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『産廃百物語「モスキートパニック」』 作者: 機玉
※あまり怖くない可能性があるので他の方のホラー小説を読まれた後に息抜き程度に読まれると良いかも知れません
今年も幻想郷に夏がやってきた。
夏の風物詩といえば花火、盆踊り、かき氷、風鈴、西瓜などなど。
そしてその中に入っているものは必ずしも人々が待ち望むものばかりではない。
例えば――
「咲夜その痕どうしたの?」
「え、なんですか?」
「ほら、そこ。赤くなってるじゃない」
「あら、蚊に刺されてしまったようですね」
「ああ、蚊か。そういえばそんな時期ね」
そう、蚊である。
外の世界だろうが幻想郷だろうが虫は同様に存在する為、幻想郷の住民も蚊に悩まされるのだ。
ただ一つだけ外の世界と違う点は、幻想郷の場合悩まされる者が限られている。
「人間は大変ねぇ」
「私達はお嬢様と違って柔肌ですから」
「……もしかして、貶されてる?」
「まさか、強い身体をお持ちだと褒めているんです」
「本当かしら……」
人間よりも強靭な肉体を持った妖怪の場合、蚊はその固い皮膚に阻まれて針を刺すことができない。
また、そもそも血液を持たない妖怪の場合は吸う物がない。
従って蚊の獲物となるのは基本的に人間なのだ。
レミリアも蚊にたかられることこそあれど、血を吸われる事はなかった。
「しかしこうも健気に子孫繁栄の為必死に血を吸い集める姿を見てると、ちょっと親近感が湧かないでもないわね」
「お嬢様は血を吸わないではないですか」
「うるさいわねぇ、私だっていつかは眷属を増やせるくらい吸えるようになるわよ」
「その場に立ち合えることを祈りますわ」
もちろん妹もまた例外ではない。
紅魔館地下、フランドールは自室でだらだら蚊と戯れていた。
「何度私にキスしても血は吸えないわよ〜」
蚊は人間と妖怪を区別することができない為、人外にも構わず針を刺そうとする。
フランドールにまとわり付く蚊も血が吸えないにも拘らず、何度も針を突き刺そうと試みていた。
普通の妖怪であれば鬱陶しい蚊に嫌気が差して潰すか、特に気にもせず放って置く。
普通の妖怪であれば。
「ふ〜ん、そうねぇ……そこまで頑張るなら折角だから暇潰しに付き合って貰おうかしら」
フランドールはおもむろに銀のナイフを取り出すと腕の皮膚を削り始めた。
皮膚が擦り切れ、肉が見え始めても構わずナイフで腕を撫で続ける。
そしてついに血が腕の表面から溢れ出した。
「さあ、吸ってみなさい」
その言葉が理解できた訳ではないだろうが、今まで血を吸う事ができなかった蚊は傷ついたフランドールの腕に針を付け、血を吸い始めた。
そして血を吸い終えた蚊は……そのまま地面に落下してしまった。
しばらくすると蚊の体が震え出し、体が破裂した。
「あらら、残念。やっぱり耐えきれなかったかしら」
吸血鬼が眷属を増やす方法には主に二種類がある。
一つは先程レミリアが述べたような、対象の血を吸い尽くし一度死体になった所から吸血鬼として蘇らせる方法。
時間がかかるし生前と比べて飛躍的に力が上がることはないが、成功率が高く、ほぼ生前の状態を保ったまま確実に眷属にすることができる。
そしてもう一つは、親の血を対象に直接入れる方法だ。
この方法の最大のメリットは成功した場合に絶大な力を付けられることだ。
しかし同時にリスクも高く、大抵の場合は対象の体が吸血鬼の力に耐えきれず崩壊してしまう。
また、仮に耐え抜いたとしても精神になんらかの支障を来したり身体が原型を留める事ができない場合もある。
そして何よりも、強力な力を得た子は「親殺し」をする確率が高い。
その為、後者の方法を採る吸血鬼は少ないのだ。
この蚊もまたフランドールの強力な血に耐えきれず身体が破裂してしまったのだろう。
「まあ所詮は虫けら、こんなものか」
フランドールは興味を無くすとそのまま蚊の死体を放置し、もうその事は忘れた。
だから気付かなかった。
破裂した蚊の屍骸がまだ動いている事に。
*
夜の魔法の森を若者が二人歩いていた。
名前は六介と夢次。
二人は人里に暮らしている人間であり、人間は滅多に踏み入れない魔法の森を好奇心から探検しにきたのだ。
「あ〜あ、すっかり遅くなっちまったな」
「だから早く帰ろうって言っただろ」
「仕方ないだろ、あんな沢山キノコ見つけたらもっと採りたくなるじゃないか」
「別にキノコは逃げやしないんだから明日に回しても良かっただろうに」
「キノコは逃げないかも知れないがここには魔法使いが住んでるだろ。
そいつらに採られたらせっかくの儲けものがパーだ」
「やれやれ……帰るまでに妖怪に襲われなきゃいいが」
「大丈夫だろ。今はスペルカードルールも広まってるんだし妖怪に襲われるなんてことは滅多にないさ」
「だといいがな」
夜、それは妖怪の活動する時間。
かつて人間が人外の存在を現実のものとして認めていた時代、人が夜に出歩く事はその身を捧げたも同然の愚行であった。
人間と妖怪がともに暮らす幻想郷でも、それはかつて当たり前の事だったのだ。
だが六介が言った通り、現在の幻想郷ではスペルカードルールができた為人間が妖怪に襲われることはほとんどなくなった。
それ故に人々の中には妖怪の恐ろしさ忘れてしまった者もいた、この二人のように。
「げっ」
「どうした?」
「蚊に刺されちまったみたいだ、くそ〜痒い」
