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『おたからさがし』 作者: 上海専用便器
みんな、それぞれたからものを持っている。だから、みんな楽しく、互いに笑いながら、生きていくことができる。
私のたからもの?
えへへ………すっごく汚いけど、これが私のたからものだよ?
お姉ちゃんやお空、お燐たちにも見せてあげようとしたけど、3人とも見てくれないの。
どうやったら、見てくれるようになるのか分からないの。
私のたからものが、汚いからかな?
でも、綺麗にしようとしたら、ちょっと壊れちゃったの。
だから、このままで私の部屋に置いておくの。
せっかく見つけた、大事なたからものなんだから。
もう、私のたからものを壊したくないもん――――
暇だから、神社に行ったときのことだった。
「霊夢、今日は一段と可愛いわね。」
「お茶なら用意してあるから早く飲みなさい。」
「そんなのより、早く飲もうよ〜」
巫女やよくわからない紫色の女、小さな鬼が楽しそうにしていた。お茶を飲んだりしているだけなのに、どうしてあんなに楽しそうなんだろう。
「ふふ、今日も平和ね。」
「そうね、あんたたちさえいなければ。」
「またまた〜夜は寂しいんだろ〜?」
「そ、そんなわけないでしょ。」
「あら、私にはお見通しよ。」
「紫っ!」
「紫と一緒に寝てるのか………駆け抜けはずるいよ。」
「寝てないわよ!」
私は考えた。お茶を飲むだけで楽しめるようになるには、どうしたらいいのか。簡単なことだ。おいしいお茶を飲めばいいだけ。そう気づいた私は、早速家に帰った。
お姉ちゃんにお願いして、一番美味しいお茶を持ってきてもらった。お姉ちゃんが汲んでくれた、そのお茶を一人で飲んでみた。本当に美味しかった。けど、楽しくない。どうしてなんだろう、美味しいだけじゃダメなのかな?私はまた考えたけど、結局巫女たちが楽しそうにしている理由は分からなかった。ベッドの上で、天井を見つめていた。何も変わらないし、全然楽しくない。
明日はどこに行けば楽しむことができるかを考えながら、その日の残りは家の中を歩き回った。大広間に来たとき、お空がお姉ちゃんと何かを話していた。何だろうと思って私は二人に気づかれないようにしながら、話を聞いてみた。
「さとりさまー、凄く綺麗な石を見つけましたよー」
「あら………これは宝石ね。」
「ほうせき?ほうせきって、何ですか?」
「ふふ、お空。それは大事なたからものよ。ちゃんと持っておきなさい。」
「はーい。」
お空が持っているのは、たからものらしい。でも、たからものって何なのだろう?お空の持っている石は、本当に綺麗だった。綺麗なものが、たからものなのかな?私はお姉ちゃんに聞いてみた。
「お姉ちゃん。」
「こ、こいし?ちょっとびっくりしたじゃない……どうしたの?」
「たからもの、って何?」
「たからもの……?」
「うん、お空の持っていた綺麗な石がたからものなの?」
「そうね…………あの石はお空のたからものにはなるわ。それは、あの娘が鴉だからよ。でも、こいしのたからものにはならないわ。」
「え、なんで?」
「持っていて楽しくなるものは、お空とこいしじゃ違うでしょ?そうそうこいし。どこかに行くのはいいけどちゃんと寝なさい?」
お姉ちゃんの言っていることがよくわからなかった。お空のたからものは、私のたからものじゃない?たからものは、一人一個って意味なのかな?それなら、私もたからものを探せばいいんだ。
明日になったらおたからさがしに出かけよう、私はそう思いながら自分の部屋に戻った。
次の日になった。私はすぐに地上へと出かけていった。今日はどこに行こうかなと思って、ぶらぶらと歩き回った。
人間たちが一杯いるところに着いた。そこで、おっぱいがとっても大きい女が銀髪の女と一緒に歩いているのを見た。二人とも、楽しそうに笑っている。何が楽しいのかな?私は二人の様子を、近くで見てみることにした。
「慧音、今日も胸が大きくなったね。」
「………妹紅、路上でそういうことはやめろ。」
「え〜?」
「え〜じゃない。」
「ぶー」
「ぶーでもない。」
「ぶーぶー」
「ぶーぶーでもない」
「慧音のおまんこは綺麗。」
「私のおまんこは綺麗………な、何を言わせるんだ!!」
「あはは、顔が真っ赤な慧音は可愛いなぁ。」
「ま、待て妹紅!罰として、頭突きだ!!」
銀髪の女が笑いながら走っていくのを巨乳の女が追いかけていった。私は一人その場に残されたけど、お姉ちゃんの言葉を思い出した。
『持っていて楽しくなるもの』
それがたからものなんだっけ?それなら、今の二人のたからものは何なんだろう。とっても楽しそうにしていたけど、手には何も持っていなかった。手に持てるものが、たからものじゃなかったの?
