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『チルノでアイスキャンディーをつくったよ』 作者: i0-0i
今日は良い天気だったので、湖で妖精を捕まえていじめて遊ぼうと思ったのですが、いませんでした。
かわりにチルノがいました。
チルノは草の上でひっくり返ってぜえぜえあえいでいました。そして大声でさけびます。
「ここらは、あたいのもんだーーー!」
どうやら戦ったあとみたいでした。まわりにいた妖精をみんな追い払ったのでしょう。へとへとに疲れているようでした。
ぼくはおにいちゃんに言いました。
「どうしよう?」
「いいじゃないか、チルノで。今日は暑い。アイスキャンディーが作れるぞ」
おにいちゃんはそう言って、小さくくちびるをなめました。
ぼくはお兄ちゃんの言うことはいつも正しいと思ったので、小さくうなずきました。
けれどどうしてチルノがいるとアイスキャンディーなのでしょう? ぼくにはまだよくわかりませんでした。
ぼくはおにいちゃんに言われるがままに動きました。
おずおずとチルノに向けて声を掛けたのでした。
「おい、そこの妖精!」
名前さえも知らないかのようにすることが、だいじだと言われました。
「むっ、そこの人間! あたいの名前をしらないのかっ!」
チルノはすぐに起き上がって、こちらをびっと指さしました。
「サイキョーのあたいに先に名乗らせるとはじゅーまんねん早いわっ! 先になのれっ!」
「やーだよっ、妖精に名乗る名前なんてあるもんか!」
「ええい、名乗れったら名乗れぃ! 名前もないやつとは戦えないだろー!」
「うるさいうるさい、おまえなんか、ただの妖精で十分だいっ! べろべろばー!」
ぼくはおもいきり舌をつきだして、あかんべをしました。
けれど、内心、ぼくはこわくてしかたありませんでした。
冷たいのは本当はきらいだったのです。
ぼくはおなかが強くはないのです。冷たい水をがぶがぶのんだりすると、おにいちゃんは平気なのに、ぼくのほうは、すぐにげりをしてしまいます。
けれど、おにいちゃんの言うことだから。
おにいちゃんのすることだから。
しかたありません。これは全部しかたのないことなのです。
ぼくはただ、言われるがままに、チルノの気を引きつけるだけでした。
「むきー! あたい怒ったぞ! ふざけるなー、あたいだっておしりぺんぺ……」
うしろを振り向きかけたチルノに、ばさりと麻のふくろが被さられました。きっと目の前がまっくらになって、たいそうびっくりしたことでしょう。
ぼくが相手をしている間に、おにいちゃんが回り込んでいたのでした。
「今だ。金屑を」
「うん」
ぼくは急いでポケットから鉄の粉を取り出して、妖精の羽に付けて、おまじないを言いました。
「妖精なんて、信じない」
こうすると妖精は飛べなくなってしまうのです。
がくりとチルノの身体から力がぬけました。
おにいちゃんはそれを抱き上げて、念のために麻のひもでぐるぐる巻きにしました。肩に乗るぐらいの小さなからだでした。
おにいちゃんが言うとおりに、おうちに連れて行くことにしました。
何重にも念入りに柱にしばり付けて、その下にたっぷりのむしろをしきました。汚しても怒られないように、と考えてのことでした。
「まずはちゃんと中を洗わなくちゃ」
おにいちゃんはそう言うと、失神しているチルノの口をむりやり開けました。小さくてふくふくとしたほっぺたに両手の指をそえて、ぐりぐりと入れ込んでやると、どうにか開くのでした。
それからどんぶりに三杯の水を飲ませました。眠っているひとに水を飲ませると、ふつうは目をさますでしょう。けれど、チルノはぐったりとして起きませんでした。
ぼくは死んでしまったのじゃないかと思って、こわくなりました。
「ねえ、おにいちゃん」
「だいじょうぶ。手をたたけば起きる。やってごらん」
ぼくはこわごわ手をならしました。
チルノがぴくりと動いたようでした。でもまだ目をさましません。
「もっと強く」
おにいちゃんに言われるがままに、ぼくは手をたたきました。いたくなって、はれあがるまで打ちました。
チルノはゆっくりと目を開きました。それから「ごほっ」とせきをして、水を吐き出しました。
「だめだなあ」
