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『マリアリ心中』 作者: NutsIn先任曹長
霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドは恋人同士である。
魔法の森。
夜。
アリス邸。
二人が協力して拵えた晩餐を食べ終え、
二人で手分けして食器類を洗い、
二人一緒に風呂に入り、
二人して風呂上りの一時を寛いでいた。
アリスはバスローブを纏い、
魔理沙はバスタオル一枚のみを身体に巻いていた。
火照った体から汗が引くまで、二人は取り留めの無い話をしていた。
通常であればその後、二人は一糸纏わぬ姿になり、ベッドの上で再び汗を流すことになるのだが、
今日は違った。
魔理沙とアリスは入浴前に着ていた衣服に袖を通し、
居間にある小テーブルの席に着いた。
昼間はそこでお茶と手作りのお茶菓子に舌鼓を打ったが、
今はそれらに代わって白ワインのボトルが置いてあった。
グラスは一つ。
魔理沙がワインをグラスに注いだ。
アリスがグラスを手に取り、ワインを一口、口に含んだ。
二人のくちづけ。
魔理沙は、アリスから口移しでワインを飲まされた。
ごくん。
続いて魔理沙がグラスを手に取り、
アリスと同様にワインを口に含み、アリスに口移しで飲ませた。
ごくん。
二人は互いの口中のワインを味わった後、互いの手を繋ぎ、互いの潤んだ目を見つめた。
最初は魔理沙であった。
「ぐふぅっ!!」
魔理沙はアリスと繋いでいない手で口を押さえた。
それでも、指の隙間からは吐いた血が噴出した。
「うげぇっ!!」
続いてアリスも血を吐いた。
床に倒れる二人。
痙攣する二人。
それでも繋いだ手を離さない二人。
「あぐぅ!! ああぁぁぁ……」
「えがはぁ!! ああぁぁぁ……」
うめき声を上げながら、血反吐を吐きながら、悶絶する二人。
それでも互いを見つめ続ける二人。
魔理沙が調合し、アリスがワインに混入した毒により命が削られていく二人。
それでも二人は視線で会話をしていた。
――アリス、地獄での勤めを終えたら、今度こそ、添い遂げようぜ。
――ええ、魔理沙。何百年だって、耐えてみせる。待ってみせるわ。
――じゃあな。
――来世で会いましょう。
こうして二人は、この世とオサラバした。
二人の御霊がこの世を去ってから僅か数分後、
博麗霊夢がアリスの家に踏み込んだ。
そこで霊夢は、二人の変わり果てた姿を見ることになった。
「あ……、あぁ……、魔理沙……、アリス……」
目に涙を浮かべ、絶句する霊夢。
霊夢は満身創痍であった。
裂傷、凍傷、火傷を負い、ずぶ濡れであった。
むきゅう……。
続いて、パチュリー・ノーレッジが転がり込んできた。
彼女の全身は、霊夢以上に手傷を負っていた。
ぶかぶかの衣服はあちこち破れ、焼け焦げ、
かろうじて急所は外れてはいるものの、あちこちに退魔針が刺さっていた。
霊夢とパチュリーはアリスの家を訪れる前に、弾幕ごっこをしていたのだ。
といっても真剣勝負一歩手前のものであったが。
「何で……、何で、こんなことに……」
「……こうなる、運命だったのよ……」
呆然としてつぶやく霊夢に、パチュリーは友人のお得意のフレーズで答えた。
「あんたが……、あんたが……、邪魔しなければっ!! 二人は助かったかもしれないじゃないっ!!」
霊夢はパチュリーの胸倉を掴んで怒鳴った。
「むっぎゅうぅ……、そんなことしたら、貴方、二人から恨まれるわよ」
パチュリーは吊るし上げられながらも、はっきり言い放った。
「っ!! でもっ!! それでもっ!! 私は!! 魔理沙もアリスも!!
