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『『 』』 作者: 墓
遭難三日目。
今日から日記を付けておこうと思う。
今、私は里からやや離れた洞窟に居る。私の隣には妹紅が居て、今はやや疲れた顔で眠っている。
無理もない。今の今まで彼女は脱出方法を探してあちこち探って回っていたのだから。
三日前。近く起こった夕立によって、里の近くに大きな洞窟が姿を現した。特別害があったわけでも、何かが目撃されたわけでもないのだが、用心に越したことはないだろうと、私は妹紅を連れ立って調査に出ることにした。
だが、それが間違いだった。
洞窟奥の突き当たりまで進んだところで、入り口が崩落してしまったのだ。
地鳴りのような音と共に岩盤が崩れ、私たちはすっかり閉じこめられてしまった。
こんなことなら妹紅には外で待ってもらえば良かった。
ああいや、今更後悔を書き連ねても仕方がない。今はこの洞窟を出ることだけを考えよう。
持参した水筒はもう空になった。照明用の札はまだ沢山あるが、それも節約するべきだろうか。
いや、この札が尽きるよりも先に私が餓死するのは間違いない。
早く何とかしなくてはいけない。
遭難四日目。
妹紅が馬鹿げた提案をしてきたので一喝した。
蓬莱の身体を持つ自分は死なないのだから、その肉を食って私に生き延びろと言うのだ。
あまりにも馬鹿げた提案に、私は少しだけ泣いた。
この私に、どうして妹紅を手に掛けるようなことが出来るだろうか。
遭難五日目。
私たちが閉じこめられた場所を備忘録として明記しておく。
この洞窟は岩盤に覆われていて、やや湿度が高い。こうして日記を書き留めるのには少しばかり面倒な空気だ。
ただ夏の盛りだというのに内部の空気は程良く冷たく、汗が殆ど出ないのはありがたい。
今日は小さく清水が湧き出る場所を見つけ、そこを整えて飲み水を確保した。しかし水だけでは腹は膨れず力が出ないのもまた事実だ。
脱出の手がかりは掴めず、救出もあまり期待できない。
能力を使って穴を掘り進もうかとも考えたが、大きな崩落が起こらないとも限らないので止めておいた。
それにしても腹が減った。
遭難六日目。とうとう私は人ではなくなった。
私の身体は月が見えずとも空が無くとも人でなくなるらしい。
そして私は今日人ではなくなった。
それ以上のことは、今日はもう書きたくない。
遭難七日目。やはり現実から逃げてはいけない。
昨日は私は妹紅の膝から先を切り落として食った。
舌が、口が、喉が、胃袋が歓喜していた。
六日ぶりの滋養に体中が喜んでいた。
最低だ。
妹紅は切り落とした先から腐ってはいけないと言い、彼女に薦められるままに私は今日妹紅の腿を食った。
泣きながら彼女の足にかぶりついた。
妹紅はその間、ずっと目を瞑っていてくれていた。
私は最低だ。
遭難八日目。
切り落とした妹紅の足の切断面は、薄い皮のようなもので覆われていた。これも蓬莱の身体の為せる技なのだろうか。
私がそのことを言い、妹紅が血を流さなくて良かったと言ったら、彼女は笑って無駄に虫に食われるよりはお前に食われた方が良いなどと言ったので、私は泣きながら彼女を叱った。
そして叱りながら、心のどこかで彼女の言うとおりだと考えていた。
私は最低だ。
遭難九日目。昨日一日かけて洞窟を散策するも、成果は無し。私たちは一生ここに閉じこめられてしまうのだろうか。
いや、弱気になってはいけない。私があきらめたら、足を差し出してくれた妹紅に申し訳が立たない。
今日私は妹紅の残った足の、膝から先を食った。
切断は永夜異変の時にスペルカードでも使用した草薙の剣の力が一番適切なようだ。
この行為に慣れはじめている自分が情けなくも恐ろしい。
先に切ってしまった妹紅の足は未だ再生の気配を見せない。妹紅は何も食べていないからだろうと言っていたが、果たして本当だろうか。疑問は尽きない。
遭難十日目。今日でもう十日目だ。
やはり脱出も救援も望めないのだろうか。
今日は崩落を覚悟で私の力を思いっきり岩盤に叩きつけてみた。しかし岩盤はびくともせず、私の力は霧散するようにかき消えてしまった。
殺生石とか殺気石とか、そんな様な何かなのだろうか。絶望のあまり言葉が出ない。
遭難十一日目。昨日は妹紅の腿を食い、彼女を抱いて泣きながら寝てしまった。
足を食った私が代わりに身の回りのことをすると申し出ると、彼女は身体を拭いて欲しいと言ってきた。
