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『東方スカ娘B『ゆうかりんは乙女ですから』』 作者: んh

東方スカ娘B『ゆうかりんは乙女ですから』

作品集: 21 投稿日時: 2010/11/05 17:14:04 更新日時: 2010/11/15 01:14:49
  



―1―


「ん、んんん……んっ、ふぅ」

きゅっと結ばれていた唇から、吐息が漏れる。それと同時に便器に落ちる、ポチャン、という音。
ここは命蓮寺のトイレ。和式便器の上にまたがっているのは、最強最悪と畏れられるあの風見幽香である。

日課であるいじめもとい散歩の目的地として、今日彼女はこの寺を選んだ。門の番をしていた入道使いと鐘楼にいた舟幽霊に軽い暴行もとい挨拶をした後、講堂にいた僧侶と肉体言語もとい問答を交わして、ちょうど一息ついていたところだった。



どんな少女でもウンコするのである。
先日の宴会で、あの胡散臭いパープル女がへべれけの状態で「あらひってぇー乙女だからぁーウンチもゲップもしないのーえへへー」とかぶっこいてたが、そんなわけがないのである。事実そんなことをのたまった直後、獣が唸るような声をあげて思いっきりゲロゲロぶちまけたのはどこの誰だったか? あんなことを言うからかえって婆臭く見えるということを、そろそろあいつも自覚した方がいい。

糞便は自然への還元なのだ。虫や微生物の滋養となり、花を芽吹かせる肥料となる。いわば我々が自然の中に生きづいているという厳然たる事実を、この行為は示しているのだ。それを色目で見たりするのは自然への侮蔑ではないか、幽香は常々思っている。

だがそれでもやはり幽香は少女である。排泄することを恥じらう気持ちも同時に持っている。
別の宴の席で、呑みすぎて脳脊髄液がアルコールになったような子鬼が、境内で巨大化して小便の雨を皆の上に降らせたことがあった。頭に春が詰まった参加者達の酔いざましには好評だったみたいだが、正直ああいうのには閉口する。あの時ほど傘を持ってて良かったと思ったことはない。
一人の妖怪、女性として、恥じらいの気持ちは持ち合わせていたいし、そうすべきだと彼女は思っていた。少なくとも人前でするべきではない。秘め事は見えないところですませたいものだ。




今度の散歩はどこへ行こうか――さっきから彼女はしゃがんだ格好でこんなことを考えていた。トイレとは思想の宝庫である。

色々な候補者が幽香の頭に浮かぶ。阿呆天人はここのところいじめすぎた。最近では向こうから尻尾振って来る始末だ。はっきり言ってあれはウザイしキモイ。いじめるのは好きだが、いじめられて悦ぶ奴は好きではない。彼女が見たいのはそういう顔ではないのだ。

山の神様にしようかな――そう思いながら、目の前にある巻き紙に手を伸ばす。




「ぬーえっえっえ。風見幽香、先日の恨み晴らしてくれようぞ。正体不明の恐怖に怯えて死ぬがいい。」

そんな幽香を悠然と見下ろすようにして、この寺の住み込みである封獣ぬえはほくそ笑んでいた。狭いトイレの中で、最初からずっと。
今、幽香の手の先、いやこの個室の中にトイレットペーパーなるものはない。あるとすればそれはぬえがこの日のために用意した特製の「正体不明の種」が見せる幻影だった。
この「正体不明の種」は相手の認識に働きかけて見たいものを見せる。今この状況で紙を望まない者は誰一人としていないだろう。ぬえはその当然の欲求を逆手に取ったのだ。

だが何という恐怖! 今このトイレには紙が一枚もないのだ。

「あら、紙切らしてるのかな……」

だが、最強最悪の妖怪・風見幽香はその恐怖をものともしなかった。彼女は正面で仁王立ちするぬえのスカートへと、容赦なく手を突っ込んだ。もちろん幽香からすれば、上蓋を開けて残り少ない紙を取ろうとしているだけである。

「え、ちょっ、いや、ぬぇ、ぬへぇ…ぬぇえんっ!」
「なんかこの紙ちょっと湿っぽいわね?」

構わず彼女はぬえの股間を荒々しく撫で回す。ぬえは必死に口を押さえながら、黒のニーソックスで覆われた脚をよじって、懸命に最強妖怪の奇襲を耐える。その拍子に、女の子の大事な穴に隠してある「正体不明の種」が幽香の手に付いたことなど、誰も気付かない。

なかなか紙を掴めずにいた幽香は、残り紙を思いっきり乱暴に引っ張りだす。

「ぬ、ぬええへへへぇぇぇ!」

奇麗な音をたてて、ぬえのショーツが、女の子の一番大事なところをガードしていた部分が破り取られる。幽香は何事もなかったように、その布きれで自分の尻を拭くと、便器にポトリと投げ捨てた。幽香のウンコがぬえを纏う。

「ち、ちくしょおぉぉ! 覚えてやがれ、ぬえぇぇぇぇん!!」
「何か妙な音がしたわね? まあどうでもいいか。」

かつて平安の夜を恐怖のどん底に落としたあの鳴き声を残して、色々大事なものを失ったぬえはトイレを駆けだした。鍵は開けたままで。



「あ〜もれちゃうもれちゃう――ってキャーはれんちぃ!!」
「ってそれは私の台詞だボケ! なんで鍵あいてんのよ!」

ぬえと入れ違いでトイレの戸を開けたのは、どこか注意散漫だと日頃から部下に注意されている寅丸星だった。立ち上がろうとする幽香と完璧なタイミングで鉢合わせした彼女が、顔を覆った指の間から見た光景は、想像を絶するものだった。

