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『幻想侵略記9』 作者: IMAMI
「なんだよ………これ」
魔理沙が向かった先、それは変わり果てた太陽の畑だった。
いつも太陽を見上げる向日葵は枯れ果て、それを育んできた土壌は腐りきり、蝶も蜂も飛んでいない。花の芳香が漂っていたはずのそこは今は得体の知れない不気味な臭気が支配していた。
――太陽の畑は死に絶えていた。
「幽香!幽香っ!」
魔理沙は大声で太陽の畑の上空を飛び回り、友人の魔法使いの名を呼んだ。
何が起こったのだろう。あの幽香の身に何かがあったのだろうか。魔理沙は箒を加速させた。
幽香の家が見えてくる。すると、その近くにある物が見えた。
「リグルっ!?」
魔理沙は幽香の家の前で横たわっている蟲の妖怪、リグル・ナイトバグの元へと降りた。
「………魔理沙かい?」
リグルは既に見えなくなり始めた眼で魔理沙の姿を捉えた。
「リグル!どうしたんだ!しっかりしろ!」
リグルの体はあちらこちらがボロボロに爛れ、深緑色の髪も所々抜け落ちていた。
「毒。らしい………幽香さんを殺した奴がここに毒を撒いたんだよ………」
リグルはまさに息も絶え絶えといった様でそう話した。
「幽香もやられたのか!?」
「幽香さんの体の一部が見つかった………」
なんということだ。あの幽香が殺されるなんて………
「幽香もかよ………!ちくしょう!」
「ここから少し南に行けば、幽香さんが死んだ場所がある。行ってみてくれないかな………?」
リグルの声はどんどん弱くなっていく。
「私はもう…たすからない…どうやら蟲や植物によく作用する…らしい」
「リグル………」
魔理沙はリグルの爛れた頬に触れた。
「あとひ…つ、お願いがある………
まり…さ、わたしに、とど…めを、さして………
くるしい…毒が…身体を………」
リグルの瞳孔は開きかけ、身体も小刻みに震え始めた。魔理沙はそんなリグルを見かねてマジックボムをリグルの傍らにいくつかの置いた。
「一分後、爆発する」
「ありがとう………まり…さ………」
魔理沙は涙を拭い、再び箒に股がって南へと飛び立った。
程なくして背後からの爆発音と振動が魔理沙を撫でたが、魔理沙は振り向かずに箒を走らせる。
リグルの言っていたらしい場所が見えてきた。爆発痕がいくつか残り、一際大きなものの中心にボロボロの巨大な鉄の塊が鎮座していた。
魔理沙はその鉄の塊の前に降り、それに触れた。どうやらこれが爆発したものと見て間違いない。だがこれは爆弾ではない。
「戦車…だよな………?」
以前、にとりと共に霊夢の友人の所に行ったときに見せて貰ったことがある。巨大な鉄の塊が深い轍を刻みながら進み、魔理沙の魔砲をも彷彿させる大砲を放つ姿には圧倒されたものである。
「まさか、やっぱり霊夢達が………!」
魔理沙が拳を握りしめ、装甲を殴り付けた。鈍い音が響く。あのにとりとすぐ打ち解けた少女と、おそらくあの剣士も霊夢側だ。
「………っ!」
強い魔力を背後に感じた。真後ろにかなりの手練れがいる。振り向かずに飛び立とうとしたとき、その魔力の質に気付いた。
「………幽香!?」
振り向いた。だが、そこには緑髪の白いブラウスと揃いのチェックのスカートとベストに身を包んだ見慣れた幽香は居なかった。
見慣れないオーブのようなものが半人半霊の剣士の半霊のようにふわふわと浮いていただけだ。
「幽香………なのか?」
幽香は霊体の姿にもなれ、かつてはその姿と常の姿を切り替えながら戦った。というのを本人から聞いたことがある。
「幽香………やられたのか」
幽香の霊体は悲しげに揺れた。魔理沙はそんな霊体に触れる。いつか感じた幽香の温もりその物だった。魔理沙は霊体を帽子の中に入れた。霊体は抵抗せずに魔理沙の頭上に収まった。
「アリスにも、会いに行こうな」
「待ちな」
パシュッ!