幸い手ぬぐいは持参していたので、清水を使って彼女の身体を綺麗に拭い、ついでに私も身体を拭いた。
彼女にズボンを履かせたとき、足のあるはずの部分が全く膨らんでいないところを見て、私はまた泣いた。
遭難十二日目。私には夢がある。
いくつもの夢があるのだが、私にとって今最も大切な夢は、妹紅と一つ屋根の下で暮らすことだ。
それを彼女に告げたら、無事に脱出できたら寺子屋に住む約束をしてくれた。
この期に及んで隠すでもないので打ち明けるが、私は妹紅を 。
それは家族だとか友人だとか、そういった愛情ではない。唯一無二の 存在として、彼女を見ているという意味だ。
彼女と共に暮らすことが叶うなら、私は彼女と褥を共にしたいと思う。出来るなら毎晩。いや週に一度程度でもいい。彼女と身体を重ねたいと思う。
こんなことを書くのも思うのも、もしかしたら私が既に狂ってしまっているからかもしれない。
だが、それでもいい。
幸せが得られるなら、それを願うことが出来るなら、私はまだ生きていられる。
しかし腹が減った。
遭難十三日目。とうとう私は妹紅の腕を食ってしまった。
もちろん食わなければ生きていけないのは間違いなく、そうしなければ最早共倒れになるのも間違いない。
だが、それでも悲しい。
彼女の指の骨は、その戒めとして清水と共に飲み込むことにした。
私はもう人には戻れないのかもしれない。
妹紅の身体はまだ再生の兆しを見せない。
遭難十四日目。
生き地獄というのはまさに今の状態を指すのだろう。
妹紅に水を飲ませ、身体を拭き、抱いて眠る。
違うのは私が妹紅の身体に手をかけるかどうかぐらいのものだ。
しかし不思議だ。私はそれほど大食らいではないはずなのに、何故彼女の身体をこうも早く喰らってしまうのだろう。
誰でもいい。どんな手段でもかまわん。
早く私を助け出してくれ。
狂ってしまいそうだ。
遭難十五日目。残った妹紅の腕を食う。
これでもう、彼女の身体に手をつけるわけにはいかない。
何も食っていない妹紅に私が腕を差し出すというと、彼女は笑ってそれでは互いを抱きしめられないと断った。足を差し出すと言うと、それでは誰が清水を飲ませてくれるのだと断った。
解っていたことだが、悲しくてたまらない。
私は永遠に彼女の身体を喰らい続けなければならないのだろうか。
遭難十六日目。清水を飲んで飢えを凌ぐ。
眠っている妹紅は美しく、私はその唇を奪ってしまうかと考えた。
だが、それは出来なかった。今の私にはその資格はない。
それに、私は怖かったのだ。
そのまま彼女の唇を貪り食ってしまいそうな自分が。
ああ、妹紅。私はお前を 。
遭難十七日目。
遠慮するなと妹紅が一言だけ言った。
私の心を見透かすような一言だった。
ものの本に拠れば、人に二つづつある臓器は片方を失っても問題ないという。
私は何を書いているのだろう。
今日はもう休むことにする。
遭難十八日目。私は弱い人間だった。
最低だ。
遭難十九日目。昨日、妹紅の身体に手をかけた。
彼女の身体から腎臓を一つと肝臓の半分を引きずり出して喰らった。
美味かった。血肉が染み渡るのが解った。
彼女の身体が自身の一部となるのが解った。
これが地獄なら、私は生き続けて罰を受け続けるべきだろう。
もしかしたら、本当の地獄の方が楽かもしれない。
遭難二十日目。一つの仮説をここに記しておく。
もしかしたら、妹紅が再生されないのは私の一部となっているからかもしれない。
私の滋養となり、血肉となっているから、彼女の身体は元に戻らないのかもしれない。
ならばどうすれば彼女は再生されるのだろう。
私が別の何かを食えば、彼女は元に戻るのだろうか。
遭難二十一日目。何も食わないのだからと妹紅は腸を差し出してくれた。
彼女の腸を一部取りだし、清水で洗ってから食った。
腎臓よりもこちらの方が食べやすく思える。
食いながら、私の中で大切な何かが崩れてゆくのを感じた。
遭難二十二日目。妹紅の残った腎臓と膀胱を食う。
解体に手慣れ始めている自分が憎い。
私に草薙の剣の力があることが憎い。
彼女の肉を美味いと感じるこの舌が憎い。
妹紅の睡眠時間が少しばかり増えたような気がする。
遭難二十三日目。彼女の腸を食い、それだけでは物足りず、私は彼女の大事な部分に手をかけた。
妹紅の子宮と卵巣を喰らった。
彼女の子宮を食いながら、私は性的興奮を覚えていた。そして彼女が寝静まっているのを良いことに、彼女の顔を見つめながら、子宮の味を思い出しながら自慰に耽った。
