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『幻想侵略記8』 作者: IMAMI
所変わって魔法の森。
アリスとにとりは魔理沙と合流し、香霖堂へと向かっていた。戦う能力のない霖之助が心配だったのだ。
「今のところ荒らされてる様子はないね」
にとりが辺りを見回して言う。
「ああ。無事だといいんだが」
霖之助は人間と妖怪のハーフだ。普通の人間よりは強いが、妖怪としてならかなり弱い部類に属される。
山の二柱や天魔、西行寺の亡霊姫を捻り潰した連中が香霖堂を訪れたらひとたまりもないだろう。
「ついたな。
………!?」
三人が見たものは果たして香霖堂だった。
その香霖堂に寄りかかるように倒れている森近霖之助の姿だった。
「香霖っ!?」
慌てて魔理沙が霖之助に駆け寄る。
「あっ………香…霖」
霖之助の服は血でべったりと濡れており。倒れてる場所も血がたまっている。
「………刀傷だ」
にとりは霖之助の傷を見てそう言った。
「その深さじゃあ、心臓まで斬られてる。
魔理沙。気の毒だけど彼はもう………」
「そんなっ!?
香霖!目を開けてくれよ香霖っ!」
最後は嗚咽混じりの魔理沙の声。それを聞きながらアリスは口を開いた。
「刀傷って………妖怪の山でにとりを襲った奴じゃない?」
「うん。あのデブだ。間違いないと思う。許せない」
「ええ…
中に入りましょう」
魔理沙を見かねてアリスはそう提案する。もちろんにとりは断らずに、主を失った香霖堂へと足を踏み入れた。
「………やっぱり荒らされてるわね」
足の踏み場も無いほど荒らされているわけではないが、一通り物色されたようではある。
「金目の物を取っていったのか?」
「それはないわ」
と、アリスは足元に無造作に転がる金塊を拾い上げた。
「魔法の触媒に使うタイプの金塊よ。純度はかなり高いわ。
知らなかったとしても強盗が金塊を捨て置くかしら」
「そうか…もしかしたら刀かもしれない」
「刀?」
「うん。あいつ、椛から刀を奪って使ってたから」
「刀………確かに刀はなくなってるみたいね」
アリスが辺りを見回して椅子を見つけるとそれを立てて腰かけた。
「魔理沙は………」
「しばらくそっとしておいてあげましょう」
「その必要はないぜ」
ガラッ。と香霖堂のドアが開いた。そこには霖之助の血で濡れた服を着た魔理沙が立っていた。
「待たせた。もう大丈夫だ」
魔理沙は額に霖之助の眼鏡をかけていた。
「魔理沙………」
「絶体に殺してやる。香霖を殺した奴を………絶体に殺してやる!」
魔理沙は拳を固く握りしめてそういい放つ。その目には、怒りのみが浮かんでいた。
「だから、アリス。にとり。協力してくれ」
「もちろんだよ」
「ええ」
二人もそれに応える。
「ありがとな。
それじゃあ香霖を埋葬したいから、手伝ってくれ。その後命蓮寺に行こう」
「うん」
わざと魔理沙が気丈に振る舞っている。誰が見てもそれは明らかであったが、あえて二人はそのことについては何も言わずに魔理沙についていくことにした───
「………んっ」
小兎姫の牢獄の中、大妖精は目を覚ました。
ここはどこだろう。
見たこともない場所で自分は人間の服に身を包んで寝ていたらしい。
何があったのか覚えていない。妖精である故に頭があまり良くないのだ。
「チルノちゃん…」
大妖精は友達の名前を呼んだ。彼女と何か非日常な出来事を体験した気がする。
「おはよう妖精さん。
気がついたみたいだね」
そのとき、何もない空間で帽子を被った少女の像が結ばれた。
「カナ・アナベラル。ポルターガイストよ。よろしく大ちゃん」
手を差し出すカナ。
「チルノちゃんは寝ちゃってるわ。まだ起きてないよ」
「チルノちゃん………
あの、私なんでここに…」
大妖精は目の前の少女に聞いた。何かがあった気がする。でも、思い出せない。
「覚えていないの?
