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『最後のお願い』 作者: 十三
1
「ねぇみすちー。六地蔵巡りって知ってる?」
早朝、湖に集まっていた仲の良い妖怪達の一人、ルーミアが突然そう言った。
「六地蔵巡り?なにそれ、美味しい物?」
「いや、食べ物じゃない。」
六地蔵と言う言葉に周りの者達も反応し、話の話題がその方向にベクトルを変えた。
「あたいは知ってるよ。六つあるお地蔵さんを順番に回っていくやつでしょ。この前大ちゃんと回った。」
その場で妖怪たちと戯れていたチルノの頭にパッと電球が現れ、眩しい光りを振りまく。
「お地蔵さんに一つずつお願いをして六つ回ったら、どれか一つお願いが叶うらしいね。」
話しを聞いたリグルもそう呟き、この場で六地蔵巡りについて知らないのはミスティアだけだと言う事が証明されて
しまった。少し悔しそうにミスティアが皆に詳しい説明を求める。
「さっきチルノとリグルが言った通りだよ。六つある地蔵を順番に回って、地蔵毎に一つずつお願いをするの。
六つ地蔵を回ったらお願いも六つになるでしょ、その内のどれかが叶うって言うわけよ。」
「ほう。それで、もうみんなやった事あるんだ。」
「あたいはさ、なにをお願いしたのか忘れて願いが叶ったのか叶ってないのか分からないんだよね。」
「私は美味しい物が食べたいってお願いしたら叶ったよ。」
「蝶が無事に脱皮したよ。」
皆それぞれ六地蔵巡りの効果を実感している様で、そんな事を今の今まで知らなかったミスティアは一人
後悔の念に燃えた。
「そんな物凄い事があるなんて、もっと早く知っていれば!」
「なら今から行けば。六地蔵巡りは一年に一回だけ、さらに参拝は一日以内って言うルールだけど、
何時やるかは本人次第だよ。」
「なんだと。」
「神社で六地蔵の地図を売ってるから買ってきなよ。」
場面は冥界へと変わる。
白玉楼のお嬢様、西行寺 幽々子は朝食の後、庭師である魂魄妖夢を呼び出した。
幽々子に呼ばれ、庭で掃き掃除をしていた妖夢が箒を持ちながら幽々子の立つ縁側へと駆け足で向かった。
「幽々子様、どうされさましたか。」
「妖夢ー、ちょっとお願いがあるんだけど。」
「はい。何なりと。」
「ミスティアっていう鳥が居るんだけどね、お昼は彼女を食べたいのよ。分かるわね妖夢。」
「その鳥を捕らえてくれば良いのですね。」
「そうよ〜お昼に間に合うようにするのよ。」
度々このような事があるがついにあの夜雀の番が回ってきたのかと、妖夢は頭の中に仕舞われたミスティアの
風貌を思い出しながら、二本の刀を背負い出発の準備をする。
飛び立とうとする妖夢の後ろからは幽々子の期待に満ちた視線が送られていた。
長い階段を下ると、肌寒い風が吹く幻想郷の空に出た。
「まずは神社にでも行って夜雀の居所を聞き出すか・・・。」
「霊夢!霊夢ー!何処に居るー!」
「五月蝿い!聞こえてる!」
ミスティアの大声により、炬燵でみかんを食べていた霊夢が渋々境内に出てきた。
「霊夢、六地蔵巡りをしようと思ってるんだけど!」
「・・・はーん。地図が欲しいの。安くしとくわよ。」
「やった!!」
結果、安くはなかった。だが決して高くもない値段で念願の地図を手に入れた。
ルーミアやチルノは一体どうやってこの地図を買ったのか?いや、むしろ使い終わった地図を誰かに譲ってもらったの
ではないか・・・。
「くっ・・・はめられた・・・。」
それはさて置き、ミスティアの六地蔵巡りがスタートした。
地図には地蔵の位置と回る順番が細かく書いてあり、道に迷う事のないように道しるべまで書いてあった。
「よーし!時間はたっぷりあるからゆっくり行こーっと!」
そう言って、ミスティアは元気に神社を出た。
「結構ぼったくれたわ。」
