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『生首花瓶ゆうかりん』 作者: おにく
●一
太陽の畑から轟音が響いたその日から、風見幽香は姿を消した。美しい花畑の景色にもかかわらず、風見幽香のあの性格と評判ゆえなのだが、人も妖怪も殆ど寄りつかない土地であった。だから人々がその土地に立ち入ることはずっと無く、生命力の強い雑草などがはびこることによって花は追いやられていったのだった。
幾十年の時が流れ植物相は移り変わり、花畑はやがて森になった。幽香を知らない人間たちにより森は伐採され、跡に大きな集落が作られた。幽香の小屋はひどく朽ち果て、屋根に穴があき床に雑草がはびこる有様であったのでそのうち取り壊された。道が舗装され人々が行きかうようになると商店が並び立ち、この土地はますます栄えるようになった。幻想入りした蒸気機関車が交通の主役になり、夜の町にガス灯が灯るようになった。
それでも風見幽香は戻らなかった。
人々は幽香を忘れ、殆どの妖怪の間でも過去の存在となった。稗田家の資料も蔵の奥へ移されたまま埃をかぶり、数十年間もの間もちだされることはなかった。
【生首花瓶ゆうかりん】
●二
竹林の中。永遠亭地下特別手術室。
白色の清潔な壁、照明がきらきらと眩しいぐらいの光を放っていた。かちゃかちゃと器具の蠢く音が聞こえる。
手術台の上に乗っていたのは風見幽香だった。緑の長細い手術台の上で、チェック柄のベストもスカートも、首のスカーフもない姿でいるのである。太陽の日差しの下にある草花の主であったから、白みがかりながらもわずかに日に焼け健康的な色つきである。以外にも陰毛は薄く、膣の具も殆どが裂け目の底に落ち着いている。胸はそこそこ大ぶりといった具合であり、引き締まりつつも全体的にうっすらと脂肪が乗る、かぶりつけばおいしそうな女体であった。
その横に立つのは永琳とうどんげ。マスクに滅菌手袋を身につけ、ばっちり術衣を着込んでいる。うどんげの長い髪も今日ばかりはぎゅっと結ばれ、帽子にしまわれている。
手術を行う二人の医師はいそいそと裸体に布をかけ、幽香の体中に器具がとりつけられていった。手首には血圧計がぎゅっと巻きつけられ、点滴の針が右腕血管に沈み込む。麻酔用のガス、そして酸素がマスクから幽香の肺に送り込まれてゆく。首に刺さったチューブの先にはなにやら鉄製の大掛かりな装置がごうんごうんと音を立て動いている。
「内臓を摘出するわ」
執刀は永琳、助手はうどんげである。永琳のメスがお腹の上の布を切り裂き、幽香の体にさくさくと沈みこんでゆく。胃から腸にかけて、そして下腹部内の子宮へと桃赤色の内臓が次々と外気に露出させられてゆく。
生きている幽香の内臓は、びくびくと独立した生き物のように蠢いている。腸がずるずると引き出され乱暴に切断され、胃も食道もすべて取り出されてしまう。そして子宮、こちらは機能を失わないように大事に大事に取り出された。取り出された臓器はうどんげがみな大事そうに緑の薬液に漬けてゆき、そのたびに空気が抜けるようなぷくぷくとした音が立てられた。
何もかもを切り離せば死んでしまうように思えるが、そこは生死を超えた永遠亭の技術である。半ば非常識な処置とともに、正確で大胆な手術をするのだ(幻想郷では常識に囚われてはいけないんですね!)。内臓を漬ける緑色の薬液は竹林で取れる五十七種の薬草の調合物であり、切除された内臓が傷まないように保護する効果がある。そして首に刺さったチューブの先の、科学と呪術の結晶であるところの装置が欠けた臓器を補いながら生命を維持するのだ。
腹部から露出した内臓を一通り取り終えたあと、うどんげが手渡したのは鈍く輝く大きなのこぎりであった。刃はいずれも鋭く、300年物の大木でも切り崩せそうだ。手渡す時のそのうさぎの手、ふるふると震えはじめていた。
「両足と腹部を切断するわ」
