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『さとりなグルメ』 作者: みづき
がらがらと安っぽい騒音を立てるタイヤに眉をしかめつつ、八雲藍は馬でも入れられそうな巨大な檻を地霊殿の門前まで引っ張ってきた。
すきまから檻が完全に出たところで三次元空間に作られた二次元の裂け目が閉じ、檻の屋根に腰掛けていた紫がひらりと舞い降りる。
地底の小さな太陽が作り出す日光を日除け傘で遮り、紫は門前で待ち構えていたさとりに微笑みかけた。
「ご機嫌うるわしゅう。ご注文していた品をお届けに上がりました」
「ご苦労様です。さっそく品定めをさせていただいてもよろしいかしら」
「もちろんですわ。藍、鍵を開けてあげて」
袖に両腕を入れたままの体勢で深く主に頭を下げた藍は、袖から取り出した鍵を指の太さもどもある錠前に差し込み、檻の扉を開く。
檻の中に入り込んださとりは細い目をさらに細めさせ、口元に笑みを称えてその中に閉じ込められた生き物を見下ろした。
四肢は四つ。全身の毛はごく薄く、頭頂部と性器周りにだけ体毛が生えている。大きさは大きな犬ほどもあるだろう。
学名ホモ・サピエンス。いわゆる人間である。
檻の中には、ざっと二十人ばかりの人間が詰め込まれていた。皆一様に薬品の効果で裸のまま眠っており死体置き場のような雰囲気が漂っている。
内容は概ね皆年若い男女ばかりだが、三、四人ほど十代になるかならないか程度の子供も混じっている。人種は様々で、皮膚の色は取りとめがなかった。
藍が書類をぱらぱらとめくりあげる。
「こちらがこの者らの健康診断書になります。首輪の番号と顔写真を照合して、ご参考ください」
「ありがとうございます。残念ながら寝てしまっていますので心の方は検分できませんが、肉の品質は悪くなさそうですね。特にこの娘の腿など、なますにすれば絶品でしょう。どうです八雲様? せっかくはるばる地底にまでいらっしゃったのですから、地獄の味を楽しんでいかれては?」
少女らしい弾むような声色で、さとりは喜色満面と紫を食事に誘った。
この人間たちは、地霊殿に卸された食肉である。
地底と地上が繋がりを断って、長い年月が過ぎ去った。その分厚く古い壁を外界からやってきた神が穴を開け、新たな風と光を吹き込んだ。
その恩恵と迷惑を真っ先に受けたのがこの地霊殿である。さとりのペットたちは元気良く地上を遊び回り、お燐などは時々死体をおみやげに持ってくることもあった。
もちろん主人のさとりは、ペットの愛情こもったおみやげを無碍にするはずもなく、美味しく料理して食卓に華を添えさせた。実に数百年ぶりに食べる人肉の味に地霊殿は賑わい、ペットも主人もその妹も朗らかな笑顔を咲かせたものだった。
しかし、そういうことが続くとより良い食材を求めたくなってしまう。だがさすがに幻想郷の数少ない人間を生きたまま攫い、食べてしまうことははばかられた。そこでペットたちの仕入れた情報が「紅魔館という所では新鮮な人間の生き血を出すらしい」ということだった。
そこから仕入先を調べ、幻想郷の結界管理人に辿り着いたさとりは、こうして大量の新鮮な人間を手に入れることができたのである。
あまり感情を表に出さず、いつでも陰鬱そうな雰囲気を漂わせるさとりが、今日ばかりは本当に嬉しそうに微笑んでいた。その喜びようをにこりとした微笑みで観察していた紫は、残念そうに首を振る。
「申し訳ありませんが、私は地上の妖怪の代表とでも言うべき立場の者です。いずれ地上と地底の交流はもっと公に広まってゆくでしょうが、今はまだ時期尚早というもの。会食の機会は、また後日ということに」
「そうですか……残念なことです。ですが、今度その機会が訪れた時はこの素材を繁殖させて研究した、地獄の人肉料理を振舞うことを約束しましょう」
「ええ、ぜひとも楽しみにさせていただきますわ。では、何か不都合な点がありましたら、藍を経由してご連絡を」
微笑みと礼を残し、紫と藍はすきまに呑み込まれて去って行った。
さて、とさとりは檻の方に向き直る。眠り込んだ人間一人一人をつぶさに観察し、どのように調理しようかと悩む時間は中々の至福の一時であった。
「お姉ちゃん、よだれ」