再び炬燵に入った霊夢がそう呟いた。
その数分後、冥界より飛び立った魂魄妖夢が博麗神社に到着した。
「こんにちはー霊夢さん!いらっしゃいますか!」
「げっまた誰か来た。」
炬燵と言う楽園から再び抜け出さなくてはいけない。と考えた霊夢は、
「めんどいから、お引取りを願いましょうか。」と、来客を無視するという暴挙に打って出た。
その瞬間突然、襖が開く。
「居るじゃない・・・。聞きたい事があって来たんだけど。」
「・・・不法侵入よ・・・。」
「ミスティアの居場所を知りたいんだけど。」
「あー、さっき来たわよ。六地蔵巡りをするらしいわ。」
「詳しく!」
妖夢は、ミスティアを追い神社を飛び出た。手には六地蔵巡りの地図が握られている。
「この地図どおりに進んでいけばミスティアを見つけられるはず!」
「さっきよりぼったくってやったわ。」
炬燵から出ずに高い金を手にした霊夢は、鼻歌を歌いながら二つ目のみかんを剥き始めた。
2
「あった!お地蔵様だ!」
早速ミスティアが、博麗神社と人里を繋ぐ道境で一つ目の地蔵を見つけた。
偉そうな地蔵にミスティアは手を合わせお願いをする。
「歌が上手くなりますように。」
果たして一番大事なお願いをこのお地蔵さんは叶えてくれるのか・・・閉じた目を開けると、前には偉そうに笑った
地蔵がミスティアを見ていた。
「私のお願い叶えてね。」そう言い放ち、ミスティアは次の地蔵を目指した。
そんなミスティアを木陰から見ている者たちがいた。
「妖怪だ。どうする?襲うか?」
「いや、どうせ金なんて持ってねーよ。無視だ無視。」
彼らはちょっとは名の知れたならず者集団で、人里周辺であやしい仕事をしている危険な連中である。
「くそ・・・もっと人の多い所で張り込もうぜ。」
「馬鹿野郎。人前で堂々と追いはぎができるかよ。」
仕事で儲けた金はとっくに底を付き、米すら買えなくなった彼らはこうして通行人を襲う
山賊のような事をしていた。
「おい、また誰か来たぞ。」
「隠れて様子を見るんだ。」
ミスティアが地蔵の元を去ったすぐ後に妖夢が到着した。だがミスティアの姿はなく、
偉そうな地蔵だけが寂しそうに立っているだけだった。
「ここはもう通った後か・・・。この機会に私も願い事を聞いてもらおうかな・・・。」
妖夢も地蔵の前で、手を合わせ目を瞑る。
「ミスティアを早く見つけられますように。」
相変わらずの地蔵を後にし、次の地蔵へ向かおうとした時だった。
「お嬢さん。動くんじゃないぞ。」
渋みの聞いた声が妖夢の前に立ちはだかった。後ろには、小柄な男が小さな刃物を出している。
「有り金全部と武器を置いていけ。そうすれば命は助けてやる。」
突然現れた男達に戸惑う妖夢だったが、すぐに何時もの調子を取り戻し、リーダーと思われる男に言った。
「お前達にやる物は無い。先を急いでいるんだ、さっさと消えてくれ。」
「駄目だ。」
妖夢の申し出は一秒で却下され、男達は先頭体制に入った。
「刀を持っているところから見て、少しはできるようだが・・・。」
「お前ら相手にこの刀を抜く必要は無い。」
「ああ。刀を抜く暇さえ与えんよ。」
その刹那、妖夢の頭に巨大な岩が振り下ろされる。突然の予期せぬ攻撃を油断していた妖夢は回避する事ができずに、
頭を抱えその場に蹲った。
「俺達を二人組みだと思っていたようだな。残念。もう一人居るんだ。」
妖夢への奇襲を成功させたのは、二人の仲間の妖怪だった。太い腕を振り回しながら、蹲った妖夢を無理やり立たせ、
後ろ手に腕を押さえ込んだ。先に出ていた二人は敵を油断させるための囮で、最も強い妖怪の男は最後まで隠れて
様子を見る作戦だ。妖夢はそれに見事に引っかかり、動けないようにガッチリと押さえ込まれてしまった。
「油断したな。」
「ぐ・・・卑怯者め・・・。」
