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『フランドールの華麗なる日常4』 作者: 機玉
※この文章は違法ドラッグの使用を推奨する目的で書かれたものではありません。
作中に登場する違法薬物を決して入手、使用しないで下さい。
【レオタード→全身タイツ→アーマースーツ】
先日太陽に対抗するのを諦めた私は肌を隠す方法を考え始めた。
咄嗟の事態に対応できないようでは意味がないから、日常的かつ手軽に使える手段である事が望ましい。
色々考えてみたが、結論としては服の形で身に纏っておくのが一番だろうという結論に達した。これならば条件に合う。
しかしただの服では全身を隠す事はできない。
まあ今すぐ必要なわけではないのでゆっくり詰めていこう。
・ウィンドブレーカー
私はいつも水に濡れそうな時はレインコートを羽織って作業をしているので太陽もこれで良いかと考えたのだが、肝心の顔が隠せていないので却下。
・甲冑
これなら全身を覆う事はできる。
が、普通の金属で作った物だとすぐ壊れてしまうし、丈夫に作れば動き辛くなる。
基本的に私は襲われた際には逃げる事を念頭に置いて行動するのでこれではダメだ。
・宇宙服
甲冑と同じ理由から却下、ってかなんでこんな物が家にあるのよ?
あとでお姉様に聞いてみたら月都万象展の時に貰ってきたらしい。
いつ使うのよこんな物。
・頭巾を被って長袖長ズボン
目に穴を開けてサングラスかゴーグルで覆う。
これはなかなか良いかもしれない、と思ったのだがお姉様に一昔前のKKK(※1)みたいだと評されたので止めた。
・レオタード
これはなかなか有望だ。頭まで布を伸ばせばほぼ全身を覆えるし何より動きやすい。
顔をサングラスっぽい素材で覆いつくせば全身はすっぽり覆える。
唯一欠いている耐久力については、その道のプロに頼むとしよう。
まずはたてを通して香霖堂とアリス・マーガトロイドに布地を依頼。
レオタードに使えるような柔軟性があって薄いが、妖怪の攻撃に耐えられるような布地を作って欲しいと伝える。
それぞれに取り敢えずサンプルを作って性能、値段等を見積もってもらい、良さそうな方と契約するのだ。
二件しか頼めなかったのが少しだけ残念だが、どちらもベテランだし大丈夫だろう。
戦闘に人形を使用しているアリス・マーガトロイドはその布を戦闘に耐えられる物しているだろうし、香霖堂が博麗霊夢の服の製作を請け負っているいるのは一部の妖怪の間では有名な話だ。
「というわけでよろしく頼むわよ」
「あんた私を何だと思ってるのよ……」
「タウンページ」
急に黙り込んだので慌てて冗談だと付け加えた。
彼女にはあまり悪ふざけは通用しないらしい。
続いてデザインを決める。
まんまレオタードでは流石に普通の服として着るのに問題があるだろうから何らかの形で行動を阻害しない程度に飾らなければならない。
しかしはっきり言って私にファッションセンスは無い為一から考えるのは不可能、よって誰かに聞くか参考文献を引っ張り出さなければならない。
さて、尋ねる相手は……美鈴でいいか。
彼女にファッションセンスがあるのかは分からないが少なくともお姉様やパチュリーよりはましだろう。
夜になったら聞きに行くか。
中庭で鍛練している美鈴を発見。
ちなみに彼女は妙な所でしっかり妖怪をしていて基本夜行性だ。
最近は仕事が多い為昼も起きている事があるようだが。
「美鈴〜」
「フランドール様ですか、何の用ですか?」
「実は」
防具を兼ねたレオタードっぽい服を作る事を説明する。
「フランドール様、それはレオタードじゃなくて全身タイツというんですよ」
「どっちでもいいわよ。とにかくあなたの意見を聞かせて欲しいんだけど」
「そうですねえ、動きを阻害しない事を主眼に置くなら……」
彼女の意見を一言でまとめると「関節部を除いた箇所に防具を張り付ける」というものだった。
甲冑等が動きづらい主な原因は関節部までしっかり守る構造になっている事や身体に密着しておらず内側から身体を動かす事で連動して動くような仕組みになっている事があげられる。
そこで私が作ろうとしているレオタード、いや、全身タイツならば関節がない場所だけ選んで防具をぺったり張り付ければ柔軟性を保ったまま飾り付ける事ができる、らしい。
「なるほど、参考になったわ。ありがとう美鈴」
「いえいえ」
よし、これで今できる事は無くなったのでひとまずサンプルが届くのを待とう。
後日、はたてに新聞を配るついでにサンプルを回収して届けてもらった。
さてさて、どんな感じだろうか?