「こんな森の中にいるんだから仕方ないな。俺だってもう何ヶ所か刺されて」
その時、六介が地面に蹲った。
「う……ぐぅっ!!」
「おい、大丈夫か?」
夢次が流石に心配して声を掛けるが六介はそれに答えない。
どうするべきか思い悩んでいると、突然六介は猛烈な勢いで腕を掻き始めた。
「かゆいかゆいかゆいかゆい」
次第に六介の奇行はエスカレートしていく。
腕だけではなく全身を掻きむしり、地面を転げ回り、遂には木に体を打ち付け出した。
「がああああぁぁっ!!かゆいかゆいかゆいぃぃっっ!!!」
「落ち着け!しっかりしろ!」
「うあああああぁぁぁっっ!!!」
人里まで助けを呼びに行くしかない。
治療を行うにも人里まで医者を呼びに行く必要があるし、大柄な六介を一人で運ぶ事はできないからだ。
そう決心した夢次は一旦この場を離れようとした。
しかし、またしても六介の様子が一変する。
先程まで暴れていたのが嘘のようにぴたりと体の動きが止まり……目が弾けた。
次いで背中、脇腹が裂け、口からは大量の血が噴き出した。
一瞬にして満身創痍になった六介の変化はさらに続く。
まず目が無くなり空っぽになった眼窩に真っ赤な眼が出てきた。
人間の眼とは似ても似つかない虫の複眼のような歪な眼だ。
さらに口からは針が、背中からは翅が、脇腹からは脚が飛び出した。
六介が苦しみ出してから僅か数分、彼は瞬く間に化け物へと変貌してしまった。
六介の身に一体何が起きたのか。
決まっている、妖怪に襲われたのだ。
何がどうなって六介が変わり果てたのかなど関係ない。
人にとって理解できない事象を起こし、恐怖させる存在こそが妖怪なのだ。
「畜生、六介……」
もはや六介の面影のなくなったそれは、しかしその形状から「それ」が何を模しているのか夢次には分かってしまった。
「蚊」だ。
「畜生!!」
六介の理不尽な最期にやり場の無い憤りを露にする夢次。
だが彼には友の死を嘆いている暇はもはやなかった。
何故なら「蚊」は早くも目の前の獲物を狙い始めていたからだ。
状況を理解した夢次は咄嗟に持っていた荷物を投げ付け逃げ出す。
「(里まで行けば妖怪の相手をできる人もいる、里まで行けば!!)」
だが、相手は残念ながらそれを許さなかった。
後ろから猛烈な勢いで迫る不快感を催さずにはいられない羽音。
相手がどれだけ近付いて来ているかをまざまざと知らせるそれは夢次の恐怖と焦燥感を煽る。
思わず後ろを振り返る夢次。
「蚊」はもう目の前まで追い付き、凶器を振り上げていた。
「(駄目だ……間に合わない……)」
誰も見る者のいない森の中、二人の人間が姿を消した。
*
「あんたが来るのは珍しいわね」
「まあ、用事がない限り来ないな」
「今日は何の用かしら、お茶ぐらいは出すわよ」
いつものように縁側でお茶を飲んでいた霊夢。
そこへ珍しく上白沢慧音がやってた。
魔理沙達とは違い、彼女は何か用事が無い限りは博麗神社を訪れない。
その用事も大抵の場合は宴会だが、たまにスペルカードルールを無
視して人間を襲った妖怪の相談にくる。
霊夢がお茶に誘って応じれば、それは腰を据えて話さなければいけない事
であるということだ。
「では、お邪魔しよう」
今日はどうやら後者のようだ。
「最近里から外出した者の中から行方不明者が結構な割合で出ている」
「危機感が足りてないんじゃないの」
「確かにそれは否めない。
今はルールがあるから妖怪の恐ろしさを知らない人間もいるだろう。
だが、それを考えても今回いなくなった人間の数は多い」
「どれくらい」
「九十七人だ」
霊夢が目を少し細める。
「なんでそんなに減るまで気づかなかったの?」
「夏は里の外に何日かかけて出かける人間が多いんだ。
場所を選べば気候的には野宿で死ぬ可能性が低い季節だからな。
そのせいもあって、確認が遅れた」
慧音は苦々しい表情をしながら語った。
彼女自身にも油断があった。
気を付けていた所でどうにもならなかった事なのかも知れないが、それでも悔やむ気持ちが抑えられなかった。
「自惚れは良くないわよ」
「分かってる。これは私の気持ちの問題だ」
「それで、あんたは私に何をして欲しいの?」
「里の人間が消えている原因の調査、それが妖怪だった場合には可能ならば説得、無理なら抹殺して欲しい」
「里はどうするの?」
「里は私と常駐の退魔師、あと頼んで来て貰った竹林の藤原さんで警護するから恐らく大丈夫だ。
それに今の所里の中にいて行方不明になった者はいない」
「ふ〜ん、まあいいわ。じゃあ期待しないで待ってなさい」
「頼む……ああ、そうだ言い忘れていた」
「何?」
「行方不明になった者は森に入っていた者が多い。そこに何かがあるのかも知れない」
「分かったわ」
「さて、どうしようかしら」
霊夢は基本的に誰かが誘ったり、勝手について来なければ一人で異変解決に向かう。
従って今回も最初はそのつもりだったのだが……
「たまには魔理沙も誘おうかしら」
何故か霊夢は魔理沙の元に最初に行く事にした。
いつもの勘か、あるいは先程の慧音の言葉に釣られたのかは分からないが。
退魔武装一式を準備し、霊夢は魔法の森へ飛び立った。
「魔理沙ー、いるー?」
魔法の森にある魔理沙の家。
霊夢はドアの前で何度か魔理沙の名前を呼んでみたが返事は返って来ない。
中に居る気配はするのだが……
「魔理沙ー、寝てるのー?」
やはり返事はない。
霊夢はどうするか少し考えたが、わざわざ寄ったのにこのまま帰るのも癪なので、とりあえず入ってみることにした。