でも私も見たわけじゃないからわからないけど、天狗や河童が妖精を襲った時に、大ちゃんがチルノちゃんを庇ったって…」
そうだ。天狗や河童が見たこともない何かを使って自分達を襲ったのだ。
「チルノちゃん………
あの、あなたが助けてくれたんですか?」
「違うよ。あなたを助けたのは魔法使いと警察官だよ。
私はただ居るだけ」
カナが応える。
「そうですか………でも、ありがとうございます。
あの、普通、妖精って死なないんです」
「知ってるよ」
「本当は妖精は死んでも、生き返るんです。人間は、死んだらそのままおしまいだって、慧音先生が言ってました。
でも、あのときは…みんな死んじゃって、生き返らなくて………」
大妖精が涙交じりに言葉を紡ぎだす。
「妖精が生き返らないって?
うーん。私あんま頭良くないからわかんないなぁ…
小兎姫や理香子ならちょっとわかるとおもうけど」
「私なら何がわかるって?」
と、丁度そのとき理香子が独房のドアを開けて入ってきた。
「あっ、理香子。
聞こえてた?」
「あの警察官と私ならわかる。の所で入ってきたんだよ。
妖精。怪我の具合は?」
「えっ、あぁ………はい、大丈夫、です。ありがとうございます助けてくれて………」
大妖精は多少びくつきながら礼を言った。
「そう。
恐らく、科学になっているからよ」
「えっ?」
「妖精が復活出来ないのは、自然が無くなっているからよ」
理香子はパイプ椅子を取り出して腰かけた。
「大妖精。感じないか?自が乱されているのを。自然の中で対等に生きているあんたたちならわかるはず」
「………はい。感じます」
大妖精は一瞬だけ考えて理香子に答えた。
「でも、あなたは………」
「正真正銘の人間の科学者だ。
自然は感じないが科学を今の幻想郷から感じられる。
恐らく、あの妖怪の賢者が大結界を剥がしているのだろう」
理香子はそう吐き捨てるように言った。
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「入って、いい?」
「チルノ?」
理香子はその声を聞いてドアの外に呼び掛けた。
「うん」
「入りなよ」
チルノはゆっくりとドアを開けた。そして、
「大ちゃん………!」
チルノは大妖精の姿を見た。
「チルノちゃん………」
「大ちゃあ゛ん!うぇぇぇぇぇぇん!」
チルノはベットの上の大妖精に駆け寄って大妖精の胸の中で泣き出した。
「よかった………よかったよぉ………!大ちゃん!いぎててくれて!大ちゃん………!」
大妖精はそんなチルノを黙って抱き締めた。大妖精の目元にも涙が浮かぶ。
「………二人にさせとこうか」
「だね」
理香子とカナは二人を気遣って部屋を出た。
「小兎姫は?」
「里の緊急会合に出てる」
「そう」
理香子は勝手に小兎姫の飲みかけらしい冷えた紅茶を飲み干した。
それからまた暫くすると小兎姫が会合から帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま。速報よ」
小兎姫が何枚かの紙切れをコルクボードに貼った。
「新聞記者からのプレゼント」
それは写真とメモ用紙で構成された書類束だった。
「敵さんの顔写真よ。男が五人」
小兎姫は理香子とカナにそれらを示した。
『肥満体の男
かなりの剣術の手練れ。それ以外の能力は人間並みか。
三白眼の男
魔術や妖術の使い手。触れた相手の"力"を奪う能力を持つ。
長身の男
強力な銃の使い手。能力不明。
長髪の男
戦闘に関しての能力は人間以下か。だが、式神のようなものを使役する力があるようだ。
巨躯の男
凄まじい怪力を持つ。能力不明。
また、彼らは妖怪の山の囚人房から囚人を放って懐柔した模様。
尚、他にも外界からの侵略者はいる模様。詳しい調査を続ける』
「この書類は天狗、恐らく射命丸が書いたものをコピーしたものよ」
「なるほど…」
理香子が写真の男たちを睨み付ける。
「射命丸の消息は?」
「完全に眩ましてるわ。死亡していることも視野に入れた方がいい。とのことよ」
「なるほど…」
『おーい。小兎姫はいるか』
そのとき、小兎姫宅のドアが叩かれた。聞き覚えのある声に小兎姫は声をかける。
「妹紅?何の用かしら」
『怪我幽霊だ』
「………?」
小兎姫は怪訝な顔をしてドアを開けた。そこには灰色の髪の蓬莱人、藤原妹紅と───
「騒霊?」
冥界のちんどん屋、プリズムリバーがいた。
長女のルナサは怪我を負っているらしく、左右を妹達に支えられている。
「ルナサっ!」
カナがそんな三人を見て声をあげた。
「怪我幽霊だよ。助けてやれないか?」
「幽霊………カナ。知り合いなのかしら?」
「うん…友達」
「そう。理香子」
小兎姫が理香子に視線を送った。だが理香子は首を振る。
「幽霊は無理だ。治癒魔法は出来ないことは無いけど、幽霊には効かない。特殊な霊薬が必要だと思う」
「そんな………」
理香子の話を聞きながら次女のメルランと三女のリリカの顔色が真っ青になっていく。
「わかった!」
そんな中突然声を上げるカナ。
「その薬があればルナサが助かるんだね!」
「ん、ああ。あと、魔法と科学を使えばな…あるのか?」
「アテはあるよ!」
「本当に?