「……はい」
うどんげの額には大粒の汗の玉が流れ、塩水と脂の筋を作っていた。目が虚ろで顔色も悪い。この手術は幽香本人から依頼されたものでもなければ、その同意すら得ていない。さる依頼により始められた手術であった。死なない体を利用して力ずくで誘拐してきた幽香を解体しているのである。うどんげはそのことでどうも気分が悪いのであったが、それでもぎゅっと足を抑えつけている。
布がやぶられ、幽香の尻と、そのすらりと長い足を結ぶ付け根が露出する。永琳はその付け根にのこぎりを当てると、ためらいもなくギコギコと肉を切り始めた。そうするとその切れ目から溢れ出る肉汁のごとく赤い血が噴き出し始める。動脈が切断され人間なら血液を失って死ぬ所であるが、首に取り付けられた装置と妖怪ゆえの体力によって何事も無く生き続けているのであった。
じゅっじゅっと液体の混じるような音からごりごりと骨を削る音にうつりかわり、やがて左足は切断された。以外とあっさり切断された左足だった。しかし右足は手こずることになり、のこぎりの洗浄を間に挟まなければならなかった。左足切断の時にこびりついた脂が切れ味を悪くしていたのだ。一方腹部の切断は内臓を取り払っていた分あっさりできた。皮を破れば背骨を切断するだけだったからである。
両足が切り離され腹部も真っ二つ、その上胸部の内臓が漏れ出ている幽香はしかし息をしていた。惨殺死体のようにぐちゃぐちゃの体だが、何も知らない幽香はただ平和そうに眠りについているのだった。草の毛布で眠りこむ時の顔だった。
「どうしたのウドンゲ、汗でびっしょりね」
永琳は涼しい顔で言う。うどんげははっと顔をあげた。
永琳がうどんげの様子に気づいたのは切断が終わった後のことだった。切断を終え、次の工程に取りかかろうという時であった。こういう手術の時、うどんげは気分を悪くする。仲間を見捨てたこともあるうどんげだったがそれを反省するあまり倫理観が人一倍厳しく、また根本的に善良な性根もあってこんなことは体が受け付けないのであった。長い仲であるから永琳はとっくに承知していることだったが。
「うどんげは優しいからこういう事は嫌いなのね。でもこういう大口の仕事を逃したら永遠亭はやっていけないの。里の人間はたいして金を落とさないし、妖怪は丈夫で病院に来ない。姫様のわがままにもお金がかかる」
永琳はのこぎりの肉を洗い落としながら言う。
「この風見幽香は妖精や人間をいたぶる悪人だそうね。そしてその上、手を付けられないほど強い。私だって蓬莱の薬無しでは勝てなかったでしょう。ねえ、この妖怪が死んだり力を失ったりしたとして誰が困るのかしら。むしろ私達、感謝状もらえるじゃない」
「はい……」
そうはいってもうどんげの目は兎のように一層赤いままなのであった。
それはそれとして、手術はどんどん進んでゆく。次は首の切断だ。肩に近い部分に刃を当て、喉も血管も巻き込みながら切り落としてゆく。生命維持装置のおかげでそれでも死ぬことは無い。刃が喉に食い込みはじめると、そこを通る空気が血液と混じり合ってごぽごぽと泡だった。
そうしてついに最終工程である。腹と足が切り離されて孤立した尻と、幽香の生首を結合させるのである。もちろんただくっつけるだけではなく、血管や神経なども繋ぎ、生きものとして機能するようにするのである。依頼主の依頼は「風見幽香で作った花瓶が欲しい」であった。このように接合すれば、頭・首・膣に尻が一直線にならぶ。逆さにして膣と尻に花を生けて楽しむという趣向である。幽香の膣で育つ花は幸せだが、もちろんプライドの高い幽香は屈辱に思うはずであろう。このような前代未聞の辱めを受けてどう反応するかというのも依頼主の期待するところである。
腹などの比較的伸びやすい皮膚を首と尻の間や足の切断部に貼りつけ、傷を隠せば一応は完成である。体外にある生命維持装置を体内に移動させる手術、一部の内臓を再び繋ぎ合わせる手術、脳の一部を切除して力を使えなくする手術などがまだ控えているが、しかし花瓶としては一応完成といってもいいだろうというところである。