体調を崩している可能性もあるだろう。
「返事しないなら勝手に入るわよ」
霊夢は鍵のかかっていなかった扉を押し開けた。
次の瞬間、霊夢を目掛けて赤い影が飛び出す。
霊夢の反応は早かった。
赤い影が視界に入った瞬間にバックステップ、空間移動。相手の背後に出現し、外に向かって蹴り出す。
相手が移動している方向に蹴りを入れたのでダメージは期待できないが、この攻撃の目的は影を回避した上で相手を外に出す事が目的だったので問題ない。
「どういうつもりかしら、魔理沙」
影の正体は魔理沙だった……が、様子がおかしい。攻撃してきたにも関わらず感情、気迫そういった類の物が今の彼女からは感じられない。
魔理沙は一瞬地面に蹲ったがすぐに体制を立て直しこちらを振り返った。
振り返った彼女の顔は、人の顔ではなかった。
「な!?」
流石の霊夢も異形と化した知り合いの顔に一瞬混乱する。
その隙を利用し魔理沙「だったもの」は人の形を保っていた体を変形、蟲の腕と翅を出現させ森の奥へと飛び立った。
その姿を見た霊夢は直ちに思考を切り替え、その後を追う。
だが「蚊」はさらに霊夢の虚を衝く行動に出た。
後を追う霊夢の姿を認めるや否やスピードを緩め、腕を振り上げる。
その手にはミニ八卦炉が握られていた。
魔力が収束するのを感知した霊夢は咄嗟に障壁を展開。
直後、魔力の奔流が霊夢に襲い掛かる。
ゲーム用では無い敵を焼き殺す為の攻撃魔法だ。
霊夢の動きが止まった事を確認した「蚊」は星屑状の弾幕を張り視界を遮る。
「ミルキーウェイ……か。これじゃあどこに行ったか分からないわね」
弾幕に身を隠した「蚊」はそのまま忽然と姿を消した。
*
妖怪の山の頂上にある守矢神社。
現在は神奈子が天狗達に呼ばれて出かけており、諏訪子と早苗が残っていた。
早苗が境内で掃除をしていると文が飛んで来た。
「こんにちは、早苗さん。元気そうで何よりです」
「こんにちは、文さん。新聞の勧誘なら駄目ですよ」
「それは残念。まあ、今日はそれとは別の用事ですが」
「諏訪子様にお通ししましょうか?」
「いえ結構です。どちらかというと早苗さんにお知らせしておいた方がいい事だと思うので。
この場で聞いて頂けますか?」
「ええ、良いですよ」
「里の人間が最近行方不明になっているという話は御存知ですか?」
「はい、聞いています。それが何か?」
「今から言う事は一応他言無用でお願いします。
実は、天狗内からも行方不明者が発生しました」
「本当ですか?」
「はい、私自身もまだ半信半疑なのですが、事実としていなくなっているので信じざるを得ません。
人間の行方不明者と同一の原因によるものかはまだ分かりませんが、四十名程が連絡なしに失踪しています」
「もう、探したんですか?」
「山の中は既に捜索が完了しています。
山の外まで捜索範囲を広げたい所なのですが……事が事なので余り外部には知られたくないんですよ。
従ってこれからの方針について現在上の方々が話し合っている最中です」
「それで、私は何か手伝った方がよろしいでしょうか?」
「いえ、それは結構です。むしろあまり動かない方がよろしいかと思います。
今回の件が人為的なものだとすると犯人はまともな奴だとは到底思えません。
私がここに差し向けられたのも警戒していただくためなので」
文が言った事は誇張でもなんでもなく事実である。
天狗を敵に回すという事は妖怪の山の組織そのものを敵に回す事と同義なのだ。
それを躊躇なくやってのける奴は正気ではないか、余程の実力の持ち主であるかのどちらかだ。
文としては前者であることを祈りたいのだが、現に複数の天狗が姿を消しているので残念ながらある程度の実力の持ち主であることは間違いないだろう。
「また何か新しい情報が入りましたらお知らせしますのでくれぐれもお気を付け下さい」
「分かりました」
文は軽く会釈すると、目にも止まらぬ速さで飛び去った。
鴉天狗はあんなにも速く飛べる存在なのだ。
他の白狼天狗や鼻高天狗も、それぞれ特徴の違いはあれど優れた能力を持つ妖怪である事には違いない。
その者達が姿を消したというのだから、やはりただ事ではないのだろう。
「そういえば、人間の失踪はどうなったんだろう」
向こうの方が先に起きた事件なので、何か分かっている事があるかも知れない。
「たぶん霊夢さんはもう調べ始めてるわよね。よし、聞きに行ってみよう。
諏訪子様ー、ちょっと出かけて来るので装備をお借りしますねー!」
「はいよー」
いざという時に強力な障壁を展開できる諏訪子の装備借り、早苗は博麗神社へ向かった。
*
「よし、ここも大丈夫。皆元気でね」
蜂の巣に手を振りその場を離れるリグル。
彼女はその日、仲間達の見回りに精を出していた。定期的に周囲の環境の調査、それぞれの蟲のパワーバランスの調節などを行う事で蟲達が常に暮らしやすくなるように気を使っているのだ。
今日は森の動物の数が何故か減っていたがそれ以外に異常はなかった。
「さて、次はどこから回ろうかな」
考え事をしていたから、というわけでもないだろうがリグルは背後からの襲撃に気付くことができなかった。
「夢想封印」
「きゃあ!!」
霊夢が放った弾は一瞬にしてリグルの意識を刈り取った。
霊夢は空中から落下したリグルを受け止めると、そのまま神社へと連れ去った。
「……うう、ここは?」
リグルは気がつくと、自分の体が畳の上に無造作に寝かされている事に気付いた。
「気が付いたみたいね」
「あ、あんたいきなり何するのよ!?