魔理沙が飛び立とうとすると、魔理沙の近くの枯れた向日葵が四散した。
自分と同じぐらいの少女の声。魔理沙は振り返った。
「霧雨魔理沙。まだ生きていたのか」
振り返った先にはどこぞかの船幽霊と同じような服装に魔理沙と同じ金髪の少女が武器のようなものを構えていた。
「お前は……いや、間違いなく敵だな」
魔理沙は金髪の少女に向き直る。自分としゃべり方も似ているようだ。
「お前を優先して殺すように連中に言ったのに……返り討ちにしたのか?なら大したもんだ。あいつらは人間だが、あちこち改造されてるからな」
「改造?」
魔理沙はおうむ返しに聞き返した。
「ああ。そうだとも。この箱庭の外の世界よりも"進んだ"世界の技術と、夢美様の解明した魔法であの怪物を創ったんだ」
「訳がわからないな。外の世界にも魔法なんてあったのか?」
魔理沙は八卦炉を突きつけたまま訊いた。すると、金髪の少女はあっけらかんと答えた。
「いいや。無い」
「はぁ?」
「外の世界で魔法がどうのとか言おうもんなら、マンガやアニメ、あー…、夢物語に影響された哀れな奴か狂人と見なされる」
「その、夢美様とやらは狂人なのか?」
「………そうかもしれないな」
と、そこで金髪の少女は首をふってそう答える。
「だが、世間が夢美様を否定しても、私は夢美様の助手だ」
「なぁ、最後だ。最後に一つ教えてくれ。
……お前らの目的はなんだ?」
魔理沙は、涙をこらえて訊いた。
「なんで、幻想郷を攻撃するんだ?なんで、幻想郷なんだ?私の連れがお前の下っぱに訊いたら、詳しいことは聞いてない。とのことらしいじゃないか」
「………お前に言ってもわからない」
金髪の少女が言葉に詰まったのを魔理沙は感じた。
「いいから話してくれよ。私とお前、同い年ぐらいだろ?
頭の出来はそんなに変わりないだろ?」
魔理沙は言うが、単純な知能の差では魔理沙と大学教授の助手を務めるこの北白河ちゆりとではかなりのものがある。ちゆりはそのことには触れず、話し始めた。
「そうだな。夢美様は科学の世界で魔法を信仰した。
夢美様は魔法を信じて、魔法を探求した。結果、数ヶ月前にたどりついたのがこの幻想郷だ。そして、夢美様は私と二人で幻想郷の住人、博麗靈夢に挑んで負けた」
「はぁ?おかしいだろそれ!
数ヶ月前なんて、何も起こっていない!お前らが来たなんて話は聞いてないぞ!それに、霊夢もそんな様子はなかった!」
と、魔理沙。本当に何をいっているのか理解出来ない。
「ああ。私達は別世界の人間だ。私の世界と幻想郷は時間の流れのズレがあるんだぜ。
私達は靈夢に負けてから数ヶ月しか経ってないが、幻想郷では十年程度経っている」
「………それもおかしいな。
もし、幻想郷の十年前にお前らが来たとして、霊夢はまだ子供のはずだ。博麗の力もまだ未熟な霊夢にお前らがやられるとは思えない。それにそんな話も聞いたことないな」
「………」
言われてちゆりは首を振った。魔理沙はそれに突っ込んだ。
「なんだよ。稚拙すぎる嘘だったのか?」
「理由はわかっていないんだ」
「何だと?」
再びちゆりは説明する
「何がこの幻想郷に起こったのか、全く解っていないんだ。
幻想郷の十年程前に戦った博麗靈夢は服装や髪の色は違えど、それ以外は全く変わらない、紛れもない博麗靈夢だ」
「………」
「ちなみに言うなら、霧雨魔理沙。お前も十年程前の幻想郷にいたんだぜ。服装は違うが、髪の色は金髪だ。あと口調は少し違うな。もっと女の子みたいな口調だったぜ」
「………私は昔からこんな口調だったぜ」
物心ついた頃からこう魔理沙は喋っていた。
「でも、たしかにここで十年程前私と夢美様は戦い、負けた。そしてそれからまた来たら、こうなっていた。博麗靈夢は黒髪になって、霧雨魔理沙は男言葉になっていた」
「……どういうことだ?何かの間違いじゃないのかよ」
「事実だぜ。平行世界ということも考えたが、軸は全てあっている。正真正銘ここは私達が破れた幻想郷なんだよ」
と、そこでちゆりは一拍おいた。
「恐らく、幻想郷の基盤そのものがひっくり返ったんだ。なんて言えばいいんだろうなぁ?
