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『厄流し』 作者: sheng
ある雨の日。誰かが山の麓で周りをきょろきょろしているのを見つけた。とても、焦っている風に見えて、それが愉快で――――その人間を見下ろすように私は観察していた。
誰もいないのを確認したのか、おそるおそると獣道を登っていく。何かに執り付かれたかのように、視界をぎょろぎょろさせながら、それでいて登ってくる。
あぁ、いつものように止めなければ。この先に行くと命はありませんよ。と。そう思い立った瞬間にその人は草で足を滑らせた。
摩擦も効かず急斜面。必死に踏ん張ろうとするが悪戯に靴で山の斜面を削るだけの行為。途中の木に背中を殴打してようやく止まったくらいの勢いだった。
口元に手を押さえて、大きく咳き込む姿が見える。呼吸も苦しそうだ。これを機に山に登らないでほしい……そう頭で考えるより先に身体が動いた。ガサリとわざと足音を立ててこちらに気を引いた。その人は当然私の存在を知ることになる。やっと見つけた……という希望の表情が見て取れた。子供のように純粋に誰かに縋る表情が。
あぁ、もう笑いが止まらない。くるりくるりと回りながら私は上へ上へと進んでいく。もちろん一定以上の距離を離さないように、決して視界から消してしまわぬように細心の注意を払いながら。
悲鳴が聞こえる。今度は足場となっていた岩が急に緩み、足の置き場所を無くし片足が変な角度で着地。あの顔の歪み方から捻ったのだろう。それでも片足を引きずりながら私に話しかけようとする。叫びは聞こえるけどそんなものは聞こえないふり。
私の舞いも加速していく。右へ左へゆらりくるり。一回転が二回転へ。喜びの加速が円周運動にも乗り移る。今の私はどんな風に見えるのだろうか。救いの天使かそれとも……うふふ。
悲鳴がいいスパイスだ。私の嗜虐心を加速させる。楽しい。尤も次に聞こえてきたのは悲鳴ではなく呻き声。健全なもう片方の足が河童の罠に嵌まって千切れてしまったらしい。何かを呪うような声。耳が快感に誘われる。それでもまだ這いつくばって私を見つめ続けている。その視線が心地いい。
ここまで着いてくるのは珍しい。余程のことなのだろう。山の中腹。開けた川岸でその人間を待った。息も絶え絶えで片足がなく、それでも引っ込みがつかなかったのだろう。意地というやつらしい。
「よ……うやく会えた……厄神様です……よね?」
「そうよ」
「実は……流してほしい…………厄が………………」
この人からは瘴気のように厄が溢れていた。まるで誰かの厄をそのまま引き受けたかのように。私は身の上話を聞くつもりなんて毛頭なかった。それにもう色々と遅い。
「えぇ、流してあげましょう。ほら」
この人には聞こえていないだろう。もう疲れ果てているだろう。そのためか私の言葉を聞いて嬉しそうに笑った。私も笑った。そしておもむろに指を川の上流の方へ指した。
顔が青ざめている。普段の川の流れの音じゃなく、まるで洪水のように押し寄せる川の波。こちらに顔を向けてくる。先程のようなものじゃなく、邪悪に醜悪にまみれた絶望と悔恨と怨嗟のものを投げて。
ゾクリとする感触、背中に走る快感。頭頂からつま先までにしびれるように伝達される。その時に最高の厄を受け取るのだ。ふと見下ろすともう誰も残っていない。微かに残る血の匂いとこれまでの人間の行動を見て、鍵山雛はくすりと嗤った。
どうも、初投稿です。雛には笑いながら人を絶望に落としてほしいと願うこのごろ。
短いですが読んでくださってありがとうございました。
sheng
- 作品情報
- 作品集:
- 22
- 投稿日時:
- 2010/12/23 13:21:29
- 更新日時:
- 2010/12/23 22:21:29
- 分類
- 鍵山雛
- 短編
でもこんな雛様もいいですねぇ。
まぁだからといって許す理由には成らないんですけどね。
そして文字通り、流されてしまっては、厄から解放されてももう遅い
いいな、ぞくぞくしている雛も