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『退屈な日常』 作者: 上海専用便器
私、比那名居天子は今、八雲紫の屋敷にいる。
紫が愛しているらしい博麗霊夢の住処である博麗神社を潰し、「美しく残酷にこの大地から往ね!」と言われた私がどうしてこの場所にいるかって?
「天子、藍の服はどうかしら?」
「…………寒そうにしているじゃない、可哀想よ。」
紫は自分の式神の服を手にし、それを私に着させようとしている。その背後には、布で胸やま………まん……こ………を隠して、顔を赤らめている、紫の式神こと八雲藍がこちらを見ていた。
しかし、紫はそんな自分の式神に目も暮れず、私の服を脱がし始めた。
「はい、さっさと脱ぎましょう?」
「意味が分からないわ。」
何十回と振り払ってきた紫の手を今日もまた振り払うと、その場で立ち上がり、服を整え、紫に背を向けた。スキマの力で連れ去られるのは構わないが、こんなくだらないお遊びに付き合うのは懲り懲りだ。この前は、霊夢の巫女服や魔理沙の白黒服を持ってきたし、レミリアの幼児服や咲夜のメイド服も持ってきた。どの服も着せられたことはないが、やめさせる気力も無くなってきた。
「あのねぇ、こんな退屈なお遊びに付き合う暇はないのよ。じゃあね。」
「ちょっと、天子………」
「ばいばい。」
少しだけ、紫の方に顔を向けながら、私は別れの言葉を突きつけて、そのまま紫の屋敷から出て行った。
「………藍〜」
「……紫様。今日という今日は、一言言わせてもらいます。」
「ら、藍?」
その直後、紫の情けない声と藍の重みを感じる言葉が聞こえてきたが、私は気にせず、振り返ることもせずに外へと出て行った。
退屈だ。
世の中には、退屈なものしかない。
私はいつから、こんなことを思うようになったのだろうか。生まれたときからなのか、衣玖と一緒にいるようになったときからなのか、一人ぼっちだと気づいたときからなのか、霊夢たちと戦ったときからなのか、紫に打ちのめされたときからなのか。霊夢たちの宴会に参加させてもらった時からなのか、一人じゃないと気づかされた時からなのか、紫のくだらないお遊びに付き合わされるようになってからなのか。
何の目的もなく、人間たちや慧音、妹紅が住む人里へと来ていた私は、歩きながらそんなことを考えていた。
「あーあ、異変でも起こってくれないかしら。」
なるべく、誰にも聞こえないように、けれど呟きではない大きさの声でそう言った。行き交う人々は、私には目もくれない。それはそれで、誰も私の見た目に魅了されてないのだと感じてしまって、癪だった。紫や衣玖ほどの美人である自信はなかったが、私は霊夢や魔理沙ぐらい可愛いと断言できる自信はあった。
「でもやっぱり、体………なのかしら。」
魔理沙や小鬼の萃香のように小さな胸を見て、私はため息をついた。紫や衣玖のように胸が大きい女は、人里で一緒に歩いていたときに実際に見ていたのだが、男共が紫や衣玖を見ていたのだ。どうして、紫と衣玖と一緒に人里の中を歩く羽目になったのかは思い出したくない。
ここまで頭を動かして、私はあることに気づいた。
「………平和ボケ、してるのね。」
退屈だと思うようになった原因は、これなのではないか。異変を起こしている時は、何時敵が襲ってくるか、相手はどれほどの強さなのかと心の中で怯えることが好きだった。本気の紫と対峙したときは体が震えた。けれど、その震えが私に快感を与えてくれた。卑猥な言い方に聞こえるが、真剣にそう思っている。
私が退屈だと感じてしまうのは、日常の中で暮らしているからだ。
ならば、非日常の中で生きればいいんだ!!