・
・
・
まず、アリス・マーガトロイドの物は当たり障りの無い普通の仕上がりとなっていた。
対物理耐久力及び対魔法耐久力は共に標準より少し上、具体的に言えばスペルカードゲームでは傷一つ付かないと思われるレベルである。
逆に言えば上級妖怪が本気で攻撃すれば脆く崩れ去る程度の耐久力だが、まあこれ位が無難な所だろう。
彼女も魔法使いである以上必要以上に自分の手の内を晒す事はしたくないだろうし、そもそも私は幻想郷では危険と目されている妖怪なのだから(正直自分ではすっかり忘れていたが)、強力な装備など渡さないのが普通だ。
そのアリス・マーガトロイドから送られてきたサンプルを見た後だったからか、香霖堂から送られてきた紙は色々な意味で店主の正気を疑わせた。
それによれば防刃、防弾、耐熱、防寒、魔法耐性なんでもござれ、値段は膨大になるが性能は保障するとの事だ。
詳しく見てみると5000超の高温に耐えられるとか、鬼に殴られても数発なら耐えられるとか……ツッコミ所満載だ。
しかも材料が貴重だからサンプルは作れないらしい。
恐らく嘘ではないのだろうが、はっきり言って胡散臭い上に値段が売り物として間違っている。
普通なら迷わずアリス・マーガトロイドの方で手を打つべきだろう、そもそも肌を隠してある程度丈夫ならそれでいいんだし。
しかし、このふざけた宣伝は個人的にとても惹かれる。
今まで紅魔館と取引してきた所だしそれなりに信用してもいいだろう、アリス・マーガトロイドの方にするなら後から頼んでも大丈夫だ。
まずは香霖堂に頼んでみるか。
「そうと決まれば、え〜とどうするかな……」
とりあえず話を聞こうかしら、まだ直接会うのは面倒だし通信玉渡そう。
なくなってしまった通信玉を補充してはたてに一つ香霖堂へ届けてもらう。
いやしかし通信玉開発しといて良かったわ、まさかこんなに配る事になるとは思わなかった。
ともかく、これで細かい条件を詰める事ができる。
「Hello?もしもし?聞こえますか?」
『聞こえますよ。貴女がフランドール・スカーレットですか?』
「はい、直接話をするのは初めてですね。
レミリア・スカーレットの妹のフランドール・スカーレットです。いつも姉がお世話になっています」
『こちらこそ、紅魔館の方々にはいつも御贔屓にしていただいて感謝しております』
へえ香霖堂の店主は男だったのか、初めて知った。
有名所を見ると女ばかりの幻想郷では新鮮な感じがするわね。
「敬語はもういいかしら?あんまり普段は使わないんだけど」
『別に構わないよ。それでは本題に入ろうか』
「ええそうね、あの紙に書いてあったものは本当にできるのかしら?」
『できるよ、失敗しなければ。それ相応に値段は高くなるが性能は保障する』
「ふ〜ん、分かったわ。じゃあ一着作ってちょうだい。その代わり実際に見て満足できないものだったらキャンセルするけどいいかしら?」
『構わないよ、では腕によりをかけて作らせていただこう』
「期待してるわ。ああそうそう、ついでにやって欲しい事もあるんだけど」
『何かな?』
「前腕、手の甲、胸部、背筋、大腿、脛の部分に関節に重ならない程度に防具をぺったり付けて欲しいの。
あと頭部は隙間なく覆っておいてちょうだい」
『つまり動く際に邪魔にならない程度に装甲して欲しいのと、体で出ている部分をなくして欲しいと、難しいがやってみよう』
「性能が良ければ料金に糸目はつけないから頑張ってね」
それからさらに一ヶ月半、香霖堂から全身タイツが完成したという連絡が入った。
直接届ける事はできるか聞いてみると問題無いとの事だったので、美鈴とお姉様に客が来ると連絡しておいた。
数時間すると香霖堂の店主がやってきた。
脇に風呂敷包みを抱えているのであれが全身タイツだろう。