幻想郷が創り直された。って事だな。八雲紫よりも幻想郷に力を与えている怪物にな」
「………そんなもの、信じられるかよ!」
「私も信じられない。だが、ここは幻想郷だぜ。
これは夢美様と私に幻想郷へのリターンマッチなんだ。本気を出させて貰ってるぜ。紅い屋敷も、この向日葵畑も、冥界の屋敷も陥落した。そして竹林の屋敷の陥落も時間の問題だ。
さぁ、もういいだろう。説明は終わったんだぜ」
と、そこでちゆり右腕を上げる。すると、向日葵の物陰に隠れていたものが姿を表した。
「いい趣味だな」
赤や白の髪をしたメイド服に身を包む少女達──ちゆりの元で量産されたる〜こと部隊だ。数は七体もいる。
「全員ロボット。いわゆる人形だぜ。
───殺れっ!」
人形が一斉に動き出した。
「っ!」
物言わぬ青髪の人形が袖口から伸びる刃を魔理沙に突き立てようと突きを放つ。
魔理沙は魔力を込めた箒でそれを捌くと、そのまま上空へと飛翔した。
そして今度は八卦炉に魔力を注いだ。照準の先にはちゆりがいる。
魔符「ドラゴンメテオ」
「!?」
魔理沙の魔力から凄みを感じとり、慌てて黒髪と白髪のる〜ことにシールドを展開させる。
「はぁぁぁぁぁあっ!」
極太レーザーが八卦炉から放たれ、ちゆりを守るシールドに直撃する。
轟音と土砂が巻き上がり、ちゆりの視界が塞がる。
(いきなり大技を……!!)
シールドはさっきの一発で消し飛んだ。連弾を食らったらまずい………
赤髪のる〜ことが風を巻き起こし、ちゆりの視界を確保する。どうやら魔理沙は動かずに待つらしい。ならこちらは攻めさせて貰おうか。
ちゆりは光線銃を構えた。夢美のものと違って威力は劣るが、生体を感知して軌道を修正する特性と速い弾速がある。
まずは三回、魔理沙に向かって引き金を引いた。高度に威力を制御されたプラズマ弾が光線銃の先端から放たれる。ちゆりの目に魔理沙のふくらはぎに光弾が当たるのが見えた。
(あの高さで正確に狙わなくても当たるのか…
──!?)
ならガンガン打ち込んでやるとしよう。
ちゆりが引き金をさらに引こうとしたとき、魔理沙の箒が魔力を纏い、魔理沙ごとちゆりに猛スピードで迫ってきた。体当たりを仕掛ける気か。魔女のくせに──!
(まずい!)
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」
ドゴォォォォォッ!