「よーし、それならちょっとした異変でも………」
どんな異変でも起こしてやろうか。でも、霊夢たちのお陰で寂しいと感じることがなくなった。その恩もあるし、霊夢たちを怒らせたり、悲しませたりするわけにはいかない。となると、あのときの異変に関わっていない妖怪のところにでも行くべきなのか。私は、知る限りの勢力を思い出す。射命丸という烏天狗の言葉を頭から引っ張り出して、退屈しのぎになる相手は誰になるかを考えていた。
だが、あまりにも考えに耽るあまり、私は前が見えていなかった。そのために、前から歩いてきた女とぶつかってしまう。
「きゃっ!」
「いたっ。ちょっと、気をつけなさい。」
「は、はい………ごめんなさ………痛いっ!」
「ど、どうしたの?」
目の前で座り込んでいる女は、立ち上がろうとしたが、すぐに地面に尻餅をついてしまった。一体、この女の身に何があったのだろうか。人間は妖怪や天人より脆い、と言われているがこれほどまでに脆いのか。それとも、私の体とぶつかった時の衝撃がそれほどまでに………いや、それはない。私は、か弱い女の子で誰かに守られないと生きていけないの。
冗談はさておいて、私は女の手を引いてあげようとする。その時にやっと、私は女が足を痛めていることに気づいた。どうやら、足を挫いたらしい。
「仕方ないわね………どこに行くつもり?」
「え?」
私からの言葉に驚いていることは気にせず、女の体を持ち上げようとする。
「おんぶでも抱っこでもしてやるわよ。霊夢や紫に怒られたら、大変だしね。」
「霊夢さんに紫さん?」
「ほら、早く言いなさい。」
「あ、はい。私の家までお願いします。場所は―――」
霊夢と紫のことをなぜ知っているかは気になったが、私はその女をおんぶして、言われた場所まで運んでやった。その時になって初めて、私は人間たちからの視線を感じ始めた。確かに注目されたいとは思ったが、それは見た目の話であり、こういう意味で目立ちたくはなかった。
とはいえ、こちらに非がある可能性もあったので、私は不満不平を一切言わずにこの女を自宅まで運んでやった。
思ったよりも近くにあり、数分で着いた。
「ありがとうございます。それでは、ここで………」
「歩けないでしょ?」
「は、はい?」
女は私の背中から降りようとしたが、引き留める。まだ数分しか経ってないのに、挫いた足は歩けるまでに治っているのだろうか。この女は、私や紫と違って謙虚なのだろう。地面に倒れてしまっては困るので、家の中にまで連れて行こうと思った。降りようとするのをやめたのを見ると、私は靴を脱いで、玄関に上った。女も靴を脱ぐと、その靴を私は綺麗に並べた。その様子を見たからなのか、女は「ありがとうございます」と言い、軽くお辞儀をする。そして、言われるがままに、廊下を進み、障子を開けた。
そこは、たくさんの巻物が棚の中に置かれており、机の上には筆や紙、墨が見えた。おそらく、この女は司書の仕事でもしているのだろう。私はそう思うと、部屋の中で十分空間がある場所で屈み、女を下ろしてやった。
「本当にありがとうございます。私の不注意というのに………」
「いいのよ。ちょうど退屈だったから。」
「退屈…………?」
「ああ、気にしないで。私個人の話だから。じゃあね。」
私はそう言い残し、紫に背を向けたように、この女にも背を向けた。ああ、退屈だ。人助けをしても、そう思ってしまう自分を見ても、やはり退屈としか思わない。一体、どうすればいいのだろうか。
そんなとき、背後から声が聞こえてきた。
「お時間があるのでしたら、お茶でも如何ですか?」
断る理由もなかったので、私はその申し出を受け入れた。
「で、その挫いた足でどうやってお茶を煎れるつもり?」
「え、えっと………」
再び立ち上がろうとして、また目の前で足を痛めている女を見て、ハァとため息をついてします。女は足を押さえながら、痛そうな顔をしていた。永琳に見せてやったほうがいいのかと考えるが、それはそれで退屈だと思ってしまい、私は行かなかった。というよりは、足を挫いただけである。永琳を呼ぶまでもないのではないかと考えたからだ。
「はぁ………あんた、中々の人ね。」
「そ、そうですか?」
「………もしかして、褒められてると思った?」
少し小さな声でそう言うと、女は突然顔を赤らめた。いろいろな人間や妖怪、吸血鬼、亡霊たちと出会ってきたが、ここまで変わった娘を見たのは、初めてだ。一人で歩いていても、この女は足を挫くだろう。私がそう思ってしまうのも、仕方が無かった。
「どうするのよ?」
