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『フランドールの華麗なる日常3』 作者: 機玉
※この話は「フランドールの華麗なる日常2」の続編です。
そろそろ前の作品を読まないと分からない部分が出てきてると思います。
あと今回はちょっとマイナーな固有名詞が出てきてるので一応語注を付けておきました。
別に読まなくても大丈夫ですが、気になった方は読んでみてください。
【太陽のライバル】
先日空と触れ合うと八咫烏の力の影響か火傷を負ってしまう事が判明した。
そこで今回は太陽の力へ対抗する手段について考える事にする。
空については触れなければ問題ないが空以外に太陽の力を身に付けた者が出た時に敵対されると困るのだ。
そんなふざけた妖怪がほいほい出てきたらたまったものではないが、出てきても不思議ではないのが幻想郷クオリティ。
対策を講じておいて損はないだろう。
・
・
・
どうしよう。
一時間くらい考えたけどほとんど思いつかない。
吸血鬼が太陽モドキに触れても大丈夫な方法ってよくよく考えると無茶な話だ。
それだけにやり応えはあるが。
一応思いついた範囲で振り返ってみる。
真っ先に思い付いたのは遮光板だったが……そりゃ日光しか防げない。
あと物理的接触を避ける物ではあまり意味がないだろう、それなら簡単だし。
もっと皮膚同士が触れ合っても平気な方法を考えたい。
で、考えたのが別の存在による支援、加護等だ。
空の能力も元は彼女自身の力ではなく神様から貰ったものだった。
言い換えれば神様がバックに付いているのだ。
なら私も誰かを頼ってみれば良いかも知れない。
さて、問題はここから。
太陽に勝てる存在って何?
とりあえず手軽で身近なものを対抗馬にあげてみよう。
我らが夜の眷属の味方、お月様だ。
太陽以外の恒星というのもちょっと考えたのだが、それの場合別の星系の太陽をしている可能性があるのでやめておいた。
スペックを比較してみましょう。
直径―太陽>月
体積―太陽>月
年齢―太陽≒月
大気―太陽:一応あり 月:ほとんど無し(表は)
備考―太陽は核融合で絶賛炎上中(燃え尽きるのは多分妖怪の感性でも途方も無く先)
月は、枯れてるとしか言いようがない(表は)
うーん、やっぱりこうしてみると太陽の方が存在感あるね。
そういやインノケンティウス三世(※)も言ってたな「教皇は太陽、皇帝は月」って。
あーでもその後教皇の権威失墜しちゃったんだっけ。
それに月に月人とかいう自称平和主義民族が住んでるらしいけど、どうなんだろう。
彼等の優れた科学技術ならば或いは太陽の存在感を上わまれるか?
これで太陽にも実は裏側があって太陽人が住んでましたとかだったら笑うしかない。
幻想郷なのに理詰めばかりで考えるのもあれなんで少し視点を変えてみよう。
古来から日本では月に対して並々ならぬ信仰があったらしい。
幻想郷はその成立ち上昔の書物とかも割とあるが、まあ月のよく出ること出ること……
太陽はそれに比べてあまり出ない。
流石にあんな眩しい物眺めて風流とか言う事はないらしい、朝日や夕日は別にして。
勿論太陽に対する信仰もあるが、どちらかというと在ってくれればそれで良いという感じなのだろう。
人の生活に不可決な太陽、重力のバランスや夜の明かり等で住める環境の保全に必要とはいえ鑑賞としての色が強い月か。
月じゃやっぱり力不足かな。
機会があれば迷い竹林に隠れ住んでいるという月人に今度聞いてみよう。
今回の問題はとりあえず保留という事にした。
【手紙のついでに新聞を刷る】
私、姫海棠はたては現在紅魔館地下にやってきている。
許可は取ってるので決して潜入ではない。
なぜこんな場所にいるかというと、事情は昨日に遡る。
先日私は天狗の飲み会に出席していたのだが、その時酔った文からこんな話を聞き出したのだ。
「ふはははは、花果子念報の部数もまだまだね。
