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『安寧を手に入れた紫の元賢者』 作者: NutsIn先任曹長
幻想郷崩壊から数十年の月日が流れた。
世界に名だたる多国籍企業、株式会社ボーダー商事。
そのCEO(最高経営責任者)である八雲紫。
彼女は病床にあった。
いよいよ人間としての生も尽きようとしているのだ。
紫がボーダー商事傘下の大学病院に入院した時、
彼女の懐刀である顧問弁護士の博麗霊夢は、
自分の病室から松葉杖を突きながら駆けつけてきた。
「紫!!大丈夫!?」
紫は霊夢の慌てぶりに苦笑しながら、
「霊夢。まずは自分の身を心配しなさいな」
霊夢は冷徹な判断力で紫の会社経営に携わり、法的な攻めと守りでボーダー商事を守護してきた。
そんな彼女を快く思わないものは、大勢いた。
刺客に襲われるのも二度や三度ではない。
紫は霊夢にボディーガードとして傘下のPMSCs(民間軍事会社)の腕利きのコントラクターを数名当たらせていたし、
霊夢自身の格闘術もあって今までは惨事になることは無かった。
しかし、繁華街の雑踏からの銃撃には、流石に対処し切れなかった。
殺傷性の低さで時代遅れとなった5.56mm NATO弾のフルオート射撃を受けた霊夢と護衛数名はその場に崩れ落ち、
刺客は止めにM4A1カービンの銃身下に装着されたM203 40mmグレネードランチャーを放とうとした。
パニックになった群集によって、護衛達は攻めも護りも出来ない状態にあった。
そんな霊夢の危機を救ったのは、かつて幻想郷を去っていった二人の蓬莱人であった。
M4カービンのドットサイトは憎き年老いた弁護士を捕らえていたのだが、何時の間にか黒い長髪の美少女になっていた。
サイトが見づらくなったと思ったがそれは当然であった。
ドットサイトを接眼側ではなく、対物側から覗いていたからである。
手にしていたアサルトライフルが刺客の手から消えていた。
代わりに美少女がそれを刺客の頭に狙いをつけて構えていた。
「さあ、後ろをお向きなさいな」
美少女はセレクターがフルオートになっているライフルのトリガーに細い指を掛けた状態で、刺客に命令をした。
刺客は両手を挙げ、言われたとおり後ろを向いた。
刺客はM4カービンの強化樹脂製ストックの一撃を、美少女から首筋にプレゼントされた。
刺客はその一撃で昏倒した。
「えーりーん!!こちらは終わったわよ〜」
美少女の声が喧騒の中に響いた。
霊夢が乗るはずだった防弾車の陰からひょっこりと女性が姿を見せた。
その女性は、銀の長髪を後ろで三つ編みにした、美女であった。
美女は被弾した霊夢と護衛達の様子を一瞥した。
胴体はボディーアーマーで無事。せいぜい、打たれた箇所が痣になっている程度であろう。
頭は無事。両腕も擦過傷程度。
問題は、霊夢の足であった。一発被弾していた。
弾は貫通していたが、出血が酷い。
美女は倒れた護衛の一人の腰からベルトを抜き取り、霊夢の打たれた足の太ももにきつく縛り付けた。
手馴れた様子で、携帯していた救急キットで霊夢達の応急処置を行なう女性に、霊夢は声を掛けた。
「永琳、お久しぶりね」
「霊夢、随分老けたわね」
「いったい何十年経ったと思ってるのよ。あんたは相変わらず美人で妬ましいわね」
「姫である私を忘れるなんて、無礼なところは相変わらずね。霊夢」
「ああ、あんたもいたの?」
「むき〜〜〜〜〜!!この姫の勇姿を見てないの〜〜〜〜〜!?」
黒髪の美少女はライフルを握ったまま、両手を振り回した。
八意永琳と蓬莱山輝夜。
月人達との数十年ぶりの再会は、このような、とんでもない現場で行なわれた。
三人は、救急車と病院で久々の再開を喜んだ。
蓬莱人の二人は崩壊前の幻想郷から出て、世界を漫遊していた。
彼女達は裕福であった。
永琳が考案した新薬や医療技術の特許で、莫大な富を得たからである。
ちなみに、それら特許はボーダー商事が言い値で使用料を支払っていた。
久々にこの国を訪れたところ、今回の現場に居合わせたとのことである。
こんな偶然、奇跡としか言いようが無い。
