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『産廃百物語「サイコフォトグラファーHATATE」』 作者: 灰々
この物語には原作に無い設定が多々登場します。ご了承ください。あと、遅刻してしまい本当に申し訳ございません!
―1―
「あわわ……しまった!」
姫海堂はたては尻のしたの嫌な亀裂音に素っ頓狂な声をあげる。
おそるおそる、尻を退けるとそこには限界稼動領域を超え真平らにひらいた愛用のカメラ付携帯の姿があった。
「あちゃー、完全にイッたわね……」
ヒビの入った液晶画面をつまみ上げ、深くため息をつく。
徹夜して刷り上げた『花果子念報』をやっとのことで配り終わり、ようやく一息つけるとベッドにドカッと腰を下ろしたのだが、そこに不運にも長年愛用していたカメラ付携帯電話が開いた状態でおいてあったのだ。
これから一眠りするつもりだったのだが、その前に仕事が増えてしまった。
妖怪の山を流れる河。そのほとりに小さな工場がある。
近づくと河のせせらぎをかき消す機械のプレス音や金属を削る甲高い音が聞こえてくる。
「おじゃましまぁす……」
はたてが入り口を開けると中からはむせ返るような熱気とオイルの臭いが顔を撫でた。
「あのー。にとりー?」
はたては少し大きめの声でにとりを呼ぶ。しかし、聞こえていないのだろう、返事はない。
仕方なしににとりがいるであろう、工場の奥へと足を踏みいれる。足元にはネジやらボルトやらが散乱しており天狗の一本歯下駄では歩くのに難儀する。
奥の作業場を覗くとにとりは防護面をつけ金属板の溶接に勤しんでいた。
はたては金属を溶かすバチバチという音に一瞬たじろぐ。
火花が収まったのを見計らいにとりに話かける。
「ねぇ……」
「うわぁ!」
耳元で声をかけるまではたての存在に気づいてなかったのか、にとりは飛び上がり勢いよく振り返った。
「なんだ、はたてじゃないか……脅かさないでよ」
「私は何度か呼んだわよ。なかなか気付いてくれなかったけど」
「そうかい?」
にとりは厚手の手袋を取ると額の汗を拭う。机の上に置いてある水筒を手に取りコップになみなみとお茶を注ぐと喉をならしてそれを一気に飲み干した。
「で、今日はどうしたの?」
コップに二杯目を注ぎながらにとりははたてに問う。
「実は……」
はたてはポケットからおずおずと壊れた携帯電話を取り出すとにとりに渡した。
「あらら、みごとにやっちゃったね。いったい何をしたんだい?」
にとりは壊れた携帯電話を片手でもてあそびながらはたてを見た
「えっと、ちょっと、弾幕を撮ろうとしてるうちに相手の攻撃を……」
「へぇ、てっきり私は君の自慢のヒップで押しつぶしたのかと」
「うぐ……」
嘘をあっさりと見破られはたては赤面する。
「で、私に直せと」
「うん。工場手伝うからお願い……直る?」
「うーん、どうかなぁ。結構前に作ったやつだから設計図もどっかいっちゃたし……結構珍しい部品も使ってたからなぁ」
にとりは頭をぼりぼりかきながら顔をしかめる。
「まあ、早くても一ヶ月はかかると思うよ」
「えー、そんなに!?」
当初の見立てでは携帯を預けて一眠りして取りにくれば直っているだろう、くらいに考えていたはたてにはこれは予想外のことだった。
カメラは新聞記者にとって命の次に大事といってもよい必須アイテム。それが壊れていては商売上がったりである。
「もう少し早くならないの?」
「無理だね。私だって暇じゃないんだし」
「カメラがないと新聞つくれないじゃん……」
「カメラだったら、何個かあるけど。これを機にきちんとしたカメラを購入してみたら?」
「ダメだって!念写するのには普通のカメラよりカメラ付携帯電話のほうがやりやすいんだから」
外の世界では人間が離れたところでも電波によって会話が行えるようにする道具である携帯電話は念を受け取り易いのだ。
そのため、能力を使うにも比較的負担も少なく画質も普通のカメラに比べるときれいなのである。
「代わりの携帯電話とか置いてないの?」
「残念だけどうちには置いてないね」
「そうかぁ……」
はたてはがっくりと肩をを落とす。これから一ヶ月は新聞を発行できないとなると他の天狗達に遅れをとってしまう。それだけは避けたかった。
これからのことを考え落ち込むはたてをみていたにとりはゴホンと咳払いして切り出した。
「あー、ここにはないけど、あそこだったらあるかもしれない」
「え、どこ!?」
「香霖堂」
はたては魔法の森へと飛行していた。
特殊な瘴気により人も妖もあまり近づかないという魔法の森。その入り口にひっそりとたたずんでいる店では幻想郷の外の道具も数多く扱っているとにとりはいっていた。
はやいところ、新しいカメラ付携帯電話を手に入れて一息つきたい。そう思いあらん限りのスピードでとばしていると。
「あやや、はたてじゃないの。そんなとばしてどこにいくの?」
声をかけて来たのは『文々。新聞』を発行しているはたてと同じ烏天狗の射命丸文だった。
全力に近い力で飛んでいるはたてに悠々と近づいてくるあたり幻想郷最速を名乗ることだけはある。
「あんたには関係ないでしょ。ついてこないでよ」
「生憎私もこっちの方角にちょいと用があるのよ。まあ、一緒に行くのがいやだったら、あっさり追い抜いてさしあげるけど」
「……。もしかして、あんたが用があるとこって」
「香霖堂よ」
今日はつくづくついていないな、とはたては歯軋りする。
―2―
香霖堂の店主、森近霖之助はいつものように店の奥で本を読んでいた。
売り物の配置からみても客商売というものをやっている人間の態度ではない。
はたてと文が店に入ってきた時もいらっしゃいの一言も言わずに、少し本から目を離し二人を見ただけだった。
「あの、すいません。携帯電話ってあります?カメラ付の」
はたての質問から十秒ほどたって霖之助は本にしおりをはさむとゆっくりと立ち上がった。
そのまま奥へはけ、三十秒ほどして箱を手に帰ってきた。
「携帯電話はこの中にあるので全部だね。カメラ付もあったと思うから自分でさがしてくれ」
箱をドンとはたての前に置くと霖之助はまたもとの定位置に戻ってしまった。
「私が頼んでたのはありますか?」
「ああ、そこの棚の下から三番目の引き出しに入ってるよ」
霖之助は面倒くさそうに指を刺す。
「何を頼んだのよ?」
「ICレコーダーよ。取材に役立つと思ってね」
「ふーん」
自分もとっととお目当てのものを探してしまおうと箱の中を探るが、どれも古い型でカメラの付いているものはわずかしかない。
そのわずかなカメラ付も画質に難ありの古いものだった。なかなか気に召す携帯電話がみつからず、妥協しようかと思いかけたとき、箱の底にピンクの新しめの携帯を見つけた。
りんごを抱いた熊のストラップが付いる。傷も少ない。デザインもはたて好みのかわいらしいものだった。にとりに頼んで充電器を作ってもらえばすぐに使えそうである。
「これ買うわ。お会計いくら?」
はたては財布を取り出すと代金を手渡した。
携帯電話が思ったより安かったため、他にも何か買おうという気になった。
はたてが店内を見渡すと店の片隅に置いてあるダンボールに目がとまった。
「何が入ってるのかしら?」
ダンボールを開けると中には雑誌や古新聞がぎっしり詰まっていた。
どうやら、外の世界のものらしく作りは自分の新聞とは比べ物にならないほど綺麗だった。
「ねぇ、これも売り物なの?」
「そうだね。いまのところは」
「いまのところは?」
「僕の気がかわれば、売り物じゃなくコレクションになるってこと」
「なるほど、お買い求めはお早めにってことね。買うわ。ダンボールごと」
「毎度」
はたては代金を手渡すとダンボールを抱えて店を出た。
扉を閉めるまえに店主のほうを振り返る。
「一応聞くけどここって郵送とかって……」
「無いね」
手にしているダンボールの重さに早くも後悔するはたて。
「なんで、そんなもの買ったのよ?馬鹿じゃないの」
「うるさいなぁ。色々研究して参考にするのよ。文の書き方とか記事のレイアウトの仕方とか」
「だから、記事より事件の内容ですって、文字はおまけ。まあ、念写しかできないあなたじゃ記事で勝負するしかないでしょうが」
「ふん、私の念写を甘く見ないことね。私の能力は誰かがその目(レンズ)を通して見た情景を念として捉えることができる。つまり、幻想郷中の人間や人妖が私のカメラも同然」
「あれ?あんたの能力ってそんなんだったっけ?」
「能力は常に進化するものよ。この能力を使えば誰よりも早くて確かな新聞が作れるってわけ」
「むむー。それはやっかいな能力ね……」
珍しく、文が悔しそうにうなる。
「まあ、誰の念をキャッチできるかはわからないんだけどね」
はは、とはたては自嘲ぎみに薄く笑う。
「まあ、そこは私もあなたを見習って自分の足を使って念写の裏づけをとるけどね」
「あやや、こりゃ私もうかうかしてられないわね」
文は取材がある、と帰り道の途中で別れた。
はたては重いダンボールを抱え家に帰りつくとベッドに倒れこむ。
昨日から寝ていないので、すぐにでも寝てしまいそうだった。
うとうとと意識が朦朧としてきた時、ふと思い出したように起き上がった。
「充電器作ってもらわなきゃ……」
―3―
新しい携帯電話にはよいところが一つ、悪いところが一つあった。
良いところはICレコーダーの機能が付いていたこと。文も言っていたようにこれは取材で役にたちそうだった。
しかし、それを帳消しにするほどの悪い点がこの携帯にはあった。
念写が成功しないのだ。
はたての念写は無数に飛び交う念を無作為に捕らえ、画面に焼き付けるというものだった。
連続して同じ者の念を捕らえる確立は限りなく0に近い。つまり連続して同じ写真が撮れることはまずない。
しかし、はたてが何度ためしても画面には真っ黒な画像しか写らないのだ。
「まいったわね……」
自分の能力に問題があるのかと普通のカメラで試してみたが、こちらでは成功した。
ぼんやりと誰かの後頭部が写っていた。だが、これではとても新聞には使えない。
「仕方ないわ。あいつに相談してみよう」
はたては地底の入り口に立っていた。訳あって地上を追われたものが巣食う世界。
そこにはたてが足を踏み入れようとした瞬間、何者かが激しくぶつかってきた。
はたてはバランスを崩しその場にしりもちをついてしまう。
「いてて、ちょっと、気をつけなさいよ!」
「す、すいません」
ぶつかって来た相手は頭巾を深くかぶっていたため顔はよく見えなかった。頭巾のあいだから、わずかに山吹色の頭髪が確認できた程度だった。
はたてにぶつかったのも前がよく見えていなかったからとみえる。
相手は手と頭巾で顔を隠しながら、その場から逃げるように去っていった。
頭巾の者が去った後にはなんともいえない芋のあまい香りがした。
「今のもしかして……」
残り香と山吹色の髪から察するにあれは豊穣の神、秋穣子だろう
射命丸文なら、このあと本来の目的を放棄してでも何故こんなところにいるのだと押しかけただろうが……はたては然程気にせず、地下に入っていった。
ちょっとした疑問に飛びつかないあたり文とくらべるとやはりまだ新聞記者としては未熟なのだろう。
暫く道なりに進んでいくと、真上のほうから、声をかけられた。
「やーやー、そちらにいるのははたてさんじゃありませんか」
はたてが上を向くと糸にぶらさがって黒谷ヤマメするすると降りてきた。
逆さに釣られてちょうど、はたての眼前にヤマメの顔がくる。
「さとりに用かい?」
「ええ、そうよ」
さとりというのはこれから向かう地霊殿の主の名である。
はたての能力をパワーアップさせ、念を掴み取る術を教えたのがさとりなのだ。
以前に弾幕を撮影したとき、さとりがはたての能力に興味を持ちそれ以後ちょくちょく交流があるのである。
「最近は、地上の妖怪やら人間やらがよく地底にくるねぇ。やっぱり温泉のおかげなのか?」
「あなたがそう思うんならそうなんじゃない?」
「まあ、なんにせよ私としてはにぎやかなのは大歓迎よ」
ヤマメはそういってケラケラ笑う。
病気を操るという物騒な能力のせいで、地上を追われた彼女だが話してみると実に愉快なやつだった。
はたてもはじめこそ警戒していたがすぐに打ち解けた。