よく分からないことばかりだけど、私は他の場所に行くことにした。どこにしようか。そうだ、吸血鬼が住んでいる館に行ってみよう。あそこは一度も行ったことがないし、新しいものを見つけることができるかもしれない。私は湖の近くにあるという吸血鬼の館に行くことにした。
吸血鬼の館に着いた。私の家より大きいかもしれない。入ろうとしたら、門の前には誰かがいた。さっきの巨乳の人と同じくらい大きなおっぱいの赤髪の人だ。妖精たちと何かお話しているみたいだけど、どうしたのだろう?
「隊長ー」
「どうしたの?」
「隊長、これを食べて下さい!」
「え?で、でもみんな勤務中よ?こんなことしたら、咲夜さんに怒られるわ。」
「いいんです、隊長のためならメイド長にも怒られていいです!」
「そ、それなら一口…………とっても美味しいわ!」
「本当ですか!?」
「ええ!咲夜さんにも負けてないわよ。」
「「「やったーーー!」」」
妖精たちが、赤髪の人にクッキーをあげていた。それを食べた赤髪の人は楽しそうにしている。美味しいものを食べたら、楽しくなるのは私にも分かる。お姉ちゃんが作ってくれるご飯を食べると楽しくなる。
でも、分からなかったこともある。クッキーを食べていない妖精たちもあんなに楽しそうにしているのは、どうしてなのだろう。お姉ちゃんの作った料理を食べるのは楽しいけど、お姉ちゃんが作るだけなのは楽しくないはずなのに。食べ物は食べるものじゃないの?
また分からないことがでてきたけど、私は館の中にこっそりと入っていくことにした。
館の中にはたくさんの部屋があったけど、どれも似たような部屋で途中で飽きてきた。もっと楽しい探検になるかと思ったけど、全然楽しくない。そう思っていた時、私は一際大きい扉を見つけた。
ここには何か、楽しいものがあるはず。もしかしたら、たからものだってあるかもしれない。わくわくしながら、私は大きな扉を開いた。
がっかりだった。部屋の中は、とっても大きかった。けど、中にあるのは本ばっかり。本はあまり好きじゃないし、読んでいても楽しくない。お姉ちゃんは読んだりするけど、私には合わなかった。だから私は部屋から出て行こうとしたけど、誰かが部屋の奥にいた。
ちょっと気になったから、私はその人たちのところに近づいた。もちろん、誰にも見られないようにしながら。
「むむむ……………」
「パ、パチェ!ど、どうしたらいいの!?」
「落ち着きなさい………妹様も、時には読書をしたりするのよ………後、私も今から読書をするから。」
「や、やっぱり私がダメな姉だから?ダメ女だから、勉強するようになったの?」
「図書館ではお静かに………ねぇ、こぁ?」
「え?あ、そ、そうですね。」
「お嬢様、妹様はただ読書をなさっているだけです。お嬢様を嫌っているわけではありませんよ。」
「うー…………どうしたらいいの…………フランは私のたからものなのに………」
「『相対性理論』………えへへ、分かった気がする!」
私はある吸血鬼の言葉が忘れられなかった。
『フランは私のたからもの』
フランというのは、メイドにお嬢様と呼ばれている吸血鬼の妹のことなのだと分かった。そして、読書をしている金髪の吸血鬼がフランなんだよね。それなら、お嬢様のたからものはフラン?姉のたからものは、妹?