「おっと失礼……って、よだれなんて垂らしていないじゃありませんか。というかいたのならもっと早く顔をお出しなさい、こいし」
袖で口元を拭って何も付着していないことに気づいたさとりは、いつのまにか檻の中に入り込んで人間を観察していた妹に呆れた声を送る。
こいしはにぱっ、と笑顔を咲かせ、一人の女の腕を持ち上げた。上半身がやや起き上がり、こいしのぴょんぴょんと跳ねる動作に合わせて乳房がだらしなく揺れる。
「お姉ちゃん! 私、これ食べたい!」
「ふーむ、雌はできるだけ繁殖用の母体として残したいのですが……こいしのお願いなら仕方ないわね。でも、今回だけよ?」
「やった、ありがとうお姉ちゃん! じゃ、今日は晩御飯の時間までにちゃんと帰ってくるからねー!」
そう言ってこいしはハートを撒き散らかしながら空中高く舞い上がって行った。そんな妹の様子にやれやれと肩をすくめたさとりは、ふと思いついたように唇を吊り上げる。
「こいしのために一人捌くのなら……主の私が一人くらい、丸ごと貰っちゃっても構いませんよね?」
もちろん、その独り言に返す者は誰もいなかった。
腕から肩にかけてかかる、突っ張るような痛みと痺れ。息苦しさと口周りに覚える不快感。そして肌寒さが彼の意識を覚醒させた。
まず彼が目を開く前に気づいたことは、ここは自室の煎餅布団でもなければ、深夜の電車の座席でもないということだった。ならばここはどこか――そういう思考が意識に上る頃には、既に彼の瞼を開いていた。
だが、瞼を開いても夢の続きとしか思えない光景が目の前には広がっていた。
大気の色はオレンジだった。ぶわりと生暖かい風が異様な臭気と共に舞い上がり、火の粉を散らす。海外の古い教会みたいな渡り廊下がゴシック調の洋館と繋がっており、異形の鳥の姿を象ったステンドグラスがオレンジの光を極彩色に照り返す。
そして、それは外界の出来事だった。
彼は屋内にいた。
もっと正確に言えば、檻の中に閉じ込められていた。
付け加えれば、手枷を嵌められた両腕によって吊るされ、さらに首輪に繋がった口枷まで嵌められ言葉を喋ることができない状態だった。
極めつけ、下着どころか何も身につけていない全裸だった。
「おや、また一人起きたようですね」
喉の奥で笑いを押し殺したような少女の声が聞こえて、彼はそちらに首を巡らせた。長い間妙な体勢で強張っていた筋肉は、それだけの運動でオイルの差し足りない機械のように痛んだ。
十代に手が届いたばかりといった年頃の、やけに目を細めた少女が彼をにやにやと見つめていた。
特徴的な少女だった。髪の色や妙な服装もそうだが、ぎょろぎょろと蠢く胸の目玉のアクセサリーが、まるで生きているようで不気味極まりなかった。
そこで彼は、熱風に体を撫でられて自分が裸であることを思い出した。年端もいかない少女に、公衆トイレで同性にすら見せたくも無いペニスを晒していることに気づいて羞恥を憶えるが、太腿をみっともなく擦り合わせることくらいしか彼にはできない。
その様子を見て、さらに少女は唇の端を吊り上げる。股間のモノが、危機に関係なく反応して血が溜まって行くのを彼は自覚した。
「ふむ……あら、こちらも目覚めたのね。おはようございます」
にやにやとした笑みを、彼女はまた別の方向へと向ける。なんとなしに彼はその方向を視線で追い、ぎょっとした。
鉄格子に覆われた檻の中には、彼以外にも十人ばかしの男たちがやはり全裸で拘束されていた。肌の色も体格も様々で、言葉が通じそうな顔すら見つけられない。
その内の何人かは既に起きているようで、彼や今少女に視線を向けられている男に注目しているようだった。
一体何がどうなっているのか――確か、自分は残業を片づけて終電間近の電車に飛び乗り、帰宅するところだったのではないか。だが、そんなことは毎日のよう続いて、本当に今意識が目覚める直前の行動だったのか、どことなく彼は自信を持てなかった。
ここはどこか、一体なぜこんな状態になっているのか、目の前の少女はなんなのか――ぐるぐると疑問が頭の中で空回りし始めた頃、どうやら彼を含む拘束された男たちは全て目を覚ましたようだ。
少女は嬉しそうに、腰掛けていた椅子から立ち上がる。そして何も言わず、左から右とゆっくり歩きながら、横目に男たちの瞳を見つめて行った。