「あ、貴方……それはいったいなんですか……?」
「は? それって何よ、っていうかはよ扉閉めろやコラ」
「それですそれ、その便器の中にあるもの!」
「いや、これは、その私が今出した……ってお前バカかぶっとばすぞ」
「それを貴方が出したというのですか!? 体の中から? 信じられない。」
「いや、つーかみんな出すでしょ? というかわかった流したらお前即殺す」
「流す!? なんということを、貴方はそれの価値がわからないのですか! 私は毘沙門天の代理故、知らずうちに財宝が集まってくる気質を持っていますが、それでもこれほどの宝は見たことがありませんよ!」

「(………ああこいつ頭おかしいんだ、うん、早く帰ろうそうだそうしよう。)わかりました。御手洗いをすませしだい家に帰らせていただきますのでとっととそこをどけ」

「聖、聖早く来て下さい。奇跡です。奇跡が起きました。」
「まあまあどうしたの星。そんな大きな声を出して。」

続けて扉の奥から顔を覗かせたのは、先程殴り合った聖白蓮だった。トイレの中を覗き込んだ彼女は、たちまち破顔一笑すると幽香へ深々と合掌した。

「まあなんということでしょう。ああ、法の光が便器に満ちる…」
「これは紛れもない正義の威光!」

「(前言撤回。こいつら全員頭おかしいんだ。帰って寝よう、バカが伝染る。)いやはや、これは白蓮上人。先程は本当に有意義な時間を過ごさせて頂きました。申し訳ありませんが本日はもうおいとまさせて頂きとう存じます。お世話になりましたありがとうございますもう二度と来ません」

満面の作り笑いで立ち上がった幽香は、レバーを「大」の方へ回そうとした――

「なりません!!」

白蓮は神速で幽香の腕を掴んだ。幽香の反応を一切許さぬまま、この世のものとは思えぬ力で一気に腕を捻りあげる。風見幽香の顔が憤怒と屈辱の色に染まった。

「くっ、なんだこの力……この私が、腕一本動かせない……だと!?」
「あなたはこれがなんだか判らないのですか! ああ、灯台もと暗しとはこのこと……これこそ正に法理の体現、如来の御心そのものです。貴方はこのようなものを自分の体から出していたのに、その価値に気付いていなかった! 末法の世に降臨した救世主に!」
「バカかお前!! これは、ぁ、あれよ! た、ただの…ぅ、うんち//」

そう、それはただのウンコだった。ただし先程手に付いた「正体不明の種」がくっついたショーツの載った。









―2―


風見幽香は息を切らせて山道を駆けていた。

迫り来る人妖共を振り切りつつ、鬱蒼とした木々の網をかきわけていく。追い詰められた彼女が一縷の望みをかけて向かったのは、妖怪の山の頂に建つ守矢神社。


「お待ちしておりました。幽香さん。」

石畳の階段を駆け上がった幽香の目に飛び込んだのは、悠然とそびえ立つ赤い鳥居と、青い巫女――東風谷早苗だった。

「はぁっ、はぁっ……いきなりで悪いんだけど、一つ貸してほしいものが――」
「ええ、存じております。」

早苗は、目上の存在へ恭しく微笑みかける――にたり、と。

「ただ今持ってきますので――」

そういうが早いか、幽香の頭上を巨大な影が覆う。それは御柱の流星群と、守矢神社の一柱――八坂神奈子だった。

「しまっ――」
「はーっはっはっ、遅いわっ!!」

逃げる間もなく、幽香は天から飛来した御柱に四方を囲まれる。

「く、ここもダメかっ」
「今だっ、いけっ諏訪子おぉ!」
「ああああぁぁぁううぅっ!!」

幽香の死角、丁度尻の下から蛙型の土塊にまたがり飛び出してきたのは、守矢のもう一柱――洩矢諏訪子だった。
勢いそのままに諏訪子は幽香に襲いかかる。真っ直ぐ立てた両の人差し指を、真っ直ぐ幽香の肛門へ向けて。

「げぇっ――はぐぅっぁひぃん…」
「っしゃぁ決まった! クリティカルよ。見たか、これが諏訪秘奥義、忘れられた一子相伝の秘術!」

第二関節までずっぽりめり込んだ人差し指を高々と掲げ、諏訪子が猛る。これがかつて大和の神々を恐れ戦かせた、土着神の頂点が見せる真の力。その圧倒的な力の前に、流石の最強最悪妖怪もへたりとその場に膝をつく。

「さあ、そのままそのお尻の穴から“あれ”をだすのよ!」

そう言って諏訪子は自分の帽子をひっくり返し、幽香の尻の前へ置く。それは早苗の言葉通り、幽香の望んだものであった。
だが、花の大妖怪はその誘いに乗らない。肛門をぐっと閉め、襲い来る感覚――便意を押さえ込む。

「ぬおおぉぉぉ……クソったれこの程度ォッ! ふぅん!!」
「バ、バカな…私の浣腸を耐えたというの!?」

「――はぁっ、はぁっ……あんた達も、“あれ”が欲しいってわけ?」
「そうさ、“あれ”が欲しいのさ。あれほどの御神体――シナトベノミコトの力があれば、この神社の格は、信仰は揺るぎないものになる!!」