いきなり奇襲攻撃とかルール無視もいいところじゃない!」
「急いでたのよ。とりあえず黙って質問に答えなさい。ちゃんと答えなきゃ痛い目見るわよ」
「う〜、酷い……」
「まず、一つ目。あんた退治される事をした心当たりは無いのね?」
「無いわよ!」
「はい、次。蟲の中に人間の姿に化けたり、人間を蟲の姿に変えられる奴はいる?」
「え?私が知る限りではいないけど」
「ふ〜ん……じゃあ最後。最近なんか森で変わった事はない?」
「特に無いわよ。ああ、でも動物の数はなんか減った気がするわね」
「分かったわ、ご苦労様。あんたしばらくここに泊まりなさい」
「はあ!?いや、遠慮しときます。それじゃ」
リグルが逃げ出そうとすると霊夢はマントを掴んで止めた。
「まあ待ちなさい。今から理由を説明するから」
「分かった、分かったから引っ張らないで!」
霊夢はリグルを座らせるとお茶を用意した。
茶菓子まで用意したのは彼女なりの気遣いなのかも知れない。
「……で、なんなの?」
「あんた最近森の中に入った人間がいなくなってるの知ってる?」
「いや、知らない」
「それで、私はその調査の為に森に入って魔理沙の家に寄ったんだけど、中には魔理沙はいなかった。
その代わり、魔理沙の格好をした巨大な蚊みたいな妖怪がいたの。私が攻撃したら逃げてったけど」
「あ〜……それで?」
「もし他の消えた人間もあんな調子なら蟲の妖怪のあんたが人間から狙われる可能性もないわけじゃないと思うわよ」
「お世話になります」
「素直でよろしい」
リグルは何も知らなかった。
霊夢は一番知っていそうな奴を当たったつもりだったので、これはなかなか痛い。
「う〜ん、今度はアリスに当たってみようかしら」
アリスも「蚊」になってたらやだなぁ……などと考えていると外から声が聞こえた。
「霊夢さーん、いますかー?」
早苗の声だ。
無視しようかと一瞬考えたが、早苗は用無しに神社に来ることはあまりない事を思い出し、招き入れることにした。
霊夢がリグルを襲う数刻前の事。
早苗は博麗神社へ向かう道中で偶然アリスに会った。
「あれ、あなたは……アリスさん、でしたっけ?」
「ああ、早苗ね。こんにちは」
「こんにちは。今日は何してるんですか?」
「魔理沙に用事があったんだけど家に行ってみたらいなかったのよ。
だから神社にいるかと思って。あなたは何してるの?」
「私も神社へ行く途中なんです。
アリスさんは里の人間がいなくなっているという話はご存知ですか?
それについて霊夢さんに聞きに行こうと思って」
「いえ、私は最近里に行ってなかったから知らなかったわ。
もしかして、魔理沙もそれでいなくなってたりして」
「あはは、魔理沙さんはそう簡単にいなくなるような人には見えませんけど」
そんな話をしながら二人は神社へと飛ぶ速度を少しだけ速めた。
「残念ながら魔理沙は多分その事件に巻き込まれたわね」
「それはどういう事?」
博麗神社に到着したアリスと早苗は霊夢から事件についての説明を受けた。
霊夢が事件について分かっている事を一通り話終えると、早苗から質問が入った。
「結局その魔理沙さんの格好をしていたという妖怪は魔理沙さんが何らかの原因で変化したものなんでしょうか?」
「多分そうね」
「どうしてそう思うの?」
今度はリグルから質問が入り、アリスが答えた。
「仮にその妖怪が元々魔理沙とは全く別の存在だったとすると、魔理沙の格好をしていた意味がない。
その妖怪は霊夢が入って来た瞬間に攻撃を仕掛けてきたのだから、自分を魔理沙であると思わせるつもりは最初から無かったと考えられる。
さらに言えば、魔力の質はそう簡単に模倣できるものではない。
霊夢はその妖怪に襲われた時にその魔力が魔理沙のものだと考えたのよね?」
「ええ、そうね。あれは確かに魔理沙の魔力だったわ。
さらに言えば、あの妖怪……面倒だから『亜蚊』とでも呼ぼうかしら。亜蚊はミニ八卦炉を使っていたわ。
十中八九、あれは魔理沙が変化したものね」
「人間を亜蚊に変えられる妖怪がいる……という事でしょうか?」
「一度にこんなに人間がいなくなってるのだからそう考えるのが妥当ね」
「ルールを無視してこんな行為を繰り返していることから考えると、ポッと出か、新入りか。
どちらにしろ碌な奴じゃないわね」
「あんまり蟲の妖怪の評判を下げるような事はして欲しくないなぁ……」
その時、一匹の蜂がリグルの元に飛んできた。
他の面々は咄嗟に立ち上がったが、その蜂がリグルに用があって来た事が分かると腰を落ち着けた。
「どうしたの?……え、森の様子がおかしい?妙な奴等がこっちに向かってる?」
聞き捨てならない話に反応し、霊夢が外に飛び出した。
アリス、早苗、リグルも後に続く。
魔法の森上空に浮かぶ大量の赤い影。
