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『汚濁に産み落とされて胎内回帰を夢見るおたまじゃくし』 作者: sako
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「まったくもう、みんな外に出してって言ってるのに中に出すんだから…お陰で、こんなメンドクサイことしなくちゃならないんですから」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
日も傾き、影が伸び始めた夕刻。迷いの竹林の奥、永遠亭診療所で永琳は欠伸をかみ殺し、鈴仙が入れた珈琲を飲んでいた。
「暇ね」
そろそろ肌寒くなってきて風邪の患者が増えてきたが、それでも今日はあまり来患はなく小一時間程前に腰痛気味の老婆に軟膏と湿布を用意したのが最後だった。何をするでもなくぼんやりと学術書のページをめくり、流し読みしてはつまらなさそうにため息をつく。
「今日はそろそろ終わりかしら」
時計を見てそう呟く。診療所の営業時間はとくに決まっていない。日が昇って暫く経てば開店で日が暮れれば閉店だ。えらくアバウトだが、時計が高級品の幻想郷では人々は日照を基準にして生活している。郷に入り手は郷に従え、周りと違うことを無理にしても無駄な軋轢を生むだけだ。加えて真面目に営業時間を決めたところで怠け者の妖怪兎たちがそれを守るとは思えない。守れないルールなら決めたところで無駄だ、というのが永琳の方針だ。
「うどんげ、みんなに今日はもう終わりと伝えて」
「はい、分かりました」
待機中の時間を使って勉強をしていた鈴仙にそう告げる。鈴仙はペンを置き、永琳が作ったプリントを纏めると椅子から立ち上がり、失礼しますと言って診察室から出て行った。それを見計らったように、腕を回して首をこきこきと鳴らす永琳。
「?」
と、廊下の向こうから何か騒がしい声が聞こえてきた。
「いいから、早くあの藪医者のトコへ連れて行きなさい」
「え、いや、でも、今日はもう終わり…」
鈴仙ともう一人、誰かが言い争っている声が聞こえてくる。誰か来たらしいが、どうやら鈴仙は永琳に言われたとおり、もう営業は終了していると突っぱねているようだった。
けれど、勢いは来訪者の方が上か。
今し方、業務終了を院内のナースたちに知らせに出て行ったばかりの鈴仙の声が段々と近づいてきている。同じく来訪者の切羽詰まったような怒鳴り声も。
「五月蠅い! こっちは急患なのよ!」
話を聞いている限り、そんな感じのようだった。
まったく、こういうとき融通が効かないんだからあの子は、と軽く頭痛を憶えながら永琳は立ち上がり、鈴仙を追いかけるよう廊下に出る。
案の定、廊下の向こうには来訪者を遮るように立ちふさがる鈴仙の背中があった。項垂れるよう、ため息をつきながらその背中に近づく永琳。
「優曇華、いいわ。急患なんでしょう。通しなさい」
「し、師匠?」
驚きながら振り返る鈴仙。その顔は驚きに満ちていて何故そんなことを言われているのか理解できていない様子だった。永琳の頭痛が増す。
頭を振るい、永琳がため息をつきながら視線を向けるとやっと鈴仙は道を譲るよう、廊下の端に身を寄せた。いや、どちらかと言えば来訪者に押しのけられた形だった。
「この弟子にしてあの師あり、って訳じゃなさそうね」
嫌味そうに、横目に退けた鈴仙を睨み付けながら現れたのは霊夢だった。苛立っているのか言葉にもとげとげしさが表れている。けれど、それ以外はまともそうだ。勢いよく閉店間際の診療所に駆け込んでくる様子ではない。
ならば、と永琳は目を細め、すぐに急患が誰なのか思い至る。
「急患は、その背中の?」
「ええ、早く…早く、何とかして、お願いだから…」
打って変わって殊勝な言葉を口にする霊夢。その背中に背負われていたのは魔理沙、だった。
苦しそうな表情。青い顔。意識がないのか、しっかりと霊夢が支えていなければずり落ちてしまいそうな体。そうして、霊夢が掴んでいる足には乾いた血糊がこびり付いている。
「……詳しい話は後で聞くわ。そこの診察室に運んで。優曇華、診察の用意を」
血は魔理沙の内股側から伝わってきているようだった。その意味、その理由を考え、さしもの永琳の顔にも憤りと嘆きの感情が湧く。霊夢の苛立ちもそれが発端か。やっと、鈴仙も事情が飲み込めたのか、ばたばたと足音を立てて診察室のベットを用意しに走り出した。
「それにしても…なに、この臭い? アンモニア臭? 腐臭?」
鼻をひくつかせ、眉をしかめる永琳。廊下にはたしかに鼻が曲るような悪臭が立ちこめていた。
それから数分後、魔理沙の股間を調べた永琳はすぐさまナース兎たちに手術室の準備をするよう命令を出した。魔理沙のそのデリケートな部分は予想通り、いや、予想以上に酷く穢されていたのだ。
「………」
鬼気迫る表情で手術中の赤いランプを睨み付けている霊夢。
手術室前に備え付けられた長椅子に浅く腰掛け、指を組んでただひたすらにじっとしている。まるで死合前の剣士だ。近寄りがたい雰囲気を全身から放っているせいか、入院患者は愚かナースたちですら遠巻きに眺めては通り過ぎている。誰も声をかけない。かけられない。
と、二時間程点灯していたランプが消え、観音開きの扉が開き、担架に乗せられた魔理沙が運び出されてきた。
立ち上がり、魔理沙を追いかけようとする霊夢。そこへ遅れて手術室から永琳が出てきた。
追いかけても自分にできることは何もないと覚ったのか、霊夢はどかりと腰を下ろした。睨み付けるよう、自分の前に立った永琳を見上げる。
「一応、手術は成功したわ」
「…一応? 医者が使っていい言葉じゃないわね」
永琳の言葉に礼も言わず刺々しい言葉を返す霊夢。けれど、永琳はそんな霊夢の辛辣な態度すら意に介さないのか、そうね、とだけ言って霊夢の隣に腰を下ろした。