これじゃあ私に勝とうなんて1000年早いわよ!」
「くう〜なによなによ、あんただって他の新聞と比べたら大して読まれてないじゃない!」
「甘い甘い、例え他の新聞と比べて部数が少なくても文々。新聞には山の外にもたくさん固定ファンがいるわ。
安定して待ち続けてくれる人がいるというのは記者にとって大きなステータスなのよ」
「むむむ、じゃあ私だってたくさん固定ファンを付けて見せるわ!」
「せいぜい頑張りなさい。
大物妖怪の一人ぐらい購読者にすれば認めてあげるわよ〜」
酒の席での話なので文はもう覚えてないかも知れないが私にとっては至って真面目な問題だ。
なんとしても大物妖怪を購読者にして文や他の天狗達を見返してやらなければならない。
私は天狗の新聞を購読していない大物妖怪を一晩かけて調べあげた。
その結果意外と多くの者が見つかったのだが、やはり他の者が手を出していない妖怪というとそれなりの理由がある奴ばかりだ。
紅魔館……他の天狗と契約済み
白玉楼……他の天狗と契約済み
永遠亭……他の天狗と契約済み
守矢神社……他の天狗と契約済み
命蓮寺……他の天狗と契約済み
八雲紫……どこにいるか分からない上に動物虐待常習犯
上白沢慧音……能力上読む必要無し
風見幽香……考慮の余地はあるが、強い上に寝ている事が多くなかなか話せない
四季映姫……仕事中毒、読む暇無し
地底……危険地帯、まだハードルが高い
「はあ〜どうしよう……」
妖怪のリストを眺めて憂鬱になる。
やはりそう簡単にはいかない。
―とりあえず今は諦めて普通の天狗か見向きしないような低級妖怪で妥協しようかな……
そんな考えが浮かんだ時、私が頑張ってかき集めた情報の中のある人物が目に入った。
フランドール・スカーレット:レミリア・スカーレットの妹であるという事以外詳細不明。
党首の妹でありながら紅魔館を訪れても滅多に会うことがない謎の人物。
「これは、もしかして脈あり?」
謎に包まれた悪魔の妹、フランドール・スカーレット。
理由は分からないが紅魔館の住民をも滅多に会うことがないならば、或いは彼女と個人契約を結ぶ事ができるかも知れない。
仮に契約が無理だったとしても彼女を取材すればきっと良い記事が書けるだろう。一応私より年下だから話し易いかも知れないし。
私は早速取材の準備をして家を飛び出した。
その後、私は紅魔館でレミリア・スカーレットにフランドール・スカーレットとの面会を申し込んだ。
許可は意外にもあっさり下りた、ただし万が一何かがあっても自分の身は自分で守るという条件付きで。
思わずそんなに危険な人物なのかと質問してみると彼女はこう答えた。
『危険か、と聞かれれば間違えなく危険ね。咲夜には会う事を許可してないし。でも悪い奴ってわけでもないからある程度はあなた次第よ』
望むところね。
そして現在に至る。
紅魔館の地下図書館の前を抜け、奥に進んだ所にある階段を下りる。
倉庫の入口と思われる扉の脇を通り過ぎ、曲り角を二回曲がって階段でさらに下へ。
地上の遥か下、地下三階にフランドール・スカーレットの部屋は存在していた。
場所はここで間違いない、ネームプレートもかかっているし。
しかし……
「これ、扉?」
その部屋の入口を塞いでいたのは金庫の蓋を連想させる重厚な丸い扉だった。
ドアノブと呼び鈴が無ければ本当に金庫と間違えていたかも知れない。
とりあえず呼び鈴を押してみよう。
『はーい、どちら様?』
「私姫海棠はたてという者なんですが、私が書いてる新聞を是非読んでいただきたいんです」
『あ〜天狗かしら?そういうのは上にいるお姉様にあたった方が良いと思うわよ』
「いえいえ私はフランドールさんに読んでもらいたくて来たんです」
『私に?なんで?』
「フランドールさんはあまり外に出ていないようなので、こういう話もあんまり来てないんじゃないかと思って」
『ふ〜ん、まあいいわ。今開けるから少し待ってて』
よし、話を聞いてもらえた!