手術を無事終えた幽香の体は包帯やガーゼでぐるぐる巻きにされ車イスで運ばれた。地下室の奥の錠前付きの部屋に保存され、手術の度に取り出されることになる。一般の入院患者に見せるわけにはいかないものであるから、そんな所にしまうのだった。幽香の体調は特に危なげもなく推移し、続く手術も問題無く成功。永琳は幽香の傷の治りを観察しつつ、殆ど塞がってきた頃合に依頼主に一筆書き、受け取りに来るよう要請した。
伝書鳩の行き先は地底、古明地御殿、地霊殿。
●三
がらがら……。
白髪の赤服が竹林をゆく。少しはなれて不健康そうな桃髪、そして真っ黒なみつあみ猫。
地霊殿の主、古明地さとり。それにつくのは火焔猫燐。妹紅の案内で永遠亭を目指しているらしい。この二人が地上に出てきたのは永遠亭に依頼の品を受け取りに行くためであった。幽香改造の依頼主は古明地さとりなのである。お燐ががらがらと車を押しているのもその幽香を持ち帰るためだ。
「まぶしい。なんで地上の生き物はあんな輝いたものの下で、平気で暮らせるのでしょう」
「さぁ……そんなこといわれても、あたいにはさっぱり」
地底暮らしを何百年も続けてきたさとりにとって、地上の日の光はそれはもう過剰なものである。最初に地上に来た時などまったく目が開かず、日が落ちるのを待ってから出発したほどであったらしい。明るい地底最深部で働くお燐はともかく、さとりにとってはこの光は辛いものなのである。そのため歩みはのろのろとしたもので、妹紅はしばしば客人に振り返るのだった。
「ほら、あそこが永遠亭。帰りも声をかけて、迷子になるから」
妹紅が振り返ると白の髪がふぁっさりと筋を描いた。その尻に続き竹林を抜ければ、永遠亭がそこにある。石が敷き詰められた道がその入口まで続いている。さとり達が玄関のうどんげに用件を話すと、すぐに地下室へ通してもらえることになった。
「ええと、モノがモノですので、こちらに……」
玄関先で受け取れないのはそういう理由だ。
廊下の奥には施錠された扉があった。それをくぐると、中は薄暗い、階段があることを見落としてしまいかねないほどである。地上部の風通しの良さと比べここは雰囲気も物々しく、何より無機質だ。血や薬品のねっとりとした臭いが隠しきれず扉から漏れてくる。ただし地底の二人の印象は、地下部分のほうが落ち着く、地上のほうがむしろ暑くて居心地が悪いというものであった。彼女らの御殿は亡霊と死体の溜まり場だった。
さとりは何を考えているのか分からないような無表情、お燐は薬の臭いが気になるのかしきりにくんくんしていた、三人は特に会話も無く、ただただ地下へ進んでいった。
地下室から更に降りてゆくと大きな鉄製の扉があり、その施錠は大仰なであるようにすら思えるものだった。二つの鍵の上に指紋認証型の軽い封印まで施されている。とはいえ鍵を持ち歩いているうどんげが解錠に時間をかけるはずもない。鍵を取り外した後、指紋認証をクリアするとあっさり扉が開かれた。
「ご希望の品です」
三人の目にふわふわのクッションに寝かされている幽香の姿が映った。
うどんげが壁のつまみを回すと明りがなめらかな肌をいっそう際立たせた。薄い瞼は閉じられており、長いまつげがつやつやと光を照り返している。唇は薄い桃で柔らか。眉は細長い。美しい顔である。とはいえ首から下は珍妙、なにしろ首の下に尻が来ているのだから。ただその小さい姿は小人のようでかえって愛らしいと言えなくもない。少なくともさとりはそう思った。
最初の手術の前、その時に眠らされてから幽香は一度も起こされていない。首の点滴から妖怪用の麻酔が常に供給されてつねに眠りについている状態である。起こした時の最初の反応を楽しみたいというさとりのためだけに、そうしているのだ。