「俺達の作戦に引っかかった奴の言う事かよ!!」小柄な人間が、妖夢を罵倒する。
「ボス、こいつただの人間じゃない。近くを幽霊が舞ってる。」
「関係ないね。お前は逃げられんようにしっかりと押さえてろよ。」
リーダーの男が妖夢の懐を探り、財布を見つけ出した。だが中身を確認したリーダーが溜息を漏らす。
「これだけか・・・ガキの小遣いだな。」
「なにぃ!おい見せろよ!こん畜生めが!」
頭に血が上った小柄な男が動けない妖夢に平手打ちを繰り出し、避けられない攻撃に妖夢は歯を食い縛る。
「へん!その刀を売った方が金になりそうだな!」
「・・・この刀には触れさせない!」
宙を漂っていた半霊が妖夢を押さえ込む妖怪の顎に体当たりをし、同時に束縛から逃れた妖夢が刀を抜く。
「しまった!」
だが妖夢が男達に切りかかろうとした瞬間、リーダーが液体の入った薄い紙の袋を妖夢の顔を目掛けて投げつけた。
「きゃあっ!」
水には粉末にした唐辛子などが大量に入っており、それを顔面に食らった妖夢は、立っている事が出来ずに刀を杖代わり
して目や口を覆い、痛みを振り払うように激しく手で擦りつけている。
「逃げるぞ、こいつは危険だ!」そう言ってリーダーが駆け出し、その後に続いて他の二人も一目散に逃げていった。
妖夢が再び動けるようになる前に三人は完全に姿を消し、悔しさだけが残る結果となった。
「くそ・・・あいつらめよくも・・。」
何時もなら怒りを胸に奴らを追いかけるところだが、今は大事な使命を受けているため、そんな事とはできない。
涙の止まらない目を拭いながら、妖夢は二つ目の地蔵を目指した。財布は奴らのリーダーが持ったままだった。
3
「二人目のお地蔵さん見ーつけた。」
にっこりと笑った地蔵がミスティアを迎えた。場所は木々の生い茂る林の中で地図が無ければ見つけるのに
一苦労するようなところだった。
「もっと分かりやすいところに居てよね。では・・・。」
ミスティアが二つ目の願い事を地蔵にお願いする。
「屋台が儲かりますように。」
「よし、順調順調。このまま行けば昼までには終わりそうだな・・・どっかでゆっくりお茶でも飲んでいこうかなー。」
砂利道を軽快な音を立てながらミスティアが次の目的地に向けて歩き出す。空を飛んでも良かったのだが、地上にある
地蔵を見逃すと行けなかったので時間は掛かるが徒歩で向かう事にしたのだった。
「次はどんなお願い事を叶えてもらおうかなー!」
妖夢が二人目の地蔵に辿り付いた頃にはミスティアはすでに居らず、にっこりした地蔵が先ほどの出来事を
あざ笑うかのように立っているだけだった。
「時間を食いすぎた・・・・くそ・・・こうなったらこの先の安全をお地蔵様に願うとしよう・・・。」
まだ痛みの残る頭を気にしながら妖夢が地蔵の前で手を合わせる。
その時、茂みを突きぬけ物凄い勢いで妖夢に迫る陰があった。
「なんだ後ろ・・・?」
なんと巨大な熊が今まさに妖夢に飛びかかろうというところだったのだ。
「げっ!?」
逃げようとする妖夢に熊が突進し、車に跳ねられたように妖夢の体が地蔵を横切って吹き飛ばされた。
熊が暴力的な声を発し、倒れた妖夢に飛び掛る。振り下ろされた爪を寸前でかわし、地面を転がりながら妖夢が
刀を抜き立ち上がる。しかし熊も妖夢に攻撃の暇を与えない。
その巨体からは考えられないようなスピードで激しく爪が振られ、妖夢は刀でそれを受け止めなくてはならなかった。
何発かの攻撃が妖夢の体を傷つけ、熊が渾身の一撃を放とうとした時だった。
「そこだ!」
今度は妖夢の刃が熊の喉元を切り裂き、熊の巨体が体重の掛かっていた方向に大きな音を立てて倒れた。
「はぁ・・・熊を・・倒した・・・。」
一瞬だけ強大な猛獣に勝利した事を喜んだが、こんな事をしている場合ではない事を妖夢はすぐに思い出した。