彼女が自身と一つになっている様を想像しながら、何度も果てた。
私は何故悦んでいるのだろう。
ああ、妹紅。私はお前を 。
遭難二十四日目。彼女を抱いて私は何度も謝った。
一日中泣いていたような気がする。
妹紅は何も言わず、頬と額に何度も口づけてくれた。
明日私は彼女の空っぽになった胸から下辺りの肉を食うことになるだろう。
それを告げると、妹紅は黙って小さく頷き、柔らかい微笑みを浮かべたまま眠りについた。
私は最低だ。
遭難二十五日目。
宣言通り彼女の胸から下を食った。これまで食った骨は全て清水で洗って一つところに集めてある。無いのは私が飲み込んだ指の骨ぐらいだ。
いつか彼女は、この骨を拠代に復活してくれるのだろうか。
遭難二十六日目。腹の中身が無くなったからだろうか、妹紅の声は小さく掠れるようになってしまった。
私は彼女の力強い声が好きだったというのに。
彼女が戦いの前に上げる雄叫びはもう聞けないのだろうか。
今日は彼女の胃袋を食った。
遭難二十八日目。妹紅は眠っている時間が多くなった。
彼女の乳房を切り落として食うと、妹紅はもう少し大きければ食いでがあったのにと謝ってきた。
そんな彼女に、私は何も言えなかった。
彼女の乳首を飲み込む瞬間、私は性的絶頂を迎えていた。
これを書き終えたあと、眠るまでの間に自慰をしてしまうだろう。
今日は何度耽ってしまうのだろうか。
遭難二十九日目。彼女の肺を食う。
空気が詰まっているところだからだろうか。それほど食った気にならない。
もうあまり残されていない。大事にしなくてはいけない。
三十日目。残った片方の肺を食う。空っぽになった彼女の胸は、肺があったときと同じように規則正しく上下している。次は彼女の心臓だろうか。
三十一日目。明日妹紅の心臓を食うと妹紅に告げた。
彼女は笑っているだけだった。
心臓は魂の拠り所だと言われている。
そこを失った蓬莱人はどうなるのだろうか。
そこを食ったとき、私はどうなるのだろうか。
三十二日目。
彼女の心臓を食った。
眠っている妹紅の傍で、私は感涙に打ち震えていた。
今までの人生で一度も味わったことがない、深い歓喜を覚えた。
妹紅は心臓を食っても妹紅のままだった。
だが、私の心臓に彼女の心臓が重なるのが解る。
私は彼女と一つになろうとしている。
三十三日目。とうとう妹紅は首だけになった。
首だけの彼女をしっかりと抱きしめて眠った。
もうすぐ私は彼女と一つになることが出来る。
三十四日目。明日は記念すべき日だ。
三十五日目。記念すべき日は満月だった。
妹紅に私と一つになろうというと、彼女は笑って瞳を閉じた。
婚姻よりも深い契りだった。
彼女と深い口づけをした。舌を絡ませた。
食いちぎってはいけない。儀式には順序が大切だ。
まずは妹紅、お前の右目を飲み込もう。
つぶさないように飲み込んだぞ。見えているか? 私の腹の中が。
誰にも見せたことのない、私の深奥が。
次ぎにお前の耳を飲み込んだぞ。
聞こえているか? 私の内蔵がうごめく音が。心臓が震える音が。
お前の左目が閉じぬように、取り出して私がよく見える位置においた。今私は何も身につけていない。一糸纏わぬ裸だ。
お前に全てを晒そう。
ああ、お前に見られながらの自慰はなんと心地よいのだろう。お前に見つめられながら、私はお前の唇を食い、舌を飲み込んだ。
お前が私の奥底を舐め回すのが解るようだ。
次はお前の頬を食おう。お前のきれいな髪はきれいにまとめて私の髪に結いつけた。
これで私とお前は髪までも一緒だ。
私は何度絶頂を迎えただろう。いくらしても足りぬほどに身体が欲している。繰り返される興奮は回を重ねるごとに強く深く激しくなっていくようだ。
喉を滑って胃袋にお前の脳髄が落ちるのが解るだろうか。
桃色の果実のようなお前の脳はなんと美味なのだろう。
もうすぐだ。もうすぐ私はお前と一つになる。
お前の全てを私のものにできる。
ああ、妹紅私はお前を────。
「────音、慧音!」
「ん、んん…………?」
不意に肩を揺さぶられ、私は目を覚ました。
目の前には呆れたような心配したような顔の妹紅が居て、こちらをまじまじと覗き込んでいる。
「大丈夫か? とっくに日は落ちかけているぞ?」
「あ、ああ。平気だ」
頭は重いが、意識ははっきりしている。
昨日の満月で徹夜の仕事をした私は、寺子屋を訪ねてきた妹紅に夕方起こしてくれと言付けをして眠りについたのだった。