さとりと幽香は今日この時までただの一度も面識を持ったことは無かった。しかしさとりは天狗の新聞を見てその美しい姿形、冷酷な性格などを知っていた。そしてその存在を知った時からのさとりのオナニーは、幽香に関する妄想とともに行われるものが大抵になっていた。あの自信とプライドの塊を滅茶苦茶にして泣かせたい。いぢめ尽くして服従させてやりたい。とはいえその為に命を落としたら地霊殿は鬼の住処になってしまうかもしれない。嫌われ者の私の妹はもちろん、ペットも追い出され、地上の辺境で餓える羽目になるかもしれない。快楽のために責任を放棄できないと考えるさとりはオナニーで性欲を発散するしかなかった。
しかし地上の情報が色々耳に伝わってくるにつれ、永遠亭という便利な施設があることを知った。そしてその永遠亭に幽香の無力化と、ついでに可愛さを保ちつつも屈辱的な姿、すなわちこの花瓶のような形へと変えてもらうよう頼んだのである。
さとりはその可愛らしさにうっとりして、一方お燐は珍妙なその姿に笑みを漏らしている。うどんげは幽香が起きてしまった後のショックを思ってか沈痛な面持ちだ。
「幽香さんはいつになったら起きてくれますか?」
さとりは幽香の頬や膣をもちもちと触りながら尋ねる。とても柔らかそうだ。温かい体温の感触がある。
「ええと……、麻酔の追加投薬をしなければ三時間ほどで起きるかと」
うどんげの回答を聞くと、さとりは幽香を眠ったまま地霊殿まで運ぶことにした。早く幽香で遊びたい。こんな所で乱れるわけにもいかないから、持ち帰らないといけない。中身が見えないように黒いシートで幽香をラッピングすると、お燐とうどんげで両端を分担し外の車まで持ち運んだ。幽香の世話に必要な器具類、切除された臓器や手足の肉なども運び込む。全て合わせるとけっこうな量がありとてもお燐の車では運べないので、ついには牛車を動員することになってしまった。
荷物の正体が気になりちらりと覗いてみた妹紅は生の臓器とご対面してしまい、こみ上げてきた胃液を道端に戻してしまった。帰りの案内は終始よそよそしいものであったという。
「何か問題があれば、いつでもご連絡ください」
地霊殿までの道のりは何の異変も無く平和だった。さとりは車の中で寝転んでしまったので、牛車の操縦はお燐が受け継いだ。お燐の乱暴な運転にもかかわらず怒らない温厚な牛であったので、まっすぐ帰れたのだった。
地霊殿に入ると荷物の運び出し。力自慢の全てのペットが動員され幽香はさとりの部屋に運び込まれた。自分の部屋でプライベートにちゅっちゅするためだろう。麻酔はもう投与していない。幽香が起きるまであと一時間。さとりはわくわくの心境でその時を待っている。
ペットは皆空気を読んでさとりの部屋から離れた。
既に日は落ち、子供は眠りにつく時間。大人の楽しみはこれからだ。
●四
ここはどこだろう。
白い髪の女にいきなり花畑を襲撃され幽香は反撃を余儀なくされた。光線に巻き込まれて散っていく花に心を痛めながら必死で戦った幽香であったが、かの敵は何度消し炭にして殺そうとも完全な状態で蘇ってくるのだった。幽香はついに敗北を悟り逃げだす。しかし敵の容赦ない追撃によりバランスを崩し墜落してしまった。幽香の頭にはそれ以降の記憶は無かった。
瞼を開ける。ぼんやりとした視界、桃色の何かが映し出されている。神経の妙なしびれがあり、体はまるで動かせない。
しかしその一方で様々な感覚が徐々に回復してきているのは分かった。まず戻ってきたのは触覚、なんだかすべすべとしたものが体を這いまわっている。そして視覚と聴覚、はあはあと高い吐息の音、そして目に映った桃色は実は少女の髪の毛であった。
「はぁ、はぁ……くんくん、すー……はー……、すー…」
さとりは鼻を付けて幽香の体の匂いを嗅ぎ、尻や頭を撫でまわしていた。興奮しているのか息は荒く頬は真っ赤に染まっている。伏し目がちのその目はうっとりと潤んでいる、発情したメスの目だった。
「……っ!!!」