自分の順番が近づくにつれ、彼は股間に血が集まるのを感じ、どうにか止めようとした。
彼は自分が児童性愛性癖者――いわゆるロリコンだということを深く自覚していた。
道路や公園を無防備に駆け回る少女を見ると、どうしても目を止めてしまう。夏場に薄着で出回る少女たちが、その薄い布地から未熟なボディラインを晒していることに気づかず親に甘える姿を見て、どきりとしてしまう。ウィルス感染を恐れずネット上からかき集めた少女たちの裸体画像容量は、下手な同人ゲームよりずっとデカい。
だが、そんな彼にも一つだけ矜持はあった。それは異国のまだ初潮も迎えていないであろう少女が、無表情に慣れた様子で股を広げ、醜く太った白人のペニスを咥え込んでいる動画を拾ってしまった時に覚えた感情だ。
現実に、こんなことをやってしまってはいけない。
こんなかわいそうな少女が、一人でもこの世から救われますように。
そう願った人間が――少女に自分の裸体を見つめられて勃起していいわけがない。
「じー……」
戯れるかのように、少女は自分で擬音を呟きながら男たちを検分するかのように見つめ、ついに彼を真正面から捉えた。
少女と初めて目を合わせて、彼は羞恥と共に違和感を覚えた。
視線の数が、若干多い。
それが少女の胸に飾られた目玉形の、奇妙なアクセサリから発せられる視線だと気づいた。不気味さに怯え、彼は少し目線を逸らし、少女の胸元に目が行ってしまう。
――服の上からこのくらいなら、ようやく胸が膨らんできたばかりの頃合か。
そう考えてしまったとたん、少女がくすりと音を立てて笑った。
「っ?」
下がっていた視線を上げ、少女の顔を見ると、彼女は既に次の男を検分していた。
嫌な予感で跳ね上がる心臓の音がやけにうるさい。彼は少女を視線で追い続けた。
少女は、最後の男まで検分すると、今までの歩調から打って変わった素早い歩みでかつかつと檻の中を戻ってゆく。
そして、彼の前で立ち止まった。
「あなたに決めました」
悪戯っぽく笑うと、彼女はぱんぱんと手を叩いて声を張り上げる。
「これを待ってついて来てちょうだい」
「はーい」
どこから忍び込んできたのか、赤毛の娘が少女の傍らに現れ、元気良く答えたかと思うと彼の手枷に手を伸ばし、何やらがちゃがちゃと弄ったようだ。
突然、ぶら下げられていた腕が下ろされ、足りなかった血が一気に下り、そして固まっていた筋肉が無理な運動で収縮され、悲鳴を上げる。そんな苦痛に口枷を嵌められたまま呻く彼を無視して、赤毛の娘は彼を引き摺るようにして、正に『荷物』として扱ったまま、前を行く紫髪の少女を追った。
彼は屋敷の地下へと運ばれた。
床から暖かな熱が伝わってくるため、裸でもそれほどの寒さは感じない。しかしこの部屋に連れてこられてから、彼の皮膚は全身に鳥肌を立たせていた。
拘束ベルトが何本も取りつけられた寝台。
天井から吊り下げられた鈍く光る鉤爪。
刀鍛冶が熱した鉄を掴むのに使いそうな、真っ黒なやっとこ。
ノミと玄翁は床に放置され、ノコギリが壁に何本も貼り付けられ、傘立てのように素っ気無く金串が何十本と筒の中に入れられ、ほとんど日本刀のように長大で肉厚な刀身の肉切り包丁が抜き身のまま壁にぶら下がっている。
そして、タイル貼りの床と言わず壁と言わず天井と言わず、まだらに化粧された赤黒い血の跡。
この惨状を見て、不吉な予感を覚えない者がいるとすれば狂人か痴呆の類だろう。例え何も知らぬ赤子でも、この部屋に染みついた血と恐怖の残滓に本能から恐怖を覚えるはずである。
「それじゃさとり様、ごゆっくりー」
「はい。そちらの方も手抜かりなく調理するのですよ。こいしが選んだ素材なのですから……」
「合点承知の助〜」
にゃははー、と軽い笑いを残し、彼を連れてきた赤毛の娘はドアをばたんっ、と閉め出て行った。
寝台に腰掛けた、紫髪の少女――さとりと呼ばれた娘はあいかわらずにやにやした笑みを絶やさずに、足を震わせ立ちすくむ彼を三つの目で見つめる。