ここからではそれの正体を見極めることはできないが、あの影の正体をわざわざ口に出して問う程察しの悪い者は流石にこの場にはいなかった。
険しい表情で札を構えながら霊夢はリグルに質問した。
「あんたあいつらと話できる?」
「無理よ。あれは蟲じゃない……ただの化け物。私には何もできないわ」
「そう、じゃあ中に入ってなさい。少なくとも外よりは安全よ。早苗は入るな」
リグルと一緒に中へ逃げ込もうとした早苗は霊夢に呼び止められた。
「やっぱり、私も戦わないと駄目ですか?」
「当たり前よ。リグルと違ってあんたは貴重な戦力なんだから」
「あははは光栄です〜……はぁ」
早苗は諦めて御幣を構えた。彼女とて霊夢の話を聞いた時からこうなる事を予想していなかったわけではない。
アリスも黙って戦闘用の人形を準備しながら霊夢に問いかけた。
「どうする?」
「まだ距離が離れてるからとりあえず遠距離から潰せるだけ潰す。そのあとは、まあ適当に。
逃げるんじゃないわよ」
「問題ありません」
「仕方ないわね」
「じゃあ、攻撃開始!」
それぞれの手に色取り取りの光が宿り、魔法の森上空を目掛けて解き放たれる。
夏の空に死闘の開始を告げる爆音が鳴り響いた。
「ええっ!!出かけちゃったんですかぁ!?」
「ああ、さっき博麗神社に」
「あ〜もう、あの娘は〜!!大人しくしててって言ったのに!」
「なんかあったの?」
「最近天狗の行方不明者が出てるんだよ。
まあ、要するに誘拐犯がうろついてるかも知れないからあまり出歩かない方がいいってことね」
諏訪子の質問に、大天狗達との会議から帰ってきた神奈子が答えた。
ちなみに会議の結論は里の有力者と情報交換をこっそり行う事で一致した。
仮に他の妖怪に知られる事になっても仕方ない、スペルカードルールが普及している現在他の勢力が隙を見せたからと言ってそれを突く者も少ないだろう、というある意味楽観的な見方が為されたのだ。
神奈子の口添えがあったこともあるが、妖怪の山の体質も軟化しているのだろう。
「でも早苗なら大丈夫なんじゃない?私の装備も持ってったし」
「まあ、一応迎えに行こう。万が一もあるかも知れないし。
射命丸、付き添いご苦労だったね。あんたはもう帰っていいよ」
「本当に大丈夫でしょうか……」
文の懸念は正しかった。が、妖怪の山もしばらくはそれどころでなくなる事となる。
『伝令!伝令!九天の滝が敵襲を受けている!鴉天狗隊と白狼天狗隊は大至急現場に急行せよ!!』
霊夢達の遠距離攻撃は功を奏し、亜蚊の六割を墜とすことができた。
だが、それでも尚敵の数は多い。
森にいる動物、低級妖怪、行方不明になった里の人間、元の生物の特徴を色濃く残しているものからほぼ完全に蚊の姿になっているものまで。
質の悪いことにその全てが捨て身で攻撃を仕掛けてくるのだ。
身体が裂けようが、死にかけになろうが構わず攻撃を仕掛けてくる様は正しく狂気の沙汰である。
そこで三人は戦法を変更し、離れた場所に散開して戦闘を継続することにした。
この方法ならば一人が相手をしなければならない敵の数は増加するが、近くに他の者がいない為それぞれが自由に戦うことができる。
元々チームプレイに慣れていない三人にはこちらの方が都合が良かった。
霊夢は封魔陣で敵の動きを制限し、近距離で一点に集中させた霊撃や、退魔針を叩き込む接近戦に切り替えた。
相手の攻撃を許さず少ない霊力で敵を沈める戦法は見事という他ない。
一方アリスは人形の役割をほぼ迎撃に限定し、敵を屠る際にはアリス自身がレーザーで焼き斬るというスペルカードゲームの時とは大きく異なる戦いを展開していた。
今回は人形に魔力を分散させるよりも一人で敵と戦う方が効率が良いと判断したらしい。
実際敵を倒すペースこそ遅いものの、堅牢な防御を維持しつつ確実に敵を仕留めている。
そして意外にも現在この戦場で最も戦果を上げている早苗は大量の霊力を内包した炸裂弾を敵の集団に乱射、虐殺し、その反動を利用して移動しながらまた乱射するというかなり荒々しい戦法を採っていた。
おかげで彼女の周りには粉々に千切れ飛んだ死体や大量の血が撒き散らされる地獄絵図が展開されているが、諏訪子から受けている霊力の支援を活かした効果的な戦い方だと言えるだろう。
こうして圧倒的な数を誇った亜蚊の軍勢は僅か20分程で壊滅的な被害を被った。
この光景を見ている者がいたとすれば、蚊を模した醜悪な妖怪の集団よりもこの可憐な少女達の方がよっぽど化け物に見えたに違いない。
敵の攻撃が止み、一息ついた早苗は近くにいたアリスに話しかけた。
「終わったんでしょうか?」
「だと良いんだけどね。でもまだ魔理沙が変化した奴が出てきてないから」
「ああ、そういえば弾を出す亜蚊はいませんでしたね」
霊夢を見てみれば彼女も針を束ね直しながら警戒を続けている。
