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『刹那に輝く月よ、私は―― その4』 作者: 上海専用便器
朝日は昇り、月は沈む。
太陽に照らされた大地から、真実は姿を消した。
月が照らしていた闇は、光に隠れてしまった。。
月の心など、太陽には決して分からない。
月の真意など――
「おきなさい。おきなさい、幽々子。」
幽々子は誰かに揺さぶられ、目を醒ます。
永琳によって打たれた睡眠薬は、すぐに効果は出るが、持続時間は短いものだった。
霊夢はそのことを伝えられて、幽々子を起こそうとした。
「う…………よう、む…………?」
「誰が妖夢よ、早く起きろ。」
霊夢は手にしていた針を幽々子の体に軽く突き刺す。
さすがの幽々子も、その痛みに眠気は全て吹き飛んだ。
「いたっ!れ、霊夢!?も、もう、何するのよ〜………ど、どうしたの?」
意識が無くなる前、自分に注射をした永琳が仁王立ちしながら、こちらを睨んでいる。。
それだけではなく、霊夢は針を構え、慧音も冷たい目で自分を見下ろしていた。
「ね、ねぇ?私、何かしちゃったの………?」
彼女たちは、みんな本気で怒っている。
身に覚えは全く無かったため、幽々子は体を震わし始めた。
幽々子は辺り一面を見渡し、妖夢がいないか探し始めた。
しかし、どこにも妖夢は見当たらない。
その代わりに、頼りになる親友を見つけた。
「紫!これは一体どういうことなの!?」
「幽々子…………」
紫は幽々子の名前を口に出した後、泣きそうになりながら、幽々子から顔を背ける。
その態度を見て、幽々子はさらに焦り始めた。
誰も味方がいない―――
そう思った幽々子の頭は、許しを請うのが一番必要な行為だと決めつけた。
今は謝って、この状況を何とかしなければ。
霊夢、永琳、慧音に本気で襲われるなど、幽々子にとっては恐怖以外の何でもなかった。
「ご、ごめんなさい!何か気分を害するようなことをしたのなら、謝るわ!」
幽々子はほんの少しの誇りを捨てて、頭を下げて霊夢たちに謝る。
根は優しい霊夢たちのことだ、絶対に許してくれるはず。
そう幽々子は安心していた。
「だから、怒らな…………え?」
顔を上げ、4人の顔を見る幽々子。
いつもの表情に戻っているはずだと幽々子は思っていた。
だが、霊夢たちは幽々子の思っていたものとは正反対の表情をしながら、自分に歩み寄ってくる。
そして、霊夢はお札を取り出した。
「れ、れいむ?そ、それはなに?」
「悪いわね、この二人が本気で怒っているのよ。」
そう告げた霊夢は、幽々子の頭にお札を貼る。
体から力が吸い取られていくのを、幽々子は感じた。
「やめてっ!どうして!!どうしてこんなことするの!?」
霊夢たちは、自分を封印するつもりだ!
本能が警告を出し、幽々子は精一杯の抵抗をしようとした。
もちろん、今の幽々子には手足をバタバタと振るわせることしか何もできない。
しかも、慧音に両手両足を抑えられてしまい、身動きすらできなくなる。
幽々子は何がなんだか分からなくなっていた。
自分が無理矢理眠らされて、紫は自分を助けようとしない。
そして、霊夢たちは自分から力を奪った。
(そ、そうだわ。これはドッキリなのよ!)