「あの子が呼んだからわかったようですが、一応自己紹介しておきましょう。私は古明地さとり。この地霊殿の主です。あなたのお名前は……ふむ。最近の外の世界の名前はそのような流行になっているのかしら? ほう。会社勤めだったようですね。ふむ、辛い勤務状態だったのね。電車? 何それ。はぁ、乗り物のようね。ああ、家に帰る途中で攫われましたのね。それはそれは気の毒に。
あら? なぜ自分の考えていることや素性を知っているのかと? ふふふ、そりゃあ私はサトリですからね。この第三の目は、好きも嫌もなく、あなたの心の声を一言だって逃さずに見透かしてしまうのですよ」
彼は、さとりに覚えた恐怖に命じられるがまま裸の尻をタイルに擦り付けて、後ずさりした。そんな様子を見てさとりは満足したように頷き、壁にぶら下げられた長包丁を掴み取る。
「そんな物騒なものを持って何をするのかって? うふふ、いやだ。あなた、さっきから何度も何度もちらちらとその考えを意識の端に浮かばせては、自分でそれはありえないと否定して打ち消しているじゃありませんか。……そう、そうですよ。でも一つだけ認識が足りない。
私は今からあなたをなぶってなぶってバラし殺そうと思っていますが、それは私が狂っているからでもなんでもありません。
そうした方が、美味しいからです。私はさとり。心を読み、心を食べる妖怪なの。あなたの覚える恐怖と苦痛は、霊験あらたかな高僧の肉より、千年に一度実る赤子の果実より、天界に成る桃より、私にとっては滋味にして美味。と、いうわけでおいしくなーれ☆」
軽い口調とノリでさとりは鉈のように肉切り包丁を振り下ろした。
ひぃ、と情けない悲鳴を漏らしながら彼は頭を腕で庇い、全力で後ずさりする。
がつっ、と硬質な音を響かせ、さとりの振るった包丁は空中で静止した。腕に重い衝撃を感じ取った彼は、いつのまにか閉じてしまっていた瞼を開き、両腕を開きながらさらに後ろへと逃げる。
「あら?」
気の抜けたさとりの声と共に、彼女の握っていた包丁の刀身が彼に嵌められていた手枷を断ち切り、自由落下して切っ先がタイルを叩いた。
両腕を解放された彼は、這い蹲るように四肢を振り回して逃げ、赤毛の娘が出て行ったドアを開けようとした。しかしドアノブをいくらどのように回しても、扉は開く気配を見せない。当然の如く鍵がかけらているのだ。
体当たりしてドアをぶち破ろうとする彼を、さとりは刃こぼれした包丁を床に放置してにやにやと見つめ続ける。人間が恐怖で錯乱する様もその心情もまた、さとりにとってはこの上ないご馳走なのだ。
数度、鋼鉄作りのドアに体当たりしただけで彼の肩は赤く腫れ上がりその痛みに呻き、顔をしかめた。苛立つようにドアを蹴りつける彼の、その痛んだ肩を背伸びしてさとりはとんとんと叩く。
痛みよりも背筋が凍るような恐ろしさで、彼はびくりとさとりに振り返った。
さとりはにやにやと笑い続けたまま、玄翁を彼に差し出した。
「やれるものならこれで破ってごらんなさいな」
馬鹿にされていると、彼は理性ではわかっていたが貴重なドア破りの道具に何はなくとも飛びついた。蝶番に向けて狂ったように玄奥を叩きつけ、彼は恐怖を紛らわせるように叫び声を上げる。
その、玄奥を振るうために大きく開かれた彼の足の小指に、べりっ、という不吉な音と共に熱い痛みが脳天まで走り抜けた。
「あ、あがぁっ!?」
「うふふ、こわいこわーい人喰い妖怪はここですよ? 何をよそ見なさっていたんですか?」
小さなやっとこを片手にしたさとりは、尻餅をついて足の小指を抑える彼を邪悪な笑顔で見下ろしていた。そのやっとこの先端には、血がべったりと付着した爪が挟まれている。
その血をやっとこごとぴちゃぴちゃと舐めたさとりは、頬に赤みを染めた表情でうっとりと舌なめずりする。
「ああ、この新鮮な金臭い味……本当に久しぶり。やはり日本食は素材の旨みを引き出すために、生で味わうのが一番ですね」
足の小指を抱えたまま、彼は歯の根を合わせられずにがちがちと音を鳴らした。
その様を見たさとりは、ぷくーっと頬を膨らませて拗ねたように怒ってみせる。
「あ、ひどい。私はあなたの心を読めると言ったばかりじゃありませんか。それに先ほども言いましたが、私は狂ってなんかいやしません。妖怪は人間を食べるもの。猫が肉食で虫をいたぶり殺すのと一緒ですよ。あなたたちのような愚かで薄汚い人間のものさしで考えないでいただけますか?