「で、でもお礼はしないと………」
「お茶を飲みたいなら、私が用意してあげるわ。いくら私がお嬢様でお姫様でも、家事はできないとね。」
私は胸を張って、鼻を高くし、自信に満ちあふれた目をしながら、そう言った。
「くしゅんっ!」
「お嬢様、風邪ですか?」
「違うわ………くしゃみが出ただけよ。」
「へっくし」
「幽々子様!?さ、さぁ早くお布団に!!」
「だ、大丈夫よ。これぐらいで、風邪になるわけないわ。」
「へっくしょん!」
「あら、輝夜。また風邪?」
「うう〜………醜いくしゃみだわ………」
「へくじっ!」
「私がお話をしているというのにくしゃみとはどういうことですか!?」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない………しかも………ら、藍?それは………」
その時、数人の女が一斉にくしゃみをしたらしいが私には知る由もなかった。
「そんなことをさせるわけにはいきません!私の足が治った際には、必ず貴方をお誘いします。」
女は強くそう言ってきたので、私は少し驚いた。さきほどから、か弱そうな声しか出していなかったので、こんな声を出してくるのは意外だった。それはともかく、女の提案を聞くと私はフッと笑ってしまった。
「ふふ、私は天人よ?探し出せるのかしら。」
見た目からも感じからも、この女は人間に間違いない。しかも、病弱である可能性も高い。そんな女が、天界に住む、『成り上がり』の探し出せる天人を探し出すことができるのだろうか。そうだというのに、目の前の女の目はなぜか、自信に満ちあふれていた。
「ともかく、今日はこれで帰るわね。それじゃあ、楽しみにしているわよ。」
「あ………分かりました。それでは、また後日に………『比那名居天子』さん。」
私はそれだけを言うと、紫の屋敷から出たようにこの女の屋敷からも外に出て行った。その時、女から名前を呼ばれたような気がしたが、それほど気にせずに部屋から出て行った。
天人の私を呼ぶことができる――その自信の根拠を知ることになるのは、数日後のことだった。
「衣玖ー、今日も退屈ね。」
「あっ、あぁ………そ、そうですか。ならば、どうしてぇ、私の胸を、ふぁぁ………」
自分の部屋に衣玖を呼び出し、膝枕をしてもらいながら、衣玖の胸を揉んでいた。衣玖は喘ぎ声を漏らしながら、不満そうな顔をせずに、私に為すがままにされている。これも全て、私の我が儘に付き合ってくれている証拠だった。とはいえ、正直衣玖ばかりに私の退屈しのぎの相手をさせるのも気が引けてきた。衣玖にだって、男の人と結ばれたいという願望があるはずだ。私にばかり構ってないで、誰かと結婚してくれたっていいというのに。衣玖が選んだ殿方なら、私も好きになれるはずなのだ。
そんなことを思いながら、衣玖との時間を過ごしていくうちに私は嫌な予感を感じる。
「あー………衣玖、またアイツよ。」
「だ、だめですっ!も、もう………い、イキますっ……やぁ、あぁぁぁ………んぅ……」
「衣玖?」
私は胸から手を離しているというのに、衣玖は自らの手で自分の胸を揉み始めたのだ。どうやら、スイッチが入ってしまったらしい。さらに、恥部にまで手を伸すと、私の耳にクチャクチャと卑猥な音が聞こえてきた。
衣玖が自慰をし始めると、頭の中が真っ白になるのだ。そのため、私が何回も声をかけても、反応してくれなくなる。それだけでなく、かつて衣玖が男たちに襲われたとき、突然オナニーをし始めて、それをやめさせようとした男たちが衣玖に電気を浴びせられて、壊滅した例もある。ともかく、自慰をしている衣玖は危険なのだ。オナニー衣玖さんは、幻想郷でも最強という噂が立っているほどである
「あちゃー……ちょっとやり過ぎたかな。」
そう呟いたとき、私の足下にポッカリとスキマが開いていた。それと同時に、憎たらしい声が聞こえてきた。毎日、私を無理矢理拉致監禁してきた女の声だ。
「天子様、今日は私ではないですよ?」
「………はぁ。」
ため息だけをつくと、変な敬語を使う紫のスキマの中へと消え去っていった。
「衣玖ーーーー!目を覚ましなさいよーーーーーー!!」
スキマの中に入りきり前に、私は大声で衣玖にそう呼びかけた。
気がつくと、そこは見覚えのある場所だった。だが、来慣れた場所ではない。ここは一体、どこだったのか。傍らには紫が立っており、扇子でその気持ち悪い口元を隠していた。だけど、一番気持ち悪い目を隠してはいなかった。
「気持ち悪いわよ。ここはどこなの。」
「き、気持ち悪いなんて酷いですね………」