あとは新聞を読んでもらい、あとは彼女自身についても少し聞いてみよう。
少しすると重々しい音を立てて扉が開いた。
「いらっしゃい、とりあえず中に入って」
「お邪魔します」
天狗か、ここまでわざわざ尋ねて来るのは珍しいわね。
まあわざわざこんな端っこの部屋まで尋ねてくれたのだ、歓迎しよう。
「お茶は紅茶でいいかしら?」
「あ、はい。でも私人間は」
「ああ、普通の紅茶で出すわよ」
「ありがとうございます」
天狗は元々山で修行を積むイメージもルーツの一つである為か、直接的な人喰いはあまりしない。
「そういえば、あなたもしかしてまだあまり記者の仕事に慣れてない?」
「え、どうして分かったnいや、分かったんですか?」
「慣れてないなら敬語じゃなくてもいいわよ、気にしないから」
「じゃあ遠慮なく。どうして分かったの?」
「さっきあなた人によっては怒りかねない事言ってたから」
「え、そうだった!?」
「あんまり外に出てない、とかは良くないわね〜。
名前があまり知れてない、なんてどう?」
「いやそれもっと怒られるんじゃ……」
「ん?そうか。じゃあ、『あなたに会いに来るのに理由など必要でしょうか?』とか」
「ただの変人じゃない!」
「う〜ん、難しいわね」
「あー……後で同業者にでも聞いとくわ、気遣いどうも」
それが一番か。
良い挨拶の方法を考えるというのは引きこもりの私には少々荷が重かったようだ。
「じゃあ新聞見せて頂戴」
「あ、はい」
「没」
「即答!?せめて中身ぐらい見てよ!」
「だって何よこれ?たったの紙一枚じゃない。
せめて二枚重ねた状態で4ページ分ぐらい作りなさいよ。
天狗の新聞は不定期なんだからそれぐらい作れるでしょ」
「うぐぐ……努力するわ」
「よろしい。じゃあちょっと読ませて貰うわよ」
・
・
・
「はい、終わり」
「どうかしら?」
「そうね、新聞としては正直良く書けてると思うわ。
ただ、読み物として面白いかっていうと微妙ね」
「具体的にどういう事?」
「つまりね」
はたての新聞は天狗の新聞にしては珍しく私的なコメント、注釈などが控え目に書かれており、あくまで情報を知らせる為の物としての特色が濃い。
私は他の天狗の新聞もある程度読んだ事があるが、それらは荒唐無稽かつ事実無根な内容や執筆者の恣意的な意見で彩られた極めてセンセーショナルな内容の物が多かった。
天狗の新聞のそのような傾向は既に幻想郷でも広く知られていて、どちらかと言えば情報源というよりも娯楽書籍として見られている(漫画家に転向する元記者や両方に手を出している者がざらに居る事から天狗も開き直っている事が分かる)。
だからはたての新聞は真っ当な新聞としては評価に値するが、ある意味皮肉な事に『天狗の新聞』としては非常につまらない出来となっているのだ。
「分かったかしら?」
「そうなんだ……」
ここからどうするかははたて次第だ。
ただ既に飽和状態になっているこの市場で部数を伸ばす事を目的に売るとしたら、他の天狗達と同じような記事を書いても難しいだろう。
私は別に記者ではないから大したアドバイスはできないが、私が読んで面白いと思える出来になればとってもいいかな。
そんな事を考えながらはたてを見ていると、ある事に気が付いた。
「ねえあなた、カメラは?」
「え、何?」
「ほらカメラ。記者なら大抵はどこに行く時でも首に下げてるのにあなた持ってないじゃない」
「ああ、そういう事。私のカメラは、ほら、これだから」
そう言ってはたてがポケットから奇妙な物体を取り出した。
チェッカー盤柄の四角の物体にハートマークと小さな筆のような物が付いた物だ。
「これがカメラ?」
「そう、私のカメラよ」
「なんとまあ……随分前衛的なデザインのカメラね」
「外の世界の携帯電話って道具を流用した河童の試作品だったのよ。
試用を頼まれたんだけど性能が良かったから頼み込んで譲って貰ったの」
「ああ、河童か。ちょっと使って見せてくれる?」
「いいわよ」
はたては快諾すると私の脇でポーズをとっていたサボテンに向けてシャッターを切った。
「どれどれ……ってピント合ってないじゃない」
「む、失敗したか。
この前は念写で撮ったから感覚が鈍ったかな」
「ちょっとストップ!今、何て言った?」
「念写で撮ったから感覚が鈍ったかな、って」
「あなた念写なんて出来るの?」
「私の能力なのよ。
こうしてこのカメラに文字を入れるとそれに因んだ写真が撮れるのよ」
