Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『戦場カメラマン はたてA』 作者: ニャオ
霧深い山中、ここは妖怪の山の防衛ライン
いつ、どこで、どのよう状況で戦闘が開始されるかが分からない場所、この山で最も死に近い場所の一つ、そこに一人の烏天狗が居た
「…と言うことは今日は束の間の休暇ってわけですか?」
「そうだよ、でもいつどこで敵が攻めてくるか分からない、自分の身は自分で守ってくれ、文屋さん」
そう、花果子念報の記者、姫海棠はたてである
今日の私の目的は至極簡単、塹壕の中で待機している白狼天狗に取材をするためだ
その為に文に頭を下げまともなカメラを借りてきた
「分かりました、それから…」
「それから?」
「私の名前は姫海棠はたてです、はたてで良いですよ」
「…分かった、私の名前は好きに呼んでくれ」
「じゃあ、階級を教えて下さい、階級で呼びます」
「私は大佐だ、よろしくな」
「はい」
「あぁそれから、はたてさん」
「はい?」
「…地獄へようこそ」
椛の様に山を哨戒している白狼天狗はおおよそ二千五百メーター辺りから姿を消す、代わりに彼らのようなアンブッシュ、つまりは待ち伏せ専門の白狼天狗が所々に点在する塹壕に身を隠しているわけだ
「…っと、こんな感じで良いですかね、文面は」
「はたてさん、昼飯だよ」
「あ、ありがとうございます」
先程の大佐が食缶に暖かい食事を持ってきてくれた
「取材があるって言ったら炊事班の奴らが張り切ってね」
大佐が取り出した食事のメニューは寒い山の中ではありがたい豚汁だった
「いつもはクソまずい糧食を各自で喰うんだが軍用食になれてないお嬢さんが来たからね、今日は皆笑顔だ」
「な、なんかすいません」
「謝らなくたって良いよ、お陰で私たちも暖かい飯が食える」
渡されたお椀には湯気が立ち上る豚汁で満たされていた、真夏とはいえど高度三千メーター以上、冷え込むため常に長袖だ
「なぁ、はたてさん、私たちは逃げては行けないんだ」
「どういうことですか?」
「まんまだよ、下で見回りをしている哨戒天狗は危なくなれば緊急退避の許可が下りている、だけど私たちにはそれが無い、何故か分かる?」
「…いいえ」
大佐は怒らずはたてに笑いかけ答えた
「この先は山頂だ、そこまで行かれるとどうしてもまずい、だから侵入者はここで必ず殺さなければならない」
「はぁ…」
はたてが空になったお椀を食缶に入れた瞬間、爆発音が聞こえた
「伏せろ!」
私は大佐に頭を抑えられ塹壕の中に押し込まれた
「大佐!敵襲です、三号北壁からです!」
「分かった!今行く」
そう言うと大佐は鉄兜を被り塹壕からはい出た
「良いか、はたてさん、そこでじっとしてろ頭を出すんじゃないぞ」
私にそう言って大佐は駆けだした
立て続けの発砲音、耳を引き裂くような爆音にはたては頭を抑えていた
「(なんなの、なんなのこれ、なんでこんなことが…)」
その時私が縮こまっていた塹壕に何かが落ちてきた
「…な、何?」
それは隊員の死体だった
「ひっ!」
よく見ると右腕の肘から先が無くなっており胴体部分が爆発により抉れ腸がはみ出ていた
「ウッ…ウェェ…エホッ、エフッ…オエエエエ」
私は胃に納められていた内容物を全て吐き出し、涙ぐんだ瞳で死体の顔をのぞき込んだ、よく見ると爆発により顔半分は無くなっていた
『…地獄へようこそ』
大佐の言葉がよく分かった、ここは地獄だ
血の泥濘に叩き込まれ生死の境を彷徨わされ挙げ句の果てには殺される、ここは完全な戦場、キリングフィールドだった
背後に気配を感じ、振り返った瞬間私は凍り付いた、血だらけになり幽鬼の様な表情を浮かべた“敵兵”の姿を、私は網膜に焼き付けた
「…ひ、うぁ、ああああああああ」
私は逃げることすら敵わずそこに座り込み絶叫していた
目の前に立っていたそいつは私に銃を突きつけ感情のない瞳でこちらを睨んでいた
何処までも残酷で、冷酷で、非情で、残忍な瞳がこちらをのぞき込んでいた
私は死を覚悟し、目をつむり迫り来る痛みに耐えようとした、しかしその衝撃はいつまでも来ない
恐る恐る目を開けると目の前のそいつは棒立ちし、事切れていた
「…なんで?」
塹壕からはい出た瞬間、私は後ろから声を掛けられた
「動くな!」
やってしまった、出るなと言われたのに出た、殺されても文句は言えない、そう思い私は後ろを見なかった、しかし痛みは無かった
「…良し、良い子だ」
聞き慣れた声だった
「た、大佐?」
「良かった、死んでなかった」
血で汚れた顔で大佐は笑っていた
「この人達は?」
「…野良妖怪だ」
「野良妖怪?」
「やっこさん最近増えてきてるからな、その変なのと私たちは鉢合わせしたんだろ」
大佐は立ったまま死んでいる敵兵を一瞥すると塹壕に入り込んでいた仲間を引きずり上げた
「…すまんな、死なせてしまって」
そう言うと大佐は死んだ白狼天狗を抱え山の稜線へ出た
血を綺麗にふき取り、綺麗に出来るところは出来うる限り綺麗にして、大佐は私に言った
「…なぁはたてさん、こいつの死に顔撮ってくれ、こいつの家に送るからさ」
私は綺麗にされたとはいえ腹が抉れ腕が吹き飛んだ死体にカメラを構え、シャッターを切った、それは私が初めて撮った死体の、戦死者の写真だった
「ありがとう、女の子にはきつかったかな」
大佐は私にそう微笑みかけた後、死体を持ち上げ谷底へ投げ落とした
私は死んだ彼の写真のネガを決して捨てないと心に誓った、血の泥濘でのたうち回り必死に生きようとして死んでしまった白狼天狗の写真を、一生捨てないようにと
勢いだけでやりました
反省はします、後悔もします
ニャオ
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/08/02 10:06:53
更新日時:
2010/08/02 19:06:53
分類
はたて
オリキャラ
軍事
なんか激しさが昔読んだ本のケサンの雰囲気に似てたわ
オタ的なこといってすまん