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『封印された尼公を解き放って良いものか』 作者: NutsIn先任曹長
魔界の一角。
通称『法界』。
封印された大魔法使い、聖白蓮は解き放たれた。
白蓮は、
まさに、
法の魔であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ぁ、ぁぁ……」
幻想郷の守護者。
楽園の素敵な巫女。
『主に空を飛ぶ程度の能力』を所有する妖怪バスター。
異変解決人の博麗霊夢は、
異変に屈し、
地に伏し、
無様を晒し、
幻想郷を危機に晒していた。
「人も妖怪も平等に扱おうという、崇高な理想を持つ私に無謀にも挑もうという貴方は……」
満身創痍で倒れている霊夢の首を片手で掴み、軽々と吊り上げた白蓮は、
「誠に愚かで自分勝手であるッ!」
その腕を地面に叩きつけた!!
「いざ、南無三――!」
ドガアッ!!
「ギャブッ!!」
霊夢の身体は土砂を巻き上げ、大地にめり込んだ!!
霊夢は体中の骨が砕け、内臓が破裂したのか口からはどす黒い血が垂れていた。
「さて、貴方を殺すと色々と不都合があるそうですから……」
白蓮は、再び霊夢のかろうじて折れていない首を掴み持ち上げると、
「ぁ……、ぇ……」
「封印させていただきますっ!!」
今度は宙に向け放り投げた!!
意識を失った霊夢の身体は高々と放り投げられ、
静止した。
電子回路のような複雑な文様が霊夢の身体を覆い、
白蓮がなされたものと同じ封印が完成した。
これで霊夢は、半死半生の状態で、封印が解かれるまで生かされ続けることとなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「霊夢……、よ、よくも……」
幻想郷の努力家。
普通の魔法使い。
『魔法を使う程度の能力』を所有する何でも屋。
異変解決人の霧雨魔理沙は、
異変に屈し、
繰り出す魔法を悉く打ち砕かれ、
尋常ならざる負傷をおい、
己の無力を噛み締めていた。
「同業者を手に掛けるのは残念至極です。私の夢を妖怪というだけで否定する貴方は……」
最後の気力を振り絞ってマスタースパークを放とうとした魔理沙の右手を、
その手中の八卦炉ごと左手で握り締めた白蓮は、
「誠に浅く、大欲非道であるッ!」
その手に力を込めた!!
「いざ、南無三――!」
グシャアッ!!
「い、ギャアアアアァァァァアアァァァァ〜〜〜〜〜!!!!!」
魔理沙の右手は、ヒヒイロガネ製の八卦炉ごと握りつぶされた!!
その際、逆流した魔理沙自身の魔力と白蓮が込めた魔力によって、
魔理沙の右腕全体が弾け飛んだ!!
「アア、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァアァ……!!」
悲鳴を上げてのた打ち回る魔理沙の後頭部を、
被っているぼろぼろになった帽子ごと鷲掴みにした白蓮は、
「貴方の我欲に満ちた頭に私の法、叩き込んで差し上げます」
岩壁に魔理沙の顔面を叩き込んだ!! 当然手加減して。
ゴッ!
「がっ!!」
ガッ!!
「ぁ゛」
ゴッ!!
「……」
ボッ!!
「」
グシャッ!!
手加減したにも拘らず、
魔理沙の頭は、
僅か五回ほど岩に叩きつけただけで潰れてしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「い……、嫌ぁ……」
幻想郷に新風を巻き起こした少女。
山の新人神様。
『奇跡を起こす程度の能力』を所有する風祝。
デビューしたての異変解決人、東風谷早苗は、
白蓮の封印を解くことで異変を完遂してしまい、
逆転することなく、
現人神の矜持を挫かれ、
実力者二名を屠った古の尼公に恐怖していた。
「あの二人に感化され、私を退治しようなどとした貴方は……」
へたり込みながら後ずさり、岩壁に退路を阻まれ、
恐怖の表情を涙と鼻水と涎で彩りながら失禁した早苗の前に立った白蓮は、
「誠に浅く、付和雷同であるッ!」
早苗の頭に手を置いた。
「いざ、南無三――!」
「ひぇいぃぃぃぃ〜〜〜〜〜っっっ!!」
ナデナデ。
白蓮は、優しく早苗の頭を撫でた。
「が、しかし、貴方はこの世界を、私を開放してくれました。
私は恩人の貴方を苦しめるような事はいたしませんよ」
ナデナデ。
慈愛に満ちた白蓮の行動。
「……ぁ? ああぁ……」
最初はきょとんとしていた早苗の表情は、やがて花が綻ぶ様な笑顔に変わった。
「ですから」
慈愛に満ちた白蓮の表情。
「楽に死なせてあげますね」
早苗の脳天を掴んだ手を、まるでドアノブを捻るように180度回した。
クキッ!!