「何それ凄いじゃない。
遠慮なくそれで撮っちゃいなさいよ」
「いやでもこれ誰かが撮った写真じゃないと撮れないのよ」
「え〜本当に?」
「多分、見た事ある写真だってよく言われるし」
「ちょっと待ってて、調べてみたいから」
私は部屋の引き出しから昔の写真を取り出した。
カメラがまだ発明されたばかりの頃の写真で、板に現像してある。
「『フランドール、300歳』って入力して念写してみて」
「分かった」
はたてがカメラのボタンを押し目を瞑ってシャッターを切る。
先ほどよりも少し時間がかかり、レンズにより多くの妖力が収束していた。
「あれ?撮れなかったわ」
念の為もう一度撮って貰ったがやはり撮れない。
「どうしてかしら?」
「ん〜そうね。心当たりが無いでもないからもう少し付き合って」
今度は私は倉庫からカメラを引っ張り出してきた。
「フランドールもカメラ持ってたんだ」
「インスタントカメラっていう外の世界のカメラよ。
撮った写真をその場で現像できる画期的な性能を搭載してるんだけど、この前外の世界から大量に流れ込んで来たの」
倉庫にはまだ100台以上のインスタントカメラが眠っている。
「なんでそんな便利な物がたくさん流れて来たのかしら?」
「外の世界では製造が中止されたらしいわ。今はさらに高性能なカメラが流通してるそうよ」
「外の世界って想像もつかない所ね……」
外から流れ着く書籍などを読んでいればそうでもないが、まあ一般的な幻想郷の住民ならば当然の反応だろう。
「このカメラで私とサボテンを撮ってくれる?」
「分かった」
はたてにカメラを渡し、私とサボテンのツーショットを撮って貰う。
写真が出来るのを待ち、今度ははたてのカメラに「フランドール、サボテン」と入力して念写をする。
今度は成功、私が先程撮った写真と同じ物が見事に撮れた。
「さて、問題はここから」
「何するの?」
「まず写真を破ります」
「え?」
先程私が撮った写真を破いた。
5分程待ち、はたてにもう一度さっきと同じキーワードで念写して貰う。
今回も念写は成功し、先程破り捨てた写真と全く同じ物が撮れる。
これではたての念写は実在する写真に依存するわけではない事が分かった。
さらにもう一つ、先程の念写の際に収束していた魔力の動きからその原理を予想すると……
インスタントカメラを私の能力で粉々に破壊。
はたてに同じキーワードで念写して貰う。
今回の念写は失敗した。
「これで念写の原理が分かったわね」
「私の念写は、他のカメラに依存してる?」
「そう、多分他のカメラからその『記憶』を引き出して撮影してるんでしょうね」
「そうだったんだ。でもこれでどうするの?」
「基本が分かればそこから応用の可能性が出てくる。
さあ、今度はどんな物から念写できるかを調べるわよ」
私達はカメラの部品に似た形の物や、光に作用する道具等様々な物を用意し念写出来る物と出来ない物を徹底的に調べた。
その結果、
カメラ:◯
望遠鏡:◯
双眼鏡:◯(ただしどちらのレンズに依存するかはランダム)
鏡:×
窓:△(丸い窓のみ◯)
皿:×
コップ:△(ガラス製、透明なプラスチック製のみ◯)
電球:×
眼鏡:◯(ただしどちらのレンズに依存するかはランダム)
虫眼鏡:◯
「『透き通った丸い物』、これが念写できる条件みたいね」
「でも私は今まで誰かのカメラに写った物しか念写出来なかったと思うけど、それは何でかしら?」
「あなた、今まで意識してこういう物に写った物を念写しようとした事ある?」
「それは無いわね」
「じゃああなたの意識にも関係してるんじゃないかしら」
やろうと思わなければ出来る事も出来ない、そういう事だ。
「よし、いよいよ次のステップよ」
「まだ何かするの!?」
「何言ってるのよここからが本番じゃない。あなた売れる新聞が作りたいんでしょ?」
「それはそうだけど、あれ、私ここに何しに……」
「まずは鴉を数匹集めてきて。あなた鴉天狗なんだからそれぐらい余裕でしょ」
「え、ええ」
「よし急いで!」
「はい!」
はたてが鴉を呼びに行っている間に私は時計皿と最近の他の鴉天狗の新聞を用意した。
さてさてまだあまり記事が書かれていない所はどこかな〜。
「集めて来たわよ」
「こっちも念写に使えそうな丸いガラスを用意したわ。
それぞれの鴉に持たせて地底に突撃させるわよ」
「地底!? 無理無理何されるか分からないわよ!