だったら………お姉ちゃんのたからものは、わたし?
凄く楽しくなった。お姉ちゃんは、私のことをたからものだと思ってくれているんだ!何で楽しくなるのか分からなかったけど、部屋の外に出てからずっと笑っていた。気持ち悪いと思われるかもしれないけど、そんなことが気にならないほど私は楽しかった。
「お姉ちゃんは私のことが大好きっ!!お姉ちゃんは私のことが大好きなんだよっ!!」
館の外に出ると、私は大声でそう叫んでやった。無意識を操っているから、館の前にいたおっぱいの大きな赤髪の人はこっちに気づかない。さっきからずっと、妖精たちからのお菓子を食べているからこっちの方に向いてもいないけど。
お姉ちゃんは私のことが大好きだということに気づいたから、もう家に帰ろうかと思った。お姉ちゃんに抱きついて、キスをして、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝て、一緒に起きて、一緒に朝ご飯を食べて、一緒にお掃除をして、一緒にお昼ご飯を食べて、一緒にお昼寝をして―――大好きなお姉ちゃんとどんな一日を過ごそうかと思ったとき、今日は何のために地上に出てきたのかを思い出した。
今日の私は、私が誰のたからものであるかを探しに来たんじゃない。私のたからものが何なのかを探しに来たんだった。
私は迷った。どこに行けば、私のたからものを探し当てることができるのか分からなかった。空も暗くなってきたし、ちょっと疲れてきた。でも、私は家に帰ろうとしなかった。たからものはどこにあるのか。私のたからものは何なのか。それを早く知りたいから、立ち止まっている暇なんてないのだ。姉のたからものが、妹なのは分かった。なら、妹のたからものは何なのか。普通に考えたら、姉かもしれない。けど、本当は違うかもしれない。
次に私は、妹のたからものは何なのかを探すために同じ妹を探すことにした。フランも妹だったし、今から戻ってもよかった。けど、どうせなら他の場所にも行ってみたい。私はどこかに妹がいないかを探して、地上を彷徨い続けた。
いろんな場所に行ったけど、中々『妹』が見つからない。仕方が無い、やっぱり吸血鬼の館に戻ってみよう。そう決心したとき、どこかから音楽が聞こえてきた。おたからさがしばかりで疲れていたので、私はその音楽をちょっと聴いてみようと思った。音楽が聞こえてくる方向へと進んでいく。ちょっと進んだ先では、三人の亡霊がそれぞれ楽器を持って曲を演奏していた。髪の毛の色は違っていたが、顔はどことなく似ている。もしかしたら、この三人は姉妹?そう考えた私は、誰が妹なのかを確かめるために三人が話をするまで待ち続けた。
しばらく経った後、ついに演奏が終わった。私は無意識を操り、三人に近づく。
「今日もよかったわね〜♪」
「そうね…………リリカも上手だったわ…………」
「褒めなくていいのよ、姉さん。」
「リリカ〜姉さんの言葉は正気に受け取りなさい?」
「才能が無いことぐらい、分かっているから。私、先に帰ってるね?」
「リ、リリカ?」
「リリカ………………やっぱり、まだ自信がつかないのね………」
三人のうち、リリカという子だけが先にどこかへと消えていった。この三人が姉妹であることは分かり、どうやらリリカが『妹』らしい。私はその後を追いかける。
誰にも姿が見られるようにしながら、私はリリカの後を追う。少し進んだ後、リリカはその場で立ち止まり、辺りを見渡し始めた。その時に、私はリリカに姿を見せる。
「だ、誰!?」
「私と同じ、妹だよね?」
「妹………?」
「私の名前は古明地こいし。リリカと一緒で、妹だよ!」
「わ、私の名前を知ってるの?」
「うんっ!」
私は笑顔を見せて、こう言った。すると、なぜかリリカも笑顔を見せてくれた。
「えへへ………私のこと、知ってくれてる人がいたんだ。」
さっきまでのリリカはずっと暗い表情をしていた。けど、今のリリカの笑顔は本当に明るくて、しかも可愛い。何か嬉しいことがあったのかな?
