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『聖人の罪』 作者: 名前がありません号
どすっ
「……え?」
突然の出来事だった。
白蓮が気付いた頃には、少年の持っていた包丁は白蓮の脇腹に突き刺さっていた。
少年は人里の人達に取り押さえられながら、「父さんを返せ!」と叫んでいた。
白蓮は視界が霞む中、その少年の声だけは鮮明に聞こえていた。
裏切り者め!
何が人間の味方だ!
妖怪に魂を売った悪魔め!
悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め!
姉さん。どうして悪魔になってしまったんだ?
「………!?」
白蓮が飛び起きると、そこは見慣れた命蓮寺の天井だった。
ふと、脇腹を見る。傷は既に治っていた。妖怪の力なのだから当然なのだが。
久方ぶり、だろうか。あの夢を見たのは。
封印が解かれてからは、初めてだ。
無数の人々に浴びせられる悪魔という言葉。
そして最後に、命蓮にまでも悪魔と呼ばれ、そこでいつも眼が覚める。
魔界に封じられていた頃は、率先して考えないようにしていたが、
封印が解かれてからは余り意識しなくなっていたのだろう。
「あ、目覚められましたか」
すると、襖を開けて星が入ってきた。
「傷の方は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。……もう人間ではないから」
「……本当に大丈夫ですか? もう少し休まれた方が」
「いえ、いいわ。ところで、あの少年は?」
「今は牢に入れられているようです。落ち着くまでは其処に入れるしかないと言っておりました」
「そう……」
「妖怪に、父親を殺されたようです。病床の母親もその後に……」
「そう……」
「……余り気になされぬように。貴方の望む世界が出来るまでの辛抱です」
「ええ……」
「それでは、私は他の業務がありますので、これで失礼致します」
「ええ、忙しいところ、済まないわね」
「何をおっしゃいます。貴方様は私達の希望なのですから」
そう言って、星は出て行った。
白蓮は布団から出て、外に出る。
傷は治っているはずだが、脇腹にはまだズキズキとした痛みが走る。
人の身になって感じる痛みは、妖術により殆ど感じなくなった。
しかし心の痛みまでは、妖術を持ってしても取り去る事は出来なかった。
「命蓮、私は間違っているのかしら?」
空を見上げながら、白蓮は自らの過去を思い出していた。
それはまだ命蓮が生きていて、白蓮が年老いた姿だった頃の事。
聖は飛倉に命蓮と共に暮らし、法力を身に付けていったのである。
しかし命蓮は、白蓮よりも早く亡くなってしまう。
伝説の僧侶である命蓮でさえも死んでしまうその事実は、
白蓮に弟を失った悲しみ以上に、死に対する恐怖を深く刻み込んだ。
その恐怖から逃れんとした白蓮は、法術ではなく妖術や魔術にその逃げ場所を求めた。
そして白蓮は永遠に等しい寿命と、若返りをなしえた。
しかしこの術は、妖術の力によるもの。
逆に言えば人間が妖怪を排斥し、妖術が失われれば、白蓮がかけた若返りの秘術は解け、
白蓮は元の年老いた姿に戻り、そして死ぬ。
その事実を恐れた白蓮は、妖怪を敬い、妖怪を救っていった。
それは己の術を維持するために必要な行為だった。
彼女は己の欲望の為に妖怪を救っていった。
しかし、妖怪達を救うにつれて、妖怪達の過去を知る。
それが彼女を聖人の道へと進めるきっかけとなった。
彼女は人と妖怪の共存の道を模索する為に、活動を始めたのだ。
そして聖白蓮は第二の命蓮と言われ、人々に慕われるようになった。
その美貌と法力に、多くの人々の人気を獲得していった。
聖は彼らをゆっくりと説得し、人と妖怪の共存できるような世界ににする事を望んだ。
そのための一歩を、彼女は踏みしめた気がした。
しかし、ある人間が言った。
「白蓮が居れば、もう妖怪は怖くない。夜に怯えて暮す必要なんか無い」、と。
そして、事件は起きた。
それは、妖怪達が多く住む鉱山の付近に町を作るという計画だった。
白蓮に頼まれたのは、その周辺にいる妖怪達の排除。
白蓮はこの依頼に大いに悩んだ。退治するだけならまだいい。誤魔化しは幾らでも効く。
しかし、今回は妖怪の生活圏を脅かしかねない事だ。
妖怪を敬う白蓮には、その行為は到底容認し難いものだったのだ。
皮肉にも、白蓮の存在が人々を増長させてしまう事になったのである。
白蓮はしばらく考える時間が欲しいと、人々に言って、しばし人々の前から姿を消す。
人々からは、流石の白蓮も困難なのだろうかという声が聞かれたが、