ヤマメとくだらない世間話をしながら地底を降りていくと、大きな橋に行き着いた。
橋の中ほどまでくると、橋の終わりのほうにいい感じに出来上がった鬼とげんなりしていいる橋姫の姿が確認できた。
「おお、ヤマメにはたてじゃないか」
話しかけてきたのは鬼の星熊勇儀である。
他の天狗は恐れ多くまともに口もきけないほどの存在なのだが、人生経験が少なく今時の若者とよばれるはたては初対面で特に畏まることもせずに話した。
そのことが幸いしたのか、正直なやつだと勇儀に気に入られたのだった。
「どうだい?これから一緒に飲まないかい?パルスィのおごりで」
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!?」
勇儀のほうをギロリと睨み付けているのはこの橋の番人である水橋パルスィだ。
「いいじゃないか。最近、副業で儲けたんだろ?幸せはみんなで分けるもんじゃないか」
「私の幸せを吸い尽くす気!?いくら飲めばきがすむのよ」
「ははは、いいじゃないの水橋。私にもあんたの幸せとやらを吸わせておくれよ」
ヤマメも加わり二人でパルスィを小突きあう。
「はたてもどうだ?他人の金で飲む酒は最高だぞ」
「あはは……私はさとりに用があるんで」
「なんだい、つれないねぇ。ちょっとぐらい付き合いなよ」
「まあまあ、天狗さんも困ってらっしゃる。それにこれ以上増えると水橋が泣きそうだ」
そういって、ヤマメは勇儀をなだめる。パルスィが本当に涙目になっているのを見て渋々あきらめてくれた。
「ヤマメ。あんたこそ、地上からいかがわしい仕事引き受けたんじゃないの?」
「んー?なんのことやら私には……」
「おいおい、私に内緒で二人して小銭かせいでんのかい?いけないねぇ。お姐さんに話してごらん」
ヤマメとパルスィの首に腕をまわし寄りかかる勇儀。彼女に半ば引きずられるようにして三人は賑やかな旧都に消えていった。
旧都を抜け、さらに進むと一軒のおおきな屋敷が見えてきた。目的地の地霊殿である。
屋敷の入り口が見えてきたとき、門扉が開き誰かがでてきた。
金髪に赤のカチューシャ、透き通るような白い肌。
アリス・マーガトロイドだ。
アリスは手に大きなバスケットを携えていた。
彼女ははたてを素通りしズカズカと歩いていってしまった。
「さとりって意外と交流関係ひろいのかしら?」
そんなことを思いながら門を叩く。中から「どうぞ」という声が返ってきた。
はたてが門を開けると地霊殿の主、古明地さとりが出迎えた。
「さっき、アリス・マーガトロイドがきていたようだけど」
「ええ、最近は来客が多くてうれしい限りですわ」
さとりはそれ以上答えなかった。腕の中の黒い猫を撫でている。
「今日は……ふむふむ。新しい携帯電話で念写が使えないと」
心を読む覚という種族の彼女ははたてがしゃべるまでもなく用件を言い当てる。
「お燐。お茶を入れてくれる?」
黒猫はさとりの腕から飛び降りると人の姿に変わる。
「はい、わかりました」
人型になったお燐は奥のほうへと消えていった。
さとりの私室に通されたはたてはテーブルをはさんでさとりと向き合うように座っていた。
お燐は熱い紅茶を二人の前に置くと部屋を後にした。
「大体の内容は部屋に来るまでに読みました。携帯電話を見せてもらえますか?」
さとりにいわれ、はたては問題の携帯電話を差し出す。
受け取ったさとりは両方の手の平で携帯電話をささえ、祈るようにして目を瞑った。
十秒ほど胸の前に携帯電話をかかげるとそっと目を開いた。
「ふむ、僅かですが、残留思念を感じます」
「はあ、残留思念?」
「そのまんまの意味ですよ。残った念です。これは、読んだところ中古みたいですしある程度仕方の無いものです。人の使用した物には少なからず残ってしまいます」
さとりは携帯をはたてに返し、話を続ける。
「あなたが念写するときその携帯の残留思念を通じて前の持ち主の念を捕らえてしまうのでしょう」
「て、ことはつまり……」
「そう、この携帯に写しだされる画像はこの携帯の前の持ち主の見たものということです」
はたては、携帯を開きデータフォルダに保存された真っ黒な画像を見つめる。
これが、携帯の前の持ち主の見ているものということはどういうことなのか。
「いくつか仮説がありますね。一つは落とし主が外の世界にいる為、念が遮断されてしまうという説」
「それ以外にどういう説があるというの?」
一番有力そうなこの説に納得したはたてはききかえす。
さとりはにやりと笑い、こたえる。
「この携帯の前の持ち主が幻想入りしていて常に真っ暗なところにいるか……目を潰されているのか……」
意地の悪い答えだった。はたてがいやな顔をするとさとりなんともいえない嬉しそうな表情になる。
「フフフ。失礼。でも、この仮説はありえると思いますよ。何処かに監禁されていたり、顔を潰されて殺され霊としてさ迷っていたり……霊でも念はとばせますからね。ウフフ」
「……できればはじめの仮説であることを願うわ。この携帯でこの念意外の念を拾うことはできないの?」
「うーん、今のあなたでは難しいと思いますよ。あきらめて前の携帯が直るのを待つか、自分の足で現場まで行き写真に収めたほうが懸命かと」
「そう、わかったわ。ありがと。たまには自分の目で確かめてから写真に撮ることにするわ」
「あらあら、引きこもりだと思っていた友人がアウトドアになるのはなかなか寂しいものね」
「あなたも外へ出てみれば?」
さとりは少し間を置き、
「残念ですがそれはできないわ。地上にどころか旧都ですら私が赴くのを訝しんでいますし。まあ、みんなが嫌な思いをするのは嫌いではないけれど。ウフフ」
「その性格をもう少しなんとかすれば、皆訝しむこともないんじゃない?」
「フフフ、性格よかったら覚りなんてやってられないわよ」
さとりはすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すと椅子から立ち上がる。
「お見送りさせてもらいますよ」
さとりは玄関の門を開けながらはたてに微笑む。
「じゃあ、私もお見送りしてよ」
いつの間にか二人のあいだに一人の少女が立っていた。
銀色の髪に黒い帽子、右の胸には覚特有の第三の目がついている。
しかし、その目は硬く閉じられていた。
無意識を操る能力を有する古明地こいしがさとりの方を見ていた。
「妹よね?たしか」
「そうだよ。こんにちははたてさん」
「こいしはまたお出かけかしら?」
「うん」
さとりより一回り小さいこいしはさとりを見上げるようにして返事する。
「また、いつもの場所?」
「まあね」
「いつもの場所って?」
はたてが首を捻る。
「ナイショ!」
「フフ、なんでも最近お気に入りの場所があるみたいなのよ。私にも教えてくれないんですけどね」
「ふーん。そんな面白いとこがあるなら今度取材させてほしいわね」
「ええー、どうしよっかなぁー」
こいしは指をからませてモジモジする。
「気が向いたらね」
「あはは、じゃあ、そんときはよろしく」
「あら、お姉ちゃんにも教えてよ?」
「気が向いたらね」
姉妹の他愛のない会話にはたても顔が綻ぶ。
「じゃあ、私はそろそろ帰るわ」
「じゃあね、またきてね」
「ええ」
「地上までいっしょにいこーよ」
こいしに手をひかれ、さとりに見送られ、はたては地霊殿を後にした。
―4―
はたてが家に帰りついた頃にはもう日は落ち、辺りも暗くなっていた。
夕食は帰りに夜雀の屋台で済ませてきた。
はたてはシャワーを浴び、床につきながら香霖堂で買った外の週刊誌を読んでいた。
内容は芸能人と呼ばれる人間たちのあられもないプライベートに関することが殆どだった。
10ページも捲ると飽きてしまい。雑誌をベッド脇に放る。
寂しくなった手元に携帯をもってくる。
そういえば、まだ、他の機能を見ていなかったなとボタンを操作する。
プロフィール。宮下巴。前の落とし主は予想通り女の子だったようだ。
アドレス帳。五百件以上ある。交友関係は広かったのだろう。
着信履歴、6/15金 15;37 宮下智子 6/15金 14;38 宮下智子 6/15金 13;40 宮下智子 6/15金 12;44 宮下智子 6/15金 11:43 宮下智子 6/15金 10;41 宮下智子 6/15金 9:44 宮下智子 6/15金 8:38 宮下智子 6/15金 7:42 宮下智子 6/15金 6:41 宮下智子 6/15金 5:42 宮下智子 6/15金 4:43 宮下智子 6/15金 3:42 宮下智子 6/15金 2:42 宮下智子 6/15金 1:42 宮下智子 6/15金 0:42 宮下智子 6/14木 23:42 宮下智子 6/14木 22:42 宮下智子 6/14木 21:42 宮下智子……
「なんなの……」
14日からほぼ一時間置きに着信がある。宮下智子というのはおそらく宮下巴の母親だろう。その母親がほぼ一日中一時間置きに電話をかけている状況。あきらかに異常だ。
はたての脳裏にさとりの言葉がよぎる。
「まさか……ね」
はたては携帯をカメラモードに切り替える。
瞳を閉じ、精神を集中させると、カシャっとシャッターが降りた。
写真はこれまでの例にもれず、真っ黒……なはずだった。
「何……これ」
写し出された写真にはたては戸惑う。
携帯の液晶には黒の具に中途半端に黄色い絵の具をまぜて描いたような勾玉模様が映っていた。黒に僅かに黄色のグラデーションがある。
背景は全体的に薄茶色で左端に茶色と白の線が不器用に引いてあるのだ。
勾玉は紙にインクが滲んだようなタッチで描かれておりおどろおどろしさすら感じる。
もしかしたら他の人の念かもしれない、と思いもう一度念写する。
だが、何度ためしてもこの奇妙な勾玉模様が写るのだ。一時間ほど連続で念写しつづけていると、突然勾玉は写らなくなり、代わりにもとの真っ黒な写真がとれた、それ以降は何度やっても真っ黒な画像しか写らない。
「どういうことかしら……」
翌朝、はたては白玉楼に向かっていた。
昨夜は勾玉が頭から離れずぐっすりと眠れなかった。
一晩悩んだ末、あの勾玉の正体をつきとめてやろうという気になたのだ。
はたてが白玉楼を目指す理由はいたって簡単なものだった。
「あ、いたいた」
白玉楼へと続く階段を一生懸命箒で綺麗にしている人物、魂魄妖夢を発見するや、はたては彼女の前に降り立った。
「わわ!な、何やつ!」
いつも携えている刀は屋敷に置いてきたのだろうか、妖夢は箒を握り締め臨戦態勢に入る。
「ああ、別に戦いにきたんじゃないってば。ちょっと、聞きたいことがあってきたのよ」
はたてに戦う意思がないことを理解すると妖夢は構えを解いた。
「で、聞きたいこととは?」
「うん、実はこの印についてなにかしらないかと……ほら、似てるじゃない?あなたのそれと」
はたては昨晩撮れた勾玉の画像をみせつつ妖夢の周りをフヨフヨとただよっている半霊を指さした。
「まあ、似てるといわれれば否定はできませんが、こんな濁った色の霊魂を私は今まで一度もみたことがありません」
「霊魂自身でなくていいから、なにか見覚えない?絵とか刺繍とか」
はたての問いにうんうん唸りながら妖夢は必死に頭の中を探る。
「うーん、幽々子様の帽子の天冠のマークに似てるような似てないような……」
「そう、わかったわ。じゃあ、その幽々子さまに会わせて」
「な、それはできません。幽々子様は多忙なお方、あなたに付き合ってる暇なんか……」
「よーむぅ。お腹すいたわぁ。あら?」
なんとも悪いタイミングで出てきた主人に妖夢は額に手をあて苦悶する。
はたてがお願いしたところ快く、協力してくれた。
「私の帽子のはもっと巻いてるわよ。それと、西行寺家の家紋はこんなんじゃないし……あ」
幽々子は何か思い出したような声を上げる。
「あれに似てるわ」
「?」
「で、うちにきたの?」
博麗霊夢は縁側でお茶を啜りながら無愛想に言った。
「ええ、幽々子さまが博霊の巫女の持ってる陰陽玉に似てるって」
そういって、例の画像を霊夢にみせる。
「まあ、似てるっちゃにてるわね。あれも巴模様だし」
「え、今なんて!?」
「あれも巴模様だしっていったのよ」
巴……。偶然にも前の携帯の主と同じ名前の模様。
これは何かの偶然なのだろうか?