紫の様子が昨日からおかしいことに気づいていた幽々子は、これは全てドッキリだと信じる。
正確には、ドッキリであって欲しいと願っていた。
「ね、ねぇ?妖夢が近くにいるでしょ?」
「…………………」
その言葉を聞いた慧音は、何も言葉を返さない。
「よ、ようむ〜!!ドッキリなんて無駄よ〜?」
もちろん、誰もその言葉に返事をしない。
部屋の中で、木霊するだけだった。
「ね、ねぇ………全部、ドッキリなんでしょ?紫が私をいじめたいだけでしょ……?」
「はぁ……………白々しいわね。」
ため息をついた永琳は、幽々子にそう言い放つ。
目には静かな怒りがこみ上げているのは、今の幽々子にも分かった。
「紫!ねぇ、答えてよ!!全部、芝居なんでしょ!?」
幽々子は叫び声に近い声で、紫に訴えた。
だが、今の紫は幽々子に顔を向けることができない。
どうして幽々子が女性を襲わせるようなことをしたのか。
どうして自分は、幽々子の異変に気づいてやれなかったのか。
幽々子の親友だったのに、どうして何もしてやれなかったのか。
紫はもう、幽々子の親友であり続けることはできないと思ってしまった。
「ぐすっ………ねぇ…………何か言ってよぉ………」
幽々子は身動きが取れないまま、目から涙をボロボロと流す。
もちろん、"証拠"の写真を手にしている霊夢たちは動じない。
「次は尋問だな。」
「ええ、この薬で行くわ。」
「後はあんたたちでやりなさいよ。」
霊夢と慧音と永琳は、淡々と幽々子をどうするかを話し合っていた。
その間、紫だけは、やはり幽々子は犯人では無いと信じていた。
(あの写真には確かに幽々子が写っていたけど……………
見ていただけ、ということもあり得るわ。それはそれで問題だけどね………)
少なくとも、実行犯でないよりはマシだ。
紫はそう思い、幽々子の側に近づき、いくつか質問しようとした。
その時だった。
「霊夢、いるかしらー?」
ついに輝夜たちが博麗神社にたどり着く。
「輝夜!?輝夜なの!?」
「た、確かに輝夜の声だな。」
永琳は幽々子のことを放り出し、輝夜の声のする方へと走っていく。
妹紅のための復讐も大事だったが、やはり輝夜の身の安否が一番重要だった。
慧音は部屋の外へと出て行った永琳を見送っている間も、幽々子を押さえつけていた。
「あんたも永琳のところに行ってくれないかしら?」
「む、どうしてだ?」
突然、霊夢が慧音にそう提案する。
「あいつ、輝夜の居場所を知らなかったんでしょ?それで再会したんだったら、冷静さを失うわ。」
永琳が輝夜のことを命よりも大事にしていることは、霊夢ですら知っている。
行方が分からなくなるだけで泣きそうになったのも知っていた。
そのために、もしもの時の永琳の混乱を抑えるために慧音が必要と考えたのだ。
「分かった。確かに、私も行った方がいいだろうな。」
霊夢と殆ど同じことを考えていた慧音は、その提案に同意し、永琳の元へと向かった。
輝夜たちは博麗神社の前で霊夢が出てくるのを待っていた。
「起きてないのかしら?」
「いや、霊夢は朝はしっかり起きるぞ。昼寝が多いだけさ。」
「なら、私が中に入りましょうか?」
「いや、はたて。ここで待つべきだ。妖夢のためにもな。」
「……………………」
「そ、そうですね。」
妖夢の主が疑われており、その妖夢を連れてきたとなれば、怪しまれる可能性は高い。
ほんの少しの間の単独行動も避けるべきと神奈子は考えた。
もし襲われたとしても、自分ならば、ある程度は霊夢や紫に太刀打ちできる自信がある。
神奈子は念のために、御柱をいつでも出せるよう準備を整える。
そして、博麗神社から姿を現したのは、霊夢ではなく永琳だった。
「輝夜!!」
「永琳、霊夢は?」
「ごめんなさい、輝夜!あなたを疑ったりしてしまって………」
永琳は輝夜の音に近づくと、その華奢な体を強く抱きしめた。
「え、永琳?あ、そ、そういえば…………」
予想外の出来事に驚きながら、輝夜は自分は永琳と慧音に疑われていたのを思い出す。
しかし、今の永琳の様子から自分の疑いはもう晴れたのだと確信した。
「それはもういいのよ、永琳。それよりも、霊夢と話したくてここに来たのだけど………」