まだ戦いは続く可能性が高い。
「それじゃあ、一応諏訪子様を呼び、っ!!」
早苗とアリスは遠距離で膨大な魔力が集束するのを感知し、咄嗟にその場から飛び退った。
直後、二人が立っていた場所を巨大なレーザーが貫く。
「噂をすればなんとやら」
霊夢もこちらへやって来た。
「魔理沙だけじゃないみたいよ」
「多分、天狗が変化した亜蚊だと思います」
「天狗まで行方不明になってたの?」
「はい、今朝文さんがそう言ってました」
「最悪ね……」
早苗の予期した通り魔理沙と鴉天狗だった亜蚊、計六人が現れた。
「このままじゃ死ぬわね」
「さっき諏訪子様に連絡したのでしばらく持ちこたえれば助けが来ると思います」
「じゃあしばらく持ちこたえるわよ」
亜蚊魔理沙はともかくとして、亜蚊天狗5人が相手では霊夢達に勝ち目はない。
ここは助けるが来るまで死なない事に集中するのがベストだろう。
三人の生き残りを賭けた延長戦が始まった。
高速で飛び回り、相手の動きを攪乱する亜蚊天狗。
これに対し鴉天狗達は強風と鎌風で敵の動きを徐々に制限、誘導する。
そこに上空から重量2tを超える鉄塊が撃ち込まれ、亜蚊を圧殺した。
「これで全員殺したかな?」
「恐らく。ご協力ありがとうございました」
「いやいや、困った時はお互い様だよ……行方不明になってた天狗達は災難だったけどね」
「今回の戦いで被害を最小限に抑える事ができただけでも僥倖です。
死んでいった天狗達も本望でしょう」
「だといいけどね」
九天の滝を襲撃した亜蚊と天狗による防衛戦は終結した。
亜蚊達も元が天狗だった為かなり強かったが、数や連携で勝る天狗達には及ばず諏訪子も攻撃に加わった事もあってそれ程被害が出る事はなかった。
ちなみに攻撃範囲が広く、滝での戦闘には向かなかった神奈子は今回後方で負傷者の運搬に徹していた。
「さ〜て、そろそろ早苗達を助けに行ってあげないと」
「お〜い諏訪子、終わったかい?」
「うん、一応。そっちは?」
「もう全員運び終わったわよ。全員軽傷だし天狗なんだからすぐに完治するだろうね」
「そりゃあ何より。じゃあ私は早苗達を助けに行って来るよ。さっき連絡が来たからね」
「ああ、早く行ってあげな。射命丸!あんた今手空いてるかい?」
「はい、私はもう大丈夫ですが?」
「少し数集めて諏訪子に付いてってやってくれ。
博麗神社の方も今襲われてるらしい」
「分かりました。ほら、あんた達!暇そうにしてるなら今から働きに行くわよ!」
諏訪子、射命丸に続き、鴉天狗が十五名程飛び立つ。
鴉天狗以外の天狗は山の中での仕事を主として行うので外に連れ出す事はできないがそれでも十分な戦力だ。
戦いの終わりは近い。
「八坂様」
「ん、どうした?」
諏訪子達を見送った神奈子に椛が声をかけた。
「今回の件の首謀者は一体何者なのでしょう?
行方不明になった者は全員周りの天狗か気付かぬ内に化け物に変えられていました。
始末しておかなくてはまた犠牲者が出てしまうのではないかと……」
「残念ながら首謀者に関しては私にも分からない。だが心配しなくても近い内にそいつは滅びるよ」
「何故分かるのですか?」
「幻想郷はおっかない賢者様が見守ってくれてるからね。こんだけやらかした奴をあいつが放って置くはずがない」
幻想郷内の人間、妖怪双方に多くの死者を出した今回の異変は明らかにスペルカードルールを逸脱している。
結界の恩恵、有力者達の間で暗黙の内に交わされている集団安全保障制度。
この幻想郷の中であの賢者に逆らえる者はいないのだ。
ミニ八卦炉から大量の光弾が飛び出し霊夢達の周りを覆いつくす。
アステロイドベルトに近い弾幕のようだが、弾一つ一つの威力は勿論、光も目を刺すような強さに変えられており敵の動きを確実に封じ込める技になっている。
アリスが透かさず遮光用の結界を展開、早苗と霊夢が霊撃で弾幕を薙ぎ払う。
弾幕が消えた側から亜蚊天狗が突撃、亜音速に迫る速度で霊夢達へ攻撃を仕掛ける。
三人はそれぞれ障壁を出し、飛んできた敵を次々と弾き返す。
簡単なようだが本来ならば障壁を貫通する威力のある突撃を受け流すのは並大抵の集中力ではできない。
攻撃を防ぐことはできたが一連の動作は霊夢達の精神力を著しく消耗するものであった。
「こいつら鬱陶しい攻撃を何度も何度も……よく飽きないわね!」
「さっきの亜蚊達とは連携の仕方が段違いね。
まさか全部こいつらを出す前のおまけだったのかしら?」
「幹部が出てくる前にどうでもいい雑魚が大量に出てきてあっさりやられるのはお約束ですね。
その後ヒーローがピンチになるのも」
くだらない会話をしている間にも敵の攻撃は続く。
網目状に放たれたアースライトレイが三人をミンチにすべく迫る。
早苗が結界を展開しレーザーを防ぐが、同時に他の亜蚊からも鎌風が放たれ結界を殴打する。
