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『瞳の中の・・・(前編)』 作者: IMAMI

瞳の中の・・・(前編)

作品集: 21 投稿日時: 2010/10/23 11:28:00 更新日時: 2010/10/23 20:28:00
・独自解釈多数
・俺設定多数
・過去話
・ネチョは中編以降(予定)

































「呑みすぎだよ。めざめさん」

地下繁華街にて、語られる怪力乱心、星熊勇儀が左胸の辺りに管がついた眼を持つ白緑色の髪をした男に声をかけた。
男と勇儀は地下繁華街で酒を呑んでいたが、鬼よりも当然覚妖怪の醒が早く酔い潰れたのだ。

「ああ。久しぶりだからつい、ね」

めざめ。と呼ばれた中年の男は申し訳なさそうに勇儀に応えた。

「娘さんがいるんだろう?早く帰ったほうがいいよ。父親ってのは娘に嫌われるもんじゃない」

「ああ、そうだな。それじゃあ勘定を………」

「わかったよ。割り勘でいいね?」

勇儀の呑む量からしてまだ物足りないだろうが、そこは飲み会のマナーとして勘定に応じることにした。

「お疲れさん。そんじゃ、私はこれで」

「さようなら」

勇儀と別れたあと魔力によって地霊殿の使用人と意志の疎通をする。ここまで向かえにくるように頼んだ。
半刻ぐらいして、地霊殿の馬車が現れた。

「お待たせいたしました。めざめ様。こちらへどうぞ」

側近の妖怪が馬車から降り、めざめにかしづいた。

「ああ。すまない」

めざめが馬車に乗り込むとディアボロスの側近も乗り込み、御者が馬を打って馬車を発進させる。

「大分、お呑みになられたようですね」

「ああ。明日は起こしてくれ」

「わかりました」

めざめは明日、娘のこいしとピクニックに行く予定がある。

「こいしはもう、寝ているのか?」

「はい。ぐっすりと。楽しみにしておられます」

「そうか。
そうやって地霊殿を留守にしてもやっていけるのは君達のお陰だ。感謝しているよ」

と、めざめ。側近は笑顔で答える。

「ありがとうございます。でも当然です」

「………怨霊や地獄の火炎を管理することは、いつも君達に任せることも多くなった。そろそろ自分でやらないといかんな」

「いえ、そんな………
こいし様もめざめ様に今一番甘えたい時です。どうぞ雑務は任せてください」

そういう側近の眼は、いつの間にか開いて力を発揮した左胸のサードアイではなく、真っ直ぐとめざめの2つの眼を見ている。
側近の心中にはめざめにとってかわろうという気持ちは全くない。心からの忠誠心のみがあった。

古明寺めざめ。
その類いまれなる統率力とカリスマで幻想郷の地下街及び地霊殿の管理をする覚妖怪だ。妖怪の山を天狗達に租借され、もともと堕天人や堕仙人、土着の鬼、果てまた西洋妖怪までいた地下一気に鬼やアウトローの河童や天狗が流れ込んだ。
もちろん地下は混沌を極め、完全な無法地帯となったが、覚妖怪の長であった古明寺めざめが地下の妖怪を統率し、閻魔から灼熱地獄及び地下の全権を与えられるようになったのだ。
それからめざめは地霊殿を建設し、そこを本拠地としてあらゆる妖魔を登用し、いまも支持を得ている。

そうしているうちに、地霊殿についた。

馬車を降りて屋敷に入ると、めざめを部屋まで送った。

廊下から出て、エントランスまでディアボロスの男が戻ると、一人の覚妖怪に声をかけられた。

「ねぇ」

「はい。なんでしょうか。さとり様」

側近は地霊殿当主、古明地めざめの実の長女、古明地さとりに応えた。

「お父様はもう寝たの?」

「はい。出張での業務が堪えたようで」

ディアボロスの男は取り次ごうとはしない。当たり前だ。めざめはさとりをわざと避けているのだから。

「明日、こいしとお父様、ピクニック行くのでしょう?」

さとりはそう言って自分のサードアイを開いてディアブロスの男の心を読もうとする。が、今までと同じようにディアブロスの男の心中は全くわからない。霧の中に心があるようだ。
それもその筈だ。めざめの覚妖怪としての能力を使って、さとりと接することがある側近とさとりにつく使用人には心を読まれないようにする術をかけているのだ。