「もしかして、こういう字書いたりする?」
はたては地面に木の枝で巴と書く。
「そうそう、それで合ってるわ。勾玉のような形をした模様のことよ。雷様の太鼓とかもそう。三つ巴っていうのよ」
霊夢は頬杖をつきつつも説明してくれた。
「神社とかの神紋とかによく使われてるみたいよ。うちは陰陽巴ね。まあ、全部あいつの受け売りなんだけど」
「霊夢も賢くなったじゃないの」
いきなり会話に割って入ってきたのは幻想郷では神出鬼没の代名詞ともいわれている八雲紫だった。
「ちょっと、いきなり出てこないでよ」
霊夢は然程驚きもせずに紫に言う。
「あら、こんなのいつものことじゃない」
紫はセンスを広げるとパタパタと仰ぎ始めた。
「で、巴紋がどうしたのかしら?」
紫ははたての方に顔を半分向け、聞いた。
「実はこの模様を探してるのよ」
「あら、いくら鳥でも新聞記者になると敬語くらい使えるとおもっていたけど……」
「この模様を探しているのです」
「ふーん、なんで?」
紫は少し小ばかにしたような言い方ではたてに質問する。
はたてはこれまでの経緯を簡潔に説明した。
「そうだ、宮下巴って子が幻想郷に迷い込んだかわかりませんでしょうか」
「さぁ、わかんないわ。幻想郷に入ってくる人間の名前なんていちいち覚えてないわねぇ。でも、その宮下巴って子がこっちがわにいる可能性は高いと思うわ」
「どういうことでしょうか?」
「普通の人間の念のように弱いものを結界を越えて捕らえることができるとは思わないし、何より一時間も連続で繋がったんでしょ?結界に隙間が出来ることがあってもそれはほんの一瞬だもの」
紫の話を聞くかぎりでは宮下巴は幻想郷にいるという線が濃厚だ。
しかし、紫にきいても、この勾玉が何を表しているのかは分からなかった。
―5―
「なるほどねぇー謎の勾玉マークかぁ。おもしろいじゃない」
射命丸文は画像をマジマジと覗きながら呟いた。
本来、あまり相談したくない相手なのだが、今回ばかりは特別と思い、射命丸邸の門を叩いたのだ。
「ねぇ、何か思い当たる節はある?」
「いいえ、全然」
はぁ、とはたては後悔の混じったため息をついた。
「でも、この携帯の元持ち主を探す方法ならあるかもしれないわ」
射命丸は「ついてらっしゃい」と家から飛びだした。
はたては文のすぐ後ろに付いて飛行する。
「いったいどこにいくのよ?」
「まあ、ついてくればわかるわよ」
文についてとんでいると、大きな寺が見えてきた。命蓮寺だ。
なんでも、宝船を変化させて作ったお寺とかで、人間達にも人気が高いらしい。
文は降り立つと、寺の堂でくつろいでいる、青い頭巾をかぶった女性に話しかけた。
「ナズーリンさんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あー、ナズーリンならもうじき帰ってくると思うけど……」
青い頭巾をかぶった女性……雲居一輪は目を擦りながら答えた。
「ナズーリンって鼠の妖怪だっけ?」
「そうよ。彼女には探し物を探し当てる能力があるのよ」
「へぇ、そうなんだ」
便利な妖怪もいたものだとはたてが関心していると、ロッドを抱えてふらふらとナズーリンが帰ってきた。
帰ってくるやいなや、文が事情を説明する。
「うーん。やってはみるが、あまり期待しないでおくれよ」
答えはやけに弱気なものだった。
「かなり時間がたっているからねぇ。匂いも殆ど残っていないし……」
ナズーリンははたてから携帯を受け取ると、地面に置いた。彼女が合図すると、どこからか一斉に鼠が湧き出し、携帯電話に群がる。
「今は仕事が立て込んでるんでね。時間をみつけて探しておくよ。まあ、何度も言うが期待しないでくれ。私の能力にも限界というものがある」
そう、何度も念を押す。ナズーリンがもういちど合図を送ると鼠たちは一斉に散っていった。
「仕事がたてこんでるというのはどういうことですか?」
「ん?ああ、最近行方不明者の捜索以来が多くてね。困ったものだよ……あ、もう携帯とっていいよ。匂いは覚えさせたし」
はたては携帯電話をよく拭いてからポケットにしまった。
「詳しく、聞かせてもらってもいいですか?」
「詳しく、てったって、そう沢山しゃべることはないよ。ちょっと、例年より行方不明者が多いとか、新手の妖怪じゃないかとかいってきがするよ。ああ、悪いけど、今日は疲れてからまた今度にしてくれ」
ナズーリンはそういうと、本堂のほうに歩いていってしまった。
「出直すとしますか」
「あら、文のことだから、疲れてるとか関係なしに取材するのかとおもったわ」
「いや、今の表情は相当疲れてたからね、無理やり行くと本気で嫌われるわ。そうなると次の取材も取り合ってくれないだろうし、あんたの携帯の持ち主も探してくれないでしょう?」
文が取材には紳士的な態度で臨んでいるというのは本当のようだ、このあと、文はまた取材があるらしく、はたてと別れることになった。なんでも紅魔館で妖精メイドがストライキをおこしているとかで、それをネタに面白おかしく書き連ねるのだろう。
もし、正体がわかったら私の新聞の記事にも使わせてねー、と言い残し文は飛び立った。
文と別れたはたては、守矢神社に来ていた。霊夢が神社の神紋によく使われているといっていたので、一応守矢の方にもよってみようと思ったのだ。
守矢神社は一年ほど前にこの幻想郷に山の上の神社と湖ごと引っ越してきたのだ。守矢神社は強力な神の力であっという間に幻想郷を代表する勢力の一角へとのし上がった。
はじめは天狗達も警戒していたが、長である天魔との交渉後は平和な関係が続いている。最近では天狗の中にも守矢を信仰するものもちらほらと見受けられる。
長い石段を登りおえると、境内を掃き掃除していた、守矢神社の風祝。東風谷早苗が出迎えてくれた。
「こんにちは。暑いですねぇ。お参りですか?」
早苗はにこやかに話しかける。
「いや、ちょっと、聞きたいことがありまして……」
はたては例の勾玉画像を早苗に見せた。
「この模様になにか心当たりはありませんか?巴模様って言うらしいのですが」
「うーん、無いですねぇ。うちの神紋は巴ではなく、梶ですし……」
「そうですか……」
「お役にたてず、申し訳ないです。……お詫びじゃないですが、ちょっと上がっていきませんか?信者の方に氷菓子をもらったので、ご一緒にどうでしょう?」
もうすぐ、八月というだけあって、今日の気温は三十度を越えていた。はたても朝からあちこちを飛び回っていたので喉はからからだった。
早苗の申し出に即答で「はい」とこたえると、早苗は神社の中に案内してくれた。
「いやぁ、生き返るわぁ」
苺味のアイスキャンデーをほおばりながら、はたては至福の笑みを浮かべる。
「夏の風物詩ですよね。誰かと一緒にアイスキャンデーをほおばりながら語りあうってのは。一回やってみたかったんです」
早苗はうれしそうにいった。
「早苗はこっちにきてどう?やっぱ寂しい?」
「いえ、私外の世界では、友達いなかったんで別に寂しくはないです。むしろこっちのほうが知り合いも多くて楽しいです」
「ふーん、そっか。そういや早苗は外でどんな携帯使ってたの?」
「それが、うち、親が厳しくて携帯も買ってくれなかったんですよー」
二人は終始時間も忘れお互いのことについて話した。二人とも感覚が近いのか実に馬が合う。
「あれ、かれこれ一時間は話してたのかしら」
「私はまだまだ、話たりないですけどね」
「もう少し、話したいのは山々なんだけど、このあと、河童のとこでただ働きしないといけないのよ」
はたては携帯電話を修理してもらう代わりにこの日は工場を手伝う約束を交わしていたのだった。
帰り際、境内のほうから誰かが言い争っている声がきこえて来た。
「いいから帰っとくれ」
「そこをなんとか……詳しいお話だけでも聴いてくれませんか?」
口論をしていたのは守矢神社の神、八坂神奈子と命蓮寺の僧、聖白蓮だった。
「うちはそんなものには興味もないし賛同もしない!わかったら、自分の寺にとっとと帰りな」
いらだち混じりに神奈子は吐き捨てる。
「お願いです。妖怪達の地位向上のためにも……」
白蓮はすがるように神奈子に語りかける。
「これ以上妖怪の地位なんてあげてなんになるってんだい。もう十分すぎるほど権力を握ってるじゃないか」
「それは、一部の力ある妖怪だけです。か弱い、人にいたずらするような力しか持たない妖怪は人間達に虐待されたり、見世物として使役されるなど不当な扱いをうけているんです。ですから、守矢神社のような力を持ったところが賛同してくだされば……」
「くどい。私はそんな下らない博愛主義に付き合うつもりは毛頭ない。第一、弱い妖怪をいじめているのは人間達だけではないだろう。自分より弱いやつを虐めてる妖怪のほうが多いんじゃないか?」
神奈子は突き放すように言うが、白蓮は必死で喰らいつく。
「……そのような妖怪はきっと力の使い方がわからないのです。きちんと、役割を与えてあげれば弱いものイジメもしなくなるはずです」
「いい加減にしとくれ。もうあんたの理想は聞き飽きたよ。やるなら、自分とこだけでやっとくれよ。うちはとにかく協力しない。絶対にね」
「そうですか……」
白蓮はようやくあきらめたのかと「また、来ます」と言って、とぼとぼと帰っていった。
「早苗、塩もっておいで」
神奈子に言われ、早苗は台所にかけていった。
早苗から塩を受け取ると神奈子は塩を撒き始めた。
確かに、白蓮の勧誘はしつこかったがそこまでしなくてもいいんじゃないか?とはたては思った。
そんなやりとりを見てるうちに、にとりとの約束の時間が迫っていることに気がつき、急いで飛び立った。
―6―
「おいおい、五分の遅刻だぞ」
全速力で工場まで飛んできたのだが、どうやら間に合わなかったらしい。
おかげで、にとりにぶつくさ言われてしまう。
急いで作業着に着替え、仕度をする。
「じゃあ、そこの鉄板、機械で曲げてくれる?」
にとりの指示で金属を加工する。
夏の工場での肉体労働はまさに地獄だった。
「夏が終わると、稲刈りの時期だからね。稲刈りマシーンを今からつくるのさ」
にとりは得意げに話す。
しかし、聞く側のはたてはすでにヘトヘトで、てきとうにへーだとかふーんだとか相槌をうつのが精一杯だった。
どうやら、以前に作成した田植えマシーンが好評で稲刈り用の機械も製作することにしたらしい。
「人間ってのはめんどくさがりだからね。なんでも楽したいもんなんだよ。最近はなんでも機械にやらせるのさ。私は工場で働いてるときが一番楽しいけどね」
「楽したいのは人間だけじゃないと思うけど……」
この劣悪な環境でバリバリ働くにとりをみて、はたてはうんざりした。
五時間働いてようやく休憩の時間になった。
「うがぁ……もう動けないわ」
「何言ってんだい、こっから本番戦だよ」
にとりは冷たい麦茶を注いだコップをはたてに手渡してやった。
「ーーーッあー!麦茶がこんな美味しいだなんて……でも、これがビールだったらどんなにいいことか」
「仕事が終わったら、飲みに行こうか」
「あ、そういえば」
はたては思い出したように、立ち上がると携帯電話をもって帰ってきた。
「おや、買ったのかい?」
「うん、でもこの携帯念写ができないのよ。まあ、出来るにはできるんだけど、残留思念っていうの?あれのせいで、前の持ち主の念ばっか写しちゃうのよね。でこれなんだけど」
はたてはにとりに巴模様の写真をみせる。
「これ、にとりの帽子のマークに似て……」
「ない!」
この後、さらに五時間はたてはみっちりと働かされた。
夜中の二時過ぎにようやく、工場は灯りを落とした。
労働から解放されたはたては、疲労のあまり、幽鬼のようにふらふらとしていた。
「さ、これから、飲みに行こうか。夜雀のとこでいい?」
それとは対照的ににとりはピンピンしていた。あげく、これから、飲みに行こうなどと言い出す始末だった。
はたてとしては、このまま家に帰ってシャワーを浴び、ベッドに身を委ねたいところだったが、この河童と付き合っているといろいろ助かることも多いので誘いを断ることはしなかった。
人里の近郊は夜になると、妖怪達専門の出店が賑わいをみせはじめるのである。
深夜だというのに各店の灯りで辺りは非常に明るい。
二人は行き着けの夜雀の屋台で八目鰻に舌鼓を打ちつつ一杯やることにした。