諏訪子が声を嗄らして叫ぶ“あれ”とは、先日風見幽香が命蓮寺で産み落とした、あのウンコである。幽香の必死の抵抗も空しく、結局あれは命蓮寺の本堂に鎮座させられた――弥陀の誓願、如来の本願、仏陀の御心を体現するものとして、毘沙門天と対になる形で。
それだけなら命蓮寺がウンコ寺になるだけですんだのだが、残念なことに幽香のウンコに根づいた「正体不明の種」は、命蓮寺を訪れる人妖全てに夢を見せた、彼らが望むものを。


天狗の新聞を通じてこの“奇跡”はたちどころに幻想郷中へと広まった。多くの参拝客が訪れた。そして幻想郷の猛者達はそれを欲したのだ――幽香のウンコを。
まず手始めに彼女たちは幻想郷中のトイレをことごとく破壊した。
そうやって幽香を追い詰め、便意に苦しむ彼女の隙を窺って、ウンコを、望みを手に入れようとした。

その際、望みの受け皿として注目されたのが自分の帽子、彼女たちの多くが被っている帽子だった。
そう、今や帽子はトイレだった。己のアイデンティティーと言っても過言ではなかったはずの帽子は、欲にくらんだ者たちにとって携帯可能で便利な、簡易トイレとなったのだ。


夜雀にたらふく奢らされ、白黒鼠に下剤キノコを盛られ、ちんどん屋にお通じの良くなる癒し系サウンドを聞かされ、雪女にお腹を冷やされ、そしてそれらをことごとく返り討ちにした幽香のS字結腸は、既に決壊寸前であった。

茂みに隠れて用を足すということもできなかった。無意識の妖怪が賭けを挑んできたのだ――今日一日私は貴方の後ろにずっと付いている。もし山野で出そうとすれば、この帽子が容赦なくそれを受けとめるだろう。ただし、トイレでするのなら私は絶対に手を出さない、と。
明確なルールに基づく紳士的な決闘の申込み。だがこれは周到な策略だった。
既にトイレはほとんどないのだ。自分を確実に窮地へと追い込んでしまう圧倒的不利なルール設定。だがあの風見幽香が、決闘を申し込まれて受けないはずがない。断ることなど彼女のプライドが許さない――そう読んだ上での申込み。

当然幽香もこの決闘の真意を十分に理解していた。だからこそ最強の妖怪である彼女の選択肢はただ一つしかありえない――こうして彼女は野グソという選択肢を失った。彼女はトイレを探さなければならない。大妖怪・風見幽香の名に賭けて。


その決死行の末が、この幻想諏訪大戦なのだ。



どんな戦いであっても、それがたとえ神々との闘争であったとしても、彼女に敗北の二文字はない。風見幽香は最強の、乙女なのだ。こいつらの姦計にのって人前で脱糞など、絶対にあり得ない。

しかし、守矢もまたこの戦いに負けるわけにはいかないのだ――


「そうだ、あの凄まじい神徳、あれがどうしても必要なのだ。風見幽香、お前の尻から出るあの力がなぁっ!!!」

八坂神奈子の咆哮。その迫力は常人であれば恐怖の余りウンコをちびる程であったかもしれない。

「なぜだ、お前らはなお浅ましくも信仰という力を求めようというのか!!」
「ちがうぅっ!! 聞け風見、神奈子は、私たちは力に溺れた訳じゃない!」

幽香の問いに諏訪子も吼えた。

「あの力があれば、あの神徳があれば、早苗にも神卸しができる…早苗も神になれるんだっ……」
「そ、そんな…八坂様も洩矢様も、まさか私のためにこんな事を……!?」

早苗は震える。彼女に二柱の神意は知らされていなかった。

「ああそうだ、だがこれは早苗のためじゃない。早苗とずっと一緒にいたいという、諏訪子と、私のエゴなんだよ……すまないっ、すまない早苗。」
「八坂様、何を仰います。お二人の願いは、すなわち私自身の願い。私の心はお二人と共にあるのです!」
「ああ早苗っ、お前は、お前という奴はっ!!」

神奈子と早苗はがっしと抱き合う。そのまま二人はさめざめと、涙で互いの頬を濡らした。こうなるともう周りのことなんぞどうでもよくなってしまう。しっぽりネッチョリ朝チュンコース確定である。




「そこまでよ!」

その時、空からの弾幕が幽香と諏訪子を襲う。放たれたのは一筋の太刀と、幽雅な蝶――

「残念だけど、そのお宝はこの私、西行寺幽々子が頂くわ。」
「ふざけるなぁっ!! 誰がお前なんぞに、我らの願いを渡すか!」

諏訪子の威嚇をものともせず、西行寺幽々子とそれの後ろに従う魂魄妖夢は、ゆらりと、さながら蝶のような軽やかさで境内に舞い降りた。

「さあ、死蝶の餌になりたくなければ、その凛と咲く一輪の花をこちらに渡しなさい。『月に叢雲、花に風』――風神様達の猛々しさは彼女の美しさにふさわしくなくてよ?」
「ぬかせ小娘が! 荒れ狂う神の嵐の前で、貴様ごときに一体なにができる? ただ蹂躙されるだけの脆弱な存在でしかない蝶が!?」
「その儚い蝶の羽ばたきが、遠い世界で竜巻を引き起こすこともある。弱者を侮り力を見誤った王は、須くその首を失うことになるのよ!」

「――あのー幽々子様? 口上決めてるとこすみませんが、せっかく向こうの方々がいい話してた所に割り込んでしまったので、こちらも相応の理由を言って頂かないとしめしが」
「いやいや妖夢。どんなにきらびやかな理由で着飾ったところで、それは幽香さんに対するエゴの押しつけにすぎないのよ。だから、ただ欲望の下僕となって、こう言うべき――あんな美味しそうなもの初めてみました。ひっとつーわったしにぃくっださいなー♪ と」

