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『No Country for Old Women 4』 作者: マジックフレークス
「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。
母さん、あれは好きな帽子でしたよ、僕はあのときずいぶんくやしかった、だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。
母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、なにしろ深い谷で、それに草が背たけぐらい伸びていたんですもの。
もし私が強くなったら、お爺様は屋敷にお戻りになられるでしょうか。もし私が強くなったら、幽々子様は褒めてくださるでしょうか。もし私が強くなったら、何か私の心に変化は起きるのでしょうか。私は強くなれるのでしょうか。強くなるって一体どういうことなのでしょうか。わからない。わからないから私は未熟者で半人前で弱いのでしょうか。知っている人に聞いたらいいのでしょうか。本に載っているのでしょうか。それとも自分で見つけるものなのでしょうか?」
「………………」
白玉楼。冥界に凛と構える広大な屋敷。その一室に設けられた修練場、大きなスペースを確保された板の間に彼女はいた。
正座をして目を閉じ精神を集中している。体も心も揺れ動くことは無い。
かれこれ一時間は彼女はそうやって微動だにしないでいる。集中を維持したまま待つ精神鍛錬と―――
カンッ
ヒュバッ――――
正座の姿から右膝を起こし同時に腰から楼観剣を抜き放つ。
妖夢の正面、刀の切っ先がギリギリで届く場所に立っている燭台のロウソクを一閃した。
コンッ
「…………」
ロウソクに一見して変化は見られず。灯ったままの火は僅かな風圧でゆらゆらと揺らめいた。
スッ――― カチン
「ふぅ」
片膝立ちのまま刀を鞘に納め、それからゆっくりとした動作で立ち上がる。
ロウソクの蝋が垂れてくる上の方を持って力を加えた。
パクッと音がしたかのように再びくっつきかけていたそれは、重力以外の力を与えられて切断面から二つに分かれる。
庭にあるししおどしが二回の音を立てた。水が一滴ずつ受け口に落ち、それは一時間以上という長い時間をかけて全体の重心位置を変えるまでに至る。
一回目は水の重みで竹で出来た受け口が下を向き、勢い良く岩にぶつかった時の音。二回目は水を捨てたそれが元の位置に戻るとき、後ろの部分が同様にして岩にぶつかったときの音である。
「あっ、もうこんな時間。そろそろお昼をお作りしないと」
妖夢には獅子脅しが音を立てる時間はわからない。一滴ずつ溜まるごく長い周期であることは知っているが、この修行を始める前に何時それがあったかを知らないから。
だが彼女は二回の音がするその間に、自らの剣を走らせた。
何時来るか判らない瞬間に備え、集中し、反応した。
とてちてとてちて
間の抜けた音を立てて廊下を走っていくが、彼女は剣士だった。
「ねぇ、妖夢。貴女って一体何なのかしら?」
食後、満足した表情で寛ぎながら、主は従者に問う。
「い、いきなりなんでしょうか??」
主の奔放ぶりと何事も唐突なところは知っている。自分がそれに振り回されざるを得ないことも。
「貴女の仕事とかやっていることって、一般的に言うと家政婦さんよね? 紅魔館のメイドと同じで、白玉楼の庭師兼住み込みの家政婦さん」
「そこはせめて白玉楼の庭師にして幽々子様の剣術指南役という正式な設定をですね………」
「でも滅多に貴女から剣術なんて教わらないわ。あっても私の気が向いたときくらい」
「それは幽々子様が『半人前の貴女から教わってもねぇ。妖夢が一人前になったら毎日教わって技を教授してもらうわ』って仰って付き合って下さらないからじゃないですか。確かに私の実力だと剣を使わせて頂いても幽々子様のお力には及ばないですけれど、護身術や精神修行の意味合いもあるのですからご自身の為にはなると思うのですが」
ため息を一つ吐いてから口を尖らせて言う。
確かに幽々子は妖夢より強くそれこそ刀など持たずとも良いし、また生半可な剣術など身につけるよりは自身の戦い方をすべきかもしれない。そして以前何気なく言われたことであったが、妖夢自身が半人前なのだから人にものを教える立場にない、という言葉は当時彼女の胸の内を『グサッ』という擬音と共に矢印が貫いたものだ。その言葉を今この場で放った本人に返すのは自虐か、あるいはあてつけか。後者であるとするならば、我侭な主に対するささやかな反抗だったのだろう。
「なら一人前になってくれば良いじゃない。技や極意だけなら妖忌から全部教わっているのだからすでに免許皆伝でしょう? 貴女が半人前なのはそれを頭では理解していても自分の物になっていないからよ。実戦で十戦くらい実践してみればいいじゃない」
「そんな無茶な………」
「無茶でも何でも、私が認める一人前に妖夢がなってくれなきゃ剣のお稽古は無しよ。それと妖夢の肩書きは【白玉楼の庭師 兼 家政婦は見た!豪邸に現れた美しい女性の亡霊、彼女の無念が招いた事件】と言うことになるわね」
「これ、突っ込み待ちですか?」
「いいえ、新しい修行の成果とお団子待ちよ。ほらほら、行ってらっしゃいな。うふふふ」
「はぁ……」
渋々妖夢は立ち上がると膳と湯呑みを持って茶の間を出る。これを片付けたら主の言う通り買い物とついでに(メインはお団子だから)修行という名の実戦経験を何処かで積まなくてはならないだろう。
のほほんとして掴み所がなく、いつも何を考えているかわからない。けれど幽々子は妖夢のほんの些細な変化やその様子で彼女の全てを見抜いてしまう。幻想郷屈指の実力者でもあり、妖夢が尊敬し敬愛してやまない主である。母のような姉のような、つまりはかけがえのない家族という存在でもある。
妖夢は洗い物を済ませた後、家事を手伝ってくれる幽霊に必要な事を頼んでから刀を差して白玉楼を飛び立った。
クエストを受領しました
目標1:お団子
目標2:実戦修行に付き合ってくれる誰か
とは言え実戦形式の修行を申し込めば自分とてただではすまないだろう。そこいらの地面や岩の上にお団子を置いておいても流れ弾云々もある。
先に里の茶屋で注文と引き受け時間だけを伝え、それから修行相手を探しに出た。団子は2時半に受け取り3時のおやつには持って帰れる。今は1時だから修行は1時間ほど………ってこの時点で既に舐めてないか?
「何処に行って誰に申し込めばいいのでしょうか?」
虚空に向かって自問する。
「私でよろしければ、お力になれることがありますか?」
自答をする前に思いもよらぬ他者から返答が帰ってくる。茶屋を出た先、里の中故対人レーダー的なものは切ってはいたが、それでも妖怪や殺気を持った敵性体ならば背後に立たれて独り言を聞かれるなどということは無かったはずだ。
「あなたは………?」
「私は聖白蓮。この先にある命蓮寺という名のお寺で尼僧をしています。つい最近幻想郷に来たばかりで右も左もわかりませんが、こちらに住まわれる人と妖怪の橋渡しとなって両者が平和で平等に生きられる道を模索したく尽力する次第です。そういえば貴女は………」
「て!!!?!?!」
「て?」
(天敵だぁーーーーー!!!!!!!!!!!)
喉から出て行きそうな叫びをかみ殺し、刀に手をかけ膝をがくがくと震わせながら驚愕の表情で目の前の妙齢の女性を見据える。
落ち着いていて柔和な微笑を湛え、それでいて今現在の妖夢の行動を不思議に思ってか小首を傾げている様は、まるで難しい注文を頼む彼女の主人西行寺幽々子の仕草を見ているようで、一瞬だがその顔に引き込まれてしまう。
「どうされました? 具合が悪そうです、滝のように汗が噴出していますよ。私は魔法使いですので簡単な治癒術くらいは心得ています。と言いましても、自然治癒力を高める程度で根治能力は無いのですが」
「いえいえいえいえけけけっ結構です!!!」
そう言って白蓮と名乗った僧侶は体力回復+ステータス異常治癒+再生の合成(つまりケアルとエスナとリジェネ)をした高度な回復術を謙遜しながらもかけようとしてくれる。
もしかすると効果が反転してダメージ+ランダムバッドステータス付与+スリップくらいは頂いてしまうかも知れない。
「そ、そうですか。やはり私のような得体の知れない魔法使いという存在は気味が悪いのでしょうか?」
妖夢の反応に相手は軽く凹んでしまった。とは言え理由を説明して良いものか、自分が半人半霊という複雑な生まれの存在であることをこの女性に明かして良いものか。
某所では妖夢を模したデフォルメキャラクターが『南無阿弥陀仏!』と唱えられるだけで天に帰ってゆくと言う。
自分や幽々子のような霊的存在にとって気をつけなければならない相手が二つあると以前教わった。一つは陰陽師や僧侶などの対霊法術を磨いた者、もう一つはおかしな機械を背負ったメリケンさんだそうだ。悪いこともしていないのに勝手に浄化されたり吸い込まれたりしたらたまったものではない。
「いえ、別にそういう訳では………」
「私に出来ることは何か無いのですか? 先ほどもお困りのご様子でしたし、今現在は体調を悪くされているようです。お話下されば微力ながら尽力致します、私は全ての生き物が平等に平和に暮らし共に理解し合えるような、そんな世の中にしたいと日々精進しているのです」
「は、はぁ……」
まるで新興宗教かマルチ商法のような綺麗すぎるおためごかしである。世間知らず気味の妖夢にも怪しさ大爆発に見える。
(だけど嘘を吐いているようには見えない。しかしそれはそれとして、生き物に優しくても生きていない者に優しいでしょうか?)
