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『神聖モコモコ王国 act9』 作者: 木質
登場人物
妹紅:不死身が取り得の元気な子。輝夜を殺したくてしょうがない
慧音:寺子屋の教師 兼 妹紅の保護者。里の中で彼女を慕う者は多い
天子:不良天人。彼女の持つ緋想の剣はエクスカリバーの如く地面に突き刺さっており、選ばれた者しか抜けない仕様になっていたが
重機業者を呼んでクレーンとユンボで無理矢理引っこ抜いた過去がある。かつてロシアンルーレットで対決した妹紅とは友人関係
鈴仙:永遠亭のヒエラルキーの中で最下層に位置する兎。月ではエリートで軍隊戦術などの高等訓練を受けていたが、幻想郷ではそれの活躍の場がまったく無い
【 ホームアローン 】
里で急患が出て、患者を永遠亭まで運んだ帰り道のことだった
「間に合って本当に良かった」
慧音は安堵し胸を撫で下ろしていた。迅速に永遠亭に運ばれたおかげで患者は一命を取り留めた
「お手柄だぞ妹紅。お前のガイドがなかったら、危なかったそうだ」
「くそー行ったついでに輝夜をモッ殺しとけば良かったモコ」
その時である
「うらめしや〜〜〜〜」
竹林を歩いている二人の前に、茂みの中から多々良小傘が飛び出してきた
目的は相手を驚かせて、自身の腹を満たすためである
「・・・・・・ッ!? ッ!? ッ!?」
「妹紅?」
小傘を見た妹紅は瞳孔が限界まで開いていた
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
叫ぶと同時に跳び上がり、その場にへたりこんだ
「おどろけー! おどろけー!」
傘をガサガサと振った。慧音にとって幼稚な脅しに見えたそれは、妹紅にとって効果てき面だった
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「やった、びっくりしてる! びっくりしてる!!」
久しぶりに驚いてくれる相手が見つかったため、小傘は驚かせる相手を妹紅に絞った
「ベロベロバー! ベロベロバー!」
「死んだああああああああああああああああああ!! なんかもう死んだああああああああああああああああああああああああああああ!!」
泣き出した妹紅は慧音の背後に身を隠し、彼女の背中に顔を埋めて震え出した
「怖ええモコォォォ!! けーね! そいつモッ殺せモコ! 冬のナマズみたいに大人しくさせるモコ!!」
「・・・・・・・」
尋常ではない妹紅の混乱っぷりに、驚かせた張本人まで面食らってしまい、次第に罪悪感が沸いて来る
「えーとその子、大丈夫?」
思わず気遣いの声をかけてしまう
「ああ。しばらくしたら落ち着くと思う」
「けーねぇ! けーねぇ!!」
慧音は右手で妹紅を撫でながら、左手を軽く手を振って小傘にその場から離れてくれるようにお願いする
「うん。わかった」
小傘はそれに同意し、物音を立てぬよう、細心の注意を払いながら小傘はその場からソッと離れた
「もう居なくなったぞ」
「これで安心して見たら、目の前にいるってオチじゃねーモコか?」
「なんでそうなる」
そんなやり取りが続き、妹紅が顔を上げたのはそれから10分後のことである
次の日
人里の往来の中を妹紅と慧音は歩いていた
「あの傘は恐らく、妹紅が過去にモッ殺した岩笠が妖怪化した姿モコ」
「違うと思うぞ。というかお前、持ってた傘の方にビビってたのか?」
「近日中にはヤツを始末して、過去と決別をせねばならんモコ」
往来は人妖で賑わい、中心部へ向かうほどその人数は増していく
「しかしヤツのお陰で新たな輝夜抹殺計画を思いついたモコ。輝夜の精神を抹殺し、永久に呼吸するだけの人形にする悪魔の計画モコ」
「なにか具体な方法は考えてるのか?」
「ビックリさせて、それで精神を粉微塵に粉砕するモコ」
「なんか発想が可愛いな」
「よせやい。照れるモコ」
途中、大きな人だかりを見つけて二人は足を止めた
「なにモコか?」
人だかりの中心には、顔に奇抜なメイクをした者がいた
「ダークナイトのジョーカーが幻想郷入りしたモコか? だとしたらやべえモコ、テロ起きまくりモコ」
「違う。あれは大道芸師だ。ビエロってやつだな」
ピエロはナイフでジャグリングをしたり、椅子を積み上げた不安定な足場でのアクロバットをして観客を楽しませていた
「そうか。今日からここの店が開店するから、芸人を雇って人を集めているのか」
人里で新しい店がオープンする場合、その店主が大道芸人を雇ったりして店の宣伝しているところがある
「そういえばこの前、プリズムリバー三姉妹がチンドン屋をやってここの広告を配っていたな」
二人が会話している間にも、ピエロはパントマイムをしたり、バルーンで動物を作って子供に配ったりと観客を飽きさせることはない
「妹紅は人を驚かせるのがあんまり得意じゃないから、ああいうヤツが今回の計画に欲しいモコ」
「私はお前の行動にいつも驚かされているわけだが?」
演目も佳境に入り、ピエロは長いサーベルを取り出し飲み込み始めていた
「えらく多芸なピエロだな。相当熟練された・・・・・・ん?」
サーベルを呑む彼の前に、一人の少女が近づいた
少女は先ほどジャグリングで使われていたナイフを手に取ると、おもむろにそれを食べ始めた
板チョコでも食べるかのようにバリバリと齧っていき、その刃はすべて彼女の腹に収まった
「・・・・・・・」
その場にいた全員が唖然としている中、彼女は自分の腹を殴った
「オエッ」
まるで水を吐くマーライオンのような勢いで、飲み込んだ刃物を吐き出していく
唾液と胃液に塗れた刃物の破片が、足元にジャラジャラと溜まっていった
「秘技。人間ポンプfeat刃物」
吐き出した口元の拭い、少女=比那名居天子はそう宣言した。頑丈な体を持つ天人だから出来る荒業である
全員、時が止まったかのように驚愕の表情のまま固まっていた
「人々をビックリさせたいのなら、これくらいやりなさいよクラウン(道化師)さん」
そう言って彼に一瞥すると踵を返す。その顔は勝者の風貌であった
「フッ」
「なにが『フッ』だ!!」
踵を返した直後の天子に慧音は渾身のラリアットを打った
「ごへっ!」
体を空中で回転させて後頭部から地面に落下する天子
「げ、慧音!」