やっぱりそれか、と妖夢はうなだれる。

「さあ、幽香さん、私の帽子の中にドバーッと、もう溢れるぐらいどうぞ。ほら見て。私の帽子、三角布が付いてるからお尻も拭けてとっても便利よ。」
「幽々子様、帽子に謝って下さい。」
「待ちなさい! 私のケロちゃん帽子の方が容量いっぱいよ。溜まりに溜まった幽香さんの神徳を受けとめるにはこちらの方が優れているわ。」
「貴方も帽子に謝った方がいいと思います。」
「何言ってるのよ〜その帽子じゃ高すぎて中腰じゃないと出せないじゃない。そんな変な体勢では幻の食材の味が落ちてしまうわ。」
「この帽子は丈夫だから腰掛けても平気なの! 平安時代で進歩が止まってる奴は洋式便所使ったことないからわからないでしょうけどねー」



祟り神と亡霊が己の帽子の優秀さについて言い争っている隙に、幽香は守矢神社を脱出した。



「――あ、イヤッ、神奈子様のオンバシラ、深すぎますぅ…あっ、あんあんぁん♪ ひぃ、い、イクぅぅ!!」









―3―


「ぐ、ぐぞぅ……これはヤバイ、マジでヤバイヤバイ」

諏訪のグレイソーマタージはやはり強烈だったようだ。先程にも増して強力な便意の洪水が、幽香のお腹を蹂躙する。気付けばとうに山を降り、そこは霧の湖の畔だった。歯をぎりぎりと食いしばりながら、彼女は最後の希望を求めて一歩一歩、ひたすら前へ進む。


    ガサリ


ふいに手前の茂みから人影が飛び出した。新手か?――幽香は脂汗をたらしながら身構える。
そうだ、ここは魑魅魍魎の巣窟。どんな悪魔が顔を出すか、ええい何だろうとかまうものか――彼女は覚悟を決める。

が、その影は余りにも小さく頼りなかった。もっとも、シルエットだけを見ればひどく凶悪で、悪魔じみたものであったが。
無骨な枝に七色の宝石を実らせた、歪な翼を揺らしながら、小さな影は霧のカーテンを抜けて幽香の前に姿を現す。

「あ、あんたは、ウグ、確か吸血鬼の、イ゙ィ妹!?」

それは幽香にも完全に予想外だった。紅魔の妹君――フランドール・スカーレットは、しかしまた幽香の抱くイメージとは異なる、弱々しさをまとっていた。顔を赤らめ、左手で口元を隠しながら、無垢な瞳をちらちらとこちらへ向けて。いたいけな少女は、右手に持っていた自分の帽子を、まるで初恋の男の子にラブレターを渡すときのように突き出しながら、こう叫んだ。


「ぉ、おねがいしますっ。おねえさんのおひりからっ、おしりから出るものをフランに、あたしの帽子の中にくらさいっ!」


もしフランの目の前にいた人物がロリコンという名の紳士であったならば、幸か不幸かここで話は終わっていただろう。筆者も正直自信がない。だが、今目の前に立つ最凶最悪のアルティメットサディスティッククリーチャは、あの人類史上最低最悪の病を患ってはいなかった。
フランは再び顔を上げ、震える唇をきゅっと結んだままこちらを見上げる。ああ、眼を凝らしてみればこの子の瞳には、涙が、羽根に付いた宝石など比較にならないような美しいダイヤモンドが、うっすらと輝いているではないか。幽香も思わず力が抜ける――これは罠だ。しかも巧妙で残虐で瀟洒な。こんな事を思いつくのはあいつらしかいない。





「なあパチェ、あれで大丈夫なのか?」
「完璧よ。確実にあの花の大妖怪の精神を削っている。」

今しがた可憐な少女が飛び出したその茂みのさらに向こうに、あいつらはいた。

「でもさぁ、あれならわざわざフランじゃなくても、別に私がやればよかったんじゃないか?」
「レミィがやると残念な子にしか見えないわ。それともなけなしのカリスマとやらをまたドブに捨てたいの?」
「パチェ、お前最近私に冷たいよな?」
「それにしても完璧ね。妹様の魅力を余すところなく引き出す演技指導、流石紅魔館のメイド長だわ。」
「もったいなきお言葉にございます、パチュリー様。しかしフランお嬢様の資質を見抜き、この作戦を立案した貴方様の眼力こそ、私が何より敬服するものです。事実この私でさえ、フランお嬢様に稽古をつければつけるほど、その魅力に圧倒されてしまったのですから。思わず仕えるべき主人を替えようかと思ったこと数知れず。」
「咲夜、お前も最近私に冷たいよな?」
「まあそれも仕方がないわ。さあ、次の台詞でチェック・メイトよ。」





「スンッおねがいしますゆうかおねえさん、グスッ、この言いつけを守れば、お姉様の欲しがっているものをあたしがちゃんと持ってこられれば、お姉様はあたしを赦してくれるって、そう約束してくれたのっ……あの暗い地下室から出て、ヒックお姉様と一緒に、お茶を飲んで、ックお散歩して、同じベッドで一緒におやすみできるのっ! ……エッだから、だからおねがい、あたしを助けてっ!!」