白蓮の行動を不信に思った人々は、白蓮の後をつけていった。
白蓮は人々から依頼された鉱山の妖怪達の住処に向かった。
「ここに妖怪の長はいますか?」
「お主はだれぞ?」
「白蓮と申します」
その名を聞くと、妖怪達の中からどよめきが聞こえる。
妖怪を助ける奇妙な僧侶の名は妖怪達にも知れ渡っていた。
すると鉱山の奥から、妖怪達の長と思しき妖怪が現れる。
「何用でここに来た」
「どうかこの鉱山の一部を譲っては頂けませぬか」
「ならぬ、ここは我らの地。人に渡す義理など無い」
「人に町は作らせません。なんとしても説得してみせます」
「ならぬ。この地を得れば彼奴ら人間はさらに増長し、我らに牙を向ける」
「………その通りかもしれません。ですが、私がそれを説得してみせます」
白蓮の言葉を聞き、しばし思案すると妖怪の長は言った。
「……よかろう、我らの土地をくれてやろうではないか」
「まことですか! ありがとうございます」
「くく、早く人々の元へと戻るがいい」
「ありがとうございます」
白蓮は何度も妖怪の長に感謝をして、人々の元へ戻っていった。
しかし妖怪の長の顔には、邪悪な笑みが張り付いていた。
白蓮と話している間に、妖怪の長は見ていたのだ。
白蓮を追いかけてきたとおぼしき人間の姿を。
「愚かな僧侶よ。その半端さで、人も妖怪をも救おうなどとは。
お前ごときに人も妖怪も救えはせぬ。人々の憎悪の念に苛まれて、苦しむがいい」
妖怪の長は、くかかかと笑いながら、鉱山の中へと消えていった。
長は気に食わなかったのである。人にも妖怪にもいい顔をする白蓮の存在を。
だからこそ、白蓮を追いかけてきた人間達を襲わず、白蓮にも伝えず放置した。
その後の白蓮がどうなるかは、長には容易に想像がついた。
町へと戻った白蓮に待っていたのは、人々の冷たい視線と罵声だった。
「この悪魔め!」
「裏切り者!」
「妖怪とつるんでワシらを嵌めようとしたのだな!」
人々から掛けられる罵声に、白蓮は必死に人々を説得しようとする。
「落ち着いてください! 鉱山の妖怪達は退治しました。鉱山は使えるように……」
「嘘を言うな! 俺は見たんだ! こいつが妖怪の長と話している所を!」
「きっとこいつは妖怪達と共謀して、俺たちを妖怪達の生贄に捧げて自分だけ助かろうとしているんだ!」
「ち、違う。違うんです……そうではないのです……私はただ……」
「人間の面をした悪魔め!」
「妖怪に魂を売った悪魔め!」
「悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め!」
人々から浴びせられる罵声、ぶつけられる石。
そして町の広場に縛り付けられた白蓮は、鍬や棍棒で殴られ、
水責めを受け、慰み者にされていった。
しかし妖怪の力を手にした白蓮はそう簡単に死ぬはずもなく、
人々に散々に嬲られた後、魔界へと封印されていった。
封印されるときまで、悪魔と罵り続けられながら。
自分の理想は間違っているのか。
封印された時はずっとそう思っていた。
しかし、自らを封印から解き放つ為に動いてくれた妖怪達が居た。
自分が必要とされている。その事を理解した聖は再び、その理想の為に生きる事を誓った。
それでもなお、この身体と心は悪夢に苛まれ続けている。
妖怪が人を食う事を止める事は出来ない。彼らの生存の為に必要な行為だ。
されど人が進んで妖怪に食われることなどあるはずが無い。
人から率先して妖怪に食われる行為は、人の尊厳を踏みにじる行為だ。
それを白蓮は良しとすることは出来なかった。
さりとて、妖怪が滅ぼされる事は論外でしかない。
人に滅ぼされていい存在であるはずがない。
そして、己が力が失われる事を由とするはずもない。
死んだ命蓮はどう思っているのだろうか。
人としても、妖怪としても半端になってしまっている自分に。
白蓮は今も苦しみ続けている。
星蓮船のリドミの聖さんを見ながら、カリカリと書いてみる。
聖人みたいな人って、最初は俗っぽい人が多い気がする。
その後、なんか色々あって人が変わったみたいに聖人になるって感じ。
リドミの過去の聖さんは、なんか凄く中途半端な印象を感じるけど、
まぁ、どっちも尊重したらそうなるよね。
当分は短編物を思いつく限り書いていこう。
てか虐めてないじゃないかという事に、今気付いた。なんてこった。
名前がありません号
- 作品情報
- 作品集:
- 19
- 投稿日時:
- 2010/08/10 08:18:12
- 更新日時:
- 2010/08/10 17:18:49
- 分類
- 聖白蓮
十分に平和になった今の幻想郷で、いらんちょっかいを出す
空回りひじりんになりそうだな。