彼女の言葉の抑揚や仕草、その他諸々から白蓮と名乗るこの尼僧が本心からそれを言っていると判断した。それと最初に会ったときは全く感じさせなかった魔力の奔流のようなものを全身に感じる。先ほど妖夢を治癒してあげようとした時に本人のリミッターを解除したらしい。普通の魔法使いが殴りこんできたとき、そして七色の人形遣いや動かない大図書館と対峙したときに感じた感覚に近い。目の前の女性は僧侶というより魔術師なのだろうか。
「あら? あらあらあら。まぁまぁ、貴女は幽霊さんなのですね? 成仏できなくて困ってらっしゃるのでしたら―――」
「ぎゃー!!!」
妖夢の後ろに隠れていた半霊を見つけ、ようやく彼女がどういった存在なのかを理解した。
それから妖夢はひとしきり彼女に説明する。名を名乗り、自分が生まれながらの半人半霊という種族であって未練とか成仏とか関係ないのでどうかニフラムとかジルワンとか聖水なんかで消さないで欲しいと。そして彼女はテンパりながら当初なぜ悩んでいたかも説明してしまう。器用に嘘を吐いたり誤魔化したりするのが下手な所為もある。
「はぁ、剣術の修行を。殺生は忌むべき事ですが己を高める為の修行や鍛錬を行うことは良いことです。僭越ながらお手伝いしましょうか? 元よりお困りの様子だった貴女の力になるつもりでしたし、先ほどは色々と混乱させてしまったようですから」
「しかし私は剣を使うことが前提で、しかもスペルカード戦と違う実戦形式を望んでいます。魔法使いの方、それも貴女のような博愛主義の人に刃を向けるのはちょっと………」
「いえ、お気になさらないで下さい。私は貴女に致命的な法術を用いることはしませんし、貴女は全力で向かってこられても結構ですよ。私は自らを高める法術を得意としていますので手合わせの相手としてご満足頂けると思います」
言葉は丁寧で本人は善意からの申し出。悪意の欠片も無いはずなのに妖夢の自尊心をズタズタに引き裂く物言いだった。手加減してやる、全力で来い、一丁揉んでやろう。
「はぁそうですか、では胸をお借りするつもりでいきます」
そうまで言われて引き下がれよう筈もない。場所を移して対峙する。
背負うように持ち歩いている楼観剣を腰に鞘ごと差し直す。
見物人も立会人もいないので両者とも構えをとった瞬間に勝負は始まった。
「っはぁ!」
ビュンッ―――
息を吐き出しながら抜き放つ。無用心にも妖夢の間合いで勝負を始めた白蓮に容赦のない先手を浴びせた。寸止めをする気もなく振り抜いた渾身の攻撃だった。
スタッ
かなりの速度を誇る居合だったが間合いギリギリでの攻撃だったため、軽いバックステップでその外に逃げられる。涼しい顔をして髪の毛の一本すら切らせていない見事な回避だった。
腹を立てていたとは言え妖夢は後先考えない抜刀をしたわけではない………と思う。これほどの自信があるのだ、受け止めるか避けるかはしてくれるだろうと。実際避けてくれたわけだが、もし避けれていなかったら…………考えるのはよそう。
「速いですね」
「はい、“加速”です。こちらにその呪文が」
そう言って白蓮はふとももを指差す。そこには服の上から紫から黄色までの色のグラデーションがかかった文字が浮きあがっている。
「成程隙だらけだったように見せて、実のところ素早く移動するための呪法を体に宿していたのですね」
「今度は打ち込んでくださいな、“強化”“硬化”“再生”の魔法を三点セットで宿しておきます。本気で打ち込んでも私が死ぬことが無いのであれば、練習台としてこれほど理想的なのはありませんでしょう?」
なにそのマイティガード?
彼女が何事か唱えると体の上を曼陀羅が走り、随所に文字が浮き上がる。先程の反応を見るに、あの文字が彼女の身体能力や強度などを向上させているのだろう。
そしてやはり笑顔。悪意は無い。妖夢は無性に腹が立った。
もし彼女が我が主を浄化せんと白玉楼にカチコミに来たとき、私では手も足も出ないと言うことになるのか?
「ではお言葉に甘えて」
会話中抜き放ち振り切ったままだった剣を、返す刀で袈裟切りに白蓮の左肩に一撃する。抜刀からの斬撃とこの動作を続け様に行っていれば、居想無外流居合形五用一本目『真』となっていた。
妖夢は居合術は技能の一つとして修めているが、魂魄流の流派そのものは居合のみに力を入れている剣術ではない。護衛という役割柄主の側で常に抜刀しているわけにもいかないが、咄嗟の時に対応するために必要な技術。そして同時に刀を後方に隠すことで間合いを読ませ辛くし、最初の一太刀をかわし難くする意味合いもある。白蓮には通じなかったが。
「あつつ………。やはり業物の刀ですね、刃は止められても衝撃が体を一周しました」
「…………」
打ち込んだ手応えは岩や金属などの剛性のあるものではない。むしろ肉に沈み込んでいくような感触がありながら、同時に反発する力を受けて刃が服も裂けずに数mm沈み込んだだけで止まってしまっている。
妖怪が鍛えたこの楼観剣に切れぬものなど“あんまり”,“殆ど”,“少ししか”ない! ………筈なのだが、そのごく一部の例外に白蓮という僧侶の体が加わった。
「強い。貴女が本気で敵に回ってしまうことが恐いですよ」
「私もその様な事態にならないことを切に願います」
(どうする? 剣は通らないほど硬く、おそらく速さも力も私では遠く及ばないかもしれない。打つ手が無い)
「それでは今度はこちらからいきますね」
そう言うと彼女は一瞬にして刀の間合いから拳の間合いへと距離を詰め、拳を妖夢の腹に叩き込んだ。顔ではなく、また肋骨や心臓や肺がある胸でなく、肝臓や脾臓がある腹部への一撃。正面に構える刀を回り込むように横合いから脇腹を強打した。
すぐに対処が出来るのなら死にはしない、しかしとても苦しい攻撃だった。痛みは体全体に響き渡るようで脳の容量がパンクしそうになる。痛みと苦しさだけが五感と思考を支配する。何も考えられない、たたかうもさくせんもにげるも、選択肢そのものが消滅したように。
「――――」
悶絶し白目を剥きかけている妖夢を見て、白蓮は【アチャー】という顔になる。身体強化呪文が得意とは言え白蓮はあくまで魔法使いであって格闘家ではない。妖夢の剣戟に備えて念入りに掛けた強化魔法が強すぎたこと、そして本人が素人ゆえ加減出来なかった事が災いしてしまう。
「大丈夫ですか妖夢さん? 先ほどのお話を伺う限り私の治癒魔法はおそらく大丈夫と思いますので使いますよ」
返事も出来ない彼女の横顔を見ながら、白蓮は対象の痛みを止めたり自己修復能力を高める魔法をかける。妖夢の様子を見ながら少しずつ注ぎ込むように魔力を送った。
「カハッ、ハァッ! ハァ………」
血の混じった咳を一つ吐いたが、以降は苦痛が和らいできたらしく目を弱々しく開けて虚空を見つめていた。
「僧侶として修行で身につけた法力もありますが、私を形作るその大部分は外法によって構築された魔の法術です。私は自らを清め開眼と悟りに至るという仏の教えを踏み外しました、しかしそのお陰で全ての人も妖怪も平等に扱うことの出来る力を手に入れたのです。御仏が邪なる者を排除し善き者だけで理想郷を作り上げるのならば、私は弾かれた者達こそを救う道を歩みたいと望みました」
妖夢は空を見つめる。
「“本来無一物”万物も人も元より実体のない空であり執着すべきことなど何も無い、という意味の教えの一つです。私はとらわれるものがありすぎてこの教えに反しました。ですが同じ言葉でも貴女には役立つやも知れません。そしてどのように解釈するかは貴女の自由です」
痛みは治まり、しばらくすれば臓器の機能も元に戻って起き上がれるだろう。だが妖夢は手放してしまった刀を一瞥しただけで、この手合わせを再開する気力はなくなっていた。
「この度の邂逅が私達二人にとって良きものと成りますよう」
横たわる妖夢に一言言い残し、深く一礼すると彼女は去っていった。
今の妖夢にこれ以上の介抱も言葉も必要ない。草食動物のように今日の体験を何度も何度も反芻し消化し自らの栄養とするほか無いのだから。
「ふーん、そう。でもそういう手合いなら竹林の不死者よりは良いわよ、殺したら死ぬんでしょうから」
聖白蓮について報告するとあっけらかんと言い返され、幽々子は平然と買って来た団子を頬張った。
しばらく呆けていた妖夢を行動させたのは幽々子の言いつけ、3時までに買って帰るお団子の注文だった。痛みは消えていたが油の切れた機械のように軋む体をなんとか動かして時間までに持ち帰った。
「しかし彼女が幽々子様を狙って襲い掛かってきたら今のままの私ではお守りしきれません」
「あら、そんな事言っていたら最終的に“私は幻想郷にいる全てよりも強くなるしかない”なんてつまらない結論にしか行き着かないじゃない。私だって厄介な紫や博麗の巫女、竹林の不死者達だって超えなきゃいけないわ」
「不可能なことであるのは判っています。しかし私は少なくともそれを目指さなければならないのではないのですか? それが一人前になるということなのでは―――」
「そんな結論しか得られていないならまだ駄目ね。今日は体をゆっくり休めてまたあした行っていらっしゃい。明日はういろうが良いわね、抹茶と珈琲と黄粉味を2本ずつ普通のを4本お願いね♪」
クエストが更新されました
目標1:ういろう×10
目標2:実戦修行に付き合ってくれる誰か
「――――をお願いします。では2時半頃取りに伺いますので」
「毎度有難う御座います」
昨日と同じで注文だけ先に済ませておく。
今日のお昼は元料理人の霊に任せてきた。幽々子様に仕えて長い霊達は意思を持って白玉楼に留まり、騒霊の姉妹たち同様に人の姿形をして行動できる。
妖夢も色々なことを色々な霊達から教わってはきたが、そこは本職、彼らのほうが腕は良い。普段だって彼らがおやつも作ってくれるんだから、私の修行にかこつけて里でお金出して買ってこなくても良いのに。
金銭的に色々悩みを抱えている妖夢は必然的に自炊厨で原価厨である。
(ういろうくらい小麦粉と上新粉とお砂糖で簡単に作れるのですが)
思ってても誇り高き小田原市民には言わないでね。
「あら、こんにちは」
「え? あ、はい! こんにちは」
白蓮の時同様気がつかないとは、気が緩んでいるのだろうか。
「また会ったわね、前回は別のお店でお茶した時かしら? 今日はお買い物?」
目の前に立っているのは人形遣いアリス・マーガトロイドだ。
「ええ、あの………。この間は申し訳ありませんでした、取り乱して一人で勝手に帰ってしまって」
「あれは私が意地悪をしたのだもの、全く気にしてないわ」
「私は今自分と手合わせをしてくれる相手を探しているんです。良ければアリスさん、付き合っていただけませんか?」
「弾幕ごっこ? 良いわ、最近平和すぎる気がしていたくらいだし」
「いえ、実を言うと真剣勝負をお願いしたいのです。私は私の剣術を使って斬りかかります、勿論寸止めはしますが。アリスさんも加減した弾幕ではなく本気で私と打ち合って欲しいのです」
キョトンとした顔で妖夢を見る。目をぱちくり。
(確かにこの子は一時(萃夢想妖夢)好戦的な辻斬り紛いの何かだったけれど………。この間自分の人形劇を見に来てくれたとき、そしてその後で会話した感じではそんな様子は無かったというのに。狼男が満月に狂うように、彼女もそういうバイオリズムがあるのかしら? もしかして生理? 血が見たいとか?)