「煙草、いいかしら?」
「院内は禁煙じゃないの?」
「肺癌は私にとっては治せる病気よ」
短いやりとりの後、永琳は紙巻きの煙草を取り出して火をつけた。薄暗い廊下に小さな赤い光が灯る。
術後の一服か。味わうよう、永琳はゆっくりと煙を含み、そうして、ニコチンを体中に行き渡らせるように深々と吐き出した。院内はとても静か。嫌な沈黙が流れる。
「魔理沙さんはとりあえず、命に別状はないわ」
小指と薬指の間に煙草を挟んだまま永琳は霊夢に視線も向けず、魔理沙について説明を始めた。霊夢も永琳に視線も向けず、相づちも打たず黙って耳を傾けている。
「性器もできる限り綺麗にした。一ヶ月もあれば退院できると思う。けれど…」
そこで永琳は言葉を切った。躊躇いか。手の中の煙草は燃えて大きな灰ができていた。それがぽろりとこぼれ落ちる。
「もう、魔理沙さんは、その、女性としての営みが行えないと思う。奥の方まで、子宮の中までアレが詰っていたから」
「アレ?」
「…これよ」
そう言って永琳はポケットからパウチを取り出す。口の部分を融解させ真空パックにした透明の合成樹脂製と思わしき袋だ。その中に詰められていた物を見て、霊夢は露骨に眉をしかめる。
中に詰められていたのは汚濁だった。黒にほど近い暗緑色の泥と思わしき塊。手で触れればそこから腐りそうな汚泥。完全密封されているのに臭いが漂ってきそうな程、汚らしい。
「何それ」
「これは貴女の方が専門じゃないの、妖怪バスター?」
永琳の言葉に呼応するよう、パウチの中の汚濁がぐるり、と動いた。汚らわしいこの塊は邪悪な意志さえ持っているようだった。
「……魔理沙は」
「何?」
今度は霊夢が説明しなくてはならない番の様だった。永琳はパウチを自分と霊夢の間に置くと、また、煙草を吸い始めた。今度はきちんと灰を灰皿に捨てる。
「魔理沙は、襲われたって言ってたわ。西の耕作地にある厠で」
「………外道に?」
吐き出された紫煙が中空に消える。
「妖怪に」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っ〜トイレトイレ」
その時、魔理沙は空を飛ばず、お腹の辺りを押さえながら足早に道を進んでいた。顔には焦りと苦痛による歪みが表れている。
魔理沙はお昼前辺りから西の山間に松茸が採れる赤松の山林があると聞き足を伸ばしていたのだが、結局、見つからず山腹で適当に朝ご飯の残りで作ったお弁当を食べて帰ることにしたのだが、どうやらそれが痛んでいたらしい。
山を下りた時にはお腹がごろごろ鳴りだし、とても飛ぶ程の集中力を保っていられなくなったのだ。地表に降り立った魔理沙は用を足せる場所を探してこうして歩き回っているわけだが西のこの辺りは集落があまりなく、トイレを貸してくれそうな家は見つからなかった。
「うぅぅぅ…さ、最悪だぜ…」
ならば、そこいらの茂みに隠れて…なんて方法も考えられるのだが、なんだかんだで乙女な魔理沙はそれだけは嫌だと頑なにまともなトイレを探していた。
けれど、運命は非常だ。ごろごろと鳴っていたお腹は次第にぎゅるぎゅると嫌な音を立て始め仕舞には人類には発音できない名状しがたい音を奏でるように鳴っていた。比例するよう、魔理沙の顔色も青くなる。
「もう…だめ…も、漏れる…っ」
歯を食いしばり、瞳に涙を浮かべる魔理沙。今の彼女の精神を表すなら決壊寸前のダムを人力で押さえつけようとしている作業夫のそれだ。青を通り越して紫色の顔をしながら魔理沙はほんの一縷の望みをかけて、トイレを探すが運命は非常だ。ひび割れたダムの壁の隙間から水が溢れ出てくるよう、耐え難い腹痛が魔理沙を襲い、そうして…
「あっ、あれ…」
寸前のところで少し進んだ先に農夫たちが用を足すための粗末な公衆トイレを見つけた。こんな辺鄙な所にトイレがあるのは排泄物をすぐ隣に広がっている畑の肥やしに使うためだろう。
がんばれ、がんばれと自分を励ましながらトイレまで何とか辿り着く魔理沙。
錆び付きがたついている取っ手を掴むと、風雨に晒され悪霊の死衣の様に灰白色に染まった扉を開けた。釘が抜け落ち、外れかかった蝶番がぎぃぃと音を立てる。汲み取り式故か、中から鼻が曲るような臭いが漂ってきた。人差し指の先よりも大きい黒蠅がぶんぶんと飛び回っている。お腹の調子が悪くなければ決して使いたいとは思わないトイレだ。けれど、事態は急を要する。ええい、ままよ、と魔理沙は躊躇った後、意を決して古く汚いトイレの中へ入った。
「ううっ、はやくはやく…」
トイレの中は酷く薄暗かった。扉を閉めるとなお暗さが際立つ。一応、光を取り入れるために壁には窓が設けられているが、入り込んでくる光は僅かだ。魔理沙は薄暗い中、腹痛を堪えながら何とかロングスカートの裾を捲り上げ、ドロワーズをずらし、腰を下ろした。
瞬間、
―――ぶびっ、ぶぶっ、びびっ、ぶばばばばば…
「っう―――」
殆ど間を置かず堰を切るよう流れ出てくる便。固い物がでたかと思うと後は殆ど滝のように流れ出てきた。
口端を歪め、眉をしかめる魔理沙。鼻には新たに生まれた悪臭…自分の身体の中から出てきたそれ、が届き、狭いトイレの中に歪な放屁の音が響く。遅れて便壷の底へ自分が今し方ひりだした糞が落ちる音が混じる。自分の中からこんな臭い物が嫌な音を立てて出ているんだと、誰も聞いていない筈なのに羞恥と情けなさと嫌悪と、今なお内臓を蝕む痛みに魔理沙は顔を歪めているのだった。
それでも魔理沙の意志に反して、ほとんど水のような軟便が魔理沙の肛門から流れ出てくる。まだまだ止りそうにはなかった。
「最悪…だぜ…」
ぐすっ、と魔理沙は洟をすった。出すものを出したから腹痛は収まりつつあったが頭痛を憶える程酷く気分が悪かった。トイレに籠もった悪臭のせいだけではないだろう。もう、今日は早く帰って、体調が良くなるまで寝ていよう。そう考える魔理沙。