……ああ、悪い夢を見ていると思っているようですね。人を――いや、私は妖怪ですが――を罵倒して、次の瞬間には現実逃避。これでは到底この部屋からも逃げられませんね。もっとも、逃げたところで私の可愛いペットたちに捕まえられてつまみ食い殺されるのがオチですが……。
ああ、もしかして? じゃ、ありませんね。その通りですよ。はい。ええ、そうなんです。あなたはね。この地霊殿に来た時にもう詰んでいるのですよ。どうあがいたところでもがき苦しみこの世を怨みながら死に、骨の髄まで残さずしゃぶり尽くされることが決定済みなんです。死んだ後も、あなたに救いなんかありません。怨霊として私のペットが末永く大切に可愛がってくれるでしょう。あなたは未来永劫、この地獄の底で無間の苦しみを味わい続けるのですよ。いやはや、おめでとうございます」
ぱちぱちとさとりは一人で拍手してみせる。その両目も、胸の瞳も、瞼を緩めて笑みを形作っていることに気づいた彼は、完全に目の前の少女が『人間以外』だということを悟った。
その瞬間、彼を無意識下で縛っていた理性――あるいはルールが吹き飛んだ。
彼はこの場から助かりたい一心で、ただがむしゃらに、意識せず、手にしていたものを――さとりから渡された玄翁を、さとり自身に投げ返した。
玄翁は、拍手するさとりの手ごと彼女の胸にぶち当たり、深くめりこんだ。
げぇっ、と肺から息を零しさとりは仰向けに倒れた。
「……うっ、な、何を……」
胸の痛みに顔をしかめたさとりは、目尻に涙を浮かばせて上半身を起こそうとした。しかし、肺をしたたかに玄翁で打たれた痛みからすぐさま起き上がることができないようであった。
それに気づいた彼は、足の小指の痛みも忘れ『今がチャンスだ』とだけ考えた。
彼の思考を読んださとりは、その思惑の単純さと自分の身に降りかかる未来に気づき、目を丸くして腕で顔を庇おうとする。
しかし彼は仰向けに倒れこんださとりに馬乗りの体勢になって押さえ込むと、その腕を成人男子の力で無理矢理引き剥がし、顔に一発拳を打ち込んだ。
口の中が切れたのか、さとりは唇の端から血を垂らし怯えたように彼を見上げる。
その頬に、もう一発彼は拳を叩き込んだ。
さとりは目をつむり、腕で顔を庇おうとしたが、それも力ずくで止められた。今まで彼をからかい、恐怖に陥れてきた言葉を紡いだ口が、年頃の少女らしい甲高い泣き声を上げる。
「う……ああああああん! いたいよおおお! やめて! もうぶたなあう!」
暴力の制止を求めるさとりの声を無視して、さらに彼は拳を見舞った。今まで彼が怯えていたのを喜び勇んで眺めて、さらに痛めつけてきたのはどこのどいつだというのだという怒りが、彼の暴力を加速させた。
その心を読んださとりは、涙と血と鼻水と涎でぐしゃぐしゃになった顔で、彼を見上げる。
「ごべんなさい……ひっくっ、ごめんなさ……」
繰り返し謝罪するさとりのあどけない顔と、拘束され続けていた腕を振り回し続けてきた疲労によって、彼は殴る手を止めた。
地下室に二人分の荒い息遣いが漏れ、さとりの泣き入るような謝罪の声が落ちてゆく。
そのさとりが、突然謝罪の言葉を止めてびくりと彼を見据えた。
「……え? い、いや……」
さとりは逃げ出そうとした。だが組み伏せられたこの体勢で、非力な彼女が大の男を跳ね除けられるわけもなく、むしろ彼の嗜虐心を刺激するだけだった。
先ほどの、さとりが一心に謝罪する様を見て、彼の一物が強く反応したのだ。
彼はさとりの、ハート型のボタンで止められた服に手をかけ、力任せに引きちぎろうとした。布地はさとりを組み伏せたままの、力の入れにくい体勢で破れるほどやわなものではなかったが、ボタンは次々に外れてゆく。
色気の無い女児用のブラに覆われたさとりの薄い胸がさらけ出され、彼の性欲に火が点いた。
「や、やだ! やめてっ、だれか、たすけてっ」
あばらの浮いたさとりの胸を彼の手が乱暴に掴んだ。ブラの中に指を入れ、申し訳程度の膨らみを周囲の皮膚ごと揉みしだく。
馬乗りになった彼の背中を、暴れるさとりの膝が叩く。痛みは無く、むしろ皮膚と皮膚の触れ合いに彼の劣情を引き出すだけだった。
「かは……っ! うぐ……」