おにいちゃんは言いました。
ぐいっとほおをつかんで、目と目を合わせて、ささやきました。
「全然冷たくない。もっとがんばらなくちゃ。もっと気合い入れろよ」
チルノはきっとにらみつけると、ぺっとつばを吐き出しました。
それはおにいちゃんの顔にぺちゃりとつきました。
「それ、凍ってないぜ。お前、氷精だろ? なんで口の中の水が氷にならないわけ? 存在価値ないじゃん。役に立てよ。それぐらい、どうにかしてみろよ」
手でぬぐいながら、おにいちゃんは言いました。
「うるさいっ、それぐらいできるもん!」
チルノは言いました。そのとたんに回りの空気が一気に冷たくなるみたいでした。ぼくはぶるりとふるえました。鳥はだが立つようでした。
「おお、こわいこわい」
おにいちゃんはそう言うと、小さく肩をすくめました。
それから、
「おい、オレンジジュースとさとうとはちみつをもってこい。あとホースとじょうごと軍手もな」
「う、うん……!」
ぼくはただ言われるがままになるだけでした。
道具がひととおりそろうと、まず、おにいちゃんは軍手をはめました。それからチルノの口をさっきと同じようにむりやり開けました。
「おい、この口開けとけよ。閉じたらげんこつだからな」
「う、うん」
そして、ゴムホースをチルノの口の中に突っ込みました。よくすべるように、はちみつをぬってありました。
「う、う、う、え、お、え……」
ぼくは口を支えていたから、そこを見ないわけにはいきませんでした。
透明なつばでぬれていた口の中が少しずつ乾いていきます。
ピンク色をしたのどちんこがひくひくふるえています。
小さなしんじゅのような歯が、つやを失っていきます。
それでもまだ、チルノの身体は冷たすぎて、支えている手が痛くてたまりませんでした。
目と目が合わないように、ぼくはただ、チルノのノドがひくつくのを見ていました。
おにいちゃんはホースを入れおわると、それからじょうごをホースの反対がわに入れました。
それからオレンジジュースにさとうをとかしたのを、とくとくと入れていきました。
「おい、まだ冷えてるんだろうな」
「う、うん、まだだよ」
小さな、かん高い声でひめいが聞こえているのを、ぼくたちは聞こえないことにしました。
しゅうしゅうとけむりをあげるぐらいに、よく冷えていました。
チルノはやっぱりサイキョーだとぼくは思いました。
しばられたままのチルノにオレンジジュースを入れて、ホースはさしたままで、口にはさるぐつわをかませて。
ぼくたちは家の中で、たかおにをして、遊びました。
たのしかったです。
わすれるのは、たのしかったです。
「そろそろできたかな」
おにいちゃんがそう言ったので、ぼくはびくんと体がはねてしまいました。こわいのをかくそうとしても、これでいつもバレてしまうのです。
「おい、びびってんのかよ」
おにいちゃんがそう言うので、ぼくは首をよこにふりました。バレたらげんこつだと思ったからです。
「そうだよな、びびるわけないよな」
おにいちゃんはにやにやと笑っていました。
「今日はおまえが取り出せよ。おれの小刀かしてやるから」
「え」
ぼくはおどろきました。どうやって取り出したらいいのか分からなかったからです。
「やり方はおしえてやるよ」
おにいちゃんはそう言って、手をミューズであらいました。
ぼくもあらいました。
つめの中も指の間も手首もきちんと一分かけてあらいました。
おやつの前には、ちゃんと手をきれいにしないといけないのです。
わすれると、おにいちゃんにげんこつをくらいます。
でも、それは、そうしないとおかあさんにしかられるからです。
そして、それは、そうしないとおとうさんにおこられるからです。
だれも悪くないのです。
そうしないといけないのです。
そういうふうに、きまってしまっているのです。
ぼくたちは、チルノのいる柱にもどりました。
チルノは口の中にホースをつっこまれたままで、間抜けに生きていました。
小さなくちびるからぴょこんとホースのはじっこが飛び出しているのが、なんだかおかしかったです。
「うう、ううううう……!」
チルノは怒っているようでした。あたり一面が、しもでまっ白でした。
「よく出来たな、こんじょーだな、チルノ」
おにいちゃんがそう言うと、ぺちんとチルノの頭をはたきました。