それに地底はこの前弾幕は撮影したし」
「弾幕だけ?」
「うん」
「それでビビって帰って来た、と」
「……はい」
「大丈夫、大丈夫この前の異変で地底も解放されたし他の天狗はもうちょくちょく取材に行ってるから。
流石にまだ人数は少ないけど、それがチャンスよ。他の奴等に食い尽くされる前に記事を作らないと」
「本当に大丈夫?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、多少危険なくらいがちょうどいいわよ。
私の分身も付いて行かせるから安心しなさい」
さあ、盗撮の時間だ。
「入り口に異常無し」
「周囲には誰もいないわね」
「じゃあ突入開始」
地底の入り口幻想風穴、その穴に時計皿を持った鴉と蝙蝠が入り込んだ。
この鴉と蝙蝠はそれぞれはたて、私と感覚を共有している。
こうすることで安全かつ隠密に侵入する事ができ、遠距離から遠慮なく撮影をする事ができるというわけだ。
「最初は土蜘蛛の黒谷ヤマメを撮るわよ」
「了解」
他の天狗は奥の方に潜む強力な妖怪にはよく目を付けるが、地上に近い位置にいる妖怪はあまり取り上げない。
今回はその妖怪達を狙う。
「起きてるわね」
「そりゃそうでしょ」
「いや、最近は人間の生活リズムに合わせる奴も時々いるからちょっと心配してたんだけど、大丈夫みたいね」
黒谷ヤマメは土の中の部屋で編み物をしていた。
それも一つや二つではない、部屋を埋め尽くさんばかりの量の完成品が部屋に積んであった。
「売り物にでもするつもりかしら?」
「黒谷ヤマメは地底の妖怪の間では人気者らしいからもしかするとそうなのかも」
「ふ〜ん……可愛い土蜘蛛が編んだ手作り編み物、これからの寒い季節にぴったりの記事ね」
こっそり部屋の中の様子と黒谷ヤマメ本人を撮影すると私達はその場を後にした。
そういえば念写ならばフラッシュを焚く必要がないというメリットもあるのだ。
続いてやってきたのは地獄の深道。
ここには地底の守護神、水橋パルスィがいるはずだ。
はたして旧地獄街道の入り口に彼女の姿はあった。
「う〜ん美人ね、流石守護神。あとバツイチだっけ」
「何くだらない事言ってるのよ。
でも本当に綺麗な妖怪ね、こんな人を振った男の気が知れないわ」
「愛が重かったんじゃないの、多分。嫉妬心で妖怪になっちゃったぐらいだし」
「流石に今はもう落ち着いてるみたいだけどね」
岩の上に座りながら入り口を見守っている彼女の姿はさながら女神のようだった。
これがかつて嫉妬に狂った女だったとは誰が思うだろうか。
「テーマは『経験豊富な彼女ならばきっとあなたの悩みに答えてくれるでしょう。
恋愛でお悩みの方は彼女に相談してみはいかがでしょうか?』って所かしら」
「そんな事したら能力使われる奴が出てきて修羅場になるんじゃないの?」
「そしたらそれを記事にしましょう」
「あんた鬼ね……」
「吸血鬼よ」
水橋パルスィの写真をこっそり撮影した私達は気付かれない内に撤退する事にした。
「え、これだけでいいの?」
「今回は宣伝を目的にするからあまり情報を詰め込まずに紙一枚でいきましょう、時間もないし。
次は現像して新聞を刷るわよ」
そして長い夜が始まる。
「配る時は一軒一軒回ってちゃんと郵便受けに入れる事。
今回の新聞は主に里の人間向けに書いたからそこを重点的に配りましょう。
あと永遠亭、香霖堂、アリス・マーガトロイドの家にも配って」
「分かったけど、最後の三軒は?」
「比較的人間寄りの所よ。
あ、一応言っておくけど博麗霊夢は人間だと思わない方がいいわ」
「それは分かってる。
ところで永遠亭はもう新聞とってたはずだけど……」
「面白い新聞ならそんなの関係なく契約してくれるわ。
あともしかすると家と同じように『永遠亭の誰か』が契約してるのであって『永遠亭』と契約してるわけじゃないのかもしれないし」
「なるほど」
「配っても読まずに火種にされたり汚れ拭くのに使われたりしないかしら」
「いいわねそれ、むしろ使いやすくしましょう」
「え?」
人間とは不思議な生き物で押し付けるように渡すとすぐに使われてしまう物も、逆にそう使われる事を前提に渡すと使う事が惜しまれるものなのだ。
「サボテン、キッチンペーパー持ってきて。