アリスがレーザーで風を切断、霊夢が退魔札で敵を追撃するも風に切断されて霧散、再び戦況は膠着状態に。
「あ〜くそ、そろそろ遺言考えといた方がいいかしら」
「誰も聞き届けてくれないわよ」
「例え聞いてくれても口からあんな針突き出してる方々じゃあ伝えて貰えませんね」
そしてついに均衡が崩れた。
三人の亜蚊が霊夢、アリス、早苗に向けてそれぞれ突進。
霊夢達は今まで通り障壁を構えるが、亜蚊達は軌道を急変し地面と体が接するのも構わず足下から霊夢達へ突き上げるようにして突撃。
結果、全員が空中に浮かされ、中でも霊夢が一番高く打ち上げられた。
そこへレーザーが撃ち込まれ、それを結界で防いだ霊夢へさらに残りの亜蚊二人が殺到、ついに結界を突き破られた霊夢は撥ね飛ばされ、そのまま動かなくなってしまった。
本来ならば一瞬で全身が肉片と化してもおかしくない威力のはずだが、霊夢が何かしたのか体は少なくとも原型を留めている。
だが中の状態はどうなっているのか分からない以上一刻も早く救助しなければならないだろう。
「アリスさん!霊夢さんが!!」
「分かってる!」
霊夢を助けに向かわなければならない事は分かっていても亜蚊に囲まれているこの状況ではどうする事もできない。
幸い霊夢に関してはもう追撃する気はないのか見向きもしないが、今まで三人で凌いでいた猛攻を早苗とアリスの二人で防ぐのは至難の技だ。
霊夢の心配よりも自分達の心配を先にしなければならない状況であった。
やがて亜蚊魔理沙が高度を上げ、今までにない量の魔力を充填し始めた。
「敷地ごと吹き飛ばすつもりでしょうか?」
「冗談じゃないわよ、後で私達まで霊夢にどやされるじゃない」
早苗とアリスもここに来て死を覚悟したが神はすんでの所で彼女達を見放さなかった。
突如、強風が二人の周囲にいた亜蚊天狗達を薙ぎ払う。
身動きが取れなくなっていた早苗達を即座に鴉天狗達が抱えて避難した。
「ありがとうございました文さん。危ない所でしたよ。
だから首に手をかけないでくれますか?」
「はっはっは、早苗さんはもう少し人の話を聞く事を覚えた方がいいですよ」
亜蚊天狗達は既に体制を整えている。
そして新たに出現した敵に攻撃をしようと構えた所で、今度は巨大な鉄球が彼等を撃ち抜く。
諏訪子が発射した弾は文字通り弾丸の如き速度で亜蚊天狗達を粉砕した。
劣勢を悟った亜蚊魔理沙は慌てて逃走を図るがその前に巨大な鉄壁が出現。
行き場を失った彼女は背後から飛来した鉄槌に圧殺された。
三人が苦戦していた亜蚊達を瞬殺した所で諏訪子はアリスに問いかけた。
「これで全部?」
「ええ、助かったわ。流石神様、人知を超えた強さね」
「信仰してみる?」
「遠慮しとくわ。それより霊夢を助けないと」
「それなら大丈夫だと思うよ。ほら」
諏訪子が指差した先では既に早苗が霊夢の脇にしゃがみこんでいた。
「霊夢さーん、生きてますか?」
「……早苗……私の墓の前には賽銭箱を……」
「良かった、今治すからじっとしてて下さい」
早苗が霊夢の上に手をかざすと、そこから水が数滴こぼれ落ちた。
水滴が霊夢の上に落ちると霊夢の体が輝き、内蔵などが傷ついていたはずの霊夢の体は瞬時に全快した。
「おお、治った。奇跡って便利ね」
「本来なら死んでてもおかしくない傷だったんですからね」
「ありがとう」
霊夢が復活し周りの者も安心した。
が、霊夢が復活した直後早苗がその場に蹲り、凄い勢いで嘔吐し出した。
「ちょっとちょっと大丈夫!?もしかして私のせい?」
「ひがいまふ……うぷっ……私妖怪殺したの初めてですからそれで……うええええええ」
「さっきまで容赦なく虐殺してたのに分からない奴ねぇ……」
今度は霊夢が早苗の側に寄り背中をさすってやった。
普段ならば迷うことなく見捨てる所だが治療して貰った恩があるからだろう。
「若干一名体調不良を訴えてるけど、とりあえずこれで一件落着ね」
その後、避難していたリグルも加わって神社の片付けが行われ、一先ず霊夢達の今回の異変は終了した。
*
フランドールの遊び道具にされた蚊は自らの数奇な運命に感謝した。
自我と呼べるような自我も無い脆弱な存在から、記憶・思考が可能な人格と、周りの生物を次々と支配下に置くことできる力を得ることができたあの日に。
今回の作戦は失敗に終わってしまったが、何、眷属はいくらでも増やし直せる。
ほとぼりが冷めるまでしばらく待つ事にしよう。
「残念ながらあなたに次はないわ」
蚊の前に謎の妖怪が出現した。
なんだこいつは、いつ現れた。
「新入りにしては随分頑張ったわね。でもあなたはルールを破ってしまった。
誰も教えてあげなかったのは気の毒だけど、やってしまったからにはこのまま野放しにはできないわ」
どうする、逃げるか?