思うだけでは物足りず、「気持ち悪い」と口にした。すると、紫の目がいきなり涙目になったが、どうせ演技だろうと私は無視した。そんなことをしていると、障子が開けられた。
そこから出てきたのは、数日前、私とぶつかって足を挫いた女だった。
「約束通り、お呼びしましたよ。とはいえ、強引な手段になってしまって、申し訳ありません。」
「あ、貴方………この馬鹿と何の関係が!?」
「ば、馬鹿?うっ………ううっ………」
紫の声が鼻声になっていた気がしたが、そんなことはどうでもよかった。今は、目の前の女が紫とどんな関係なのかを聞き出すことの方が重要だった。確かに、この女は人間だったはず。しかも、強さも一切感じ取れなかった。もしや、本当は紫並に強くて、霊夢も簡単に打ちのめすことができるのではないだろうか。例えば、どんな物でも切断してしまう能力だったり、時間を巻き戻す能力だったり。
私が、変な妄想をしていると、目の前の女は突然、自己紹介をし始めた。
「私の名は、稗田阿求です。幻想郷縁起の編纂者であり、私の前世が紫さんとご知り合いなのです。」
前世と紫が知り合いだから、というのは少し引っかかったが、幻想郷縁起のことは知っていたため、疑問には感じなかった。幻想郷の歴史などを記す資料の編纂者と幻想郷の管理者の仲が良くても何らおかしくないことぐらい、私にも分かる。しかし、まさか紫にスキマの能力を使わせるほどに仲が良いとは思ってもいなかった。
阿求は、急須と湯飲みが二つ乗ったお盆をその手に持っていた。
「お茶?」
「覚えてくれていましたか………よかった。」
湯気が上がっている急須、そして見た目で高価な物と分かる湯飲みを机に置くと、阿求はその場に正座する。私もそれにつられて、阿求の近くで正座してしまった。
「私………どうしたら………」
紫がまた気持ち悪くて、意味不明なことを呟いているなと思ったら、なぜかお茶を貰うこともせずに、スキマの中に消え去ってしまった。しかし、私も阿求も紫のことには何も触れずに、阿求が急須で煎じ出してくれたお茶を口にする。
何て美味しいのだろう。
霊夢のところや紫のところで、様々なお茶を飲んできたが、これほどまでに美味しいお茶を飲んだことなんてなかった。お茶など、ただの挨拶代わりに使う道具だと思っていた自分が恥ずかしい。こんなに味わい深いものだったとは。
「お気に召しましたか?」
私はこの感動を、言葉で表現することができず、ただ首を縦に振ることしかできなかった。とはいえ、何も言わないというのも羽の空気が悪くなってしまう。
「あ、ありがとう………その、初めてだわ。こんなに美味しいお茶なんて。」
「そ、そんな………私はただ茶葉を用意して、湯をさしただけで………」
阿求はまた顔を赤らめながら、俯いてしまった。数日前もそうだったが、どうやら阿求は恥ずかしがり屋のようだ。それでいて、天然。なかなか面白そうな女である。衣玖とは違い、弄りがいがあるかもしれない。とはいえ、お茶を頂いて恩も返さないほど、私は愚かな女ではない。何かお礼をしなければ。何をもって阿求に感謝の意を伝えるべきかを考えようとしたとき、私はふと気になったことがあった。
普段、阿求は何をしているのだろうか。退屈なのを少しだけ凌げた私は、この阿求は一体どういう生活を送っているのかが気になった。なぜ気になったのか、理由は分からなかったが。
「阿求は、いつも何してるの?」
「私ですか?家にいる時は、幻想郷縁起の編纂をしています。」
「家にいない時は?」
私はそう尋ねて、さらにお茶を口にした。阿求は少しだけ考え込むと、私の問いかけに答えてくれた。
「家にいない時、というのは大抵誰かに呼ばれた時ですね。里長様や慧音さん、紫さんに霊夢さんなど………」
なるほど、あんなに天然なのに外に出て怪我をするのは、紫のせいなのか。私はそう納得し、阿求に少しだけ同情した。紫のお遊びに付き合わされる不幸な女性が、こんなところにもいるなんて。全く、紫という女は何を考えているのか。もう少し、私たちみたいにか弱い女の子のことを考えて欲しい。
それからというもの、私は阿求とくだらない話題でおしゃべりをした。女性の外見のことを話すと、意外にも阿求は乗ってきてくれた。胸の大きい小さいは、結婚という話になるとそれほど関係はない。私が阿求と意気投合するのに、時間はそうかからなかった。こんなに近くに、私と同じ考えを持つ女性がいてくれるなんて思ってもいなかった。