そんなことを思いながら、私はリリカにいろいろと尋ねてみた。
「ねぇねぇ、リリカー」
「うん、なに?」
「リリカは、お姉ちゃんのことをどう思っているの?」
「お姉ちゃん?私の姉さんのこと?」
「うん、リリカのお姉ちゃんのこと。」
「そうね…………いつか超えてやるわ。絶対に、ね。」
「え?どういうこと?」
姉を超える、というのは一体どういうことなのだろう。私はお姉ちゃんと勝負をしたりするのは、あまり興味がなかった。お姉ちゃんよりも優れているつもりはあるけど、超えるつもりはなかった。けど、リリカは自分のお姉ちゃんを超えようとしているみたい。
どうしてそう思っているのかが気になって、私はリリカにもっといろんなことを聞いてみた。
「お姉ちゃんのこと、嫌いなの?」
「あ、嫌いじゃないよ?姉さんたちのことは大好きだし、姉さんがいなかったら私なんて…………」
「リリカ?」
「な、何でもないよ!」
「それじゃあ………お姉ちゃんたちは、たからものじゃないの?」
「たからもの?」
同じ妹であるリリカのたからものは、一体何なのだろうか?リリカのお姉ちゃんがリリカのたからものなら、私のたからものも私のお姉ちゃんになる。それを知りたくて、私はリリカの答えを待った。
だけど、リリカの答えは私が思っていたものとは全然違ってた。
「たからものはもちろん、このキーボード!」
「えっ……………?」
「このキーボードがあるから、私は生きる意味があるの!って、もう死んでるから………そ、存在する意味があるの!」
リリカは妹なのに、楽器がたからものだと言ったことには驚いた。妹のたからものは、姉じゃないの?姉のたからものは妹なのに、どうして違うの?たからものさえあれば、楽しくなれるのに。それなのに、どうしてリリカはお姉ちゃんたちのことをたからものと思ってないの?お姉ちゃんと一緒にいても………楽しくないの?
私は何がなんだか分からなくなった。妹は姉と一緒にいても、楽しいと思うのはおかしなことなのかな?お姉ちゃんと一緒にいることが楽しいと思っていた私は………いけない子なの?