「おい地子。そうやって人にちょっかいを掛ける癖を治せと何度言えばわかるんだ」
「昔の名前で呼ぶなクソ先公!」
「お前が天人になろうが、私の元教え子の『地子』であることに変わりない」
腕を組み、毅然とした態度で言い放つ慧音
「それよりも見ろ。お前のせいで芸人さんが自信無くして凹んでるじゃないか!」
ピエロはその場でしゃがみこみ顔を押さえて微動だにしない
「這い上がって来なさい。その絶望から」
「教育的指導」
慧音の頭突きが彼女の額にクリーンヒットした
「がはっ・・・てかなんで痛い!?」
天人になっても、慧音の頭突きの痛みは昔と変わらなかった
「私の頭突きは体ではなく心に響くからだ」
「いや、どう考えても物理的に痛いし」
痛む額を擦っていると。突然、妹紅が動いた
「おいテンコぉぉぉぉぉ!!」
妹紅は拳を振り上げ、天子に殴りかかってきた
「どいつもこいつも間違えんな! 私は“てんし”だ!!」
クロスする拳と拳。頬に拳をめり込ませたままの体勢で、お互いに固まる
しばらくそのままで時が流れ、やがて二人は拳を引いた
「なるほど『自分が過去に殺した男が傘妖怪になって現れた』と?」
「そうモコ」
「そして『憎っくき仇。輝夜を驚かせまくって精神を破壊したい』というわけね」
「お前とは話が早くて助かるモコ」
「ちょっと待て」
二人のやりとりを見て、慧音は思い切り首を傾けた
「今のやりとりで何故そこまでわかる?」
「けーね、もしかして拳で語り合う仲ってのを知らないモコか?」
「知らないで教師やってるなんてお笑いね」
「そんな肉体言語。初めて見たぞ」
「「プッ」」
二人は肩を組み、慧音を鼻で笑った
(なんか腹立つな)
「して天子、相手を驚かせるのは得意モコか?」
「得意というか大好きね」
「これからビックリさせたい奴がいるから手伝えモコ」
「暇だから付き合うわ。面白そうだし」
「おいコラ、まだ話は・・・」
「もどり玉のエフェクト発動!」
天子は帽子から桃を千切り地面に叩きつけると辺りが煙に包まれた
「くそっ煙玉かっ」
『ふっふっふ。これでもう私たちを追うことは・・・・・・・ゴホッ、ゴホッ・・・・・やべ、至近距離でモロに煙吸った・・・・・・・ゴホゴホッ』
「・・・・・・」
なんやかんやで慧音を巻いた二人は命蓮寺を訪れる
「ここで良くあの傘お化けが目撃されてるらしいモコ。永遠亭に行く前に後顧の憂いを絶つモコ」
二人は寺の本堂の入り口を覗き込んだ
「見つかりそうですか?」
「うーん、このあたりから反応はあるのだけど」
本堂の中を寅丸星とナズリーンはグルグルと徘徊していた
「宝塔を失くしたのは、これで何度目になるんだい?」
「面目ないです」
「まあ、今回は近場なのがせめてもの救いだよ。しかし妙だな、ずっとダウジングロッドが反応しているのに、何も出てこない」
「それはまた変ですね・・・・・おや」
「どうしたご主人? ああ、来客か」
ナズーリンも星が見ていたものに気付いた
「入り口で立ち話もなんですから、どうぞおあがりください」
柔らかい笑みで、星は二人を招く
「うっ・・・・えっぐ」
何故か突然天子が泣き始めた
「うおっ。どうしたモコか?」
「グスッ・・・・・・・だってさ、『おあがりください』なんて温かい言葉貰ったの久しぶりで」
嗚咽交じりに天子は理由を話し出した
「私、昔から悪ガキだったから、友達の家にお呼ばれしたことなくて、それで良い子になろうと頑張ったこともあったけど、周りが認めてくれなくて、結局それで余計にグレちゃって・・・・」
「そうだったのですか。辛い幼少期を過ごしたのですね」
星が彼女に手を差し伸べた瞬間、天子の目がギラリと光った
「マッハ突き!!」
「ごふっ」
高速の正拳突きが星の胸に突き刺さる
「相手にとって予想外の行動を取る。これが“驚かせる基本”よ」
「なるほどモコ」
天子は妹紅の前で実演してみせた
「ご主人! しっかり!」
「すみません、ナズーリン。私はどうやらここま・・・・・・あれ? 痛くない?」
突きを受けた箇所に手を当てると、なにやら固い物に当たった
「これは宝塔。宝塔が私を守ってくれた。ありがとう毘沙門天様」
「ウオオオおおおおおおおおおおおおおおいい!!?」
ナズーリンが一番驚いていた
「思いっきり先端が曲がってる」
「この程度なら三日も放置しとけば直りますよ」
「直るって・・・・宝塔にはナノマシンでも組み込まれてるのかい?」
とりあえず宝塔の無事を確認できたので、ナズーリンは二人を見る
「いきなり殴りかかってきて。君たち何をしにここへ来たんだ? 喧嘩でもふっかけに来たのか?」
「輝夜以外と喧嘩する気はねーモコ。ちょっと妖怪探しモコ。傘オバケがここに良く来ると耳に挟んだモコ」
「傘オバケというと、小傘のことかな?」
「多分そいつモコ。ヤツは今どこにいるモコ?」
「どこって、それは・・・」
妹紅の背後を指差した
「君の後ろだが?」
「うおおおおおおおお!!」
慌てて振り向き入り口を見るがそこには誰もいない
「すまない。ジョークだ」
宝塔を殴ったことへのささやかな仕返しだった
「て、てめえ・・・ビックリさせんな・・・」
「こんにちは〜白蓮さんいる?」
安堵した瞬間に、ひょっこり小傘が顔を出した
「いやぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
靴を履いたまま本堂に駆け上がり、壁に体を密着して体を丸める
「安心させてからまた驚かせるなんて、尼寺の人なのにエゲつないことするわね」
阿修羅でも見るかのような目で天子はナズーリンを見ていた
「あ、いや違う。私がジョークを言った瞬間に彼女が・・・」
必死に弁解する。ナズーリンの言う通り、冗談を言ったあとに小傘が本当にやってきたのだった
「しかし、こんなのが本当に怖いわけ?」
天子は小傘の体を首を眺める。自然と目は彼女が持つ傘に移った
「これかな? ちょっと貸して」
「え、駄目だよ。この唐傘は大事な・・・」
「当て身」
「ぎゃん」
天子の手刀が小傘の首筋に当たる
気を失った小傘から唐傘を奪い妹紅に近づく
「これが怖いの?」
傘を近づけてバザバザと動かした
「アオオオオ!!」
神父に十字架をかざされた怨霊のように、悶え苦しむ妹紅
その反応を面白く思った天子は悪ノリを始めた
「うりうり〜〜」
「ぎゃあああああああ!!」