阿求との時間は思ったよりも楽しかったが、日も沈みかけてきた。これほどまでに、退屈でかった一日は生まれて初めてだったかもしれない。とはいえ、さらに長く阿求の家にいると迷惑がかかるだろう。私はその場で立ち上がると、阿求と別れの挨拶を交わす。
「ありがとう、阿求。楽しかったわ。そろそろ帰るわね?」
「こちらこそ、本当に楽しかったです。」
そう告げて、私は玄関まで向かおうとすると阿求が見送りに来てくれた。そんな阿求に微笑みながら手を一度振ると、私は玄関から外へと出て行った。
その日から、私は阿求の家へと通うようになった。私が屋敷へと行くとき、阿求はいつもいつも幻想郷縁起の編纂をするために机に向かっていた。私は出来る限り邪魔をしないように、阿求とおしゃべりをする。霊夢とは違って、どれだけ話をしても、阿求は嫌な顔をしない。どんな話題にも、阿求は乗ってくれた。しかも、話も面白い。『一度見聞きしたものを忘れない能力』の持ち主と聞いたが、それを活かしているからなのだろうか。こんなに私と楽しく会話のできる人物なんて、全くと言っていいほど、いなかった。
「ねぇ、阿求。」
「はい。」
「女に必要なものは何?」
「そうですね…………中身、だと思います。」
「貴方、最高だわ。」
「へ?」
阿求のこの言葉のお陰で、私たちは意気投合できた。紫のように胸が大きいだけでは、女として立派にはなれない。やはり、阿求の言っている通り、女は中身で勝負なのだ。大きな胸ばかり見せつけても、結局最後に物言うのは、中身なのだ。
このように、阿求と私はどこか通じ合うところがあるらしい。だから、私は数ヶ月もの間、阿求の元に通い続けた。しかし、私が阿求の家に通っていることに疑問を抱く人もいるかもしれない。
恒常的だった、紫からの邪魔はどうなったのか。
それは私にも分からない。分かることは、阿求の家に通い始めて数日経ってから、紫が私の屋敷に現れることが無くなったことだけ。ちょっと心配になって、紫に病気がかかってないかを霊夢に尋ねた。すると、予想だにしない回答が帰ってきた。
「紫は今、藍に家事をさせられているわ。何でも、他人の服を奪い続けた罰ですって。」
自分も奪われたことのあるはずの霊夢は、特別気にしている様子でもなく、そう言ってきた。やっと私の時代が来た。紫よりも、私の方が上に立てる日が来るなんて。でも、少しだけ不安だった。もしかしたら、紫は藍に拷問でもされているのではないだろうか。鞭で打たれたり、針で刺されたり。
「まぁ、いっか。いつものことだし。」
何がいつものことなのか、全然分かっていなかったが、私は今日も阿求の家へと向かった。
阿求はやはり、いつものように机に向かっている。私が声をかけるまで、ずっと筆を進めていた。
「阿求。」
「あ、天子さん。」
「今日も退屈だから、来ちゃった。」
私が阿求の傍らに腰を下ろすと、阿求は筆を置き、私の方へと体を向けた。何度見ても飽きが来ない、笑顔を見せながら。今日は何の話題を持ち込もうかをしっかりと考えている。私はその話題を口にしようとする前に、阿求が私に話しかけてきた。
「天子さん、毎日が『退屈』ですか?」
「え?」
「『退屈』だと思っていますか?」
阿求にしては、変なことを聞いてくる。でも、何か深い意味があるから、私にこんなことを尋ねてきたのだろう。私は阿求からの質問を深読みせず、正直に答えた。
「ええ、退屈だと思ってるわ。」
何のひねりも無い、私が今まさに思っていることを、阿求にそのまま伝えた。阿求は私の言葉を聞くと、何かを考え込む。今日の阿求は一体どうしたというのだろうか。変わったことを聞いてきたと思えば、その言葉のことで何かを考えているような態度を取る。
部屋の中が沈黙に包まれた。私も阿求も、何も語らない。障子は開いており、縁側から庭や青空が見える。だが、風の音も虫の鳴き声も聞こえてこない。
しかし、数秒後、その沈黙は唐突に破られた
「天子さん。」
私の名前を呼ぶ、阿求の声。その声を聞いて、「何?」とだけ言った。阿求は真剣な表情で、こう言ってきた。
「『退屈』と思えるなんて、とても幸せですよ。」
「………どういうこと?」
言葉の意味が分からなかった。退屈であることが、『幸せ』だなんて、阿求は何を言っているのだろうか。人間と天人の価値観の違いなのだろうか、それとも阿求が変わっているのだろうか。疑問に思っていると、阿求は言葉を続ける。
「私は、他の人たちと比べて寿命が短いです。だから、『退屈』なんて思えることが羨ましいです。」
「え…………ど、どういうこと!?」
「私は30歳も生きることはできません。せいぜい、残り5年ぐらいの命でしょう。」