「ええ…………一体、何の…………妖夢?」
「は、はい。」
目に涙を浮かべて、安心しきった顔でいた永琳は表情を硬くする。
妹紅を襲わせた張本人の従者が、今自分の視界の中にいるのだ。
「む、やはり輝夜だったか。」
「慧音!」
「すまなかったな、疑ったりしてしまって………それと、やっと犯人が………」
慧音もまた、妖夢の顔を見るとその場で立ち尽くした。
二人の様子を見て、神奈子は最悪の事態が起こらないように身構える。
永琳に至っては、いつ妖夢を襲ってもおかしくない雰囲気を醸し出していた。
「え、永琳。落ち着くんだ。」
「大丈夫よ、慧音…………うふふ、あなたが共犯という証拠はまだないからね………うふふ。」
「ど、どうしちゃったのよ、永琳?」
永琳の不気味な笑い声に違和感を感じた輝夜は、少しだけ永琳を恐れる。
慧音は妖夢に何か仕掛けないよう、永琳の服を掴んだ。
「え、永琳様。幽々子様は妹紅さんを襲ったりなんてしてません!」
妖夢は真っ先に、幽々子の無実を訴えようとした。
もちろん、幽々子の写った写真を見ている永琳たちは信じるわけがない。
そして、この妖夢の言葉が悲劇のはじまりの合図だった。
「貴方………どうして私たちが幽々子を疑っていると?」
なぜ、幽々子を疑っていると妖夢は知っているのだろうか。
永琳だけではなく、慧音もそう思っていた。
いつ自分たちは妖夢に幽々子のことを話したのか。
「そ、それはみなさんがここで話しているのを聞いて…………」
誰かが妖夢に伝えたのだろうという予想は一瞬で消え去った。
その妖夢の言葉を聞いた輝夜たちは、何てことを言ってしまったんだ、と焦り始める。
しかし、妖夢は彼女たちが考えていることなど考えるわけがない。
妖夢はあまりにも正直すぎた。
正直すぎるあまり、このような返答をしてしまったのだ。
賢明な永琳と慧音が、その言葉の真意を掴めないわけがない。
彼女は、盗み聞きをしていたのだ。
幽々子に報告するために。
間違いない、幽々子が犯人だ。
そしてこの妖夢も共犯である。
「え、永琳!この娘は悪気があったわけじゃないのよ!」
輝夜はすぐさま、妖夢の弁護を始める。
そんな輝夜の頭を撫でると、永琳は微笑む。
「優しいわね、輝夜…………でも、こんな従者失格のクズなんて無視よ。」
「永琳、これには事情があるんだよ。」
「黙れ、神奈子。お前は部外者だろう。」
「なっ…………慧音、貴様………!」
慧音の言葉は神奈子の逆鱗に触れた。
自分の意志でこの問題を解決しようとしているのに、それを『部外者』の言葉一つで踏みにじられたのだ。
神奈子の怒りが爆発しそうになるも、はたてが彼女を抑えた。
「神奈子様、落ち着いてください!」
「くっ…………すまない、はたて。」
慧音もまた、感情が高ぶって冷静さを失っているのだろう。
怒りを静めると神奈子は一歩下がって、成り行きを見守り始める。
「永琳、落ち着くウサー。私が妖夢をここまで連れてったウサー。」
てゐは妖夢を庇おうと、自分が博麗神社にまで連れて行ったと永琳に伝えた。
その言葉を聞いた永琳と慧音が何を思ったのか、想像するのは容易いだろう。
「どういうこと……?」
てゐたちはもちろん、幽々子が犯人である"証拠"があることなど知らない。
だから、妖夢を博麗神社まで連れて行き、妖夢の盗み聞きを手伝ったてゐを疑うのも当然だった。
永琳はその事実を聞き、悲しそうな顔をする。
「ふむ………てゐ、お前からも話を聞かねばならんな。」
慧音は慧音で、てゐも共犯ではないのか、と疑い始める。
輝夜はてゐまでも疑われているのではないかと心配になり、永琳と慧音を説得しはじめた。
「永琳、慧音!てゐと妖夢は絶対にそんなことはしないわ!
ここに来たのは文の家が荒らされていたことを報告しに来ただけなのよ!」
これさえ言えば、疑いは晴れるはずだ。
輝夜はそう思って、事実を伝える。
そして、輝夜の言葉に慧音はこう返した。
「もちろん知っているさ。」
「えっ!?」
輝夜は驚愕の声を上げる。
なぜ、慧音は知っているのだ。
誰かが妖夢とてゐが文の家に行ったことを伝えた?
もしかしたら、慧音も文の家に向かっていった?