わかったわ。貴女たちも中に入りなさい。部屋はあるわ」
小兎姫がプリズムリバーを小兎姫宅に通すと、カナは猛スピードで神社の敷地内の友人の魔法の店へと飛んだ。
「エレン!店やってる!?」
「きゃっ!カナちゃん。
どうしたの?」
突然の友人の来訪に魔法の店の店主、エレンが声を上げる。
「幽霊の怪我を治すお薬ある!?」
「うん………あるよ。ちょっとだけ高いけど」
「いくら!?」
エレンはその値段を告げた。確かに高い。だが貯金を崩せばなんとかなる額だ。
カナは通帳と印鑑を渡した。
「買うよ」
「カナ………ちゃん?」
「足りるはずだよ」
「ダメだよ!そのお金は自分の住むお屋敷を買うための───」
「そんなの、また貯められるよ」
「カナちゃん………」
エレンは一瞬だけ考えて、通帳を返した。
「受け取れないよ。だから、カナちゃんがお屋敷を立てたら、そこでお店をやらせて?
なら、売ってあげる」
「エレン………」
心優しい魔法使いに、カナは涙が溢れそうになるが、それを堪えて、礼を言った。
「ありがとう。エレン」
「夢は同じ夢を見るもの同士、買えないよ」
霊薬が入った箱を渡すエレン。カナはそれを胸に抱いて魔法の店を飛び出し、来た道を飛んだ。
「持ってきたよ!」
若干息を切らしながらカナは理香子に木箱入りの霊薬を渡した。
「カナ………それ、エレンの所のじゃない。どうしたんだ?」
理香子もこの薬の箱を見たことがあるらしい。恐ろしく高額であることをしっているためカナにそう聞いた。
「まさか、貯金を崩したんじゃあ!?」
「大丈夫!してないよ!
ほら、早く」
「ああ………」
理香子はメルランとリリカが見守る中、治癒の術式を展開し始めた。
「おい」
「うん?魔理沙じゃないか。
ってどうしたんだその格好は」
命蓮寺の山門近くにいたナズーリンは突然現れた血だらけの魔理沙の格好に驚いた。
「ああ。ちょっとな。
白蓮はいるか?」
「経蔵にいるはずだ」
「サンキュ」
魔理沙達はナズーリンに言われた通り命蓮寺の経蔵へと向かった。
「あら、魔理沙。経典はあげないわよ?ってその血………」
経蔵にいた白蓮も魔理沙の姿に驚いた。
「まさか、侵略者に襲われたの?」
「アリス、にとり」
魔理沙は連れに声をかける。
「悪い。席を外してくれないか?白蓮と二人きりで話がしたい」
「うん」
「わかった」
アリスとにとりはそれだけ行って経蔵を去る。
「聞いてたかしら。ぬえ」
「聞いてたよ。わかってる」
白蓮が物陰に声をかけると、経蔵にいたらしいぬえが現れて、そのまま退室した。
「それで、魔理沙───」
「白蓮。力を貸してくれないか?」
白蓮を遮って魔理沙が話し始めた。
「香霖が、森近霖之助が、殺されていた」
「まぁ………
じゃあ、その血は───」
「香霖のだ。あいつは、私にとっては唯一の肉親だったんだ。絶体に仇を取りたい」
「………」
「でも、敵は強い。私の力じゃあ到底仇を討つなんて出来ない。
だから白蓮、私に力を貸してくれ!」
「………魔理沙」
そんな魔理沙に白蓮は語りかけた。
「霊夢と会ったかしら?」
「はぁ?」
何を言うかと思えば、白蓮は裏切った友人の話を始めた。
「なんであんなの話を今するんだ!」
「あんなの?