さとりのねっとりとした手つきが、全身の神経を跳ねあがらせた。幽香は"ひっ"と息をのみ、それは軽い悲鳴となって漏れた。そうしてさとりは幽香の目覚めに気付くことになり、ついに鼻を突き合わせるほどの至近距離で目が合ってしまったのだ。
「ふふ……はじめまして、幽香さん」
さとりの目にはエメラルドのような幽香の目が、幽香の目にはルビーのようなさとりの目が、それぞれいっぱいに映し出された。鼻息も口の息も触れ合うような距離であり、少女の甘い息の匂いが絡み合う。お互いの内臓に暖められた空気が頬と唇を汚す。
そして細長い指による愛撫が、今なお幽香の性感神経をもてあそんでいた。幽香のくすぐったいところをこりこりとほぐしながら、気持ちよさに変えてゆく。しかし皮と肉をまさぐるばかりで、大事な所は一切手がつけられていない。
「っ! 離れなさい!」
幽香の瞳にはさとりしか映っていない。それゆえ体が動かない理由が分からなかった。さとりを押しのける腕も、さとりを蹴り飛ばす足ももう無いということを幽香は知らなかった。幽香は残ったわずかな筋肉でただただくねくねと動くだけで、その力は細身の少女ですら捕まえておけるほどのものしかなかった。
(ナメクジみたいでかわいい)
さとりはそんな感想をもった。
「私は古明地さとり。ふふ、あなたの飼い主です、よろしく……」
「何のつもり。貴女に飼われるいわれなんてないわ」
幽香の睨むような視線も全く気にせず、さとりは幽香と唇を重ねた。唾液の交わるようないやらしいキスをしてみたかったさとりだったが、幽香がかたくなに唇を閉ざすので早々に諦め、愛撫を打ち切り幽香を解放した。半ば寝転ぶ姿勢で幽香を愛でたさとりは、両足折りたたみ、座る。
幽香は座ったさとりを見るためにすら、ずっと上を向かなければならなかった。幽香は何かがおかしいと分かり始めたらしい。こんな少女が座っているだけなのに、どうして見上げる必要があるのだろう。
「自分の体のことお気付きですか? とっても可愛くして貰ったんです。ほらこの鏡……」
そして鏡の中の自分を見てしまった。
幽香は固まった。唇はふるふると震え始める。体温がかっと上がり、嫌な汗が溢れ出てきた。幽香は言葉を紡ぐことが出来ない。瞳には鏡を通しての自分が映っている、それが分からない幽香ではなかった。しかしあまりに常識からかけはなれたことであるから現実を認識するにはもうひと押し必要だった。
「ほら、大丈夫ですか。くすくす……。あなたを捕まえて改造してもらうのにすごいお金がかかりました。宝物庫が一つ飛びましたから。人間を千匹買うより、もっとお金がかかったんですよ。ふっかけられたのかもしれませんね……。でも、それだけあなたを愛しているんです、お金よりあなたのほうが大事なんです」
さとりが幽香の後ろにくると、鏡の中にもさとりが現れた。幽香の姿は変わらない。
「このデザイン、徹夜で考えたんです。ひっくり返しておまんこに花を生けると花瓶にもなるんですよ。どうですか、感想聞かせて下さい」
「ふざけないで! い、今すぐ戻しなさい!!」
改造された幽香はたまったものではない。幽香は自分の姿ながら、お世辞にも可愛らしいとは言えないと思った。むしろ泣きたくなるぐらい奇怪だった。この姿をさとり一人に見られることすら彼女のプライドからすると苦痛だった。
「そうですか、残念です」
勿論さとりは幽香が喜ぶだなんて微塵も考えていなかったのだが。
幽香の顔には余裕が消えていた。恐怖と焦りが生まれていた。睨むその目はやはり鋭かったが、それだけである、実は幽香は気付いていた。自分の体は見た目だけでなく、中身まで変わっているのだと。手術としてそう処置したのだから当たり前のことであったが、幽香には妖怪としての力が全くと言っていいほど残されていなかった。そうでなければさとりの首を飛ばして、花畑まで飛んでいけばいいだけである。
(どうしたら、どうしたらいいの……?)
