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『黒谷ヤマメの貴重な捕食シーン』 作者: ウナル

黒谷ヤマメの貴重な捕食シーン

作品集: 22 投稿日時: 2010/12/24 12:10:45 更新日時: 2010/12/24 21:10:45
※クリスマスと全然関係ないよ!!





















妖怪の山に大きく口を開ける洞窟がある。
まるで闇を飲み込んでいるかのようなこの洞窟は、遥か地下にある灼熱地獄に繋がる地底界への入り口である。
人々を照らす天の光すら届かぬこの洞窟に、今回の目的の生物がいるのである。
ヒカリゴケの生えた道を進んでいくと、通常の洞窟とはあべこべにだんだんと湿度が下がり、蒸し暑くなっていくのがわかるだろう。
これは地底の灼熱地獄に近づいているためである。
それを示すようにやがて洞窟の奥に穏やかな光が見えてきた。
だが、その希望を遮るように洞窟にきらめく巨大な網が張られていることに冷静な者なら気づくことができるだろう。



何重にも円を描くように張られた白い網。
それを構成するわずかに白みがかった糸は絹よりも細く、少し離れればちょっとやそっとでは見えなくなる。
クモの糸は通常の物でも鋼鉄の五倍の強度とナイロンの二倍の伸縮性を持つ自然界の驚異的生産物である。
その上この糸にかかる獲物は蝶や鳥ではなく、人間や妖怪であることを考えればこの巣の強度が想像できるだろう。



見上げるほどの洞窟に巣は張る者とは一体どんな生物なのだろう。
今、巣に引っかかった哀れな獲物が現れた。




「くそっ! なんでこんなもんが道に張ってあるのよ!? ああもう! 離しなさいよ!!」




紅白の巫女服を着た少女、博麗霊夢だ。
異変解決にでも来たのか、払い棒を振り回しながらクモの糸を切らんと暴れている。
だが、その行為こそが巣の主を呼ぶ合図となっていることを彼女は知らないのだろう。




「……………」




今、糸を伝わる振動を感じ取り、この巣の主が姿を現した。
金髪の髪。赤茶色のリボン。腹部の膨らんだ服。
左右八本の足を器用に動かし、糸の道を歩くのは今となっては希少となった妖怪・土蜘蛛である。
クモ型の妖怪としては最大級の大きさを誇る土蜘蛛は一般的には人間大、個体によっては二メートルを越える大きさを持つ。
その特徴は顔の造形で、鬼の形相と言われる醜悪な顔が土蜘蛛には必ず存在する。
巨木で作られたような彫りの深い顔つきに口に備えられた巨大な牙。その口が開かれ、人を捕食する様は多くの資料に恐怖の代名詞として記述されている。
ただし、巣を張らず人里を徘徊する徘徊性の土蜘蛛もおり、その場合には美しい少女の姿を取る。その姿に惑わされた人間は、あたかも巣に囚われたように土蜘蛛に捕食されるのだ。
ヤマメという名で親しまれるこの土蜘蛛は、毒々しい黄と茶の腹を見せながら巣の上を滑るように移動し始めた。
目指すは巣の上で暴れる紅白の巫女だ。




「ちょっ!? な、なによあんた!! 私に指先一つ触れてみなさい! ぶち殺すわよ!!」




ヤマメはすぐには襲い掛からない。
今は獲物の方も余力があり、巣から逃げ出さんと暴れているためだ。
人の首を軽く跳ね飛ばす力を持つ土蜘蛛だが、その狩りの仕方は非常に慎重だ。
獲物である人間や妖怪も身を守るため弾幕などの武器を駆使し、自分を倒さんとすることをヤマメは熟知しているのだ。




「――ッこのっ!!」




パッ、と眩い光が洞窟を照らした。紅白の巫女が弾幕を放ったのだ。
瞬間、ヤマメは目にも止まらぬ速度で逆走し、自らの寝床へと引っ込んだ。
その八本の足を糸にぴたりとつけ、じっと霊夢の様子をうかがっている。
しかし、警戒の必要なないようだった。
自機である博麗霊夢の弾幕は前にしか飛ばないのだ。
蜘蛛の巣に背面を取られた今、弾幕は虚しく洞窟の中へ消えていくだけなのである。