死なせたくなかった!! 死なせたくなかったのよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!」
霊夢はパチュリーを離すと、そのまま泣き崩れてしまった。
魔理沙とアリスが心中したのは運命である。
二人の友人の屍と号泣する霊夢を見ながら、
パチュリーは、そんな運命を憎悪した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
何時まで経っても春が来なかったあの時。
二人は弾幕ごっこに興じていた。
努力家の人間の魔法使いは、生粋の魔法使いである魔女に勝った。
春が来て、異なる種族の二人の交流が始まった。
魔理沙は、アリスの微細な心遣いに母の面影を見て、甘えた。
アリスは、魔理沙の傍若無人の中に真摯な思いを感じて、依存した。
魔理沙は、アリスから魔道書やマジックアイテムを、本人の同意無く、無期限の借用をした。
アリスは、魔理沙の物怖じしない性格と強力な火力を当てにして、危険地帯に希少な資源の採取に向かわせた。
魔理沙は、アリスのブレンドしたお茶や手作りのお菓子、手の込んだ夕食に舌鼓を打った。
アリスは、魔理沙が持ってきた珍味のキノコをふんだんに料理に使用して、お持たせの嗜好に合った酒で乾杯した。
魔理沙は、アリスにキスした。
アリスは、魔理沙を抱きしめた。
魔理沙は、アリスをベッドに押し倒した。
アリスは、両手を広げて魔理沙を誘った。
このようなやり取りの末、
二人は恋人になった。
結婚しよう。
どちらが言い出したかは問題ではない。
どちらだろうと言われた方は、はい、と答えるのは明白だったのだから。
幻想郷では、互いの同意があれば夫婦を名乗れるし、
永遠の愛を誓い合えば、それが結婚式となる。
魔理沙とアリスは、結婚に同意したし、永遠の愛もその日の夕食時に誓い合った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
魔理沙は長年疎遠だった彼女の実家に帰った。
アリスとの結婚の報告をしにいったのだ。
アリスも魔界の実家に、魔理沙との結婚を手紙で報せた。
これから、披露宴や新婚旅行、その他諸々の計画を立てなくては。
アリスは、人里の広場に来ていた。
定期的に行なっている人形劇を披露するためだ。
大人気の魔法使いの冒険活劇が、今、クライマックスを迎えていた。
箒に乗った正義の魔法使いが、悪の暗黒騎士との死闘の末、
遂に必殺技、マスタースパークが暗黒騎士に命中した。
崩れ落ちた宿敵に歩み寄る魔法使い。
瀕死の騎士と魔法使いの最後の会話が始まった。
『よくぞ私を倒した……。最後の願いを聞いてはくれまいか』
『言うが良い』
『私の兜を取ってくれ』
『お安い御用だ』
魔法使いは騎士の兜を取った。
そこで明かされる衝撃の事実!!
『お、お前は!!』
『げほげほ、そう、私よ』
『何故だ!! 我が友よ!!』
何と!!
暗黒騎士の正体は、魔法使いの友の病弱な魔女であった!!
『私は、貴方が羨ましかった。妬ましかった。美しい恋人と共に、大空を飛翔する貴方が……』
『お前も飛べるさ!! 一緒に……』
『だめよ!! 私は、もう……、保たない……、ごほっごほっ』
『しっかりしろ!!』
『優しくしないで!! 私は日陰の女……。日向で微笑む貴方に憧れ、そこを契約している悪魔に付け込まれた……』
『今からでもやり直せる!! さあ、手を取れ!!』
『げほっげほっ!! もう……、駄目……。悪魔と取引して、命と引き換えに強靭な肉体を手に入れたけど、
貴方に敗れた事でその効果を失ったわ……』
『しっかりしろ!! 死ぬんじゃない!!』
『さようなら。彼女とお幸せに……』
むきゅ〜〜〜〜〜、がくっ。
魔法使いは親友の死を悼み、そんな彼女を玩んだ悪魔を倒すべく、正義の誓いを新たにするのであった。
お・し・ま・い。