「もちろん、姉さんたちだって私の大切な……………あ、あれ?こいしー?」
リリカの話をそれ以上聞きたくなくなった私は、誰にも姿を見られないようになって、どこか別の場所へと向かった。
お姉ちゃんと一緒にいることが楽しくないわけがない。お姉ちゃんがいないと、どんなことも楽しくなくなる。私はそれをはっきりとさせるために、すぐに家へと帰ってきた。
玄関から入ると、泣いているお空と涙目のお燐に、お姉ちゃんが何かを言っていた。どうやら、怒っているみたい。時々、あの子たちはケンカをする。二人がケンカすると、いつもお姉ちゃんは怒ってしまう。結構、お姉ちゃんは怖い。お燐はともかく、お空はいつも泣いてしまう。
「えぐっ……だって、お燐がぁ…………ぐすっ………」
「あ、あたいじゃなくて、お空が…………」
「私たちはみんな家族なのでしょう?どうして『あんたなんか、家族じゃない』と言ったの!」
「ごめんなさい、ごめんなさい………ごめんね、お燐………ううっ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇん………」
「ごめんなさい………さとり様………お空…………」
お姉ちゃんの言うとおり、私たちはみんな家族だ。お空やお燐は確かにペットだけど、私にとっては大事な家族。泣いている姿は見たくないし、争っている姿も見たくない。みんなが笑って、楽しそうにしていないと嫌だ。
こんなに仲が良い家族のはずなのに。どうして、私のたからものはお姉ちゃんじゃないのだろう。本当はお姉ちゃんといても、楽しくないのかな。
「こいし?お帰りなさい。」
「お、お姉ちゃん………」
「この娘たちは大丈夫よ。いつものケンカをしていただけよ。」
「ぐすっ………おかえりなさい、こいし様…………」
「こいし様、おかえりなさい………」
泣いているお空とお燐のことが心配だったけど、私は自分の部屋へと真っ先に向かった。お姉ちゃんといるのが楽しくないなんて思ってしまった私を、お姉ちゃんに見せるわけにはいかなかった。
「こ、こいし?」
「こいし様………?」
「あ、あれ?いつもなら、あたいたちをからかってくるのに………」
お姉ちゃんたちが何かを言っていたが、私はそれも無視して自分の部屋へと駆け足で向かった。
ベッドの上で寝転がって、天井を見る。何も変わらない。何も楽しくない。天井を見ていて、一体何が楽しいんだろう。だから、家の天井はたからものじゃない。
私のたからものは、一体どこにあるんだろう?そんなことを考えていくうちに、私はだんだんと瞼が重くなっていった―――
朝になっていた。いつの間に、私は眠ってしまったのだろう。寝癖の立った髪の毛を治しながら、私は朝ご飯を食べにお姉ちゃんのところに行った。
「おはよう、こいし。」
「おはよー………お姉ちゃ…………」
お姉ちゃんの顔を見たら、なんだか嫌な気分になってきた。お姉ちゃんと一緒にいることが苦しいわけじゃない。お姉ちゃんと一緒にいることを楽しめなくなってきた自分が嫌だったから。今までずっと、お姉ちゃんといることが楽しかったはずなのに。
たからもの、それを探し始めた昨日からだんだんと変なことを思うようになってきた。私は実はお姉ちゃんが好きじゃないの?もしかして、私には誰も好きな人はいないの?こんなにもお姉ちゃんのことが大好きだと思っていたのに、どうしてお姉ちゃんは私のたからものじゃないんだろう。
お嬢様は姉だから、妹のフランがたからものだった。でも、リリカは妹なのに、たからものは自分の楽器だった。どうして?どうして、妹のたからものは姉じゃないの?
私はあっという間にご飯を食べると、お姉ちゃんに今日も地上に行ってくるねとだけ伝えて、家から出かけていった。今日はどこに行こうか、ちゃんと考えている。場所は分からないけど、何とかして探してみせる。
昨日出会った、私と同じ『妹』――リリカのところに。
昨日の夜に出会った場所に一度行ってみた。いるかどうかは分からなかったけど、もしかしたらまた練習しているかもしれない。リリカなら、たからものの見つけ方を知っているかもしれない。リリカのたからものは私のたからものにはならないけど、たからものの在処を教えてくれるかも知れない。どこに行けば、私はたからものを見つけることができるのか。心地良い風を肌に感じながら、私はリリカと初めて出会った場所に行った。