「いらっしゃい、とりあえず上がって」
「失礼する」
「お茶は血が入ってるのと入ってないのどっちがいい?」
「無い方で頼む」
「分かったわ」
分身を出して紅茶を入れてこさせる。
以前試してみたが紅茶を淹れるのは流石にサボテンでは無理だった。
練習させればあるいは可能かも知れないが、どちらにしろ今は関係ない。
「じゃあ早速見せてくれる?」
「これだよ、まずは見てみてくれ」
店主は風呂敷から真っ黒の全身タイツを、いやこれはもはや全身タイツでもないか、アーマースーツとでも呼ぼう。
「ほう、『アーマースーツ』という名前を付けたのか。そいつも気に入ったようだよ」
「は?なんで分かったの!?」
「僕には道具の名称と用途が分かる能力があるからね、君が付けた瞬間にそれが反映されたんだよ」
「また便利そうな能力が……The grass is always greener on the other side of the fence(※2)ってことかしら」
「なんだいそれは?」
「他人の物は自分の物より良く見えるってことよ」
「まあ確かに便利な能力だが君だって便利な能力が色々あるだろう。
天は二物をを与えずって事なんじゃないか?」
「悪魔が天から授かったってのもおかしな話だけど、まあそうかもね。
じゃあちょっと広げさせてもらうわよ」
「どうぞ」
これが私が頼んだ通りの物ならちょっとやそっとじゃ破れないはずだが念の為念動力で持ち上げた。
「何をしてるんだい?」
「いや、私力加減が下手くそだから下手に物に触ると破ったり壊したりしちゃうから」
「難儀な体質を抱えているね」
「どっちかっていうと小さい頃からあまり身体を使ってなかったから致命的に錆び付いてるって感じなんだけどね」
下手に念動力を覚えてしまったのもいけなかったのかも知れない。
いつかは直接触れるようにしなくてはならないかな。
まあいまはその話は置いておこう。
アーマースーツを広げてみるとやけに大きい。
所々に骨のような細い防具が張り付いており、パッと見た感じでは私の指定した通りだが。
「これ、大き過ぎない?明らかに私の体とは違う大きさなんだけど。あと頭部に何も無いんじゃ」
「そこはちゃんと考えてあるから心配は無用だよ。まずは着替えて軽く魔力を通してみてくれ」
「分かったわ、じゃあちょっと待ってて」
キッチンに入り着替えてみるとやはりぶかぶかだ。
まあ、取り敢えず言われた通りに魔力を通してみる。
すると……
「おお!?」
なんとその瞬間、スーツの大きさが縮まり私の身体のピッタリフィットした。
それだけではない、スーツの大きさが合わさると今度は首筋から黒い光がせり上がり、頭部をすっぽり覆い込む防具が形成された。
「これは凄い、けど無駄に凝ったギミックね……」
値段が心配だがとりあえず戻ろう。
「どうだったかな?」
「確かにこれなら全身を覆えるし防具もちゃんとついてるわね。
でもこの仕掛けは頼んでないんだけど」
「ああ安心してくれ、それは僕自身が実験的に入れてみたかった機能だから料金は取らないよ」
「あらそう?なら……っていやそういう問題だけじゃなくて勝手に条件にない機能を入れられて使いづらくなると困るから」
「もちろんその時は解約してくれて構わない」
「あなた売る気ないでしょ?」
「何を言っている、売る気はもちろんあるさ」
「甚だ怪しいわね、個人的にはそういう姿勢嫌いじゃないけど。
で、どうせ他にもあるんでしょ。何があるの?」
「まず普段は小さい玉にその服を入れて収納しておける機能。
向こうでそれを脱いだ状態でもう一度魔力を通してみてくれ」
「頭部は?」
「脱ごうとすれば自然に消えるはずだ」
言われた通りキッチンで脱ぎ、再び魔力を通してみる。