「ああっミスティアを捕まえないといけないのに・・・!」
熊の攻撃がかすり、破けた服と、体当たりのダメージに傷付いた体を労わりながら、急ぎ足で妖夢は次の地蔵を目指した。
「あっこんな所にお地蔵さんが!」
妖夢が熊との闘いを終えた数分後、ミスティアが三人目の地蔵を見つけた。
「見逃すかと思ったよ・・・。」
見逃さないように地上を歩いているのに、このざまだった。しかし結果的に地蔵は見つかったのでオーライである。
三人目は、先ほどの林の奥にあった。周りに生える木々が次第に太くなってゆき、林と言うよりも森にちかい程だった。
「そう言えば・・・本当にお願いしたい事ってさっきまでに全部言っちゃったんだよね。」
暫く考え込んだミスティアは、地蔵の前で手を合わせ、こう願った。
「いつまでもルーミアやリグル達と一緒に居れますように!」
そう言ったミスティアの頬が誰も居ないと分かっていながら、少し紅くなった。
妖夢が三人目の地蔵を見つけた時にはミスティアは四人目を目指して歩き始めた後だった。
「なんだか今日は良くない事ばかりだ・・・。どうしちゃったのかな・・・。」
ここまで災難に苦しめられると自然と気分が落ち込んでくる。
「しかし二度あることは三度あると言う・・・もしかしたらまた・・・。」
咄嗟に後ろを振り返る妖夢だったが、鳥の囀りが聞こえるだけで平和そのものだった。
「考えすぎか・・・・。お地蔵様が目の前にあることだし、今日一日の平和を願おう・・・。」
拝み終わった後も妖夢は緊張しながら次の地蔵の元へと向かった。
地蔵ごとに災難が起こっている気がしたからである。
「異常なしと・・・よしこのまま空を飛んで・・・」と、言いかけた時だった。
何処からか穴を掘る音が聞こえてくる。スコップか何かで泥を掬う音だ。
「・・・無視しよう。首を突っ込んだら負けだ・・・。」
とか言いつつ好奇心がそれを許さず、木の陰から音のする方向を覗く妖夢だった。
そして彼女はそこで危険な光景を目の当たりにする事となる。
穴を掘っているのは若い男の様だった。かなり深くまで穴は掘られているようで、男の隣に泥の山が出来ていた。
だが注目する点はそこではない。その隣に半裸の女性が倒れている事だ。
口から血を流し、生きているか死んでいるか分からないような状態の女性・・・おそらくあの穴は彼女を埋めるための物だ。
直感的にそう感じ取った妖夢はその場から逃れようと一歩後ずさりをするが、
ぼきっ 枝の折れる音
男の惚けた顔が妖夢を見た。
驚いた表情ではなく、当然の事のように妖夢をじっと見つめていた。
男が持っていたスコップを地面に落とし、体を妖夢に向ける。人間ではない・・・妖怪だ。
まだ距離はある。今のうちならこの危機から脱することができるはずだと考えた妖夢が空を飛ぶ体制に入る。
「どこに行くの?遊ぼうよ・・・。」
男は妖夢を追おうとはぜず、懐から出した鎌を倒れている女性の首に突きつけた。
「逃げたら・・・この人ころすよ・・・。」
線の細い子供の様な声の男が倒れた女性の首を少しづつ傷つけ始めた。
「ひひひ・・・楽しいなぁぁぁ肌がプチプチってぇどんどん切れていくよぉ・・・。」
今までにない恐怖感を妖夢は味わっていた。
その要因の全ては前方で楽しそうに女性の首を切るサイコ野郎によるものだ。
「君の肌はどんな風に切れるのかなぁ!!」
そう言った瞬間女性の首が切断され、真赤な鮮血が茶色の地面にぶちまけられた。
「にっ・・・逃げてないでしょ!!」
「うきゃああ!!」
男が狂気の叫びを上げながら妖夢に突進してきた。
ここまで来たらもう逃げる事など出来ない。目の前に迫る基地外を切り捨てるつもりで、妖夢は刀を抜いた。
4
「四人目のお地蔵さんだ!」
ミスティアは林を抜け、人里に近い道端で四人目を見つけた。