音楽が聞こえてくる。でも、昨日聞いた音楽と比べると、何かが物足りない。けど、聞き覚えのある音が聞こえてきた。私はこっそりと隠れながら、その場所まで近づいた。
「ふぅ…………もっと上手くなりたいな。」
リリカだ。リリカが一人で演奏していた。リリカのお姉ちゃんたちは、一体どうしたんだろう?リリカに何かがあったのか心配になって、私は後ろから声をかけてみた。
「リリカー」
「きゃあっ!?だ、誰………こいし?」
「うん、昨日はごめんねー」
びっくりしていたみたいだけど、リリカはすぐに可愛い笑顔を見せてくれた。だから、私も笑ってあげた。
「ふふ、バレちゃったかー………」
「バレたって、何が?」
「一人で練習していることよ。姉さんたちに追いつけるようにね。」
「あ……ご、ごめんね。」
リリカは一人で練習していたみたい。邪魔をしてしまったことを謝ると、私はリリカにたからもののことを聞いてみた。
「リリカー、たからものってどこにあるの?」
「た、たからもの?そういえば、昨日も聞いてきたね。」
「うん、私たからものを見つけたいの。お姉ちゃんのたからものは私みたいだけど、私のたからものは何なのかな?」
「うーん。こいしのたからものかぁ…………貰って嬉しいものとか………一緒にいて楽しい人とか?」
リリカがそんなことを聞いてみた。昔の私なら、すぐにお姉ちゃんと答えていたと思う。けど、今の私にはそう答えることはできなかった。お姉ちゃんと一緒にいて楽しいと思っているのは、おかしい。そんなことを思うようになった私には、お姉ちゃんをたからものと思うことなんてできなかった。
「………リリカは、どうしてそのキーボードがたからものなの?」
「うん?昨日言ったと思うけど………」
どうして楽器をたからものにしているのか。その理由を知ったら、私のたからものも見つかるかもしれない。そう信じて、私はリリカに聞いてみた。
「私の生き甲斐だからだよ。私はキーボードがあるから、姉さんたちと一緒にいられるの。」
「お姉ちゃんたちと、一緒にいられる?」
「うん。これがあるから、私は姉さんたちと一緒にいられるの。」
どういうことなんだろう。たからものがあるから、お姉ちゃんたちと一緒にいられる?私にはよく分からなかった。そのことを考えていると、今度はリリカが私に話しかけてきた。
「こいし。」
「うん、どうしたの?」
「たからものはね………すぐ傍にあるものだよ?それに、一つだけじゃない。無理に探さなくても、こいしのすぐ傍にたくさんあるから。」
「すぐ傍、に………たくさん?」
私はずっと、たからものは一人一個だと思っていた。それも、どれが誰のたからものなのかも決まっていると思っていた。でも、リリカが教えてくれたお陰でやっと私は知ることができた。
それに、この言葉はずっと頭の中に残り続けた。
『すぐ傍にきっとある』『一つだけじゃない』
私のすぐ傍にたからものがある。そして、たからものは一つだけじゃない。それが、私と同じ妹のリリカが教えてくれたことだった。だけど、この後にリリカはもっと大事なことを教えてくれた。
「それにね、こいし。たからものは、人から聞いて手に入れるものじゃないよ?」
「え…………で、でも。リリカは私と一緒で、妹だから………」
「ふふ、それならこいしもこのキーボードが好きになっちゃうよ?」
「あ……………」
やっと私は気づいた。私はリリカと違う。同じ妹でも、好きな物も住んでいるところも違う。じゃあ、リリカのたからものを聞いても意味がないんだ。
「だから、ね。こいしはこいしで、自分が一緒にいたら楽しくなるものを探せばいいんだよ?絶対に近くにあるから。」
一緒にいたら楽しくなるもの――そうか、そうだったんだ!!やっと分かったよ!!私のたからものの場所!!
「リリカ!!」
「ど、どうしたの?」
「私、たからものを見つけられるかも!!」
「ほんと?ふふ、よかったね。」
「リリカー、明日ここで音楽を聴かせてね?」
「………もちろんよ!」
リリカにお礼を言うと、私はすぐに家へと帰っていった。
一秒でも早く家に帰ろうと思った私は、無意識のうちに地上を駆け抜けて、地下に戻り、洞窟を抜け、古都も抜け、地霊殿へと帰ってきた。
私のたからものが眠る場所。私の家族がいる場所、そこがたからものの在処。楽しくなれる場所。私が、私が頑張って生きていられるようになる場所!