「嘘…………嘘、でしょ?」
人間の寿命が短いのは知っていた。だから、阿求との日々も、いつか幻になると覚悟していた。でも、でも5年しか一緒にいられないなんて。出会ってからまだそれほど時間は経ってないが、私は阿求が好きになっていた。阿求のお陰で、私は退屈でなくなった。せめて、あと50年は一緒にいたい。なのに、どうして………
「私が死んだら、いずれ転生することになるでしょう。でも、それだけでは生の証が残せないのです。何か、目に見える形で私が存在していたことを残しておきたいのです。だから、私には『退屈』と思える暇がないんですよ。」
ただの自己満足ですけどね、と阿求は言った。
「天子さん、『退屈』と思える自分をもっと誇りにもって下さい。」
「阿求………でも………でも、阿求と一緒にいるのは本当に楽しくて………」
「………ふふ、ありがとうございます。」
私がそう言うと、阿求は私の頭を撫でてきた。小さな手だったが、温かった。衣玖や紫の手にはない、温かさがあった。
「………そうだ、もう少しで忘れるところでした。」
阿求の口元が、不意に緩んだ。阿求とはほぼ毎日会ってはいるが、こんな阿求は一度も見たことが無かった。不気味さが漂っている。おしとやかで優しそうな阿求のイメージに全然そぐわない表情だった。
「阿求?」
「天子さん、あなたと出会ってから私も楽しい時を過ごせました。あなたに出会えて、本当に良かったと思っています。」
阿求はフッと笑い、こう告げてきた。
「お礼として、『退屈』にならないための道具をあなたにご用意致しました。」
その言葉が合図だったのだろうか。阿求の言葉が聞こえてくるのと同時に、私と阿求のいる部屋にスキマが開かれた。
中から出てきたのは、紫の式神の八雲藍と――――首に繋がれた鎖を引っ張られて、顔のあちらこちらに痣が出来ている紫だった。
一体、何が起こっているというのか。私の目の前で、何が起こっているのか。これは冗談のようには思えない。冗談でも、紫はこんなことをさせないはずだ。
「紫っ!?あ、あんた、紫に一体何を!?」
頭では名にも理解できていなかったが、紫を奴隷のように扱っている藍に大声でそう言った。藍は、紫をまるで汚物を見るような目で見下していたのだが、私の方を向くとその目は優しさに満ちあふれるものとなった。逆にそれが、怖かった。
「天子、いつもいつもこの雌が迷惑をかけたようで済まない。」
雌、それは家畜や家畜同等の女に対して放つ言葉だったはず。それを、紫の式神であるはずの藍が、自分の主たる紫に言ったのだ。何かがおかしい。藍に一体、何があったというのか。いや、問題なのはそこだけではなかった。
紫と藍の主従逆転。まさか阿求が仕組んだものだというのか?
「天子さん、いくつか聞きたいことがありますよね?」
「っ!!あんた………信じてたのに!!」
何事もなかったかのように平然としている阿求に声をかけられた私は、憎しみを抱くが悲しかった。阿求とは本当にいい友人になれると思っていた。阿求は、善人だと信じ切っていた。それは、全て罠だったのだ。
紫が私の元に来なくなった時に、もっと紫の身を心配していれば。心配していれば、紫を助けてあげられたかもしれない。阿求と出会ってしまったことを後悔していると、阿求の声が聞こえてきた。
「天子さん、これはお礼ですよ。あなたには本当に感謝しています。」
「黙りなさい!!」
私は緋想の剣を構え、藍から紫を助け出そうとする。しかし、阿求が間に割って入ってきた。阿求に騙されていたというのに、私はこの女を殺すことを躊躇してしまった。剣を奪われると思っていたが、不思議なことに、藍も阿求も私には一切攻撃を仕掛けてこない。
「あなたと出会ってから、毎日が楽しくなった。あなたとおしゃべりする時間が、本当に楽しかった。」
「黙りなさい……!」
「だから、お礼をしたいと思ったのです。ちょうどその時、あなたが紫さんのことを疎ましく思っている、と藍さんから聞いて。」
違う。私は紫のことを疎ましく思ってなんかいない。そう思っていると、藍が話しかけてきた。
「それに、私としても、幻想郷の管理者としての仕事を放棄している、この雌豚をどうにかしたくてな。こいつの我儘のせいで、私や橙、幽々子様や妖夢が死んで貰っては困る……………幽々子様の場合は、消滅か。」
そういえば、私が阿求の家にほぼ毎日通っていたかのように、紫も私の屋敷にほぼ毎日通っていた。幻想郷の管理者として活動をしているようには、全く見えなかった。藍の言い分にも一理あるようには思える。