「あの、やはり駄目でしょうか?」
「あ、えっと、………そうね。駄目だわ、受けられない」
気弱そうに頼み込んでくる妖夢の顔を見るとその様子は見受けられない。
(成程、大方主人の亡霊姫あたりにでも命じられたのね)
さすがアリス察しが良い。
「そうですか、………そうですよね。無理言ってすみませんでした」
「私は必要が無いとき以外は全力を出さないことにしているの。貴女の言う真剣勝負なるものはそういう心構えだと怪我をしてしまう類のものでしょう? だから受けられないわ」
「普段全力で勝負することはしないのですか?」
弾幕ごっこはあくまでごっこ。本気の勝負かと言われればそうではないのだが、それでも弾幕ごっこの中での全力という基準はありえる。
「その必要に迫られない限りに於いては、ね。全力で勝負して負けた時、後が無くなってしまう。私はどちらかというと技術と戦術で勝負する性質だから、同格や少しの格上だったなら相手の弱点をついたりして攻略するわ。仮に負けても全力を出していない以上、次回幾らでもやりようはある。私だけが手を抜いて勝負を馬鹿にしている訳じゃなく、相手にだってそういう余裕を持ってもらいたいの。お互いが本気になればどんどん熱くなっていつかは危険な戦いになってしまう。私がその反対の空気で望めば相手は熱くならず、同じように勝負を楽しむことが出来る」
「勝負を、楽しむ。………ですか」
「大事な事だと思うわ。まぁ、相手が乗り気でないなら熱く燃えさせたりもするけれど。私はそういう天邪鬼なのよ、一種のネガティブフィードバックね」
「………お話下さって有難う御座いました。私としてもその気がない方とするつもりはありませんでしたし、お話は勉強になったような気がします」
釈然とはしなかったがこれはアリスの考え方でアリスの生き方はそれを許してくれるのだろう。
彼女は彼女の命や人生を守ることが重要であって、妖夢はそれ以上に主君を守らなければならないという立場の違いから来るものだ。
「私がそういう命の取り合いに巻き込まれたら、迷わず逃げ出すわ。逃げれる相手ならそれが一番だろうし、何より状況を良く把握し自分自身が冷静さを取り戻す為の時間稼ぎが出来るから。でももしそれが許されないのなら、生きる為に戦うしかないでしょうね。貴女がそれを望むのなら私を殺す気で襲い掛かれば良い。私が生きる為に、私は貴女を殺してみせるわ」
「…………」
「最も、私はそんなことしたくないし、貴女からだったら逃げられそうだけれど」
真顔で言葉だけおどけてみせる。
「変なことを言って申し訳ありませんでした」
「良いのよ。でも貴女は修行のためにそういう事を頼んで回っているのでしょう? だったら私相手だけ何も得るものが無かったっていうのも癪ね。だから一つだけ、さっきの続き」
「さっきの?」
「ええ。もし逃げられない相手に命を狙われていたら、どうすべきか。戦って勝てるかもしれない相手なら戦って勝つ。戦って絶対に勝てない相手だったら―――」
「絶対に勝てない相手だったら?」
白蓮のこともあるが妖夢は一歩踏み出し、ずずいとアリスの言葉を聴くために迫った。
「負けて死ぬわね」
(゜Д゜)ハァ? という顔でアリスを見返す。
「それはどういう―――?」
「そのままの意味よ。勉強になったわね」
話は終わったと言わんばかりに済ました顔で妖夢の横を通り過ぎ、ゆっくり宙に浮いて空を飛んで家に帰っていった。
「まぁ、それはそうでしょうね。殺されてしまうような相手とそういう戦いになった時点で負けなのよ。あの子はそもそも負ける戦いはしない主義なのでしょう? 妖夢には参考にならなかったかもしれないわね」
ういろうをパクパクとつまみながら妖夢の報告にそのように返す。
「今日は真剣勝負という形での修行は出来ませんでした、話し込んでいたら菓子が出来あがる時間になってしまったので」
「じゃあまた明日もね。明日はおはぎなんか良いわね、餡子と黄粉と7個ずつお願いするわ」
あくまで間食である。
「以前お餅を搗いたときのもち米もありますし、ここで作ってもらっては如何ですか?」
「それじゃああなたが里に下りていく理由作りにならないじゃない。修行のついでに買ってくるのよ?」
「それだとおやつを買うことが前提だと時間の拘束があるのですが………。お許し頂ければ一日中修行が出来ますのに」
「任務には期限があるものよ。だからこそその中でどうすべきかという判断力の鍛錬にもなるわ。この間紫の家で遊ばせて貰った遊具もそうだった、とっても大きい動物を切り刻んで焼いて食べる空想の遊びだったけれど、とても楽しかったわ。本当に食べられないのが残念なくらい」
本当にそういうゲームもあるでしょうが、恐らく幽々子様の勘違いだと思います。
あの手のは新しいVerが出ると前作はまだしも前々作は幻想入りしててもおかしくないですよね。あまりやったことが無いので知ったかぶりはしないようここらでやめておきましょう。
と言う訳で、クエストが更新されました
目標1:おはぎ×14
目標2:実戦修行に付き合ってくれる誰か
今までは二回ともそれぞれ別の和菓子屋さんだったが、注文して店を出ると偶然そこに修行相手として申し分の無い相手がいた。
「まぁ、それほど毎回毎回上手くはいきませんよね。こちらからどなたかを訪ねるにしても、誰を頼っていいものやら」
ギューーーン
「…………一回目は偶然、二回目は幸運、三回目は奇跡か必然か。あの人にしましょう」
大空に特徴的な軌跡を残し、下の者の迷惑を考えない飛行音を奏でて飛んでゆく相手に狙いを定めて妖夢も飛んだ。かなりの速度で飛ぶ彼女の後を追うように。
「魔理沙さーーん! 止まってくださーーーい!!」
普通に追いかけてもスピードでは追いつかない。でも彼女の速度は音のそれよりはずっと遅いから声は届くはずだ。気づいてもらうために力いっぱい叫んだ。
「お? おお? 何処からともなく私を呼ぶ声がする。人気者は辛いね」
結構距離があったが止まって振り返ってくれた。普通の魔法使い霧雨魔理沙はその場で滞空して待つ。
「すみません呼び止めてしまって。魔理沙さんに是非ともお願いしたい事があって」
「私に願いだって? 自分で言うのもなんだが珍しいこともあるもんだ」
ケラケラと笑った。
「実は剣術の修行をするために幻想郷で実力のある方々に無理を言って、実戦形式の勝負をお願いして回っているのです」
「ん? ンフー。まぁ、私ほどの相手ならお前さんに稽古をつけてやるくらい造作もないな。良い判断だ」
魔理沙は自分が幻想郷で実力のある方と自負していたらしい。3度目となると妖夢も相手を乗せるのがだんだん上手くなってきたようだ。
「スペルカードや弾幕での戦いではなく、何でも有りの実戦形式でお願いします。勿論私の方は魔理沙さんに刀が当たる前に寸止めするよう心がけますし、魔理沙さんも必殺の一撃は加減して下さい。お互いに相手を倒しうる攻撃が命中するのが確実になるか、あるいは加減されたそれが命中したら敗北です。実戦では命を落としていることでしょうから」
アリスの言う通りのルール無用の殺し合いがしたいわけじゃない。ざっと最低限のルールを構築して同意を求めた。
「いいぜ、加減したマスパをぶっぱなしてやるよ。全身黒焦げのうえ、せっかくのボブカットがアフロヘアーになっても知らないぜ♪」
楽しそうに八卦炉を懐から取り出す。
二人は里から離れた場所の空中で静かに対峙した。
「私からやらせてもらう!」
魔理沙は周囲に星弾を展開する。弾幕ごっこと同じノリだが、パワーの低い魔法なら魔力の消費も抑えられて当たれば動きを止める程度の効果はあるのだろう。
(魔理沙さんの性格からして確実に勝負がつく一発狙いで来るはずです)
妖夢はそれらを難なくかわし、直撃コースに入った弾は切り伏せて消滅させた。
「おっ、なかなかやるな。だがこれはどうだ?」
レーザーを放つ魔法陣が複数現れる。また弾幕ごっこのノリだ、威力の無い攻撃を多少食らっても喉笛に齧りつければこちらの勝ち。妖夢は魔理沙が勝負の趣旨を理解していないならば、それはそれで好機と見て突撃の姿勢をとる。
だがそれはいつものように眩く輝きながらゆっくりと決められた範囲を走査する技とは違った。魔法陣の中心は小さい光点が強く光りながらも、光の帯も見えずに魔法陣の角度が僅かに変わっただけだった。
「!?」
驚愕して自分の腹を見る。服が焦げて一部切れているが、その下の白い柔肌には傷一つない。切られた服も特別丈夫なものではないので、レーザーの威力が異常に強い訳ではない。地肌に直接当たっても軽い火傷ですみそうな技だ。
「ちょっとお遊びで研究してた技なんだが、丁度いいから試させてもらうぜっ!」
「なっ!!?」