肺を圧迫するほどに強く胸を揉まれたさとりは、呼吸困難に陥っているようだった。そこで彼はいったん胸から手を離し、乱れたブラをずらして未成長のさとりの胸を露出させた。
彼は体を屈め、さとりの乳首に舌を這わせる。肺が元通りになり、安定した呼吸を確保できるようになったさとりは、しかし自分の胸を舐める彼を涙ぐんだ目で見つめ、なんとか逃げ出そうと上半身をよじろうとする。
往生際の悪さに苛立った彼は、剥き出しのさとりの腹に拳を下ろした。
「がふっ!?」
両目を見開き、さとりは血混じりの涎を吹き出した。薄い胸板が膨らみ、何度も咳き込むがそのたびに殴られた腹が痛むのか身悶えする。
殴った拳に残る柔らかい内臓の感触、そして言葉も発せずにもがき苦しむさとりの姿が気に入った彼は、もう二、三発拳を叩き込んでやった。
「はが! ぶ、ぶふぅ!」
胃液を吐き出したさとりは口の周りを黄色く染め、びくりびくりと痙攣した。抵抗する力も失ったのか四肢は投げ出され、空ろな目で床を見つめている。
馬乗りの体勢から立ち上がった彼は、そんなさとりを見下ろして、乾いた笑みを零した。
「はは……おどかしやがって……ただのガキじゃねーか。くそったれ! 大人ぁ舐めんなよ!」
「あがぁっ!? ぐ、お、おええぇぇぇ……」
したたかに腹を踏まれたさとりは、さらに胃の中身を口から逆流させる。痙攣する腕でタイル床を掴み、喉を詰まらせず吐くことに必死な様子のさとりを見下ろす彼の高揚した精神が、徐々に冷えていった。
体勢を変えようと体重移動した彼は、足の小指に走る痛みを思い出す。甘皮ごと爪を持っていかれた小指は真っ赤になってタイルの溝をゆっくりと血液が流れていた。
命の危機に晒された恐怖と、さとりの人をからかうような仕草や言動が彼の中に蘇り、復讐という『理由』ができあがる。
その彼を第三の目で見つめたさとりは、いやいやするように力無く首を横に振った。
屈み込んだ彼はさとりのスカートをまくり上げた。線の細い太腿と無地のショーツが剥き出しになり、ぶるぶると震える手でさとりはスカートの乱れを直そうとする。
その手を払いのけ、彼はショーツをずらし、無毛の恥部をさらけ出す。
さとりの閉じようとする太腿を両手で掴み、無理矢理広げた彼は距離を詰め、いきり立ったペニスの先端を筋に押し当てた。
「おね……ひゅう……やめ……ひゅう……」
呼吸するたび笛のような音を漏らすさとりの懇願は、彼の耳には届かなかった。
固く閉じられたさとりの膣を指でこじ開けた彼は、既に先走り汁で濡れきった亀頭を捻じ込むように押し入れていった。
「あ゛……? あ゛あ゛……っ」
腕を伸ばしてさとりは自らの内部に侵入する異物を止めようとしたが、腹の痛みで起き上がることもできない彼女の指先は空を掻くばかりであった。その様を視界の端に捉えつつ、今の彼にとっては己の男性自身をさとりの中に入れることだけが全てであり、至福であった。
全く濡れていない未成熟な膣への挿入は、掘削という表現の方が近かった。襞を押し分けて進むたびさとりの体は痙攣し、苦鳴と共に涎が唇の端から零れ落ちる。
だが、その暴力的な侵攻も子宮口に阻まれて止まる。歯を食いしばって文字通り身を引き裂かれる痛みに耐えていたさとりは、止まっていた呼吸を再開し、肩で息をした。
「ぜはぁ……はぁ……はぁ……あ゛!?」
痛みつけられた体を修復するために体中の細胞が活性化に必要な酸素を求めていたのだが、彼にとってさとりの苦痛や都合など関係無かった。ただ生殖行為の本能に導かれるがまま、腰を引き、もう一度さとりの中にペニスを突き立てる。
「あ゛! あ゛ぁ゛! い゛あ゛い゛! い゛あ゛い゛い゛ぃ゛! い゛や゛あ゛あ゛!」
最初から遠慮の無い速度で行われるピストン運動がもたらす激痛と、恥辱に耐えかねて濁った声でさとりは叫び散らした。結合部に届かない手は今や、さとりの内部で暴れ回るペニスをまるで押さえ込むように腹部を掴んでおり、十の赤い爪痕が白い腹に歪な模様を刻みつけていく。
さとりの手がおよそ拳に近い形状になる頃、彼は自らの太腿よりも細いさとりの腰に両手をあてがった。皮膚を突いて浮き出た恥骨を掴み、さらに腰の動きは速く、呼吸は荒くなる。
そして、渾身の一突きとでも言うように深くさとりの中にペニスを突き入れた彼は、低く呻いた。
「……ぁぁ……」
子宮口に密着した鈴口から放たれる精液が、さとりの中を白く汚した。