傘に付属している舌で妹紅を舐めまわす
「その辺にしてはどうでしょうか? 彼女真剣に嫌がってますよ?」
「そうだ。止めたまえ」
星とナズーリンが傘を取り上げようとしたときだった
「ヴォ、ヴォ、ヴォ・・・・・ヴォルケイノ!!」
妹紅は獣のような速さで壁を跳ね、天井を蹴り傘を持つ天子の横を一瞬で通り過ぎた
天子の頬が裂け、真っ赤な血が流れる
「フシィィャアアアアアアアアアア!!」
四つんばいになり、歯を剥き出しにして三人を威嚇する
彼女の瞳は金色に染まっていた
「コイツ先祖返りしてる! 怖ッ!!」
「いわんこっちゃない! あんなにも追い詰めるからだ。窮鼠猫を噛むって言葉を知らないのか!」
「窮鼠ですか?」
「え、窮鼠?」
窮鼠発言をしたナズーリンを見て何か言いたげな表情の二人
「今はそういうのいいから!」
そんなやり取りの最中、妹紅は四足で床を蹴り、目にも止まらぬ速さで跳ねた
「しまった!」
天子からあっさりと傘を掠め取り、奪った傘を床に叩きつけ馬乗りになって殴りはじめた
「モコモコモコモコ!!」
傘は妹紅の手によって表面がだんだんと剥がされていく
「まずい、小傘さんの傘が!」
三人で妹紅を止めにかかる
星が右腕を、天子が左腕をロックした
「くっ、なんて力なのよコイツっ!」
「押さえるので精一杯です。ナズーリン! 構いません、私たちごと彼女を・・・」
「どりゃああああああ!!」
「もう突っ込んできてた!」
星が言い終わる前に、すでにナズーリンは助走をつけて飛び上がっていた
「せいやぁ!!」
密着する三人に体重の乗ったとび蹴りをかました
「ハッ、妹紅は一体なにを・・・・おおっ!」
自分の足元に、自身を脅かした恐怖の権化の残骸が落ちているのに気付いた
「誰がやったかは知らんが、これで過去と決別を果たしたモコ。おい、天子、起きるモコ」
自分の横で倒れている天子を揺する。
「んん〜〜ここは?」
「ファーストフェイズを完遂したモコ。これよりラストミッションに移るモコ」
―――― モコモコ王国特殊部隊 『多々良塚 過激団(たたらづか かげきだん)』 ――――
妹紅を脅かした宿敵である多々良小傘にちなんでこの名がつけられた
輝夜を驚かせることを最初にして最終の目的としており、それ以外にはわき目も振らずに突貫する
そんな彼女らは自らをエクスペンタブルズ(消耗品部隊)と呼ぶ
―――― モコモコ王国特殊部隊 『多々良塚 過激団(たたらづか かげきだん)』 ――――
妹紅と天子が寺を飛び出した時。小傘、星、ナズーリンは本堂の裏で傘を修理していた
「直りそう?」
「幸い、骨は折れてないようだし。破れた表面の紙を張替えればなんとかなりそうだね」
「そしてそこに宝塔の力を加えれば」
星は宝塔を傘の上に置いた
「大丈夫なのかいソレは?」
日も沈みかけ、永遠亭は長い長い影に包まれようとしていた
「よし、今日の分は終わりっと」
鈴仙は診察室の椅子に座った姿勢のまま、大きく伸びをした
永琳はこの日不在であった。輝夜と共に里に出かけ一泊して明日の朝こちらに戻る予定になっている
「てゐも『付いていった方が楽しそう』なんて言って一緒に行っちゃったし・・・・・今頃は三人で美味しいものでも食べてるのかなぁ」
彼女の立ち回りの良さを羨みつつ、気だるそうに机に突っ伏した
「なんか最近、上手くいかないなー」
仕事で大きな失敗こそないが、小さなミスを繰り返し永琳に叱られ、そのことをてゐにからかわれる日が続いていた
「色々と溜まってるのかなぁ? 心労とか、ストレスとか・・・」
今日、何度目になるかわからない深い深いため息をついた
「思いっきり暴れたら。少しはマシにならないかなー・・・・・なんてね、ふふふ」
出来もしないことを口に出して、自嘲気味に笑った
「もう今日は早く寝よう」
診療所を閉める準備を始めようとしたときだった
「ん?」
彼女の長い耳が不穏な音を捉えた
「なにかしら?」
目を細め、波長を操作し広範囲を索敵する
「誰がが近づいてきてる・・・・数は二つ」
高性能レーダーとなったそれは二つの生命体を察知した
窓から外に出て一歩跳躍して屋根に登り、目のピントを極限まで絞った
「あれって妹紅よね? もう一人は、あの天人?」
桃のついた帽子に手に携えた緋想の剣、比那名居天子のそれであった
「どう見ても殺る気満々じゃない」
なぜ天子が妹紅とつるんでいるのかは、この際どうだって良かった
「今、永遠亭にいるのは・・・・・戦えるのは私しか」
自分がかつてない窮地にいることを理解する
地面に降り診察室に戻ると、机の引き出しから鍵を取り出し廊下に飛び出した
兎たちを安全な場所に避難するように命令しながら、貴重な道具が保管されている倉庫の前にやってくる
鍵を開けて中に入ると鈴仙は一番奥の場所を目指した
(あいつ等に対抗するにはこれしか)
銃火器、宇宙服、宇宙船のパーツ、その他用途のわからない金属類。等々
そこには月に関係するものがずらりと並んでいた
その中で戦闘に使えそうなものを次々に掴んで鞄に詰め込み、鞄が満杯になると担げるものは担ぎ、小さな物はポケットに収納していく
(すみません姫、師匠。少しだけ永遠亭を荒らします)
心の中で詫びて、鈴仙は迎撃すべく走り出した
久しぶりに握った銃の冷たさが、彼女に月で過ごした厳しい訓練の日々を想起させていた
輝夜を驚かせるべくやって来た二人は、永遠亭まで残り200mほどの距離に差し掛かったところで攻撃を受けた
「うわモコっ!」
妹紅の眉間に穴が空いた
(よし。狙撃の勘は鈍ってない)
永遠亭の屋根には、身を伏せて狙撃用のライフルを構える姿の鈴仙の姿があった
(これに驚いて退いてくれると良いんだけど)
リザレクションした妹紅は起き上がってあたりを見渡した
「畜生っ! スナイプされたモコ」
「だっせ。狙撃されてやんの! ちょーウケるんですけど」
「てめえだって、桃に当たってるモコ!」
「ウソ? マジ?」
慌てて帽子を外す
(もらった)
無防備になった天子の頭をスコープの中心に入れて引き金を引く
「おぎゃ!!」
フライパンとお玉をぶつけた時のような音がした。鈴仙のヘッドショットを受けて仰け反る
(流石は天人。固いわね・・・・・なら)
連続で引き金を引いた
「いだだだだだだ、連射してきた!!」
「こっち来んなモコ!」