再び驚愕した。自分の服がスパスパと焼き切られているのだ。いつものような熱と圧力のビームではない。ただ魔法陣の魔力の矛先が自分に向くと、その一点が熱せられる効果だけが届く。
「本来のレーザーって言うのは真っ直ぐ飛ぶ光の束なんだとさ。真っ直ぐすぎて横からは見えないんだ、霧でもかかってなければ軌跡は目に入ってこない。そのまんま光の速さで相手まで到達するし、魔法陣の角度を1度変えれば20m先では20サイン1度、即ち35cmを光が切り裂く。細っこい妖夢の体を跨ぐくらい一瞬だぜ。科学と魔法が交差するとき物語は始まるってか」
「ぐっ! しかしこんなの何も利きやしませんよ」
「おおっといいのか? 一瞬だけ当たったから服が焦げる位で済んでいるが、皮膚に直に当たり続ければ火傷するぜ。それにこんなしょぼい光でも直接目に入ったら失明は免れないんだ、半人半霊のお前なら治るかもしれないが当面は不便な思いをするだろうな。さぁ! 光を斬れるって言うなら斬ってみろ!!」
魔理沙はとある月人の神様無双(ライトセーバー)を思い出して力を込める。根に持っていたようである。
「くっ! ハァッ!!」
妖夢は目を瞑り魔法陣に向かって突撃する。自分の視界を封じたまま目の前の空間を一閃、レーザーを放つ魔法陣を切り裂いた。
続いて体の向きを変えて再度突撃⇒攻撃。魔法陣の真正面から向かう戦い方でまぶたを開くことは出来ないが、目を閉じる前に把握しておいた全ての目標の位置を一つ一つ潰してゆく。闇の中、自分の移動距離と体の向いている方向、相手の位置を頭の中の座標空間に投影して再現した。
スパーーーン
最後に残った魔法陣を分断させ魔力の消滅を確認する。何一つ残っていない。
「私以外はな」
目を見開いた。逃げも隠れもせず、正面に彼女はいた。
絶妙な位置に彼女はいた。刀を振り回しても届かない距離、今すぐ移動しても避けられない距離で八卦炉をこちらに向けている。先ほどまで息を潜めるかのごとく隠していた魔力が、彼女の手の中の小さなモノの中に集まった。
「ドーーーン」
それはゆっくりと霧散し、同時に両者の殺気だった空気も消えて無くなったようだ。
「ま、ざっとこんなもんよ」
「参りました魔理沙さん。私はてっきりあなたは力押しで来るものだとばかり」
「おいおい、私は弾幕はパワーだと思っているがただの力馬鹿じゃないぜ。自慢の一撃だからこそ、全力全開を一瞬に全て賭ける。だからこそそれを相手に当てるべく知恵と技を駆使する。当たり前じゃないか? もっとも、派手さも楽しさも無い技を駆使した戦いなんてあまり好みじゃないがな」
確かに。着実に効果のある攻撃を積み重ねて勝つ戦い方もあるが、彼女のように一発を狙う戦い方も確かにある。外せば敗北は必定といえる厳しい方法でもあるが、如何なる状況からでも逆転が狙える可能性を持ち続けられるというのは心に余裕を持たせてくれるかもしれない。
「それじゃあな、まぁ今日は普段出来ないような戦い方が出来て楽しかったよ。それと私が勝ったんだから今度飯でも奢ってくれよな」
気持ち良く空を飛んで帰ってゆく。一気にかなりの速度まで飛ばし、もう妖夢では追いつけそうに無い。
「アリスさんの言っていたことが解るような気がします。気持ちの悪い戦いにならなくて良かった」
そう言って刀を納めて自分の服を見た。
「………………これどうしよう」
ズタボロになった服はかろうじて妖夢の体に張り付いている。運良く下着は斬れなかったし見られて恥ずかしい部分は覆われている。
幽々子の言いつけの時間まで余り無い。仕方なく妖夢はそのままの姿でおはぎを受け取りに行った。
別に半裸で買い物をしたわけでもないのだが、店の客や主人の視線が気持ち悪かった。
「ふ〜ん。まぁ、あの子の言う事も一理あるわね。貴女の一太刀でもその身に受けたら人間は死んでしまうのだし、それに対抗するなら相手を一撃の下に捻じ伏せる必殺技が必要なのかも」
おはぎに舌鼓を打ちつつ魔理沙の戦いぶりを肯定する。ちなみに黄粉⇒餡子⇒黄粉の順番で一つずつつまんでいる。
「私も大技を出す前は相手のガードを崩したり半霊を使ったりして隙を作るくらいのことはします。ですが真剣勝負と前うっているのに、弾幕や通常よりも威力の無い攻撃をあえてしてくることは想像がつきませんでした。てっきり皆さん普段に数倍する攻撃力での応酬になると思っていましたから」
「彼女の攻撃はただ威力が無いだけではなく、実戦向きのアレンジが加えられていたというのもポイントね。中途半端な威力だと妖怪に効かなかったり防がれたりするから、戦闘能力を奪ったり後遺症を残すように特化させ、嫌がらせに使う。相手の行動を大幅に制限できるし、魔力の消費も小さいでしょうからその分大技にまわせるわ」
黄粉の風味はおはぎやおもちのような米でつくる菓子に合うがその独特の粉っぽさは喉の渇きをもたらし、餡子の甘みと水分はそれらを押し流してくれるがいくつも食べるとくどさを感じるものだ。幽々子が同じ和菓子を10個や20個食べたところで飽きるのかどうかはわからないが、交互に頬張っては至福そうな顔をした。
「お爺様も仰っていました。本当に命の取り合いとなった時剣士はどうあるべきかと。それが自らが望んだ勝負事であるなら正々堂々と戦い、そして敗れるときも正々堂々と死ねばいいと。ですが自らが望まない戦いだった時、あるいは必ず勝たなければいけない戦いだった時はどんな卑怯な手を使って勝っても良いと。それもまた剣士のあり方だと」
「妖忌の言いそうなことねぇ。うーん、今回の修行で妖夢もだんだんわかってきたみたいね。面白かったけれどそろそろ終わりにしようかしら、得るものが有っても無くても次で最後にしましょう。次はそうねぇ、たまには洋菓子もいいわね。かすていらを5本、お願いするわ」
5“本”である。5切れではない。
と言う訳で、クエストが更新されました
目標1:カステラ×5[本]
目標2:実戦修行に付き合ってくれる誰か
今日は最後ということもあって多少時間の猶予を貰った。里で誰かを待つというのも流石に4回連続で都合良くはいかないだろう。
「今日は洋菓子を所望されましたから、紅魔の館にいる方々にお願いするというのも面白いかもしれません」
そのようにひとりごち、その方向へ向かって飛ぶ。洋風という共通点しかないが気にしない。どうせ他に当ても無いのだ、かの門番は腕試しの勝負を快く引き受けてくれているらしいし、白蓮と魔理沙に敗北した悔しさを跳ね返すために拳法家と魔女に指南して貰うのもいいかもしれない。
妖夢は飛んだ、紅魔館までの空を。
「実戦形式だそうよ美鈴。例のアレ、この娘で試してみない?」
「普通だったらあんまり機会がなさそうですしねぇ。良いと思いますよ、別に秘密兵器ってわけでもないですし」
二人だけに分かる短い言葉を交わしアイコンタクトを図った。それの意味するところは妖夢には分からない。ただ嫌な予感だけはした。
「そういえばお二人のどちらがお相手してくださるのでしょうか?」
紅魔館の門前で、咲夜と美鈴の二人が笑った。妖夢に向けて。爽やかな笑顔を見せた。
眼前から咲夜の姿が消失する。
トンッ
背中を押された。
「なっ―――」
時を止めて背後に回っていた咲夜が自分を突き飛ばしたのだ。時間停止の解除と同時に前方向の力積のみを受け取って妖夢はつんのめった。
正面には美鈴が飛び出して来て自分との距離を詰めている。慌てて腰の刀を抜こうとしたが、ただでさえバランスを崩しかけているのだ、勢いがつきすぎて振り抜いてしまった。美鈴はそれを見切っていたのか眼前を素通りする刃先に全く怯まなかった。
「ハッ!」
ドゴオッ
「ガハッ!?」
腕を振り切ってがら空きの胸元に拳がめり込む。一瞬だが息が出来なくなり、肺が酸素を求めているのか横隔膜がブルブルと痙攣した。
体が息を吸い込もうとした時にそれが出来ない。瞬間的な酸欠は一般人だとパニックを引き起こす。だが全身が今ある分の酸素を消費し尽くすまでには多少の時間がある。妖夢は自分の体が反射や本能に従うことを強く制した。呼吸が出来ないのなら息を止めて肺機能が回復するのを待つ。口を閉じて喉下に力を入れ胸の痛みに集中し、強く痛みを感じることによって余計な事に気を散らされないようにする。振り切ってしまった刀を正面に戻し、真っ直ぐと突き出す。
ダメージにより発生するはずだった硬直時間をキャンセルし、妖夢の立ち直りは美鈴が思ったより早かった。正拳突きにて突き飛ばしたこの間合いは刀の、それも咄嗟に引き抜いた脇差ほどの大きさの白楼剣の間合いだった。
五箇一本目『水月』
スペルカードではない剣術の型の名前を心で唱える。