なるほど、アーマースーツは見る見るうちに萎んで小さな玉になった。
これなら持ち運びに不自由しない。
「玉にしまえたわ。これは確かに持ち運びに便利ね」
「実はそれだけじゃあないんだ」
「まだあるの?」
「今度はその玉を服に押し付けて魔力を通してみてくれ、ああ今度は奥に行かなくても大丈夫だ」
「どれどれ……沈み込んだ?」
「今、玉はその服と一体化した状態にある。
もう一度魔力を通せばそのまま着用する事ができるし、着用した状態で魔力を通せばその服に戻す事ができる。
また、分離させたい時は着用した状態で脱げばいい」
「予想以上に便利ね、もしかしてこの機能も無料?」
「そうだよ」
「ありがたいわ、じゃあそろそろ肝心の防御性能を試してみたいんだけど」
「かまわないよ」
「よし、じゃあ早速協力者にして今回最大の目標を」
「その通信機便利だね」
「普段外に出ない私には欠かせない物になってるわね〜」
『はい、フランドールなに〜?』
「空、今空いてる?ちょっと手伝ってほしいことあるんだけど」
『今は大丈夫よ、じゃあこれから行くね』
「待ってるわ」
「誰を呼んだんだ?」
「この前の地底異変知ってる?それの元凶よ」
「ああ、神の力を貰ったとかいう地獄鴉かな。面白い知り合いがいるんだね」
「この前夕飯の材料探してたら偶然捕まえたのよ」
「は?」
「それより、あなたこんな物私に売っちゃって良いの?」
「それはどういう意味かな?」
「決まってるじゃない、まだ確かめてないけどこれがもしあなたが提示した通りの性能を備えているならかなりの戦力になり得るわよ。
私が手に入れたら悪用するんじゃないかとか考えなかったの?」
「ああ、そういうことか。それはあまり心配していないよ」
「どうして?」
「以前幻想郷で君達は吸血鬼異変を起こした後、幻想郷の住民に仇なさないという契約をしただろう。
悪魔にとって契約とは絶対的なもの、存在意義の根幹を為す要素といっても過言ではない。
だからそれを破るような真似はしないと判断したのさ」
「でも、その契約を結んだのはお姉様だけで私は違うとしたら?」
「実はもう一つ理由があってね、レミリアから君は外出が嫌いで戦闘もあまりしないと聞いている。
実際この前スペルカードを売り払っていた、だから売ってもいいかと思ってね」
「なるほど、ちゃんと考えてはいるのね」
やっている事はアホなようでいてこの男なかなか切れるようだ。
「しかし一応聞かせてもらおう。君は何の為にこれを注文したんだい?」
「ご存知の通り私達吸血鬼は太陽に弱いわ。ところが私は太陽神の力を身につけた奴と知り合ってしまった、それだけよ」
「なるほど、難儀なことだね」
「ええ、全く」
言葉とは裏腹に店主は面白そうな顔で私を見ていた。
と、ちょうど話が終わったところで呼び鈴が鳴った。
「おっと、友人が来たようだね。じゃあ、僕は」
「そこのキッチンの前で見ててくれる。なんかあったら中にかけこめば安全だから。
食料もあるから一週間は大丈夫なはずよ」
「おいおい、一体なにをするつもりなんだ……」
「このスーツが太陽の力に耐えられるか確かめるのよ」
「フランドールきたよ〜」
「いらっしゃい、よくきたわね」
「……誰?」
「何言ってるの、フランドールよ」
「え?え?でも真っ黒……」
「この背丈、どう見ても私じゃない」
「いやでも、真っ黒」
「だからわ「頭が痛くなりそうだから一旦脱いでくれないか?」
「店主、無粋なツッコミ入れちゃダメじゃない」
「話がいつまでたっても進まないだろう」
「まあいいか」
私はアーマースーツを縮めた。
「おお、フランドールだ!なんでそんな格好してたの?」
「ほら、この前あなたに触られて火傷したでしょ?