二人は竹林の茂みの中に飛び込み、身を隠した
狙撃が止み、二人は茂みから永遠亭の様子を窺う
「とりあえず今は安全だけど、ここにずっと隠れてても埒が明かないわね」
「モコ」
「1・2・3で突入するわよ。二手に分かれればどちらかは狙われないわ。撃たれなかった方が狙撃手を叩く」
「了解モコ」
静かに目配せをしてから数を数える
「1」
「2」
「3」
「・・・・・」
「・・・・・」
「行けよ!」
「てめえが行けモコ!」
ギャアギャアと喚く二人をスコープに納めながら鈴仙は銃に弾丸を補充していた
(膠着状態になったけど、これが師匠たちが帰ってくるまで続くわけないし)
手探りで鞄をあける
(これを使うか)
その手には野球のボールほどの大きさの鉄の玉が握られていた
言い合いを終えた天子と妹紅は、現状の打開策を真剣に考えはじめていた
「おい天子、この状況なんとかならんモコか? これじゃあ多々良塚過激団の本懐を達成できないモコ」
「も〜〜しょうがないなー、モコ太くんは」
「地子えもん、なんか良い方法があるモコか?」
「テレテッテレー。か゛〜な゛〜め゛〜い゛し゛〜〜♪」(だみ声)
上半身がすっぽり隠れてしまう大きさの要石を目の前に出現させた
(あいつら・・・・)
スコープを覗き込む鈴仙は歯噛みした
「「うおおおおおおおおおお!!」」
妹紅と天子の二人は協力して要石を持ち上げ、それを盾にしながら突っ込んで来ていた
(くそっ)
鈴仙が放った弾丸が何発も命中するが石はビクともしない
進撃は続き、すでに永遠亭まで残り50mほどの距離であった
(撃っても駄目なら)
鈴仙は銃口を要石にではなく、道の脇に向けて引き金に指をかけた
「わわっ!」
「うおモコっ!」
二人が同時に転ぶ。道に倒れている竹に足を引っ掛けたのだ
「竹? さっきまで転がってなかったのに?」
「スナイパーの野郎。やりやがったモコ!」
竹の根元には不自然に空いた穴がいくつもあった
要石に撃っても無駄だと判断した鈴仙は、道の端に生えていた一本の竹に狙いを定め、妹紅と天子の進行方向に倒れるよう計算してその根元を撃っていた
「ん? 今、上から変なマツボックリが落ちてきた」
空から降ってきた‘ソレ’を天子は拾う
「テンコ! それマツボックリやない! パイナップル(手榴弾)モコ!!」
「えッ!」
拾った物の正体に気付き、驚愕する
「どうしよこれ・・・・・どうしよこれ・・・・・・妹紅にパス!」
「おがゃあああああああああああああああああああ!!」
妹紅は自分に向かって放られたそれを脊髄反射で蹴り飛ばした
蹴飛ばした方向は偶然にも鈴仙が陣取る屋根の方向だった
(嘘っ!? 投げ返してきた!!)
空中に舞う手榴弾にろくに標準を合わせもせずに引き金を何度も引く
(当たれっ)
一発があたり、空中で手榴弾は爆発した。周囲が強烈な閃光に包まれる
「うぅ・・・」
咄嗟に目を瞑ったため、幸い妹紅と天子の目は光で潰れていなかった。破片の被害もない
「狙撃手もどっか行っちゃたわね」
屋根の上に、鈴仙の姿は無かった
「まあイイモコ。さっさと輝夜をビックリさせて、やつの度肝を抜いて代わりに砂肝を移植してやるモコ」
二人は永遠亭の内部に足を踏み入れた
「静かね」
「誰もいないモコ」
警戒しながら長い廊下を二人は進む
「 ? 」
廊下の突き当たりに誰かが立っていた。長い耳が小さく揺れる
「あら? こないだの兎さんじゃない。そういえばアンタはここの所属だっけ」
「天子、あいつと面識あるモコか?」
「こないだ起こした異変の時にちょっとね」
鈴仙は冷たい目で二人を睨む
「今日は何しに来たの?」
二人にやってきた理由を問う
「無論、輝夜を驚かせに決まってるモコ」
「私はその付き合い」
「生憎、姫は師匠と一緒に里まで出かけてるわ。明日まで帰らない」
「そうモコか。なら里に戻って・・・」
「させないわ」
突然。妹紅のすぐ隣から声がした
「モコ?」
声がした方を見る。妹紅の真横にはなぜか鈴仙がいて、両手で口径の大きな拳銃を構えていた
「波長を操ったの。今の今までアンタ達が話していた私はただの虚像」
ドガンという大きな音の後、妹紅の眉毛よりも上の部分が全部吹き飛んだ
妹紅の頭蓋を粉々に砕いた拳銃を今度は天子に向ける
「おりゃあ!」
しかし天子の方が先に動いており、振るった緋想の剣が鈴仙の拳銃を叩き落す
さらに剣を振った勢いを利用して鈴仙を蹴飛ばす
「くッ!」
体勢を崩されてうつ伏せに転んでしまい、はしたない姿を天子に見せてしまう
「ハッ、兎風情が随分と色っぽいパンツ穿いて・・・・・・へ?」
トドメを刺そうと緋想の剣の振りかぶったままの姿勢で天子は固まった
鈴仙の右足の内腿にはベルトが巻かれており、そこには小型の銃が収納されていた
すでに撃鉄は上がり、引き金には手が添えられてる。彼女の意思でいつでも撃てる状態になっていた
「てめえは不二子ちゃんかっ!」
直後、天子の眉間に弾丸が直撃した
「いっっっったっいい!!」
風穴こそ開かなかったが、撃たれた箇所に激痛が走った
悶絶して天子はその場で蹲る
鈴仙は落とした銃を拾ってから彼女の髪を掴み立たせるとその体を壁に押し付けた
「ぐえ」
腹に銃を当てる
「最終通告よ。痛い思いをしたくなかったら大人しく帰りなさ…」
「オエエエエッ」
天子は口から刃物の欠片を吐き出し始めた。昼間の人間ポンプの吐き残しだった
吐いた刃物の一つが鈴仙の手を掠める
想定外のことが起きたため、鈴仙は天子から大きく跳び退いて距離を取った
「リザレクション!」
丁度その時、射殺された妹紅が復活したため、分が悪いと判断した鈴仙は踵を返し、奥の部屋へ一目散に走って行った
「袋の鼠ならぬ兎ね」
内側から鍵がかかっていたが、二人はそんなこと気にも留めず扉を蹴破った
壊れた扉の札には『実験室』という札が掛かっていた
「さて、どこに隠れ・・・ッ!!」
妹紅と天子はそれぞれ左右に跳んだ。直後、その背後の壁に穴が開く
「チッ」
部屋の隅、二丁拳銃を構えた鈴仙の姿があった
「大人しく捕まって輝夜をビックリさせる素材になりやがれモコ」
「お断りよ」
鈴仙は床に落ちていた麻袋を引っつかんで中身をぶちまけた
麻袋の中には白い粉がつまっており、あたり一面が白色に包まれる
袋はまだいくつか有り、鈴仙は可能な限りばら撒いた