「んぐんぐ、この値段相応な感じ、たまらないなぁ」
にとりは、八目鰻を肴にきゅうり味ビールをのんでいる。
はたては日本酒とともに八目鰻を嚥下する。
「ねぇねぇ、ミスティさん。このマークに心当たりない?」
せっかくなのでと例の巴模様をみせてみた。酒場で聞き込みなんてサスペンスドラマみたいだなとはたては思った。
「わっかんないですねぇー。どなたかお客さんの中で心当たりのある方いますぅ?」
夜雀が携帯電話の液晶画面を客達全員にみえるようにかかげた。
「有力な情報提供者のかたは、こちらの烏天狗様がおごってくださるようですよ」
夜雀は冗談交じりに叫んだ。携帯は傍にいる客に手渡されるとリレーのように客から客はと回されていく。
受け取った客たちは、これは、醤油の染みだ、穢れた人魂だとふざけた回答を提示した。
いつの間にか大喜利のように誰がおもしろい答えをだせるかといった空気になっていた。
はたても、然程期待もしていなかったので、その様子をボーっと眺めていた。
面白い回答が出たのか、客達がゲラゲラ笑っているとき、
「多分、ハグルマトモエじゃないかな」
それまでの流れを完全に断ち切る答えに笑い転げていた客も黙ってしまう。
「今なんて?」
酒と疲労でうとうとしかけていたはたては一気に目が覚めた。
「ハグルマトモエじゃないかと私は思うよ」
そう、答えたのは蛍の妖怪リグル・ナイトバグだった。
「ハグルマトモエって?いったいどんなマーク?」
はたてはリグルに詰め寄る。
「ハグルマトモエは虫の名前だよ。ヤガ科の蛾さ」
そういうとリグルは不思議な鳴き声を発する。すると、ヒラヒラと一羽の蛾――羽をひたいて二寸あるかないかくらいだろう――がリグルの指先にとまった。
「ほら、前翅に巴模様があるでしょう。それにこの画像の背景の薄茶色とか茶と白の線とか」
周りの客もリグルを取り囲んで、蛾とはたての念写を比べる。
「確かに、そっくりね……滲んだインクのようにみえたのは鱗粉によるものだったのね」
「うん、まあ、もしかしたらオスグロトモエの雌かもしれないけど、ほぼ間違いないと思うよ」
リグルは自身ありげに言った。
「じゃあ、なんでその羽の写真が写るのかしら?」
「蜘蛛の巣にでも引っかかったんじゃない?ほら、画面の端に白い線が見えない?」
「……ホントだ」
「ね」
幻想郷の賢者もわからなかった問題をリグルはあっさりと解いてしまった。
「ねえ、この蛾ってどっか、特殊なとこに生息してる……とかない?」
「いや、ふつうの山や森にいるよ。それより、当てたからから私に今夜おごってくれるんだよね?」
リグルは触覚をパタパタさせてはたてを覗き込む。
巴模様の正体は解けたが、どこか釈然としなかった。確かに拍子抜けするような答えだったが、それだけでないように思える。
はたては画像を見つめていると何か違和感のようなものを感じた。
しかし、いくら画像をにらみつけても結局その日は違和感の正体はつかめなかった。
―7―
翌日。
この日は朝から騒がしかった。
昼過ぎまで寝るつもりだったはたては目が覚めてしまった。
「号外ー!号外ー!」
窓の外では天狗達が慌しく飛び交っている。
はたては窓をあけ、舞っている、新聞を手にとった。
「え、うそ!?」
新聞には霧雨魔理沙死亡の文字がデカデカと書かれていた。
7/21 今日、未明。魔法の森在住の霧雨魔理沙さんが紅魔館近くの湖で水死体となって発見された。死後四日ほどたっているとみられる。目立った外傷はなく、事故と自殺の両面から調査を……
異変解決の尽力者の葬儀だけあって、そうそうたるメンバーが集まった。紅魔館、白玉楼、八雲一家、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺の主要メンバー、それに加え、魔界の重鎮たちの姿もみえる。
喪主は大手道具店『霧雨店』の店主である魔理沙の実の父親が勤めた。
はたても文と共に出席していた。魔理沙とはあまり交流は無かったものの集まったメンバーの様子から彼女が多くの人や妖怪から好かれていたことがわかり、それ故にもの悲しい気持ちになった。
普段なら、どんな場面でも余裕しゃくしゃくの文も今日ばかりは表情に影があり寂しい目をしていた。
葬儀が始まる前に「うるさくて、生意気な娘だったけど、いいやつだったわ。寂しくなるわね」といっていた文の姿がはたてには印象深かった。
博麗霊夢は俯いたまま終止無言だった。紅魔館の魔女はハンカチで溢れる涙を押さえていた。レミリア・スカーレットの胸の中で妹のフランドール・スカーレットがしゃくりあげるように泣いている。
魔理沙は紅魔館の面々とは生前交流が盛んだったと聞く。しかし、一番おお泣きしていたのは、命蓮寺の聖白蓮である。目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちている。白蓮は魔理沙のことをたいそう気に入っていたらしく実の娘のように接していたという噂を聞いたことがある。
無愛想な霖之助も心なしか瞳が潤んでいるように見える。
他にも、会場のいたるところから、すすり泣く声がきこえてくいる。
しかし、生前もっとも親しかったとおもわれる、アリス・マーガトロイドの姿はなかった。もしかすると葬式にも出席できないほどショックをうけているのではないかと誰かが話していた。
葬儀が済んだ帰り道、はたてが文と並んで歩いていると文が突然駆け出した。
大勢の人を縫うように通り抜ける。
はたては急いで後を追った。
「ちょ、ちょっと。どうしたの?」
文は長い銀の三つ編みの女性を捕まえていた。
「……何かしら?射命丸さん」
銀髪の女性は八意永琳。かつては月の頭脳とまで謳われた人間である。
現在は永遠亭で薬師を営んでいる。
今回魔理沙の司法解剖を行ったのは他ならぬ彼女だった。
「魔理沙さんが自殺するとは思えません。かといって事故死するような間抜けには見えません。発見されたのは紅魔館の近くの湖とのことでしたが彼女の箒は自宅にありました。箒も使わずにあんなところまで行くでしょうか?」
「……」
「お願いです、教えてください……魔理沙さんの死因はなんだったんですか?」
「それは、新聞記者としていっているのかしら?」
「……違うといえば嘘になります。でも、興味本位とか新聞の出汁にしようなんて気持ちでないのは確かです」
文は永琳の目を睨むようにみつめた。
「……司法解剖の結果、魔理沙の体からは生活反応が出なかったわ」
「生活反応?」
「そう、死んでる人間には絶対に発生しない反応よ。もし魔理沙が湖で溺死したのなら鼻腔等に細かな泡状の水分が見られるはずなのよ。でもそれがなかった」
「つまり……死んでから湖に投げ込まれたということですか!?」
「そうなるわ。でも、彼女の体には外傷もないし、薬物も検出されなかった。そこが今回一番の謎ね」
永琳は顎に手をあて、囁く様にいった。
「私が、私が暴いてみせます……新聞記者として。いえ、一人の友人としてこの事件の謎を……」
「文……私も協力する。いえ、協力させて」
文の静かな決意にはたては心打たれるものがあった。気がつけば進んで協力を申し出ていた。
「期待しているわ。新聞記者さんたち」
二人の烏天狗に永琳はやさしく微笑みかけた。
―8―
翌日から、はたてと文は魔理沙の水死体の謎の解明に乗り出した。
宮下巴のことはいったん忘れることにする。
まず、湖の周りで不審な人物を見かけたものがいないか湖の周りで遊んでいる妖精たちに聞き込みを行った。
彼女たちの話では昼間に怪しい者は湖周辺では見かけなかったとのこと。
続いて、彼女と生前親しかった者たちに話を訊いた。
紅魔館の面子に話を訊くと、ここ最近は紅魔館を訪れていないらしい。彼女に恨みを抱いているものも心当たりはないそうだ。
続いて、博麗神社を訪れる。
霊夢はいつものように縁側に座っていた。しかし、いつもの覇気は感じられない。
軒につるされた風鈴が寂しくチリンと音をたてる。
彼女もここ数日は魔理沙にあっていないという。
「最後にあったのはいつですか?」
「さぁ、十日ほど前だったかしら」
「そのとき、魔理沙さんは何かおっしゃってましたか?普段と違う様子とかありましたら教えてください」
射命丸の取材にも熱が篭る。
いつにない真剣さで霊夢に迫る。文の視線を避けるように霊夢は左上に目線をそらす。
「……別にいつもと、変わった様子は無かったとおもうけど。一緒にお茶のんで、最近あったこととか話して……」
「最近あったことってどんな話でした?」
「珍しいキノコのこととか……魔法の研究についてだったと思うわ。……ごめんなさい。ちょっと、まだ心の整理がついてなくて……」
霊夢はそういい残し、神社の中に篭ってしまった。
「あ、霊夢さん」
ここまで、これといった成果もなく、射命丸はがっくりと肩を落とした。
「これだけいろんな人に訊いてめぼしい情報の一つもてにはいらないとは。泣けてくるわね」
「文。ちょっと、あせりすぎなんじゃない?あまり、勢い良く迫るとなんだかネタに飢えてるみたいにみえるわよ」
神社の縁側で休憩しつつ、二人はそんなことを話していた。
「ねぇ、あなたたち。魔理沙について調べてるの?」
うなだれている二人に声をかけてきたのは、天人の比那名居天子だった。
博麗神社には異変以来ちょくちょく顔を出しているらしい。
「私が魔理沙と最後にあったのは一ヶ月ほど前だったわ。その時はちょっと、いつもと様子が違ったような気がする」
「ホントですか!?何か言ってました?」
「えっと、私のお父さんが天人になったときの話とか天人は普段なにしてるのかとか聞かれたわ。なんか、必死な感じだったから話してあげたんだけど、話の途中から段々元気無くなって。最後のほうなんかはボーっとしてた」
「ふむふむ、それで?」
「え、それだけだけど……」
「そう、ですか……」
「ごめん、あんま役にたたなかった?」
「いえ、貴重なお話ありがとうございます。また、なにか思い出されたら教えて下さい」
射命丸は深々とお辞儀をした。
天子は霊夢が今日は調子がよくないことを知ると、「また今度くる」といって去っていった。
昼食をとるために二人は人里までやってきた。里はいつものように人でにぎわっていたが、どこか活気が無い様にも感じた。
文と妖怪専門の定職屋に入り、少し遅めのランチタイムとする。
「そういえば、ナズーリンさんが人里で行方不明者が多数でているとか言ってたわね」
「ああ、確かにいってた。新手の妖怪の仕業とかいってたわね」
二人が話していると後ろの席の男が話しかけてきた。
「お姉さん方、そりゃ、ミダレガミの仕業だよ」
「ミダレガミ?」
「ああ、人里じゃあ、有名な話だ。なんでも魅入られた相手は数日の内に死んでしまうんだと。たちの悪い妖怪もいたもんだ。おかげでおいらたち善良な妖怪の肩身が狭くなっちまう」
「その、ミダレガミってのは最近あらわれたんですか?」
「うんにゃ、かれこれ百年前くれえから、ちょくちょく噂は耳にしてたがな。ああ、なんてったっけな、たしか元はもっと違った呼び方だったんだよ……そうそうミ―ーーー」
「あっちだ!あっちにいたぞ!!」
男の声は町人の声にかき消されてしまった。
「ありゃ、何やってんですか?」
「ああ、鍵山雛をおっかけてんだ。ありゃ」
「はぁ、なんのために?」
「最近縁起の悪いことが良くおきるからな。雛さまに厄をとってもらおうって連中が大勢いるのさ」
はたては窓から、顔をだして外をのぞくと、二十メートルほど先に人だかりができている。
「あれ、みんな鍵山雛目的なの?」
「そうさぁ。ホント人間っての自分かってな生き物だよ。普段は厄まみれだからってむしろ避けてんのにねぇ」
男はフンと鼻を鳴らすと顔をしかめた。
「あ、そういや、お姉さん方も気をつけた方がいいよ。最近弱い妖怪が連続して襲われてるらしいから。君たちみたいな可愛らしい娘、食べられちゃうよ。もしよかったらおいらが家まで……」
「あ、すいませーん。お勘定おねがいします」
昼食を済ませた二人は、香霖堂に向かうことにした。
霖之助は相変わらず無言で二人を迎える。
「最後に魔理沙さんとお会いしたのはいつかわかりますか?」
「……三週間位前かな?めずらしく、盗んだ商品を返しにきたよ。今思えば、あれは今思えば、後を濁さないようにするためだったのかもしれないな」