だから触っても大丈夫なように特別な服を用意したのよ」
「え、もう触っても大丈夫なの?」
「おおっと今は脱いでるから触っちゃダメよ」
彼女はペットであるせいか身体を触れ合わせるスキンシップが好きなようだ。
私は目を輝かせた空から慌てて距離を取った。
「ちょっと待って」
私は服に魔力を通し再びアーマースーツを身に付けた。
「カ、カッコいい……!」
「そう?良かったわね店主、カッコいいそうよ」
「まあ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「フランドール、あの男誰?」
「これを作った道具屋よ。これがちゃんと出来てるか確かめるためにここにいるの」
「ふ〜ん、そうなんだ。それで私はどうすればいいの?」
「私を燃やして」
「は?」
「だから、私をあなたの能力で燃やして」
「えーと、命は大切にした方が良いと思うけど」
「これを着てれば多分、恐らく、もしかすると大丈夫かも知れないから」
「……本当に?」
「ごめん、ちょっとは加減して」
「随分信用がないな」
「だって怖いんだもん」
「まあ、気持ちは分かるが大丈夫だよ」
「じゃあ、燃やすよ」
「ちょっと待って……よしいいわよさあ来い!」
周りに物がないことを確認してから合図を出した。
空が手を構え、私の身体が炎に包まれた。
「うあああああ、燃えてる!私は今燃えているううう……おお、熱くない」
「フランドール大丈夫なの?」
「信じられないけど大丈夫、心頭滅却すれば火もまた涼しって感じ」
「いやそれは違う、無事断熱機能も働いているようだな」
正直半信半疑だったがこれは凄すぎる。
本気を出していないとはいえ神の火を防げる上に熱まで通さない防具を作れる者が一体どれだけ存在するだろうか。
この男一体何者だ。
「フランドール、もういい?」
「あ、いいわよありがとう。あと、もう触っても大丈夫だから」
「わ〜い」
火を止めてべたべたとくっついてくる空は好きにさせておき、私は店主と話を始めた。
「これで買ってもらえるかな?」
「ええ、防弾、防刃機能その他諸々はまだ調べられてないけどこれだけでも十分買う価値はあるわ」
「それは何よりだ」
結構手こずったが、これでようやく全身を守れる服を手に入れることができた。
「ところで彼女と触れても大丈夫かを先に調べなかったのは何でだい?
普通そちらが先だと思うのだが」
「あ、それは私もちょっと思った」
「私は面倒な事は先に済ませる主義なのよ」
「「……それは違うんじゃないか(の)?」」
そんな事はない、はずだ。
後日、店主が再び訪ねてきた。
理由は十中八九分かっているが念のため聞いてみた。
「どうしたの?」
「いやすまない、代金を受け取り忘れていることに気づいてね。改めて受け取りに来たんだ」
「あなたやっぱり商売する気ないでしょ?」
「何を言っているんだい、僕は立派な商人だ。いずれは霧雨店に並ぶ程の大商人になるのさ」
「これでビジネスとマーケティングの意味をしっかり頭に叩き込みなさい」
私は代金と一緒に本を何冊か押し付けた。
【ヴァンパイアトリップ】
お姉様のお気に入りのメイドである咲夜ちゃんには珍品を収集する趣味があるらしい。
その方法は人里の骨董品屋を回る、香霖堂で探す、落ちている物を拾う等様々なようだが、お陰で彼女の部屋は年頃の少女のものとは思えない奇怪な空間と化しているらしい。
さて、私はお姉様を通してそれを聞き彼女にある依頼をしている。
それは外の世界の本および薬品類の収集だ。
余ったのか廃れたのかは不明だが外の世界の品が幻想郷に流れ込む事が最近多くなっている。
そして幻想郷に紛れ込んで尚見向きされなかった物は消滅し真の意味で幻想と化すわけだが、外の優れた技術の産物をそのまま見過ごすのは私としては少々惜しい。
とはいえ全てを拾っていてはキリがないし咲夜ちゃんにも申し訳ないので、私の惹かれそうな本と薬品類に目標を絞って収集してもらっているのだ。