奇跡が起こる運命を、誰かがお膳立てしたのか。
霊夢は、誇り高く散っていった二柱の神と風祝、
それに幼き紅き親友の姿を思い浮かべた。
見舞いに来た紫と元式神二名も交え、蓬莱人達は久々に旧交を温めた。
永琳達はしばらくはこの国に留まるとのことであった。
哀れな元博麗の巫女が退屈せぬように見舞いに来てやっても良い。
そう言って毎日霊夢の元にやって来ては、見舞いの品の菓子や果物を食べ散らかして自慢話をする輝夜。
臨時に霊夢の主治医となり、毎日霊夢の診断をしたり、若い医師や看護士達からのサイン攻めに遭う、
国際的名医として有名な永琳。
霊夢がそんな騒々しい入院ライフを送っていた時に、
紫が病院に担ぎ込まれたのであった。
永琳は、
紫を診察して、
余命幾ばくも無いことを紫達に告げた。
紫は、
「そう」
とだけ言った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紫に血族はいない。
生涯独身を通すつもりであったから。
しかし、家族はいる。
紫の養女であり、側近であり、紫の死後、その業務を引き継ぐ元式神、八雲藍。
藍の養女であり、側近であり、ようやく『八雲』を名乗れるようになった元式神の式神、八雲橙。
人間となった二人の元式神は、既に人間の伴侶を得て、大勢の子宝に恵まれていた。
彼女達の子供達、孫達が大勢、紫の病室に遊びに来た。
紫の病室は、病院の一フロア丸ごと使用した豪勢なものであったが、手狭に感じるほどであった。
「橙義姉さん、経団連の方々が紫様のお見舞いに来られました」
「橙おばさーん、花瓶はこっちに置いていいの?」
「おばあちゃ〜ん、おしっこ」
「あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜!!ったく、もうっ!!」
橙は一族の年少者達をまとめようと必死であった。
幻想郷でも、猫達相手に似たような光景を見たことがあるような。
そう霊夢と藍は思ったが、口には出さなかった。
幻想郷では博麗の巫女として、現在はボーダー商事の顧問弁護士として紫の仕事の手伝いを行い、
私事では友人、若い時は恋人として紫と付き合っていた、博麗霊夢。
彼女も、生涯独身でいるつもりらしい。
跡継ぎとか、もう気にする必要は無いでしょ。
霊夢は自由を謳歌するとのことであった。
だが、彼女の浮いた噂をついに聞くことは無かった。
彼女の人生は、紫と共にあるようなものであった。
いいのよ。好きでやってることだから。
そう霊夢は笑いながら言った。
それに、久しぶりに再開した月出身の蓬莱人達。
永琳は紫の主治医も勤め、
輝夜は、あらスキマババア、ま〜だ、おくたばりしてなかったの?と減らず口を叩いた。
幻想郷出身者達も、大勢見舞いに訪れた。
皆、社会的地位の高いものばかりにも拘らず、時間を捻出して紫の元に駆けつけた。
彼等の見舞いの品を収納するため、部屋が一つ倉庫と化した。
色々な賞を総なめにした大人気作家の稗田阿求は、
目の下にくまを作ったやつれ顔で、紫の病室を訪れた。
彼女は見舞いもそこそこに、匿ってくれと言ってきた。
紫達が返事をする前に、出版社の人が阿求の首根っこを引っつかみ、連行していった。
せんせ〜い、原稿、早く書いて下さいよ〜。
ええ〜ん。堪忍して〜。
紫達は、阿求の冥福を祈った。
何はともあれ、紫の入院生活は退屈することは無かった。
最期まで。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紫が昏睡状態から一時的に目を覚ました時、
紫の病室には、藍と既に怪我が完治した霊夢が詰めていた。
紫が何か言いたそうにしていたので、
酸素吸入マスクをそっと外し、二人は耳を傾けた。
紫の言ったことを聞いた二人は、お互いの顔を見た。
二人は聞いた内容は間違いないことを確認した。
紫はこう言ったのであった。
「菓子折りを用意して」
二人はその理由を尋ねた。
「友人の手土産にするのよ」
紫の友人。
二人はその友人は、この世界の者では無いことを理解した。