キャッチフレーズは『燃やしてよし、掃除に使ってもよし、でも使う前にちょっと目を通して!』で決まりね」
「いやいやもう刷り始めちゃってるんだけど」
「全部刷り直し」
「うそぉ!? 」
「まあ予想できた結果ではあるけど」
「印刷機じゃダメね……」
「じゃあ手書きね」
「腕が死んじゃうわよ!」
「20人まで分身出せるわ、頑張りましょう」
・
・
・
苦労した甲斐あって無事印刷、いや執筆完了。
いよいよ最後の仕上げに入る。
「つ、疲れた……」
「あと少しだから頑張りなさい。
まだ早朝だから人間は起きていないはず、急いでポストに入れてきて。
あ、風圧で家屋を揺さぶったりしないように気を付けるのよ。
回る順は人里→香霖堂→アリス家→永遠亭で」
「分かった」
「あとついでに手紙を永遠亭に入れてきてくれる?」
「これ何?」
「いやちょっと月の頭脳さんに聞きたい事があって」
「ふ〜ん、まあいいわ。じゃあ行ってきます」
「気を付けてね〜」
これで私の仕事は一応終了。
後ははたての結果と手紙の返事を待つのみだ。
元は手紙を届けもらう為のついでで手伝ったのだが、性分でかなり力を入れてしまった。
それからはたては45分程で無事全ての新聞を配り終えてきた。
流石鴉天狗、部数が少なめだったとはいえ大した速さだ。
疲れをとるために風呂に入ってぐっすり眠った私達は、それからしばらく待った。
あれから二日、今日ははたてが新聞の感想を聞きに回っている。
少し待った理由は、あんまりすぐに押しかけると心象が悪くなるのではないかと判断したからだった。
まあここまで頑張ってもそうそう契約はしてもらえないだろうが、それもまた経験だろう。
お、帰ってきたわね。
「ただいま〜」
「お帰り、どうだった?」
「里では三軒、香霖堂とアリス・マーガトロイドと永遠亭は全部契約してくれたわ!!」
「おめでとう、よかったわね」
とりあえずハイタッチ。
鴉天狗の体は丈夫なので加減をすればこれぐらいは大丈夫だ。
「永遠亭はフランドールが言った通り今までとってた新聞は八意永琳が主に読んでたみたいで、私の新聞は蓬莱山輝夜が契約してくれたわ」
「予想が当たったわね。ところで、手紙の返事はもらってきてくれた?」
「ああもらってきたわよ、ほら」
早速開けて読んでみる。
「『太陽は月にとっても無くてはならない存在なので無理です』か、まあそうよね」
「一体何て書いたのよ……八意さん手紙読んだ時凄く怪訝そうな表情して『返事はしばらく待って』って言われたのよ」
「いや、月は太陽に勝てるのかな〜と」
「はあ?」
「まあ気にしないで、あなたには関係ない事よ。ありがとうね」
「あ、フランドールも助けてくれてありがとう。
おかげで契約もできたし色々と勉強になったわ」
「お互い様よ、私も楽しかったし」
その後私もはたての新聞を契約し、通信玉(面倒なので(仮)はもう取って正式名称にした)を渡しておいた。
鴉天狗と連絡を取れるようにしておけば手紙を出したい時などに便利かもしれない。妖怪の山に多少つながりを作っておくのも面白そうだ。
あと太陽に対抗するのは諦めた。大人しく肌を隠そう。
今回はダブルスポイラーのSPOILERをコンプリートした記念にはたてを出してみました。
キャラ紹介で文の新聞をデタラメなのに何故売れるのかと評していたので、花果子念報はあまり私見は入っていないという設定にしてみました。
はたての話だけで予想外に長くなってしまったので今回は二話だけの構成となっています、すみません……
次回はちょっと産廃らしい話が出るかも知れません。
ではここまで読んで下さった皆さんありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
(※)インノケンティウス三世……1198年〜1216年の間在位していた教皇、つまりカトリックのリーダー的存在。ヨーロッパ各国の皇帝(王様)に対して圧倒的発言力を持っていた事から「教皇は太陽、皇帝は月」という有名な言葉を残しているが、聖地奪回を称して行った十字軍遠征がことごとく失敗に終わった事等が原因で皮肉にも彼の代を境に教皇の権威は凋落し始める。
11月7日コメント返信
皆さん感想ありがとうございました
>>NutsIn先任曹長さん
おお、長い感想ありがとうございます!