そしてつい最近私の許に興味深い薬が届けられた。
LSD-25、正式名称「リゼルグアシッドジエチルアミド」。
確かスイスの学者によって存在が確認され、スイスやアメリカの製薬会社から一時製品化されて売り出されていた向精神薬だ。
精神病患者への治療薬として期待されていたが成功率が安定しない事から製造は中止、法律で規制されるようになった。
その後はイリーガルドラッグとしてアンダーグラウンドに出回るようになり、依存性が存在しない、少量服用するだけで絶大な効果を得られる等の手軽さを売りに販売されているらしい。
今私の前にはペーパーアシッドと呼ばれる紙に染み込ませたタイプのLSDが数枚ある。
LSDは20〜200マイクログラムというごく少量で作用する為希釈した後に錠剤や飴に混ぜたり紙に染み込ませたりして使用するのだ。
この手の物は純度が低い粗悪品の方が多いため、じっくり調べてちゃんと不純物を取り除いておいた。
これを口に放り込んで舐め回していればトリップできるのだが、私の今回の目的は自分で使用する事ではない。
強力な催眠術は時に対象の限界を超えた能力の行使を可能にするという話をどこかで聞いた事がある。
そこでLSDの強い幻覚性を利用して妖精の戦闘力を強化する事はできるか、というのが今回の実験だ。
LSDが規制された大きな理由の一つに強い幻覚性が挙げられる。
成功すれば服用者の人格にしたり、現実では体感できないような蠱惑に満ちた幻想世界を体感する事ができるらしいが、逆に失敗、つまりバッドトリップを起こすと想像を絶する悪夢に襲われ恐慌状態に陥ってしまうのだ。
今回の実験は成功率が予想できないので極めて慎重に行わなくてはならない。
まず私はお姉様に頼んで戦闘力の低い、どちらかというと気弱なメイド妖精を選何人か選び抜いて貰った。
そのメイド妖精達を部屋に呼び入れてとりあえず薬は使用せずに暗示をかけ、それぞれの適性を確認する。
まあ私は催眠術の心得などないのでそこは吸血鬼の十八番、魅了の魔眼で代用した。
結果、どのメイド妖精も全く問題なく暗示にかかってしまった。
単純な奴等め……
仕方ないのでジャンケンをさせて負けた一匹だけを私の部屋に残し、後は仕事に戻らせた。
続いてお姉様を部屋に呼ぶ。
『何の用よ?』
「今から部屋で面白い暇潰しをしようと思うんだけどちょっと付き合ってくれない?
どうせ暇でしょ」
『まあいいけど、あんまり変な事するんじゃないわよ』
しばらくするとお姉様が部屋に着いた。
「で、何するつもりなの?」
「催眠術って知ってる?
強力な暗示で妖精の戦闘力を上げられるか確かめたいんだけど、その時の妖精の相手をお姉様に任せたいの」
「あなたが自分ですればいいじゃない」
「催眠術をかけるのは私だから相手できないのよ」
美鈴に頼む事も考えたのだが、最近ろくな扱いをしていない気がしたので今回はお姉様に頼む事にした。
「じゃあお姉様はそこに立ってて。
私はこっちで妖精の準備をするから」
「はいはい」
妖精を呼び寄せ、ペーパーアシッドを舐めさせる。
薬が回った所で暗示をかけ始めた。
「貴方は凄腕のヴァンパイアハンター、向かう所に敵は無く何人もの強力な吸血鬼達を倒してきたわ。
その戦法は正面からの直接戦闘、弾幕を交えつつ、吸血鬼にも引けを取らない肉弾戦で敵を圧倒する。
今あなたの目の前にいるのは吸血鬼レミリア・スカーレット、愚かにも幻想郷を混沌の渦に陥れようと画策する悪の枢軸よ。
さあ、あなたの手で彼女を懲らしめてやりなさい!」
薬に加えて私の魔眼で思考にしっかり方向性を与えた。
これで恐らく大丈夫だ。
しばらく虚ろな目のまま動かなかった妖精はやがて動き出し、やがてお姉様に焦点を合わせた。
「悪の吸血鬼レミリア・スカーレット!
貴様の野望は私の手で打ち砕いてやるわ!