大切な友人でしょう?」
「違う!裏切り者だ!
香霖を殺した奴の仲間だ!あいつも殺してやる!」
叫んでいるうちにまた涙が零れた。
「本当に?本当にあなたは霊夢が裏切り者だと思っているの?」
「ああ!そうだとも!
博麗の札で殺された奴がいるんだ!博麗にしか使えない札で!」
「魔理沙………」
そんな魔理沙を白蓮は哀しい表情で見つめた。
「ダメか………?」
魔理沙が白蓮の顔色を伺うかのような顔をすると、白蓮は経蔵の奥へと入っていき、手に一冊の本を持ってすぐに戻ってきた。
「グリモワールよ」
白蓮が本を示して言う。
「すごい力を秘めているらしいけど、術者に条件があるみたいなのよ。私は満たしていなかったみたい」
魔理沙は本を渡されて、表紙を見つめた。神々しいとも、禍々しいともいえないデザインの表紙からはたしかに強い力を秘めているようではある。
「まだ私が封印される前の時代に出来たものよ」
「ありがとう。白蓮。…じゃあ、私、帰るな」
魔理沙は居づらさを感じて立ち上がり、経蔵をあとにした。
「魔理沙。どうだった?」
「これを貰ったよ」
にとりとアリスは裏庭にいた。
「グリモワール?あの白蓮が?」
「ああ。なんか意外だけどあいつも魔法使いだからな」
と、魔理沙はグリモワールの表紙を撫でた。
「あっ、あんた達!」
そんなとき、聞き覚えのある声がした。そちらを振り向くと、ミスティアとルーミアがいた。
「ああ、お前らか…どうしたんだ?」
「私達、このお寺に逃げてきたんだよ。凄い強い人間が幻想郷を襲ってるから………
でも、逃げるだけじゃないよ!私達も戦う!」
ミスティアが応える。それにつけてにとりがこんなことを言った。
「魔理沙。私達もここで一緒に命蓮寺を守って白蓮の協力をしたほうがいいかもしれないよ」
「………そうだな。でも私にはもう一つ行く所がある。一人で行きたい。
残るならアリスとにとりだけここにいてくれ。すぐに戻るから」
と、魔理沙は帽子をかぶり直して箒に股がった。
「そう。魔理沙。気をつけてね」
「ああ。アリスも気を付けてくれよ?」
そう言って魔理沙は不意にそっとアリスのスラッとした頬のラインに触れた。
「きゃっ!
もうっ、別にあんたが心配なんじゃないんだからっ///」
「ははは、ありがとよ。アリス」
アリスにそう笑いかけて魔理沙は空へと飛び立った───
「ウドンゲ。地下にある薬を取ってきてくれないかしら」
こちらは永遠亭。竹林の奥深くの屋敷で鈴仙は師に使いを頼まれた。
「はい。地下ですか?」
「お願いね」
「はい」
永琳から鍵束と持ってくる物が書かれたメモを受け取り、鈴仙は地下の薬品庫へ向かった。
スポイトで薬品を書かれた分量だけ取り、試験管へとそれを移す。ビンごと持ってくるときは専用のケースに入れる。
その作業を全て終えたら、鈴仙は薬品庫の最奥へと足を進める。そこにあるものは───
「蓬莱の、薬………」
声に出してその薬品の名を呼んだ。自分の主と師を戒める、呪われた匣。
鈴仙はそれを静かにブレザーの内ポケットの中へと忍ばせた。これでいい。こうするしかない。
「師匠。どうぞ」
地上へと上がり、永琳に頼まれた薬品の入ったケースを渡す。
「ありがとう」
永琳はそれだけ言って研究に取りかかる。鈴仙はそれを見届けたあと、永遠亭を出て、妖怪の山へと向かった。
胸の中には、薬ビンの感覚。これがあれば、彼女は助かる。
「あら、本当に持ってきたのかしら?」
妖怪の山の麓、秋を司る神がいた社に間抜けな傘をさした大妖怪、八雲紫がいた。口元には、どこか歪な笑みを浮かべ、鈴仙に手を差し出した。
「………ここにあるわ」
「来なさい」