藍は幻想郷にいた時から、その手の用事をよく言いつけられてきたので、
今回も彼女が菓子折りの調達に出かけた。
程なくして戻ってきた藍は手に、有名デパートである霧雨百貨店の紙袋を携えていた。
中から取り出した包みは、箒に乗った魔女のシルエットに色とりどりの星があしらわれた柄がプリントされていた。
この菓子折りは、大人気の洋菓子店、ブルーム・ジョッキーのものであった。
この霧雨百貨店にある洋菓子店は、今は亡き森近霖之助が開いた店であった。
そして、半ば趣味で経営したにも拘らず、雑誌等に取り上げられ好評を博した。
霊夢は菓子折りの包みを、かつての友人でありライバルであった努力家の少女を思い出しながら、
しみじみと眺めていたが、
「よく買って来れたわね」
この店は連日行列が出来て、早い時間に品切れになることが常であったことを思い出し、藍に尋ねた。
「霖之助さんの遺言が、まだ有効だったのよ」
霖之助は幻想郷出身者に対して、優先的に菓子を売ってやるように遺言を遺していた。
霖之助の弟子であった現経営者(彼も幻想郷出身者)は、師の言葉をしかと守ったのであった。
紫は、藍の見立てに満足して、目を閉じた。
紫はその後、再び昏睡状態に陥り、
その日の深夜、紫を慕う大勢の人々に看取られて、
息を引き取った。
こちらの世界に来て数十年の人生。
大往生であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幻想郷の死神は、大鎌を持っていた。
こっちの世界の死神は、二振りの刀を持っていた。
紫は思ったままを口にしていた。
「紫様、冗談がきついですね」
紫の友人である冥界の姫、西行寺幽々子に仕える庭師の少女、魂魄妖夢は憮然とした表情でそう言った。
月の光が射し込むのみの、無人の病室。
紫の遺体は自宅に返され、今頃、葬儀の準備中か。
今の紫は、魂のみ。
姿は若かりし頃のものをとっていた。
赤い紐のようなリボンが付いたキャップを被り、
ドレスの上から導師服を纏い、
右手には愛用の日傘を持ち、
左手には、霧雨百貨店の紙袋を持っていた。
「閻魔様の裁きを受ける前に、幽々子様の元にお連れいたします」
「あらぁ、そういうの有りなの?」
「ええ、幽々子様が尽力されて実現しました。この展開は予想していたのではないですか?」
妖夢は、紫が持っている紙袋をちらりと見ながら答えた。
「そうね、私の親友なら、そのぐらいやると思っていたわ」
紫は何時の間にか手にしていた扇子で口元を覆った。
「……では、参りましょうか」
妖夢が紫に向かうように促した方向には、病室の窓があった。
「よっ、また会ったね」
幻想郷の死神、小野塚小町が窓の外いた。
ちなみに、この病室は七階にあった。
「お久しぶりね、小町。四季映姫様は息災かしら?」
「ああ、四季様は今、こっちの閻魔やってるよ」
「え゛っ!?」
紫は小町の言葉に仰天した。
「驚いた?あたいがこっちにいる時点で気付いてよ」
「不覚……」
「現在、四季映姫様は旧幻想郷地区担当の閻魔をやっていて、
あたいもこっちの渡しをやってるって訳。お分かり?」
「旧友との再会後、四季様の長ったらしいお説教が待っていることが分かったわよ」
すっかり落ち込んだ紫とは対照的に、小町はからからと笑った。
「今回は、あたいはあんたの送迎を四季様と白玉楼の主から仰せつかってるのさ」
「紫様、お乗り下さい」
窓の外を見ると、小町の乗った渡し舟が空中に浮いていた。
紫と妖夢が乗ると、小町は船を漕ぎ出した。
空を飛ぶ船つながりで、紫はふと、聖輦船のことを思い出した。
たしか、どこかの山奥で、『方舟』の残骸が古の聖人の遺体と共に見つかったとか。
三流週刊誌にそんな記事が載っていたことを思い出した。
紫は、ふふ、と思い出し笑いをした。
夜空を飛ぶ渡し舟に乗った紫。
その優雅に日傘を差した姿は、舟遊びを楽しむ貴婦人のようであった。
二刀を携えて渡し舟の船首にいる妖夢。
その凛々しく腕組をして立った姿は、決闘に赴く侍のようであった。
船尾で艪を漕ぐ小町。
その黙々と操船する姿は、死神というより船頭さんそのものであった。