「私が行った時には文が襲われて、気絶していてな。私が永遠亭まで運んだよ。」
「ほ、本当!?文は生きてるの!?」
「ああ、治療中だよ。命に別状は無い。」
はたては自分の友人が無事であることを知ると、ほっと胸をなで下ろした。
しかし、輝夜たちは気分が重くなるばかりである。
その時、慧音はあることを妖夢に尋ねた。
「そもそも、どうして文の家に用があったんだ?」
それは、輝夜やてゐたちも聞きたかったことである。
その理由を一度も聞いていない。
妖夢はてゐと行動を共にする前、一度文の家に向かっている。
そして、気絶した文を見たと言っているのだ。
そうだとしたら、妖夢は文の家にどんな用があったのか。
「それはもちろん、幽々子様が私に…………………あ、あれ?」
妖夢は自分が文の家に行った理由を言おうとした時である。
幽々子が命令したと言ってしまったのだが、実際はそうではない。
いつものことで自分の主の命令だと思っており、流れに乗ってそう言ってしまっただけなのだ。
しかし、妖夢はどうして自分は文の家に行くことになったかの理由が頭に浮かばない。
それもそのはずである。
妖夢の頭の中には、文の家に行く理由などなかったのだ。
「え、えっと…………あれ、私どうして文さんのご自宅に………?」
「よ、妖夢?あんた、どうしたの?」
てゐは妖夢の様子がおかしいことを心配し、側に駆け寄る。
妖夢の様子をじっくり観察していくうちに、もしや幽々子に利用されているだけなのではと慧音は考え始めた。
「ふむ………これは、妖夢に罪は無い可能性が出てきたな。」
「も、もちろんよ!妖夢はただ、幽々子の無実を………」
少しだけ妖夢への疑いの目が弱まったのを、輝夜は見逃さない。
慧音の気持ちが変わらないうちに、妖夢の無実を訴える。
「いいや、輝夜。その幽々子が犯人なのだよ。」
「な、何を言ってるのよ。幽々子が犯人なんて…………」
「悪いな、輝夜………証拠が見つかったんだ。」
懐から、小さな紙のような物を取り出した慧音。
ついに輝夜たちは―――幽々子の写った写真を目にする。
「う、そ………!」
輝夜は口を開けたまま、写真を持ち続けた。
「な、何これ…………どうなってんのよ、一体!!」
その写真を覗き込んだてゐは、事態が飲み込めなかった。
「こ、これじゃあ…………」
はたては、幽々子の無実はもはや証明できないとあきらめる。
「何てことだ……信じられない………まさか、本当に幽々子が?」
神奈子も信じられない顔をしていた。
だが、この4人の反応は特筆すべきことではない。
魂魄妖夢、西行寺幽々子最愛の従者。
彼女は何を思ったのか。
「………………………」
「妖夢…………」
慧音は、写真を見た妖夢の反応を注意深く見る。
無表情になり、体をピクリとも動かさないまま、けれど写真をじっと見つめていた。
それはあまりにも大きすぎるショックによる行動だと慧音は思っていた。
(妖夢は共犯じゃないな………となると、幽々子の暴走というわけか。)
妖夢が共犯じゃないと確信すると、これから妖夢の面倒を見てやらねばならないなと思った。
だが、妖夢にまで軽々しく、問題の写真を見せてしまったのが大失敗だった。
「よ、妖夢?」
てゐは、妖夢の様子がさらにおかしくなっていることに気づく。
まるで、今から何かを殺そうとしているかのような態度を取っている。
「…………黙れ。」
「ん?どうした、妖夢?」
慧音はいつもと変わらない態度で妖夢と接し始めた。
その時、慧音は妖夢が殺気立っていることに気づく。
神奈子やはたて、輝夜、永琳も妖夢の様子がおかしいことに気づく。。
「幽々子様は……………幽々子様は………………」
「お、おい。妖夢、やめるんだ!!」
刀に手をかけた妖夢を慧音は怒鳴る。
しかし、妖夢の耳には誰の言葉も届いていない。
今の妖夢は、目の前にいる上白沢慧音が幽々子を罠にはめたのだとしか考えていなかった。
無理矢理、幽々子を妹紅陵辱の場に連れて行き、笑顔を強制させた。
毎日幽々子の顔を見ている妖夢の目には、写真に写る幽々子の表情は不自然に写っていたのだ。
そして、その場面を射命丸文に写真に撮らせた。
「そうだ………全部思い出した…………」
私は幽々子様をお守りするために、烏天狗の家に行ったんだ。
幽々子様を陥れようとする奴らを排除するために、幽々子様にとって不都合な写真を消すために。
脅しのための道具を全て消し去り、幽々子様を汚そうとする物を全て切り捨てるために。
文を襲った覚えはなかったが、きっとそうに違いない。
何がなんだか分からなくて、忘れてしまったけど、もうどうでもいい。
妖夢がそう考えると何かをあきらめたような顔になり、刀を鞘から抜く。
「妖夢、やめて!!こんなことをしても、何も変わらないよ!!」
てゐの訴えも、妖夢の声には届かない。
「だめよ、妖夢!落ち着いて、落ち着きなさい!」
「離せ!!私は、私は!!」
妖夢は輝夜に抑えられ、刀を手から落とす。
その刀をはたては奪い取り、安全のために神奈子へと渡した。
妖夢の様子から、妖夢は錯乱しているのだと永琳は判断する。
「てゐ、その子を気絶させて!!」
「わ、わかった!」
じたばた暴れている妖夢の首にてゐは衝撃を与える。
「かはっ………!」
悲鳴を上げた後、妖夢の体からは力が抜けていくのを輝夜は感じていた。
永琳は気絶したであろう妖夢を博麗神社の部屋へと連れて行こうとした。
「もう………幽々子が犯人なのは、"当たり前"なのに…………」
妖夢の意識が完全に消え失せたのは、その言葉を聞いた直後だった。
その言葉はいつまでも、妖夢の頭の中に残り続けていた。
慧音は残った4人に事情を全て伝えると、博麗神社の中へと招き入れた。
そして、霊夢たちのいる部屋に入った時のことである。
能力も奪ったことだしもう許しましょう、と言う霊夢を抑えると、紫はいくつか幽々子に質問をし始めた。
「幽々子、聞いて……?」
「えぐっ……ひどいよぉ…………どうして、しんじてくれないのぉ………?」
紫が話しかけてきても、幽々子はただ泣き続けるばかりだった。
それでも紫は、幽々子に大事なことを尋ねる。
「最近、竹林に行った覚えはある?」
もしや、操られているだけなのでは?