にこにこと微笑む地蔵には花が何本もお供えしあり、先ほどの者達よりも幾分か豪華な待遇だった。
「あなたには何をお願いしようかな〜。」
腕を組みながらミスティアは考える。くだらないお願いではこの地蔵に悪いのではないか、しかし本当に叶えたい願い
は、当に言ってしまった。
「よし、誰かの役に立てるようにお願いしよう。」
そう言ってミスティアは手を合わせた。そんなミスティアを優しい笑顔で、地蔵が見つめていた。
「これで残すはあと二つか・・・。この道の先に茶店があるみたいだから、お団子でも買っていこう。そしたら
丁度お昼ご飯にもなってお得だし!」
四人目の地蔵の前にボロボロになった妖夢が現れたのは、それから数分立ってからだった。
基地外男は自分へのダメージも気にせず狂ったような攻撃で妖夢を切りつけ、思いのほか手こずったが、
最後は刀で男の体を一突き。だが妖夢自身も体中に切り傷を負い、息を切らしてやっとここまでやってきたところだった。
「はぁ・・・はぁ・・・血が結構出てる・・・。ミスティアを捕まえるだけのはずなのに・・・・。」
微笑む地蔵にもう悪い事が起きませんようにとお願いをし、ミスティアが向かっていると思われる五人目の地蔵の場所へ
行こうとしたとき、妖夢の後ろから子供の声が聞こえてきた。
「ねぇ大丈夫?怪我してるよ。」
妖夢がびっくりして振り返ると、人間の少女がじっと妖夢を見ていた。
「・・・・何を企んでいる・・・・。」
「えっなにが?」
「何をする気だ・・・。」
「何をって?ねぇ怪我大丈夫?」
「だっ大丈夫だから、気にしないで・・・。」
「じゃあ良いお薬上げる。」
見ると少女の手には何かの薬のビンが握られていた。あまり数の多くないビンに入れられているところから見てきっと
そこそこ高価な薬品だろう。少女はビンを無理やり妖夢に持たせ、走って里とは反対方向へ走っていった。
「これ・・・何の薬だろう・・・。」
アイテム欄に謎の薬が追加されたところで、次の地蔵の元へ向かうべく道を歩き始めた妖夢。
前方から砂煙を上げてこちらに走ってくる連中は無視して、さっさと先に進もうとしたのだが・・・
「おい!あいつが持ってるビンは!」
「間違いねぇ!俺達のだ!」
無視どころか数人の男達に周囲を取り囲まれてしまった。
「なんですか・・・そんな怖い表情をして。」
「なんですかじゃねぁよ!とっとと薬を返し上がれ!」
騙された。この薬は盗品だ。
「そうそう、これ位の身長の女だった!」
「とうとう捕まえたぜ!」
「これはさっき人に貰った物で・・・盗んだものじゃ・・・。」
「うるせぇ、ちょっと教育が必要だな。」
刀を抜く前に男達が一斉に殴りかかってきた。
男達の輪の中で人間サッカーが始まった。もちろんボール役は妖夢。
「誤解ですって!ぎゃあっ私じゃありません!」
「馬鹿野郎!そんなこと信じられるかよ!くらえっくらえ!」
「ビンは返しますからっあっ・・・ぐぁ・・・。」
数分後
「おい、もう悪い事するんじゃねーぞ。今度は牢屋行きだからな。」
「ゲホッ・・・・うぐぐ・・・なんでこんな事に・・・。」
傷ついた体を必死に持ち上げる妖夢を地蔵がにこにこ微笑んで眺めていた。
「ミスティアは・・・もう五人目に会ったかな・・・とにかく進まないと・・・。」
自慢の楼観剣は既に完全な杖としての役割を果たしていた。
その頃ミスティアは道沿いにあった茶店で買った三色団子を口に運びながら、五人目の地蔵を目指していた。
「おいしいなー家の屋台でもお団子売ろうな〜。」
地図によると、五人目は人里の外れの道を迷いの竹林方面に進んだところに有るようで、ここからはそう遠くない。
「うーん、五人目のお地蔵さんには何をお願いしようかな・・・。」
普段ならポンポン出てくるはずの願い事は、何故こんな時に限って頭の隅に身を潜めてしまうのか?