ヤマメは霊夢の様子に危険性なしと判断したのか、再びそろそろと近づいていく。
それを感じた霊夢は自由にならない身体を必死に動かし、巣から抜け出そうとする。
だが、もがけばもがくほど粘着性の糸が全身に絡みつき、その自由を奪っていく。
遂にヤマメは霊夢に足が届くほどの距離に近づいた。
だが、いきなり食いつくような真似はしない。
ヤマメはその体毛を震わしその口から薄暗い靄のようなモノを吐き出し始めた。



これは“病気を操る程度の能力”によって作られた病風だ。
土蜘蛛はまず相手を自身の能力によって弱らせ、その後に捕食を始める。
主に感染させられるのは熱病の一種である。この熱病にかかった者は数時間のうちに体力も気力も奪われ、抵抗の力を失わされるのだ。
これは巣を張らず歩き回る時でも同等で、中には数ヶ月もの間土蜘蛛に病気にさせられ続けたという記録もある。
最もヤマメはそれまでを悠長に待つつもりは無いようだ。




「ぐ……く、くそぉ……っ」




病風を受けた巫女はぴくりと身体を震わせたかと思うと、顔を赤く染め、息を荒げ始めた。
すでに意識が朦朧とし始めたのか、瞳の焦点が合わなくなり、ぐらぐらと身体を揺らし始めている。
その姿を確認し頃合いと見たのか、ヤマメは巫女の元へと歩み寄った。
くい、と腹を見せるように腹部を動かすと腹部後部にある出糸突起から大量の糸が噴き出した。
ヤマメは八本の足を忙しなく動かし、あっという間に霊夢を糸で巻き上げてしまう。




「ふ……! ぶ……ぅ!」




まるでエジプトのミイラのような状態だ。
こうなってしまっては、息をすることもままならないだろう。
細かい糸の隙間から霊夢の荒い呼吸音が聞こえてくる。
だが、それを気にする必要はもうない。
ヤマメが糸の隙間から毒牙を霊夢の首に突き立てたからだ。




「ぎ……っ?」




糸のミイラがびくっと身を震わせた。
よくよく観察すれば、ヤマメの牙から蜂蜜色の液体が注がれていることがわかる。
これは土蜘蛛の消化液である。
体外消化を行う土蜘蛛は対象をこの消化液で溶かした後で体液を啜るのである。




「あ……あががががっ!!」




びくびくと痙攣を繰り返す霊夢。
そう。彼女はまだ生きているのだ。
病風に犯され糸で巻かれても、彼女にはまだ致命傷になり得る傷を与えられていない。
意識もはっきりとしていながら、生きながらに体内を溶かされていく。
その苦痛は計り知れない。
クモの糸に巻かれその表情は窺い知れないが、恐らくはこの世のものとは思えない苦悶の表情を浮かべていることだろう。


その間にもヤマメは次々と消化液を注ぎ込んでいく。
ハリのあった霊夢の肩口は溶けた内容物で萎んだ風船のようにシワだらけになっている。
蜂蜜色の消化液は霊夢の血肉を溶かし、肉色へと変わっている。




じゅる……じゅぅ……じゅるじゅる…………。




霊夢の肉がヤマメに吸われていく。
肉色の汁を啜り、ヤマメの口に肌色の紅が引かれた。
どうやら今はそれほど腹を空かせていなかったようだ。
それは霊夢にとって不幸としか言えない。




「ぅ……はぁ…………」




再び、ヤマメの牙が霊夢に突き立てられた。
だが今回霊夢に注ぎ込まれるのは消化液ではない。神経性の毒である。
土蜘蛛は食料を保存する際、毒を注ぎ込み仮死状態にすることで知られている。
これにより長期的な食料の保存が可能となるのだ。
ヤマメが巣を張っている地底界への道は乾燥・低温であるため有機物の保存には適しており、一週間程度の保存が可能と言われている。