トイレの中は暗くよく見えなかったが紙は置いていないようだった。仕方ない、とずっと座りっぱなしで痺れた足をずらしてエプロンのポケットの中を探る。ハンケチがそこに入っているはずだった。それでお尻を拭くことにする。
「お気に入りなのに…」
けれど、いくら自分のものとは言えお尻を拭いて汚れたハンケチを持って帰って綺麗に洗う気にはならなかった。
Ma…
「?」
と、ごそごそとポケットをまさぐっていた魔理沙の耳に小さな“声”のようなものが届いた。“声”というか“鳴き声”の様な音。トイレの外に動物でもいるのだろうか、と魔理沙は訝しげに眉をしかめたがそれ以上、何かをすることはなかった。みょんな体勢から何とかハンケチを取り出し、お尻を拭きやすいよう広げる魔理沙。
Ma…
「また?」
声が聞こえた。今度はもっとはっきりと。外ではない。トイレの中からだった。魔理沙は不思議そうに狭いトイレの中を見回してみたが、何か声を上げるような動物の姿は見つけられなかった。気にはなったが、それよりこんな不快な空間からはさっさと退散したいと魔理沙は声を無視してお尻を拭くために股を開いた。
「あ?」
その時、魔理沙は声の主がどこにいたのか気づいた。
Ma…Ma…Ah…
いま、自分が跨いでいる暗い穴…トイレの中だ。
暗い穴の内から這い出てきた“ソレ”と目があって魔理沙は悲鳴をあげた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
驚きのあまり仰け反り、バランスを崩して後ろ向きに倒れる魔理沙。幸い、便壷に落ちることはなかったがしたたかに尾てい骨を打ち付ける。
「な、なんだ…」
痛みと恐怖と驚きで混乱した魔理沙は先程、“目があった”相手の正体を見極めようと首を伸ばした。だが、自分のまくりあげたスカートが邪魔でその姿は見えない。けれど、“何か”は確実にいるようで先程からかろうじて聞こえる程度の小さな鳴き声を発し続けている。その不気味な声に魔理沙は総毛立つ。草むらの虫の鳴き声か葉擦れの音にしか聞こえないような小さな音にも関わらず、それがしかと耳に届き、何故か猛烈な違和感を持って魔理沙の耳に襲いかかってきたからだ。加えて、臭い。便壷に溜まった肥を千倍に煮詰めて濃くしたような酷い匂いが立ち込めてきた。魔理沙は半ば無意識に鼻で呼吸するのを止めたが、口から吸い込んだ息や開けっ放しの鼻の穴を浸食するよう臭いは届いてくる。鼻が曲がる、などという形容では生やさしい。喉や鼻孔の粘膜を焼き、肺を腐らせるような猛烈な悪臭だ。あまりの臭いに一瞬、視界がブラックアウト、意識を失いかける。
「あ、あああ…」
恐怖は生命の危機を感じるレベルまで達する。震える声を上げて魔理沙は土で汚れた床板に手を付き、後ろ向きに逃げ出そうとする。尻は汚れたままだし、ドロワーズも履きなおしていないがそんな悠長な事をしている余裕は魔理沙になかった。尻を浮かし、逃げようとしたところで…足首を“何か”に掴まれた。
「ひっ!?」
冷たくぬるりとした感触。逃れようとして魔理沙は足を動かしたが、膝のあたりに引っかかっている自分のドロワーズがそれを邪魔した。脱ぐなりすればいいのだろうが、混乱した頭ではそこまで考えが至らないのか、魔理沙は自分の足が動く範囲だけで暴れまわった。そうこうしている間にもう片方の足にも何かが手を触れてくる。
「いやッ、ああッ、ああ!!」
もはやまともな思考は恐怖に追いやられた。声にならぬ悲鳴を上げて魔理沙はもがくように後ろずさる。だが、逃走は歩幅にして僅か一歩分だ。一畳ほどの広さもない狭苦しい板張りのトイレだ。尻を下ろした状態で移動してもすぐに端に到達する。戸が背中に当たり、今のままではそれ以上逃げられないことを魔理沙は悟った。扉は外開きだが、鍵をかけてしまっている。それを外さない限りには外には出られない。魔理沙はスライド式の鍵を外そうと体を捻り腕を伸ばそうとする。その動作の最中、魔理沙は見てしまった。
「―――」
Ma…Ma…
便壷から這い出てきた“ソレ”を。
それは当然のように腐り融解し汚濁となった糞尿の塊に塗れていた。見るだけでえづき、嘔吐感を催すような一抱えほどある汚濁の塊。屍食鬼の更にその腐乱死体を煮詰めた魔女の大釜の底にこびり付いた滓よりなお汚らわしい臭水の様な泥だ。
けれど、これがおぞましく、見るものの正気を損ない、一瞥したことでさえ後悔し、網膜に焼き付いた像を消そうと眼球さえ焼き潰したくなる念にかられるのはこれが汚らわしいからだけではない。汚らわしく、そうして、胸糞が悪くなるほど邪悪で、悪夢じみた形状をしているからだ。
球体を取り付けた本体から伸びる四つの円柱。四本のどれも中程で関節が取り付けられているのかLやヘの字に曲がっている。その形を魔理沙はよく知っていた。いや、魔理沙だからではない。ただの人間、妖怪、宇宙人でもその形を知っているだろう。頭と胴体と四肢。胴体から伸びる手足には確かに五指が存在し、球体の頭部には瞳を模した様な黒い虚が見える。ああ、畜生、便壷の昏い淵から這いでてきたコレが、コレが単純に汚らわしいとだけ思えずおぞましいと考えてしまうのは他でもない、これが、こいつが、人の形を、赤子の形をしているからだ。
Ma…Ma…
醜悪な形状とは裏腹に赤子が漏らした声は純真無垢であるように聞こえた。始めてこの声を聞いたとき、魔理沙が覚えた違和感はこれだ。汚らしくみすぼらしいトイレで聞こえるはずもない幼子の声。ありえない組み合わせだ。
そこに更に赤子の正体が腐った糞尿で出来た汚泥の塊だということが加わり、いよいよ魔理沙の精神は恐怖に彩られた。
「うぷっ…!?」
恐怖と、“赤子”から漂ってくる猛烈な臭気に魔理沙は胃がひっくり返ったような嘔吐感を覚えた。こらえきれるものではない。口を押さえるが抑えた指の間から胃に詰まっていたものが溢れ出し、魔理沙の胸の上を汚す。息ができなくなり、吐瀉が止まる僅かなタイミングで吸い込んだ酸素は猛毒かと思えるほど臭気に塗れていた。目端から絶えず涙が溢れ出てきているのは嘔吐のせいだけではない。マスタードガスの様な毒素をもった臭いが体の弱い部分、眼球表面や喉や鼻孔の粘膜を焼いているからだ。