観客からたくさんの拍手と投げ銭を頂戴して、アリスと劇を演じた人形達は愛想を振りまきながら広場を後にした。
その後、アリスは広場に程近いカフェテリアのオープンテラスで昼食を摂っていた。
今日の演目は好評だった。原作から一部改変したが問題無かった様だ。
良い仕事をした後は飯と酒が美味い。
日替わり定食とランチワインを楽しんだが、飲みが足りない気分。
アリスはもう一杯、グラスワインを注文しようとした時、
どん。
アリスのテーブルに、飲んでいた物と同じ白ワインのボトルが置かれた。
「ここ、宜しいかしら」
パチュリーであった。
「どうぞ」
アリスは眼前の席を勧めた。
「寛いでるところ、悪かったわね」
「酒を携えた友人には礼を尽くすべし。
幻想郷では、スペルカードルールと共に常識よ」
笑いあう二人の魔女。
パチュリーはアリスのグラスにワインを注ぎ、
アリスもパチュリーのグラスに注いでやった。
「貴方も博麗神社以外の場所に出かけることがあるのね」
「たまたま用事でね。おかげで素敵な人形劇を見れたわ」
グラスを手にする二人。
「では」
「友の素敵なお人形さん達に」
「「乾杯」」
チン。
軽くグラスを合わせ、
アリスは半分ほど、
パチュリーは一息に、
グラスを干した。
むっきゅむっきゅむっきゅ……、ぷは〜。
「珍しいわね。貴方がそんな見事な飲みっぷりを披露するなんて」
「貴方の素敵なお人形さん達が披露した演目に対して、友人にクレームをつけなきゃいけないから。
ちょっと、お酒の勢いを借りようと思ったのよ」
「?」
「あの劇の暗黒騎士、原作の物語だと正体は魔法使いの父親じゃなかったかしら」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、何で改変したの?」
「魔理沙がお父さんと仲が悪いこと、知っているわね」
「ええ」
「私達の結婚の報告に、魔理沙はそんなお父さんのところに帰ったの。だから、ね」
「魔法使いが父親と敵対することは好ましくないと。ふふ、貴方らしい」
「分かってくれたかしら?」
「ええ、でも私が不満なのは……、何よ、病弱な魔女って!!」
「なんとなくよ。それの何処がご不満かしら?」
「……むきゅん!! えーと、私の知り合いに病弱な魔女がいるんだけれども」
「はいはい」
「彼女は、貴方の劇に登場した魔女みたいに引きこもり気味だけれど……」
「それで?」
「他人の幸せを妬んだりしないし、契約している悪魔は自分では狡猾だと思っているけど実はお間抜けさんなのよ!!
……って言ってたわ」
アリス達の側の席では、パチュリーの使い魔である小悪魔が特大ハンバーガーを大口開けてパクついていた。
「そう。素敵な魔女ね、とその人に伝えておいてね」
「む……きゅ……、きっと彼女も喜ぶわ」
空になった二つのグラスが再びワインで満たされる。
「それでは、素敵な日陰の魔女に」
「乾杯」
チン。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
人形劇の成功と友人との飲酒で上機嫌になったアリスは、家路を急いでいた。
夕方には魔理沙も帰ってくるから、それまでに人形のメンテと夕食の下拵えでもしようか。
そう考えながら自宅前に来た所で、アリスの顔から笑みが消えた。
家に誰かいる。
魔理沙でも迷い人でもない。
強大な魔力を感じる。
アリスはようやく気付いた。
慣れ親しんだ、神に等しい魔力の波動に。
深呼吸をして、
身だしなみを整え、
緊張しながら、
自宅の扉を開けた。
居間のソファに誰かが腰掛けている。
その人物は、銀髪をサイドテールにしていた。
すっかり暗くなった室内。
魔理沙が帰ってきた。
もし、部屋が明るかったら、
魔理沙の絶望に満ちた表情を見ることが出来ただろう。
もし、部屋が明るく、鏡があったなら、