返事はなかった。幽香はただ目を伏せて、少女の想いに、じっと耳を傾けていた。
ぐっと拳が握られる。その手は、そのままフランの方へ向かって――


    パサリ


「――わかってる、吸血鬼は契約の中で生きる。それが定め………でもね、そんな健気で尊い想いを、こんな下らない茶番の賭けの道具にして、私なんかに願ったりしてはいけない。貴方のその想いは、直接、貴方のお姉様に伝えなさい、しっかりと。」

二人を遮っていた帽子が地面に落ちる。幽香はフランをぎゅっと、強く抱き寄せた。

「もしそれでも貴方の想いに耳を傾けないようだったら、いつでもいい、私のことを呼んでちょうだい。そんな聞き分けのないお姉様は、私が一発ぶん殴って、お仕置きしてあげるから……ね?」

フランの慟哭が湖にこだまする。彼女もまた、幽香のことをぎゅっと、思い切り抱きしめた。その馬鹿力のせいで幽香の腸が思いっきり締め付けられていることなど、この際どうでもいいだろう。





「ふ、完敗ね。」
「そうですね、パチュリー様、私たちの完敗です。」

ハンカチを目元に当てながら、咲夜はパチュリーに答える。パチュリーの声もどこかくぐもっているようだ。

「まさかあのいじめっ子にあんな姉属性があったとわね……」
「ええ、フランお嬢様の妹属性すら包み込むあの力、つくろった演技の底に沈む心をすくい上げるあの力、明らかにこちらの予想を超えたものでした。」

「姉としての“格”が、こちらには欠けていた、そういう事かしら。」
「もしお嬢様にあの包容力が、ほんの欠片ほどでもあれば、確かに結果は違ったものになったかもしれません。しかしあんなに満ち足りたフランお嬢様を見ることができて、従者としてこれほどの幸せはありません。」
「そうね、今日はそういうことにしておきましょう。さ、レミィ帰るわよ。」
「いやお前らいい話でまとめようとしてるけどさ、私のことボロクソに貶して誤魔化してるだけだよな」

「温かいお茶を淹れて、フランお嬢様の御帰宅を待ちましょう。可憐で無垢な心を優しく包む、極上のホットティーを淹れて。」
「そうね、ラベンダーがいいわ。『あなたを待っています。』――夢見る少女の帰りを迎えるに一番ふさわしい言葉を添えて。」

「ねえ! だから無視しないでよ、ねえってば。おい、置いてくなよ! チキショウ!」









―4―


「ぅ゙、ゔごごごぉ……もるもるもるぅ…」


ぐずる悪魔の妹をようやくなだめつかせて、幽香は霧の湖を突破した。手でお腹とお尻を押さえながら、体を反らせた状態でふらふらと目的地を目指す。右によれたかと思うと左へ振り戻す。そしてまた右へ。それはさながら壊れたメトロノームのよう。
パリッと仕立てた格子柄のジャケットはよれて肩から半分外れ、黄色のネクタイはだらしなく緩んでいた。そんなものに気を使う余裕は彼女に残されていなかったのだろう。体裁などかなぐり捨てていた。

だが、乙女の誇りだけは、それだけはどうしても捨てられなかった。

「もウギギ少し、グハッ、も…ンゴ少し」

這うように、少しずつ前へ進む。そんな彼女が周囲を気遣うことなどできるはずもない。だから、忍び寄る二つの影に幽香は気付けなかった。

「見つけたわ、四季のフラワーマスターさん。」

その影が幽香の前に立ちふさがる。一つは腕を組み、知性そのものをまとう永遠亭の薬師、八意永琳。もう一つの影である鈴仙・優曇華院・イナバの顔とは対照的に、彼女は体をよじりながら鋭い眼光を飛ばす四季のフラワーマスターへ、不敵に微笑みかける。


「今度はお前か、グキョ、畜生…グュ、ウフ」
「もう立っているのもやっとといった感じね。でもいいわ。風見幽香――貴方に勝負を挑みたい。私に一発入れればこの場は見逃してあげる。」


またしても決闘の申込み――幽香は思わず苦笑する。こうも同じ手を繰り返し出されて、同じように引っかかるのは単なる大馬鹿者だろう。だが、そうだとわかっていても、最強の妖怪と畏れられる彼女の選択肢はやはりただ一つしかないのだ。


「わかったわグヒよ、ア゙ヒィいつでも、グ、ウギギ…いらっしゃイヒィ!」

永琳はゆっくりと、構えをとる。さりげない構えにもその者の実力は如実にあらわれる――幽香はほんの少しだけ、自分の決断を後悔した。負けないためには、勝てない戦をしてはならないのだ。長く強者として生きた幽香はそのことをよく理解していた。

「いざ!」
「しゃあこいやぉらぁ!」

刹那、永琳が跳ぶ。幽香は引かない。いや正確には動けない。肛門に全神経を集中させ、下半身に力が入らぬ彼女にできる手はわずか。

「くおらぁ!!」

まばたきすら許さぬ速さで懐へ飛び入った永琳、その胸ぐらを素早くつかんだ幽香は、そのままハンマーのように頭を振りおろす。至近距離からのヘッドバット、それが風見幽香が選んだ切り札。

だが、月の頭脳はそれを読み切っていた。幽香が掴んだと思った胸ぐらは、空蝉――上着だけだった。服を脱ぎ捨て、落下する幽香の後頭部を抑え込んだ永琳は、そのまま馬跳びのように宙へ跳ねた。滑らかな前宙返り2回半3回ひねりえび型を決め、一瞬前につんのめった幽香の背中をとった彼女は、その手を、相手が今一番触れられたくないところ――お腹へスルリと伸ばす。

「ちいっ――ひぃっ!……うひ、うひゃひゃひゃひゃひゃはひゃ」

幽香のお腹を抱え込んだ永琳の指が、それぞれが別の生き物であるかのように這いずりまわる。殴り殴られることには慣れっこの彼女も、こういうのには弱いらしい。

「ひぃひぃっーひぃぁっは、ひっひゃめろバカこの野郎!」

幽香はまさぐる腕を懸命に振りほどく。さっと飛び退いた永琳は、そのまま最初にいた位置へと戻った。不敵な表情を浮かべ、上半身ブラジャー(黒)一枚で。

「はあ、はぁ……何なのよ、今の――」




            ドオォン!