漂う粉の量は多く、1m先を認識することが出来ないほどの濃度だった
「まさか毒粉!?」
「だとしたらやべえモコ! まとめて焼き払うモコ!」
「火を使わないほうがいいわよ」
真っ白に染まった視界の中から鈴仙の声が聞こえた
「安心しなさい、これはただの小麦粉よ。体に害があるシロモノじゃないわ」
「げっ!?」
その言葉に天子はギョッとする
「んなもん関係ねーモコ! 燃やせば・・・」
「妹紅ストップ! 粉塵爆発よ!」
「その通り」
粉塵爆発とは、空気中に一定の量の可燃物が漂っていたおり、それが引火したときに起きる爆発のことである
「今、漂ってる粉の量なら粉塵爆発の条件を満たしているわ。だから火を使うなと言ったのよ」
「妹紅の火を封じただけで勝てると思ってるモコか? 第一、この状況じゃテメェお得意の銃火器は使えねーモコ」
「それに出口は私たちの背後。おまけに瞳術だって使えない。自分からこんな状況選ぶなんてあんた馬鹿?」
天子の指摘する通り、鈴仙は圧倒的に不利だった。にも関わらず、彼女は落ち着いていた
「ところで扉の札を見た? この部屋は実験室なの」
「それがどうしたモコ?」
「だから壁が他の場所よりも頑丈に出来てるし、間取りも他の部屋から離れている」
時間が経過すると共に、空中を舞っていた小麦粉も重力に従い床に落ちていき、薄っすらとではあるが視界がクリアになってきた
「なっ!?」
「モコ!?」
ようやく視認できるようになった鈴仙の姿を見た二人は驚愕した
二人の視線の先。そこにはずんぐりむっくりの宇宙服を装着した鈴仙の姿があった
「月で作られた宇宙服よ。真空はもちろん、溶岩の中に放り込まれたってビクともしないわ」
かつて永遠亭が催した『月都万象展』で展示された一つだった
鈴仙は廊下での戦闘で二人を仕留められなかった場合の最終手段として、この場所に小麦粉と宇宙服をあらかじめ用意しておいた
「着火」
手にしたジッポライターを押した
後日談
永遠亭
「あ、みんな。お帰りなさい!」
ハツラツとした顔で出迎える鈴仙
「私の家が」
「屋根が」
「何があったの優曇華・・・・」
翌朝帰って来た永琳、輝夜、てゐは半壊した永遠亭の瓦礫をにこやかな表情で片付ける鈴仙を目の当たりにして驚いたという
迷いの竹林
「いやー。びっくりしたわ」
「びっくりしたモコ」
爆発に巻き込まれた二人は、竹林の近くを流れている川で一晩中体を冷ましていた
早朝。偶然通りかかった筍狩りの男が、少女二人の水浴び現場を目撃してもの凄く驚いた(良い意味で)という
【 ザ・サード 】
地霊殿
今日の分の仕事を終えたお燐は主の元までやってきていた。暇になったため、御用があれば承ろうと思ったのだ
「さとり様。なにかお手伝いできることありませんか?」
地霊殿の応接間で本を読む飼い主に声をかける
「・・・・・」
「さーとーりーさーまー?」
「・・・・・」
黙々と書物に目を通している古明地さとりはお燐の呼びかけに反応を示さない
「むう・・・・・」
お燐は主の耳元まで口を近づけ、大きく息を吸い
そして吼えた
「さぁぁぁとぉぉぉぉりぃぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「ハヒィッ!!」
さとりはビクリと震え、持っている本を落とし、本能的に耳を塞いだ
「ど、どうしたんですかお燐!? びっくりしたじゃないですか!」
「すみません。でも、さとり様がどれだけ話しかけても無視するからですよ」
唇を尖らせながら抗議する
「そうだったんですか、それはすみませんでした。どうやら、読書に夢中になっていたようです」
言いながら、さとりは床に落とした本を拾った。本のタイトルは『幻想郷縁起』
「地上の本ですか?」
「人間の里に住む由緒ある家の生まれの方が執筆した本で、地上に住む有名な人物や妖怪を記録したものです」
「へー。拝見してもよろしいですか?」
「ええ。どうぞ」
本を受け取り、目を通す
「あの巫女も載ってるんですね。それに色んな妖怪が沢山、確かに夢中になるのもわかります」
「そうでしょう。誰の性器が一番黒ずんでいるのか妄想しながら読んでいました。私の予想では・・・」
「おっとォ!! 私と同じ猫の妖獣がいる!」
主人がいつもの変質者の発言をする前に話題を替える
「いいですよね。この橙っていう子猫。乳首の露出したラバースーツを着せて、お燐と貝合わせさせたいです」
「・・・・・・」
「ところでお燐。暇になったから私のところに来たのでしょう? これから久しぶりに地上に行くの付き合ってください」
「構いません。してその用向きは?」
「ちょっと可愛い子を見つけたのでヘッドハンティングへ」
ペット達が仕事を覚え、地霊殿の管理もだいぶ楽になったので、そろそろ新しいペットを増やしたいとさとりは考えていた
地霊殿の廊下の途中
「さとりさまー。おりんー」
ペットの一匹である地獄鴉のお空が、さとり達の姿を見つけ駆け寄ってきた
「お仕事は終わったの?」
「うーん、たぶん」
「多分ってアンタねえ」
「まあまあ。良いじゃありませんか。1〜2日ほうっておいて爆発するほど、灼熱地獄は柔じゃありませんし」
さとりは呆れるお燐の肩に手を置き宥める
「ちょうど良かったお空。地上へ行くからあなたも一緒にいらっしゃい」
「うんいぐー」
「あら。お空、あなたちょっと鼻声じゃない?」
最初に声を掛けられたときからそんな気がしていたが、今の会話でそれを確信した
「え? そう? グズッ」
「ほら。こっちにいらっしゃい。顔を少し上げて」
お空の顎に手をあて、上を向くように促す
「ジッとしてて」
接吻をするかのような動作で、お空の通りの悪くなっている鼻を口で塞ぐ
右の穴を指で押さえてから、左の穴を吸った
「じゅ・・・・じゅるる、ズズッ・・・・・」
最初は優しく、徐々に吸う力を強めていく
お空は一切不快な顔はしておらず、それどころかまるで櫛で髪と解いて貰っている時のような心地良さすら感じていた
「ん・・・・・」
鼻の詰まりの原因を吸い出せたので鼻から口を離す
舌の上で転がしてからそれを飲み込んだ
「お空。あなた、最近野菜もちゃんと食べてる?」
味と粘りでペットの健康状態を読み取った
「えっと。どうだっけ?」
「お燐。お空と一緒に食事をするときは好き嫌いしてないか見てあげて」
「畏まりました」