「でも………でも、自分の主人でしょ!?どうして、こんなことするの!!」
「…………いい加減、うんざりなんだよ。」
「藍……?」
「退屈しのぎのために、自分勝手に行動されるのにはもう耐えられない。長い付き合いだったが、もううんざりだ。」
「あぁ、紫さんを殺したりはしませんよ?紫さんが生きていれば、幻想郷は何とか維持できますから。」
霊夢さんがいれば大丈夫ですもの、と阿求は言った。
だけど、私の頭は紫のことで一杯だった。目の前の紫は、目を瞑ったまま、その場で倒れ込んでいる。まるで、野犬が路上で寝ているかのように。いや、今の紫は本当に雌犬と化しているかもしれない。紫が私の屋敷に現れなくなってから、数ヶ月が経っているのだ。その間、紫は一体何をされてきたのだろうか。
それを想像していくうちに、私の頬に温かいものが伝わってきた。
「ごめんね………ごめんね、紫…………」
私は、藍に囚われている紫に抱きつき、泣きながら謝った。涙を流して、ただひたすらに、ごめんね、と伝えた。その時、紫の瞼が少しずつ開き始めた。
「ん…………だ、れ………?」
「ゆ、紫!!目を覚ましたのね!!」
紫が目を覚ました。私が抱きついたお陰か、声をかけたお陰なのかはどうでもいい。今は、紫を何とかして助けなければ。私はそう思い、紫に慰めの言葉をかけようとする。だが、紫は私の顔を見た瞬間に突然、悲鳴をあげたのだ。
「きゃああああああああっっ!こ、来ないでぇぇぇ!こっちに来ないでええぇぇぇぇぇ!!」
「きゃっ!!ゆ、紫……?」
紫らしくない悲鳴をあげた紫は私を突き飛ばすと、藍の足に抱きついた。その様子を見ていると、紫は本気で怯えている。しかも、怯えているのは藍や阿求ではなく、この私だった。
「助けてっ、助けてくださいっ!!」
「黙れ!!」
「うぎぃっ!?」
助けを求められた藍は、紫の顔を掴むと思い切り拳で殴った。鈍い音と女性の口から発せられるものではない悲鳴が、部屋に鳴り響いた。紫の鼻からは、血が流れている。九尾の狐に殴られたとあれば、いくら紫でもその痛みは想像を絶するものだ。
「お前という奴は………天子にまで、こんな態度を取るつもりか!!」
「あがっ!!おげぇっ!!ぶぐぅぅぅっ!!ご、ごめんなさい!ごめんなさい、藍様!!」
藍に殴られ続けていた紫が、「藍様」と言った。間違いなく、紫は藍のことを様付けで呼んだ。それを聞いた私は、完全に紫は藍と阿求の思うがままにされていると確信した。
「さぁ、お詫びに天子の足を舐めろ。」
「う、ううっ………怖い………です…………ぐすっ……ふぇぇぇぇぇぇぇぇん………」
藍に怯えているのか、それとも私に怯えているのか。よほど紫は怖がっているらしい。あの大妖怪が、あの大賢者が、あの八雲紫が、突然、私の目の前で泣き出したのだ。
「また殴られたいのか……?」
「ひぃっ!?な、舐めます!天子様の足を舐めさせていただきますっ!!」
藍が紫の髪の毛を掴んで、拳を見せつけると紫は体を震わしながら首を横に振った。すると、藍は紫を私の側に突き飛ばす。紫は床に転ぶと、涙を少し口に含みながら、私の足を舐め始めた。
「ぐすっ……怖いよぉ……………助けて………誰かぁ………………」
「まだ言うのか!?」
「かはぁっ!!ご……ごめんな、さい……!!何も、言っていません、何も言ってい、ませんからぁ!!」
「早くっ!しろとっ!言っているだろう!!」
「っ!!う、うぐぐぐっ…………お、おお…………」
「貴様………嘔吐するつもりか!!」
「ぐぐぐぐぐぐ……………はぁ、はぁ………だ、大丈夫です…………」
「そうか。ならば、まだ耐えられるな?」
「え………?うげぇぇっ!!んぐぅぅぅっ!!」
藍は何回も何回も紫の腹に蹴りを入れる。その様子を見ていると、藍は紫に暴力を振るうことを楽しんでいるようだった。それでも、紫は足を舐め続ける。嘔吐しそうになっているようにも見えた。顔色も悪くなっている。だが紫は、私の足を舐め続けた。
「どうです?これなら、いつでも『退屈』しのぎが出来ますよ?」
阿求が笑いながら、何かを言ってきた。だが、その言葉は耳に入っていない。足を舐められ続けていた私は、あることに気づいていたのだ。
藍に暴力を振るわれる紫―――これほどまでに、見ていて楽しいものだったとは
「助けて…………たすけてよ…………たすけてよぉ…………みんなぁ…………」
紫が誰に助けを求めている。その相手は、霊夢なのだろうか。でも、そんなことはどうでもいい。今は目の前の紫が、どれだけ苦しんでいくのか。それを見て楽しもうとすることしか、頭の中には無かった。
