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『他人の死』 作者: 名前がありません号
欲しいものほど手に入らないというのは、中々もどかしいものである。
一方で手に入ると、妙な喪失感を感じるから不思議なものだ。
そう私――レミリアは思う。だからこそ、欲しいものを安易に運命に求めはしないのだが。
私にとって、霊夢はどういう存在かと言われれば。
愛すべき他人。そう、他人。
霊夢と私は結ばれない。そもそも、霊夢は誰とも結ばれない。
霊夢が霊夢で無くなった時、初めて霊夢は誰かと結ばれる。
しかしそれは霊夢なのか、と問われれば、それはもう霊夢ではないだろう。
抜け殻を愛する趣味は私には無かった。
それでも抜け殻でも愛したいと思う奴はいる。
霧雨魔理沙がそうだろう。アレはずっと霊夢の抜け殻を抱いている。
無駄な行為だ。返って来ない愛情ほど滑稽なものはない。
今日、霊夢は亡くなった。
正確には私が、亡くした。
地面と私の身体には、濃い血の臭いと、苦い鉄の味を感じていた。
空を見上げると、雲が出ている。
雨はまだ降りそうに無い。
いっそ私ごと雨で洗い流してしまえばいいのに、と不覚にもそう願っている自分がいた。
数ヶ月前にさかのぼる。
紅魔館に魔理沙と一緒に霊夢がやってきた。
互いに腕を組んでいる姿は、少し気味が悪い。
このところの霊夢はどうもおかしい。
妙に人に媚びるようになった。
いつも誰かと一緒にいる姿ばかり見かける。
それがとてもとても、憎らしかった。
その時までは、何故そう思ったのかは理解できなかった。
博麗神社に遊びに行くと、霊夢はいなかった。
代わりにあの鬼と八雲紫が何か話している。
こちらに気付くと、二人とも何処かへと消えていった。
私に聞かれると不味い話らしい。おいてけぼりにされるのは実に不愉快だ。
もっとも内容は何となく察する事は出来る。
あの二人が神社で話す事など想像が付く。
博麗霊夢の事なのは明らかだった。
霊夢を探して、人里に向かう。
今のアイツが行きそうなところは、人の多いところのはずだ。
アイツの身に何があったかも、既に想像が付いている。
何故、博麗霊夢が神社にいないのか。
もうずっと戻ってきていない事は、神社に張り付かせた使い魔で確認済みだ。
そして見つけた。
東風谷早苗と共に、信仰を集める手伝いなどしている。
その顔には笑顔が張り付いている。
気持ち悪い笑顔。胸を掻き毟りたくなるような強い殺意を覚えてくる。
これ以上ここにいると、どうにかなりそうだった。
私は紅魔館へと戻ることにした。
眠れない。
霊夢のあの顔が焼きついて、離れない。
眠る必要など無いが、気分は気だるい。
咲夜が私を気遣ってくれた。
その気遣いが嬉しい一方で、しばらくは一人になりたかった。
そうして私は部屋にこもり続けていると、
フランドールが、「あんたが篭ってどうすんのさ」と突っ込まれる。
こう言われてしまうと、真剣に悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。
フランドールに連れられ、図書館に向かうと、パチュリーが待っていた。
その顔には笑顔が張り付いている。
謀ったな、妹ぉ!
私がそう叫ぶ間も無く、私は結界に囚われ、触手に嬲られるハメになった。
中々刺激的だった。いっそ、霊夢の記憶もすっ飛ばしてくれれば、なお良かったのだが。
パチュリーは霧雨魔理沙が嫌いだ。
それは本を盗むからだ。
私も霧雨魔理沙を嫌いになりそうだ。
こいつは何処まで空気が読めないんだ?