だがそれも良い。行く先々で思いついた事を気まぐれにお願いしていくのも乙な物だとミスティアは考えた。
茶店で少し時間を潰したため、時刻は正午に近づいていたが特に気にする事もなかった。
地蔵の近くには丁寧に看板が立ち、迷わないように工夫されていた。
細い脇道に入り、少し進んだ所に五人目が居るようだった。
さぁ先に進もうとした時、背後でドサリと何かが倒れる音を聞いたミスティアはふと後ろを振り向く。そこには・・・
「やっと・・・見つけた・・・ミスティア・ローレライ・・・うっ!」
妖夢がバランスを崩し、堅い砂利道の上に顔面を強打しているところだった。
起き上がろうとする妖夢の前にいつの間にかミスティアが立っており、何とか刀を抜こうとする妖夢だったが・・・
「すごい怪我だけど大丈夫?」と言ってミスティアが傷だらけの妖夢に手を差し伸ばしてきた。
きょとんとそれを見つめる妖夢の腕を強引に握り、ミスティアは妖夢が立ち上がるのを手助けした。
「あ・・・ありがとう・・・・。」
「ねぇ何処かで会った事あるよね。私すぐ忘れるから何となくしか覚えてないけど。」
「あぁ・・・何回か会った事があるよ・・・弾幕勝負をした事もある・・・。」
「そうだっけ。そう言えば貴方も六地蔵巡りしてるんだ。」
「えっ・・・なんで?」
妖夢の上着のポケットから神社で貰った地図が顔を出していた。
「五人目はもうすぐそこだよ。一緒に行こう!」
「えっ・・ええっ・・・。」
焦る妖夢の腕を引っ張り、ミスティアが細い道を進む。朝から、盗賊に襲われ、熊を倒し、基地外と闘い、サッカーボール
になった妖夢はもはや、ミスティアを捕まえ冥界まで連れて行くなどということは出来ないほど疲れきっていた。
同じく、怪我も酷かった。妖夢は、手を引かれながら揺れるミスティアの羽を複雑な心境で見ていた。
「到着。以外と近かったね。・・・・怪我大丈夫?ゼェゼェ言ってるけど。」
「大丈夫・・・これ位・・・・。」
「そうなのかー。友達の真似。」
ミスティアは地蔵の前まで歩くと、腕を組んで五つ目の願いを考え始めた。
「・・・なにしてるの?」
「んっ?いや、なにをお願いしようかなーと思って。あなたはもう決めてるの?」
「いや、まだ決めてない・・・。」
「へぇー。・・・よし決まった!」
そう言うとミスティアは、地蔵に向かって手を合わせ、
「誰だか忘れたけど、怪我が良くなりますよーにっ!」
「・・・もしかして・・・私?」
「当然。」
この時の妖夢の心境をどう表現すれは良いのか。
心の奥底に碇が突き刺さったと言うか、割れやすい卵の殻を思わず割ってしっまたと言うか・・・。
「あっ・・・ありがと・・・。」
とにかく感謝した。これから彼女に降りかかるであろう運命を知っておきながら。
妖夢も地蔵の前に立った。今までに無いほど地蔵はにこやかに微笑んでおり、その笑みが妖夢の心を激しく揺さぶった。
「ミスティアが・・・何時までも・・・幸せでありますように・・・。」
叶わないと知っている願いを言ってしまい、地蔵の優しい笑顔が残酷な笑顔に見えてきた。
「ありがとう・・・。」
どうしようもない背徳感が妖夢を苦しめ始めた。自分は今からこの子を・・・。
「六人目のお地蔵さんのところに行こうよ!」
いや、まだ必ずしもそうなる運命と決まったわけではない。自分の未熟さ故の失敗と言う事にすればあるいは・・・。
その瞬間ミスティアが突然倒れ、背後に見慣れた人物が現れた。
それは冥界で今か今かと妖夢を待っているはずの・・・
「もう妖夢ったら、もうお昼よ。お腹空いて我慢できなくなっちゃった。」
「幽々子様!?どうしてここに?」
「妖夢が遅いからよ〜。こんな夜雀に手こずるようじゃまだまだね。」
幽々子は慣れた手つきで、気絶したミスティアの体を縛り上げ、背中に担いだ。
「それじゃあ白玉楼の戻るわよ。なんだか凄い怪我だけど空くらいは飛べるわよね。」
「はい・・・お先に行って下さい・・・。私は少し遅れていきます。」
幽々子はあっと言う間に空の彼方に消えていった。それだけミスティアを楽しみにしていたのだろう。
妖夢もその後を追ってゆっくりと空を登った。
傷が痛んだ。だがそれよりも心が痛んだため何時ものようなスピードで飛ぶ事は出来なかった。
二本の刀が何時もより重かった。
5
白玉楼の庭に焚き木による煙がモワモワと漂っている。