船は高度を上げ、雲を抜け、冥界の門を抜け、
「と〜ちゃ〜く」
白玉楼に到着した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
小町を船に残し、
妖夢の案内で、
紫は白玉楼に通された。
座敷の前で、
「幽々子様、紫様をお連れしました」
妖夢は声を掛けてから襖を開けた。
そこには、
紫の親友、西行寺幽々子が優雅に扇子をひらひらさせて待っていた。
「紫、お久しぶりね。前に来たのは貴方が幻想郷の管理人を引退する直前だったかしら?」
相変わらず、どこと無く眠たそうな顔をして、そう挨拶した。
「幽々子、元気そうで何より」
亡霊に向けて元気そうもあったものではないが、
幽々子は特に気にしてはいなかった。
「貴方もね、紫」
死んでここに来た紫にそれは無いが、
紫も特に気にしてはいなかった。
二人揃って、ふふ、と笑った。
「まずは、旧友との再会を祝して」
庭に面した障子が開け放たれた。
それと同時に流れてきた陽気な音楽。
はっきり言って、和風の白玉楼に合わない音楽。
紫には馴染みのある音楽。
西行妖の下でスタンバっていたプリズムリバー三姉妹による、
株式会社ボーダー商事の社歌の演奏であった。
「「「う〜〜〜〜〜っ、ボーダー商事ッ!!」」」
蛇足であるが、正式なボーダー商事の社歌はもっと堅苦しいものである。
この歌は、よく八雲一家が宴会の席で歌ったものであった。
幻想郷の面々は歌の内容を半分も理解できていなかったが、
賢者様が馬鹿っぽく歌う様が受けたものであった。
紫は涙を流した。
涙を流して、
腹を抱えて、
笑った。
ツボに入ったようだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
演奏を終え、座敷に上がってきたプリズムリバー三姉妹を紫は労った。
「素敵な演奏と歌だったわよ」
「有難うございます」
「どうも〜」
「ねっ、私の選曲に間違いなかったでしょ!?」
紫は幽々子に土産を渡した。
「これ、外界で流行のお菓子だけど」
「あらぁ、いつも済まないわねぇ」
幽々子は嬉々として、菓子折りを受け取り、
丁寧に包み紙を剥がした。
剥がした包み紙は畳んで脇に置いた。
菓子折りの箱を開けた幽々子は、
「まあ」
感嘆の声を上げた。
それはゼリーの詰め合わせであった。
透明なゼリーの中には、大粒のマスカットと桜の花の塩漬けが封じ込められていた。
その商品名は、『白玉楼』であった。
若い頃、知人が訪れた広大な庭を持つ邸宅、
そこに住む美しい女主人と凛々しき庭師をイメージして、この菓子を作った。
そう書かれた説明文が、考案者である眼鏡を掛けた初老の男性の写真と共に、箱に封入された紙片に載っていた。
その男性の名と包み紙の魔女の図柄から、幽々子は合点がいったようだ。
このゼリーは、ここにいる皆に一個ずつ振舞われた。
当然、残りは全て、幽々子が平らげた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紫と幽々子、久しぶりに会った二人。
会話の内容は、取り留めの無いこと。
幻想郷崩壊前に来たときも、同様だった。
ただ、内容は最新の物になっていた。
藍と彼女の夫はラブラブで、子沢山なの。
妖夢にも、そんないい人はいないものかしら。
私は幽々子様の面倒を見るので忙しく、そんなめぐり合いはありません。
橙は子供達に好かれていて、自分の子も他人の子も分け隔てなく面倒を見てるの。
妖夢はちょっと近寄りがたいと思われているみたいなの。
私はまだ未熟者ゆえ、そんな余裕はありません。
霊夢はすっかりお堅くなっちゃって、少しは肩の力を抜いてくれれば良いのだけれど。
彼女は例の件で辛い思いをしたから。でもリラックスすることは大事よね。妖夢。
幽々子様がもう少ししっかりしていただければ、私も気を抜けます。
二人は、妖夢が相変わらず半人前の堅物であることを確認した。
幻想郷崩壊前に来たときも、同様だった。
気が付けば、随分と時間がたっていた。
さてと。
名残惜しいが、
そろそろお暇しよう。