「ふぐぅ!!!」

幽香の内臓が、上下左右に激しく揺さぶられる。一瞬の静寂の後に襲いかかった突然の衝撃に、彼女は為す術なく崩れ落ちた。


「でた……『美しい薬師・八意』千の技の一つ、『永琳☆先生の腸蠕動マッサージ』――消化器官だけにピンポイントで刺激を加え、どんな便秘の人でも一発ですっきりスルスル。言い伝えによればかの陸奥圓明流がこの技を参考に奥義『無空波』を考案したという(ソース:姫様)、ナウでヤングなうさぎ達にバカ受けな月の特許取得済み健康療法。」
「ふふっ、丁寧な説明ありがとうウドンゲ。さあ、この技を受けてどれだけ耐えられるのかしら? あの八雲紫の便秘でさえたちどころに治したこの技を前に。」


……ああ、パープルゆかりんは「しない」んじゃなくて「でない」だったんだね。まあ最近いろいろ忙しかったからストレス溜まってるんだよねきっと。冬眠もできなかったし。閑話休題。


「ぐほぉぉぉぉ、あ、あぴぃ!! うひ、むりむりむりぃいぃ!!!」
「あら、健気にも頑張るのね。でも無駄。さあ、おとなしく出しなさい。あの伝説の霊薬を。」

この天才にはウンコが薬に見えたらしい。

「そう……あれこそ私がこの大地に堕り立ってからずっと探し求めていた薬材。あれさえあれば、あれさえあれば完成するのよ。私達を、姫を縛る永遠の鎖を打ち壊す薬が!」
「師匠、それってまさか、『蓬莱の薬』を無効化するという、あの幻の薬のことですか?」
「ふ…弟子が勉強熱心だと師もうれしいわ。そうよウドンゲ、あれこそ、風見幽香のお尻から出るあれこそ、姫を永遠から解き放つための最後の鍵となるの。」

ちなみにゆうかりんのウンコにそんな効能はありません。あしからず。

「あれこそ私の夢、私の生きる意味。悠久の時をかけて、ずっと追い求めてきた難題の、“解答”なのよ!!
 ――さあウドンゲ。早く貴方のブレザーでおまるを作って、風見幽香から妙薬を採取してきなさい。」
「え? ちょ、ま、やですよ。というかもしかして私が連れてこられたのってそのためですか?」
「他に何の用があるというの? 早く、もう出てしまうわ。」
「だからやですって。そもそもブレザーでおまるって何ですか? 訳分かんないですよ。」
「『天才美人薬師完全監修:蓬莱救急ハンドブック』月紀二六四一二二六六九年度改訂版 第十八巻七〇九七頁。ウドンゲ、勉強不足ね。」
「全48巻、計720000ページのハンドブックとか誰が読むんですか? ハンドブックの意味分かってないですよね師匠?」
「あら、あれはあくまで私の知識をコンパクトハンディサイズにまとめたものよ。電子書籍化してるから持ち運びも便利でしょ。」
「他の人達みたいに自分の帽子で採取すればいいじゃないですか。なんでうちだけブレザーなんですか?」
「いやよ、帽子なんて、ばっちぃ」



「――けんな……」
「!?」

七転八倒していたはずの幽香が、ゆらりと立ち上がる。

「ふざけんなよ……どいつもこいつも、私の生理現象を一体なんだと思ってやがる……」
「そ、そんな。あの技を受けて、た、立ったというの!?」


―――うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!


風見優香、その咆哮はさながら地震、雪崩、雷鳴、噴火、台風――ありとあらゆる自然の猛威の具現だった。
幻想郷最強の肛門括約筋がうなる。強烈な腸の蠕動運動、平滑筋の蠢きを、骨格筋の圧倒的な力によって制圧する。


「私は、風見優香だぁっ!! てめぇの何億年分の夢がなんだ!! 乙女の純情の前ではな、んなもん何の価値もねえんだよおおおぉぉぉ!!!」



八意永琳は、ガクリと膝を折る。彼女は、負けた――花の少女の矜持に。


「そ、そんな……私の生きる意味、私が17年間見続けてきた夢は、彼女の意志を破れないというの? 私の、この私の…嘘よっ!? そんな、そんなことありえない……」
「――師匠、認めましょう。私達の負けです。」


茫然自失となったブラジャー(黒)を、ブレザーがそっと覆い隠す。
弟子は、師を優しく諭した。

「まだその時ではなかった――ただそれだけのことです。それに夢を叶えるというのは夢を失うということですよ。そうなってしまったら、きっと師匠や姫様はすぐ消えてどこかへ逝ってしまう。私にはそう思えてならないのです。私は師匠や姫様ともう少し一緒にいたい……すみません。これは私のわがままですね。」
「ウドンゲ……ウドンゲぇっ!」