まさかの場合を考え、泣き止まない幽々子にそのことを問いかけた。
「ぐすっ……………ようむ………たすけて……………」
しかし、幽々子は子供のように泣きじゃくるばかりだった。
幽々子を助けるには、竹林に行った覚えがあるかどうかを知ることが大事なのだ。
長いつきあいの紫には、幽々子が嘘をついているかどうかなすぐに分かる。
だから、早く幽々子に答えてもらいたかった。
しかし、そのやりとりに見かねた霊夢が決して言ってはならないことを言ってしまう。
「紫が言っていたけど、誰に脅されたっていうの?」
二人は、やっと幽々子からの反応を得ることができた。
その言葉を聞いて、幽々子は途端に泣き続けるのをやめた。
「何を言ってるの………?私、誰にも脅されてないわよ…………?」
「れ、霊夢。それはね………」
自分の嘘だと言おうとしたが、霊夢が紫よりも早く言葉を進める。
「紫に言ったんでしょ?私は誰かに脅されたって。」
その言葉を聞いた幽々子は、自分の耳を疑った。
そしてあきらめがついたのだ。
紫はもう自分の親友ではないのだと。
が、幽々子は最後の力を振り絞り、紫の真意を探ろうとする。。
「紫!!どうしてなの!?どうしてなのよぉ!!」
自分に残った力の全てを使い、紫に掴みかかる幽々子。
「ち、違うわ。これには………」
そんな幽々子に紫は真実を全て伝えようとした。
しかし、幽々子の気迫に圧倒され、言葉を失ってしまう。
「私、紫のことが大好きだった!紫といるだけなのも楽しかった!!ねぇ、どうしてなの!?
どうして、そんな嘘をついての!?私、そんなことは言ってないじゃない!!」
幽々子は大声で紫に訴えかけた。
こんな幽々子を見るのは、霊夢にとっては初めてだった。
霊夢までもが幽々子に圧倒されている。
「ねぇ、答えてよ!!私、何か悪いことした!?私がみんなを傷つけたの!?」
大粒の涙が流れ続けながらも、幽々子は決して言葉を途絶えさせない。
「食いしん坊だから!?のんびりしているから!?亡霊だから!!?