紫が展開していたスキマの中へと手招きする。鈴仙は黙ってそれに従って、紫の中に飛び込んだ。すると、景色は一瞬で薄暗く無機質な部屋へと変容した。
妖怪の山に停泊する夢美達の船の内部だ。
「おお、意外が早かったんだぜ」
背後から声をかけられた。振り向くと、金髪に水兵服を着こんだ少女がいた。
北白河ちゆり。岡崎夢美の忠実な部下の一人だ。
「薬」
鈴仙は言われて蓬莱の薬を差し出した。
「よしよし。早速試してやるかっと」
ちゆりは部屋の隅にあるマウスが入った籠を取り、その内の一匹を取り出して注射器で蓬莱の薬を打ち込んだ。
「………変わらないようだが」
一分程待ってもマウスに変化はない。
「本物です………」
「えいっ!」
ちゆりはマウスを床に落として踏み潰した。短い悲鳴を上げてマウスは潰れた。
「こうしても復活するんだろ?」
「はい…」
すると、マウスであった肉塊が輝きだし、その中からマウスが現れた。細かい毛並みや模様までちゆりが殺したマウスと変わらない。しかも、肉塊が完全に消えている。
「ほう、こりゃ本物らしいな」
「はい。だから、早くてゐを開放して!」
鈴仙がちゆりに懇願すると、ちゆりは満足そうに頷いた。
「そりゃ当然。最悪蓬莱人の体液から薬の組織を特定することになったかもしれないからな。時間がかかりすぎる」
ちゆりが鈴仙に、視覚からの精神波から守るコンタクトレンズに守られた目のみで笑いかける。
そのあと、内線電話で2、3言話すと、受話器を置いた。
「しかしね、兎さん。あんたと恋人が助かるからって、私達を倒せるかもしれない一手をなんで潰したんだ?私には理解が出来ない。それに主にも師匠さんにも、恩があるんじゃないか?」
「………」
鈴仙はうつむいてスカートの裾をぎゅっと握り、何も言わない。
「何かしゃべってくれよ。あんたはこうやって蓬莱の薬を持ってきたんだ。約束通りこの場で始末するような真似はしない。
なんだ。それでもだんまりか。罪悪感で胸が一杯なのかい?
入りな」
ノックの音がすると、ちゆりはドアに向かって声をかける。すると、ゆっくりとドアが開き、一人の少女を抱えたメイド服の少女が入ってきた。
「ご苦労さんる〜こと」
少女がメイドによって床にほうりだされる。ワンピースから覗く手足や顔には鞭による裂傷や火傷などの拷問の痕跡が刻まれている。ワンピースこそは着衣の状態で拷問を受けてはいないためほつれてすらないが、ワンピースの下にも傷があるため早くも血で汚れてきている。
「てゐ………!」
鈴仙は妖怪兎の長、因幡てゐのそばにひざまづく。
「紫。返してやれ」
「うん」
紫がスキマを展開する。時間がかかるらしく、展開したスキマに向かって紫は魔力をこめ続ける。
「おー、パンツもちゃんと履かせてもらってるよ」
そんな鈴仙を茶化すようにちゆりがてゐのワンピースを捲りあげる。
「見ろよ宇宙兎さん。ほら、血だらけで………えっとなんだっけ、処女じゃなくなるアレみたいなパンツになってるぜ」
「破瓜」
「そう、それだ!」
紫が言うと、ちゆりはケタケタと笑う。
「やめて………」
「ああ、処女じゃなかったぜ地上兎さん。河童が言ってた」
ちゆりは残忍な言葉を鈴仙に浴びせ続ける。それは、紫がちゆりにスキマが竹林と繋がったことを告げるまで止むことはなかった。
「じゃあな兎さん。連中にはあんたには手を出すなって伝えとくぜ。こっちの仕事が終わったら結界は消滅するらしいから、日本のどこにでも二人で消えな」
「………」
鈴仙がてゐを抱えて、スキマの中へと消えていった。
「さてさて、蓬莱の薬とやらの解析をしようかね」
ちゆりが薬ビンを蛍光灯に透かして眺めると、再びドアがノックされた。
「ちゆり?私よ」
「夢美様か」
ちゆりがドアをあけると、赤いマントを羽織った夢美がいた。