「ひぐっ、えぐっ、ううっ…」
もう、体の中には何も残っていないと思えるほど吐き出しても嘔吐感は止まらなかった。嗚咽を漏らし、幼子のように涙を流す魔理沙。だが、本当に泣き叫ぶのはここからだった。
Ma…
魔理沙が嘔吐している間に、赤子は床の上に汚泥の跡を残しながら這い寄ってきていた。それに気が付き魔理沙はまた後ろずさって逃げようとしたがもはや逃げ場がないことは既に明白だった。
「いや…」
来るな、と魔理沙の吐瀉物で汚れた唇が動くが声は出なかった。恐怖と猛烈な臭気で体が麻痺してしまっているからだ。逃げることも叶わず、魔理沙はただただ怯えるばかりであった。
「ひっ…!?」
足首にまたあの冷たくドロリとした感触を覚える。触られたのだ。身を捩って少しでも逃れようとするが、緩慢であれ動ける赤子のほうがまだ早い。
Ma…Ma…
赤子はだんだんと魔理沙に近づいてきている。スカートをトンネルに、開いた足を壁に。右手を前に出し、左膝を進め、左手を延ばし、右膝を追いつかさせる。まだ歩けない、自分で何とか動けるようになった程度の赤子の動作、ハイハイそのままだ。だからこそ魔理沙は嫌悪し恐怖しおぞましさに打ち震えるのだ。なんという醜悪なパロディ。いや、模倣などではない。確かにこの糞尿の汚泥で出来た赤子はまさしく生まれて間もない赤子の動きをしているのだ。
魔理沙のドロワーズを汚しながら乗り越え、ついに完全にスカートの内側まで潜り込む赤子。姿が見えなくなり、余計に恐怖心が増す。何をされるんだ、という思いにかられるが魔理沙は動くことが出来ない。恐怖は強力なしびれ薬で、この猛烈な臭いは神経ガスも当然だからだ。
「っう!?」
魔理沙が身を捩った。スカートの股間部分がもぞもぞと動いている。そこまで赤子が到達したのだ。スカートの中、魔理沙の足の間までやってきた赤子は無毛のソコ…ついさっきだした小水で少し汚れているその場所をベタベタと糞尿でできた手で触っていた。汚泥を塗りたくられる感覚に魔理沙は怖気を振るい、顔をひきつらせ歯を食いしばる。遊んでいるのか、暫く赤子は魔理沙のデリケートな部分を触り、そうして、何かしらこの子にしか分からない確信を得たのか、次の行動を開始した。
Ka…E…R…
「えっ、何を、おい、やめ…っ!!?」
赤子は小さく意味不明な声を上げるとその汚らわしい指を魔理沙の秘裂の間に突っ込んだ。自分自身でさえも触ったことのない場所を触られ、魔理沙は別種の恐怖を覚える。体の内側のそこは非常にデリケートな部分だ。同じ体の内側でも食べ物を入れる口やたまに掃除しなければいけない耳、そうして排泄用の肛門と違い、そこは機会がなければ何かが触れることはまずない場所だ。機会というのはつまり繁殖活動。性行為だ。前述の通り未だ他人を受け入れたことがない魔理沙でもそこに何のために孔があいているのか、何のために使うのかぐらいは知っている。つまり、赤子がそこに指を入れたのはそういう行為のためではないのか、生まれたてであるはずの赤子がそういう事をするのはおかしいように思えるが相手は生物の摂理にそぐわない醜悪な存在だ。何だってする。いや、むしろ産まれたての赤子が生むための行為をするという醜悪なパロディなのだろうか。
赤子はその汚らわしい手で魔理沙の秘裂を押し広げる。性的興奮など覚えるはずがない。生まれののは嫌悪と恐怖だけだ。けれど、麻痺した体は動かず魔理沙はされるがままだ。やめてくれ、やめてくれ、と消え入りそうな言葉が薄く開いた唇から漏れるが赤子は聞き入れない。大陰唇を押し開き、小陰唇を汚し、膣口を無理矢理に押し広げていく。
「いッ!?」
ぶちり、と魔理沙の女性器が裂けた。見た目以上に力があるようで、己の体を崩しながらも赤子は魔理沙の秘裂を左右に広げる。更に開かれた膣口へ頭を押し込み始めた。みちり、みちり、と未だなにものも迎え入れていない膣口が悲鳴をあげる。赤子は当然、並の男性器よりも何倍も大きい。到底、受け入れられる大きさではない。それでもなお赤子は己の体をつぶしながら、魔理沙の体を無理矢理に広げ、体内への侵入を果たそうとする。
「ア―――、ア―――!!」
甲高い金切り声を上げる魔理沙。激痛に顔をひきつらせ、恐怖に油のような汗を流す。強姦―――いや、それを上回るおぞましい行為にもはや魔理沙の精神は崩壊寸前だった。そのカウントダウンを告げるように赤子は体をすり減らしながら魔理沙の体の奥へ奥へと侵入していく。防壁のように張られた処女膜を破り、今はまだ固く門扉を閉ざしている子宮口の前まで訪れる。そこへ到達したとき、赤子はもう赤子と呼べるような姿ではなかった。未だ手足はあるが酷く短く不恰好で、その大きさは握りこぶしほどもなかった。そして、それは魔理沙の子宮口をこじ開け、初潮すら始まっていない狭苦しい子宮内へ体を減らしながら滑りこみ、無理やりそこに居座った。
「あっ、あっ…」
胎内へ異物を押しこまれ、お腹を大きくした魔理沙は打ち上げられた魚のように短い呼吸を繰り返している。頬には涙の乾いた跡が残り、見開かれた目は絶望に彩られ、灰色の光を放っていた。強姦された後も当然だった。
と、魔理沙がもたれかかり、暴れていたせいだろう。蝶番を止めていた錆びた釘がポキリと折れ、扉が倒れるように外れた。
やっと、魔理沙は外の空気を吸うことが出来たが何も助かってはいなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後、偶然通りかかった霊夢に助けられ、魔理沙はこうして永琳のところまで運ばれてきたのだった。