ねぇ………答えてよぉ……ゆかりぃ………ゆか、り……………………」
服を掴んでいた手の力が次第に弱まっていくのを、紫は感じた。
「幽々子?幽々子、どうしたの………?」
「…………………………」
体を何度も揺さぶり、呼びかけてみるが、幽々子からは何の反応がない。
しかし、目は開いており、眠っているわけではなかった。
「幽々子……………ねぇ、幽々子?」
何度も何度も幽々子に言葉をかける紫。
しかし、何の変化もない。
言葉も返さないし、笑顔を見せてもくれない。
「幽々子………ごめんなさい……ごめんなさい……!」
幽々子を強く抱きしめ、紫はただ泣き続けることしかできなかった。
ちょうどその時、3人のいる部屋の障子を慧音が開けた。
先ほどまでに起こった事件を霊夢と慧音たちは伝え合う。
「それで幽々子が………」
幽々子を妖夢と同じ部屋に連れて行き、紫はそれに付き添っているのにも輝夜たちは納得する。
「ごめんなさい、ごめんなさい………」
紫は幽々子が気を失ってから、それしか言葉を発さなかった。
「大丈夫なのかい?」
そんな紫の身を案じる神奈子は、霊夢に視線をやる。
普段ならば、どうでもよさそうな顔をしているはずの霊夢も今回はやるせなさそうにしていた。
「気を失わせるつもりなんてなかったわ。あと、紫と仲違いしてるみたいだったし。」
二人の会話を間近で聞いていた霊夢は、紫と幽々子の間には衝突があったのだろうと気づいていた。
天性の勘の良さもあってか、その推測は当を得たものである。
「せっかく、真犯人が分かったのに………すっきりしないわね。」
はたてがそう言ったのを聞くと、他の少女たちは皆、顔を暗くした。
あまりにもはっきりとしている証拠があるために、幽々子には間違いなく罪がある。
その場にいた少女たちは全員、そう信じ込んでいた。
だが、妖夢には罪の無い可能性があったのだ。
それなのに、妖夢を苦しめるような行為を取ってしまった。
特に慧音は、そのことで自分を責めていた。
「私も、もっと他に言い方があったかもしれないな……」
肩を落として、軽々しく写真を見せてしまったことを後悔し始める。
感情に身を任せていたためか、慧音はとっとと事件を終わらせたかったのだ。
写真を見せれば全てが終わると信じたための行為が、まさか悪い方向に向かうとは。
「大丈夫よ、慧音。妖夢は分かってくれるわ。」
輝夜は、落ち込んでいる慧音の肩に手を置いて、彼女を励ます。
「輝夜…………ありがとう。」
その言葉に元気づけられた慧音は、少しだけ表情を明るくした。
やるせないのは仕方ないが、早くこの事件を終わらせたいと願った霊夢は机をバンッと叩いた。
「それじゃあ、幽々子の処罰について言うわ。」
「私たちだけで決めるの?」
強引すぎるのでは、と思ったてゐが霊夢にそう問いかけた。
もちろん、霊夢は聞く耳を持たない。
「幽々子にはちょっとやり過ぎなところがあったから、罰は軽くする。妖夢も同様よ。」
「それで、あんたたちはいいのかい?」
神奈子は慧音や輝夜、てゐ、そして、はたての方を見渡す。
しかし、誰一人として霊夢を否定的な目では見ていなかった。
「私もやりすぎなところは否めないな………」
「私は誰がやったのかさえ知れればよかったから、別にいいわ。」
「あ、文のこともあるけど………死んでないし、あんなことになったのなら………」
三人とも、幽々子と妖夢に罪悪感を感じていたためにそれほど怒りは込み上げてこなかった。
「それじゃあ、あの二人は目を覚ますまで永遠亭ね。」
「え?」
「私たちで?」
「それで決まりよ。私は医者じゃないのだから。」
輝夜とてゐの意見も聞かず、霊夢は無理矢理に永遠亭に幽々子と妖夢を連れて行かせることに決めた。
「幽々子………ねぇ、幽々子…………」
紫は何度も何度も自分の親友の名前を呼んでいた。
だが、幽々子は紫という名を口にすることはない。
自分の声だけが、耳の中に入ってくる。
永琳は治療をしていたが、厳密には精神状態を調べるだけだった。
「紫………幽々子は、ちょっと危険な状態よ。」
「幽々子………起きて、幽々子………」
自分の言葉は本当に、この賢者の元に届いているのか。
今の紫は、幽々子の声しか聞こえないのではないだろうか。
真剣にそう心配したが、永琳は言葉を続けた
「紫、幽々子が目を覚ましたとき、異常が起きている可能性があるわ。
もしかしたら、記憶障害も………でも、自分はしっかりと保ちなさい。」
「幽々子、ごめんね……ごめんね、幽々子。」
紫の行動はさきほどから変化がない。
このような言葉など、紫の脳に一切刺激を与えていない。
永琳はそうあきらめると、深くため息をついた。
「これは大変ね……紫の面倒も見ないといけないのかしら。」
「幽々子………幽々子………」
幽々子の名前をひたすら連呼する紫、そしてその傍らで寝ている妖夢を見つめながら、、
さらに患者が増えることになるのだろうと心配していた。
その後、永琳は霊夢たちの元に呼ばれ、幽々子たちをどうするかを話し合った。
「幽々子と妖夢は私たちで引き取るのには賛成よ。
けど、紫は霊夢か式に任せるべきじゃないかしら?」
「言っておくけど、私は無理よ。」