「はい。それが何か」

ディアボロスの男の口調も慇懃になってきている。

「私はなぜ、お父様とピクニック行ったり、人里に遊びに行ったり出来ないのかしら」

「存じ上げません」

「なぜ、私は古明地の当主になるために勉強や鬼を相手に戦闘の訓練をしているのかしら」

「次期古明地当主だからです」

ディアボロスの男は心を読まずともわかるほど投げやりな口調で答える。

「なんでこいしが当主にならないの?」

「さとり様は長女ですから」

「なんで───」

「失礼します」

ディアボロスの男は会話を切り上げて逃げるように去っていった。
取り残されたさとりもふてくされて自室に戻っていった───










































「はぁ………地上に出るのも久しぶりだな………」

めざめ達は紅い屋敷の近くの湖に馬車を止めた。

「お父さん!ほら!早く!」

こいしがめざめの腕を引く。めざめは顔を綻ばせてこいしについていく。

「妖精だ!妖精がいるよ!ゾンビじゃない妖精だよ!」

「ああ、かわいいね」

と、苦笑しながらめざめ。
怨霊の管理はてけてけのネクロマンサーをチーフにしてやらせているが、やはり死体かゾンビばかりで、地底にいない生きた種族をこいしが見ることはなかなかない。このはしゃぎ様も納得できる。

「あっちいってきていい?」

「うん。気をつけて」

めざめは父が娘に言う定型句を口にする。気をつける必要などあまり無いのだが。

「こいしちゃんもすっかりかわいくなりましたね………」

「ああ。本当にな」

その様子をしみじみと眺めていると、もう一組の妖怪が湖に遊びに来た。

「これはしばらくですね。古明地めざめ殿」

「ああ、あなたは八雲の」

「八雲藍です。ほら、ご挨拶しないか」

「橙です!」

中華風の服を来た九尾の狐が若草色の帽子の少女に促すと、少女は自分の名前を告げた。

「ほら、橙。向こうで遊んできなさい」

「はーい」

猫の少女はこいしのいる方に走っていく。

「地底の方はどうですか?」

「上手くやってるよ。後継ぎがすこし心配だが」

「彼女の姉でしたっけ?」

「ああ。覚妖怪としての能力は十分すぎる程だが、戦闘力がまるでない」

本来、覚妖怪は心を読む能力を使って戦闘を行う。だが、相手が百戦錬磨の武人や並外れた能力の持ち主、覚妖怪であれば心を閉ざして心を読む能力から防御をすることができる。