アリスは、自分が魔理沙と同じ貌をしていることに気付いただろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夜。
博麗神社。
居間では、ちゃぶ台をはさみ、
霊夢とパチュリーが座っていた。
二人とも、ちゃぶ台に置かれた自分の湯飲みを見つめていた。
とうに冷めたお茶が手付かずで入っているそれは、そんなに魅力を感じるものではない。
パチュリーはアリスとの昼食後、小悪魔に紅魔館に帰るように命じて、
自分は博麗神社まで足を延ばした。
霊夢は境内の掃除をしていた。
パチュリーは神社に到着すると、ポケットの中の小銭を素敵な賽銭箱に放り込んで、おざなりなお参りをした。
とりあえず、霊夢の愛想は良くなった。
パチュリーが神社に来た目的は、霊夢と共通の友人である魔理沙とアリスの件について、
私見を交えた情報交換を行なうことであった。
要するに、新婚さんをネタに駄弁りに来たのであった。
乙女二人のおしゃべりは、夕方まで続いた。
おしゃべりが中断したのは、話題が尽きたわけではなかった。
霊夢とパチュリーが、境内に出現した膨大な魔力の塊に気付いたからだった。
魔界神が去った後、霊夢とパチュリーは彼女の語った内容について協議するために居間に移動した。
お茶が淹れなおされ、二人は先程の話を確認した。
「まさか、ね」
「むきゅぅ……、私も気付かなかったわ」
「まさか、魔理沙とアリスが姉妹だったとは」
かつて、魔界神は二人の少女を生んだ。
彼女達の父親が誰であるかは、今回の件には関係ないので割愛する。
一人は魔女の素質があったので、魔法の修行をさせた。
その結果、幼少の身でありながら、捨虫と捨食の法を習得して妖怪の魔法使いとなった。
その実力は、魔界神の後継者として申し分なかった。
一方の少女には、魔法の素質は無かった。
魔界神はマジックアイテムや魔界の資源の取引のあった幻想郷の大店、霧雨店の店主が子宝に恵まれないことを聞き、
彼の元に養女に出した。
霧雨氏は、魔界神の子を人間の子として育てることにした。
魔界神の跡目争いに巻き込まれないように魔界との取引を断ち、魔道具の取り扱いも止めた。
『魔界人の血を、人の世の理で洗い流す』という意味で、娘を『魔理沙』と名づけた。
彼と彼の妻は魔理沙を可愛がり、時には厳しくしつけ、愛情と教育をふんだんに施して育てた。
しかし、魔理沙が成長するにつれ、どういうわけか、或いは魔界人の血が目覚めたのか、魔法へ執着するようになっていった。
高名な大魔法使いである悪霊に弟子入りしたり、倉庫に眠っていた魔道具を持ち出したり、
変装してあちこちの厄介事に首を突っ込むようになった。
霧雨氏はまだこの時は、愛娘の行動に眉を顰める程度であったが、
魔界にまで乗り込んだとあっては、もう黙っているわけにはいかなかった。
いつもと違う厳しい叱責を受けた魔理沙は家を飛び出し、魔法の森で独り暮らしを始めた。
霧雨氏は魔理沙は勘当したと公言した。
が、実は魔理沙のことを心配しており、元弟子であり今では『森近霖之助』と名乗っている香霖堂店主や、
魔理沙の友人である博麗の巫女に、それとなく面倒を見てくれるように頼み込んでいた。
魔理沙が魔界で大暴れした後、姉妹の片割れであるアリスにも変化が起きた。
初めて遭遇し、自分を負かした幻想郷の不埒者に興味を持ったのだ。
アリスは母から拝領した魔道書を紐解き、自らの身体を不埒者の少女と同年代まで成長させた。
さらに、今まで手慰みでしていた人形作りに入れ込むようになり、
魔界に並ぶもののいない、優秀な人形遣いとなった。
博麗の巫女が靈夢から霊夢に改名して、ついでに巫女服も斬新なデザインのものにして、
スペルカードルールを発布した頃。
アリスは幻想郷にやって来た。
母が創造した魔界ではなく、実力主義の幻想郷で自立人形を作るために、無理を言って引っ越してきたのだった。