子宮を満たす熱い液体に絶望したのか力尽きたのか、さとりは全身を脱力させ細い息をする。
彼もまた一息つき、さとりの中に挿れていた陰茎を抜いた。圧迫されていた精液がさとりの膣から漏れ、尻穴まで垂れ落ちる。
「……っく……ひく……っ」
幼い泣き声が、さとりの喉から漏れ始めた。
まだ腹部を殴られた痛みが強いのか、さとりは時折激しく咳き込み嗚咽を漏らす。
「ひっく……いたい……よぉ……やだぁ……げふ! ごほっ、ごほ! ……もうやだぁ……っ」
親に叱られた幼児のように取り留めの無い言葉を呟きながら、さとりは泣いていた。目からは涙を零し、口からは涎と胃液と血の混じったどろどろの混合液を飛び散らせた顔。解剖された蛙のように服を乱れさせだらしなく全身を弛緩した股間からは、膣口から漏れ出た白い液体がタイル床にまで伸びている。
精を解き放ち小指の痛みにも慣れてきた彼は、そんなさとりを呆然と見下ろしていた。
「……え?」
間抜けた声を彼は漏らす。一瞬、彼は本気でこう考えていたのだ。
(誰がこんなひどいことをしたんだ)
と。
彼は平凡な児童性愛性癖者である。少女を見て愛ではするが、手を出すことはない。未成熟な裸体に劣情を催すが、同時に未発達な身体で行う性交の負担や出産の危機を知っている。世界中で体を売らなければ家族も自分も養えない少女たちがいることを思い出しては心が痛み、毎日のように実の親から虐待を受けて誰からも愛されずに死んでゆく子供がいることに義憤を覚える。
自分はそういう人間であるはずだと、今の今まで信じていた。
「いたいよぉ……たすけて、こいし……」
目の前で、彼を喰らおうと襲い掛かってきたさとりという年端もいかない少女が、殴られ蹴られレイプされてぐすぐすと泣いていた。
頭をがつんとハンマーで殴られたような気がして、彼は額に手をやった。
「正当防衛だ、と考えていますね」
突然、そんな声が聞こえた気がした。
次の瞬間、彼の視界を一つ目のお化けみたいなものが覆い隠し、そして真っ赤に染まった。
しゅるしゅると回転する棒が、突然目の前に現れ急接近してきた。
避けられる距離でも無ければ速度でも無かった。胸を打たれた彼はげぇ、と肺から息を吐き出し仰向けに倒れる。
さとりが反撃してきたのか――そう思った彼はとっさに起き上がろうとしたが、先ほど打たれた胸は肺にダメージを与えたのか、呼吸が上手くできず上半身を起こせなかった。
すると彼の腕はひとりでに動き、顔を庇うような体勢になった。突然言うことを聞かなくなった自分の肉体の異変と、そして視界に現れた『自分の腕』を見て、彼は混乱した。
不本意ながら、彼は全裸であったはずだ。しかしなぜか今の『自分の腕』は水色のゆったりとした袖に覆われ、袖口にはフリルまで付いている可愛らしいデザインの衣装を着込んでいた。
だが、その腕は視界の外から伸びてきた、ごつごつとした手つきの腕に掴み上げられ、強引に顔から剥がされる。そうして現れた、彼の腕を掴んだ者を見て、彼は驚愕した。
それは、彼自身だった。血走らせた目で彼は彼を睨み、口元にはうっすらと笑みすら浮かべて殴りかかってきた。
頬に衝撃が走り、熱いものを押しつけられたような感覚に陥った。何をするのかと目線を合わせ直せば、今度は逆の頬を手の甲でしたたかに打たれる。
さらにもう一度殴られるのが怖くて目をつむり、腕をあげて顔を庇おうとするが、もう片方の腕で両手首ごとがっちりと締めつけられた小さな腕は、まるで言うことを聞かなかった。
その瞬間、彼の喉から予期せぬ言葉が発せられた。
「う……ああああああん! いたいよおおお!」
少女のような自分の声に、彼は驚いた。何よりそれは先ほど聞いたばかりの台詞のような気がして、さらにその次自分が行った行動を思い出し、嫌な予感を覚える。
そう、確か突然うるさい声で叫ばれた彼は苛立ってとっさに――
「やめて! もうぶたなあう!」
言葉を遮るように殴られた。今度は容赦のない連発だった。頬と言わず鼻と言わず目と言わず、当たるところにぶつけられた拳によって、今や顔中全体が真っ赤に腫れているような気がした。
やけに低くなった視点。突然自由が利かなくなった体。そして自分の喉から出てきた、思いがけない――しかし確実に聞いたことのある、さとりの台詞。