そうなればもはや覚妖怪と言えど一般の妖怪以下だ。八雲藍の式神よりも弱いだろう。

そのため一つの集団の長になる覚妖怪は魔術や妖術に長けていなくてはならないのだ。

「だが、その覚妖怪の中でもさとりはかなり弱い。鬼や天人を雇って訓練をしているが、からきしだ」

「こいしちゃんを長にするわけには?」

「ダメだ。あれを見てくれ。こいしの眼の管だ」

藍はこいしの姿を見る。視線の八割は橙のほうにいっているが。

「眼の管が私やさとり、一般的な覚妖怪と違って下半身の方に集中しているだろう?
あれはイド、本能の現れだ。あれが心を読む能力の邪魔をするんだ」

たしかに、こいしの管は下半身にあった。

「ちなみに、イドの反対がエゴ。自我だ。
………説明が下手で申し訳ないですな」

第三の眼で藍を見つめて言うめざめ。

「いえ!そんな………
あ、お恥ずかしいことに私は心理学には疎いものでして………」

「人には得手不得手がある。私なんかは能力故に人付き合いが苦手でしてな………」

と、そんなことを話していたら、二人の近くに烏天狗の少女が降り立った。

「あややや、これはどうも」

烏天狗、射命丸文は二人を見るなり頭を下げた。

「おや、あなたは天狗の」

「射命丸文です。どうですか?一枚」

文はカメラを示して言う。

「その写真機………どうしたんだ?外の世界でも最新式の筈だか?」

スキマ妖怪と最も近しい存在である藍は文のカメラをみて尋ねた。紫がそれと全く同じカメラを弄って、そのあとすぐに飽きてスキマに捨てたのを覚えていた。

「無縁塚に落ちていました。直せれば使えそうだったので………
最新式ならきっと外の人間が持ち込んだんですね。
それで、一枚どうです。最新式で」

文が取材用と地が混ざった笑みを見せてカメラを構える。

「もちろん。ありがたく撮って戴こう」

「めざめ殿が言うのなら私もお願いしよう。
橙!来るんだ!」

「こいし。来てくれ」

二人が式と我が子を呼び寄せると、湖をバックに四人が並ぶ。

「撮りますよー?」

「ああ。どうぞ」

パチリ。

聞き慣れないシャッター音が響いた。





































「さとり様。どちらに行かれるのですか?」

さとりが地霊殿から出ようとすると、さとりの従者、もといめざめの従者のリカントの女が声をかけた。

「ちょっと繁華街に遊びに行くだけよ」

「ならば護衛をお付けします」

リカントの女が言うとさとりは拒絶する。

「嫌」

「何を言うのです!さとり様にもしものことがあったら!」

「それは私に何かあることが困るのではなくてお父様の跡継ぎが絶えるのと、あなたの首が文字通り飛ぶからよ。
心を読むまでもないわ」

「………」

リカントの女は図星を付かれて黙り込む。
たしかに、こんな可愛くない覚妖怪の娘など、どうなっても構わない。それが古明地めざめの娘でなければ。

「では、勝手について監視いたします」

「………わかったわ。従者をつけるわ。でも自分で選ぶ」

さとりは地霊殿にいる河童の男の名前を告げた。

「あの男………ですか?」

「だめかしら」

「いえ。わかりました」

リカントの女は河童の男を呼びに行き、しばらくしてからその例の河童の男を連れてきた。

頭皮が見える薄い髪、陰気で小さな目、薄汚い据えた臭いを放つ口内から覗く錆びた釘のような歯、弛んだ妊婦のような腹、脛毛だらけの短い脚。

なるほど。リカントの女が聞き返すのもわかる醜男だった。

「本当によろしいのですか?なぜこのようなのを………」

「彼にもチャンスを与えようとしただけ。
私の護衛、お願いしますね」

さとりは河童の男の眼を見て答えた。もちろん彼にもめざめの術がかけてあるため心は読めない。

「えっ…あ、あ、はい………」

蚊の鳴くような声で目を反らす河童の男。コミュニケーション能力は間違いなく皆無である。

「………」

そんな外見も中身も醜い河童の男をゴミを見るような眼で見つめるリカントの女。だがそうもしていられないため、口を開いた。

「それでは、馬車の準備をしましょう」


























「………」

ある計画の為に醜い河童を護衛にしたが、もう少しマシな妖怪にすればよかったとさとりは身を隠すフードとマントに身を包みながら後悔し始めた。

馬車の中にいる間、さとりのスカートから覗く生足や、慎ましやかな胸元などに河童の男の視線を常に感じていた。

今、フードとマントを羽織って街を歩いているときも、河童の不気味な視線がまとわりつき、さとりが人気のない所に向かうにつれて視線の濃度がどんどん強くなっていくのがわかる。