魔界神は、神が関与すべきことではないと判断して、幻想郷に娘を送り出した。
愛娘にどんな運命が待っているか、神でも知らない。
春が来ない幻想郷。
春を追い求める人間の魔法使いは、
この時初めて、近所に住む妖怪の魔法使いと邂逅した。
魔理沙とアリス、紅魔館のパチュリーは、外見年齢が近いからか、
親友、或いは腐れ縁になった。
やがて、魔理沙とアリスは惹かれあい、愛を育み、
そして現在に至る。
「今にして思えば、二人が惹かれあったのは姉妹の見えない絆か何かだったのかもね」
「むきゅ、二人の魔力の質が違うのは、魔法を学んだ環境が違うからなのね。
同じだったら、気付けたかも」
「二人とも金髪という以外に何か似ているところ、あったかしら?」
「むきゅ、そういえば二人とも手先が器用だったわね」
「魔理沙のは手癖が悪いって言うのよ」
「ははは……、はぁ……」
沈黙する霊夢とパチュリー。
「……あの二人、どうなっちゃうのかしら……」
「……むきゅう……」
この話は魔理沙の両親も知っているそうだから、結婚報告で実家に帰った魔理沙も当然聞いているはずだ。
気が付いたら、もう夜になっていた。
霊夢は立ち上がった。
明かりを点けるためではない。
出かけるためだ。
パチュリーも立ち上がった。
霊夢の邪魔をするためだ。
夜の神社の境内。
星明り、月明かりに照らされる二人の少女。
「ねぇ、今日は止めておかない?」
「何を?」
「今日ぐらい、魔理沙とアリスを夫婦でいさせてあげましょうよ」
「二人が似ているところが、まだあったわ」
「むきゅ?」
「二人とも、自分の意思を曲げないところよ」
「あー、そうね」
魔理沙は一度研究に没頭すると不眠不休で取り組むし、
アリスも魔法の研究や人形作成には妥協を許さない性格をしている。
「そんな性格で幸せ絶頂の二人が、姉妹だから結婚は許さん、何て言われたらどうするか……」
「む……、きゅ……」
「パチュリー、あんた、もう分かってんでしょう?
魔法仲間なんだから、思考パターンぐらい直ぐに気付いたんでしょ?」
「……」
「私、友達をいっぺんに二人も喪うなんて、嫌よ」
「友達がその道を逝くなら、笑って送ってやるものじゃなくて?」
「っ!! あんたっ!!」
「少なくとも、禁忌(タブー)の問題からは開放されるわ」
「あんた、レミリアだってそんな外道なこと言わないわよ!!」
「彼女達の親友としての意見よ」
「私も魔理沙とアリスの親友のつもりよ!!」
「それもまた、一つの意見よ」
霊夢は、パチュリーとの間合いを取った。
「こういう時のために、弾幕ごっこって、あるのよね〜」
パチュリーの手にしていた分厚い魔道書が自然に開かれた。
「むきゅ。単純にして明快。己が信念を押し通すのに最適ね」
「「じゃ、遊びましょうか」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
魔法の森は、よく人が道に迷う。
渦巻く瘴気や、ゆがんだ森の木々が人の感覚を狂わすのである。
空を飛べば一発で抜けられるが、そんな都合の良い能力を一般人が持っているわけがない。
かくして、今夜も道に迷った哀れな者一名。
この人物、運が良かったようだ。
目の前に家が見えた。
窓から明かりが漏れている。
――助かった。
玄関の扉をノックすると、
は〜い。
ぱたぱたぱた。
扉が開けられた。
そこには、
身に付けたエプロンで濡れた手を拭いながら、
小悪魔が現れた。
小悪魔は事情を聞くと、家に招き入れた。
「パチュリー様〜、道に迷われ方が一夜の宿を求めておりますが」
「むきゅ、直ぐに客間の用意をして。貴方はそれまで、ここで寛ぐといいわ」
居間で分厚い本を読んでいた少女は、迷い人を部屋に入れた。
――噂通りだ。
魔法の森には、道に迷った者を保護してくれる魔法使いがいるという噂があった。
――貴方が人形遣いですか?
「むきゅ? それは前任者よ」
――人形遣いはどちらへ?