「あ゛ぇ?」
早苗は、正面を向いた状態で背後を見ながら、泣き笑いの顔で即死した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「皆さん、見ての通り人と妖怪の平等は、私が封印されて千年近く経っても実現されておりません」
白蓮は、自分を解放するために奔走した寅丸星達、妖怪の忠実な信奉者
――狂信者、手駒と言い換えても良い手下達――に演説を行なっていた。
「しかし、差別主義者の尖兵は正義の前に屈しました。
私が復活した今こそ、平等主義の理想の御旗を再度掲げようではありませんか!!」
おぉ〜〜〜〜〜!!
高揚する手下達。
「法の世界に光は満ちました。
今度は、『幻想郷』と呼ばれる人間に虐げられた妖怪達の世界に光をもたらそうではありませんか!!」
おおおおおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
手下達の完成がより一層大きくなった。
「皆さん!! いざ、聖輦船に乗り込みましょう!!
虐げられる者達に光をもたらすために!!
世界を光で照らし出すための下準備として、
無法の輩の穢れた血で!! 悪食の成れの果てが詰まった腸で!! 捻じ曲がった思想で狂った脳で!!
世界を塗りたくりましょう!!
さすれば!! 世界は私達のような、法の恩恵に与る資格のある者のみの理想郷となるでしょう!!」
聖様、万歳!!
万歳!! 万歳!! ばんざ〜い!!!!!
法界が、僅か数名の発する歓声に震えるかのようであった。
「いざ!!」
「「「「南無三!!」」」」
白蓮達は、聖輦船に乗り込んだ!!
ガンシップに艤装された聖輦船は、聖戦を行なうべく抜錨!!
箱庭の世界『幻想郷』に向け、
栄光の第一歩となる船出を果たしたのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
聖輦船の眼下に広がる、牧歌的な景色。
幻想郷の平和な景色である。
聖輦船は偽りの平和を破壊するために、爆撃可能な高度まで下り始めた。
ばしゃざぶううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜ぅうううんんんんん!!!!!
聖輦船を襲う予想外の衝撃!!
だがこれは、聖輦船の船長、村紗水蜜にとって、
数百年ぶりの懐かしい衝撃でもあった。
衝撃が起こした波紋によって、幻想郷の景色は砕け、消滅した。
揺れる聖輦船。
聖輦船の揺れが収まり、波紋が収まり、白蓮達の動揺が収まった時、
船外の景色に幻想郷は無く、
ただただ、濃紺の水と、白い雲がたなびく青空しかなかった。
聖輦船は、大海原に浮いていた。
「な……、何なのですか!! 村紗!! 何が起こったのですか!?」
動揺した白蓮の問いに、
「わ、分かりません!!」
村紗は、端的に結論のみを先に答え、
無数の計器類を見て操作して、
「現在地不明!! コンパスはぐるぐる回っているし……、一面の大海原でランドマークになるものはありません!!
くっ!! 推進装置、起動しません!! この船は飛ぶことも進むことも出来ません!!」
今度は詳細に、芳しくない状況を報告した。
「この役立たずめ……」
白蓮は村紗船長を聞こえないように罵ると、
「ナズーリン!! 貴方なら、陸地がどこか分かるのではないですか!?」
食い気味にナズーリンに訪ねた。
「聖、駄目だ。私の『探し物を探し当てる程度の能力』に何も反応しない。
それどころか、ここら一帯には魚も鳥もいない」
白蓮達は窓から身を乗り出して大海原を、大空を見渡した。
海には飛び跳ねる魚無く、
空には飛翔する鳥無く、
ただ、遊弋することが出来なくなった聖輦船と白蓮達のみが在った。
「ご主人、宝塔の力を使ってみては?」
ナズーリンは、表向きの直属の上司である星に提案した。
「……駄目でした」
星からは皆を落胆させる回答が帰ってきた。
白蓮を復活させた膨大な法力を持ったマジックアイテムの宝塔ですら、
現状を打破することは出来なかった。
「ッ!! 貸しなさいっ!!」
白蓮は星から宝塔をひったくると、念を込めた。
額から汗が滴り落ちるほど念じても、何にも起きなかった。
「クソッ!!」
白蓮は宝塔を床に叩きつけた!!