障子から差し込む光は既に淡く染まっている。
「疲れているなら私が行ってこようか? どうせ食材を買いに行くぐらいだろう?」
「いや、平気だよ。それより済まない。せっかく妹紅が訪ねてくれたというのに」
謝罪を述べようとすると、妹紅は軽く肩を竦めてから柔らかく笑った。
その笑顔を、私は夢の中で見ていたような気がする。
「顔を洗ってくる。待っててくれ」
洗面台に立ち、顔を鏡に映す。
いつもと同じ私の顔は、少しばかり目の下の隈が濃い。
まるで洞窟に長いこと閉じこめられたかのように。
「…………ふはっ」
乱雑に顔を洗い、冷たい水に長く顔を浸してから上げる。
私は夢の内容を覚えている。
長い長いあの夢の全てを。
「手ぬぐいここに置いておくぞ」
妹紅が置いていった手ぬぐいは、夢に出た物と同じ柄だった。
「お待たせ」
「本当に大丈夫か?」
彼女の顔が私の眼前に迫る。
私は彼女の唇の味を思い出していた。
「なんでもないさ。早くしないと市が閉まってしまう」
そうだなと踵を返す彼女。
彼女の髪は彼女の背中で揺れている。
「今日は何を食うかなあ」
歩く彼女の足はしっかりとしていて、彼女の手はゆらゆらと揺れている。
「せっかく慧音のところまで来たんだし、美味いものでも食わせてもらおうか」
そうだな。美味い物を食いたいな。
「たまには肉も悪くないな。最近魚ばかり食っていたからな」
そうだな。肉は美味いな。
「考えたら腹が減ってきたよ。急ごう」
急がなくても、いいんじゃないだろうか。
「────なあ、妹紅」
はじめまして。墓と申します。
まずは読了ありがとうございます。
今回初めての投稿となります。勝手のわからない場所故不出来な部分があるかもしれません。申し訳ありません。
何か不手際があった際は教えていただけるとありがたく思います。
今回、私が目指したのは忍び寄る狂気と古き良き恐怖映画です。上手く表現できているでしょうか。
タイトル及び文中の空欄部分はあえてそうしてあります。誤字などではありません。
何が入るかは、皆様のご想像にお任せするということで。
今作品を作成するにあたり、とある方にネタを頂いております。この場を借りてお礼申し上げます。
ホラー系の話は初挑戦だったのですが、よい刺激になりました。ありがとうございます。
その他の事はコメント返信などで。
ご意見ご質問などあれば是非お願いいたします。
それでは。
墓
- 作品情報
- 作品集:
- 20
- 投稿日時:
- 2010/09/04 09:21:06
- 更新日時:
- 2010/09/04 18:21:06
- 分類
- 慧音
- 妹紅
- 人肉食
特に遭難十八日目の日記では、鳥肌が立つほど戦慄しました。
実は夢オチで、けーねが夢の中での狂気を覚えてるのもいいなぁ。
ハンニバル・レクター博士のような。
日付のすぐ後で改行してる日と、そうでない日の違いが何かあるのでしょうか。
とか思ってたけどよく考えるとこれ、慧音の記述だから事実とイコールってわけじゃないんだよな。
メシウマな話をありがとう。
仲睦まじいとはこの事ですか。
なんつうか慧音の夢のなかの独白に安易な狂い笑いとか入ってなくて淡々としているからこそにじみ出てるものがある
おもろかった
全てに返信は難しいので、やや掻い摘んで……。
日付の後の改行について。
これは慧音の不安定さを表していたりします。日本語をややおかしくさせたり、わざと読みにくくさせてるのもそのあたりが理由です。
焦りや葛藤、正気と狂気の狭間で揺れ動く様を見せるには、こういう手段もありかなと思いまして、使ってみました。
空欄について。
食ってしまったのか塗りつぶしたのか夢故の不可視か。そこに何が書いてあったのかだけでなく、どうしてそこが空欄なのかも含めて、読者の皆様にお任せしたいと思います。
答えはそれぞれの心の中に。ですね。
妹紅視点について。
これは考えてません。超が付くほどの良識人である彼女だからこそ生きる作品であるというのもありますし、食われる側がどういう気持ちなのかも想像して頂けたら、より楽しめるのではないかなと思います。
少し丸投げが過ぎますかね。申し訳ないです。
普段の作風とはかなりかけ離れている上、精緻な陰惨描写などは私自身耐性が低いのでこちらに投稿する事は稀になると思いますが、出来る限り頑張っていこうと思います。
もし新作を見かけた際は、また可愛がって頂ければ幸いです。