ぶちぶちとミイラとなった霊夢を巣から外し、ヤマメはそれを背負って寝床へと戻っていった。
霊夢は数日をかけてじっくりとヤマメに捕食されていくだろう。





三日後、再びヤマメの巣を覗いた時、そこにはたぶたぶと人皮となった巫女の姿が残されていた。
体内の骨格と皮により辛うじて人物の判別が出来る程度に残された死骸。
糸の衣に包まれぶらぶらと風に振られるそれを、ヤマメは網から外し、洞窟の底へと投げ捨てる。
軽い音を立てて霊夢は地底の底へと落ちて行った。
同じようにヤマメに捕食された者たちの山へと霊夢は仲間入りをした。
後は風と微生物によって塵となるだけだ。





ヤマメは満足そうに瞳を閉じて、寝床に転がった。
次の獲物が網にかかるまで、こうして眠り続ける。



もしもあなたが暗い洞窟の中を進むことがあるならば、土蜘蛛には十分ご注意を。

















【土蜘蛛】
節足妖怪目蜘蛛妖怪科
体長:1〜2メートル
体重:100〜200キログラム
生息地:洞窟や遺跡、人里
能力:病気を操る程度の能力
 蜘蛛妖怪科最大種であり、人や妖怪にも被害を出す極めて獰猛な妖怪。
 肉食性であり特に人肉を好む。
 腹に赤と茶の縞を持つ。牙には神経毒を持ち、病気を操る能力と合わせて相手を捕食する。
 巨大な巣を製作する《造網性》の固体と巣を張らず動き回る《徘徊性》の固体が存在する。徘徊性の固体は美しい女の姿を取り相手を誘惑する。
 春先にかけて繁殖期となり、十数〜数十の卵を産む。体内で生まれた子どもを育てることで知られ、大きい時には二十を越える小蜘蛛を体内で育てる。
どうもウナルです。
クリスマスだというのに空気を読まずに全然関係ないSSを投稿しました。
ポケモン図鑑みたいなのを東方でも作るべきですよね、妖怪図鑑みたいなの。
ウナル
http://blackmanta200.x.fc2.com/
作品情報
作品集:
22
投稿日時:
2010/12/24 12:10:45
更新日時:
2010/12/24 21:10:45
分類
黒谷ヤマメ
観察系
グロ注意
1. 名無し ■2010/12/24 21:19:25
図鑑も何も求聞史記があるじゃないですか。
2. 紅のカリスマ ■2010/12/24 21:22:06
これは素敵なヤマメちゃん。
ずっと捕食シーンを観察していたいです。
3. 名無し ■2010/12/24 22:24:38
黒谷ヤマメの貴重な捕食シーンだと・・・?

許せるっ!
4. NutsIn先任曹長 ■2010/12/25 00:15:44
よくも霊夢を殺りやがったな!!
私の7.92mm口径の卵は、ちとキツイぞ!!
私?私は狩り蜂。ハンターキラー。
5. 名無し ■2010/12/25 19:46:33
敗北ネタは一番好きな内容
設定上絶対負けそうにないキャラほど面白い
6. 名無し ■2010/12/26 01:38:39
まさにこれは捕食者してたな
自分は危険に飛び込まず、相手をひたすら弱らせ、その上一気には食いきらない
勝つのではなく、食べる者ならでは
7. 名無し ■2010/12/26 21:34:33
こんな恐ろしい所に単独で人間を突っ込ませた紫はごめんなさいしないといけないね。
8. sako ■2010/12/27 21:13:06
ちゅうちゅうされる霊夢かわゆいっ!
神経毒を注入され身動きがとれず更に五感さえも麻痺した霊夢は全身麻痺患者と同じようになり、いつしか激痛とはいえ自分に感覚を与えてくれるやまめを焦がれる様になり…読後も美味しく頂けるSSでしたっ。
9. イル・プリンチベ ■2010/12/29 13:12:06
ヤマメさんに食われる霊夢ざまあでメシウマだ
10. ウナル ■2010/12/29 15:04:00
コメントありがとうございます!
予想外の好評で嬉しい限りです!

>>1 求聞史記とは少し違うんですよ。もっとこう、淡々として生物学的なのがいいのです
>>2 自然はいい
>>3 うふふ
>>4 がっぷりよっつ
>>5 霊夢は設定に沿うと殺せませんからねえ。殺せるときに殺しておきましょう
>>6 それが観察系の醍醐味です
>>7 責任をとってゆかりんもここに行くべきですね
>>8 そう言ってもらえるとなによりです♪
>>9 霊夢人気ねえなあw
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