「こんなに近くに、たからものはあったんだね。」
リリカの言っていたことは、間違っていなかった。そうだ、私のたからものはここにある。私はそう呟いて、家の玄関を開けた。
入って真っ先に、私はたからものを見つけた。私は後ろから思い切り、それに抱きついた。
「きゃっ!こ、こいしね………?」
「お姉ちゃん、大好きっ!!」
「どうしたの、今日は?」
「えへへ、やっとたからものが見つかったんだ!」
「へぇ………良かったわね。」
たからものが見つかったことをお姉ちゃんに伝えると、お姉ちゃんは私に微笑んでくれた。だけど、私は大事なことを聞かなければならないのを思い出した。
リリカと出会って、何がたからものなのかが分かった。リリカのお陰で、どこにたからものがあるのかが分かった。でも、たからものはちゃんと片付けないといけない。だって、リリカは楽器を大事にしていた。お空もお姉ちゃんに言われて、綺麗な石を片付けた。私もちゃんと、たからものを大事にしないといけない。
私はどうやって、たからものを片付ければいいのかをお姉ちゃんに聞いてみた。
「ねぇねぇ、たからものはどこに片付けたらいい?」
「そうね………自分の部屋の棚に片付けておくか、いつも持っているか………大きさによるわね。」
どうしよう。このたからものは、小さくない。他にもたからものはたくさんあるし、部屋に片付けるのも大変だ。もちろん、手で持っているのも大変。
「じゃあさ。こんなたからものは、どうやって片付けたらいいの?」
私は目の前にあるたからものを、お姉ちゃんに見せようとした。けど、見せるのが難しかった。でも、お姉ちゃんもたからものをじろじろと見始めた。よかった、何がたからものなのか分かってくれたみたい。
そう思った時だった。
「…………こいし、悪い冗談はやめなさい。」
「冗談?」
お姉ちゃんが何か変なことを言ってきた。しかも、目が怖かった。お空とお燐を怒っている時の目だ。私、何か悪いことでも言ったのかな?たからものを教えてあげただけなのに。
「だから、これが私のたからもの………」
「まったく………冗談でも、そういうことは言ってはいけないわ。私を片付けるなんて………」
「えっ…………」
何を言ってるの?お姉ちゃんを片付ける?私は、たからものを片付けようとしただけだよ?それなのに、どうして私を怒るの?なんでなの。なんでなの、お姉ちゃん。私、せっかくたからものを見つけてきたのに。楽しくないの?お姉ちゃんは、私のたからものなんでしょ?私が喜んだら、お姉ちゃんも喜ばないの?
『同じ妹でも、リリカとは違う。』
私の頭の中に、そんな言葉が浮かび上がった。リリカと話をして、私が知ったことだ。リリカと私だと、たからものは違う。だって、私はリリカじゃないから。
それなら、お姉ちゃんも?お姉ちゃんも、あの吸血鬼のお嬢様と違うの?あの吸血鬼のお嬢様は、妹のフランがたからものだった。だけど、お姉ちゃんは吸血鬼じゃない。お姉ちゃんのたからものは、お嬢様のたからものと違う。お姉ちゃんのたからものは、妹の私じゃない―――
(違う…………)
お姉ちゃんのたからもの、それは私じゃない。
(違う…………!)
私のたからものは、お姉ちゃんなのに。
(違うっ………!)
それなのに、どうしてお姉ちゃんは。どうしてお姉ちゃんは、私のたからものを見ても、喜んでくれないの!?
「…………次からは、気をつけなさい。あんなことは言わないようにね。」
お姉ちゃんは、なぜか機嫌が悪くなっていた。どうしたんだろう。私のたからものが気に入らなかったのかな?絶対に喜んでくれると思ったのに。
その時、私は一番大事なことに気づいた。
私が今、目にしているもの――それはまだ、たからものではなかった。
(そっか………そうだったんだ!まだこれは、たからものじゃなかったんだ!!)