今まで生きてきた中で身の危険を感じたことなど一度も無かった。どうしようもない力の差に抑圧されることもなかった。こんな時どうしたらいいか、幽香は何も知らなかった。
幽香の調子はそんなものであるし、第一危険がないとわかっているさとりであるからそんな要求を飲む理由は全くなかった。さとりは全く臆するところもなく、可愛い反抗ににやにやとしている。
「さ、ペットには躾をしないといけませんね」
さとりはふと立ち上がると机の上から一つの細長いビンを持ってきた。幽香を引き取る際に貰ってきたものだ。幽香は口を閉じビンの中の液体を飲むことを必死に拒んだが、飲む気が無いと分かると鼻から注がれてしまった。液体が喉を通り体に浸透してゆく、その時変化が起こったのが膣に隠された尿道の奥であった。
「おトイレの躾をしましょ……、ほら、おしっこがしたくなってきませんか?」
「あ、あぁ……!! この……!!」
尿道が排泄しようとびくびく動いている、幽香は恐ろしいほどまでに強い尿意を感じていた。
「今、おトイレを準備をしてあげますからね。ちゃんとその中でするんですよ」
木製の箱に白い砂のようなものを注ぎこんだ。家猫のトイレと同じものを用意したわけである。さとりはわざと幽香から3メートルほど離れた場所にそれを置いた。幽香は自分を動物扱いするさとりを鋭く睨んだ。そんな所で見られながら排泄させられるのは我慢ならない屈辱である。とはいえトイレでしないのなら床に漏らしてしまうしかない。そちらのほうがなお恥ずかしいので、幽香はおしりのわずかな筋肉をつかってもじもじ動きはじめた。
さとりの意識には幽香の葛藤がいちいち伝わってくる。非常に滑稽でおもしろい見世物であった。必死に取り繕う外面のその奥、さとられまいと隠す恐怖の心境を簡単に覗き見ることが出来るのだった。
排泄を決意してもなお問題は残った。五体満足な幽香であったらそこで排泄することは簡単だっただろう。しかし今の幽香は移動するための器官がことごとく失われている。残されたわずかな筋肉を使って前に進むしかないのだ。かつてだったら三歩歩けば届いた距離なのに、今だと1/3進むのに一分は軽くかかっている。
「ふぅ、ふ…っ!!」(漏らしたら、漏らしたら……!!)
「そんな速さでは今に我慢しきれなくなりますよ?」
幽香は無心で進んでいく、漏れると考えると漏れてしまいそうだった。尿道のひくつきはどんどんひどくなってくる。割れ目の間に尿が漏れ始め、いつ決壊してもおかしくない。幽香は汗だくになりながら頑張った。それでも、それでもなんとかトイレの前についた。しかし……。
(そんな……)
トイレの箱のふちの高さが幽香の首まである。30cmに満たない壁が高すぎて登れないのである。必死に飛び上がろうとするが、全く入れる気配が無い。幽香は必死なので今の今まで気付かなかったが、もとより入れるはずがない構造であったのだ。
「この……、分かっててやらせたの……!!」
「何のことでしょう。ふふ、おトイレはすぐそこですよ」
とはいえおしっこが出口に迫っていて既に怒る余裕はなかった。幽香は何度も何度も登ろうとした、しかし入るのは顔までで、尻がトイレに入ることは無かった。そしてどうやってもトイレに行けないと分かるともう我慢できなくなり、初めはちょろちょろと、だんだん勢い付いて最後には潮のように噴出していた。
じょろろろ……。
「あ、ああぁぁ……」
生温かい感触が幽香の尻に広がる。幽香の瞳にはおもらしという屈辱と、さとりの掌で踊ってしまった情けなさからか、すでに涙が溜まり始めていた。
「ああ、幽香さんおトイレできませんでしたか。大丈夫ですよ、少しづつ練習すればいいんです。ほら、ふいてあげますから」
幽香はもうさとりに触られることすら嫌だったが、何の抵抗も出来ず赤ん坊のように掃除されるしかなかった。涙でぬれた顔は隠すこともできず見つめられた。幽香の胸中には怒りもあった。しかしそれ以上に苦しい責めによってプライドを捨て、自ら畜生のように振舞い始めてしまうのではないかという恐怖があった。
「お顔も拭いてあげましょう」
そんな感情負けまいとしたのかもしれない。ハンカチを取ってこようと立ち上がったさとりの左足に、突然幽香が噛みついたのだった。小さい幽香がかみつけるのはかかとぐらいだったが、今の幽香の最高の抵抗であった。真横に倒れた姿勢で必死に食らいついている。
「いたっ、痛い!」
口周りの筋肉はまだ残されていた。噛みついたかかとに歯が食い込み、血がにじみ出てきた。あまりに突発的な、なかば反射的な攻撃であったのでさとりにも避けることが出来なかった。