魔理沙の体当たりは白髪のる〜こと両の掌に寄って受け止められた。
「くっ……」
「殺れっ!その魔女を殺せ!」
ちゆりの号令でる〜こと達が魔理沙を取り囲む。
「いいぜ……いくらでもやってやる!」
魔理沙は箒と八卦炉を片手に、る〜こと達と対峙した──
「はぁ…まだまだ暑いわね…」
レティ・ホワイトロックは日に当たらないようにしながら獣道を歩いていた。
「チルノ…どこにいるのかしら……」
レティは異変の気配を察知して、妖精の住み処まで向かった。だが、そこには惨殺された妖精の屍が転がっているだけだった。
数百匹の妖精の死体。
顔は姿は殆どが判別出来たが、チルノや大妖精などの一部の知った顔の妖精の死体は無かった。
と、いうことは恐らくどこかに逃げ仰せている。レティはそんなチルノを探していた。雪ん子という種族の特性上、レティは冬以外の季節では殆ど能力を発揮できない。だが、冷気や寒気を操るチルノと居れば、冬でなくてもある程度の力は発揮できるのだ。
「……あれは──」
そのとき、レティの視界に烏天狗が三体入った。幸運にも今までレティは幻想郷を侵略せんとする人間やその手下となった妖怪に出会ったことがなかった。だが、それは同時に不運でもあった。
「あなたたち……何をしているの?」
レティは三人の烏天狗にのこのこと話しかけたのだ。侵略者の手下である確率が高い烏天狗に───
「………」
烏天狗達は答えない。
烏天狗の一人は女性らしく、木に貼り付けにされて衣服引き裂かれ、身体は血と泥と白濁にまみれている。
二人は烏天狗の男性で、一人は木に寄りかかっており、もう一人は岩に腰かけている。
三人ともぴくりとも動かない。
「ねぇ……」
レティは恐らくふたりに凌辱されたのであろう女の烏天狗に近寄った。
「……射命丸?」
近寄ってレティはその烏天狗に見覚えがあるのがわかった。幻想郷をチョロチョロしている黒髪の烏天狗だ。首には赤い手形があり、男の烏天狗の怪力で絞め殺されたのであろうことがわかる。
そして締め殺した男の烏天狗の姿はさらに異様だった。
全身に不気味な紋様が浮き上がり、目を見開いた目はどこもみつめることはなく、虚ろに開かれた口からは涎が垂れている。
「………ダメね」
体温を全く感じない。この二人も死んで、いや、殺されている。
「……行かなきゃ」
レティは踵を返して再び歩きだした。三人が見えなくなった頃、前方に一人の人間が見えた。
「! あなたは!?」
人間がレティに向かって声をかける。緑色の神に青を基調とした巫女服。東風谷早苗だ。
「レティ……さんですよね?」
「ええ…」
レティは敵意がないことを理解して相づちを打った。
「初めまして。東風谷早苗です。チルノちゃんを探しているんですか?」
早苗はレティの様子から判断して訊いた。するとレティの様子が一変した。
「チルノ知ってるの!?」
「はい。人間の里に居ますよ。親切な人間の方が助けてくれてました」
「ああ……」
安心のあまり全身から力が抜け、視界が滲む。レティにとってよくなついてくれるチルノは自分の娘のようなもの存在だった。
「人間の里に来ますか?」
「ええ。でも、ちょっとまってくれる?見てほしいものがあるの。ついてきてくれるかしら」
レティは早苗にそう声をかけて先ほどの烏天狗の死体がある所まで二人で行った。
「烏天狗…ですね?
この方は!? 嘘っ……!」
早苗は凌辱された文の姿を見て崩れ落ちた。
「余り見せたくなかったんだけど………仲が良かったかしら?」
「私を身を呈して助けてくれたんです……こんな……酷い……」
そんな早苗を見てレティは悪いことをしたな。と思いながらも聞きたかったことを聞いた。
「それで、ちょっと見てくれるかしら。呪いのような物で殺されていると思うの」
レティは烏天狗の全身に拡がる刺青を示す。早苗は烏天狗の刺青に触れた瞬間、飛び退いた。
「!」
「早苗?どうしたのかしら」
「この魔力…あの三白眼、
私の霊力を吸い取った男の物です!」
早苗は悲鳴混じりに叫んだ。
「きっとそいつが何人かの烏天狗や鬼を式神のように使役してたのです!」
「でも、じゃあ、なんでこの烏天狗は…」