永遠亭までの道中、とぎれとぎれながらも魔理沙から聞いた話を何とか纏め上げたものを永琳に全て伝え終え、疲れた様子で深々と溜息をつく霊夢。永琳も中程まで吸った煙草の火を消し、倣うようにため息を付いた。
「赤子の形を模した糞尿で出来た妖怪ね。確かにこのひどい匂いはそれね。二、三日は臭いが取れなさそう」
自分の服の袖の匂いを嗅いであからさまに顔をしかめる永琳。術後、すぐに煙草を吸いたいといったのは臭いを消したいからだったのかもしれない。
「私は妖怪についての知識はあまりないのだけれど、話から察するに魔理沙さんを襲ったのは赤子の妖怪で間違いないかしらね。形状、鳴き声、そして、胎内回帰。中絶して堕ろした胎児が生まれなかった事を怨んで妖怪化したのかしら」
そう与えられた情報から導き出した推論を口にする永琳。けれど、霊夢はその考えに否定的なようでゆっくりと首を振るった。
「水子の祟りなんて言い出すのは無知蒙昧か霊感商法にかこつけた詐欺師だけよ。未だ生まれいでなかったものが何をどうすれば怨みなんて抱くのかしらね」
「そうなの」
興味深そうに永琳が問う。自分の知らないことに関して貪欲なのは科学者としては当然か。
「ええ。世にいる水子関係の霊害、妖怪の類が出来上がる発端になっているのはむしろ貴女みたいに考えた人たちの思念が集まって生まれたものよ。かくあるべし、故にかくある、よ」
「パブリックイメージが先行し、実態のないものを創りあげるね。ふむ」
顎に手を当て考え込む永琳。
「けれど、それなら一つ、疑問が浮かんでくるわ。霊夢さん、貴女、お腹の中の赤ん坊がどんな形をしているか知ってる?」
「人の形をしてるんじゃないの?」
「まぁ、そうだけれど、じゃあコレはあなたのイメージしているお腹の中の赤ん坊と同じ形をしているかしら?」
そう言ってまた、魔理沙のお腹の中から摘出した赤子をいれたパウチを霊夢に見せる永琳。先程までただの泥が詰め込まれていたそこには、泥が固まり再び形を取り戻したのだろう、人の胎児を模した様な汚泥の固まりが収まっていた。
「………」
それを仔細に眺め、訝しげに眉を顰める霊夢。パウチの中の胎児は人の形をしてはいたが霊夢の想像よりも手足が小さく、代わりに大きな頭部をしていた。
「その反応で大体分かるわ。やっぱり、幻想郷の医学知識のない一般人の認識と現実の胎児の形ではそれなりに齟齬があるわね。胎児の形状を正確に知っているのは私のような医学従事者か…」
「か?」
「もしくは胎児本人だけよ。霊夢さん、やはりこれは貴女でも初めて見聞きする胎児そのものが妖怪化したものよ」
そう結論づける永琳。霊夢も異論はないようでそれ以上、口を挟まなかった。
「妖怪化した胎児ね。まったく、胸糞が悪くなるわ。メシマズね、メシマズ」
おぇーっと嘔吐するような真似をする霊夢。永琳も同感なのか、肩をすくめてみせる。
「だとしたら、親は誰かしらね。はははっ、魔理沙に酷い事をした責任をとってもらわないと。子供の不始末は親の責任、なんだからね」
ケタケタと何がおかしいのか霊夢は笑い声をあげる。いや、おかしいのではない。怒りのあまり、感情が怒を通り越して喜に達しているのだ。ある意味で狂った笑い。薄暗い廊下に霊夢の声がこだまする。
「そのことなんだけれど…一人、心当たりがあるわ」
「えっ?」
永琳の言葉に驚いて顔を上げる霊夢。永琳は間違って煙草のフィルター側でない方を咥えてしまったかのように顔を歪めていた。
「親の特殊な力が子にも遺伝するのは当然よね。神の血を引くあの娘なら、その子供が妖怪になっても不思議じゃない」
「何の話をしてるの?」
永琳が言わんとしていることが理解できず、半ば怒鳴るような形で霊夢は問いかけた。永琳はポケットから煙草を取り出し、それに火をつけてから応えた。
「中絶薬を渡したのよ、何ヶ月か前にね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……それから暫くたったある日。
日も傾き、影が伸び始めた夕刻。迷いの竹林の奥、永遠亭診療所で永琳は欠伸をかみ殺し、鈴仙が入れた珈琲を飲んでいた。
「暇ね」
こう寒いと体調が悪くても外に出るほうが更に体調の悪化を招きかねないと家にこもる人達が多いのか、今日はあまり来患はなく小一時間程前に腰痛気味の老婆に軟膏と湿布を用意したのが最後だった。これはそろそろ越冬用に風邪薬と栄養剤を幻想郷の各戸に売りつけるべきかしらね、と漠然と経営計画を練る永琳。けれど、急ぐものでもなかった。適当にメモを取った紙を破り捨て、溜息をつく。
「今日はそろそろ終わりかしら」
時計を見てそう呟く。診療所の営業時間は日に日に短くなっていく。怠け者の兎妖怪たちは喜んでいるがその分、寒くなって自分たちの遊ぶ時間も短くなっているのに彼女らは気づいていない。
「うどんげ、みんなに今日はもう終わりと伝えて」
「はい、分かりました」
待機中の時間を使ってクロスワードパズルをしていた鈴仙にそう告げる。鈴仙はペンを置き、永琳が作ったプリントを纏めると椅子から立ち上がり、失礼しますと言って診察室から出て行った。それを見計らったように、腕を回して首をこきこきと鳴らす永琳。
「またかしら」
と、廊下の向こうから何か騒がしい声が聞こえてきた。
「いいから、早くあの藪医者のトコへ通してください」
「え、いや、でも、今日はもう終わり…」
どうやら急患のようだ。けれど、相変わらず融通の聞かない鈴仙は来訪者を追い返そうと規則ですから、また明日来て下さいと突っぱねている。
けれど、やはり来訪者のほうが勢いは上だ。前に来た時もそうだった。やはり、それなりに後ろめたいのだろうか、と永琳は考えつつもそれでも辞めないなら自業自得ね、と冷ややかに笑いながら永琳は立ち上がると鈴仙を追いかけるように廊下に出た。
「優曇華、いいわ。お得意様だから、通してあげなさい」
「し、師匠」