さとりは幽香の体を右足で蹴った。しかし何度蹴っても離れず、少しためらった後に頬を踏みつぶした。噛みつくことはできても幽香の力はやはり弱い。二、三回顔を蹴られるととうとう足を離してしまった。
そこからは形勢が逆転した。やはりさとりも怒っていたのか、幽香の体に再び蹴りが入れられた。さとりは他の妖怪と比較しても強力な身体能力をもつ存在とは言い難い。しかし今の幽香にとってその蹴りは乗用車に衝突されるにも等しく、その小さな体は部屋の壁まで吹き飛んでしまった。冷たく固い大理石の壁が背中にぶち当たる。
「がはっ……!!」
歯が折れてしまったのか内臓にダメージがあったのか、幽香の口から血が溢れた。
「まったく、いきなり噛みつくなんて。あなたは私のペットなんです。その上一人じゃ絶対生きていけない体なんです。分かっていますか? 私が捨てたらあなたはもう終わりなんですよ?」
さとりは幽香の体を何度も蹴った。幽香は何も出来ず、ただその度に悲鳴を上げるしかなかった。
「あなたみたいな意地悪な妖怪、恨みを持ってる妖怪は一杯いるでしょう。ここを出たら最後、そういう輩に殺されて終わりです。でなければ知能もろくに無い妖怪に食われるか、飢え死にしてしまうだけ」
体が傷だらけになり、痛くて涙が止まらなかった。幽香はこんな痛い思いをしたことがなかった。
「あなたを必死に探してくれるお友達はいません。あなた一人が消えた程度では巫女も動かないでしょう。元の体に戻るなんて夢のまた夢です。そんなことは決して出来ません。私に可愛がってもらうしかないんです。可愛くて恥ずかしい姿を見せて、エサを貰うしかないんです。分かりますか。今度こんなことをしたら捨てますからね」
幽香は嗚咽を漏らしながら泣くしかなかった。そうだ、私が助かるなんてそんなことありえない。私には誰も居ない、私には何もできない。本当は分かっていたが、プライドが許さなかった。しかし今の幽香にプライドはない。怒り狂ったさとりが怖くて堪らなかったからだ。さとりが本気になれば自分は殺される。さとりが愛想を尽かせば捨てられて死ぬ。生きたい、捨てられたくないと思ってしまった。
「嫌ぁ……! ごめんなさい、ごめんなさぃ……!」
それを聞いたさとりはほっとした表情に戻って
「ああ、そんなに泣かないで。大丈夫ですよ、私はあなたを愛していますから。わかってくれればいいんです。ああ、ハナミズが出てますよ」
さとりはハンカチを取り幽香の汚れた顔を拭いたが、噛みつかれることは無かった。そして綺麗になったその顔にさとりはキスをした。唇に舌を割り込ませても、もはや抵抗はなかった。幽香の瞳からはまた涙があふれ出した。
●五
普段の幽香は地霊殿の入り口に飾られている。膣にはひまわりの花、尻には百合の花が生けられている。やはり恥ずかしかったようで、こんなところに置かないでほしいと必死に頼み込んだものだった。しかしさとりに依存した幽香であったから、どうしてもやってほしいと頼られると断ることは出来なかった。数百年来保ち続けてきたプライドは、そうはいっても完全には捨てきれないようで、真っ赤に赤面しながら来客を迎えてくれる。
夜の仕事も良くこなした。孤独だった幽香にとって性交は麻薬だった。幽香は殆ど動けないのでさとり主導の交わりしか出来ないが、さとりに見捨てられたくない一心で舌を動かし、そんな中でもよく奉仕している。
花畑の花達も気がかりだったが、こうなってはもう世話をしてあげることは出来ない。今ここにある花たちだけでも大事にしようとそう思っていた。フラワーマスターの体液には特殊な成分が含まれているのか、幽香に生けられている花はとくに水やりなどをせずともすくすく育っている。
幽香の生存が地上にまで知られるようになると幻想郷縁起の項目もまた書き直されることになった。
「【風見幽香】地霊殿エントランスにて花瓶として使われる妖怪。膣でひまわりを咥えている。かつては凶悪な妖怪として知られたが、現在は力を殆ど失っているようで危険はもう無い(ただし地霊殿自体は危険な場所である)」
ゆうかりんみたいなSを傷めつけたくて書いたんだが……
おにく
- 作品情報
- 作品集:
- 19
- 投稿日時:
- 2010/08/07 15:35:31
- 更新日時:
- 2010/08/08 00:35:31
- 分類
- 幽香
- 人体改造
- 解体
- おしっこ
- 永琳
- うどんげ
- さとり
- お燐
尻だけでよくおしっこ生成できたな、流石最強だ。