「ねぇ、あなた」

やがて一人も生物学的な意味においての知的生命体がいない路地につくと、さとりは河童に声をかけた。

「はっ、はぃいぃ!」

おそらくさとりを押し倒し、粗末なペニスを捩じ込む妄想を幾度となくしたのだろう。河童の声は上ずっていた。

「………私をみてエッチなこと考えてたでしょ?」

「ひっ、そんなことは………」

「嘘」

さとりはフードてマントを脱ぎさって、河童の男を見つめた。

「ホントのこと言ってくれたら、してもいいよ………」

さとりの声に色が混じりだす。

「はっ、はひ…はひ………」

目を見開いて股間のモノを隆起させる河童の男。

「目を閉じて」

さとりは河童の男の右手を自分の胸元に引き寄せてそう言った。
そう言われて河童の男は目を閉じないわけがない。

「待ってて。直ぐにあげるから………ね」

そう囁いてさとりは

ナイフを河童の男の胸に思いっきり突き刺した。

「むろぉっ!」

河童の男は身体を自分の肉棒以上に硬直させ、目を再び見開いた。

「あが………ごげっ」

だが、それだけで河童の男は汚い地べたに倒れ伏した。

「じゃあね。哀れな河童さん」

さとりは河童の男に刺さったナイフを返り血が付かないように引き抜き、再びフードとマントを羽織って路地を後にした───













































「めざめ様」

めざめのいる間のドアを側近のディアボロスの男がノックした。

「入ってくれ」

「失礼します。
さとり様が無事、保護されました。市街地の外れにいらっしゃったのを星熊勇儀殿が発見したそうです」

「そうか。ふむ………勇儀殿には感謝しなくてはならないな」

「如何なさいましょう」

「言っただろう。さとりは私にとっては娘ではない。跡継ぎだ。親からの愛情より地霊殿を継ぐのにふさわしいサトリになることを望むのみだ」

めざめは側近の心を読み取ってそれだけ答えた。

「では、そのように」

「ああ。
そろそろまた会合の時間だ。馬車を用意してくれ」

「畏まりました」

めざめの馬車が用意され、市街地の一番大きな集会所へと向かう。馬車に揺られながらさとりが居なくなった一件を考える。

護衛の河童の男は殺されていたらしい。あの河童がさとりを庇って殺される程の度胸と忠誠心があるとは思えない。河童の男に個人的な恨みがある者がいたとしても、彼を殺す価値があるとも思えない。一回さとりに会って自分の持つ眼で確認すべきだろうか。

ガタッ!

「!?」

「なんだっ!?」

めざめの向かいにいたディアボロスの側近が御者に声をかける。

「急に飛び出して来た方がおりまして………」

「なに?」

めざめと側近が馬車から降りる。どうやら乳飲み子を連れた母親らしい。離れた所で赤子が泣き、母親が倒れていた。

「怪我はありませんか?」

めざめは母親に駆け寄った。

「………はい」

母親はめざめに気づいて身体を起こす。視界の端に側近が赤子を抱き上げるのが映った。瞬間、めざめの体内に冷たい物が流れ込んだ。

「あ───」

めざめは自分の胸元に包丁が刺さっているのが見えた。
すぐに母親が包丁を抜き取り、子供をおいて駆け出す。鮮血が迸る。うっかり心を読むことをしていなかった。

「めざめ様ぁっ!!」

側近がめざめに駆け寄る。めざめの視界はどんどん暗くなっていく。生命が流れ出すのがわかる。

「このおっ!」

最後にめざめの瞳に映ったのは、側近が暗殺者を追う所までであった。






































「かなり危険な状態ですね。包丁には特別な毒が塗られていまして、それがすでに古明地めざめ氏の神経を破壊しています。各内臓機能の著しい低下と出血多量による脳への酸素の欠乏が深刻です」