剣の師である魂魄妖忌が、今よりもさらに若い時分の妖夢の手をとり一緒に形を作った。自分の肩と右手に祖父が軽く触れる、そんな当時の感覚を思い出しながら突き出した。
美鈴の水月(鳩尾)を貫く様に。
彼女程の相手なら急所を外す程度の回避はギリギリで間に合う。そしてその程度の怪我なら妖怪である彼女は死にはしない。速攻で彼女を戦闘不能にし、咲夜と一対一で対峙する。どんな手段も戦い方も勝者になれば正当化される実戦という舞台で、妖夢自身は緊張感に包まれながらも己の内にある剣技のみは反復した練習の通りに繰り出された。
美鈴は避けた。上体を左に仰け反らせて。彼女に出来る最大限の反応で、それでも尚右脇腹を深々と刀の切っ先が貫く筈だった。
「残念ね」
妖夢の肩と右手に手がそえられている。祖父の手ではなかった。
力の軸と刀の支点、その二箇所を少し押しただけで妖夢の攻撃を大幅にずらした。刃先は美鈴の胴にかすりもせずに虚空を突く。
失念していたわけではない。すぐ先程も二人のコンビネーション攻撃を受けたのだから。
「残念でしたね」
勢いのままに妖夢は再び美鈴の間合いに飛び込んでゆく。妖怪の体を少なくとも10cm以上は刺し貫くことを前提とした突きは急に止まれなかった。
それでも妖夢の胴体が射程に入るまでには遠い。彼女の突き足が地面を蹴り、再び剣先を変えるチャンスを与えてしまうと刀を横薙ぎに振られてしまう。
美鈴は上半身だけを左に傾けた状態から妖夢の右手の甲に向かって左手で素早いジャブを繰り出し、それは吸い込まれていくようにすんなりと狙った場所に命中する。
妖夢は刀こそ取り落とさなかったが、利き手の痛みと痺れで一瞬怯む。それでそのタイミングでの反撃の機会は永久に失われた。次いで突き出した左手に沿わせるように右手が真っ直ぐに伸び、それは妖夢の鳩尾に突き刺さった。
苦悶の声を上げる間もなく膝をつき、今度こそ白楼剣を地面に落とした。
「ウッ……グ、グァ カハッ、ゲホ! ゴホッ!!」
カシャーン カラカラ
咲夜は白楼剣を蹴り飛ばした。
「まだ続けるのかしら?」
妖夢は答えない。
「「ふぅ………」」
咲夜と美鈴の二人は小さく息を吐いて目を合わせた。
チャキッ
その一瞬の隙を突いて妖夢は背中に背負った楼観剣を抜き放った。
「「!!!」」
いや、妖夢は片膝立ちで荒い息を吐いている。手には何も持っていない。だがその目は屈していない。
半霊が人間の妖夢自身と同じ姿を形作り、人間妖夢が持つ楼観剣を抜いて突撃する。
虚を突かれた格好となった二人は大きく後ずさる。白楼剣よりも大きい長刀の楼観剣だが、型通りではないので居合ほどの速さも無く二人はそれを回避した。半霊妖夢は先程までの傷も無く、動きからしてダメージがあるようには思えない。紅魔館の門のすぐ手前まで後退して様子を見る。
「まさか向こうも二人タッグだったとは」
「そうかしら? 確か半人前同士合わせて一人前とか聞いたのだけれど」
半霊妖夢は最初の一撃の後すぐさまとって返して人間妖夢の側に立つ。両者の距離は大きく開いた。
「本体から余り遠くに離れられない。もしくは長時間あの形態でいられないのかもしれません」
「だとしたら失敗しちゃったわね」
「…………ハァ、ハァ、ハァ。………スゥーーッ、フーーー」
痛みに耐えるようにうずくまっていた妖夢が呼吸を整えて立ち上がる。半霊が人間の妖夢に刀を手渡し、そのまま彼女の背後に憑くと普段の風船型に戻った。
対人対妖怪で切れ味が悪く中脇差ほどの長さしかない白楼剣ではなく、切れ味が良く長刀でもある楼観剣を正面に構えた彼女の姿は敗者のそれではなかった。その姿から殺気とも取れる気配が対峙している二人には感じ取れた。
「「………」」
再び咲夜と美鈴の二人は目を合わせてアイコンタクトを取る。悔しいまでに息の合ったパートナーだ。この話の中でさくみょんカップリングの成立する余地は無い。
「やぁっ!」
気合の掛け声と共に美鈴が弾幕を放つ。また弾幕だ。
剣や拳の戦いとしては離れすぎた両者の距離は、弾幕ごっこで画面一番下に陣取る位の距離はあり、別の形態で言い換えれば画面が左右に完全に広がった状態で両端に対峙している位の距離だ。
「この程度!」
美鈴の弾幕は美しかったが避けにくくは無い。避けれる弾は避け、それが出来ないのなら斬る。時折肩や足にぶつかると大きな衝撃が走り酷く痛んだ。魔理沙があえて弾幕ごっこよりも弱くしたのと反対で、美鈴は気を練って作った弾幕に殺傷力を持たせている。それを前方のみの扇形とは言えごっこのように大量にばら撒くのだ、早い消耗は免れないだろう。
だが同時に妖夢の消耗も望める。当たれば痛いそれを何発も良い所にもらってしまえばそれだけで戦闘不能だし、既に手負いの彼女には避け続けるのも斬り続けるのも辛かった。
美鈴は消耗戦を挑んでいるのだ。互いを疲弊させ互いの戦力を削る戦い。大きな損害を出しつつもどちらかが打ち勝つしか終わらない戦い。全く合理的だ、彼女の側には咲夜が控えているのだから。
(弾幕の中にナイフは無い。今は傍観して止めを刺すことを狙っていますね)
そう結論付けた妖夢は弾幕の雨の中に突撃する。消耗戦には付き合っていられない。散弾の様に拡散する美鈴の彩雨に良く似たそれを受けながら前に出る。次第に捌ききれない弾の数が増えてくるが被弾の痛みを無視して前進した。
弾の雨が途切れる。好機と見た妖夢は一気に飛び出した。
美鈴は弾幕を止め気功砲の気を溜めていた。星脈弾という名のスペカにしてお遊びで使うものに似ていたが、実戦用のあれを食らったら満身創痍になってしまうだろう。しかも恐らくその発動は妖夢の剣戟よりも僅かに早い。
(殺った!)
美鈴が心の中で叫び練り上げられた気弾が放たれようとした瞬間、妖夢の姿は変形した。
「なっ!?」
美鈴自身が放ったカラフルな弾幕に隠れた妖夢は、弾雨の中を抜け出すと同時に半霊を人間妖夢型にしてその後ろを走った。直線的に突っ込む半霊に対して自身は直前まで追随し、彼女程の目をもってしても一瞬見逃してしまう近距離にまで接近してから大きく方向を変えて美鈴の気功砲の延長線上から逃れた。半霊は気で焼かれてしまうから終わった後はまさしく半死半生の体を引きずって帰ることになる。
(咲夜さんには勝てないかもしれません。しかしせめて一矢報いねば今まで全く良いところが無い。ましてや今日で修行は打ち切りなのです、2対1で相手の1人を倒したとなればかなりの戦果と言えます!)
驚いた顔で瞳だけをこちらに向ける美鈴。技は発射体制に入っていて方向は変えられない。妖夢の剣も斬撃の体勢に入る。
妖夢がもし皮肉屋だったら、この場面で「残念でしたね」と発言を返していたかもしれない。
(美鈴さんは寸止めでも潔く引いて下さるでしょうが、体がぼろぼろでそれをする余裕がありません。まず確実に剣の間合いギリギリから突き出した腕を切り落とします。そしてもう一歩大きく踏み込みながら返す刀で首に刃を突きつけます。これは止められるでしょう。頑丈な妖怪の美鈴さんなら離れた腕もくっ付くか再生するはずです)
彩雨という名の弾雨にさらされながら考えた反撃の一手。決められた運命に吸い込まれていくように妖夢のシミュレート通りに世界は動いた。
その瞬間まで。
バウンッ!
美鈴の気功砲が炸裂した。それは妖夢の体を正面から捕らえ、前傾姿勢だった妖夢は顔面にモロに受けた衝撃に防御も受身も取れずに吹き飛ばされて大地を転がる。直前まで相手の腕を切り落とそうと力強く握り締めていた楼観剣だけは離さずに握られていた。
「あっ、危なかったぁ〜」
強化弾幕と気功砲でかなり疲労していた美鈴は肩で息をし、寄り添う女性を見遣った。妖夢の突きを逸らした時と同様、咲夜が美鈴の肩と手に触れて彼女の体の向きを時間停止中に修正していた。
「今貴女に怪我をされたら困るわ」
これからエッチする予定でしたものね。
勝負はついたとして疲労から回復するために内気功に集中する美鈴。
咲夜は倒れ付した妖夢に近づいた。
「…………」
腫れあがらせた顔を上げながら、辛うじて動くらしい左手一本で楼観剣をやっとやっと持って咲夜に向ける。
時を止めるまでも無かった。咲夜は横合いに回りこんでその左手の甲を蹴り飛ばす。長く重い筈の刀が宙を舞い、離れたところに落ちて突き刺さった。
「そうじゃないでしょ、何か言うことは?」
咲夜と美鈴は素敵な時間を邪魔された被害者である。怒っている。
「…………」
口が利けないほど頬が痛いのだろうか。妖夢は剣を落としてなお諦めないのかだんまりを決め込んだ。
美鈴が軽く体力を回復させたのか咲夜の側にまでやってくる。
二人を前に俯いたまま妖夢は小さく口を開く。
「…………ほのはびわらひははにほへへはえるほほはへひうほへほうは?」(この度私は何を得て帰ることが出来るのでしょうか?)