「魔理沙さんが自殺の準備をしていたと。そうおっしゃりたいのですか?」
「ああ、考えたくはないがね。自殺者って死ぬ直前に大切にしてたものをだれかにあげたりするだろう?魔理沙もおんなじ心理だったんじゃないかと思ったんだ」
「そうですか……」
「そのあと、守矢神社へ向かうっていってたな。あそこからもなにかくすねてたのかもしれないね」
霖之助は上を向いて淡々といってみせた。上を向いたままなのはおそらく下を向いたら、目じりに溜まった涙がこぼれてしまうからだろう。
はたてとあやは守矢神社へとつづく山道をゆっくりと進んでいた。
山の半分まできたところで、聞き覚えのある声に呼び止められる。
「おーい、君たち」
藪ががさごそと揺れて、ナズーリンが姿を現した。
「おひさしぶりです。行方不明者さがしですか?」
「うん、まあね。ダウンジングしていたら、こんなとこまできてしまったよ」
「そういえば、この間お願いした携帯の持ち主はわかりましたか?」
「いや、あのあと、何度か鼠に探させてみたんだが……発見できなかったよ。その持ち主は生きてるのかい?もし、死んで土に還ってたりしたら、私でも探しようがないんだが」
携帯の持ち主が生きているとは限らない。もしかしたら、亡くなっている確立のほうが高いかもしれない。
「そうですか、ありがとうございまいした。あとは自分で探してみます」
「すまない。役に立てずに」
ナズーリンは申し訳なさそうに頭を下げた。
「その、話はかわるんだが、この近くに厠はないかい?その、さっきから我慢しているんだが」
ナズーリンは手を又の間にはさみ、モジモジしている。
「ここからだと、守矢神社ですかね。一番近いのは」
文が答える。
「私たちもこれからいくのよ。もしよかったら一緒にいきましょう」
「あー、いや、うーん」
はたての申し出にナズーリンはずいぶん歯切れのわるい返事をする。
「私は他をあたるとするよ……」
「どうしたんですか?守矢の巫女ならお手洗いくらい貸してくれますよ」
「うーん、その苦手なんだよ。あそこの神様が……」
守矢の神というと八坂神奈子と洩矢諏訪子の二柱のことだ。
「確かに、神奈子さんは命蓮寺にいい印象はもってませんね。信者も奪われて、商売敵のようにおもっているかもしれません」
「ああ、そうなんだ。それに、あそこの神様は昔の白蓮と同じ目をしている……あまり近づきたくはないよ。……!!う、じゃあ、私は、そろそろここら辺で……」
そういうとナズーリンは股間を押さえたまま飛び立ってしまった。
「間に合うかしら?」
「こっから、一番近い妖怪の山のトイレでもあの調子じゃあ、一時間はかかるわね……間に合わないんじゃない?」
石段をのぼり、山の頂上の守矢神社にたどりついた。
「あのーすいません。どなたかいらっしゃいますか?」
「はーい」
文の呼びかけで神社のおくのほうから、ドタドタと足音が近づいてくる。
前掛けに三角巾ゴム手袋を装備した早苗が姿をあらわした。
格好からするに、掃除中だったようだ。
「何か御用でしょうか?」
「三週間ほど前に魔理沙さんが尋ねてきたとおもうのですが、その時の様子をお聞かせ願いたいのです」
「はぁ。確か、荷物を届けにきただけだったと思いますが」
「荷物?もしよろしければどういった荷物だったか教えてもらえませんか?」
「すいません、中身は見ずに諏訪子様に渡してしまいましたから……でも、諏訪子様が奥の蔵にしまってましたから多分神事で使うものだと思います。そういったものの管理はお二方がやられますので」
早苗が腰を据えて話そうと座ろうとしたとき、
「早苗ー。廊下の雑巾掛けは終わったのかい?」
聞こえてきたのは神奈子の声だった。
「すいませーん。いまやります」
「お掃除ですか?」
「ええ、まあ」
「これだけ大きい神社だと大変でしょう」
「そうなんですよ。今日明日で神社のほうを掃除し終えて、週末には蔵の掃除もしないといけないんです」
「早苗ー!」
神奈子の声に若干の怒気が混じっていたので、取材はここまでとなった。
最後に二人は生前一番魔理沙と親しかった噂されている、アリス・マーガトロイド邸に向かった。
着いた頃には、もう、太陽は山々の間にすっぽりと姿を隠し、西の空がほんのりと赤みがかっているだけの状態だった。
空が、深い紫におおわれた。魔法の森には異様な迫力がある。
アリス邸をノックしてみるが、返事はない。
灯りもついていなかったので、もしかしたら寝ているのかと思い、少しやかましいくらいにドアをノックしてみたのだが反応はなかった。
どうやら、留守のようだ。
暫く待ってみたが一向に帰ってくる気配はない。しかたがないので、日を改めて出直すことにした。
―9―
次の日も二人は魔理沙についての聞き込みを行うことにした。
だが、今回は文の提案で二手にわかれることにした。文は冥界をはたては命蓮寺を調べることになった。
夕方人里の茶屋の前で落ち合う約束をし、二人は別れた。
はたては命蓮寺を訪れた。ナズーリンは行方不明者探しでいないとのことだった。
雲居一輪と村沙水蜜に話を聞く。
「そういえば、一ヶ月ほど前に聖を尋ねてきたわね」
二人は魔理沙が白蓮と何か話しているのを目撃したらしい。
はたては本堂にいた白蓮に何を話したのか、質問した。
「魔理沙さんとは何をはなされたんですか?」
「若さの秘訣を聞かれましたね。あと、魔法使いになった経緯とか……」
「もう少し詳しくお願いできますか?」
「魔理沙さんはどうすれば、種族としての魔法使いになれるかを探っていたのだと思います。でも、私が魔法使いになった経緯はかなり酷いものでした。私利私欲のために妖怪を……ですから、今妖怪達のために役立とうと思っているのです。せめてもの罪滅ぼしですね。、だから、魔理沙さんにはとてもオススメできるものではないと教えてあげました。」
白蓮は努めて丁寧に答えた。
「なぜ、魔理沙さんは魔法使いになりたがっていたのでしょう?」
「多分、寿命の問題かと。魔法使いは人間とは比較にならないほど長生きするからです。……魔理沙さんは死ぬのを怖がっていたのだとおもいます」
「死をこわがってたのですか?」
「ええ、ですから、彼女が自殺するとは到底おもえません」
「そうですか、ありがとうございます」
魔理沙が死を恐れていたのは初耳だった。はたてはこれが謎を解く手がかりになればと思った。
この後、帰ってきたナズーリンと。寅丸星にも話を聞いたが目新しい発見はなかった。
命蓮寺のメンバー全員に話を訊き終わり、はたては携帯で時間を確認する。文との約束まではまだ少し早いようだった。
待ち合わせ場所にいく前に博麗神社に寄ってみることにした。
霊夢は縁側に座り、いつものようにお茶をのんでいた。
「あの、もう一度、魔理沙のことで聞きたいのだけれど」
「……ああ、あんたか。また、きたの?」
霊夢は気の抜けた声で答えた。
ここ数日掃き掃除をしていないのだろう。境内には枯葉や塵が目立つ。
「ええ、待ち合わせまで少し時間があるからね。なにか新たに思い出したこととかない?」
「……いや、何にも」
霊夢は足をぶらりと揺らしながら言った。
「では、アリス・マーガトロイドと最後にあったのはいつか覚えてる?」
はたての質問に少しの間があって、霊夢が口を開く。
「あれも、十日前だったかしら」
霊夢は風鈴を見つめながら答えた。彼女からみて左上にある風鈴が風に揺られ涼しげな音を鳴らす。
「様子はどうだった?」
「いつもといっしょよ。根暗な魔女って感じ」
霊夢はだるそうに答えた。
「魔理沙については何か言ってなかった?」
「さぁ、特には……それより、時間大丈夫なの?」
時間を確認すると、約束の時刻まで、あと十分だった。
「それじゃ、またくるわ」
取材を切り上げ、はたては人里へ向かった。
待ち合わせの茶屋で待つこと十分、文がやってきた。
「おまたせ」
文は席に着き、デザートを注文すると、すぐさま取材してきたことについて話始めた。
「幽々子さんのはなしでは、最後にあったのは二ヶ月ほど前らしいわ。その時は特に変わったところはなかったみたい。妖夢もおんなじだった」
「そう、成果なしね……」
「んー、そういわれるとそうだけど……あ、冥界に死神がきてたのよ。でそいつの話では魔理沙の魂はまだ三途の川にはきていないらしいって。私の収穫はこれだけよ。そっちは?」
文は注文したデザートをほおばりながら、次はお前の番だとはたてをみる。
「白蓮の話では、魔理沙はきちんとした、種族としての魔法使いを目指していたらしいの」
「ほう、なんで?」
「どうやら、寿命を延ばしたかったみたい。白蓮がいうには死ぬのを恐れていたようだって」
「ふむ、霖之助さんの話と矛盾するわね」
「ええ、でも天子の話からすると、魔理沙は天人になる方法も探っていたのかも」
「たしかに、天人になれば不死身になれますからね」
二人でこれまでの話を整理しようと試みたがうまくいかなかった。
「やはり、アリス・マーガトロイドに話を聞いてみる必要があるわね」
はたてが席を立とうとしたとき、
「はたて、あれ」
文が指で指すほうを見ると、一人の中年の男性が座っていた。
「魔理沙のお父さん!?」
「アリスの家に行くまえに魔理沙の家をしらべませんか?」
二人は立ち上がると、魔理沙の父親の前に移動した。
「どうも、はじめまして。もしかして霧雨魔理沙さんのお父様でいらっしゃいますでしょうか?」
「ええ、まあ」
「この度はご愁傷様です」
「ご丁寧にとうも」
魔理沙の父親は深々と頭をさげた。
「実は、私こういう者でして」
文は名刺を取り出すと魔理沙の父親に手渡した。
「新聞記者か……」
名刺を受け取ると魔理沙の父親は少し驚いたようにいった。
「もし、よろしければ魔理沙さんのご自宅を見させてもらえませんでしょうか?」
魔理沙の父親は少し考えたあと、
「わかった」
と頷いた。
「ありがとうございます」
「いや、実はこれから行こうと思っていたんだが、なかなか決心がつかなくてね……では、暗くなる前に行こうか」
魔理沙の自宅は、魔道具や魔導書などか散乱しており、散らかりほうだいだった。
「汚いな……昔っから整理整頓ができないやつだったが」
魔理沙の父親は部屋を見るなりそういった。
「収集癖があったみたいですし、コレクションの量もかなりありますね」
本棚に収まりきらない本がベッドの脇に山済みされている。
掃除はしていなかったのだろう、誇りが酷い。
「あいつのことだ。大半のものはどっかからくすねてきたものだろう。きちんと持ち主にかえさないとな」
魔理沙の父親は何に使うかわからないマジックアイテムを手にとるとそういった。
「もし、よければ君達の新聞でこの魔道具の持ち主をさがしてくれないか?できたら本人にとりにきてもらいたいんだが」
「わかりました。やってみましょう」
文とはたてはしばらく魔理沙の所持品を調べたが、手がかりになりそうなものは見つからなかった。
寝るためと物を置いとくためにしか使われていなかったようだ。
「日記とかもないわね」
文は机の上をあさりながら、残念そうにつぶやいた。
はたても何か無いかと、ベッドの下を覗いたとき、あるものを発見した。
「これって……」
はたてがベッドの下から引っ張りだしたのは古いカメラのようだ。
「ああ、なつかしいな。あいつがまだ小さい頃にうちで製造してたインスタントカメラだ。あいつがよくおもちゃにしてたなぁ」
カメラを見た魔理沙の父親は、少し嬉しそうに微笑んだ。
「あの、これ貸していただけませんか?」
「ん、別に構わないが」
魔理沙が昔から使っているカメラ。もしかすると、これで彼女の念を拾えるかもしれない。はたてはカメラを抱きながらそう思った。
魔理沙の父親と別れ、はたてと文は香霖堂を目指した。
「ああ、そのカメラ用のフィルムならあるよ」
霖之助は奥からフィルムの入った箱をもってきた。
「しかし、こんな昔のカメラを使うとは、物好きだね」
「ええ、ちょっと必要になったのよ。はい、お金」
「毎度」
香霖堂を出た二人は早速カメラにフィルムをセットする。
「はたて、頼むわよ」
「うん」
はたてはカメラを持つと目を瞑り精神を集中する。
カシャ
カメラのシャッターが下り、ジィーという音とともに、フィルムが押し出される。
真っ白なフィルムがみるみる現像されていく。
写し出されたのは画面いっぱいのヒラヒラ付きのピンクのリボン。