宝塔はその程度で壊れることは無かったが、
やはり、何も起きなかった。
白蓮の復活に不可欠な飛倉を改装した聖輦船と宝塔。
この二大法力アイテムは、まるで白蓮を開放した事で力を失ったかのようだった。
「姐さん、駄目です。かなり遠くまで見てきたけれど、島影も船も見えないと雲山が言っています」
高僧である白蓮に対して不敬極まる呼び方をする雲居一輪は、
使役する雲入道の雲山からの報告もやはり芳しくないことを告げた。
「そう……」
白蓮は静かに答えた。
端から一輪は当てにしていなかったので、落胆は小さかった。
その後も、聖輦船のあらゆる箇所をチェックしたり、
行ける限り遠方まで飛んで何か無いか探したり、
無駄だと分かっているが、宝塔に縋ったり、
何の成果も挙げない手下達を叱責したりして、
皆、自分が出来ることを精一杯行なったが、
事態は好転することなく、
時間ばかりが過ぎていき、
やがて、限界を迎えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最初に限界になったのは、ナズーリンだった。
「……い、嫌だ……、嫌だ嫌だ……、嫌だ……、
嫌だ……、嫌だ嫌だ……、嫌だ嫌だ嫌だ……、
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」
「な、ナズーリン……?」
下を向いてブツブツつぶやき始めたナズーリンに恐る恐る声を掛ける星。
「嫌だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
それがきっかけになったのか、絶叫するナズーリン。
ギョッとしてナズーリンを注目する一同。
「嫌だ!! もう限界だ!! こんな水溜りに何時まで居なければならないのだ!!
助けて、ご主人!! 助けて、聖ぃ!! 助けて!! 毘沙門天様あああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
幻想郷には存在しない海の、それも何も無い場所に居続けたため、
白蓮と船幽霊の村紗以外の面々はストレスに苛まれていた。
そして、生真面目なナズーリンがついに爆発してしまった。
「ナズーリン!! 落ち着いて!!」
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………!!!!!」
星の制止を振り切り、ナズーリンは船室を飛び出していってしまった。
「ナズ……!!」
「お止めなさい!!」
追いかけようとした星は、白蓮の一喝で動きを止めた。
「これは御仏が我らに与えたもうた苦行です。
ナズーリンは残念ですが、脱落しました。
脱落者のために他の者を危険に晒すことはありません。
さあ、哀れな子ネズミの為に、皆で祈ろうではありませんか」
白蓮と皆は、宝塔を前に経を唱えた。
床に置かれた宝塔の上には二つの光点が表示されていた。
明るい大きな光点は、皆が居る聖輦船。
その光から遠ざかる小さい点は、ナズーリン。
小さい光点は大きい点から最初は高速で遠ざかっていたが、
やがて速度が落ち、注意しなければ動いていると分からないほどになった。
その光点は、ついに動かなくなり、
程なくして、
消えた。
泣き崩れる星。
船にはまだ水も食料もあるというのに、
ついに一人、死んでしまった。
次の脱落者は一輪であった。
彼女は、雲山に乗って聖輦船を出て行った。
ナズーリンよりは遠方に行けたが、
末路はナズーリンと同様であった。
三番目の脱落者は、以外にも村紗船長であった。
彼女は船を逃げ出すなどという、船乗りにあるまじき振る舞いはしなかった。
彼女は、
白蓮に意見したために、
彼女に粛清されたのだ。
星は、ついに四番目の脱落者となった。
聖輦船の水や食料が尽きようとしていたのだ。
星は、
自分を食べるように、
白蓮宛の書置きを遺すと、
愛用の槍で、
自らの喉を突いて果てた。
白蓮は、
星の亡骸を見て、
星の遺書を読んで、
「ふん」
鼻を鳴らした。
「……」
聖輦船のひときわ立派な部屋。
白蓮は、自室で座禅を組んでいた。
傍らには骨が数本盛られた皿が置かれている。
白蓮の最後の食事である、星から作った干し肉に付いていた物だ。
白蓮はありがたく、文字通り、骨の髄まで舐り尽くした。
白蓮はゆっくりと目を開けた。
白蓮に迷いは無かった。
白蓮は自分自身に、
かつて自分にされた封印を行なうことにした。
これで飢えと渇に苦しみ、死ぬことは無くなる。
聖輦船は聖別された船である。
朽ちることは無い。
いずれ、誰かが見つけることだろう。
いずれ、誰かが封印を解くことだろう。
その時、
自分を解き放ったものを、
洗脳して、新たなる僕にする。
そのための話術や術式を、
座禅で精神統一した白蓮は、脳内で組み立て終わったのだ。
白蓮は、
次こそは、
人と妖怪が平等に、
自分にひれ伏す世界を夢見て、
永劫の眠りについた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「駄目ですね」
「ったく、手こずらせる。パラメータをいじったのに……」
「あの……、別の手段を考えたらいかがですか?