「ハァ?」(は行ばっかりね)
咲夜が呆れたように返す横で、美鈴はフムと顎に手を当て考え込む。
「今回の勝負で学んだことですか………。実際の戦いなら卑怯も何も無いからどんな手だって考えられる。勝負の仕方やルールが変わるなら当然戦い方だって変わる。2対1では勝ち目は薄い。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。といったところで―――痛゙いっ!!!」
「余計な事言わないの!」
美鈴の尻の肉をぎゅっとつねった。
咲夜は一つ咳払いをすると妖夢の顔を真正面から見据える。
「貴女の剣は何のためにあるの? 自分が成すべき事とその理由をはっきりとさせておかなければ戦いに勝てるわけも無いわ。自分の限界を知ってその中で何が出来るか、どうすべきかを考えれば自ずと最適な方法を選び取れる。限界なんて超えてやる、気合と根性でどんな相手にだって勝つ、なんていう暑苦しい考え方をしているのだとしたらお笑いだわ。だって私と同じで主人を守ることが本業の貴女が、そのために強くなろうとしているはずの貴女が、たかが勝負に命を賭けて戦うなんてね」
「私達が二人がかりで妖夢さんに襲い掛かったとき、状況判断として最適な答えがあるとしたら“退く”ですよ。一時退避して状況を整理して対策を考えるんです。ちょっと考えていただければ、少なくとも私は仕事柄この場所を離れて追跡は出来ないことに気づくでしょう。咲夜さんが単身追いかけていけば1対1の勝負をし、そうでなければ2対1でも戦える戦術を考えてからまた来るか、咲夜さんが奥に引っ込んで私だけになってから襲い掛かればいいのです」
アリスに言われたような事だ。
二人は妖夢に微笑みかけた。
「あ、ありがほうごふぁいまひら」
が行も喋れる位回復してから立ち上がり、刀を拾い上げて二人に礼をしてから帰路に着いた。
「良い顔になったわね、妖夢」
「…………」
主は別に皮肉で言っているのではない。まぁ、往々にして妖夢を困らせて楽しむ性癖の持ち主ではあるが、今現在の目は真剣だった。
「収穫はあったみたいね」
「はい」
「そう、じゃあ報告はもういいわ。かすていらを食べましょう」
幽々子自らがカステラを切り、妖夢にもあわせて1本の4分の1程になる3切れを載せた皿を差し出した。
幽々子が残りの4と4分の3本のカステラを平らげている間に妖夢は少しずつ口に運んで噛み締める。ふわふわの柔らかいスポンジの弾力ですら、今の妖夢の口には痛かった。
お使いクエストを完了しました
今日は庭師らしく庭の木の剪定をしていると急に魔理沙さんがフラフラと飛んできました。
なんだか良く分からない事を言い、一人で勝手に納得し、帰っていきましたが。
妖夢は木の剪定を終わらせ、地面に落ちた葉っぱを箒で掃いて集める。
幽々子様は恐らくお昼寝、他の霊達も庭には出てきていないので私一人。
葉っぱを掃きながら小さく呟く。
「母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう? そのとき傍らに咲いていた車百合の花はもうとうに枯れちゃったでせうね、
そして、秋には、灰色の霧があの丘をこめ、あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、その裏に僕が書いた Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく」
妖忌は色々な本を読み聞かしてくれたし、また彼が去った後もそれらは残っていてくれた。祖父がいなくなった後、自分で買ったり借りて読んだ本もある。
【五輪書】【真陰流兵法目録事】など有名な兵法書もあれば、【西行】【風姿花伝】と伝記や文学・芸術作品もあった。
その雑多な書物の中の一冊の詩集。その中の一篇の詩をそらんじる。
なぜこの詩だけが特別なのだろう。なぜこの詩を今ふと口にしてしまったのだろう。
この詩に触れた当時、それ程特別な思い入れは無かった。ただ、Y.Sという頭文字の指す範囲を知ったとき、それが偶然幽々子と被ったから憶えていただけかもしれない。
馬鹿な話だ。帽子を落としたのは子供だし、そもそも麦藁帽子など幽々子様には似合わない。それに幽々子様がご自分のお帽子を落としたのなら、たぶん少しだけ困ったような顔をして“捨て置きなさい”とでも仰るに決まっている。
妖夢は空の上にある冥界の、そのまた上のほうを見上げながら独り言を呟く。
「名前は関係ない。あれは私なんだ。僕は私なんだ。だから」
本当にそうだろうか。
「私は大切なものを無くしてなんかいない。あれは私じゃない。僕は私じゃない。だけど」
ならばなぜ共感を覚えるのだろう。
ぼくの帽子は風に吹かれて落としてしまった。
僕は、大切なものを無くした後、一生懸命探して、それでも見つからなかった。
だから僕の帽子に思いを馳せた。見つからないものに、見つからない答えに思いを馳せた。
風景を思い出し、季節の移り変わりと共にあるそれを想像し、そして自分が書いた自分の名前がそこにあり続けることを信じた。
僕は自分がそこにいた証明が、自分のイニシャルが刻まれた帽子がそこにあることを信じている。そしてそれが雪に埋もれていくと想像して詩は終わる。
箒で落ちた葉を掃いた。
今回の修行に付き合ってくれた人達に思いを馳せた。勝手な理由で危ない勝負を挑んだ私は彼女達を友人と呼んで良いのだろうか。
アリスは言った。
『それは違うわ妖夢、剣は貴女という人間、いえ半人半霊を作り上げている大きな要素かもしれない。でも絶対にそれだけということじゃない。今すでに持っているかもしれないし、そうでないとしてもいつか見つかるといいわね』
妖夢は呟く。
「有難う御座います」
咲夜は言った。
『やれやれ、どっちみちここで弾くしかないじゃない』
妖夢は呟く。
「結構痛かったです」
魔理沙は言った。
『やっとやるべきことがわかったよ』
妖夢は呟く。
「羨ましいです」
人から色々と教わっても自分の人生の疑問は減るどころか増えてしまったかもしれない。
妖夢は庭の落ち葉を掃いた。
悩みは未だ尽きない。ただ以前より少しだけ、それが解ける瞬間が楽しみになった。
「あとはこのお店で三色団子10本と芋羊羹3本、それからどら焼きを5つ………と。ううっ、また家計がぁ」
この時間に里の外れにあるこの茶屋を訪れるのは金と暇のある者、あるいはその従者のお使い。
お団子や羊羹などの和菓子が美味しいことで有名だが、仕事のある里の人は中心部から外れたここまで出張ってお茶にするとなるとあまり時間が取れない。現在のような朝10時や3時頃などの一般的なお茶休憩の短い時間では特に。それと拘りがあって美味しい分だけちょびっとお高い。
必然的にここは里の外から来る者達が、買い物などを済ませた後で立ち寄ってお店で食べたり持ち帰ったりする場所となっている。紅魔館の従者はこの店の腕を認め、主が和菓子を所望した時は自作するよりもここで買った方が満足すると考える。折り畳める携帯式のカメラを持った天狗の新聞記者はここのファンで、あまり外出しない彼女には珍しく店主に直接頼んで取材し『自分へのご褒美、上品和スイーツ特集』なる記事を書き上げた。
記事に書かれる以前から幽々子も同様にお気に入りで、今日の様に“ついで”をよく頼んだ。
高級和菓子に一部熱いファンがいるが、ただそれだけではなく昼時や夕刻に食事処として機能させるため、磯辺巻きや豆大福のようなランチにもなるメニューもあってこちらは相応のお値段だ。また白玉餡蜜などのもち米や小豆を使ったものは高価でも、上新粉や小麦粉を使ったお団子など安いものもあり、他のお店より少々高くともそれらを食事時に食べに来る里の人間の常連もいる。
「あら、奇遇ね」
店には客がたった一人、だが前述のようにこの時間ならそういうこともあるだろう。
「貴方もここに?」
「ええ、噂のお店を食べてみたくてね」
彼女の前にはところてんの入った大皿が置かれている。ちょっとしたおやつの小皿ではなく、ヘルシーながらも食事として成立するだけの量がある。ちなみに小皿(500円)の倍の量で850円と大変お安くなっております。
ところてんはただの寒天(それでも他より食感がいい)だが、ここの三杯酢は風味豊かでとても美味しい。出汁かなにか入れているのかもしれない。
「………ハッ!?」
知らず知らずのうちに妖夢の口からよだれが垂れていた。お酢の酸味を想像しただけで唾液腺が反応したらしい。
「貴女もお食事? それともお茶かしら?」
「………持ち帰りだけです」
幽々子の注文を買って帰るだけでこのお店では食べていかない。茹でたり焼いたりと温かい品の作り置きをしない店主に頼むと、一度に買う量の多い妖夢の注文は出来上がりまで15分ほどは待たされるのだが、その間はお店に座って待っている。今回はお団子とどら焼き待ちだ。
芋羊羹も含め冷菓なら冷暗所から持ち出して切るだけで直ぐに頂けるのだが、家計の為に妖夢は自分の分を安いお店か自炊にしていた。
「それでは三色団子10本と芋羊羹3本とどら焼きを5つ下さい。持ち帰りで」
「毎度有難う御座います妖夢さん」
名前を覚えてもらうほどには上客と“なってしまった”妖夢に恭しく一礼して店主は店の奥で注文の品を作り始める。
手持ち無沙汰となった妖夢は彼女の方に向き直る。彼女は自分の前の席を手で指し示した。
「では失礼して」
「どうぞ」
彼女は皿に残っていたところてんを口に運んでちゅるんと食べきった。
「それは貴女の所のお姫様の分かしら?」
「はい、幽々子様に言われて買いに来ました。こちらのお店の和菓子を大層お気に召していらっしゃいます。貴方はこのお店は初めてですか?」
「うん、初めて。甘いお菓子はいっぱいあるけれど、こういうのもたまにはいいわね」
食べ終えたところてんのお皿を横にどかし、机の上にのっている割り箸立てを弄くり回す。
「丁度良かった、貴女と貴女の主の亡霊姫に用があったの。後で訪ねようかと思っていたところよ。片方の手間が省けたわね」
「私と幽々子様に? 一体何のご用件ですか?」
「私と一つ、賭けをして欲しいと思ってね」
「賭け、ですか?」
妖夢の顔が怪訝な表情から嫌な顔になった。
