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『ドードーとメリーゴーラウンド』 作者: あめふら
うらめしやー! どーだ! 驚いたかー!
え? 全然? 少しくらいは……ああ、これっぽっちも。そうですか……。
はあ。どうして誰も驚いてくれないのかなあ。
ん? なに?
どうして左右で眼の色が違うのか?
ああ、これね、赤い方は硝子玉なの。本当だよ。ほら、見てて。取れるもん。
ほら! 本当でしょ! ね!
え? 傘よりもこっちの方が驚く? それは盲点! じゃあ、次からは目玉を取って見せればいいのね!
え? それじゃあ傘の意味が無い? うう、それは困る……。
ん?
違うよ。最初はちゃんとあったんだよ。こっちとおんなじ青い眼が。
……いつから、って言われても、覚えてないなあ。ずっと前のことだもん。
原因もね、多分あれがそうだったんじゃないかなっていうのはあるけど、本当のことは全然解らないの。
だからあんまり考えないようにしているんだけど……えー。聞きたいの? 嫌だよー。驚いてくれなかったのに。
えっ、話を聴いて驚くかもしれない? むー。そう言われると断れないじゃない。
でも、上手にお話出来るか解らないよ? 私だって解らないんだし。いいの?
ん、わかった。
夢のお話なの。
失礼ね、妖怪だって眠りもすれば夢くらい見るんだよ。
真っ暗の中に一人でぽつんと立っているの。上を見ても下を見ても、右も左もずっと先まで、夜よりも暗くて何も見えない。
そんなところに、たった一人で立っている。
周りには何も見えないけれど、私は自分の姿が見える。
だから目が潰れたんじゃないとまず安心して、次にここは何処だろうと不思議に思って、それから、自分が手ぶらなことに気付いたの。
私はね、この傘を手放したことが一度も無い。片時もね。寝る時だって一緒なの。だって、この傘は私自身だから。
でも、その時私は傘を持っていなかったの。
おかげで急に心細くなって、慌ててあちこち探したんだけれど、なにせどっちが地面でどっちが空か判らなくなるような暗闇の中だから、探しても探しても全然見つからなくて、ひょっとしたらこのままずっと見つからないんじゃないかと思うと、凄く怖くなって、涙声で何度も呼んで、随分長いこと探していたと思う。
そうしたら、ずっと遠くにね、一番星みたいな光が見えたの。
行ったよ。もちろん。だって光明が見えたんだもん。表現としてはよくあるけれど、私はそれを体験したんだから。
それでね、最初は出口かなって思ったんだけれど、近づいて行くにつれて、だんだん光の輪郭がはっきりしてきて、だからカンテラかなって思ったんだけれど、近づいて行くにつれて、だんだん輪郭が大きくなって、最終的にはね、大きな小屋があったの。暗い中にぽつーんと。
ええと、小屋っていう感じでも無いのよね。どう言ったらいいんだろう? おっきなお神輿みたいって言うとまた違うし。
んーと、丸い床があって、床の真ん中に一本の太い柱がどっかり立っていて、傘みたいな丸い屋根を支えている。
床にも柱にも、細かい蔦みたいな装飾が彫られていて、全部が全部金色に塗られている。
天井からは金板で出来た飾りが藤棚みたいに下がって、風も無いのにしゃらしゃらと動いている。
それで、真ん中の柱以外にも細い支柱が何本もあって、一本一本に木馬が刺さっているの。
これがすごく良く出来た木馬でね、ちゃんと一つ一つ顔が違うのよ。白いのもいたし、栗毛のもいたし、太っているのとか、痩せているのとか、風を切って走っているのとか、とことこ歩いているのとか、そのどれにも鞍がついていて、手綱もあって、実際に乗れるようになってるの。
それで乗ってみたらね、途端にぱあっと沢山の明かりがついて、オルゴールみたいな音楽が流れてきて、木馬が動き始めたの。
柱ごと上下にぎったんぎったん、そして床が円盤になっていて、同じところをくるくる、すいーすいーって流れるように動くの。
そんなに速くはないんだけれど、でも、床も天井も光をきらきら反射して、色とりどりの硝子を空中に撒いたみたいな、金色銀色の粉が動くたびに少しずつ空気に溶けていくみたいな、透き通る宝石の粒を沈めた水槽を上から見ているみたいな、なんて言ったらいいんだろう? とにかく、すっごく綺麗だったの! 万華鏡みたいで!