お燐が了承した後、さとりは反対側の鼻を吸い出し始めた
「これでスースーするかしら?」
「うん。ありがとうさとりさま!」
お空は自分で鼻がかめないため、鼻が詰まったときはさとりに吸い出してもらうのが習慣になっていた
「じゃあ行きましょうか」
「うにゅ? いくってどこに?」
「ついさっき、さとり様が仰っていたっじゃないか!」
「これから地上にいる新しいペットを迎に行くのですよ」
「そうなの!? ねえどんな子?」
さとりは幻想郷縁起の本をペラペラとめくる
「鳥同士、あなたとは気が合うかもしれません」
さとりは『藤原妹紅』の項で指を止めた
空が暗くなり始めた頃、慧音と妹紅は人里の外れを巡回していた
「さっさと帰りてーモコ」
「東側まで歩いたらな。そしたら里に戻っておかずを買って帰ろう」
夕暮れ時、妹紅は慧音に誘われて里の周囲をパトロールしていた
遊んでいる子供がいたら早く家に帰るよう呼びかけ、妖怪の気配を感じたら周囲を調べてから二人は進む
「輝夜抹殺の新しいプランを考えついたモコ。今回はちょっと変化球気味にいくモコ」
「変化球?」
「輝夜のクローンを複製して、永遠亭に送りこみ奴の居場所を奪うモコ。そして、そこからが本当の地獄モコ」
―――― 輝夜の大冒険 ――――
妹紅の巧みな罠により永遠亭を追い出された輝夜。居場所を失い彷徨っている途中、明かりの点いた一軒のあばら家を見つける
運良くそこに泊めてもらえるようになった輝夜
しかしその家は、泊まった旅人を殺し食人を行なう狂気の家だった
寸でのところでそのことに気付き、家を脱出した輝夜はある集落に辿り着く
行く所が無いことを告げると、村人は温かい目で彼女を受け入れてくれた
しかしその村は、訪れたよそ者を殺し食人を行なう狂気の集落だった
寸でのところで気付き、村を脱出した輝夜は偶然にも博麗大結界を超え、外の世界に迷い込む。
行き着いた先は夜を忘れた賑やかな繁華街。輝夜はそこで住み込みのアルバイトをすることで生きていくことを決めた
しかしその都市は、自分より弱い者を殺し食人を行なう狂気の町だった
寸でのところで気付き、水路を使い都市を脱出した輝夜だが、途中で川の氾濫に巻き込まれ海まで流されてしまう
漂着した島はどこまでも長閑で、穏やかな時間が流れていた。島のみんなに迎えられ、輝夜は島の一員となって暮らしていくことを誓う
しかしその島は、満月の晩に仲間を生贄にして食人を行なう狂気の島だった
寸でのところで気付き、イカダで島を脱出した輝夜は近海を巡回していた隣国の軍隊に保護され、本土へ移送された
異国の言葉に戸惑いながらも、懸命にその国の言葉を覚え、外国人労働者として生きていく輝夜
しかしこの国は、国にとってメリットの無い人間は食しても良いという法律を持った狂気の国だった
寸でのところで気付き、その国が開発中だったロケットを強奪して国を脱出した輝夜。しかし途中でロケットが不具合を起こし見知らぬ惑星に不時着してしまう
幸いにも、その星には人間と似た構造を持つ知的生命体が存在していた。通貨という概念もあり、働くことで社会的地位を築こうと輝夜は奮起する
しかしその星は・・・
(以下、無限ループ)
―――― 輝夜の大冒険 ――――
「なんで輝夜の行く先々がカニバリズム尽くしなんだ?」
「産廃ゆえに。とだけ言っておくモコ」
「産廃? まあいい、そもそもクローンなんて本当にできるのか?」
妹紅は指に絡めた一本の頭髪を慧音に見せる
「あの野郎の髪モコ。こいつからDNAを採取してクローンを作成するモコ。わが国のテクノロジーを持ってすれば容易いモコ。クローンの一匹や二匹、流れ作業で量産してやるモコ」
「そんな簡単にいくのか? 金型で作れるタイヤキじゃないんだぞ?」
「髪の毛一本からでもリザレクションする輝夜なんざ、その存在自体がもうクローンと大差ないモコ。なんとかなるモコ」
「お前がそれを言うのか?」
「ごちゃごちゃ五月蝿せーモコ。ってああっ!!」
強い風が吹き抜け、輝夜の髪が飛ばされてしまった
「ちきしょう。あいつの髪は個性がないから一度見失ったらもう判別できねーモコ。追えモコ!」
「あ、ちょっと」
妹紅は慧音を残し走リ出した
飛ばされた髪を追いかけて彼女は小高い丘の上までやってきた
「くそう、完全に見失ったモコ」
「あらあら。なんという偶然でしょう。高いところから探そうと思った矢先に、まさか本人がいてくれるだなんて」
ペットを二匹連れたさとりがそこに居た
「なんだテメェらモコ?」
「突然の訪問、お許しください。ただ、あなたのことを知ったら居ても立ってもいられなくなりまして」
その手が妹紅の頬に触れる
「モコッ!!」
「怯えないでください。敵意はありません。しかしぷにぷにのほっぺですね。マシュマロの弾力、シルクの肌触り。まるで超高級オナホールに使われるシリコン素材のよう」
指先で頬を捏ねる
「さわんなモコ! そして変な例えをすんなモコ!」
「キャッ」
さとりの手を妹紅は払った
「さとりさまをいじめるなーー!!」
主人に対する行為に、激昂したお空が妹紅に飛びかかる
「テメェ、やんのかモコォ!!」
「にゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅ!!」
「モコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコ!!」
激しい速度でぶつかりあう拳
「すごいラッシュだ」
「速さは互角ですね」
つまりパワーが勝敗を分ける
「オラモコォ!!」
「うにゅあー」
ラッシュ対決は妹紅に軍配が上がった
「口ほどにもねーモコ」
「まだまだ! せいぎょぼう!!」
お空が右手を天にかざすと瞬時にその手が大筒に覆われる
「じょうはつしろー!」
妹紅に向けた筒先の先端が輝き出す
「しゃらくせー! つくねにしてやるモコ!!」
背後に炎があがり、それが翼の形へと形成されていく
「そこまでよお空」
「うにゅ?」
「お嬢ちゃんストップ!!」
「おぎゃああ!」
さとりが制御棒の上に手を乗せお空に静止をかけ、お燐が猫車で妹紅の体を轢いた
「ここであなたが暴れたら、地上が焦土になってしまうわ」
「で、でも!! こいつさとりさまにぼーりょくを・・・」
「お空。今から真似っこ遊びをしましょうか?」