「プリズムリバーさん、ご存知ですか?彼女達の長女のルナサさんが傷を負って人間の里に来たんです。
その彼女から聞いたのですが、三白眼の男は幽々子様が自分の精神を引き換えに殺した。と──」
「つまり、式神を操っていた術者が死んだから式神も死んだ。ってことかしら」
「はい。普通は式が剥がれるだけなのですが…
とにかく、人間の里に行きましょう。そして、このことを慧音さんに報告しに行きます。それで、文さんを埋葬してもらいましょう」
「死体は私が運ぶわ」
レティが烏天狗の死体を背負う。
「大丈夫ですか?かわりばんこでも…」
「この状態でも人間よりは力が強いわ。行きましょう」
「手こずらせやがって…」
ちゆりは息を切らせて言う。その視線の先にはる〜こと達に組み伏せられた魔理沙がいる。
「はぁっ… はぁっ…」
服も体もボロボロではあるがまだ瞳で魔理沙はちゆりを睨み返す。
「そんな目をしてもお前は終わりだぜ。魔理沙を立たせな」
る〜ことに命じ、魔理沙は左右の腕を立った状態でホールドされる。
「さて、このせめてこの服らしく銃殺刑にしてやろうか」
ちゆりが光線銃を魔理沙に向けた。
「……命乞い、していいか?」
「ダメだ」
魔理沙は顔を上げてちゆりに訊くが、ちゆりは黙って首を振る。
「どうしてもか……?」
「ああ。お前が生きてると都合が悪い場合がある」
「そうか、仕方ないな……」
そして魔理沙は不敵に言い放った。
「じゃあお前の敗けだ」
「!?」
そのとき、ちゆりの側まで忍び寄っていた緑色の帯状の光がすばやく、ちゆりの身体に巻き付いた。
「これはっ──!?いつの間にっ!?る〜ことの反応も──」
「嫉妬心は人形には見えないよなぁ」
ゴギャッ!
それと同時にどこからか飛んできた拳大の石礫が魔理沙の右肩を掴んでいたる〜ことの胴体を貫いた。それにより拘束が半分解けると、魔理沙は零距離で魔力で精製したレーザーを左肩を掴んでいたる〜ことに放った。それにより魔理沙の拘束が完全に解けた。
「勇儀!」
「おうっ!」
向日葵の陰から現れた語られる怪力乱心、星熊勇儀が全力の拳を逆に拘束されたちゆりに放った。
人間を殴ったとは思えない音と共にちゆりの身体は宙を舞い、遥か彼方へと墜落した。
「さすが勇儀ね」
ちゆりを光の帯で拘束した橋姫、水橋パルスィも遅れて向日葵畑から現れる。
「魔理沙。下がってな。残りの人形を片付ける」
勇儀が魔理沙にそう声をかけ、拳を打ち鳴らす。だが──
「その必要は無さそうだぜ」
他のる〜ことは立ったまま微動だにしていなかった。
「うん?どうなってるんだ?」
勇儀が赤髪のる〜ことを脚で突いて倒した。る〜ことはマネキンのように倒れた。
「多分、あいつ遠くに逃げたんだな。多分遠隔操作が効かないタイプなんだろう」
「逃げた!?勇儀に本気で殴られて逃げられるなんて──」
「いや、殴ったときの手応えがおかしかった。恐らく強力な緩衝素材で作られた服を着ているんだな」
勇儀が拳を振って言った。
「私のことすぐにわかったの?」
「ああ、嫉妬心には晒され慣れてるからな。助かったぜ勇儀。パルスィ。
しかしお前達。地底にいなくていいのか?」
「うん。用事があるのよ。萃香を連れ戻しに来たの。今帰る所よ」
パルスィが答える横で勇儀はる〜ことを破壊していく。
「萃香か?見当たらないようだが、霧化したのか?」
「死んでたよ」
勇儀は最後のる〜ことを粉砕して声だけで答えた。
「えっ……」
「死んでた。萃香は殺された。博霊神社でな」
どかっと開けた場所に座る勇儀。
「向こうに萃香の棺桶がある。お前さんを助けるために放り出したが、見るか?」
「いや、いい…」
魔理沙はそう答えて勇儀とパルスィの顔を見た。
なんでもないことのように二人は言ったが、魔理沙にはわかった。いや、他の誰が見ても無理をしているとわかるような顔。そんな顔を二人はしていた。
でも、魔理沙は聞きたかった。二人の意見を。
「やったのは、霊夢か?」
「十中八九そうだろう。萃香の傷は博霊の術によるものだった。
霊力を込めた槍だか棒だかに背中から貫かれて死んでたよ」
「それじゃあ──」
「巫女は神社に居なかった。どこかに隠れて様子を見てるんだろう」
「霊夢っ………!」