「これじゃあ、わからないわ。もう一回よ」
再度、試みる。
写真に写ったのは大きな蒼い瞳。
誰だか判断するには少し難しい。
「もう一度お願い」
フィルムがカメラから排出される。じわりと写真ができあがっていく。
今度は写っていた。顔全体がフィルムに収まっている……
「……決まりね」
アリス・マーガトロイドの顔が。
―10―
太陽は完全に沈み、そらには十三夜月が輝いている。
今夜はアリス・マーガトロイド邸の窓から灯りがもれている。
「今日は、ご在宅のようね」
文はアリス邸のドアを叩く。
「ごめんくださーい。アリスさん、開けてくださーい」
中から声が返ってくる。
「だれ?」
「すいません。道に迷ってしまいまして……今夜泊めていただけないでしょうか?」
暫しの無言のあと、鍵の外れる音がして、ドアが開く。
「どうぞお入りに……」
「こんばんは、アリスさん」
文の笑顔を見た瞬間、アリスは急いでドアを閉めようとする。
だが、文が脚を差込みそれをさせない。
「な、何のようよ!」
「突撃となりの監禁罪です!お邪魔させていただきますよ!」
魔法使いと天狗の力では勝負にすらならなかった。ドアは無理やりこじ開けられ、文とはたてが上がり込む。
「ちょっと!あんたたちいいかげんに!」
「はたて!」
文はアリスの右腕をとると背中で曲げ、そのままアリスを床に押さえつけた。
「ちょっとまって」
はたては部屋の中をぐるりと見渡す。
「最後に写った写真から判断すると……あのクローゼット」
「……!。シャンハイ!」
アリスが左手を動かすとはたて目掛けて剣を持った人形が飛び掛ってきた。
「させません!」
文は足で思いっきりアリスの左手を踏みつける。
アリスのシャンハイ人形は糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
「今よ。早く」
はたてはクローゼットを開ける。
中には大事そうに一体の人形が座らされていた。黒地服に白のエプロン、ブロンドのウェーブ髪。
その姿は、霧雨魔理沙に酷似している。
「まさか、この中に……」
はたてが人形を抱きかかえたときだった。
「触るなぁぁぁぁ!!!」
アリスの咆哮にこたえるようにしてシャンハイ人形が飛び上がる。
人形の剣先がはたての手の甲を切りつけた。
「っ!」
痛みで思わず、人形を手放してしまう。鈍い音をたてて、人形は床に叩きつけられた。
「あああああ!!ごめん!ごめんなさい魔理沙!ごめんなさい!」
アリスの悲痛な声が響き渡る。
「ごめんなさい。魔理沙……痛かったでしょう?ごめんね。魔理沙……」
アリスは涙を零しながら、人形に呼びかける。
「どうやら、その人形が魔理沙さんみたいですね。知り合いの魂を人形に閉じ込めて、オママゴトですか!」
「……」
「そんなことしてまで、自分のものにしたかったんですか!?」
「違う……。これは、魔理沙が望んだこと……」
カタ。
魔理沙を模した人形がアリスの言葉に反応したように動いた。
極めてゆっくりとだが、アリスに這いよろうとしている。
「魔理沙は、ずっと悩んでいたのよ。自分は人間だから、他の妖怪のように長生きできない。大切な思い出も死んだら全て忘れてしまうって。だから、天人や種族としての魔法使いになる方法を探してた。でも、どれもおいそれとなれるものじゃない。魔理沙は絶望したわ。だから、私が提案したの。人形にならないかって。人形になれば人間より遥かに長生きできる。私が一生お世話してあげるっていったの。そして、魔理沙もそれを受け入れた」
人形はカタカタとぎこちなくアリスに迫る。
「おいで、魔理沙……痛かったね」
アリスは魔理沙に語りかける。
カシャ。シャッターのおりる音がする。
念写した写真にはやさしく微笑みかけるアリスの顔が写っていた。
―11―
アリスはそっとしておいてくれと言っていたが、文の新聞により翌日には幻想郷中に知れ渡った。
だが、文にも情けがあるのか、記事は二人寄りだった。
魔理沙とアリスは、地霊殿の古明地さとりが引き取るという話が出ているらしい。
今考えてみると、地霊殿の前ですれ違ったとき、アリスが持っていたバスケットには、魔理沙人形が入っていたのではないだろうか?
人形に魂を入れたはいいが、会話が出来ない。そこで、心を読めるさとりにお願いして、魔理沙の言いたいことを代弁してもらっていたのだろう。
それからも、ちょくちょく地底を訪れては、さとりを通して魔理沙と会話していたのかもしれない。
真相発覚後すぐに、さとりが二人を引き取ると言ったことにもこれで合点がいく。
パジャマ姿のはたてはベッドの上で魔理沙のカメラで念写した写真を眺めながら、そんなことを思った。
今日は、特にやることも無かったので、朝から、香霖堂で買った外の雑誌や古新聞を読み漁っていた。
外のことなので、内容は半分位わからないが、この記事の書き方はいいなぁとか、この写真の載せ方は目を引くなぁとかそんなことを思いながら、次々と読破していく。
そろそろ、昼食の時間かなと思い始めたとき、ある記事にはたての視線は釘付けになった。
今日、未明。行方不明となっていた宮下巴さんと思われる遺体が天竜川下流で発見された
日付を確認する。6月22金曜日。
間違いない。曜日からして、宮下智子からの着信から調度一週間後。この記事の宮下巴がはたての持っている携帯電話の元持ち主の宮下巴だろう。
しかも、嫌なことにデジャヴを感じる。
記事の書き方が似ているためか、魔理沙のときと被るのだ。
「宮下巴はすでに亡くなっているってこと……!?」
そのとき、ふと、勾玉模様の画像の違和感に気がついた。
ハグルマトモエは5.6センチほどの大きさである。しかもその羽に描かれている巴模様は一センチにも満たない。
その、巴模様があんな画面いっぱいに撮れることなんてあるだろうか?人間が片目を瞑って羽を目に近づけたとしても、ピントが合わないため念写のように鮮明な写真にはならないはずだ。
そういえば、天狗の中に虫についての記事ばかりかく変わり者がいた。噂では、特殊な小型のカメラを使って撮影しているらしい。
「だとすると、宮下巴は鼠ほどの……いや、もっとちいさな頭……」
“人形”
はたての脳裏に昨日念写した。写真がよぎった。
そうだ、あの、写真でアリスの全体像がなかなか撮れなかったのは魔理沙が人形視点になっていたからではなだろうか?
はたては急いで着替えると、家を飛び出した。
はたてが、訪れたのは紅魔館にある、大図書館だ。大量の魔導書が保管されている大図書館は日当たりが悪く、風通しもよくないためかび臭い。
そこに住んでいる、パチュリー・ノーレッジに人形に魂を移す術について意見をききにきたのだ。
「確かに、物に魂を移す魔法は多々あるわね。人形に魂を移す方法も無数に存在するわ。アリスなら造作もないことでしょうね」
「この幻想郷に人形に魂を移すことのできる者はどれくらいいますか?」
「それは、私にもわかりかねるわ。わかる範囲だとアリスと私……八雲紫ならなんでも出来そうな気がするけど、実際のところできるかわからないわ。聖白蓮も魔法使いらしいけど、あれは肉体を強化したり若返らせたりする系統のものだし微妙ね」
「人形に魂を移す術ってのは簡単にできるものなんですか?」
「簡単なのも、あるわ。でも、そういうのはすぐ人形と魂が剥離してしまう。人形に完全に魂を定着させることは多分私でも難しい。もって、百年とかかしら」
「そんなものなんですか?」
「ええ、簡単なようで難しいわ。アリスだって似たようなものじゃないかしら?」
魔理沙は百年程度のために人形になったのだろか。その程度なら、健康に気をつけて人間の体で生涯を送ったほうが幸せではなかろうか?
はたては、納得できなかった。
「アリスも魔理沙も馬鹿ね。あんなことするなんて……」
「私もそう思います」
「そういえば、アリスがそういう類の本を借してくれって訪ねてきたっけ」
「もし、よろしかったら、私にも貸していただけませんか?」
「いいけど……多分、何書いてあるか理解できないと思うわよ」
パチュリーがパンパンと手を鳴らすと、赤い髪をした女性型の悪魔がパチュリーのもとにやってきた。
「小悪魔。この間アリスが借りてった本の場所に案内してあげて」
「ええと、どこでしたっけ?」
「あなたがあいつに渡したんじゃないの?人形と魂についての本とか」
「ああ、そうでした。思い出しました。ささ、こちらへ」
小悪魔に連れられ、はたてはアリスが借りたという本がある棚までやってきた。
「これと、これと、あと、これでしたね」
「これだけ?もっといっぱいあるかとおもったわ」
「なんか、お目当ての本がなかったみたいで、博麗神社に借りに行くとかいってましたよ」
博麗神社に本などあっただろうか。
しかし、なぜ博麗神社になど、本を借りにいったのだろうか。
また、あらたな疑問が発生した。
疑問を解消すべく、はたては博麗神社にやってきた。
「アリスが借りにきた本を見せてもらいたいんだけど」
久しぶりに境内を掃除している姿の霊夢にはたてはそう頼んだ。
「ん、ああ。あれね。ちょっと、待ってて」
霊夢は神社の中に消えると一分ほどして両手に本をかかえて戻ってきた。
「これで、全部のはずよ」
「読ませてもらっても?」
「貸し出しは厳禁。ここで読むならいいわよ」
はたてはいつも、霊夢が座っている縁側で本を読むことにした。
本には、神道の呪いや祓いなについて書かれていた。
正直はたてには一割も理解できそうにない。
ページをパラパラと捲っていると、霊夢がお茶とお菓子をもってきてくれた。
霊夢も掃除が人段落ついたのかはたてのよこで茶を啜る。
「ねぇ、霊夢」
はたては、遠くを見つめながら言葉を発した。どこまでも青い空が広がっている。
「なによ」
はたてを横目でみながら、霊夢は返す。
「全部知ってたんじゃない?魔理沙が死を恐れてたことも、アリスが魔理沙を人形にしようとしてたことも」
沈黙が流れる。とんびが囀る声が響き渡る。
「なんで、そう思うの?」
「霊夢さ。私と文の質問に嘘ついたでしょ」
「……」
「どうして嘘ついたの」
「……どうして嘘ついたってわかったの?アリスに聞いたの?」
霊夢は下を向き、湯のみをみつめながらぼそぼそ言った。
「ほら、霊夢、質問に答えるとき左上見たでしょ。私の知り合いがね。嘘つくひとは大方左上を見るんだって言ってたの」
「へぇ」
「まあ、その知り合いってのが古明地さとりっていうんだけど」
「プッ」
霊夢は噴出した。
「あはは、なるほどね。さとりが言うんなら間違いないわね」
霊夢はツボにはまったのか、しばらく笑いをこらえるのに必死だった。
「あーおかし。いいわ。白状してあげる。記事にでもなんでも書けばいいわ。そうよ全部知ってた」
霊夢は笑顔で言い放った。
だが、目だけは笑っていなかった。
「というか……私なのよね。魔理沙の魂を人形に移したのは」
「え!?」
この答えにははたては驚きを隠せなかった。
「アリスに頼まれてね。どうやら、黒魔術とかじゃなく、神道をベースとした術式だったみたいなの。それで、巫女の力が必要だったみたい」
「神道をベースって?」
「私も詳しくはわからないわ。アリスに言われた通りにやっただけだから。でも遷霊の儀や反魂法をモチーフにしてる部分もあったから、神道の類だと思う」
霊夢は険しい顔つきになり話を続ける。
「すこし、見ただけだけど……あれは、そこいらの魔術や呪術とは完成度が違っていたわ。おそらく永い時間研磨され磨き上げられた、秘術中の秘術。それくらい複雑で高尚なものだった」
「そんなに?」
「ええ、私じゃあ一生かかってもあんな術は作れないし、理解できない」
「そんなものを何故アリスが使えたのよ?」
「一人で考えたってことはないでしょうね。おそらく誰かから教わったんだと思う。一体誰なのかしらね」
はたては地霊殿にやってきた。要件はもちろんアリスに人形を移す術を誰に教わったかだ。
地霊殿の奥の部屋にアリスはいた。
「アリスさん。あなたは一体どこであんな術を知ったんですか?」
「……言えない」
「口止めされているからですか?」
「そう。絶対に言えない」
見ると、アリスはがたがたと震えている。
魔理沙人形を強く抱きしめると、搾り出すように言う。
「帰って……」
はたてはあっさりと部屋を後にする。