食費の問題があるからと付け加え、霊夢はすぐに断る。
予想通りの回答だったので、すぐに永琳は提案を受け入れる。
「それじゃあ、これで終わりというわけか?」
神奈子が再度確認すると、霊夢や慧音、永琳が首を縦に振る。
「あっけない、ですね………」
はたては、その場にいた少女たちの心情を代弁した。
こんな終わり方で本当によかったのか。
本当に幽々子にこんな仕打ちを与えてよかったのか。
不可抗力かもしれなかったが、こんなので本当によかったのか。
「仕方ないわよ。世の中なんて、こんなものなのよ。」
まだ全然若い霊夢からの言葉なのだが、妙に重みを感じる。
実際にそうなのだろう。
「そうだ、妹紅陵辱をやった張本人は!?」
輝夜は思い出したかのように、妹紅を犯した男たちの存在を思い出した。
「ああ、そのことは心配するな。私が、この写真で調べ上げるさ。」
幽々子の写った、問題の写真には男たちの顔も写っていた。
人里の守護者たる上白沢慧音ならば、調べ上げるのも容易い。
輝夜は一安心すると、残った課題は妹紅たちの治療だけだと気づく。
「それじゃあ、後は私たち永遠亭の住人の仕事よ。」
「そうね、輝夜。」
輝夜の言葉通り、後は永琳たちの仕事である。
慧音が陵辱実行犯を見つけ、治療さえすれば、この事件は解決なのだ。
「それじゃあ、これで解散ね。」
霊夢は手をパンッと叩くと、そのまま部屋の奥へと消えていってしまった。
「いつも通りだったな、霊夢も。それじゃあ、私は帰らせてもらうよ。」
「何か念写して欲しければいつでも!」
神奈子とはたてはそれぞれ、妖怪の山へと帰っていった。
残されたのは永遠亭の住人、そして妖夢と幽々子とそれに付きっきりに紫だけだった。
「さてと………紫を何とかしないといけないわ。」
紫をどうにかしなければ、幽々子を永遠亭に連れて行けない。
さて、どうしたものかと考えている間に、永琳たちは永遠亭へとたどり着いていた。
「えっ!?」
「な、何!?」
「ああ、これはきっとスキマウサー」
突然の出来事に驚く輝夜と永琳を他所に、てゐだけは冷静に状況を判断していた。
「永琳。」
てゐの思った通り、紫は幽々子と妖夢を抱えて、永琳たちの目の前に立っていた。
「ゆ、紫?」
「この子たちを………お願いするわ。」
「え………え、ええ。」
腑抜けてしまったのだろうと思っていた永琳には予想外の出来事だった。
意外にも紫はしっかりとしており、今一番必要なことが何なのかがしっかりと分かっていた。
「………この子には酷いことをしてしまったわ。合わせる顔もない。」
「紫、そんなことないウサー」
悲しそうになっている紫に、真剣に慰めの言葉を与えるてゐ。
「もし目が覚めたら………霊夢に伝えて。霊夢から聞き出すわ。」
「紫、貴方も幽々子の側に………!」
輝夜は幽々子の治療には紫の存在は必要だと言おうとしたが、その時には紫は消えていた。
「…………私はこの子たちを、妹紅たちと同じ場所に寝させるわ。」
何ともいたたまれない空気感が漂っていたが、永琳は幽々子と妖夢をベッドに寝かせる。
「あ、鈴仙に全部、伝えておかないと。」
てゐは永琳の手伝いをする前に、鈴仙に事情を説明しようと外に出て行った。
「私は………………」
輝夜は何かをしようにも邪魔になるだけだと思い、そのまま部屋から出て行った。
何をするわけでもなく、ただ妹紅たちが早く目を覚ますことを願うことしかできなかった。
自然とその足は、輝夜の部屋へと向かっていた。
部屋の中には布団が綺麗に敷かれており、枕元には何かが置かれていた。
それは、輝夜の好物のお菓子だった。
「気が利くわね……………」
輝夜はふと思った。
自分だけこんな風にのんびりとしていていいのだろうか。
妹紅陵辱犯を見つけ出そうとしたが、たいしたことはできなかった。
そればかりか、大変な思い違いや暴走に陥ろうともしていたのだ。
自分は妹紅たちのために何もしてやれない。
なのに、今、自分は部屋で平和に―――
「だっ、だめよ。逆に迷惑をかけるだけだわ。」
自分の無能さを自覚していた輝夜は、無理に永琳の手伝いをするのは避けていた。
何もできないお姫様なのだと前々から輝夜は思っていた。
「………ごめんね、妹紅。私、親友なのに輝夜に何もしてあげられなくて。」
悔しくて悔しくて、涙が流れる。
枕を濡らし始めた輝夜は、ひたすら泣き続けた。
「もこ……………ごめんね…………ごめんね……」
先ほどの紫のように、輝夜は妹紅のことを思いながら泣き続けた。
「てゐ………姫様は、大丈夫?」
泣き声が聞こえてきたと因幡兎たちから聞いたてゐと鈴仙は、部屋の障子を少しだけ開ける。
二人の目には、顔に涙の跡があり、寝息を立てている輝夜がいた。
「泣き疲れて、眠っているよ…………そっとしてあげよう、鈴仙。」
「う、うん………私も、ついていったほうがよかったかな?」
鈴仙は俯きながら、てゐに尋ねる。
そんな鈴仙の頭を撫でると、てゐは彼女の手を引いた。
「そんなことで悩んでいるなら、まずは行動。さぁ、妹紅たちの所に行くウサー」
「う、うん………そう、だよね!!」
てゐの激励の効果があったのか、鈴仙の顔が明るくなった。
(姫様、絶対に元気にしてあげますからね!)