あはははは、そうだよ!絶対にそうだよ!!私、間違えてたんだ!!だから、お姉ちゃんは喜ばなかったんだ!!このたからものを、ちゃんとたから『もの』にすればいいんだ!!それなら、きっとお姉ちゃんは喜んでくるはず!!
お姉ちゃんが喜んでくれなかった理由が分かった。だから、私はすぐにたからものの傍にまで近づく。お姉ちゃんに喜んでもらうためには――――
「こいし………ちゃんと聞いてるの、こいし。」
ごめんね、お姉ちゃん。今から、ちゃんと用意するから。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。これ、まだたから『もの』じゃなかったの。」
「こいし……………?」
今から私が、本当のたから『もの』を見せてあげるから―――
今日もまた、私は地上に出てきた。
「むふふ〜、リリカはまたあそこにいるかな?」
スキップしながら、リリカが一人で練習していた場所に向かっていく。早くリリカのところに行って、たからものを見つけたことを教えてあげないと。それにリリカの演奏も聴きたい。
そんなことを思っていると、リリカが予想通り、あの場所で楽器を演奏していた。
「リリカー!!」
「あ、こいし!!」
私が大声でリリカに呼びかけると、リリカも大声で応えてくれた。
「えへへ、来ちゃったよ。」
「よかった…………ここに来てくれると信じて、ずっと練習してたんだ。」
リリカも私も、笑顔で話をする。このままおしゃべりをしてもよかったし、演奏を聴いてもよかった。けど、先にたからものが見つかったことを教えないと。
「リリカ、やっとたからものが見つかったよ!」
「ほんと!?よかったね、こいし!」
たからものが見つかったことをリリカに伝えてみたら、リリカは私の手を握って大喜びしてくれた。
「それで、何がたからものだった?すぐ傍にあった?」
「うん、すぐ傍にあった!」
「ふふ、私の言ったとおりでしょ?」
「えへへ…………ちょっと大変だったけどね。」
「よしっ。それじゃあ、お祝いに私の演奏を聴かせてあげるよ。」
そう言うと、リリカはキーボードを準備して、音楽を演奏し始めた。凄く綺麗な音楽だったり、凄く元気になる音楽だったり、いろんな曲をリリカは演奏してくれた。
少し気になることがあった。たからものをお姉ちゃんに見せようとしても、昨日は全然出来なかった。たからものをお姉ちゃんに見せる方法が分からなかった。お空やお燐にもたからものを見せてあげたら、二人とも悲鳴を上げて泣き始めちゃった。その後、二人に別のたからものを見せようとしても見せられなかったし。うーん、たからものをお姉ちゃんたちに見せるにはどうしたらいいのかな?
「リリカのキーボードと同じで、ただの『もの』なのに………どうして、見せるのが難しいのかな?」
演奏中にそう呟いた私だったけど、今はリリカの曲を聴いてのんびりしていよう。そう思って、私はリリカの奏でる音楽に耳を傾けた。
その数日後からだった。
私のたからものが、汚れはじめたのは。
- 作品情報
- 作品集:
- 20
- 投稿日時:
- 2010/09/26 15:07:49
- 更新日時:
- 2010/09/27 00:07:49
- 分類
- こいし
- リリカ
- さとり
- その他いろいろ
妹の教育をちゃんとしなかったさとりんが悪い
こいしちゃん、そのたからものを『もの』にしちゃ駄目だろ。
終盤まで本当にいい話なのに、最後に来てこいしの思考の
根本的な異常がすべてをぶちこわす。
本当の意味での、狂人の悲しさを見た感じだ。
心が読めないとそこまで鈍感か、さとり
こいしの純粋さが悲しい
目に見えては分からない、だけど確実におかしいこいしちゃんの狂気を上手く表現できてると思います