太陽の克服についてはまあしょうがないですね。
フランドールがどうやって肌を隠すかについては次回をお楽しみに。
はたての念写については完全にでっち上げですがもっともらしく聞こえるように頑張りましたw
キッチンペーパー新聞はあくまで試供品として書かれた物なので、今回はたてと契約した人達はこれ以降普通の新聞を配られる事になると思います。
従ってこの手法を真似ようとするならば、恐らく他の天狗も手で書くしかありませんw
フランドールの部屋の扉はこれも捏造設定ですね。
昔フランドールの部屋は本当に金庫だったんですが、子供の頃にフランドールがここで遊んでいて(押入れやクローゼットに入って遊ぶ子供っていますよね?)この場所を気に入ったのでそのまま自分の部屋にしてしまった、みたいなイメージです。
サボテンは癒しキャラですね。
>>2
ありがとうございます!
このフランドールは常に斜め上を行かせるように(?)心がけています
永琳は唐突な質問に思わず裏があるんじゃないかと一晩かけて考えちゃいましたねw
花果子念報の改造は実際にできるかは分かりませんがそれっぽく見えていれば幸いです。
このフランドールはきっと毎日楽しいでしょうね、時々色んな犠牲が出ていますがw
>>3
ふふふ、実は風呂に入った時も眠った時も一緒だったんですよ!
もちろん何も変な事ありませんでしたが。
>>4
実はSPOILERをクリアした時点で燃え尽きてしまい、はたてサイドはほとんど進めてません……
それどころか文サイドもまだやり残しがあるのでいつかまたやらないといけませんね。
>>5
ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。
機玉
http://beakerinsect.blog136.fc2.com/
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/11/03 04:37:37
更新日時:
2012/12/19 02:46:27
分類
フランドール・スカーレット
姫海棠はたて
短編連作
19.7KB
11月7日コメント返信
吸血鬼の永遠の命題。太陽の耐性ですか。
下手にそんなものを持つと、今度は吸血鬼の能力が低下するかもしれませんから。
まあ、結局は無難なところに落ち着きましたね。
はたての念写能力の原理の考察はなかなかよく出来ていました。
丸いガラスであれば何でも良いのであれば、癖のある能力もかなり汎用性が広がりますね。
あとフランちゃん、いいアイディアは早く言おうね。二度手間、三度手間になるから。
はたてがこの新聞で一発当てれば、専用の印刷機を河童に作成依頼できるだけの資金が入るかも。
そうなったら他の天狗も真似するな…。
フランちゃんの部屋って、銀行の金庫みたいな扉だったのか…。
あと相変わらず働き者のサボテン使い魔が良い。
ってか永琳に何聞くのかと思えばそこで一つ目の話がくるか!
そりゃあ怪訝に思われるわ
細々とこれまでのネタ入っていてにやりとできたな
花果子念報大改造はなるほどと思っちまったぜ
しかしこのフランちゃんは毎日楽しそうだぜw
20人のフランちゃんに囲まれるはたてが非常に羨ましいと思ったのは自分だけでしょうか。
はたてでスターソードの護法はなかなかむずかしいですよ
3>>
俺もだ
フランちゃんも楽しむ以上にすごく親切で優しいから可愛い