はじめから、アリスのほうには期待していなかったからだ。
「私の聞きたいこと……わかるわよね?さとり」
「ンフフ。ええわかりますとも」
さとりは意地の悪い、だがこれ以上に無いいい笑顔で答える。
「お教えしましょう。彼女、アリス・マーガトロイドがどういった経緯であの恐ろしい術を知ったのかを……」
さとりは椅子にすわると、切り出した。
「アリスさんはあるところから、お仕事を引き受けました。そのお仕事とは、特殊な人形作りです。そうあの術に使用する人形です。人形を作るには術を理解する必要があったのです。だから、アリスは注文主からあの術を教わったのです。まあ、魔理沙さんの魂を入れる際多少のアレンジは加えたみたいですが……」
さとりは楽しそうにしゃべる。
「で、その注文主ってのは?」
はたては身をのりだして、聞く。
さとりははたてを嘗め回すように見た後、しっかりと溜めを作って答えた。
「“守矢神社”」
―12―
はたてが帰宅したのは、調度、日付が変わった頃だった。
守矢神社はなぜ、あの術に使う人形を頼んだのか……。そもそもあの術は何のためにあるのか……。
はたては机に向かいながら、思慮をめぐらせていた。
しかし、机に向かってもいい案は思い浮かばない。
はたてはあきらめて、ベッドにもぐりこんだ。
「あ、携帯充電してないや」
携帯を脱ぎ捨てたふくからぬきとり、充電しようと充電器を探す。
「そういや、あの日以来念写してないな……」
はたては携帯を開くとカメラモードに切り替える。
カシャっとシャッター音がする。
画像は明るかった。
だが、そこにはハグルマトモエは写っていない。
画面の下の方に黒い長方形が写っていた。それが、宮下巴のいる部屋への入り口らしいというのにはたてはやっと気がついた。
ただ、遠くにあるのか、他のものはぼやけていて判別ができない。
もう一度。
今度は一面真っ白だった。
もう一度。
一枚目と変らない。
もう一度。
今度は一面肌色。
もう一度。
今度は一面緑色。写っていた。緑色のカエルの髪飾り。
繋がった。あのカエルの髪飾りをしているのはこの幻想郷でもただ一人。
東風谷早苗以外にいない。
もう一度、シャッターを切る。
黒い長方形の左側に緑と白と青のシルエットが立っている。
それが、最後だった。
それ以後はまた、真っ黒な画像が続く。
証明をきったのだろう。
守矢神社と宮下巴。二つの点が一つの線になった。
「守矢神社にのどこかに宮下巴はいる……!」
じゃあ、一体どこに?人形を隠すだけなら、どこでもよいが、画像を見る限りかなり広い場所なのは確かだ。
その上、昼間でも真っ暗な日の当たらないところ。あと、くもの巣がはるようなところだ。
「蔵か……」
確か、今週末に掃除すると早苗が言っていたのを思い出す。
「調べる必要があるわね」
翌日、はたてはにとりの工場を訪れた。
「ん、はたてじゃないか。悪いけど、携帯はまだ直ってないよ」
「ううん、携帯の件で来たんじゃないの。じつは、にとりに貸して欲しいものがあって」
はたてはにとりの瞳をみながら言った。
「工学迷彩スーツとピッキングセットを貸して」
にとりは面食らったように目をぱちくりさせた。
「だだだ、だめだよ!100%犯罪に使うつもりじゃん!」
「ちがう!むしろ逆よ。犯罪者を暴くの。私のカメラで白日のもとに晒してやるのよ」
「どういう、ことだい?」
「前、話したでしょ。この携帯の前の持ち主のこと」
「うん」
「その持ち主、宮下巴を監禁しているであろう場所を発見したのよ」
「ホントかい!?」
にとりは再度目をぱちくりさせる。
「で、その場所は……って聞かないほうがいいかな?」
「そうね。アリスのおびえようからして、知ってるやつは消されるでしょうね」
はたてはふぅと息を吐き、もう一度にとりにお願いする。
「だからお願い。工学迷彩スーツとピッキングセットを貸して」
「……わかった。貸そう。……その代わりちゃんと返してね」
その条件には生きて帰ってこいよという意味もふくまれていたことをはたては理解した。
「わかった。約束する」
―13―
満月の夜だった。その日だけは自分の能力で闇をまとわずに飛ぶことにしている。
幼い少女のような姿をした妖怪ルーミアは月明かりの元ふよふよと漂っていた。
人を求めていた。腹が空いていたのだ。
ここ何日も胃に何もいれていない。
だが、夜の森には普通の人間は近づかない。ましてや満月だ。そんな日は家に閉じこもっているに違い無い。
それでも、一抹の希望を胸にルーミアはさ迷いつづける。
ルーミアの願いが叶ったのか、向こうから足音が近づいてくる。
ウェーブした金髪に紫のグラデーションがかかっている。黒い服を着ているため、一瞬首だけ飛んでいるように見えた。
聖白蓮にルーミアはゆっくりと近づいた。
だが、あと、体一つ分というところでみつかってしまう。
「あわー、みつかっちゃった。あなたは食べてもいい人間?」
仕方なしにいつものセリフをいう。
「お腹が空いているのですか?」
聖がそう訪ねると、ルーミアは「うん」と小さくうなずいた。
普通の人間なら、問答無用で襲っていただろうが、目の前の女性には不思議とそういう気が起きなかった。
「もし、よければうちにきませんか?ご馳走しますよ?」
「ほんとー?」
「ええ、牛や豚の肉でよければですが」
白蓮はそういって笑った。
「いいよ。とにかくお腹ペコペコなんだ」
「そうですか。では参りましょう」
白蓮はルーミアを抱き寄せ、頭をなでた。
金髪の髪が月光をうけてキラリと輝いた。
今宵は満月。忍ぶには少し明るすぎる日だ。
はたては、守矢神社の山に入る前から、工学迷彩スーツに身を包み、スイッチを入れた。フルに充電して、最長三十分。速やかに事を行う必要がある。
神社に着くまで、五分を要した。神社に灯りは灯っていない。
急いで裏の奥にある蔵をめざす。
神社と蔵はある離れてはいるが、十分見える距離だ。
はたてはポケットから、ピッキングセットを取り出し、錠前に差し込む。
事前に似たタイプの錠で練習したのだが、やはり、練習と本番は違った。
緊張からか、手が震え、旨く扱えない。それと練習用の錠前に慣れてしまった為か、少し勝手が違うだけで、あせってしまう。
錠前と格闘すること五分。ようやく、錠前がはずれた。
しかし、その時、神社に灯りがついた。
はたては、開いた錠前をそのままに、その場でじっと息を潜める。
だれかが、縁側の廊下を歩いてくる。
東風谷早苗だ。
厠にでも起きたのだろうか。縁側の廊下からは目を凝らせば、蔵の錠前が外れているのを視認することもできる。
早苗が通り過ぎるのを、ぐっと耐える。
行きは、眠気眼を擦りながら通り過ぎていってしまった。
一分ほどたって、早苗が帰ってくる。
はやくいってくれと、はたては心の中で念じる。
早苗が廊下の中ほどまできたとき、彼女が突如蔵の方をむいた。
冷や汗が出る。手が汗ばんで気持ちが悪い。
早苗はパンと手を叩くと、手のひらをフッと吹いた。
どうやら、蚊を叩きつぶしただけのようだ。
早苗はそのまま廊下を通り過ぎて行った。
それから、五分ほどまって、ようやく、蔵に侵入する。
音が響かぬよう、慎重に扉を開閉する。
錠前はどうするか迷ったが、間違ってかけられてはまずいと思い、持って行くことにした。
中に入り、辺りをよく確認すると、スーツのスイッチを切る。帰るときのために温存しておかなければならない。
蔵は、二十畳ほどで、壁の高い位置に小窓があり、そこから、月明かりが漏れていた。
おそらく、ここではない。どこか、隠し通路があるはずだ。
はたては、床板を探ってみるが、なかなかそういったものは見つからない。
箱か何かで隠してあるのかと思い、木箱を動かそうとしたところ、それが、ピクリとも動かないのだ。
どうやら、床に固定してあるらしい。
木箱に取り付けてある蓋を開けてみると、そこには闇へと続く梯子があった。
「ビンゴ」
はたてはそのはしごをゆっくり降りて行く。蓋は念をいれ、閉めてきた。
10メートルほど、降りたところで、地面に足がつく。細い一本道の通路になっているようだ。はたてはペンライトをつけるながら、進む。
5メートルほど進んだところで扉に行き着いた。
おそらくこの中に、
「宮下巴はいる」
意を決して、扉をあける。
中は想像以上に広いらしく。ペンライトの光が奥まで届かないほどだ。
はたては念写した画像を思い出した。確か扉の右に早苗は立っていた。
ペンライトで照らしてみると、証明のスイッチが見つかった。
スイッチをつける。
証明の光で、思わず、目を瞑ってしまう。
はたてはゆっくりとふりかえった。
「!!!!!?」
はたての目は限界まで見開かれ、部屋の全貌を網膜にやきつける
「なに……これ……」
左右、奥の壁一面にかざられた。人形、人形、人形……
何体あるというのか、優に千は超えるであろう大量の人形が壁一面に飾られている。
しかも、何かおかしい。
針だ、人形一体一体に細い、縫い針ほどの針がささっている。
しかも、一体一体さし方に違いがあるのだ。足を貫かれているもの、腕と体に刺されているもの、大量にさされすぎてサボテンのようになっているもの。
まるで、ひとりひとりに違った接しかたでもするかのように刺し方にバリエーションがあった。
はたては手を触れてみる。冷たい。だが、しっとりと肌に吸い付くような感じがする。
手にとってみる。20センチほどの人形なのに異様い重い。それがはたてには魂の重さのように感じられた。
「これ、全部……生きてるっていうの!?」
そう考えた瞬間、吐き気がこみ上げてくる。
はやく、宮下巴を見つけてやらねばならない。
はたては携帯を取り出すと、念写をおこなった。画像に写っている自分のすがたから、人形の位置を調べる。
宮下巴は、置くの壁にいるようだ。念写をしながら、近づいていく。画像の中の自分の姿がだんだんはっきり見えてくる。
自分の正面の顔が写ったところで、目の前の人形が宮下巴だと確信した。
「やっと、あえたね」
人形は両膝に一本ずつ、臀部に突き抜けるように太もも全てを貫くよう刺さっている。
さらに、右の肋骨から左の肩口へぬけるように一本。首をよこから貫くように一本。
そして、陰部にあたる場所に二本。針が突き刺さっていた。
「酷い……」
目の前にあるのは、人形だ。だが、はたてには、人間が槍で串刺しにされているようにしか見えなかった。
人形に手をかけようとしたとき、
ガコン
上で扉が開く音がした。誰かが入ってきたのだ。はたては急いで、スーツのスイッチを入れ、部屋の照明を切り扉を閉める。
トントントン
梯子を下る音。
はたての心臓の音はその音より倍ほどはやくなっている。
ペタペタペタペタ
足音がゆっくり近づいてくる。
ザザザ
自分がいる部屋の扉が開く。
パチン
証明が再びつけられた。
人間の少女位の背丈。黄色い髪。紫の服……
洩矢諏訪子が立っていた。
諏訪子の目は異常に見開かれ部屋の塵一つすら見逃さないような動きで部屋の中をギョロギョロとみわたしている。
はたては迷彩スーツを着て息を止めている。
目があっただけで、心臓が破裂するのではないかというほど、脈打った。
諏訪子は、無言でポケットから何かを取り出す。
針だ。
諏訪子は近くの人形にの腕に針を突き刺す。
黙々と、ただ、黙々と針を人形にさしていく。
手に持っていた大量の針が、尽きるまでその行為は続いた。
針が尽きると諏訪子は黙って、部屋を出て行った。
足音が遠ざかり、梯子を上る音が止み、上の蔵の扉が閉まる音がするまで、はたては息を止め続けた。
「ぷはぁ!」
危なかった。何度、気を失いかけたかわからない。諏訪子がもう少し近づいてきていいたら、失禁してしまったかもしれない。
工学迷彩スーツの充電は残り、三分ほどしかない。蔵から出る時のために温存しておかなければいけない。
はたては数枚写真を撮り、宮下巴をポケットにしまうと、部屋を後にした。
証明を消し、扉を閉る。あとは、蔵をでる時だ。見つからないように。細心の注意を払う必要がある。
梯子のぼり、蓋を開ける。
重苦しい地下から抜け出してきたためか、息がしやすい。
外の様子を探ろうと扉に近づいたとき、
「扉ヲ閉メタノハ、愚カ者ヲ逃ガサヌタメ」
「ーーーーっあ」
振り返るとあの、異様に見開かれた目が、ぎらぎらとした目が、血走ったあの目がこちらを睨んでいる!