そう思うほどだった。
魔理沙は私が元気が無いと聞いて、霊夢をつれてきた。
にやにやする魔理沙とは裏腹に、霊夢からは怯えを感じる。
ああ、やっぱりと私は確信する。
私は霊夢の調子が悪いようだから、今日は帰りなさいと、魔理沙と一緒に帰っていただく事にした。
もう無理だ。
耐えられない。
私は紅魔館を飛び立った。
空は雨が降りそうな黒い雲が覆っていたが、気にも留めなかった。
運がいいのか、悪いのか。これが運命なのか、偶然なのか。
それはもうどうでもいい気分だ。
目の前には獲物がいて、私は狩人だ。
それだけの話なのだ。
「痛い!いたいぃぃぃ!!」
叫ぶ女。胸元から覗く白い肌は切り刻まれ無残な姿を晒している。
赤い巫女服はさらに赤みを増し、白い部分も真っ赤に染め上げる。
「いやぁ! やめて、やめてよ! 私が何をしたっていうのよ!」
虚勢を張る女。顔を恐怖に染めている。
かつての面影は欠片も残っていない。
目の前の女は、ただの餌だ。
「残念だよ」
「……何がよぉ」
「力が無くなっただけで、こんな風になってしまうなんて」
「う、る、さい……ッ! 私だって好きでこんな事してたわけじゃ……!」
「あっそ」
ひゅん
ばっさりと首を爪で引き裂くと、噴水のように血液が噴き出る。
地面を染める赤い血を見ても、私はちっとも食欲をそそられなかった。
それどころか、その赤い血が何故かとても醜く見えた。
そして霊夢は亡くなった。
霧雨魔理沙が来たのはそんな時だった。
霊夢だったモノを抱きしめる様はやはり滑稽だ。
そして私の方を向き、怒りを露にする。
「お前……!」
「抜け殻を愛する趣味は無いんだよ」
「身勝手すぎるだろ! 霊夢だって、人並みの幸せぐらい……」
「お前が悪いんだよ」
「……え?」
「お前が、あんなのを私の前に見せに来たのが、いけなかったんだ。会わないように、してたのに」
理由はわからない。
ただ、霊夢が力を失っていた事だけは理解できた。
それからの霊夢はまるで人が変わったようだった。
その霊夢を見るたび、レミリアの中に殺意は芽生え始めていた。
だからこそ、ずっと紅魔館に篭り、霊夢と会わないようにしていたというのに。
「お前の、お前のせいで……!」
「そ、そんな事、私が知るわけないだろ!」
「……ふん、お前はそんな抜け殻でも満足できるんだろうな」
霊夢の亡骸を抱きながら、魔理沙はレミリアと向き合う。
そんな姿にレミリアは嫌悪の視線を送る。
しばらくすると、レミリアは霊夢の亡骸に近寄ると、自らの手首を切り裂く。
魔理沙は何をするかを理解して、止めようとするが、魔眼によって静止される。
ぽた、ぽたと落ちる赤い雫が霊夢の口へと注がれる。
しばらくすると、霊夢の身体が活動を始める。
酷く冷たい身体は、霊夢の変異を容易に理解させる。
「抜け殻でも愛せるんだろ? なら、そんなんでも愛しているがいいさ。くれてやるよ、そんな奴」
「レミリアぁ!」
「いいのか? もうすぐ雨が降る。雨が降ったら、灰になってしまうよ?」
「……くっ!」
魔理沙はレミリアを倒す事よりも、霊夢の事を優先した。
箒に霊夢を乗せると、魔理沙は自らの家まで飛び立っていった。
「………雨が恋しいのは最初で最後だなぁ……」
そう、レミリアは呟いた。
実際問題、霊夢がこうなるという想像は余り出来ないけど、
巫女の力を失っても、霊夢は霊夢のままなんだろうか。
どうにも、恋愛感情レベルまで発展するように思えないなぁ。幻想郷の面々は。
意味不明でごめんよ。
名前がありません号
- 作品情報
- 作品集:
- 20
- 投稿日時:
- 2010/09/15 19:21:52
- 更新日時:
- 2010/09/16 04:21:52
- 分類
- レミリア
- 霊夢
- 魔理沙
ひしひしと伝わってきました。
触手は気分転換に最高、と。
雨は全てを洗い流す他に、吸血鬼にとっては早々に立ち去る体のいい口実にもなる効果がある。
そして力なくして卑屈な霊夢をじっくりみてみてえw
無理して装っていたものなのかなあと思った。
紫たちは霊夢をどうするつもりだったのかわからないけど、
もしかしたらやっと重圧から解放されて
幸せになれるところだったかもしれない。
恋をして初めて弾幕乙女を止めて、ただの乙女になるのかもしれない。
魔女は恋をしたら魔法が使えなくなるとか、よくある話だし。
おぜうは思い人に理想を押し付けすぎるタイプだったんだな。
って情動は実に妖怪的でしっくりくる