『母』も引き続き、管理を続けても良いといっておりますし……」
魔界の一角。
通称『法界』。
封印された大魔法使い、聖白蓮は、
相変わらず封印されたままである。
白蓮を封印した結界の端には、臓物を思わせる太く捩れた無数のケーブルが取り付けられていた。
ケーブルの端には、遠くに見える摩天楼のような、高く聳え立った無数の機材に接続されていた。
「どうします? 続けますか?」
機材の一つを操作していた八雲藍は、
別の機材とにらめっこしている主の八雲紫に指示を求めた。
「う〜ん……、そうねぇ……」
思案する紫を心配げに見守る、人形遣いのアリス・マーガトロイド。
アリスは人形遣いではなく、多忙な母である魔界神の名代として、
紫達の作業に立ち会っている。
今、紫達が行なっているのは、
かつて、『人の面をした悪魔』と呼ばれ封印された、
極悪人、聖白蓮を開放した場合の行動のシミュレーションである。
現在、幻想郷のパワーバランスは崩れようとしていた。
新興勢力の守矢神社が台頭してきたのだ。
さらに、彼女達によって地底勢力が核融合の力を得て、地上に進出してきた。
多数の有力勢力が、その鎌首をもたげた状態。
今現在はそれら勢力は友好的ではあるが、放っておくと幻想郷内で戦争が発生する。
そう、紫の卜占と各方面から収集したデータによるシミュレーションが予言していた。
そして、それを防ぐ方法も導き出された。
幻想郷に、中立勢力を呼び込むことである。
この勢力がバラストとなり、幻想郷内の各勢力の不均衡を解決してくれるだろう。
紫は幻想郷に隣接するセカイを探索して、
中立勢力の頭として、白蓮に目を付けた。
だが、この白蓮、とんだ利己的な過激思想の持ち主であった。
資料では、人と妖怪の平等を謳う尼公となっていたが、
封印解除後の行動を式神を使用した機械――要するに、スーパーコンピュータ――上に
シミュレートしてみたところ、画面上の仮想世界にその本性を現した。
こりゃ、封印されるわけだ。
当時の人々は、白蓮の性根を見抜いていたのかもしれない。
だが、確証が無いから記録には残さなかったのだろう。
しかし、白蓮は法力と魔力、さらに格闘術に優れている。
高僧にして大魔法使いにして達人級の格闘家!!
法術で回復を行ないつつ、自らの肉体に魔法付与(エンチャント)を行い、
あらゆる攻撃を防ぐ肉体と、あらゆる防御を打ち砕く拳を得る、
遠距離、近距離対応の白蓮の荒ぶる戦闘スタイル!!
戦闘力だけではない。
白蓮は人妖問わずヒトを惹きつける魅力と話術を持っている。
彼女のカリスマと話術で、争う者達を宥めることができるだろう。
当然、逆に人々を扇動して争い事を起こすことも可能だ。
欲しい。
白蓮のような人材こそ、様々な種族が暮らす幻想郷には必要だ。
だが、彼女は危険思想の持ち主だ。
そのまま野に解き放てば、幻想郷は白蓮のみの理想郷と成り果てるであろう。
諦め切れない紫は、彼女の思想を外面通りの穏健な人格者にしようと試みた。
幻想郷の平和的解決手段、スペルカード・ルールを学習させ、
絶対的不可侵の存在である博麗の巫女と彼女の仲間達人間による、
妖怪が起こした異変解決の重要性を理解させた。
しかし、再度シミュレートした結果があのザマであった。
白蓮はスペルカード・ルールを無視。
博麗大結界に影響が出ないように霊夢は半殺しにして封印、他の者は躊躇無く殺害した。
全てを理解した上での暴挙であった。
自分のルールで上書きする予定の幻想郷のルールなど、守る気など無いのだ。
さらに白蓮の指導者の資質を見ようと、彼女を仲間達と共に大海原に放り出してみたが――
『独裁者』として最適との診断結果が得られた。
紫は頭を抱えた。
諦めようか。
紫はコンピュータのデータベースにある、外界の白蓮に関する資料を眺めた。
正確には、白蓮の弟についての資料である。
白蓮には命蓮という弟がいた。
彼は各種記録から大いなる人徳と異能を持った高僧だと、紫が収集した記録に残っている。
彼が白蓮だったら良かったのに。
そんな詮無い事をぼんやりと考えた。
!!