立て膝のまま、永琳は鈴仙に抱きついた。こんな顔の師匠はもう二度と見られないかもしれないな、そんな思いが彼女の頭をかすめる。

「師匠――」

だから鈴仙は師を恭しく抱きとめる。

「隙あらば自分を17歳ってアピールするの、そろそろやめませんか。」









―5―


便意は波に似ている。波濤が寄せては引き、引いては寄せる。止まることなく。

先程ド根性で何とか大津波を凌いだ風見幽香にも、更なる大海嘯が容赦なく押し寄せていた。最後の力を使い果たした彼女に、もう猶予の刻はない。

「あ、ゔえ゙、お゙、い゙ぃ゙っ、あ゙がが……ひぃ、ひぬひぬヒイィ、うきぃ!着いた、アヘャ、ついたわっ!」


石畳の階段をよじ上った幽香の目に飛び込んだのは、悠然とそびえ立つ赤い鳥居と、寂れた神社だった。

そう、ここは幻想郷の東の果てに建つ博麗神社。幻想郷の絶対永世中立地区。一切におもねることを知らぬ、楽園の巫女が住むところ。

「れいう、れいむぅ、どこ、どこにいんのっ!?」
「何、うっさいなあ。」

あらゆる人妖を超越する存在――博麗霊夢は、いつも通り縁側でまったり出涸らしを啜っていた。

「トイレ、うぴぃ!れいむおねがいといれといれかして」
「あんたもとうとう呆けたわね、厠はあっちでしょ。」

礼を言う余裕もなく、最強妖怪は巫女の指差した方へ一目散に駆け出していった。


「ズズーッ…ふふ、かかったわね――」



厠にダイブした風見優香は、それでもしっかりとカギだけは掛けた。守るべきものは守るべきである。いかなる状況であっても。

そこは正に厠というにふさわしい場所だった。住居から少し離れた所に立つ、薄っぺらい板切れに四方を囲まれた個室――しかしそんな貧相な場所でも、今の彼女にとっては巡礼の地メッカ、約束の地カナンだった。今日一日トイレを探して駆けずりまわっていた幽香にとっては。


チェックのスカートを勢いよくたくし上げ、ショーツを下ろして幽香は便器にまたがる。が、その時彼女は気づいた。気付いてしまった。この厠の真実に。

「な、なによこれ……」

和式の便器には、梯子状の木枠がはめ込まれていた。いや、それは舌足らずな表現だろう。便器には梯子状の木枠でできた蓋の付いた、箱がはめ込まれていた。そう、これはこの神社で巫女よりも仕事をしていない唯一の存在――賽銭箱だった。

「――どうしたの幽香? ずぅーっと我慢してたんでしょ、早く出しなさいよ?」

扉の向こうから、ノックと共に声が聞こえる。それは暢気で冷徹な声――霊夢だった。

「あ、あんた、なんて罰当たりな…」
「仕方ないじゃない。博麗の巫女もね、生きるためにはお金がいるのよ。」

霊夢の声と同時に、四方を取り囲む粗末な板が、パタンと、まるで花が開いたかのように倒れた。代わりに幽香を取り囲むのは、黒山の人だかり。

「ぇ、ぇ………//」

眼前に広がる光景に、もはや幽香は声を出すことすらかなわない。幻想郷中の奴らが、便器にまたがる自分を見ていた。欲に血走った目で、ぎらぎらと、舐めるように。

「さあ、とっとと出すのよ。あんたのケツから、黄金の塊をね!」

確かに黄金ってのは正しい表現だね、うん。

「…チッ、なにタラタラしてんだよクソが。ほら出せよ、出せっつってんだろオラァ!!」

霊夢はしゃがむ幽香を無慈悲に蹴り飛ばす。もはや幽香に抵抗する力なぞ残っていない。そのまま、野に咲く花を踏みつぶすように、赤い巫女は少女の腹を踏みつけた。






――――ぁ、い、イヤアァあああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!







        ブボブッブビビビビビュブリブリブリブリブリミチプチュブリュリュブリミチョブリブリミチプチョプリプリュブチュ、プピッ、ブプッ、ブピュ







嗚呼、風見幽香の純潔、黄昏と共に散りぬ。









「なんだ、これただのウンコじゃん。」

博麗の巫女は落胆する。人垣からもため息、そして失笑。
無残に手折られた危険度極高妖怪は、便器の上でうちひしがれるように泣きじゃくっていた。


大妖怪・風見幽香は毎日お風呂に入っておまたのデリケートなところまで丁寧に洗うきれい好きな女の子である。「正体不明の種」はもうすでに綺麗さっぱり洗い落とされていたのだ。


賽銭箱の掃除が何だらとぶつくさ呟きながら、霊夢は戻っていった。だがおそらくこの神社に神は二度と戻ってこないだろう。見れば彼女は周りにいた妖怪どもから見学料を巻き上げようとしていた。

他の妖怪たちも、ある者はその惨めな姿を笑いの種にしながら、またある者は眼を反らすようにして足早に、それぞれ帰途へと着いていく。
昨日まで幻想郷中の生命体を震え上がらせた自然の権化――あの風見幽香はもう二度と帰ってこない。今や彼女は手ひどく凌辱され、ただ嗚咽を漏らすことしかできなかったのである。




だが、そんな憐れな少女の前には、一つの影がポツンと佇んでいた。皆が三々五々に散会していく中最後まで残っていたその影は、閑散とした境内に打ち捨てられた幽香の上へふわりと覆いかぶさる。