紅い月に代わっておしおきよ!!」
「おいコラろくでなし一体何吹き込んだ!?」
「この娘正義のヒーロー、お姉様悪の味方。Let’s Fight!!」
私の掛け声を合図にメイド妖精が地を蹴った。
一瞬で距離を詰めお姉様に殴りかかる。
身体能力が向上しているな、並の人間では見えない速度だったのではないか。
お姉様は驚きつつも拳を弾いて脇に避けた。
しかし妖精はお姉様の脇を抜けるとすぐさま方向転換、後ろから蹴りを浴びせる。
今度はお姉様もかわしきれず蹴り飛ばされた。
空中で態勢を整えて着地、今度は紅い弾を複数放つ。
スペルカードゲームでは神槍「スピア・ザ・グングニル」という名前で使用されている技だ。
弾の威力こそ加減されているものの、これはゲームではないので投げるフリはせずそのまま放っている。
飛ぶと同時に勢いで槍状に変化した弾をメイド妖精は跳躍して全てかわした。
お姉様はその隙を逃さず空中にいるメイド妖精に向かって突撃した。
メイド妖精はかわさなかったので勝負がついたかに見えたが、お姉様がメイド妖精に触れる瞬間白い閃光が迸った。
「浄化魔法!?」「うわ、すご」
対魔族用に使用されるエクソシスト御用達の魔法、当然本来ならば一介のメイド妖精が使用できるものではない。
信じ難いが本当に催眠が効いているようだ。
「ちょっといつまでも見てないで助けなさい!!」
「ああごめんごめん」
お姉様はよく見るとあまり積極的に攻撃していない。
パワーアップしたとはいえお姉様なら十分打倒できるはずだが無傷のまま無力化したいのだろう、身内にはそれなりに優しい奴だし。
私は強度を加減して妖精の周りに結界を展開した。
内側からすぐに破壊されたが、お姉様がその隙を逃さず腹に一発入れて気絶させた。
「あ〜無駄に疲れたわ……本当に疲れたわぁ」
「お疲れ様、私もまさかここまで強くできるとは思わなかったわ。
だからその振り上げた拳をおろして…」
お姉様は私も一発殴った。
それにしても暗示って恐ろしい。
今回の実験は成功しすぎたわね、これじゃあ迂闊に使えない。
「そういえばなんか変な口上並べてたのはあんたのせい?」
「いや多分違うと思う。あとでこの娘の趣味を調べてみるわ」
その後、わざわざ気絶させてくれたお姉様には悪いが薬が抜けてないと面倒なのでメイド妖精を『一回休み』にした後復帰した彼女に異常が無いことを確認し、今日の実験はひとまず終了した。
また、次の日にメイド妖精の部屋に行ってあの口上はやはりこの娘の趣味である事が分かった。
美少女戦士ね、最近の娘の趣味はちょっと分からないわ。
いや、お姉様も漫画好きなんだっけ。私も読んでみようかな。
数日後、咲夜ちゃんから新しい薬が届いたのでまたお姉様に誘いをかけてみた。
「お姉様、今日はフェニルアセトニトリル(※3)が手に入ったから今度はメタンフェタミン(※4)で実験『断る』
今回は一応香霖堂発売記念ということで霖之助を登場させました。
おめでとう霖之助、俺は君を待っていた。
この前の冶金の方法もそうですが、フランドールが行っている実験は作者の妄想で構成されているため、現実にできてしまいそうなことも本気にしたりましてや真似しようとしたりは絶対にしないで下さい。
何が起きるか分かりません。
そして今回も一つの話が長くなってしまったので二話だけになっています、すみません……
今後も一話が肥大化してしまう可能性がありますがどうかご了承下さい。
ではここまで読んで下さった皆さんありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
(※1)KKK……アメリカの白人至上主義団体。読みはクー・クラックス・クラン。昔は違法行為もなんのそので活動していて、メンバーは全身にローブのようなものを身にまとって三角形の頭巾を被っていた。現在存続している団体は一応違法行為はしないことになっているらしい。
(※2)The grass is always greener on the other side of the fence……英語の慣用句。訳は「柵の向こうの芝生はいつもこちらよりも緑色だ」のような感じ。意味は作中でフランドールが述べている通り、日本語でいう所の「隣の花は赤い」。
(※3)フェニルアセトニトリル……実験器具を使えばこれから覚せい剤を作り出すことができるらしい。日本では覚せい剤取締法により持ってるだけで7年以下の懲役に処せられる。
(※4)メタンフェタミン……いわゆる覚せい剤。シャブ、スピード(S)、ヒロポンなどと呼ばれているのはこれ。本来は結晶体だがこのまま使用することは滅多になく、ライトユーザーなら砂糖と混ぜて飴状にしたものを舐める等といった方法で使用し、ヘビーユーザーなら液体にしたものを皮下注射して使用する。覚せい剤取締法により持っているだけで10年以下の懲役に処せられる。
機玉
http://beakerinsect.blog136.fc2.com/
作品情報
作品集:
22
投稿日時:
2010/12/05 10:55:42
更新日時:
2012/12/27 03:19:18
分類
サボテンの名前募集完了
フランドール・スカーレット
森近霖之助
霊烏路空
LSD25
短編連作
12月13日コメント返信
この格好で次回以降、何か活躍するのかな?