めざめの運ばれた病院の医者はふたりのめざめのディアボロスとクピドの側近と駆けつけたさとりにめざめの容態を説明した。

「そんなことを訊いているんじゃない。治るか治らないかを訊いているんだ」

側近は声に怒気を含ませて医者に言う。

「だから深刻な状態である。と。治ってもおそらくは地霊殿の当主はできないでしょう。残念ながら………」

「そうか………」

「今ならまだ口が聞けます。どうされますか?」

医者が決まりきったことを三人に訊いた。おそらくこれが遺言になる。

「通してくれ」

「わかりました」

病室には力なく横たわるめざめの姿があった。側近二人が駆け寄る中、さとりの眼はめざめのサードアイのみに注がれた。眼が閉じている。完全に心を読む能力も破壊されたらしい。さとりはほくそ笑んだ。

「めざめ様………こんなお姿に………」

「申し訳ございません………私が暗殺者を逃がしたから………!」

「さとり………」

めざめに呼ばれてさとりは内心ドキッとしたが、すぐに平静を装って呼び掛けに応じた。大丈夫だ。わかるはずがない。

「何でしょうかお父様」

「情けない姿だな………お前は私を恨んでいるのだろうな…」

(当たり前よ)

心が読まれる心配はない。平然と心の中で悪態をついた。

「さとり。すまなかった………お前を地霊殿の当主にするために、お前を厳しくしつけた。お前のことを娘ではなく、古明地次期当主としか見ていなかった………」

(今さら遅いわよ。お父様)

「さとり、お前を次期当主に任命する。私も長くない………
お前達。聞いていたな?」

「はい!」

側近も涙ぐみながら応えた。

「さとりをサポートしてくれ。わかったな………」

(その必要はないわ。すぐにこいつらはクビよ)

この二人の側近はめざめの傀儡だった。気に入らない。

「お父様。それでは、私、戻ります」

「さとり様?」

側近が怪訝そうな顔をするが、さとりは淀みなく返した。

「お父様は今凄く辛いですから………それに、死ぬなんて思いません。だから………」

「さとり様………」

「行きましょう」

病室を出ると泣きはらした目のこいしに出会った。

「お姉ちゃん!」

「あら、こいし。お父様ならそこの病室だけど………」

「お父さん………やっぱりまずいの?」

「危険な状態だとは聞いたわ。でも、私はお父様が死ぬなんて思っていないわ」

相手がこいしなら心を閉ざすことが出来る。もう自分の腹心がわかる者は居ないのだ。

「私もお父さんに会うわ」

「そう。私は戻るわね」

さとりは側近二人と共に地霊殿行きの馬車に乗り込む。するとディアボロスの側近が口を開いた。

「さとり様。めざめ様の時と変わらず全力でサポート致します」

(まぁ、めざめ様の娘だしな)

(この歪んだガキが当主か…イヤだな………)

さとりの目にはめざめが力を失ったことで、術がとけているため側近の腹心が手にとるようにわかる。

「それには及ばないわ」

さとりは側近に応えた。

「と、言いますと」

「二人ともクビよ。馬車から降りなさい」

「「は………?」」

ディアボロスとクピドの側近は呆けたような顔をする。

「さとり様?なぜでしょうか………?」

「歪んだガキのサポートなんかしたくないでしょう?」

さとりはそう言ってやった。明らかに二人が焦るのがわかる。

「全く、なぜ古明地めざめがあなた達みたいなのを側近にしたのかしら」

「めざめ様を愚弄する気か!」

さとりの言葉にディアボロスがカッとなって怒鳴り付けた。

「彼は乳飲み子を連れた母親が暗殺者とも思わずに無防備に近寄って殺されたのでしょう?ざまぁないわね」

「このっ………!」

「止せよ!」

憤るディアボロスをクピドが止める。

「………おい。馬車を止めてくれ。
出ていくぞ」

「………ああ」

馬車から二人の側近が出ていく。さとりはもう興味がないというように今まで地霊殿に仕えてきた二人を視界に入れることすらしない。二人もそれは同じだった。ふたたび馬車は市街地を進み出し、やがて地霊殿についた