「がっ……!」
諏訪子の手が首に噛みついた。
幼い容姿からはそうぞうもつかない膂力で、はたての首を万力のように締め上げる。
「ーーーーーーッ……」
頭がしびれ、意識が遠のく。視界から、光がきえた。
―14―
聖が今日も妖怪を連れてきた。
ナズーリンの顔が曇る。
白蓮は、皆に連れてきた。少女の姿をした妖怪にご馳走してあげなさいと言った。
運ばれてきた料理を白蓮とその妖怪は寺の奥にある座敷で食べている。
一輪や水蜜は座敷に近づこうとしない。
星も心配そうな顔をして、襖一枚隔てた中の様子を伺い知ろうと耳を欹てる。
ナズーリンは星よりももう少し近い位置で中の様子を探っている。
食事が過ぎ、眠くなったのか、白蓮の膝の上でうとうとしている。
「ごめんねー。私ばっかり食べちゃって」
「いいのんですよ。それより、眠くなっちゃいましたか?」
「うん……ねむいよぉ」
白蓮に頭を撫でられながら、妖怪は眠ってしまった。
「ごめんなさい……」
白蓮はそういうと、口を大きく開けて、
グジュリ……
聖白蓮の魔力の源は、ずばり、妖怪の妖力である。その妖力のもっとも効率よく確実に摂取する方法……それが、
食妖。
最初の一噛みで喉笛を喰いちぎられた、妖怪は叫び声すらあげられない。
白蓮は無心で少女の姿をした妖怪を貪る。
「ごめ……ん、なさ……い」
白蓮は誤りながら、妖怪の肉を嚥下する。
租借する白蓮の頬を涙が伝う。
「これで、三人目だ」
ナズーリンは悲痛な面持ちでそうつぶやく。
「また、発作がでてしまったようだね」
星はナズーリンの肩に手を置きなぐさめるように言った。
昔のことだった。
ナズーリンが白蓮とあった時、彼女は狂っていた。
白蓮は鬼の子を喰らっていた。
ナズーリンは震えながら、彼女に問うた。
「お腹、すいてるの?」
「いや、空いてないわよ」
「じゃあ、なんでそんなことするの?」
白蓮はそう聞かれ持っていた鬼の腕をボトリと落とした。
ナズーリンのほうを向き直ると、こういった
「怖いから」
はたてが覚醒したとき、目の前には自分が横たわっていた。
しばらくして、自分がもう、あの中にいないことを悟った。
(なんだ、妙に頭が冴えるてる……)
「これ、どうします?」
早苗ははたての抜け殻を蹴飛ばすと、神奈子に訪ねる。
「あとで、すりつぶして、湖に捨てるよ。最近は薄汚い鼠がかぎまわっているからねぇ」
そういうとはたての肉体を部屋の端に放り投げた。
(そういえば、思い出したことがある。昔、ミダレガミと良く似た妖怪が度々現れていた。魅入られると必ず不幸な目にあって死んでしまうのだ。確か、なんていったっけ。そうだ、ミドリガミ……緑髪だ……今考えると、あれは鍵山雛だったのではないだろうか……)
「諏訪子。人形はあとどのくらい残ってる?」
「だいたい50体位」
「そうか、こんなことになるんだったら、もっと作らせとけばよかったね。あの子いい腕してるよ」
神奈子悔しそうに歯軋りした。
「まだ少ない。まだ人が足りない」
「もっとよ、もっと人がいるわ」
(そういえば、地底の入り口で見た、秋穣子は、ヤマメにあっていたのではないだろうか……)
「……ねえ、この娘の施し、私にやらせて下さいよ」
「あたしは構わないよ」
「私もいいよ」
(信者のいない幻想郷であれだけの力を持っていたのは、こういう、からくりだったのか。なるほど、合点がいった)
「じゃあ、無断で守矢の神社の蔵に入った悪い烏にお仕置きをしましょうか」
早苗は諏訪子から、針をうけとる。
(人が崇め奉り作り出した神様なんて)
「残念ですよ。私、あなたとなら、いい友達になれると思っていたのに……」
早苗はいらだたしげにつぶやくと針を握り閉める。
(みんな、利己的なものなのかも)
「……反省して下さい」
(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
激痛。焼けた鉄の棒を肉につきさされるような痛み。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!)
痛くても、体をよじることも出来ない。人形の体は微動だにしない。
(針が……針が痛い!お願い!抜いて下さい!!)
「悪い子です。あなたは悪い子です」
二本目の針が近づいてくる。目は背けられない。
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい)
針が胴を貫いた。
(うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
はたては叫んだ。しかし、口から声はでない。行き場を失った声が頭の中を反響して、脳みそをかき混ぜる。
だが、狂えない。意識も飛ばない。頭は冴える。
「いい針だね。なかなかやるじゃないかあの橋姫」
「今日のところはこれだけにしときます。楽しみはとっとかないと」
諏訪子がはたてを棚におく。
(おねがい!いかないで、この針をぬいて!おねがいします!もうこんなことしません!許してください!神奈子さま!諏訪子さま!)
「そこで、許しを請い続けるんだな」
「いつか許されるその日まで」
「またね、はたてさん……」
(まって、早苗!おねがい!いかないで!たすけて!いい子にするから!)
扉がしまる。はたての目の前にはただただ暗闇が広がっていた。
「あら、こいし今日はご機嫌ね」
「うん、楽しいものいっぱい見れたからね」
「そう。よかったわね。今度お姉ちゃんにもおしえてね」
「気が向いたらね」
申し訳ございません。またしても遅刻してしまいました。まさか“遅れてしまって本当に申し訳ございません! ”タグを再び使うことになるとは思いませんでした。人間、何も学ばないものですね。
この物語は多大な誤字脱字、おかしな文法、ご都合主義、ゆうやみ特攻隊のちょっとしたオマージュでできております。何かございましたら、コメントで指摘してくださるとありがたいです。
あと、サイコメトラーEIJIは読んだことないです。ごめんなさい。でもお許しを
コメ返し 遅くなってスイマセン
>>1 にとりを気遣って場所は教えなかったのは失敗でしたね。ナズーリンは幻想郷という大きな便器に用を足しました。
>>2 知ってはいけないものを写そうとするのが新聞記者なんですかねぇ。産廃幻想郷ならにとりや文、もしくはさとりがタレこんでいても何ら不思議ではないですね。
>>3 おそれく、河童の機械が持て囃されているので河を汚したり、稲が枯れる病気を撒いたりだと思います。うまく繋げれているようで一安心です。ありがとうございます。最低千人以上の濃い信仰を常時受けることができます。
>>4 伏線を褒めていただけて嬉しい限りでございます。伏線を張るのが好きなもので……大きな組織にはやはり裏の一つや二つあってしかるべきではないかなと思います。あと、誤字報告ありがとうございます。修正(あまりにも誤字が多すぎて全部直せていないかもしれませんが)いたしました。
>>5 このさとりならそうするでしょうね。あと、このさとりが性格悪いのはしゅずさんとかの影響です。
>>6 機玉さん堪能していただきありがとうございます!sakoさんのSSでも散々な目にあっていましたね。霊夢は博麗の巫女としてすこし驕っているのかもしれません。
>>7 そこまで言っていただくけると、書いて本当によかったと思えます。今回は一応ノートにプロットを書いてから書き上げました。携帯は偶然幻想入りして偶然霖之助が拾いました。もしかすると巴の意思が呼び寄せたのか携帯が追ってきたのか、そこら辺は謎ということで……聖の「怖いから」は死ぬのが怖いからということです。弟の死を目の当たりにして死恐怖症になったため、妖怪を喰らい妖力を吸収し若返ろうとしているところにナズーリンとあったという設定です。今回奇行や凶行に走った者達の根底にあるのは死に(神なら消えてしまうことに)対する恐怖だったんだよ!ってのを表現したかったのですが、わかり難くて申し訳ございません。貴志祐介さんに結構影響を受けてまして、サスペンスホラーが書きたいと思っておりました。もし、次回何か企画がありましたら出来るだけ期限に間に合わせたいと思います。
>>8 ありがとうございます!こういうコメが貰えるとSSを書くのはやめられませんね。モチベーションあがります。迷彩スーツを貸したのがにとりとわかると彼女も消されるかもしれません。うまいこともみ消すか暴かれるか……汚い取引とか行われたりするのかとか妄想すると楽しいですね。命蓮寺はちゃっかりしてそうですね。ナズや星辺りがそうしそうです。
>>9 上海専用便器さんはじめまして。はたてはなんか根はいい子なイメージなんで産廃では酷い目にあいやすいんでしょうかね?あと大物臭がしないというのもあるかもしれません。
>>10 巴はたまたま守矢に罰当たりなことをしてしまい、それを攻められ人形にされてしまったという設定です。
>>11 山蜥蜴さんはじめまして。お褒めいただき光栄です。今回、念写でどうホラーにしようかと思っているときにこのネタを閃きました。どうネタばらしすれば一番映えるかなかなか四苦八苦しましたが。幻想郷に馴染んでいるようでよかったです。巴は犠牲になったのだ・・・古くから続く守矢の伝統・・・その犠牲にな。
灰々
作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/08/23 21:36:08
更新日時:
2010/09/07 06:48:03
分類
産廃百物語
はたて
文
ホラー
遅れてしまって本当に申し訳ございません!
で、ナズーリンは間に合ったんですか?
本当に、産廃幻想郷はクソ溜めのようなユートピアですね。
意外と、にとりや射命丸がはたてのことを守矢にタレこんでいたりして。
素晴らしい繋がりっぷりだったぜ
なるほど、こりゃあ少数からも濃い信仰(?)を搾り出せるわ
こう陰謀やら策謀が次々と明かされていくってのがいいね
…あと幻想「郷」の字が「卿」になってますよw
はたて良い娘なのに……産廃の幻想郷はハッピーエンドを許してはくれない。
はたての想いを誰かが継いで守矢神社の悪行を暴いてくれることを祈ります。
あと、霊夢こんな調子だといつか守矢神社にさっくりやられるぞ。
もう小説の域だよね
巴ちゃんは人形の姿で幻想入りしたように読めるけど、
その携帯は何で幻想入りしたのか
事件が風化したってことかな
それとも持ち込んだのかな
後者なら、なぜ香霖堂にあったのか
一番困ったのは、聖の台詞「怖いから」
守矢で盛り上がるタイミングに挟まっているので
何かしら意味があると思うのですが
SFサスペンスミステリー調なのが楽しかったです
こんな大作が読めるなら、どれだけ遅れたっておっけーね
しかし、幻想郷外だけではなく、少なくない人数の幻想郷内の人妖を行方不明にしているようなので異変としてそろそろ巫女スキマが動きそうだ。
少なくともこの日の2〜3日後にはにとりは異変として訴えそうだし。
行いがばれたら退治どころか消滅、駆逐されるかもしれないなこりゃw
…んで、白蓮のやった妖怪も便乗して守矢のせいにしそうw
と、再確認させられました
文量も多くしかもダレずに、とても良い出来(良い出来の、等と言うと何とも上から目線の様に聞えてしまいますが、代替の良い表現が私の語彙力では…)の作品でした。
硫酸電池の様に、魂を封じ込めた人形で信仰(?)を持ち込んでいる、というのは非情に…いえ、非常に面白いアイデアです。
怪死や心霊写真、念等の怪奇現象を記者が追いかける、という正統派な怪談物ながらすっきりと幻想郷に馴染んでいる様に感じました。
巴ェ…