てゐは心の中でそう思いながら、鈴仙を連れて、治療室へと向かっていった。
そんな二人の様子を、永琳は優しく見守っていた。
「………私も頑張らないとね。」
妹紅だけではない。
幽々子と妖夢、もちろん文の3人を助けだすこと。
それが輝夜のためであり、自分たちのためでもあった。
「さてと。ウドンゲとてゐには、いろいろと仕事を与えないとね。」
永琳は気持ちを改めると、鈴仙とてゐが向かったであろう治療室へと足を進めた。
しばらく時が経ち、空は真っ黒になっていた。
輝夜は泣き疲れてそのまま寝てしまい、永琳たちも仮眠を取る。
仮眠を取っている者も含め、輝夜たちは夢を見ていた。
それぞれが望む平和な日々を、自分の家族、そして親友と過ごしている夢。
妹紅も幽々子も妖夢も、ついでに文も目覚めて、憂いが無くなった世界。
そこで自分たちは最愛の人と笑い合いながら、日常を過ごしている。
輝夜たちの口は少しだけ、緩んでいた。
治療室で眠っている少女たちもまた、同じような夢を見ていた。
これはただの偶然であり、誰かが故意に見させたものではなかった。
目を覚まし、今まで以上に幸せな日々を過ごしている自分たち。
そんな夢を、意識がなくなっていながらも、妹紅たちは見ていたのだ。
そして―――主に愛される夢を見ていた妖夢が、その重い体を起こす。
隣では、最愛の主人が眼を閉じて、眠っていた。
「幽々子様……………全て、終わらせますね。」
近くに置いてあった愛刀を手にし、幽々子の顔を最期に見届けようとした時である。
とある人物が、妖夢の側に立っているのに気づく。
「あ、あなたは?」
「さぁ……………宴がはじまるわよ。」
そして 月が 空に 浮かぶ
皆様、お待たせいたしました
いよいよ、――主催の狂宴が始まります。
今回の宴の主役、蓬莱山輝夜の末路
ご堪能あれ
(ここから愚………後書き)
6で終わらせるつもりだが、オチに自信がない……
ここまでで真犯人が分かった人はいるのだろうか
上海専用便器
作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/09/09 14:58:34
更新日時:
2010/09/09 23:58:34
分類
宴の準備は整った―――
謎が謎ばっか呼んでる雰囲気
しかし一番の謎はこっからどうやって輝夜の不幸に繋がるかだがな!
楽しみだ
6で終わりだと!?
もう少し続いて欲しかった…
犯人の目的が分かれば、或いは…。
妖夢を武装解除せずに重要人物たちと同室させたということは…!!
さあ、幻想郷のピエロの皆さん、明日はRock'n Rollだ!!
輝夜の魂のシャウトを楽しみにしています。
と思っていた矢先にまさかのこの展開!
輝夜の末路……ってことは、犯人は輝夜になんらかの悪意を持つ者?
でもこの話の輝夜は恨みを買うタイプには見えない。
かといって、幻想郷において重要なポジションにいるわけでもない輝夜が
狙われる理由は他には思い浮かばない。
うーん、わからないことだらけで次回が楽しみだ!!