「ック、ヒック…な、何よ、スン、あんた、散々私にやられた仕返しをック、今しようってわけ…」

それでも風見幽香は最後まで気高くあろうと、眼前に立つ少女を威嚇する。罵声を浴びせられた影の主、幽香の被害者筆頭・比那名居天子は、極彩色の飾りで彩ったスカートをふらふらと靡かせながら、横たわる幽香の前にしゃがみこむ。

「なによ、グスン…なんとでもいいなさいよ、グスッ、気のすむまで、ック、笑えば! 嬲れば!! ……グスン、それでも、スンそれでも私は、ヒック…」
「わ、私が欲しかったものが、ここにあるの。今ここに。」

とうに日も暮れ、空は赤く色付いていた。一面の朱の中でも一層際立つ赤に頬を染めながら、天子は叫んだ。

「あんたが出したそれ、うんちよ。私はずっとそれが欲しかったの。あの寺でこれを見て、その時からずっと。」

塵泥とウンコにまみれた幽香を、天子はそっと抱き起こした。そして幽香の頬を伝う涙を、愛撫するように拭い取る。

「そのうんちを顔にひり出されて、体中に塗りたくられて、無様な姿を罵られたいとずっと思っていたの。そう、貴方は私の理想そのまま。」

そして幽香の頬を優しく引きよせた。穏やかな、上気した表情から熱い吐息が漏れる。こんな残念な脳みそでも天子は一応天人なので、ウンコはしないのだ。まだ天人五衰には早いんだね。

「貴方の体についたうんち、ハアハア、私にちょうだい。それを私に叩きつけて、口に押し込んで、いつもみたいにボコボコにして♪ ねえ?」



少女の眼を濡らす涙は、気付けばとうに乾いていた。
残照の中、見つめ合って咲く二輪の花。二人は互いの耳元へ、そっと睦言を交わす。





「キメェ」

「ぁん♪」



 
 
慧音先生、ギャグの書き方がわかりません。

このお題を頂いて色々考えたのですが、幻想郷のトイレは水洗じゃないのかな?
ボットン派の人ごめんなさい

*とりあえず誤字は直しました。ご指摘ありがとうございます

せっかくですので、コメント返信をしてみます。読んでいただいた皆さまありがとうございました

>1さん
たぶん痛いと思います。リンパマッサージみたいに

>2さん
タグ決めてから書きました

>3さん
命蓮時はたぶんぬえのせいにして逃げるような
ゆうかりんは強いから大丈夫!

>4さん
誤字指摘ありがとうございます。名前間違えるのは情けないですね…
霊夢はこういう役しか思いつきませんでした

>5さん
あ り が と う

>6さん
ぬけなくてすみませんでした
ちんこによろしく謝っておいてください

>NutsIn先任曹長さん
いつもコメントありがとうございます
べたべたな話ばっかりになるようにしたんですが、そうかクサイ話って言葉はそうやって使うのか…

>ウナルさん
帽子は絵版で以前拝見した黒崎さんの作品(確かゆゆ様)を思い出して、そこから肉付けしました

>9さん
そんな米貰うとこっちが感動しちゃう!

>エイエイさん
ロリコンです

>ぐうさん
本当はそういう語順なんですよね
ひじりんの台詞、真っ先に思いついたんですが、語順が違ったという
んh
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/11/05 17:14:04
更新日時:
2010/11/15 01:14:49
分類
東方スカ娘B
幽香の誇り
命蓮寺の祈り
守矢の願い
西行寺の欲望
紅魔館の想い
永遠亭の夢
博麗の現実
真実の愛
米返信テスト
1. 名無し ■2010/11/06 04:36:06
便意にくるしむゆうかりんかわいすぎる
『永琳☆先生の腸蠕動マッサージ』…ちょっと受けてみたいかも
2. 名無し ■2010/11/06 04:41:09
いろんな意味で分類タグが間違ってはいなかったw
ゆうかりんかわいいよ、マジ可愛い
必死なのがそそる
3. 名無し ■2010/11/06 07:12:41
これはあとが怖いぞぉ、と言いたいところだけど正直ここまで徹底的に貶められたら果たしてゆうかりんでも立ち直れるものか?
結局耐えられませんでしたが、数々の攻撃を跳ね除けた幽香の括約筋まじパネエ!ww
あと、さりげなく命蓮寺ももう終わりだよね!w
4. 名無し ■2010/11/06 10:33:40
お金の価値は知らないけど、賽銭を信仰の証として求める鬼巫女マジ無慈悲。
恐れられなくなった妖怪はどうなるのかー

>見学料を巻き上げてようとしていた。
→見学料を巻き上げようとしていた。

>虎丸星
寅丸星「生き別れのお姐さんが!?」
5. 名無し ■2010/11/06 10:54:07
す ば ら し い
6. 名無し ■2010/11/06 12:52:17
一発抜くつもりで読みはじめたらまあなんという傑作w
気高くも虐められまくるゆうかりん可愛いです。
7. NutsIn先任曹長 ■2010/11/06 14:52:29
クサイまでの素晴らしいエピソードの数々、有難うございました。
何故!!、何故に!!、感涙物のエピソードがかくもギャグになってしまうのか!!
これが、スカ、か…。
8. ウナル ■2010/11/07 12:42:54
発想がすごいです(笑)。こんなアイデアどこから出るんですか?
帽子で受け止めるとか、もうツボ過ぎます!!
9. 名無し ■2010/11/07 20:43:32
正直感動した
10. エイエイ ■2010/11/07 21:27:23
天才だ〜。
11. ぐう ■2010/11/08 11:35:23
ああ、ゆうかりんの黄金が便器に満ちる・・・
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