「……故郷に帰ったわ」
パチュリーは面倒くさそうに答えると、本に視線を戻し、黙々と読書に没頭した。
魔理沙とアリスの死後、
アリス邸には、パチュリーが住んでいる。
ちなみに魔理沙が住んでいた霧雨魔法店は、マジックアイテムの倉庫代わりに使用している。
パチュリーは小悪魔と共に勤め人のように、紅魔館に朝出かけ、夜にアリス邸に帰るという
規則正しい生活を送っている。
この生活をしばらく続けているうち、体調がよくなったような気がする。
別に健康生活を送るために、図書館の住み込みから通いに変えたわけではない。
アリスの遺志を継ぐためだ。
人形の制御は専門外だ。
上海と蓬莱を始め、完成品、未完成品の人形達の殆どは、アリスの洋服や小物類と共に魔界の家族が引き取った。
今この家にあるものは、大きな家具以外、紅魔館で余剰になった家財道具やパチュリーと小悪魔の私物である。
お茶を淹れてみようとしたが、なかなか上手く、美味しくできない。
咲夜がいない時にお茶を淹れてくれる小悪魔のほうがよっぽど手際が良い。
料理もまた然り。
迷い人を一晩家に泊めるといったボランティア活動をしていると聞いたので、そのようにした。
只今、迷い人は居間で居心地悪そうにしている。
危険な森で保護された迷い人は、外で野垂れ死にたくないので、
パチュリーの無愛想な厚意を断るわけにはいかなかった。
パチュリーは窓を見た。
窓ガラスに無愛想な自分の顔が映った。
視線をずらすと、窓際に置かれた二つの人形が見えた。
形見分けでパチュリーが貰い受けた物である。
黒いエプロンドレスに黒い大きな帽子を被った人形。
フリルのついたリボンを頭と腰に着け、ケープを纏った人形。
この人形は、二つで一つである。
一方の右の手のひらが、もう一方の左の手のひらにくっついている。
だから、いつまでも、
――いつまでも、一緒だぜ!!
――いつまでも、一緒よ。
心中物、書いてみました。皆様いかがでしょうか?
2010年12月4日:コメントの返事追加
>1様
皆様が納得いく理由になるか心配でした。
>2様
今回は、分類に変な捻りは入れていませんから。
>3様
パチュリーのむきゅ〜は、もう、私の芸風にします。
旧作はWiki等の情報しか知らないので、
アリスは人間から妖怪の魔法使いになったと聞いたので、
子供の頃に文字通りの神童振りを発揮したと解釈しました。
魔理沙は旧作と現在があまりにもかけ離れているので、
旧作時代は変装して、だぜ言葉も可能な限り誤魔化して、
実家を抜け出してやんちゃしていたとしました。
>4様
もう私が書くパチュリーは、事ある毎にむきゅむきゅ言わせます。
納得していただけて光栄です。
パチュリーは二人が何時までも一緒にいられることを願い、
霊夢は二人に生きていて欲しいと願いました。
>スリップスカル様
二人が心中に至った過程に重点を置いて執筆しました。
お褒めいただき光栄です。
>イル・プリンチベ様
ここは排水口。人の不幸の蜜を啜っても文句を言われない世界。
私が書いた不幸話にそういう感想をされるとは。有難うございます。
>7様
な、なんだって〜〜〜〜〜!?と言われるような設定を捻り出しました。
私は旧作をプレイしたこと無いし、あくまで主役は死んだ二人なのでこういったボカシを行ないました。
パチュリーのむきゅむきゅが、これほどまでに好評とは…。
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
22
投稿日時:
2010/11/28 06:05:40
更新日時:
2010/12/04 23:09:06
分類
魔理沙
アリス
マリアリ
霊夢
パチュリー
アリスの母
出生の秘密
意志を継ぐ者
そして旧作までも組み合わせた話の構成もお見事
んー、そっか…
なんだか納得しちゃうような内容
…にしても心暖まるなぁ…
…人の価値観色々って訳ね…
切なさを感じるいい話だと思います
マリアリカップルが結ばれることがない結末はメチャクチャメシウマですなぁ。
神綺の描写もボカシてあるのが上手い。
パッチェさんむきゅむきゅかわええwww