「うぎゅう、うううううう……!」
氷と氷がこすれるような音を立てて、チルノはおこっていました。
「こわしたら、べんしょうだぞ」
「う、うん」
刃を欠かないようにがんばりました。
できるだけまっすぐに切っ先が入るようにして、やわらかいチルノのノドをねらいます。
指でさわると、こどもっぽくてふよふよした皮の下に、こりこりしたちいさななんこつがあるのがわかります。
そこをねらうと刃がよこにすべってしまいそうだったので、ぼくはそっと下の方を調べてみました。
なんこつが終わって、さこつにはさまれたあたりがちょうどくぼんでいて、おさまりが良さそうでした。
刃の先を当てると、チルノは鳴くのをやめて、ぴたりと静かになりました。
「いくよ」
ぼくは、自分で自分に言い聞かせました。
手が汗ですべります。心ぞうが、ばくばく言っています。ノドがかわいて、からからになっています。
「はやくしろよ」
どん、と背中を押されました。あまりにもあっけなく、刃は吸い込まれていきます。ずぶずぶと吸い込まれるように。
「――――――ッッ! ――――――ッ、――――ッッ!?」
息だけのひめいが聞こえました。しゅうしゅうと冷たい空気がぼくたちのはだしを冷やしていきました。
血は出ませんでした。かわりに透明な水とシャーベットのような氷がさらさらこぼれていくみたいでした。
ぼくの手はちゃんと動きませんでした。まったくもって、言うことを聞かなくなってしまいました。
ぶるぶるふるえて、刃をとり落としてしまいました。からんと音を立てて、小刀はむしろの上に落ちました。
「こら、気をつけろ」
おにいちゃんが言いました。それから、ぼくの手に小刀を握らせると、その上から大きな手をかぶせて来ました。
おにいちゃんの手は、ひどくあたたかくて、しめっていました。
「こうするんだ」
チルノのノドに開いた穴へもう一度刃をつきたてて、それからずっ、ずっと力を入れて切り開いていきました。
皮が切れる時のてごたえが、伝わってきました。
氷のつぶが、刃に当たる時のいやなかんじ。
皮の裏側の、肉そのものの濃いピンク色が、べろりとめくれていく感じ。
ぼくは、目をそらしたくても、そらすことが出来ませんでした。
それは、あんまりきれいだったので。
しかたのないことなのです。
おにいちゃんが、やらせたのです。
ぼくは、悪くありません。
チルノの内側には、い がありました。ぐしょぐしょのみぞれに濡れた、内がわの肉袋を開くと、その中にはい の形そのまんまの、オレンジジュースの氷が出来ていました。
上のほうはホースの通りに尖っていて、下の方はちゃんと出口のあたりのしわしわがのこっていました。
ちゃんとおにいちゃんが洗っておいてくれたので、外側も食べられそうにきれいでした。
食道を切り開くと、中にホースがありました。ちょうどいい持ち手になっていました。
半分に割ったチルノはどんどん溶けていくようでした。肉色の皮やいや食道は氷水の中にとけていって、薄ピンク色の水たまりになるようでした。
「そのうちかわくさ」
おにいちゃんは言いました。
「かわいたらどうなるの?」
「上にのぼって雲になって雨になって湖に戻る。そしてまたチルノになるんだ」
「ふうん」
チルノはすごいなと思いました。
やっぱりサイキョーだなと思いました。
アイスは一個しかなかったので、ぼくたちは仲良く半分こにしました。
おにいちゃんに大きい方をゆずってあげました。
そうしたら、おにいちゃんはぼくを、えらいな、と言ってほめてくれました。
そうして、ぼくたちはわらいました。
アイスがおいしかったので、わらいました。
あとがき。
・9月9日はチルノの日。
・幻想郷の子供達はみんな、こうやって大きくなるのですね。強く育ちますね。
・鉄はアイルランドの妖精が嫌うもの。
・「妖精なんか信じない」と手をたたくと妖精が生き返るのは、ピーターパンとウェンディ。
i0-0i
作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/09/09 14:28:54
更新日時:
2010/09/10 00:10:05
分類
チルノ
オリキャラ男
世界観無視
血の出ないいぢめ
なにこれ?
チルノえらかったね