紫は天啓に打たれた!!
紫は端末のキーボードを叩き、白蓮のデータベース――脳内の記憶領域――にアクセスした。
あった。
利己主義な白蓮が唯一、命蓮を溺愛していることが分かった。
法術も、命蓮と共にありたいとの執念から、愛する弟から見て学び、同じ修行を行い習得したものだと判明した。
やがて訪れる、愛する命蓮の死。
朽ち果てる飛倉。
朽ち果てる自分。
恐怖。
そこから白蓮は利己主義に染まり、魔術、妖術に手を出すことになった。
白蓮はそれら外法を習得するために、妖に接近した。
最初に覚えた術で得た人並み外れた美貌と話術を駆使して、
かつて命蓮を篭絡せんと学んだ夜伽の術――結局、命蓮には使われなかったが――を駆使して、
ありとあらゆる手段を駆使して、
彼らからその技を盗み取った。
自分自身の魔性に憑かれたように、彼女は人々の愛を食らうようになった。
人も妖も、生きとし生ける者は皆平等です。
人も妖も、生きとし生ける者は皆平等に、
その持てる愛を、全て私に差し出しなさい。
何百年も生き、
昼は人の、夜は妖の愛を貪る彼女は、
やがて、
『悪魔』と呼ばれるようになった。
紫の『境界を操る程度の能力』は、
白蓮の記憶の改竄点を、
見切った。
紫は、キーボードを目にも留まらぬ速さで打ちまくった。
命蓮の死後、思慕の対象が白蓮自身に変更されているが、
その箇所を引き続き、命蓮に固定。
白蓮の老いに対する恐怖心はそのまま。
紫は変更点まで白蓮の記憶を走らせ、そこから先をシミュレーションに変更した。
白蓮は変更前と同様の手段で外法を習得した。
白蓮は人妖の心を掌握した。
やった!!
白蓮のパラメータに変化が起こった。
白蓮の庇護対象が、白蓮自身から自分を慕う者達に変化した。
ストップ。
紫は、今度は白蓮が封印された経緯を変更することにした。
残存する記録及び、幻想郷で暮らしている白蓮の信奉者だった妖怪達から得られた情報によると、
白蓮は妖怪に友好的であったために、それを恐れた人間達に封印されたとある。
妖怪側は、白蓮に誑し込まれたことに数百年たった今でも気付いていないようだ。
よし、これでいこう。
紫は、そのように白蓮の記憶を改竄した。
再度シミュレートしてみる。
……。
…………。
………………。
よし!!
封印解除後の戦闘は、スペルカード・ルールを遵守。
対戦相手の異変解決人が誰であろうと、その後、幻想郷に順応した!!
対戦に異変解決人が敗北した場合……、げっ!!
対戦相手を封印とな!?
……ほっ、後でちゃんと開放して彼女達の再挑戦を受けたか。
なんちゅ〜お茶目をするんだ、この尼さんは。
どうやら、この尼公はかなりお若い精神の持ち主のようだ。
紫は、そんな白蓮に好感を持った。
これらはシミュレーション上のことである。
現実のものにするため、紫は改竄内容を白蓮の記憶に上書きした。
……。
…………。
………………。
上書き、正常終了!!