もはややりとりはこの前のリプレイだ。分かっているなら対処法はある。鈴仙は罰が悪そうに視線を伏せて、さっと来訪者のために道を譲った。鈴仙の後ろから現れたのは巫女だったが霊夢ではなかった。
「こんばんわ、早苗さん。今日はどんな御用で?」
「こんにちは先生。ちょっと、また診てほしい欲しいと思いまして」
永琳の皮肉に、同じ皮肉を返したのは山の上の巫女だった。
「この弟子にしてこの師匠ありですね。まぁ、いいですけど。診てもらえますか先生」
「ええ、どうぞこちらへ」
そう言って永琳は診察室を手で指し示す。勝手知ったる他人の家か、早苗はずんずんと廊下を進んでいく。途中、鈴仙の脇をすり抜けるとき、その顔をおもいっきり睨みつけながら。たじろぎ、後ろずさる鈴仙。永琳はその鈴仙に視線を向け、貴女は先に上がっていいから、と告げる。言葉こそ部下を労うようなものだったが、口調は固い拒絶のそれだ。患者は聞かれたくない話があるから二人っきりにさせてくれ、だ。それのどこまでを読んでいたのかは定かではないが、鈴仙は言われたとおり、仕事をあがった。
「で、まだしてるというわけね」
検査の途中で永琳は不意に早苗に問いかけた。早苗は一瞬、目を丸くしたが、すぐに嫌そうに眉を潜めこう応えた。
「まぁ、そうですけど」
早苗の言葉に永琳は何も言い返さない。ただ、沈黙を返しただけだ。それを無言の忠告と受け取ったのか、早苗は眉を釣り上げ怒りを顕に語ってみせた。
「だって、他に楽しみなんてここにはないじゃないですか。何処に行ってもほったて小屋と山と畑があるだけで楽しそうな場所なんて一つもない。ゲーセンもカラオケもスタバもないここじゃあ、そうやって遊ぶしかないじゃないですか」
「巫女らしく弾幕ごっこでもしたら?」
「嫌です。一方的に妖怪退治するのは面白いですけど、命蓮寺の人達が居座り始めてから風当たりが厳しくなって、やり過ぎると強いボスが出てくるんですもん」
それは以前からだったが永琳は何も言わないでおいた。代わりにため息をつきつつ嗜めるように、早苗に告げる。
「だからってね、不特定多数の異性と関係をもつのはあまりおすすめしませんよ」
「いいじゃないですか別に。売春やっているわけじゃないですし。信者の人たちとのスキンシップですよ、スキンシップ」
永琳の言葉に悪びれもせず応える早苗。
早苗がこんな閉店間際に人目を忍んで永遠亭診療所にやってきたのは訳があった。実は早苗は永琳以外には黙っているが、守矢神社の男性信者と日常的に性交渉を行っており、ここにはその際、ハードなプレイで負った怪我や性病などの治療をしてもらいに来ているのだ。
永琳の手慣れた対応から見てわかるように早苗がここにそういった理由で来たのは一度や二度ではない。永琳が早苗をお得意様と呼んだのはその為だ。永琳は最初こそ若い身空でそんなことをするのは良くないと道徳に照らし合わせて早苗に解いたが、今の様子を見てもわかるように聞き入れては貰えていない。間違いが起こってからでは遅い、なんて言葉は間違いを犯した後でも聞き入れてもらえないだろう。
そう、間違いだ。
「お説教は神奈子様のだけで十分ですよ先生。で、結果はどうですか?」
早苗の急かす言葉にため息を付きつつ、永琳は机の上に置いてあった試験管たてを手に取り、ガラスの中を覗き込んだ。立てられた三本の試験管の中には細長い紙片が入れられており、先が湿っている。先ほど採取した早苗の尿に浸しており、陽性ならそれを示す赤い点が浸した紙の上に現れるはずだ。だが、永琳が最初にチェックした紙面は真っ白のままだった。他の三つも同様。
「今回は違うようね」
応えて試験管たてを机の上に戻す永琳。よかった、と早苗は胸をなで下ろす。
「デキてないってことですね先生。あのゲロ不味いお薬を飲まなくてもいいと」
顔を綻ばせる早苗。苛立っていたのは心中に間違いが起こったのではないかという不安があったからだ。
そう、間違いだ。
「男の人って外に出してってって言っても中に出したがりますからね。まぁ、ゴム無いから仕方ないんですけれど。なんか、ここんところ体調が悪くて不安だったんですよ、またかなーって。あー、でも、よかった妊娠してなくて」
ハードプレイの怪我と性病、それ以外に早苗が永琳のところへ来る理由がもう一つだけある。男女の性交渉である以上、本来はそれが目的であるはず。だが、遊びで性行為をしている早苗としてはむしろそうなっては問題なのだ。問題。そう、妊娠だ。
以前にも二度ほど、早苗は体調不良と意図しない嘔吐を理由に永遠亭診療所の戸を叩いている。妊娠の有無を確認するために。一度目は今回と同じく早苗の思い違いであったが、前回はそうではなかった。
「まぁ、できても先生の薬飲めばすぐに堕ろせるんですけれどね」
前回の判定は陽性だった。つまり、早苗は想像や思い違いではなく本当に妊娠していたのだ。
無論、不特定多数の男性と関係をもっている以上、父親を判別することは難しい。その為の設備がない幻想郷では事実上確認は不可能だ。けれど、それ以前に遊びでセックスをしている早苗としては意図していない妊娠なんてものは邪魔でしかなかった。性交渉している男たちは特別嫌いではないが決して愛しているわけではない。気持ちのいいことをしあう相手、その程度の認識だ。故に子供なんて出来たところで愛着や母性本能が湧くわけがなく、早苗はまるでデキモノでも出来たように面倒くさいと思いながら何とかしてもらうため…そう出来た子供を中絶堕胎してもらうために永琳に薬を貰ったのだ。永琳は医者だ。道徳観念的なものは持ち合わせているが医者である以上、患者に言われた薬を処方するしかない。
「あ、ところで先生、あのお薬って甘くならないものなんですかね。苦くて苦くて。多分、これからもお世話になる甘いほうが何かと飲みやすくていいんですけれど」
「残念だけれど、味なんて付けられないわ」
「そうですね『良薬は口に苦し』って言いますし。我慢します」
