青い妖精と紅い花

チルノは逃げる　ひたすら逃げる

森の中を　湖の上を

丘を越え　川を越え　町を抜け

チルノは逃げる　ただただ逃げる




チルノはぶつかる　太い木の枝に

チルノは落ちる　太い木の根に

チルノの口に入るものは冷たい泥

チルノの手に触れるものは緑の苔

チルノはもがく　がむしゃらにもがく

チルノが手につかむは茨のとげ

チルノが足を打ちつけるはとがった石




息を切らし　顔を拭い

チルノの目に映るのは

かごを担ぎ　蓑を被り

醜い悪鬼の醜い形相




青い少女の青い体

助けを請うよう震えている

小さな少女の小さな口は

声無き謝罪に震えてる




鬼の目には涙なし

鬼の手には鉈があり

鬼の心に慈悲はなし

鬼の前には少女あり

鬼は何も躊躇無く

鉈を少女に振り下ろす




ああ　闇を切り裂くは少女の金切り声

ああ　咲き乱れるは紅の花

幹に

苔に

泥に

茨に

青き少女の服に髪に

すべてが枯れ果て死に絶える季節に

おおよそ似つかぬ紅の花が

大小散り散りに咲き乱れた




少女の叫びは苦痛の叫びか

少女の叫びは恐怖の叫びか

少女の叫びは謝罪の叫びか

誰もそれを知りはせぬ




少女の叫び尽き果てると

悪鬼は自らの体に咲き誇る紅の花を

その歪み曲がった灰色の手に飾る

その醜く歪んだ紅い花束は

恐怖の内に死した少女へのせめてもの弔いか




醜い悪鬼は醜い肉塊を

かつて青い少女だった赤黒い肉体を

かごへ放り込んでゆく

一つ

また一つ

もう一つ

鬼の口から言葉が漏れる

これが罰だと

これが償いだと

鬼は聞きなれぬ異国の言葉で

言い訳を二三もらした後

ささやかな紅き花畑に背を向けて

どこぞへともなく去っていった




紅い花園に雪が降る

狂気の紅を静寂の白で染めるように

紅い花園に雪が降る

醜い現世が黄泉の国に飲まれるように





Frohe Weihnachten.