いや、こいつからは逃げられないだろう。
ならば、
「さようなら」
蚊は妖怪の背後を取りその皮膚に針を突き刺そうとしたその時、妖怪の姿は霞のように消えていた。
目標を見失った蚊はその場で立ち往生し、そのままスキマに飲み込まれた。
*
後日、冥界に霊夢、アリス、早苗も三人は訪れた。
「他の人達は誘わなくてよろしかったんですか?」
「墓参りじゃないんだからいいでしょ。今回の目的はこれを届ける事なんだから。
魔理沙に会いたい奴がいるなら後からいくらでも来れるわよ」
「霊夢って時々妙な事するわよね」
霊夢の手には綺麗な白い花の花束が握られている。
彼女が口にしていた届け物とはこれの事のようだ。
「風見幽香さんでしたっけ?この花くれたの。よくタダでわけてくれましたね」
「あいつならいくらでもボコボコ生やせるし別に減るもんじゃないからでしょ」
「風見幽香はあれで結構親切なのよ」
白玉楼の入口に三人は到着した。
霊夢が門番の幽霊を通じて妖夢を呼び出す。
「あら、霊夢に早苗にアリス。今日は何の用ですか?」
「最近魔理沙が死んだんだけどこっちに来てない?」
「あらら、もう死んじゃったんだ……ちょっと待ってて下さい」
妖夢が再び奥に戻り、暫くすると紙の束を抱えて出てきた。
「あ〜はい、もうこっちに来てますね。会いますか?」
「いや、それはいいわ。その代わりこの花束渡しといてくれる」
霊夢が先程の花束を渡すと妖夢は感心したように受け取った。
「わあ、綺麗な花ですね。霊夢がこんな贈り物するなんてちょっと意外です。
これ何の花なんですか?」
「除虫菊」
遅れて申し訳ありませんでしたorz
初めて挑戦するジャンルだった為に今回は非常に難産でした。
当初の予定では幻想郷の住民が次々と巨大な蚊になってしまう純正ホラーを書くつもりだったのにいつの間にか巨大な蚊を容赦なく虐殺する少女達の話になってるし……
あと霊夢のキャラが意外と難しかった。
まだまだ精進が必要です。
最善は尽くしたつもりですが、正直自分では皆さんの目にこの話がどう映るのか全く分からないので、何か改善できる点などがございましたら書いて下さると非常に助かります。
ではここまで読んで下さった皆さんありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
※追伸
冒頭に出てきた六介と夢次は一応求聞史紀に出てきたキャラです。
8月23日一部訂正
タグに産廃百物語入れ忘れるとか寝ぼけすぎだろ……申し訳ありませんでした
8月24日誤字脱字大幅訂正
多すぎる……穴があったら入りたい
8月27日コメント返信
皆さん感想ありがとうございました
>>1,>>2
正直オチがここまで受けるとは予想外でしたw
一応注釈を加えさせていただくと霊夢は別に魔理沙を非難したりしているわけではなく、事件の原因が蚊である事が判明した後で虫には気を付けろよ〜みたいな軽い気持ちで渡してるんです。
ですが何の話もなしに除虫菊を渡された魔理沙は……反応に困るでしょうねw
>>3
申し訳ありません、自分でももう少し汚染範囲を広げた方が良いのではとも思いましたが自分の実力では収拾がつかなくなりそうなのでこのような形でまとめさせていただきました。
一応元凶の蚊の行動範囲は幻想郷の中でも森が広がっている辺りにしてあります。
オチは楽しんでいただけたのであれば幸いですw
>>穀潰しさん
自分の書いた霊夢は残念ながらただのプレゼントで花を渡したりするような娘ではありませんでしたw
災害物いいですよね。自分に腕があればもう少し範囲を広げたかったです。
>>5
ありがとうございます!
今回は元凶の蚊があまり幻想郷の事を知らずに調子こいてしまったので早々に始末されてしまいましたねw
幻想郷の死はあの世を覗きにいける者にしてみれば人生の通過点程度にしかならないかも、などと考えつつかなり軽いノリになりましてみました。
>>6
ありがとうございます!
今回の元凶は流石に霊夢任せだと被害が拡大しそうなので紫になんとかしてもらいました。
自分がハッピーエンドの方が得意だから、というのもありますがw
>>上海専用便器さん
ありがとうございます!
楽しんでいただけたのであれば何よりです。
>>8
ありがとうございます!
魔理沙が冷静に対処されてるのは霊夢は仕事柄、早苗はまだ魔理沙と知り合ってあまり日が経っていない、アリスは人間やめてる、などの理由もあります。
>>9
ありがとうございます!
死が異様に軽い点での恐怖、というのは一応今回の作品の隠れたテーマだったのでそう言っていただけると非常に嬉しいです。
あと、たまたま今回はこういう役所になってしまいましたが自分は魔理沙が嫌いとかそういうことも全くありませんw
きっと霖之助とかならもう少し悲しんでくれると思います、ごめんよ魔理沙。
>>うらんふさん
ありがとうございます!
そしてうらんふさんに書けて自分には書けないものもいくらでもあると思うので、そこは全く気にする必要はないと思いますw
>>11
オチが受けて予想外に受けていただけて自分も嬉しいですw
>>12
そこに恐怖を感じていただけると自分としては大成功ということになりますw
普通の話なら死人が出たんだからもう少し暗い雰囲気になりますよね。
>>灰々さん
ありがとうございます!
ホラーなのに笑いをとってどうするんだという感じもしますが楽しんでいただけて何よりですw
今回は素晴らしい企画に参加させていただきありがとうございました!
機玉
作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/08/22 18:19:27
更新日時:
2010/11/02 00:20:26
分類
産廃百物語
生物災害
ホラーアクション
蚊
31.0KB
8月27日コメント返信
まりさもどう反応していいか分かんねえだろうなw
でもオチのおかげで背が伸びました。
にしても幻想郷は災害物も合いますね。
死が極端に軽いのもそれっぽくていいなあ
このテの話って、何とかできる奴らがなぜか動かないで取り返しの付かない事態になるのが多いし
オチも込でおもろい話だったと思うぜい
ホラーであっても決してパニックホラーではない点が幻想郷らしくて面白かったです。
何が一番ゾクっときたって、化け物になった魔理沙と相対した霊夢の反応や他の皆の対処の淡白さですかね。
別に魔理沙いじめというわけでもなく、知人が死んでも冷静に対処する友好関係の希薄さとかある種の無慈悲さが幻想郷らしかったです。
やっぱ死後があると生前に重みがないのかねw
というか、私には書けない・・・
実にいいエンターテイメントとしてのホラー作品だったと思います。
こうして事態が収束するのもよいですね。
そして、落ちの除虫菊で笑ったww