「なにそれー?」
初めて聞く遊びに小首を傾げる
「私の動きを真似をする簡単な遊びよ。まずは制御棒を外しましょうね」
「うん!」
制御棒を仕舞い、さとりと向き合う
「まずは頭」
「あたま」
両手で頭を触るさとりの真似をする
「次は肩」
「かた」
今度は自分の肩に手を当てる
「膝」
「おひざ」
「靴」
「くつ」
「腰」
「こし」
「耳」
「おみみ」
「口」
「おくち」
「鼻」
「おはな」
「目」
「おめめ」
お空は自分の手で両目を塞いだ
「さとりさまーつぎはー?」
「もう少し、ジっとしてましょうね」
「はーい」
お空をそのままにして、お燐の猫車の下敷きになっている妹紅に歩み寄る
猫車は上からお燐が押さえてるため、妹紅は動くことが出来ない
「さて。お空が失礼しました」
しゃがみこんで目線の高さを同じにする
「やべえモコ。なんか知らんがお前はやべえモコ」
「思ったことがそのまま口に出るなんて素晴らしい。そういう表裏が無い子は好きですよ。ますます気に入りました」
両手で掬い取るように妹紅の顔を包み込む。そのまま優しく額と額をくっつけた
「私の目を見てください。変に意識しなくてもいいですよ、ただ目を開けていてくだされば結構です」
まつ毛同士が触れ合う距離でさとりは話す。この時、彼女の持つ第三の目も妹紅を凝視していた
「あら? まだちょっと震えてますね。が、その表情もそそります、思わず庇護下に加えたくなりますよ」
彼女が話すたびに香る吐息は甘く、妹紅の体は無意識のうちに弛緩していた
「私は敵ではありません、警戒しなくても平気ですよ。たとえアナタに噛み付かれても反撃しません」
その声はまるで粘性の液体のようであった、妹紅の鼓膜にどろり張り付き、それ以外の音を遮断する
「大丈夫、怖くないですから。ほら楽にして、そうそう。全部私に任せて。身を委ねましょう。大丈夫、ここには敵はいません」
さとりの声だけしか認識できなくなる
「まだ体が固いですね。深呼吸しましょうか? はい、すー、すー、ハー。すー、すー、ハー」
その言葉のリズムに合わせて、妹紅は呼吸を繰り返す
「じゃあもっと肩の力を抜いてリラックスしましょう」
妹紅から手を離し、指を舐めて唾液で湿らせる
「最初はソフトに一本でいきましょうか。無茶をするのも好きですが、やはり優しくしてあげないと懐きませんからね」
お燐に妹紅をうつ伏せするように指示を出したその時
「このあたりか、さっき強い光が見えのは?」
慧音が現場にやってきた
「ハッ!!」
その声に妹紅は正気を取り戻した
「良い所でしたが保護者さんも来ましたし、見つかると後々面倒です。お燐、そろそろお暇(いとま)しましょうか」
「はいさとり様」
「てめえ! 逃げんなモコ!!」
激しいシャドーボクシングをして威嚇する妹紅
それを無視して二人は目を塞いでいるお空を担ぎ一輪車に乗せる
お空を積んでからさとりも一輪車に乗り込む
「え? さとり様も猫車に乗るんですか?」
「私が重いとでも?」
「いや、そうじゃなくてですね。二人も乗るとバランスが狂いまして。ねえお空、ちょっと降りて」
「駄目です。もこちゃんと目があったらまた喧嘩してしまいます」
「わかりました。しっかり捕まっててください」
お燐はハンドルに力を込めて持ち上げる
「それじゃあ、もこちゃん。また会いましょう」
さとりが優雅な手つきで手を振ってから、猫車は夕日に向かい走り出した
「お空。もう真似っこ遊びは終わりです。自由にしても良いですよ」
「はーい・・・・・・・・うわーーー! じめんがうごいている! こわいよー!」
「うわっ、ちょ、お空、アンタが今暴れたら・・・」
しばらくしてから遠くでキノコ雲が上がった
次の日
さとりは自室のベッドの上にいた
そんな彼女をお燐とお空は心配そうに見つめていた
「お燐、あなた今、私を見て『ファラオみたい』って思ったわね?」
全身に包帯が巻かれており、お燐がそう思うのも無理はなかった
「すみません。あまりにも酷似してまして・・・しかし大丈夫ですか?」
「来週は地霊殿ペットの健康診断+膣圧測定がありますからね。それまでには全快するつもりです」
「よくもさとりさまを、もこうぶっころす!!」
「いや、お空あんたのせいだから」
妹紅は本国(上白沢邸)で昨日の出来事を慧音に話していた
「第三勢力が台頭してきやがったモコォ!!」
「うるさい」
「この状況で黙ってなんかいられないモコ。やはり永遠亭と国内にだけ注意を払っていただけでは足りないモコか。もこぅ・・・・このままではアクシズにやられたエゥーゴの二の舞モコ。こうなったら先に打って出るモコ」
―――― 諸葛亮=モ=孔明 ――――
火計が得意なモコモコ王国の軍師
火計以外は突撃コマンドしか入力できないので注意が必要
ノリノリで馬謖を殺せる
―――― 諸葛亮=モ=孔明 ――――
「穴倉に住む奴等には火が漏れなく効果ばつぐんと、先人が言ってるモコ」
「あそこは旧灼熱地獄跡地だから火は効かないんじゃないか?」
「地底には身長が290cmあり、全身が鱗で覆われた人間がいるらしいモコ。多分、そいつにはばつぐんモコ」
「なんだそいつは? キャプテンアメリカの亜種か?」
「とにかく行ってくるモコ。座して死を待つなんざまっぴらモコ」
地底
自家製の竹炭をカゴ一杯に詰めこんで、妹紅は地底を進んでいた
「ここがあの地霊殿モコか。よっと」
妹紅は地霊殿の裏手に回りこみ、持参した竹炭をばら撒いた
「位置良し。風向き良し。他もなんか知らんが良しモコ」
準備を追え、マッチに火をつけようとした時
「おい餓鬼。そんなところで何してる?」
地底でも屈指の実力者である星熊勇儀が、偶然その場所を通りかかった
仲間の鬼たちと飲み屋をハシゴしている真っ最中だった
「この辺じゃ見ない顔だな?」
妹紅の姿を観察する
「カゴ担いでるところを見ると旧都の行商みたいだな。地霊殿に何か売りに来たのか?」
「うっせぇ、関係ねーモコ。さっさと散れモコ」
「もしかしてお前さん。売りモンの炭をぶちまけちけたのかい?」
妹紅が今しがた地霊殿を燃やすためにばら撒いた竹炭に目を向ける
「この辺りの地面はゴツゴツしてるから注意して歩かないとな」
炭の欠片を一つ手に取り、しげしげと見つめる
「節が肉眼でわかるほど輪郭がちゃんと残ってて、しかも光沢がある。まるで黒曜石のようだ。良い代物なのにつくづく惜しい」