紫は、どっこいしょと、立ち上がった。
幽々子と妖夢も、紫を見送るために立ち上がった。
プリズムリバー三姉妹は、『蛍の光』を演奏し始めた。
紫と幽々子と妖夢は、小町の待つ渡し舟の側まで来た。
昼寝をしていた小町は、三人が近づいてきた気配で目を覚ました。
紫は船に乗り込んだ。
「それじゃ、今度は四季映姫に会いに行ってくるわね」
「お説教の最中に居眠りしちゃ駄目よ〜」
「しないわよ。そこの船頭さんじゃあるまいし」
「ひ、酷いな〜お客さん」
「それじゃね、幽々子」
「また来てね、紫」
「お待ちしております、紫様」
別れは、いつも通りだった。
幻想郷崩壊前に来たときも、同様だった。
「よ〜そろ〜」
「そんな大層な船じゃないでしょ」
渡し舟は手を振る白玉楼の二人に見送られ、
三途の川に向かった。
何時の間にか、船は川の上を進んでいた。
「お客さん、渡し賃はあるんだろうね?」
「小切手で宜しくて?」
紫の差し出した小切手の金額を記入する欄に、
一国のGDPに相当する額が浮かび上がった。
「こりゃあ……、たまげた……。これなら直ぐに彼岸に着くよ」
「あら、それじゃ、あまり貴方とおしゃべりできないわね」
それじゃあと、小町は紫に一つだけ尋ねる事にした。
「悔いの無い人生を送れたかい?」
「ええ、妖怪としての生は波乱に満ちたものだったけれど、
人間としての生は安寧に満ちたものだったわ」
紫はそう、満足そうに微笑みながら答えた。
船はもう岸に着いた。
「じゃ、四季様がお待ちかねだ。いっといで」
「ええ、閻魔様のご尊顔を拝するのも久しぶりで、楽しみだわ」
紫は、幽々子のような旧友に会いに行く気軽さで、裁判所に向かって歩き始めた。
四季映姫の説教は、三途の川の船旅より確実に長い。
そんな分かりきったことを考えながら。
――それでは皆さん、また何時か、何処かで逢いましょう――
『箱庭を手に入れた紅の暴君』のアフターストーリーです。
未成年の受験生も読んでくれたそうなので、今回はエロ無しです。
2010年11月7日(日):皆様のコメントに対する返事追加
>1様
親友との再会はいつもの通り。これが最上級のもてなし。
霊夢は神からも悪魔からも愛された、楽園の素敵な巫女でしたからね。
>2様
貴方の一言は、私の励みとなりました。
>3様
冥界は人の住むべき場所ではないですから、
幽々子と妖夢をどう話に絡ませようか考えた末、こういった形となりました。
人間になった紫は、敵も多かったですが、それを上回る人々に好かれたのでした。
>4様
主人公の一人でありながら、非業の死を遂げた魔理沙。
彼女は皆の心の中で生きています。
ひじりんは確かに聖者様でした。
裸のおねえちゃんと与太話がメインの三流誌の上でですが。
>5様
人の数だけ幻想郷はあります。
排水口のは、ほんのすこ〜し、玄人向けですけどね。
>6様
いつもと変わらぬ幽々子と紫のやり取り。
いつもと変わらぬ別れの挨拶。
二人は親友ですから、特別な言葉は不要ということで、こう書いたのですが、
感動していただき、光栄です。
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/10/30 19:18:27
更新日時:
2010/11/07 07:36:06
分類
紫
霊夢
藍
橙
永琳
輝夜
阿求
小町
幽々子
妖夢
プリズムリバー三姉妹
『箱庭を手に入れた紅の暴君』の後日譚
早苗もオゼウも最後まで粋な計らいをするもんですねw
前回でみんなが気にした冥界組が来てくれるとは
そうだよな、紫の最後っつったらやっぱこいつらだよなあ
後小切手に泣いた そんだけ好かれてたってことだから
前作で不遇だったキャラに対する完全なフォローになってる。
まだ親しい人々の心に生き続ける魔理沙の存在に安心した。
末路は悲惨だったけど、その死骸を「聖者」と呼んでもらえた白蓮に
なんともいえない感動を抱いた。
しんみりとするいい話でございました。
・・・・だがな!俺たちの『夢(創作)』は、まだまだ終わらねえぜ!!!
「また来てね、紫」
・・・感動した・・・