ドラッグの話。なかなか興味深かったです。
洗脳してリミッターを解除したメイド妖精を殺戮マシーンにするとは…。
しかもレミリアお姉様を当て馬にするとは…。
フランちゃん、興味を持った事には妥協しませんね。
使い魔サボテン、精密作業は出来ないのか…。
いやぁ…すごいな…フランちゃん
いや、今回は霖之助のほうが凄かったか
楽しかった
今回も面白かったです。
やっぱり可愛いなあ、このフランちゃん
クセモノなのもいい感じ
フランちゃんが何をやらかすのか毎回楽しみです。
使い魔サボテンを想像してトゲ次郎が真っ先に思い浮かびました。
そろそろサボテンにも名前を・・・
美鈴「仙人掌(シェンレンチャン)なんてどうでしょう」
パチュ「シルフィホルンね」
小悪魔「私にちなんで小サボテンはどうでしょうか」
咲夜「この可愛さ…レミリンですね」
レミリア「覇王樹ってかっこよくないかしら?」
パ(それはちょっと・・・)
咲(流石お嬢様・・・)
美(サボテンが可哀想です)
小(ねーよ!)
フ「いやっー!」
皆さん感想ありがとうございました
>>1
このフランドールは興味を持ったことは即実行に移すから時々サラッと怖い事するかもしれません。
必要なければむやみに殺したり壊したりはしませんが。
>>NutsIn先任曹長
前回に引き続き場面ごとに細かく感想を述べてくださってありがとうございます!
すみません、アーマースーツは残念ながら今のところ活躍の予定はありません……が今後出てくる可能性はあります。
ドラッグは毎度のことながらそれっぽく見えるように頑張ったので楽しんでいただけたなら嬉しいです。
フランドールが美鈴やレミリアを当て馬にするのは「この二人なら基本的に何しても大丈夫」という少々歪んだ信頼の現れでもあります。
メイド妖精はどう扱おうがすぐ復活するので気にしません(ちなみにチルノに無茶をさせなかったのは彼女をただの妖精ではなく「チルノ」として見ていたからです)。
サボテンは指がないからティーポット持てないんですw
フランドールみたいに念動力使えるようになれば精密作業もできるかな?
>>3
待っていただきありがとうございます!
フランドールはどんどん凄くなっていきますね、これからも彼女は自重しないと思います。
霖之助は公式で割と謎の技術持ってると思うので遠慮なく物作りスキルを発揮させてみました。
個人的に彼はまた出してみたいですね、今のところ予定はありませんが。
>>4
ありがとうございます!
一番好きなんて言われたら嬉しくて狂喜乱舞してしまいます。
これからも面白い話を書けるように頑張ります。
>>5
このアーマースーツは<a href="http://www.youtube.com/watch?v=VKyHZCRkOaY" title="DEAD SPACE2のトレーラームービー">DEAD SPACE2のトレーラームービー</a>を見ていて思いついたものだったりします。アイザックさん(46)マジかっこいい。
このフランドールはクセだらけですが気に入っていただけて嬉しいですwこれからも面白く書けるように頑張ります。
>>6
毎回読んでいただきありがとうございます!これからもたのしんでいただけるように頑張ります。
サボ次郎はまたしても分からなかったのでググらせていただきました。
このキャラも可愛いですね、不思議な術使うところがちょっと似てるw
このシリーズではこのサボテン以外にサボテンは登場しない予定なので今のところサボテンで通そうかと考えています、すみません……
もし何か希望があれば名前を考えてくださっても結構です、その時はフランドールに改名させますので。
フランちゃんは優しいけど、楽しければよいで善悪に頓着が無い感もあるな…。妖精メイドは大変だ