その諺は早苗なりのウイットに富んだジョークだったのか。それだけ言うともうすべきことは終わったと言わんばかりに早苗は立ち上がった。
「それじゃあ、先生。ありがとうございました。また、何かありましたらよろしくお願いしますね」
ペコリと頭を下げてそそくさと帰ろうとする早苗。その背中に声をかけ、永琳は呼び止める。
「なんですか?」
「一つ、聞きたいんだけれど、あの薬を呑んで何処でお腹の中の子供を堕したの?」
「え? 当然、おトイレですよ。家のトイレだと神奈子様が五月蝿いんで、適当に見つけたきったなぁいトイレで」
こともなさげに応える早苗。
「……ついでに聞くけれど、まだ、形になってないとはいえ自分の子供でしょ。何か思うところはないの?」
「は? なんですかソレ」
永琳の言葉に早苗はとたんに不機嫌そうに眉を顰める。
「私は好きな人と結婚して男の子と女の子の二人兄妹を産むって決めてるんです。それ以外の子供なんて、子供じゃありませんよ」
ほら、ポケモンでも種族値限界の個体が出てくるまでセーブ&リセットを繰り返すじゃないですか、そんな感じ…でもないですね、と茶化したように応える早苗。それだけ言うとそれ以上、話したくないと言わんばかりに踵を返した。
「分かったわ。まぁ、夜道には気をつけてね」
永琳の言葉を聞いたのか聞いていないのか、早苗は診察室の扉を開け放したまま帰ってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
竹林に挟まれた暗い道を一人行く早苗。
妊娠していないのは良かったが、最後に永琳に言われた言葉に相当腹を立てているようでブツクサと文句を言いながら、石ころを蹴飛ばしつつ帰路を急いでいる。
「あーもーまったく、神奈子様と一緒でBABAは口うるさいんだから」
これは帰ったら一発ハメないと気が収まらないわ、などとボヤいている。
と、
「?」
ガサゴソと茂みが妙な揺れかたをしたような気がして早苗は足を止めた。獣か兎か、それとも妖怪か。後者なら、いや、どれでも弾幕ごっこで退治してやっても構わないと早苗はサディスティックな笑みを浮かべる。身構えながら足音を殺しながら茂みに近づき、そうして…
「『亜空穴』」
不意に背後の何も無い空間から現れた人物に側頭部を強く蹴りつけられ、早苗は受身さえとれず地面に伏した。
「痛ぁぁ…何? なんな…ぐぇッ!?」
更に背中を踏みつけられる。肺の空気が一気に吐き出され、先程の側頭部の一撃と合わせて早苗の体はほとんど麻痺状態に陥る。
「な…誰ですか…」
すりむき、笹の葉を頬に貼りつけつつ早苗は振り返るように強襲者の姿を探す。いや、探すまでもなかった。強襲者は鬼のような怒気を身にまとい、早苗のすぐ後ろに立ち、その地面に這いつくばっている姿を睥睨していたのだ。怒れる鬼の正体は…
「れ、霊夢さん…ぎゃっ!?」
博麗神社の巫女だった。
「なっ、何を」
立ち上がろうとした早苗の視界の先で霊夢の姿がかき消えた。ワープではない。究極の戦闘歩行術、縮地だ。霊夢が次に早苗の近くに現れた時、既に次の一撃が決まっていた。脇腹に突き刺さる霊夢のブーツ。ぐぇ、と早苗は蛙を踏みつぶしたような悲鳴をあげて倒れる。悲鳴と共に吐き出したものには血の朱色が含まれていた。痛みに震えながら喘ぐ早苗の呼吸音は何処かおかしかった。今の一撃で肋骨が折れたのだろう。けれど、霊夢はそんな早苗を許すことなく、更にもう一撃、振り上げた足蹴を加える。ごろごろと竹林に挟まれた道を笹の葉を巻き上げながら転がる早苗。
「イタイイタイ、クソ、なんで、なんでいきなり…霊夢っ!!」
血混じりの咳を繰り返しながら地面に手をついて体を起こそうとする早苗。有無を言わせるつもりもないのか、霊夢は早苗の腕を払うと更にブーツで顔を踏みつける。
「黙れ」
一喝。そのあまりのプレッシャーに早苗は言われた通りにするしかなかった。
「一応、アンタが私に蹴り飛ばされてこれから制裁を受けなきゃならない理由を話しておくわ」
「な、なんで…ッ」
「黙れと言ったでしょ」
ブーツの底を擦りつける霊夢。耳がすりつぶされねじ切られるような痛みに早苗は悲鳴を上げる。
早苗は頭を踏みつけられたまま、涙目で霊夢を睨み付けるが、霊夢はまるで意に介さず話を続け始めた。
「この前、魔理沙が厠で妖怪に襲われたわ。水子の妖怪ね。ソレのせいで魔理沙は心と体に大変な傷を負ったわ。永琳の話だともう、子供が作れないらしいの。酷い話だわ、まったく。で、その水子の妖怪ってのは調べてみるとどうも若干の神性…地の属性をもっててね。どうも、どっかの神が堕した胎児が死にきらず、肥だめの中で祟り神、妖怪化したもんらしいのよね」
そこで霊夢は一旦、話を切りハン、と鼻を鳴らす。
「ここまで話せばアンタのそのピーマンみたいに何も詰っていない頭でもだいたい、どういうことか分かるでしょ」
「分かる…わけ、ないじゃない…」
「本当にピーマンね」
スタンピング。早苗の頭を強く踏みつける霊夢。頭蓋が軋み、脳が揺れ、早苗の意識は混濁しかける。
「コイツよ」
そう言って霊夢は早苗の視界が届く位置に小さなフラスコを置いてみせた。フラスコの口は蝋でしっかりと封をされている。その中には…
「な、何これ…」
「アンタの子供よ」
あの糞尿でできた水子の妖怪が収められていた。自ら生まれたものとは言え、いや、だからこそか、早苗は一瞬、痛みを忘れ怖気を催した。それもまた、霊夢の足蹴で苦痛と恐怖に差し替えられる。
「だから喋るなって言ってるでしょ」
ほとほと困り果てた、といった様子でわざとらしくため息をついてみせる霊夢。もはや、抵抗の意志は砕け散ったのか、早苗はすすり泣きを始めた。あばらを折られ、体中に擦過傷と打撲の痕をつけられ、笹の葉と埃まみれになった惨めな体。けれど、霊夢は許すつもりは毛頭なかった。
