斬りました

彼女は、立ちました、顔が痛いと言っておりました

彼女は転げました、土が口に入ったみたいで、酷くせき込んでいます

彼女は笑われました、でも団欒的な笑いではなく、馬鹿にした笑いでした

彼女は悔しそうに、伏しています、両の手が草をブチブチと引き千切っています
落ちる滴が、ぽたり、ぽたりと甲を濡らしておりました。


彼女の脚はありません、脚が無いから、立てません。転ぶのも、転んで土が口に入るのも当然でした

けど、彼女を笑うことと、彼女が泣く理由がわかりません

何故、笑うのでしょうか、立とうとして、ただ転んだだけなのに、心配もせず、笑う
すると善意ある者なら自然と怒りが湧くものです、しかし不思議とそういった感情は湧きません

彼女の脚を斬ったのは、紛れもなく、私が斬りました。

見かければ挨拶をする程度の仲だったんですよ

斬った日も、挨拶、そう挨拶を済ます為彼女に声をかけただけなんです

頼まれました。斬ってくれ、腐った脚を、醜い脚を、どうかこれを斬ってくれ

斬りましたとも、斬った今があるのです、斬りました

こういう時ってほら、よくあの時の斬った感触がまだ残ってるっていうじゃないですか

でもね、それ以上に残るんです、声がね、残るんですよ。悲痛とか金切りとか……別格です

あと、夢も見ますね、いや、夢なんですかね、もしかしたら私があの時の私と斬る瞬間だけ入れ替わっているんじゃないのか。
醒めるまでそう、思えるほど鮮明な夢を斬ってからね、ずぅう〜〜〜っっっと、ね。見るんですよ、毎晩。
いや今は薬貰ってるんで、あんまり見ないんですけどね

他に斬ってから変わったことと言えば……あぁ、よく人が変わった様だって言われますね
で、言われるだけじゃなくて、自覚できるんですよね、前の自分と違うなって。前はこうじゃなかったって

そうですね、落ち着いたとか、冷静だって言われます、ええ、本人は投げ遣りになったと思ってますけどね
斬ったからこうなった……って言うんじゃないと思いますけど、まぁきっかけにはなったんでしょうね
で、所謂投げ遣りになってから過ごしてみて、なんというか……昔は納得出来た事が、なんか納得できなくなったんですよ。

例えばさっきに言った彼女を笑う人と、彼女が泣く理由ですね
あ、泣く理由はわかるんですけどね、脚が無くて、それで転んで、それを笑われたから
流石に恥ずかしさで、もしくは悔しさで、あるいは両方でかまではわかりませんけどもね。

で、納得できないのが、なんで笑ってるのでしょうと、なんで斬れと言って斬った結果泣いているのかとね。
前は多分正義感なんでしょうかね、そういう世間一般でいう不謹慎なことに怒ってました
不謹慎な悪の行為って感じで納得してたんですよ、いや、受け入れてはいなかったので納得とは違うんでしょうかね。

理解していた、の方が近いかもしれません。

望んだ結果を嘆くのは何故でしょうか？まったくわからないのです
私が無理やり斬って、今があるのならわかりますけど、私は頼まれたんですよ、斬ってくれと、間違いなく。斬ってほしいと
望まれて私が叶えたんですよ、この刀で、スパッっと。

後悔なら、私もするんですけどね、でも後悔ってあの時こうしていれば、ってものじゃないですか
自分の選択、自分でしたことを悔いるものじゃないですか
なのに、彼女は私の選択を、彼女が私の選択を悔いていることが理解出来ないんですよ

彼女は私に頼んで後悔しているのか、斬ってほしいと言ったことを後悔しているのか

と考えたこともあるんですけど……これは彼女に聞いたわけじゃないんですけど、多分彼女は

斬ったことを悔いているんじゃないかと思うんですよ。勿論この考えが浮かんでも理解できないんですけど。
私が斬った、自分でじゃない、私が脚を斬ったのに、彼女は私の選択に後悔しているんじゃないかな、と思うんですよ
だから益々理解できないんです、彼女は自分じゃない、私、他人の選択に後悔する理由が、全然。


……ええ、貴女の言うように本人に聞けばいいんでしょうね、納得したいなら
でもいいんですよ、いいんです、理由も知らないままで、理解も納得もしないままで
だってどうでもいいんですから、そんなの、理解できないだけで、納得してないだけで、悩んでないんですから、そんなこと




まぁ、もう一つあるんですけどね

理由ですよ、死人に口無しって言いますよね、幽々子様みたいな亡霊は例外みたいですけど

そうですね……ついさっきですし、もしかしたらもうここの霊魂に混ざって居るんじゃないでしょうかね

え？なんでって言われましてもねぇ…………そうですね、不謹慎な輩を置いておいたり、理解できないことを

そのままにしておく理由がないからですけど




　　　それが何か？