「お帰りなさいませさとり様」

小間使いとして何十人か雇っている力の弱い竜族の少女が笑顔で向かえた。傍らにはリカントの女もいる。

「さとり様。めざめ様のご様子は………」

元から持っていたらしい心の中にネガティブな感情をふくむ言葉を紡ぐリカントの女。

「もう、長くないそうよ。
私を次期当主に任命したわ。明日にでも正式に地底に発表して就任するつもりよ」

「左様ですか…
ときにさとり様。彼らはどちらに?」

と、リカントの女。

「クビにしたわ」

「左様──はい?」

「クビにしたわ。腹心では私をよく思ってないから」

(当たり前じゃない)

リカントの女からそんな声が聞こえる。だが口では平静を装って言葉を紡ぐ。

カラン。

石畳の床にモップの落ちる音がした。そちらを見ると竜族の少女の一人が立ち尽くしていた。

「どういうこと・・・ですか?さとり様・・・!」

ポロポロ涙を流す少女。この少女はあのディアボロスの男と交際していたことをさとりは記憶していた。その様子は微笑ましく、主人のめざめや先輩のリカント、同僚のクピドにディアボロスの男はからかわれ、竜族の少女も同僚の少女に祝福されていた。

「どういうこともないわ。もう古明寺めざめはいないのよ?長は私。だからクビにしたの。悪いかしら?」

「ひぐっ…うえぇぇぇぇぇぇん…!」

泣きだす竜族の少女。それを他の竜族の少女が慰めながら、何人かは心を読まれるとわかりながらさとりを睨みつけた。

「………とにかく、あの二人はクビ。わかったわね。半分目せしめだけど」

「わかり…ました」

「私はもう休むわ。こいしが来たらこいしにも伝えなさい」

さとりはリカントの女に背を向けて自室へと戻っていく。
さとりへの負の言葉が飛び込んで来るが、さとりはただ、そいつらをどうしてやろうかとだけ考えながらエントランスを去っていった。




























地底に夜が訪れ、さらにあたりが暗くなってからしばらくして、さとりの部屋の扉が何者かにノックされた。

「誰かしら」

まだ起きていたさとりはノックの主に訊いた。

「お姉ちゃん。わたし。こいしだよ」

「こいし?」

いつの間に帰ってきたのだろうか。

「開けてお姉ちゃん」

「明日にしなさい」

「じゃあ開けるよ」

「えっ?」

バキッ!

すると、さとりの部屋のドアが外れ、自分の妹の姿が現れた。黒い帽子に自分の普段着と反対色の服。青いサードアイ。

「あなた…なによそれ」

こいしの服の袖口からは荊のようなものが伸びていた。それが扉を掴んで外したのだ。

「お姉ちゃん。あなたなのね。お父さんを殺したの。
殺し屋雇って…どうして?」

「………」

こいしが無表情で聞いてくる。なぜ、なぜそれを知っている?
自分は古明地さとりだと知られずに暗殺者に依頼した。暗殺者がつかまれば真っ先に自分の所に一方来るはずだ。

「答えて!」

こいしの荊が見えないほどの速度でさとりに襲いかかり、さとりの四肢を拘束した。

「いたっ………知らないわよ!私はやっていない!」

荊の棘がさとりの柔肌を傷つける。

「なら、なんで心を閉ざしているの?」

「………!?」

さとりは棘に刺されながらこいしの言葉に疑問符を浮かべた。

今さとりはとっさのことのため心を閉ざしていない。つまりこいしに心を読まれてもいいはずなのだ。

「こいし………?」

さとりはそのとき、こいしの胸のサードアイに気付いた。

「あなた………目が開いてないわよ」

「えっ!?」

こいしは自分の青いサードアイを見た。その眼は堅く閉ざされている。

「なんでっ!?なんで眼が……
ううん。いいわそんなの。お姉ちゃんの心を読まなくても私にはお姉ちゃんがお父さんを殺したって確信があるもの。
お父さんが言ってたのよ。私はさとりに殺されたって」

「………」

さとりも表情で悟られないため無表情を装う。

まさかあの時………あの忌々しい側近といた時に自分の心を読んだのだろうか。
さとりがめざめのサードアイを見たのは最初だけだ。あとは注意力が散漫になったり、側近の影になって見えなくなったりした。そこを縫ってさとりの腹心を覗いて、こいしにそれをつたえたのだろうか。