その隣には縛られたミスティア。幽々子は、彼女を文字どうり丸焼きにして楽しむ算段だった。
妖夢が白玉楼に戻った時まさに、ミスティアが火に焼べられようとしていた。
「お帰り妖夢。今から焼くわよ!」
「・・・幽々子様・・・。」
竿に後ろ手に固定されたミスティアは幽々子に軽々と持ち上げられ、灼熱の炎へと投げ込まれた。
突然の高温にミスティアが飛び起きるが、時既に遅し。火は体中を包み込み、
服と一緒に真っ白な肌をジリジリと焦がし始めた。
「ぎゃあああっ!?熱いっ熱いよ!!!」
「騒がない。縄が解けるじゃない。」
火に飲み込まれるミスティアは苦痛の叫び声を上げ必死にもがくが、徐々にその力も弱々しくなっていく。
肌や髪が焼け、真っ白い煙と共にミスティアの体は焼け爛れていった。
そんなミスティアが炎の外に居る妖夢を見つけたのは目蓋が溶けてくっつく寸前だった。
妖夢もしっかりとミスティアの視線を感じた。そして見逃さなかった。ミスティアが「たすけて」と言ったのを・・・。
当然、ミスティアはもう声も出せない状態なのだが妖夢はその悲痛な、自分へ向けた叫びを決して見逃がす事は無かった。
思想より先に体が動いたとはこのことだろう。
妖夢は炎の中に飛び込み、焼けるミスティアを抱きかかえ、そこから脱出した。
「ちょっ妖夢!なにしてるのよ!」
「ミスティア・・・ミスティア・・・・。」
名前を呼ぶが返事は無い。もう遅かったのだ。妖夢が抱きかかえる物はもうミスティアではなく、ただの真っ黒い
肉の塊となっていた。
「もう妖夢ったら。いくら食べたいからって火に飛び込むことはないでしょ。それにもっと焼かなきゃ中まで
しっかり火が通らないわよ!」
朝の怪我に加え、火傷も負った妖夢はそのまま白玉楼の中に退避させられた。
今頃はミスティアもこんがり焼きあがり、幽々子が花のような笑顔を振りまいている頃だろう。
「妖夢ー!出来たわよー!いらっしゃーい!」
襖の奥から幽々子の声が聞こえたが、妖夢はとても食事をする気分ではなかった。
「妖夢〜いらないの?全部食べちゃうわよ!」
「どうぞ!全部たっ食べちゃってください。」
震える声を悟られないように、腹のそこから妖夢は叫んだ。奥から幽々子の嬉しそうな声が聞こえて来た。
妖夢は無表情で畳の上に似転んだ。今ミスティアの事を考えたら・・・
どうしようもなくなった妖夢は、傷も癒えぬまま白玉楼を飛び出した。
「ありゃ?妖夢、どこに行くのかしら?」
昼が過ぎ、空には少しずつ雲が掛かり始めた。灰色の空の下を妖夢がふらふらと飛ぶ。
その内行き着いた場所はミスティアが捕らえられた五人目の地蔵の元だった。
妖夢はポケットの中にまだ入っていた少し焦げ臭い六地蔵巡りの地図を取り出した。
「そう言えば・・・まだ一人残っていた・・・。」
虚ろな表情で砂利道を進む。手を引いてくれるミスティアはもう居ない。が、妖夢は必死に歩き続けた。
ミスティアがそうしていた様に、砂利を踏み付ける音を立てて。
六人目は道の先にポツンと佇んでいた。
無表情な地蔵と妖夢の目が合うと、手を合わせただ一言こう呟いた。
「ごめんなさい・・・。」
その一言が引き金になり、今まで表に出さないようにしてきた感情が理性と言う器から滝のように零れ落ちた。
「許してください・・・・許してください・・・・・。」
地に膝を付き、涙をこぼしながら居なくなったミスティアに謝罪し続けた。
その内声も出せなくなり、冷たい地蔵の前で子供のように泣きじゃくった。
灰色の空は次第に荒れ始め、降り出した雨が泣き崩れた妖夢を強く打ち付けた。
end
ゆゆ様の料理がアバウトすぎるのは仕様です。
縛られたミスティアを上手く表現する事が出来なかったのが主な原因なのですが・・・。
ここまで読んでくれたみなさんには感謝感謝です。
と、言う事でさようなら。
十三
- 作品情報
- 作品集:
- 22
- 投稿日時:
- 2010/12/28 08:25:15
- 更新日時:
- 2010/12/28 17:25:15
- 分類
- 妖夢
- ミスティア
- 幽々子
これは妖夢ふんだりけったり
情に絆されたか、妖夢。
だから、妖夢は半人前なのだ。
妖夢はこのまま、完全無欠の半人前でいて欲しい。
素晴らしいお
毎回感動してるお
実に皆得。
妖夢(幽々子?)の役に立ったね!