「そうなの。と言っても、あなたは別に何も賭ける必要は無いわ。私のこのコインを賭けて運試しの勝負。貴女が勝ったらこれをあげるけれど、私が勝ったらこれは私のね」
そう言って一枚の硬貨を取り出した。
「これって五百円玉ですか? あれ、でも何かちょっとだけ違うような気がします。………この模様は違いますよ、これは偽物です」
「ええ、たぶん普通のお店に持っていってもそう言われると思う。それにこれ自体には貴金属とかの価値も無いわね」
そう言って彼女は硬貨を裏返して両面を見せてくれた。確かに表には小さく500と描かれていて500円玉に見えるのだが、裏にはなにやら五つの輪っかが描かれ中心には奇妙な格好をした人らしき絵だった。妖夢に手渡す。
「これは古い硬貨なのですか? いやそんなはずは無いですね、この前の時は百円ですらお札でかなり価値あるものでしたし、円の下の銭という単位がありましたから。ということは新しいお金、幻想入りしていないお金なのでしょうか?」
こう見えても妖夢はそれなりの年を食った少女だ。普通の人間の大人よりも世の変遷を見てきている。受け取ったコインをしげしげと眺めてそう予想した。
パキッ パキッ
彼女は割り箸を取ってはパキパキと無駄に割った。
「うーん、ちょっと違うのよね。これは外でも流通してはいないわ、大きなお祭りがあって、そのことをお祝いするためにその絵の彫られた記念のお金として作られたの。額面の500円で買えたわけだけれど、あくまで記念であって使えるものじゃないわ」
パキッ パキッ
「向こうではお祭りは毎年決まった日にやるのではないのですか? それとも毎年このようなものを?」
「いいえ。なんでもそのお祭りは四年間に一回で、それも広い世界の色々なところでやるものだから、この外にある日の本の国では数十年に一度だったそうよ。だからこれ程大げさに祝うのではない? それとそのお祭りというのが、色んな人が自分の得意な種目で競い合って勝負するらしいわ。それぞれはその国の代表として戦うらしいから盛り上がるみたい」
パキッ パキッ
「それは実に興味深いですね。剣術の勝負もあるのでしょうか?」
「偽物の剣を使っての勝負ならあるみたいね、ただあなたの腰に下げているような刀ではないみたいだけれど」
「なぜそんなものをお持ちなのですか? いえそれよりも、それを賭けての私達の勝負とは一体何なのでしょう? 剣での勝負をお許し頂けるなら喜んでしますけど………」
「そんな手間のかかることはやりたくないわ、コイン投げよコイン投げ。人が表で鳥が裏、ピーンって弾いてパシッって押さえて表か裏かさあどっち? 簡単な二者択一の博打でしょ?」
パキッ パキッ
「…………割り箸だってただではないんですよ、お食事をした人が一つ二つ使う程度ならまだしもそんなに無駄にされてはお店に御迷惑です。手持ち無沙汰だからってそういう事をされるのはよくありません。手癖の悪さ以前に忍耐力が足りていない証拠です、良ければ一緒に修行されますか?」
「怒られちゃったわね。うん、ありがと。でも修行は遠慮しておくわ、お店の人にはちゃんと弁償するから見逃して頂戴」
「はぁ。それでコイン投げの勝負との事ですが、博打は勝負とは言えないと思います。自分の努力やその成果が反映しないような勝負はしたくありません」
「別に良いじゃない。私が勝手に自分のコインを賭けるだけで、貴女はそれに付き合ってくれるだけでいいのよ。それに貴女の言う様な勝負事だって、時として運が関係する事だってあるのではない?」
「剣士は相手の筋肉の動きや呼吸、その他相手から発せられる気などを読み取って戦うのです。そこに運などというものが介在する余地はありません。仮に運否天賦で決まるような状況に陥ったとすれば、それは修行が足りなかったからに他なりません。その状況を回避しより有利な状況に持ち込める筈だったのが、実力が至らず“運”などという不確定なものに委ねる羽目になるのですから」
きっぱりと胸を張って言い切る。
妖夢のように刀や剣という得物で敵と対峙し、また相手を斬り時に斬られる感触をその身に覚えることがあるのであれば、自分の生死も敵の生死も、そこまでいかぬ勝敗という形だとしても、それらを“運”の一言で片付けられることほど屈辱的なことはないだろう。
敗者がそれを言えば負け惜しみであり、かつせっかく得られた敗因という最高の教訓をドブに捨ててしまう。勝者がそれを言えば相手に対して侮蔑とも取れる言葉である。勝者と敗者はそこに如何様な余地があろうがなかろうが、単純に強者と弱者でしかないのだ。敗者が死ねばそれはまさに決定的である。
「そっか、受けてくれないんだ。残念だなぁ………」
彼女はところてんのお椀を持って席を立つ。勘定台にまで持っていくのか、箸を無駄にしていたわりには変な所で律儀だ。
ピーーーーン
妖夢の横を通る際にコインをトスした。
軽く握った手の上から、コインが親指で高く高く弾かれて宙を舞う。天井まで届くかと思われたそれはそのすぐ手前で回転しながらも運動を一瞬の間止め、それから落ちてくる。妖夢はそれを目で追ったが、彼女にはハイスピードカメラのようにスローモーションにそれが見えた。
空中を等加速度運動しながらクルクルと回るコインの表裏が見えるほどに。
カンッ
机の上でコインはバウンドした。高い位置から落ちたためか、跳ね上がった2回目の頂点も妖夢の頭の上ほどもある。
「裏です」
最初に舞い上がったコインの回転を凝視し、バウンド後の挙動と高さを観察した結果だ。2度目の落下を始める前にそれらを見切り、結論付けて宣言する。
これは間違いなく彼女の動体視力と観察眼が導き出した、実力による結果である。
ドズッ ゴンッ!
錐のように尖った木の棒が妖夢の喉を刺し貫く。
それが燃えるような痛みに変わるより前に、うなじに激突した彼女の手はその勢いのまま妖夢の頭部を机の上に叩きつけた。
「かはっ! がっ、がぁーがぎごぉ!?!?」
何を? その問いには答えずに彼女は妖夢の横に立ち、腰に水平に挿している白楼剣を抜いた。
そのまま横軸を少しだけ、縦軸はほとんど変えずに前に突き出す。
白楼剣は妖夢の脇腹から脇腹へと彼女の細い体の中を通り過ぎる。
「―――――!!!!!」
今度は声も出なかった。何の反応も出来なかった。喉を貫かれたとき、その苦しさと痛みは反射的に両の手を自分の喉に向けさせてしまった。相手は続けて最小の動作でもって妖夢に止めをさせる行動をとっただけだ。全く静かで淀みなく。
喉下には尖った割り箸の先が突き出して見えている。
割り箸を割ったとき片方が大きく片方が細く尖り、非常に使いづらい失敗のケース。マイナスドライバーのように平たく、斜めに割れた尖端が気道を刺し貫いていた。
喉を刺される時に反応出来なかった時点で勝負はついていた。妖夢は自分を呪う。今までの苦労は一体なんだったのか、今までの訓練は一体なんだったのか、今までの人生は一体なんだったのか。学んできたことも修行したことも無駄になってしまう。
コンマ1秒にも満たない時間であらゆる出来事が脳裏を駆け巡った。なぜさっき反応できなかったのか、私はそういう不意打ちに対する警戒を怠ったつもりはない。その問いは彼女とここで会ってから、彼女のことを、彼女の顔を思い出すことであっさりと解決した。
彼女には殺気がない。闘気も剣気も、人が意思を持って何かを成そうとする時の精神的・肉体的のあらゆる構えや準備、予備動作はおろか、感情すら無いかのようだった。前に会ったときはそんな娘ではなかったのに。感情的で気分屋だけれど素直な方だったのに。
もし彼女の初撃が考える間もなく自分を死に至らしめたとしたら。私は閻魔の前で呆けた顔をしながら【なんか事故かなんかで死んでしまったのではないかと思います。付近で一体何が?】などとのたまっていたかも知れない。
自分は自分のことを殺したいと思っているのかどうかもわからないような奴に殺されてしまう。道端の花を手折るように、何の悪意も無く。
それは自分の人生全てを否定され無価値なものにしてしまうようで、死よりも屈辱的で恐怖でもある絶望そのものだった。
“丁度良かった、貴女と貴女の主の亡霊姫に用があったの。後で訪ねようかと思っていたところよ”
たった一つを思い出した。僅かな時間の中で解けて消え入りそうな心の中、てのひらから零れてゆくその一つをしっかりと掴み取るかのように。
極々小さいタイムラグはあったが、白楼剣は妖夢の迷いを完全に断ち切った。刺し貫かれただけなので断ち切るという言い方は不適切かもしれない。だがそれが良かったのか、彼女の半人半霊としての生命力と目前の敵に立ち向かう心だけは残されている。その上で自分が今まで苦悩してきた全てから開放され、実に清々しい気分がしていた。
腹を刺すこの痛みは知っている。過去に教えてもらったことがあるから。
私は今戦わなければならない。そして、まず勝てない。私は死ぬだろう。
ここぞという時には全てのパワーを集中して、ただ一つの事に注ぎ込む。
自分が何をすべきなのか、何のために戦っているのかを明確に意識する。
妖夢を刺し貫いた彼女はそのまま刃を腹から出そうと水平方向に力をこめる。
妖夢の心理に劇的な変化があったのは僅か1秒、そして彼女はこれから自分の柔らかい腹を撫でる様に切り裂きへそを上下に分断して前から出て行こうとする刃の動きを察知した。
パキンッ―――――
それよりも早く静かに妖夢の両手が刀の刃の僅かにずれた位置をそれぞれ上下から押さえ込み、両の手と刃を飲み込んだ腹の三点で加えた力が一点に集まるように計らう。
そしていかな強敵との戦いでも決して折れなかった伝家の宝刀が折れた。
迷いを断ち霊魂を成仏させる剣。西行寺幽々子を消滅させ得る剣。折れてしまえば霊験は消え去るはずであり、そもそも柄から出ているのは僅かに4寸ばかりなり。これではとても使えない。
この瞬間の為に私は辛い修行を積んできた。
この瞬間の為に私は心を研ぎ澄ませてきた。
この瞬間の為に私は私の人生を生きてきた。
帽子を落としてしまった“僕”はあの後どうなったのだろう。彼にとって帽子はとても大事なものだった。だがあれはただの物でしかない、いずれは忘れてしまえばいい。そうして人は前に進める。
でももし、どうしても忘れることの出来ないものだったら?