───あんなことを言いながら───



どこまでも忌々しい男だ。

「お姉ちゃん。弁明ある?」

荊がきつくなる。

「ごほっ……そんなものないわ。早く放して………」

「このっ!」

「うごっ!?」

こいしはさとりの身体を床に叩きつけた。体内の空気が口から漏れる。そのまま荊はさとりを床に押さえつけた。

「せめて一思いに殺してあげるよお姉ちゃん。お父さんの仇───っ!」

こいしが腕を振り上げると硬質化した荊が尖端をさとりの心臓に狙いを定める。これはまずい。本当に殺される!

「ひっ、やめ───」

「さとり様!」

そんなとき、さとりが叩きつけられた音を聞いたリカントの女が駆けつけてきた。

「………っ!?」

「助けてっ!助けなさい!」

さとりはリカントの女に助けを求めるが、直ぐにさとりの荊の拘束は外された。さとりが床に崩れる。

「こいし様。これは一体………!」

「うっ、うわぁぁぁぁぁあんっ!」

こいしは感情のタガが外れたかのようにリカントの女に抱きついて泣き出した。

「………見ていたわね?」

さとりがリカントの女に言う。

「はい………しかし、さとり様………」

「こいしが私を殺そうとした。あなたはそれを見た。それが全てよ。
わかったらこいしを連れて引きなさい。
こいし。処分は覚悟することね────」

そんなさとりの言葉に何か言いたげな目でリカントの女はさとりを見た。何が言いたいのかはもちろんさとりにもわかったがさとりは何も言わず、開いた部屋へと向かっていった。

あとには泣きじゃくるこいしとリカントの女が残された―――
IMAMIです。いつにもまして文章力がひどい。
と、言うわけで古明寺姉妹の過去話です。注意書きでお分かりだとは思いますが三編構成です。
侵略ではない話にもオリキャラを入れてしまう。
オリキャラ入れてないのって本当に前書いた働き者の魔法使いだけだな…
作者としては働き者の魔法使いが今のところ最高傑作ですかね。あれを超える作品は…書くつもりです。一応。はい。
次は侵略か、ゆゆみょんいじめSSのどちらかです。十中八九侵略。

侵略ってかくとイカ娘のアレが頭をよぎるぜ………
IMAMI
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/10/23 11:28:00
更新日時:
2010/10/23 20:28:00
分類
さとり
こいし
1. 名無し ■2010/10/23 22:36:23
イカ娘やら某カエルやらは侵略という目標を立てながら全く侵略してない気が

うん、これは楽しみ
侵略もすごい楽しいけど
ゆゆみょんいじめはすごく見たい
…作者に任せる

とにかく楽しい
2. 名無し ■2010/10/23 23:26:17
侵略ね〜
3. NutsIn先任曹長 ■2010/10/23 23:46:51
さとりの過去話ですか。
さとりは今でこそ地霊殿当主として平穏に暮らしていますが、
この話のさとりにはそんなイメージが有りません。荒んださとりの成長ストーリーに期待します。

今回は誤字脱字が多いようですが、原因はIMAMI様が思いのたけをそのままぶつけた話だからでしょうか。

『働き者の魔法使い』は、私も素晴らしい作品だと思います。
腐れ外道が報いを受ける話は、私の好物です。

侵略記の続きも期待しています。教授殿と愉快な仲間達の侵略の目的は!?
…常人には理解できないクソなものでしょうが。

ゆゆ様と妖夢のいぢめ物も、IMAMI様が書きたいと思ったときで良いので是非。
4. 名無し ■2010/10/24 04:00:25
序章としてはなかなかいい感じかと
続きがすごく気になりますし
今のところは侵略よりも面白そうなんで続きもぼちぼち期待しておきます
5. 名無し ■2011/06/15 23:36:59
河童=お前等
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