法界から撤収後、紫はこれから起きる予定の異変の下準備に入った。
地底世界の勇儀や地霊殿の古明地さとりに依頼して、白蓮の所在についての噂を流してもらった。
魔界には、白蓮開放時に不測の事態が起こった場合に備え、支援を要請した。
そして、仕上げ。
白蓮の信奉者の中でも最も彼女に近い側近達。
シミュレーションに登場した妖怪達。
シミュレーションに登場した空飛ぶ船、聖輦船。
それらを地下深くに封じ込めた結界。
紫は結界の要に爆薬を仕掛けた。
これを爆破すれば、異変が始まる。
結界が破れた原因は間欠泉によるものとなるように、さとりと口裏を合わせておいた。
紫は地上に戻った。
目の前に道具屋がある。
売り物よりも、店主のコレクションのほうが多い店だ。
入り口には、『定休日』の札が掛かっていた。
知っている。
店主は無縁塚に『仕入れ』に行っているのだ。
紫は鍵の掛かっていないドアを開け、無人の店内に入った。
店内を見渡し、適当な棚を見つけると、懐から取り出した宝塔を――白蓮開放の必須アイテムを置いた。
準備は完了した。
紫は幻想郷の上空にいた。
湖のほとりにある西洋の館、紅魔館。
空を見上げれば、冥界への扉がうっすらと見える。
この扉の先の長い長い階段を上った先にあるのは、
冥界の管理者が住まう屋敷、白玉楼。
再び地上を見る。
竹やぶの中にある広い屋敷。
幻想郷最大の医療機関、永遠亭。
幻想郷の最高峰、妖怪の山。
その山頂付近にある湖の側に建っているのは、
外界からやって来た神々の拠点、守矢神社。
幻想郷の最東端。
幻想郷の重要施設……そうは見えないが。
楽園の素敵な巫女、博麗霊夢の住処であり、
博麗大結界守護の最前線、博麗神社。
春なお遠い幻想郷。
ふ、あぁ〜〜〜〜〜あ。
紫は大欠伸をした。
いつもは桜の花が咲き乱れ、春告精の弾幕が飛び交う、
もう少し暖かくなってから冬眠から目覚めるのであるが、
今回の異変を準備するために、早起きしたのだ。
むにゃむにゃ。
紫は少しぼんやりして、
空を吹く寒風で一気に目を覚ました。
紫は懐からリモコンを取り出した。
地底の封印に仕掛けた爆薬の起爆スイッチである。
さあ、霊夢、
異変の始まりよ。
紫は、リモコンのスイッチを入れた。
足元の景色に、何も変化は無かった。
紫はリモコンを懐に収め、足元、続いて博麗神社の方角を見ると、
折角天高く舞い上がったのだから幽々子のところで昼寝させてもらおうと、
白玉楼を訪れるため、冥界まで舞い上がった。
数日後、
紫がいた幻想郷上空は、
空飛ぶ宝船を見ようと、
大勢の人妖の注目を浴び、
異変解決人の少女達が、
幻想的飛行物体――要するに『UFO』――と共に、
舞うこととなる――。
本日は久しぶりに十分な睡眠が取れ、頭がクリアになった途端、思いついたネタを元に書き上げました。
『聖白蓮は何故、スペルカード・ルールを知っていたのか』について、私流の解釈を行ないました。
2011年1月23日(日):コメントの返答追加
>1様
どうも。
これぞ、力による平等主義!!
>2様
ソウダッタノデスヨー。
>3様
加r、いや、黒幕臭を漂わせながら、暗躍しなければならないですからね〜。
>機玉様
ちゃんと異変の管理をしないと、本当に幻想郷がヤバイ事になりますからね。
発想の神様はいつ降りるか分からないのが欠点です。
>5様
異変のネタに困り、年々、冬眠する時期が遅くなるゆかりん。
>イル・プリンチベ様
皆さん、これでゆかりんの苦労がご理解いただけたでしょうか?
当然、ゆかりんの忠実な部下である藍も忙しく、橙と戯れる暇もありません。
幻想郷は、危険人物の隔離施設ではないんですけどね〜。
白蓮がスペルカード・ルールを知ることが出来る機会といったら、封印中の睡眠学習ぐらいですから。
そこから話がずいぶんぶっ飛んでしまいました。
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/15 14:22:48
更新日時:
2011/01/23 19:36:45
分類
白蓮達、聖輦船メンバー
封印される霊夢
惨殺される魔理沙
封印を解いた早苗は特別扱い
法界を抜けると、そこは大海原だった
そして、白蓮以外いなくなった
異変の準備
実際にこの聖がトップに立ったら、
いままで異変起こす権利があった妖怪も、平等にタコ殴りにされそうだ。
なんて壮大な設定なんだ。
異変が全部紫の手で管理されているとしたら納得ですね。
利己的で独裁者な白蓮も素敵でした
こんな発想は俺にはできなかった、素晴らしいです。
なるほど、うまいな
巫女を牛耳っているのは、実際はゆかりんですから、それだもん藍様はハードだわな。
幻想郷で力の強いやつはそろってアレだしねぇ。
白蓮がスペルカードを知るのは、こうでもないとおかしくなるのに同感ですよ。