チラリと横目で妹紅を見た
(こんな餓鬼が危険な霊が多く住む地霊殿まで物を売りにくるってことは、それなりの事情があるんだろうねえ)
しばし考えてから、ある提案を口にした
「おい、この落ちてるの全部私に売ってくれないか?」
「モコ?」
「これの炭で肉でも焼いたところを想像したら、無性に欲しくなってきちまった。お前等もいいだろ?」
「姐さんがそう言うなら。仕方ないですね」
勇儀の言葉に取り巻きの鬼たちは渋々頷いた
「よし決まりだ。お前等、割り勘な。文句あるヤツは前に出ろ」
「は〜〜、わかりましたよ」
そういうと、鬼たちは観念した顔で妹紅のカゴの中に所持品や飲みかけの酒瓶などを放り込んでいく
「ちょ、待つモコ。話がみえねーモコ」
やがてカゴは鬼たちが入れた物で一杯になった
「これだけじゃ対価としては少ないか? まあ落ちてるのを買い取るんだ、ちょっとはマケてくれてもいいだろう?」
地底の工芸品や通貨、食料で満載のカゴを押し付けられる
「ほら。もう転ぶんじゃないぞ。あと、ここは餓鬼一人じゃ危ないからもう近づくな、いいな?」
「 ??? 」
カゴを受け取り、理解できないという顔で妹紅はその場を去って行った
その背中を見送りながら、一匹の鬼が勇儀に小声で話しかけた
「良かったんですか姐さん?」
「何がだい?」
「あの行商の餓鬼に施しなんてしたって、一銭の得にもならねえってのに」
「まあいいじゃないか。偶には鬼らしくないこともしたくなったんだからさ。それに本当に良い炭だし、まずい肉も美味しくなりそうだ」
「姐さん、あんた本当に焼肉する気で買ったんですかい?」
「つべこべ言わずに、落ちた炭拾うの手伝いな」
「「ええ〜〜〜」」
地上の帰って来た妹紅は、自分が体験したことを慧音に報告した
「ありのまま、起こったことを話すモコ。『地霊殿に火計を仕掛けに行ったら、竹炭を没収され、代わりにお土産を渡された』
な、何を言ってるかわからねーと思うが、妹紅も何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうモコ・・・・
催眠術だとか、超スピードだとかそんなチャチなものじゃ断じてねー もっと怖ろしいものの燐片を味わったモコ」
「まあ、何にせよ。よかったじゃないか」
おまけ
「さて人気が低迷するモコモコ王国をテコ入れする必要があるモコ」
「何を言っているんだお前は?」
「というわけで次回はこんな感じで話を進めて行きたいモコ」
―――― ラブ☆ドキ命蓮寺 〜恋と夜伽とヤンデレと〜 ――――
聖白蓮は『若返りの秘術』を極め『黄泉返りの秘術』へと昇華させた
黄泉返らせるのは当然、愛しの弟、命蓮である
かくして術は成功し、命蓮はこの世に受肉した
復活した命蓮は、姉譲りの整った容姿と物腰柔らかな温厚な性格。そして芯の通った固い意志を持った好青年であった
白蓮を慕う星、村紗、一輪がそんな彼をほっとくわけなどない
そしてナズーリンやぬえも次第に彼の優しさに惹かれていく
実は白蓮も生前から弟を一人の男性として見ており
全員が全員、彼と恋仲になりたいと熱望していた
しかしそんな中、ある衝撃の事実が!
「姉さん。僕、雲山さんのことが…」
寺といえば衆道である。彼はあろうことか、性別が男の入道である雲山に淡い恋心を抱いていた
こうして、命蓮寺メンバーたちがあの手この手で彼を誘惑しようと結託するのだった
各キャラのイベント
聖イベント
1.姉弟水入らずのお風呂(入浴・手コキ)
2.ディープなスキンシップ(パイズリ→アナルセックス)
3.お姉ちゃんからお嫁さんに(白無垢コス:正常位)
星イベント
1.宝塔を見つけてくれたお礼に(手コキ→フェラチオ)
2.初めてをあなたに(破瓜)
3.毘沙門天のご加護を(対面座位)
村紗イベント
1.キャプテンの一人遊び(自慰:ローター)
2.一緒に水浴び(スク水コス:野外プレイ)
3.村紗に溺れて(中出し3発)
ナズーリンイベント
1.ただいま発情期(素股)
2.鼠の恩返し(騎乗位)
3.私のご主人さま(裸エプロン:立ちバック)
ぬえイベント
1.ないしょのいたずら(足コキ)
2.いたずらのお仕置き(目隠し拘束・バイブ責め)
3.あなただけに正体を(正常位)
雲山&一輪イベント
1.???
2.???
3.???
―――― ラブ☆ドキ命蓮寺 〜恋と夜伽とヤンデレと〜 ――――
「他にも間欠泉での混浴イベント、ナズ星の主従で3P、ハーレムエンド、隠しキャラ、鬼畜ルートなど盛りだくさんモコ」
「却下な全部」
「モコォッ!!?」
木質
http://mokusitsu.blog118.fc2.com/
作品情報
作品集:
22
投稿日時:
2010/12/25 10:54:07
更新日時:
2010/12/29 07:52:47
分類
妹紅
慧音
天子
鈴仙
さとり
お空
お燐
イナバ13
モコモコ王国
『お家に一人ぼっち』は鈴仙でしたか。ヘタ鈴仙ではなく、プロの狙撃手の顔を見せるのは珍しい。
鈴仙VS命知らずの消耗品部隊…。鈴仙のストレス解消になって良かったね…。
天子、地子時代は慧音の生徒だった!?慧音先生、何気に顔が広い!!
小傘のもたらした恐怖に妹紅が暴走状態に!!何事も調子に乗るのは良くない。
忘れていましたが、妹紅も天子も美少女でしたね。何もしなければ。
・【 ザ・サード 】の感想
木質さんのさとりはエロ!?幻想郷縁起でそんな妄想できるとは、確かに王国の脅威たり得る存在ですね。
橙も危ない!!王国の一員である藍が黙っちゃいないぞ!!
『三番目』とはさとりのサードアイと第三勢力のダブルミーニングと。
地底世界の良心である勇儀姐さん、漢だ!!悲劇が回避された!!
・おまけについて
これは素敵なエロゲーの企画書!!
イベントがCGモードの画像のタイトルっぽい。
これからもモコモコ王国、楽しみにしています。
他の追随を許しませんな。
悪い意味じゃないけど
良い意味でもない
楽しいけど
好き勝手暴走してるように見えて、実は妹紅が一番ヒロインしてね?
拷問、瀕死、強姦未遂に今回は催眠堕ちと、産廃的には非常に正統派なイジられキャラだよね。
ってかモコ受けじゃね?やっべ、萌えてきたw
さとりのお空誘導お遊戯に和んだ