「おう、夢美様。一仕事終わったのかい?」
「うん。軽い仕事だっ………きゅ〜」
「ああっ、夢美様!」
軽い仕事だったわ。苺ちょうだい。
そう最後まで言えず夢美はパタッ。と床に倒れ込んだ。
「軽い仕事じゃないじゃないか夢美様」
ちゆりが夢美を抱き起こす。そしてその顔をまじまじと見る。
「やばい。夢美様超かわいい………マエリベリーもそう思わないか?」
「ええ、思うわ」
紫、もとい、メリーは答える。
「ほっぺた柔らかい…吸い付きてぇ………」
ちゆりは息を荒くして夢美の頬に舌を這わせる。
「服の下も見なきゃな。怪我してるかもしれないし」
「ふふふ、ごゆっくり。私はる〜ことと遊んでくるわね」
メリーはまだ様になってない笑みを浮かべて部屋を出ていった。
「てゐ………!ごめんなさい!てゐ………師匠………姫様………!」
鈴仙はてゐを背負いながら竹林を歩く。自分はなんてことをしてしまったのだろう。愛しいてゐのためとは言え、師と主を殺すようなことをしようとは。
許されることではない。師と主はどんな対応をするだろうか。
「おーい!鈴仙か!?」
背中に声をかけられる。振り替えると、赤いもんぺ姿に灰色の髪の蓬莱人、藤原妹紅が走って近づいてきた。
「妹紅………」
「どうしたんだよ!?てゐ傷だらけじゃないか」
背中に背負ったてゐを見て妹紅が声を上げる。
「うん。侵略してきた人間に襲われたみたい。ボロボロになりながら逃げたみたい…」
てゐに謝りながら、用意していた嘘を鈴仙はついた。そんな自分の浅ましさにまた涙が零れる。
「そうか………辛かったな。てゐもお前も。てゐは私が背負うよ」
妹紅が鈴仙からてゐを受けて抱き抱える。
「大丈夫だよ。永琳とあいつがいれば人間なんか簡単にやれるさ。死なないからな」
「うん…」
震えながら、自分を呪いながら鈴仙は妹紅と竹林を歩いた。
おもしろいように死亡フラグが建設されるなぁ。
今回バトル描写無し!書きたかったけど無理矢理戦わせても………なんかアレですし。
そして蓬莱の薬を渡してしまう鈴仙。愛する人を助けるためとはいえこれは酷い。
でも鈴仙って逃げぐせがついていて、精神力が弱いイメージがある。過去に一回逃げたらもう逃げない!なんてのは実際出来ないもんです。ソースは私です。
もう少してゐの傷を生々しく描写すれば良かったと後悔。
なんかちゆりの性格が悪すぎる………性格が悪いのは長身男だけでよかろうに。他の連中も大概ですが。
そして性格破綻者なのにやさしい小兎姫。
森近霖之助…香霖堂にて肥満体の男と戦闘後、死亡。
IMAMI
- 作品情報
- 作品集:
- 22
- 投稿日時:
- 2010/11/28 00:56:18
- 更新日時:
- 2010/11/28 09:56:18
そして嫁のメリーさん登場!
蓮子でそうにないなあ…
と、なると…、魔法や霊力抜きの物理的な通常戦力で何とかなるかも。
能力者共も面が割れてきたし、幻想郷の結界が消滅した瞬間に勝負をつけなければ。
ヘタ鈴仙、何さらしとるんじゃ!!
連中、イカれているからか、やたら人質を使ってくるな。メンタル面が弱い妖怪には有効ですけど。
霊夢の去就が気になります。場合によっては彼女をどっちつかずの『中立的敵性目標』と扱わなければならないかも。
あと生き残ってんの探す方が難しいwww
…あれ?
待てよ…。
……あの人なら…。
…でもさすがに来ないか…。
え?あれからもちゃんと出てますよ?
>2
霊夢は間違いなく敵ではないです。が、それがわかってる人がいないんだなこれが。
たぶん鈴仙が人質ならてゐは間違いなく見殺しにしましたね。
>3
あの人とあの人は出す予定はないですね…でも、あの人は出します。