彼は殴られながら脳裏に閃いたある発想を、ばかばかしいと切り捨てようとした。即ち
『自分がさとりになり、さとりに先ほど行った暴力を追体験している』
などというおよそ現実的とは言い難い、わけのわからない思いつきだった。ありえないことである。
だが、どういう形であれ目の前の彼自身は暴力を止めない。
やがて彼は彼自身に服を脱がされ、胸を嬲られた。
抵抗すれば腹をしこたま殴られ、力尽きていたところに殺意すら感じられるほど体重と力が込められた踏みつけを食らわされた。
理性も何もない、野獣のような顔つきで無抵抗の娘を犯す自分自身を見ながら、体内を蹂躙される激痛と悪寒に吐きそうになりながら、彼は自分自身の行いを悔いた。
下半身を醜く震わせ、射精した彼はようやく少女の姿をした彼を手放した。
これでやっと解放される――そう思った彼に彼は未だ萎える気配を見せない陰茎を近づけ、生臭いその一物を口に咥えさせる。
後頭部を掴まれ、えづき、鼻頭や眼球を陰毛の生えた股間に何度も殴打される。それはフェラチオというより口腔を膣に見立てたオーラルセックスだった。
(……こんなのは……やってないぞ!? ……いや……でも、やろうと考えたか? いや、そもそも俺は男だったっけ? あれ……? あれ……?)
床に仰向けに倒れた男に跨り、自分の腕ほどもありそうなペニスを陰部に突き入れていたさとりは、射精の気配を感じて深く腰を下ろした。
九度目の射精は涎と見まごうほどの微々たる量と薄さであった。つまらなさそうに目を細めたさとりはタイル床に手をつけて立ち上がる。
一度目の射精で一度抜かれてから、全く抜かずに八回分の精液を溜め込んだ膣からぼたぼたと愛液混じりの白濁液が零れ落ちる。さとりはそれを太腿に塗りたくりながら指で絡めとり、しゃぶるように舐め取った。
「こんなものですか。腹三分といったところですが、これ以上は物理的にちょっと無理ですね。投薬でもして精嚢機能を活発化させようかしら」
物足りなさそうに、十指の爪痕が生々しい腹部を撫でる。
「と、いうわけで今日のところはお開きとしましょう。おやすみなさい」
力なく床に倒れた男に目配せすると、さとりの第三の目に灯っていた妖しげな光が消える。そうしてからさとりは部屋の隅に用意していたタオルで自分の体に付着した血や精液といった体液を拭き取り始めた。
鼻歌を口ずさむさとりは亡羊とした瞳で天井を見つめる、完全に気を失った男に無駄だとわかって話しかける。
「あの中で一番私を好みと思う殿方を選んだだけあって、ずいぶんと丁重に扱ってくださいましたが、私は妖怪ですのであの程度はへのかっぱですよ。もっとハードなプレイを期待していたのですけれどね……」
サトリとは心を喰う妖怪である。
さとりは最初から成人男性のぼそぼそして硬いだけの肉に興味など無かった。食べたかったのは、その中にあるちょっとしたことで傷つき壊れやすい繊細な心の方である。
なので、わざとロリコンを選び、自分を犯させ、想起の応用で逆追体験させ、後悔のどん底に突き落とすよう仕向けたのだが、肝心の犯るパートが生ぬるすぎた。あれでは想起によるカウンターも小さくて、大して心を抉ることにはならないではないか。せっかく拷問器具を取り揃えた部屋に招待してあげたというのに、やはり外の人間は気が利かない。
「セックスも下手ですし、短いし、早いし、二桁も射精できないし……うちのペットと比べるのはやっぱ間違いかしらねぇ」
ぶつぶつとぼやきながら服を着たさとりはドアの鍵を開け、放心したままの男を振り返る。
「それでは、ごちそうさまでした」
ドアは閉められ、がちゃんと鍵のかかる音だけが地下室に響き渡った。
いぢめられているさとりんは輝いている。
でも、いぢめているさとり様はオレにとっての新たな光だ!
みづき
- 作品情報
- 作品集:
- 23
- 投稿日時:
- 2011/01/08 10:44:13
- 更新日時:
- 2011/01/08 19:44:13
- 分類
- さとり
- オリキャラ
やははは、さとりのお食事、こいつは良い話だ〜。
私には、さとり様は眩し過ぎる…。
さとりん、えぐいよ、さとりん
健全なロリコンに自分のルールを破らせた挙句、ざいあくかんと追体験とのコンボとは!