大切で大切で、なんとしても失いたくない、どんな事があっても守りたいものだったらどうするのだろう? 失いたくない、守りたい人だったらどうするのだろう?
その答えがわかった。それは一つしかない。
その大切な存在より先に自分がいなくなるしかない。
大切な人の幸福な日々が続くことを信じたまま自分が終わるしかない。
幽々子様が変わらずにいてくれる可能性を留保し続けるために、私は今ここで死ぬしかない。
今まで長年考えてきた問いと悩みが一瞬にして解け、やがて私は死ぬだろう。
喉には箸が突き刺さり腹は白楼剣が貫いている。折る時に力をかけすぎ、刃で両手は血まみれ腹の中も掻き乱されている。
ゴトン チャキンッ ヒュバッ――――――
眼前の少女は剣を折られたことに何の衝撃も感慨も困惑も見せず、握り締めていた手の力を抜きほとんど意味を成さなくなったそれを床に落とした。
妖夢の頭頂部に手を当て強引に前屈みにさせ、背中に背負われている楼観剣の柄に手を伸ばして彼女の上半身越しに素早く抜き去る。突き飛ばすように頭を離して本人は剣を抜き去った勢いのまま右回りにくるりと回転した。刀で空を切りながら一回転し、回転の運動量をも加えて妖夢の体を逆袈裟に切り上げた。
ガタッ 「カハッ―――!」
胴体が斜めに両断され上半分が店の床に落ちる。
彼女は妖夢の頭を跨ぐ様に立った。
私はここ一番の勝負で勝ちましたよ。私は今ようやく一人前になれた気がします。
幽々子様褒めて下さい。妖夢、良くやったわねって、頭を撫でて。
ああ、瞼が重い。途轍もなく眠い。少しお休みを頂きますね。
剣の道は死ぬことと見つけたり
ドスン
楼観剣で後頭部と床を突き貫いた。
「ヒッ―――!」
厨房から店主が戻ってきたらしい。自身の店で起きた惨劇に顔面蒼白となり思考が凍りつく。
彼女は床に落ちていた白楼剣の柄を蹴り上げる。胸の高さまで飛び上がったそれをキャッチし、僅かな予備動作で振りかぶると投擲した。
折れた刃の付け根部分でも素人の人間には致命的だ。白楼剣だったものの一部は店主の左目に突き刺さり彼が声をあげる前に絶命させた。
机の上を見る。
放られたコインは裏面を上に向けて静止している。
彼女はコインを拾うと肘先から分断された左手の掌の上に置いてやった。
彼女は折れた白楼剣にも楼観剣にも興味が無いのか、墓標のように突き立つそれを引き抜かずそのままにして外に出る。
一度店の外に出てから気がついた。彼女は引き返し店に戻ってくる。
店の帳面台には売り上げた品の帳簿が置いてあった。お金はその横の小さな金庫に入れているらしい。
彼女は懐から一万円札を取り出すと帳簿の上に置いた。
そして少しだけ考えた後、もう一万円を出して同様にする。これだけあればところてんの分と割り箸の弁償、そして妖夢の注文した品の分を支払っても十分におつりが来るだろう。
ウンウンと頷いてから再び店を出る。そこらに転がるものをまるで路傍の石のごとく全く気にも留めずに。
偶然にも一連の騒ぎは里の他の人々には聞こえていなかったらしい。彼女は近所を散歩するかのようにゆっくりと歩いてその場を離れた。
遺体が発見されたのはそれから2時間ほど後、丁度昼食時となってここのランチメニューを食べに来た里の常連客によってだった。
胴を斜めに分かたれた半身。その下半分には刀の折れた剣先が体を刺し貫き、上半分はそれより大きな刀で頭部を床に縫い付けられるようにして留められている。大勢の人が集まり誰かが刀を抜いてやり、彼女を仰向けに寝かせてやった。胴と腕の切断面を近づけて横たえようと移動させたとき手の中の硬貨が落ちる。
妖夢の居住いを整えてやった人物はそれを彼女の胸元に置き直してあげた。
額がパックリと割れ血に塗れているのに、まるで本懐を遂げたかのような安らかで幸福そうな顔をしていた。
あとがき
詩のY.S はそのままの引用ですが、無論ゆゆさまじゃなく、作詞者である西條八十さんのイニシャルかと思います。それと白楼剣は魂魄家の者以外はその効果をあらわさないらしいのですが、この話の設定では取られると拙い事にして下さい。
妖夢が最後に開眼した(あるいは知識としては知っていた?)山本常朝の『葉隠』の一文ですが、当の本の解説本は数多く出版されており、その解釈は様々です。
中でも有名な新渡戸稲造の『武士道』は武士が影も形も無くなった時代に諸外国に日本文化を知ってもらうために精神性を高めた、美化して書いた書籍だと著者本人が語っていたそうです。また、その本が逆輸入により日本国内で日本人に読まれ武士そのもののイメージとして引き合いに出されることを困惑したとか。
現在において武士の修行方法や作法、生き様として知られている気高い姿はそのほとんどが江戸時代以降に成立したものだそうです。戦う場所も無いまま一部は役人として仕事もあったでしょうが、それ以外は剣の鍛錬だけつけて藩に召抱えられ少ない給与を与えられるだけで内職をしてその足しにしている。だから武士は武士としての気概が必要だった。
また、彼らが真に活躍していた時代である戦国の世では殺し合いこそ仕事であり、それこそ卑怯で乱暴な手段を取る必要があれば躊躇いなくしたでしょうし、単に無法者で山賊となんら変わらない武士もいたかもしれません。武士のそういう部分は『七人の侍』の野伏せりと集まった侍の対比、あるいは彼ら七人自身の葛藤として印象的に描かれている気がします。
長くなりましたがもう一つだけ。洋をまたいでダグラス・マッカーサーの有名な言葉に「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」というのもあります。
時代と場所は違えど戦時の戦士というものは何かそういう荒々しさと儚さが同居し、また平和な時は虚しい存在として在り続けるのでしょうか。
彼らのように戦えない自分はそういう所に憧れめいた何かを感じます。
最後にマッカーサーが引用したヴォーン・モンローの歌詞を載せ、おそらく最終回となるであろう次回までお待ち頂きたいと思います。
『遠い遠いところに古い調理場がある 俺らは一日に3回、ポーク・アンド・ビーンズを食べる ビーフステーキなんて見たことない 紅茶には砂糖が入ってない
で、俺らは少しずつ消え去っていくのだ 老兵は死なず 死なない、死なない 消え去るのみ
二等兵は毎日ビールを飲むのが好き 伍長は袖章が好き とは彼らが言っていること 軍曹たちは訓練が好き だって奴らはいつもやりたがるじゃないか
だから、俺らは訓練、訓練、いなくなるまで』
マジックフレークス
作品情報
作品集:
22
投稿日時:
2010/12/11 10:05:41
更新日時:
2010/12/12 13:20:37
分類
血と暴力の土地
すべての美しい女
妖夢
しかして急転直下(?)の展開。
やべぇ。超面白ぇ。コレぐらい書きたい。
過去三話の主役の人生観が妖夢へと収束しながら、最後にみんなまとめてあっさり叩きつぶす過程が楽しかったです。
肴はおつまみコーナーで売っていた鶉の煮卵、生ハム風のおつまみロース、
それにKSC製のM9(グリップはホーグ社製2ピースグリップに換装)。
人間の証明を半人前が行なったのですか。
白蓮はあえて外道となることで万人を救う。
アリスは本気を出さない理由を語る。
魔理沙は力を崇拝していると同時にそれを御する知性を持っている。
美鈴と咲夜は戦略的な見地で戦闘を行なう。
そして、妖夢は上記から学習して、見事に幽々子の護衛の任を果たした。
妖夢は何故死ななければならなかったのか?
コイントスの勝負を受けないと言ったにもかかわらず、回答したからか?
ふと思ったのですが、外界の記念硬貨を入手できて、標的と面識があって、
そんな手練の彼女達をいとも簡単に屠れる『彼女』は、
最初に思い浮かべた妖怪の他にまだいたことを思い出しました。
結界を守護する彼女なら…。
幻想郷の重要人物の彼女が何故…?
どうでもいいことか…。
伍長は袖章が好き、か…。
出渕裕さんがデザインする制服にも袖章があったなぁ…。
MS IGLOOの603技術試験隊や劇場版仮面ライダーカブトのZECTの制服とか…。
曹長は産廃のSSが好き、と。
それでは、最終回、楽しみにしています。
なるほど彼女に似合わしい
しかし生死判定の基準がわからない
妖夢が死んだのは運じゃなくて実力でやっちまったから?
ぐぬぬ、気になる
妖夢の死に様はお見事
それまでの全てが収束して何のために強くなろうとしたのかの結果が出ていた
かつ予想外。そうか、白楼剣は確かに霊体には効果抜群だもんな
ここらへんがある人物を連想させる
合ってるか分からんけどだいぶ絞れたんじゃないかな
割箸を何個も割っていたのは(この時点で嫌な予感しかしない)割り損ねの尖った武器を作るため。
環境利用闘法にこだわるのは周囲(読者)に気取られないようにするため、か?