「藍。」
「ん、どうした?」
「ふふ、いつか私も混ざっていいかしら?」
私がそう言うと、阿求と藍の顔は喜びに満ち、紫の顔はさらに恐怖で引きつった。
「いい『退屈』しのぎになるわね。」
「………まったくだ。これからの私も『退屈』になるからな。」
家事を全て、この雌犬にやらせるつもりだと藍は言った。それはそれで、藍たちのこれからが心配である。紫は果たして、料理や洗濯をしっかりと出来るのだろうか。
「喜んでくれたみたいですね………よかったぁ。」
「ありがとね、阿求。」
安堵の息を漏らす阿求に感謝の意を告げると、私は足を舐め続ける紫をどうしてやろうか考え始めた。
「いや………いやぁっ……………お願いです、酷いことだけはしないでください…………」
紫は私の足を舐める早さを上げると、私に嘆願し始めた。私を敵と見なせるだけの余裕はあるということは、まだまだ藍や阿求たちは生ぬるいことしかしていないようだ。
これから紫がどうなっていくかが楽しみでならない。紫の今後を想像するだけで、私は『退屈』しのぎができていた。
「もう………ゆるしてください………藍様………藍様…………」
「ふむ……そろそろ疲れが出てきたな。声を出せなくなるかもしれない。」
「それなら、天子さんはお休みですね。」
「何よそれ。」
不満を言ったが、確かに紫の声は弱々しくなっている。紫の可愛い声を耳にすることも『退屈』しのぎとなるのだ。いや、それがなければ『退屈』しのぎとして成立しない。
仕方なく、私の出番は次の日まで持ち越されることになった。藍は紫を力ずくで引っ張ると、隙間を展開しその中へと消えていった。
「れいむぅ………てんしぃ…………ゆるしてよぉ………たすけてよぉ…………」
隙間が閉ざされる前、最後に聞こえてきたのは、紫の可愛い声だった。
後に残されたのは、私と阿求だけだった。部屋の中が、また無音に包まれる。だが、その沈黙は早くに破られた。
「天子さん、『退屈』だと感じることが幸せだという理由が分かりましたか?」
阿求がそう尋ねてきた。はじめは意味が分からなかったが、やっと私はその言葉の意味を理解する。
「………『退屈』しのぎでもっと幸せになれるから、なのね。」
私がそう言うと、阿求は、笑顔を見せてきた。氷のように冷たい、笑顔を。
「ねぇ、衣玖。」
「はぁぁ………な、何でしょうか?」
いつものように衣玖の胸を揉みながら、私は屋敷でのんびりとしていた。衣玖の喘ぎ声を聞くが、そろそろ聞き飽きてきた頃だ。だけど、そんなことはどうでもいい。今日から、『退屈』しのぎのための最高のお遊びができるようになるのだ。
「んぅぅぅぅうぅ!だ、だめですっ!!ま、また、イクゥゥ!!」
『退屈』しのぎのことを考えていたせいで、無意識のうちに、激しく胸を揉んでしまったらしい。スイッチが入り、オナニー衣玖さんが登場してしまった。クチュクチュと聞き慣れた音が、衣玖の股間から聞こえてくる。だけど、これくらいでは、もう『退屈』しのぎはできない。
そして、衣玖と私がいる部屋に隙間が展開された。
「天子、呼びに来たぞ。」
中から現れたのは、八雲藍だった。
「ええ、準備は出来ているわ。」
私は起き上がると、衣玖をベッドに押し倒して、藍と共に隙間の中へと消えていった。
今日は『退屈』しないで済みそうだ―――
- 作品情報
- 作品集:
- 20
- 投稿日時:
- 2010/09/18 11:17:14
- 更新日時:
- 2010/09/19 15:36:40
- 分類
- 天子
- 阿求
- 藍
- 紫
- 衣玖
ゆかりん、自業自得。
あっきゅんからの素敵なプレゼント。
てんこ、MからSに。
十分退屈しない人生だと思いますけどね…。
でも、紫がそんなになってしまったら、
いったい誰が『胡散臭い黒幕』の役をやればいいのでしょうか?
最初ほのぼのかと思ってまったり読んでたら以外と急展開だった
でも
面白いなぁ
彼女の振る舞いを見るに、藍はこういう態度をとるのが
当たり前だと思うんだ。
そして奴隷ゆかりんはうってかわって最高にかわいい!!
もっともっと見ていたいなあと思うのですwww
藍強すぎ泣けたww
天子が拷問する側というのは珍しくて面白かったです
しかしてんあきゅとは思いもよらない組み合わせからの展開だったぜ
ゆかりんが堕ちる過程も読みたかったなぁ・・・。
やはりあっきゅんも幻想郷の住人だったと
黒いあっきゅん怖いよー
ここが産廃だということを忘れていた
ゆかりん……