・・・・・
「なあ! 今の魔理沙をみんなが見たら、何て言うかな!?」
「やだ・・・こんなところ、見られたら・・・」
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ・・・・・・
「いつも元気な魔理沙が、こんな変態だったなんて!」
「お願い・・・そんなこと、言わないで・・・」
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ・・・・・・
「安心してくれ! 魔理沙の秘密は僕だけのものだ! みんなが知らない、僕だけの魔理・・・」
「・・・富とか・・・」
「なにぃっ!?」
「名誉ならば・・・」
「ど、どうしたんだ? 魔理沙?」
「いらないけど・・・だって・・・翼が・・・
欲しい・・・聞こえるんだ」
「聞こえるって、何が!?」
「子どものとき・・・歌だよ、歌が聞こえるんだ」
「歌だって!? 僕には何も・・・」
「そんな筈無いぜ・・・今も同じ・・・
確かに、聞こえるんだ・・・夢に見ている」
「・・・はっ! 確かに、確かに僕にも聞こえるぞ!?」
―この大空に 翼をひろげ―
そうだ 今日がどんなに辛くても
―飛んで 行きたいよ―
明日が見えなくても
―悲しみのない 自由な空へ―
僕らの背中には、翼がある
―翼 はためかせ―
だから、前を向こう
―この大空に 翼をひろげ―
僕らの夢を、追いかけよう
―飛んで 行きたいよ―
いつか、大空に飛び出せる
―悲しみのない 自由な空へ―
その日を信じて
―翼 はためかせ―
地上アナログ放送は
―行きたい―
2011年7月に終了し、ご覧になれなくなります
また、お久しぶりになってしまいました
せめて1作品集に1本くらいは目指して行きたいのですが
しかも久々の投稿でこれでは駄目ですね
大車輪
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/07/26 13:35:37
更新日時:
2010/07/26 22:35:37
分類
咲夜
霊夢
レミリア
魔理沙
適当
前のラックSSといい、あなたのカオスは最高だと思います。
部分部分の描写を抜き出しても充分面白いから尚更
このカレーパンマンみたいなあやや可愛いと思ってしまった俺は末期かな
>『私も! 私にとっても掛け替えの無い、友達ですよ! 霊夢さん!』
ここで多かれ少なかれ笑わない人はいないような気がして来た
久しぶりに何か書きたくなってくる
これはいいものだ