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『ルーミアが人を食べる話』 作者: Sfinx
「あなたは、食べてもいい人間?」
そう問うルーミア自身、何故自身が人間を喰らおうとするのか理解できてはいなかった。
カニバリズム(人間でない彼女において、些か不適当な表現であるかもしれないが)を根幹に据えられるほど、彼女は人肉にありつけていない。
幻想郷が八雲紫の管理下にある以上、一介の妖怪に与えられた人間の数など、たかが知れているのだ。
――べり、ばりばり、ごきん。
皮を剥ぎ、肉を削り取り、関節から骨ごと断ち切る。
腱が歯に挟まり煩わしい。
ただ鉄臭いだけの血が、溢れて首元に垂れる。
――不味い、不味い、不味い。
――この考察は独自の見解に基づいたものであり、現実の事物と一致する点はまるで無く、知人に吹聴でもしようものなら愚か者呼ばわりは避けられない。
つまりはフィクションである旨を、前書きとして述べておこう。
人間、妖怪の関係は、単純かつ複雑という矛盾した二要素を孕んでいる。
まずは一般論としてだが、どちらが強いのかと問われれば一も二も無く妖怪であり、強弱で言えば人間は間違いなく下の階級に属する。
妖怪が人間を捕食していることからして、このヒエラルキーは単純かつ明快なものであると言える。
人間は妖怪を畏れ、妖怪は人間を蹂躙する。
一般論のみで結論を出すなら前文の様になり、妖怪が完全上位として存在するのが幻想郷である、と締めくくってしまえるのだが。
そうは話を単純にさせない因子が幻想郷には二つほど存在する。
第一の因子は、幻想郷の管理者、八雲紫。
彼女は幻想郷を心から愛しており、その在るべき姿として、妖怪や神への畏敬を一定以上に保つことを考えた。
その場合に必須となるのが、圧倒的弱者、かつ知的生命体である人間の存在である。
妖怪は他の妖怪を畏れない。恐れこそすれ、決してその感情は畏敬ではない。
妖怪は神を畏れない。敬いこそすれ、神への依存は決して強いものではない。
良くも悪くも、本質的には自分以外を必要な存在と見なさないのが妖怪なのだ。
誰もが他者に依存しないならば、各々が最低限の干渉しか行わない。
そんな、「個々人の小さな世界」が多数存在するだけの場所を、八雲紫は望んではいなかった。
対する人間は、殆ど他者依存で生きている、と言っても過言では無い。
極論どころか暴論に近いが、農業・漁業等の第一次産業に従事している人間でなければ、そもそも生存できないのだから。
そんな彼らにとっては、妖怪というのは恐れるだけの存在ではない。
圧倒的な力や知性を持ち、自らのみを拠り所として生きる。
その「孤高」とも換言できる生き方は、それが自分に害を及ぼすものであったとしても、畏怖や畏敬を抱かずにはいられないものだ。
だから、彼ら人間が必要となる。
様々なものへの恐怖を畏怖を、畏敬を転じて崇敬と成す。
そんな彼らを常に一定数以上に保つことで、幻想郷に適度な社会を築こうと試みた。
その結果が、人里の住人は原則的に襲わない、という規律。
――言い換えるならば、常食物の供給ラインを完全に管理されるということだ。
第二の因子は、博麗の巫女等、強大な力を持つ幾らかの人間。
彼女らに依頼(懇願や哀願もこれに含まれるだろう)することで、一般人も妖怪を「退治」することが可能なのである。
言ってしまえば、人間全てが妖怪に対し有効な「武器」を持っているということだ。
捕食対象が自らを滅ぼし得るという事実は、果たして前述のヒエラルキーに影響を及ぼさないだろうか?
――畑が荒らされた、あの妖怪を退治してくれ。
――、あの妖怪を退治してくれ。
供給される人間だけではとても足りず、時には家畜や野獣、木の実に山菜、また人里の人間。
彼女らの存在によって、妖怪は捕食に多大なリスクを負うことを余儀無くされた。
八雲紫という途方も無く強固な壁に護られ、安全に社会を築いていける人間。
八雲紫という途方も無く頑強な掟に縛られ、日々の食糧もままならない妖怪。
妖怪は、こうも捕食に障害を伴う存在なのである。
ここまで読んで、ふと疑問に思ったことは無いだろうか?
人間を常食としている限り、供給量を超えて食そうとすれば自身に危険が及ぶ。
前述したように人間以外を食料とすることもできるのに、何故人間を常食とし続けるのだろう?
仮に妖怪が人間を常食としない場合、彼らは人間をどのように捉えるのか。
喰らう必要も殺す必要も無く、仮に危害を加えてしまった場合は自身も無事では済まない。
そんな存在と、果たして交流を持とうと考えるだろうか。
完全に人間から妖怪が隔離されてしまっては、人間は妖怪に対しての畏怖も恐怖も持たない。
そうなってしまっては、そもそも幻想郷における人間の存在意義が消失してしまう。
妖怪が人間を捕食するという「常識」。
その「常識」自体が、上記の様な事態を防ぐために八雲紫が講じた処置なのではないだろうか。
――第九代阿礼乙女、阿求氏の「妖怪と人間の相互関係についての考察」より抜粋――
「あなたは、食べてもいい人間?」
自身の行為に疑問を抱きながらも、ルーミアは食事を終える。
亡骸に再度問いかけるも、返事は無い。
捻り切られた首の先、見開かれた眼が虚空を見つめていた。
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/08/01 06:52:19
更新日時:
2010/08/01 15:52:19
分類
ルーミア
阿求
はたして立場が上なのはどちら?
このことを自覚している妖怪は、多いのか少ないのか
果たして、それで本当に人の上位種といえるのだろうか?
そしてそれに人全体が気付いたとき、妖怪はどうなるのだろうか?
日本神話では人間は「いつのまにかいた」だからなぁ。
神に依存している面はあるんだろうけどさ
結局外敵でしかないのだとすればどうなるんだ
後は最近になってえーりんの薬を重宝してそうだけど、依存って程じゃないかも。
……既存の薬屋が廃業してなければ。
私の中で現人神阿求の株が29年10月24日のニューヨーク並みに大暴落の目を見た
実に産廃らしい良い仕事だと思う
妖怪の賢者の間で認識ギャップがあったのが始まりかな。
妖怪の賢者にとっては人間はある意味で妖怪の餌、
人間にとっては大結界がミキサーのカップで、自分たちはミキサーの刃
刃のつもりで自己犠牲覚悟で残ったら餌でした、とか哀れにも程がある。