あんなに仲が良かった萃香までにも霊夢は手をかけたのだ。
香霖を殺した奴もそうだが、霊夢も許せない。
「友人のお前には悪いが、見付け次第、始末つける」
「悪い。なんて思うなよ。
あいつは……もう敵だ」
魔理沙は溢れた涙を拭い、そう言い放つ。
「そうか。わかった。
私達はもう地底に戻るが、お前はどうするんだ?」
「命蓮寺に連れ二人を待たせているから戻るよ」
「気をつけて」
「おう」
こちら、永遠亭。
真夜中になっても明るい病室でてゐは目を覚ました。傍らにいた輝夜がてゐに声をかける。
「あっ、起きた」
「……姫様」
てゐは永琳の治療を受け、病室に寝かされていた。てゐの最後の記憶はメイド服を着た連中に鞭で滅多打ちにされている所で途切れている。よほど強力な物だったらしく、一発で皮膚が裂けたのだ。
「連れてこられてから半日経ったわよ」
「……」
てゐはぼんやりと回想する。
たしか、自分と鈴仙が敵に捕まったのだ。最初は鈴仙が人質にとられ、蓬莱の薬を渡すように迫られた。出ないと鈴仙は凄惨な拷問の後に殺される。と。
てゐは断った。自分の主人を守る蓬莱の薬はいかなる場合も渡してはならない。たとえ恋人や自分がどんな目に会おうとも。鈴仙や自分を拷問したければ好きにするがいい。
『そうか。因幡てゐ。狡猾なお前さんがそう来るとは意外だったぜ』
水兵服を来た白黒のような女がそう言ったかと思うと、今度は自分を捕縛した。そして鈴仙に同じ要求をした。
鞭で殴られようが、ナイフで耳を貫かれようが、塩水をかけて電流を流されようが、自分は叫んだ。
蓬莱の薬を渡してはいけない。
だが、鈴仙はその条件を呑んだ。自分を解放する代わりに蓬莱の薬を三日後盗んでここに来る。と。
だが、自分は鈴仙が上手く逃げるのだと思っていた。
いくら自分を愛した鈴仙でも、蓬莱の薬を持ってくる程愚かではないだろう。自分は死ぬが構わない。蓬莱の薬の秘密を、心の中では尊敬する主人を守って死ぬのだ。本望だ。
だが、今自分は治療を受けて永遠亭にいる。と、いうことは──
(渡したんだ。蓬莱の薬)
てゐは輝夜の顔を見る。艶やかな黒髪に縁取られた硝子細工のように洗練された顔。
「ねぇ、イナバ。話しにくいだろうけど、敵に捕まってたんでしょ?何か情報、あるといいんだけど」
輝夜が訊いてくる。てゐは首を振った。
「ごめんなさい。話せません。
そんなの、もう──」
意味が無いですから。
そう最後までてゐは言葉を紡げなかった。
「うえぇぇぇぇぇぇん!!」
いきなり声を上げて泣くてゐに輝夜は困惑する。
「ちょっとイナバ──どうしたの?
……そう。怖かったのね」
「違うんです…!違うんです姫様ぁ…!」
輝夜はてゐの身体を痛くしないようにそっと抱き締めた。
「大丈夫よ。永琳や"鈴仙"が、敵を討ってくれるから。
だから泣かないで。"てゐ"」
「え……?姫様っ…名前……!」
「あのねぇ、私は仮にも永遠亭の当主でかつては人間に姫とまで呼ばれたのよ。名前と顔、だけじゃないけどそれぐらいは覚えるわよ」
さらっと言う輝夜。
「……姫様」
「普段は言わないけどね。照れ臭いし」
「うう…
ぐすっ……!」
「ほら、泣かないでったら。
わかったわ。落ち着いたら永琳にでも私にでも話しなさい」
輝夜が立ち上がると、てゐはそれを引き止めた。
「何?」
「鈴仙、呼んできてくれますか?」
「ええ。いいわよ。二人きりで話したいこともあるでしょうからね」
輝夜が去ってから数分して、鈴仙が病室のドアの前まで来た気配がした。
「入って」
「……」
ガチャ。と扉が空いて、自分を助けた本来ならば恩人の後輩であり愛する玉兎、鈴仙が現れた。
「てゐ……どう?怪我は」
「本当ならもっと酷くなってる予定だったね」
鈴仙の心配に対して冷たくあたるてゐ。
「なんで助けたの?なんで蓬莱の薬を渡したの?」
恐らく奴らの事だ。蓬莱の薬の現物さえあれば中和薬を作ることが可能だろう。唯一の希望が鈴仙によって砕かれたのだ。
「てゐが、大事だから」
泣き笑いのような表情で鈴仙は答える。
「そう」
暗い声でてゐが言うと、てゐは枕元にあった果物ナイフを取って鈴仙に突き立てようと降り下ろした!