それでね、すっごく楽しくてね、しばらく乗っていたんだけれど、傘のことを思い出して慌てて飛び降りたの。
そしたら、音楽も止んで、動きも止まっちゃった。
屋根の上からがたごと物音がするのに気がついたのは、静かになった小屋の周りを探していたとき。
飛び上がってみたら、すっごく変な恰好をした鳥が私の傘を持っていて、屋根のちょうど真ん中に突き立てようと夢中になっていたの。
うん。変な鳥だったよ。結構大きくて、羊みたいにずんぐりもこもこしていて、嘴は顔の三倍くらいあったし、というか嘴に眼と鼻がくっついてるって感じで、首もぼてっとして短い。翼も短くてまるで飾りみたい。あんなのじゃあ絶対に空なんか飛べないと思う。あれでどうやって私の傘を掴んでいたのかさっぱり解らないわ。でも、羽の代わりに足がとても強そう。
その鳥がどういう訳か、私の傘を持って、屋根の上に取り付けようと真剣になっているの。
もこもこお尻を振りながら、傘を開いたり閉じたり、突き立てては角度を少し変えてまたやり直したりして、本当は怒るところなんだけれど、まるで傘を見たことも聞いたことも無い人が必死に使い方を探しているみたいで、あんまりにも真剣だったから何だか面白くて、「私の傘だー!」って怒鳴る前にね、「何してるの?」って訊いてみたの。
答えてくれたよ。
「ここに飾りを付けるんだ。そう決まったから」
そう言って私には目もくれずに作業を続けていた。
「屋根の真ん中に傘を差すの?」
「そうさ。見れば解るだろう」
「どうして?」
「そう決まったから」
「あなたの手、っていうか羽じゃあ無理だと思うけど」
「コーカス!!」
突然大声で鳴くからびくっとした。私が口を閉じたら、鳥はまた黙々と作業を続けた。
そのうち力ずくで押し込んだり、ネジみたいに回したり、目の前で私の傘をそんな風に扱われて黙ってはいられなかった。
「ねえ、そんな風に乱暴に扱わないで。私の傘なのよ」
「何でこれが君の傘なんだ?」
「だって私の傘だもん」
「証明できる?」
そう言われたから、私は傘からぺろっと舌を出して見せた。
「ほら! これ私以外には出来ないんだよ! ね。私の傘だって解った?」
「なんで?」
「『なんで』!?」
「君以外には出来ないって何で言い切れるんだ」
「だって、その傘は私だもん!」
「そう言っているのは君だけかもしれない」
「違うもん! 私の傘なの! いいから返して!」
「そうだね。君の傘だ」
「じゃあ返して!」
「駄目だよ。そう決まったから」
流石に頭にきてね、鳥にぶつかって行って、思いっきり叩いたり蹴っ飛ばしたりしたんだけれど、鳥は全然堪えていなくて、まるで私の存在なんて無視して、ただただ作業を続けている。
「返して! 返してよ! 返せ! 返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!!!!」
「コーカス!」
こんなに叫んでいるのに、まったく聞こえていないふりをして、だんだん悔しくなってきて、
「かえせっ! 私の……ひっぐ……かえして……」
「やった! はまったぞ! コーカス! コーカス!」
突然大きな声を上げて飛び跳ねて、大はしゃぎで傘の下をくるくる回り始めた。
鳥を押しのけて傘の元に駆け寄ったら、もう駄目なの。いくら引っ張ってもびくともしない。溶接されたみたいに屋根とくっついてしまっていた。
どうすればいいのか解らなくて、頭の中が真っ白になっちゃった。
力が抜けてへたりこんでいたら、いきなり鳥が私の腕を掴んで屋根から飛び降りた。
「コーカス! 何をしているんだ! 君も回るんだ!」
剥製みたいな顔で詰め寄られて、涙がぼろぼろ出てきた。
「……ひっぐ……傘……私の……ひっぐ……かえして! かえして!」
鳥は私をゴミでも捨てるみたいにその場に放り出して、自分は小屋の周りをくるくると回りだした。
するとまた眩むような明かりがついて、木馬がぎこぎこ動き出した。
串刺しにされた馬が、なんとか逃れようと血を流して泡を吹きながらもがいているようにしか見えなかった。
屋根の上で私の傘が、馬とは反対方向に回っていた。
「コーカス! コーカス! コーカス!」
「かえじでっ!! 私の傘かえして!! ……ひぐっ……うわあああん……」
目が覚めたら、片目が無くなっていた。
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/11/02 15:53:20
更新日時:
2010/11/03 00:53:20
分類
小傘と何だかよく解らないものの話
夢で大事な傘を理不尽な理由で失い泣いた。これは失明の暗示?
本体である傘の所有権の証明不能、つまり自己の存在理由の回答不能。
妖怪の場合、答えられないと存在が消えてしまうかも。その所為で片目が消滅したのか?