うずくまり、体をまるめて啜り泣く早苗を一瞥すると投げ出された擦り傷だらけの足を押さえつけ、スカートの裾を捲り上げた。ショーツに覆われた臀部まで露わになるが、今の早苗に羞恥に顔を赤らめる余裕はない。最早されるがままだ。それを好都合ととったのか、霊夢は躊躇いも迷いもなく早苗のショーツに指をかけ一気にソレを引き裂いた。丸みをおびた尻と髪の毛と同じ緑色の密林に覆われた秘裂が露わになった。鮑を思わせる黒ずんだ大陰唇のひだを見て霊夢はハン、と鼻を鳴らす。
「使い込んでるわね、糞売女が」
まぁ、それも、と霊夢は手を伸ばし置いてあったフラスコを再び手に取る。
「今日までよ。アンタには魔理沙と同じ目に遭わす」
何を、と自分の秘所に詰めたい物をあてがわれた早苗がやっと反応らしい反応を見せる。だが、霊夢は止めようとしない。早苗の膣孔にフラスコをねじり込ませる。
「いやっ! 止めて! やめて! かっ、神奈子様!! 諏訪子様!!」
流石に妙なものを性器に突っ込まれるのは嫌なのか早苗が暴れ出す。逃れようと土を掴み、二柱の名を叫ぶ。だが…
「アンタんとこの神さまなら来ないわよ。紫が話をつけに行ったわ」
実際の所、話をつけに行ったのではなく紫は早苗の公序良俗を乱す不埒な行いをネタに強請をつけに行ったのだが、早苗にとってはどちらでも関係がなかった。いくら泣き叫ぼうが今は誰も助けには来ないのだ。
潤滑液も分泌線もなくとも案外、すんなりと早苗の膣はフラスコを飲み込んだ。二本差しや異物挿入をしていたことがある意味で早苗の体を守る結果になった。それでも、かなり大きなものをつっこまれ、乱暴された悔しさに早苗は涙を流す。
「ひぐっ、ひぐっ、こ、これでゆ、ゆるしてもらえるんですね…」
涙目で訴える早苗。
けれど―――
「まさか」
影絵の竹林とその間から顔を覗かせる満月を背に、地に這いつくばっている早苗を睥睨する霊夢は無慈悲に言い捨てた。その姿は善悪の彼岸を超越した完全者の様であった。真っ暗でその表情は伺えないというのに、アイスセカンドじみた強大で純粋な怒りを湛えているのが分かる。
「魔理沙と同じ目に遭わす、って言ったでしょ」
暗闇の中、何故かはっきりと窺い知ることができる霊夢の瞳が爛と輝いた。
霊夢はすっ、と足を振り上げるとブーツの先で早苗の股を蹴り上げた。フラスコが砕け、望まれずまともに生れもしなかった子は母胎に還ることになった。
MaMa…(ママ…)
END
Twitterでスカ娘の話題を目にする→掲示板で詳細を調べる。お題はトイレか→思いついたら書いてみるか→ティンと来た。妖精兵士が野グソをしに行ったら臭いに気がついた敵兵がいて後でそいつにうん○塗りつけた毒矢とかでフルぼっこにされる話!→いや、まて、それは戦場でのトイレと後始末の大切さを説く話で決してスカトロジーじゃねぇ→じゃあ、どうしようかな…?→トイレトイレトイレっと→そう言えば昔読んだ漫画でトイレで子供を堕ろす話ってのがあったな→って、またスカじゃないぞ、ソレ→うーん、そうこうしている間に六日だ→焼き肉うめぇ→無印の怒首領蜂のワンコインクリアは諦めた→助手かわいいよ助手→やっべロスマン先生の授業超うけてぇ→今ここ→>>13さま、それは誤字です→今ここ
sako
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作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/11/14 14:17:29
更新日時:
2010/11/16 18:58:44
分類
霊夢
魔理沙
永琳
ファッキンさなビッチ
この手の便所は、穴に消毒用アルコールを投擲した後に火でも点けたほうがいいかも。
早苗、ビッチな性格を直せ。便所の穴より深く反省しな。お子様とお幸せに。
トイレがトラウマになった魔理沙可愛い。
現人神の胎内でパワーアップしたお子様幸せに。
子供に意識を乗っ取られたサナエーは、以前より弱者に優しくなったとか。
身体を売るという行為から更に一段階おぞましい方向へと進んでますね。
性行為の果てにトイレやロッカーに赤子を捨てる、外の世界の病巣ですな。
好きな人と生んだ子供云々言ってるけど、もうこの早苗はどんな形であっても自分の子供を愛することは出来ないでしょうね。
幸せそうな親子に危害加えるタイプになりそう。
ああ、何というメシウマ状態。
しかしタイトルが秀逸すぎる…
嗜虐心をくすぐるというかメチャ可愛い
このあとどうなったのか気になります
ダメだなぁ〜。もっと抵抗しろやサナビッチ
水子うんぬんの説明や設定も相まってほんとおもろかった
霊夢かっけえもあったけどやっぱ魔理沙がそそる
すばらしい終わり方です。
>「…一応? 医者が使って言い言葉じゃないわね」
>なんか、ここんところ体調が悪くて不安あだったんですよ、またかなーって。
この2点は誤字かな?
霊夢は異変解決役でもあるから、警察への情報提供に近いのかも
この後の話が無性に読みたいのでよろしければ書いて頂けませんか?
妖怪が人間を襲うのは当たり前だから、何かねぇ。
霊夢が情に流されてるっぽいのがちょっと違和感。
まぁ、早苗さんが原因で新たな妖怪が生まれてしまってるわけだから、原因を潰すという意味は間違ってないな。
中立の巫女として誰かをひいきする事が許されてないにしても。
ある面、僻地医療の医者以上にハードワーク、かつ辞める事が出来ないんだから、
無償で手伝ってくれてきた存在がいなくなったら巫女が潰れて代替わりするかも。
タイトルが秀逸。
中絶は殺人行為であり、強姦は去勢、児童虐殺は死刑をもって懲罰するしかないと思います。
個人主義・自由主義の権化と化した現代人に問う。子供は性行為の副産物か?
むしろ過去の方がよっぽどその傾向つよいですけど何言ってんですか?
途上国とかみりゃ、楽しみが何しかないかよーくわかるよ
やったね早苗ちゃん
僕もこんなファッキンストーリー書いてみたいですぜファッキン!