「きゃあっ!?てゐ、何を……」
「恋人として償わせてやる!鈴仙の罪を償わせてやる!
死ねっ!死ねぇっ!」
病み上がりの身体で逃げ回る鈴仙を追いかけるてゐ。
「てゐ!やめてっ!」
鈴仙はてゐの両手首を掴むがてゐは力を緩めない。
「死ねっ!死ね死ねぇっ!」
叫ぶてゐ。
「誰かぁっ!誰か来てっ!」
鬼の形相のてゐに恐怖した鈴仙もそう叫んだ。
「ウドンゲ!?どうしたの!?」
すると、丁度通りがかったらしい永琳がドアの外で声をかけてきた!
「師匠!師匠っ!来てください!」
鈴仙が必死に助けを呼ぶと鈴仙はドアを上げて部屋に入り込んできた。
「てゐ!やめなさい!」
永琳がてゐの強行を目撃して、てゐのナイフを封じながらてゐを羽交い締めにした。
「放して!放して!放せ!」
「てゐ!どうしたのよ…」
「わぁあああああぁん!!いやだぁぁっ!!うぇぇぇんっ!」
「てゐ……」
今度はいきなり泣き出すてゐに永琳は困惑する。
永琳は鈴仙に向き直った。
「ウドンゲ。あなたはいいわ。もう下がりなさい」
「えっ、でも……」
鈴仙は狼狽える。もしかしたらてゐは蓬莱の薬を渡した事を話してしまうかもしれない。
「いいから。ね?私に任せて」
「……はい」
食い下がっても怪しまれてしまう。鈴仙は自室に戻ることにした──
0いれてとうとう10作目となりました。IMAMIです。
久しぶりに戦闘シーン書いたらこの出来!来るべきときのために練習しよう……
幽香の霊体云々は東方幻想郷の中ボスからです。幽香りん大復活!ってわけでもないか…
ちゆりの言っていることの意味は魔理沙やちゆりや夢美よりも、このSSを読んでいる皆様のほうがお分かりになると思います。
しかし、このネタってアリなんですかね………
リグル・ナイトバグ 太陽の畑に撒かれた猛毒の霧を吸い込み瀕死の重体となる。魔理沙に葬られる。
射命丸文 烏天狗に捕まり、凌辱されたのち殺害される。
IMAMI
- 作品情報
- 作品集:
- 22
- 投稿日時:
- 2010/12/29 13:28:30
- 更新日時:
- 2010/12/29 23:15:53
まさか…、教授殿ご一行がやってきたのは、箱庭の世界ではなく、磁気を帯びた円盤の世界か!?
だったら、世界のバランスを乱す『不正(チート)』を正すことも無かったことにすることも可能か。
…でも、それが出来るのは『本当の外の世界』の人間だからな…。
上記は私の推測ですけれど、IMAMIさんが考えたとおりでかまいませんよ。面白いから。
いい加減、霊夢が不憫でしょうがないので何とかなりませんか?
続きが楽しみでしょうがありません。
そう難しく考えずに!
ちゆりの言う怪物はここを訪れる大半の方は名前も顔もしってます。会話したことある方もいるのではないでしょうか?
そしてその怪物は幻想郷に対するあらゆることが許されています。
毎回ハァハァ言いながら読んでる
私そいつに会ったなあ…
前回までの内容忘れすぎて復習が必要だぜ。
俺のおつむが悪すぎて困る。